2011年度 施設長・実習指導者会議 社会福祉実習分科会 基礎から発展へー3段階のステップ実習ー 中部学院大学人間福祉学部 社会福祉士養成委員会 宮嶋 淳 博士(ソーシャルワーク) はじめに 社会状況の変化に対応するために福祉分野も改革が進められ、 「実践力のある=ソーシャルワークが展開できる」社会福祉士が必要 「社会福祉士及び介護福祉士法改正(2007年)で、 社会福祉士養成課程における教育内容の見直しも行われた。 実習教育のあり方はこの改正点の重要な一つとなっている。 実習受入に当たっての問い Q1)スタンダードがあるのか。 Q2)日常業務を実習生に、どこまでどのようにやらせてよ いのか。 Q3)実習生の特性によって実習内容を変更する場合、ど のような視点をもつべきか。 Q4)ソーシャルワークは幅広いし、実際に現場で取り組め ているとは限らない。実習生に何を伝えることが望まし いのか。 Q5)現場での考え・捉え方と理想としての「こうあるべき だ」(=現実と理想)が大きく違うことをどう伝えるか。 Q6)社会福祉士の実習と、他の実習(保育士、教員の介 護等体験など)との、内容の違いがはっきりしない。 Q7)社会福祉士資格取得のための実習生受入は「実践 力の向上」であるというが、具体的な技術等をどのよう に教えるのか、大学はどのように教育しているのか。 Q8)自分自身の業務を行いながら、実習生を受け入れ、 指導していくことの難しさを何とか克服したい。 Q9)ソーシャルワークを実習生に伝えることの難し さを克服できないか。 Q10)実習は「後継者の養成」というが、ソーシャル ワーカーとしてのアイデンティティをどう伝えるの か。 Q11)実習受け入れは担当スタッフ一人にまかされ ており、システィマティックに対応できない状況で あり、克服したい。 Q12)職場に実習生が来ることは、大事なことのよ うな気がするが、納得できない。 わが国における福祉専門職のあゆみ 1971(昭和46)年 「社会福祉専門職の充実強化方策としての『社会福祉士 法』制定試案」(中央社会福祉審議会職員問題専門分 科会起草委員会)→法案提出まで至らず。 1987(昭和62)年 福祉関係三審議会合同企画分科会 「福祉関係者の資格制度について」 →社会福祉施設緊急整備計画五カ年計画が契機とし て「場」の整備だけでなく、「人」の確保が重要 な課題となった。 2007(平成19)年 社会福祉士及び介護福祉士法改正 もともとの社会福祉士制度の基本構想 ①ソーシャルワーカーを中心とする公私の社会福祉専門 職者を包括的にとらえる専門職として社会福祉士制度 を設け、(ジェネリックな資格) ②その資格基準を明定し、それによって社会福祉専門職 員の処遇の改善をはかるものとする。(待遇改善がねら いの一つ) ③なお、この制度は「社会福祉士法」という単独法の制定 により設けられる。(社会福祉事業法に組み込むのでは なく、独自の制度として確立させる。) 社会福祉士を取り巻く状況 社会状況の変化 福祉ニーズ増大化、複雑化 福祉諸制度改革 社会福祉士の専門的力量(実践力)が問われた。 介護福祉士及び社会福祉士制度の在り方に関する意見 ●社会福祉士の活躍が期待される分野 ●社会福祉士養成のあり方 社会福祉士の定義の見直し 旧 新 専門的知識・技術を もって、福祉に関する 相談に応じ、助言、指 導その他の援助を行う こと(「相談援助」)を業 とする者 専門的知識・技術をもって、福祉に 関する相談に応じ、助言、指導、福 祉サービスを提供する者又は医師 その他の保健医療サービスを提供 する者その他の関係者との連絡及 び調整その他の援助を行うこと(「相 談援助」)を業とする者 社会福祉士養成課程における 実習の基本的枠組み (1)実習の法制度論的整理 社会福祉士養成課程における実習とは、厚生労働省 等が定める基準に基づき行われるもの 新たに大学等についても実習・演習等については、養 成施設等と同等の基準を満たすことが必要 (2)実習にかかる科目とその内容 ①「相談援助演習」 「相談援助実習指導」「相談援助実習」の進捗状況を 踏まえること ② 「相談援助実習指導」 学生20人に要件を満たした教員1名があたること 個別指導や集団指導を実習の前に行うこと プライバシーの保護と守秘義務等の理解を指導すること。 実習にかかる留意点① □実習計画については、3者協議を踏まえること。 □巡回指導については実習期間中に少なくとも週1回の巡 回指導を行うこと これにより難い場合には、実習期間中少なくとも1回以上 の帰校日制を取り入れることも可 □実習内容、実習指導体制・実習中のリスク管理等 に関する十分な協議、確認を行うこと。 □実習生の健康状態を確認して配属させること。 □実習指導マニュアル、実習記録ノートの活用 □ 実習内容の達成度を評価し、それに基づいて個別指導 する。その際、実習生の自己評価を考慮する。 実習にかかる留意点① □実習指導者は、社会福祉士の資格取得後3年 以上の相談援助業務に従事した経験を有する者 であって、社会福祉士実習指導者講習会の課程 を修了した者 →今年度が経過措置最終年 □実習指導者1人が受けられる実習生は同時に5人 実習生が指導を受けるべき事項 ア イ ウ エ オ カ 利用者等との円滑