消費者撤回権と民法法理

消費者撤回権と民法法理
京都大学
松岡久和
2012/10/27
報告全体の構成
Ⅰ 総論的考察
Ⅱ 各論的考察
1 過量販売取引における消費者撤回権
2 通信販売取引における消費者撤回権
3 訪問購入取引における消費者撤回権
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消費者撤回権と民法法理
Ⅰ 総論的考察
1 消費者撤回権の概括的特徴(1)
多様な法規制
法律名
特商法 (平12法120)
割販法 (昭36法159)
宅建業法 (昭27法176)
積立宅建業法 (昭46法111)
特定商品預託法 (昭61法62)
ゴルフ会員契約法 (平4法53)
不動産特定共同事業法 (平6法77)
保険業法 (平7法105)
金商法 (平18法65)
老人福祉法 (昭38法133)
(旧)海先法 (昭57法65)
対象取引
訪問販売
過量販売
通信販売
電話勧誘販売
連鎖販売
特定継続的役務提供
業務提供誘引販売
訪問購入
条文
9条
9条の2
15条の2
24条
40条
48条
58条
58条の14
35条の3の10
個別信用購入あっせん
35条の3の11
37条の2
積立式宅地建物販売
40条
預託等取引契約
8条
会員契約
12条
不動産特定共同事業契約
26条
保険契約
309条
投資顧問契約
37条の6
有料老人ホーム
29条8項
海外先物取引
8条
形式
期間
撤回又は解除
8日間
撤回又は解除
1年間
撤回又は解除
8日間
撤回又は解除
8日間
解除
20日間
解除
8日間
解除
20日間
撤回又は解除
8日間
撤回又は解除
8日間
撤回又は解除 特商法連動
撤回又は解除
8日間
撤回又は解除
8日間
解除
14日間
解除
8日間
解除
8日間
撤回又は解除
8日間
解除
10日間
解除
90日間
特殊
14日間
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消費者撤回権と民法法理
Ⅰ 総論的考察
1 消費者撤回権の概括的特徴(2)
消費者撤回権の付与を正当化する要素
①不意打ち
②心理的劣位
③情報劣位
④判断困難
⑤立証困難
⑥社会的悪影響
⑦迅速な紛争解決
性共
事業者と消費者の
間の構造的な格差
通
消費者の私的自治
的決定の機能不全
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消費者撤回権と民法法理
Ⅰ 総論的考察
2 消費者撤回権と民法の関係(1)
民法法理の例外視から民法法理との接合へ
①民法の外在的な保護という理解
消費者撤回権と民法法理の
異質性を強調
②民法の私的自治の実質的回復という理解
消費者撤回権と民法法理の
連続性を強調
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消費者撤回権と民法法理
Ⅰ 総論的考察
2 消費者撤回権と民法の関係(2)
民法法理との連続面と不連続面:接合の限界
連続面:契約締結過程における問題
消費者撤回権は取消しに近い
不連続面:意思表示や法律行為の瑕疵など
を問題としない「無理由」の救済
消費者法学会会員は撤回権がない?
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消費者撤回権と民法法理
Ⅰ 総論的考察
2 消費者撤回権と民法の関係(3)
消費者撤回権の特徴
①定型性
②画一性
③集団性
④大量取引
付与場面の定型的な設定
個々の消費者の意思決定の具体的
態様の不顧慮
比較的短い行使期間
消費者撤回権行使率は経験的・統計
的に把握可能
事業者のコスト削減にも貢献
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消費者撤回権と民法法理
Ⅰ 総論的考察
2 消費者撤回権と民法の関係(4)
消費者撤回権による救済の新しさと異質性
・半世紀余の消費者撤回権
2000年余の意思表示・法律行為法
・定型的・画一的・集団的保護
個別具体的な意思表示の瑕疵等への救済
・伝統的な価値との緊張関係
新しい手法への激しい批判と抵抗
重大な社会問題であった割賦販売への限定
その後の消費者撤回権の拡充がその有用性を証明
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消費者撤回権と民法法理
Ⅰ 総論的考察
2 消費者撤回権と民法の関係(5)
業法規制と結合した定型性
・法定書面交付義務違反⇒
消費者撤回権の行使期間の不開始
業務停止‥法律による行政
刑事罰‥‥罪刑法定主義
・消費者センターの職員による相談やあっせん
政策的要素を含む幅のある消費者撤回権
・各国の消費者撤回権の共通性と多様性
共通性:構造的格差・悪質取引の普遍性
多様性:特有の社会状況・各国法の独自性
消費者撤回権の規律内容はいまだ成長途上
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消費者撤回権と民法法理
Ⅰ 総論的考察
3 消費者撤回権の法律構成
浮動的有効説
vs.
浮動的無効説
対
立
点
・民法の一般理論との整合性
・履行請求の可否
・消費者の目的物保管義務の基準
・目的物の滅失・損傷の場合の処理
・ドイツにおける浮動的有効説への転換
通信販売取引における履行請求権の肯定
・撤回権の根拠同様、多様な対応が可能では?
例 一定期間の双方の履行請求の制限
業者からの履行請求のみの制限
不招請勧誘の禁止と違反行為の無効処理
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消費者撤回権と民法法理
Ⅰ 総論的考察
4 消費者撤回権の効果
明確な効果の規律(特商法9条3項-8項など)
:消費者保護を目的とする規定の趣旨に沿った
民法の一般原則の特則‥‥定型的処理・計算可能なリスクの
内部化と呼応
・事業者の損害賠償や違約金の支払請求は不可
・商品や権利の引取りや返還費用は事業者負担
・事業者には受領金銭の速やかな返還義務
・事業者には役務提供結果の無償の原状回復義務
・消費者は使用利益の返還が不要
もっとも一般原則との共通性・連続性も考えうる
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消費者撤回権と民法法理
Ⅱ 各論的考察
1 過量販売取引における消費者撤回権
問題状況
・判断能力の衰えた高齢者を標的とする過大な量の押し売り
・被害状況の立証が困難
対応策
・それ自体が過量販売である場合、および
・過量販売になることを知りながら行う次々販売などの場合
⇒1年間の消費者撤回権付与
評価
・取消権に近く一般の消費者撤回権とは異なるところが多いが、被害者像
を考慮して多数被害の効率的救済のために外形的事実のみで撤回できると
したことは、政策的要素が大きい消費者撤回権の本質に適合的。
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消費者撤回権と民法法理
Ⅱ 各論的考察
2 通信販売取引における消費者撤回権(1)
問題状況
・2008年改正前:熟考して契約できるので消費者撤回権なし
←→急かされた衝動的な購買
現物を見られないまま契約する情報劣位の状況
自主的な返品制度の普及
⇒消費者撤回権があると誤解したトラブルの多発
・通信販売一般への消費者撤回権付与は正常な事業者に過
度の負担
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消費者撤回権と民法法理
Ⅱ 各論的考察
2 通信販売取引における消費者撤回権(2)
対応策:返品制度の権利化
・商品の引渡し・権利の移転の日から8日間の消費者撤回権
・一定の表示で消費者撤回権の排除や異なる内容の特約を
することを許容
・商品や権利の引取りや返還の費用は消費者の負担
評価
・消費者の返送費用負担は、EUの通信取引指令も許容してお
り、一定の合理性がある。
・意見の対立が激しく、各国の規律も試行錯誤しているので、
柔軟な対応が必要。
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消費者撤回権と民法法理
Ⅱ 各論的考察
3 訪問購入取引における消費者撤回権(1)
問題状況
・不意の訪問によって手放したくない物品を強引に買い取られ
てしまう被害が続出
対応策
・8日間の消費者撤回権の付与
・不招請勧誘の禁止
・撤回可能期間中の売却物品の引渡拒絶権
・善意無過失の者以外に対して解除が対抗可能
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消費者撤回権と民法法理
Ⅱ 各論的考察
3 訪問購入取引における消費者撤回権(2)
評価
・引渡拒絶権は片面的な浮動的有効構成
・善意無過失の者以外に対して解除が対抗可能
+第三者に対する事業者の通知義務により第三者は悪意に
第三者が誰かを消費者に通知する事業者の義務
物品の第三者への転売による取戻しの困難化防止という問
題状況に対応する策として一定の合理性を有する。
民法にはない新しい試み
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消費者撤回権と民法法理
要 約
消費者撤回権を個別取引における意思表
示や法律行為の問題には還元せず、消費者
層の集団的な保護という多分に政策的な要
素を含む試行錯誤中の制度として理解する
可能性を提示
ご静聴、ありがとうございました。
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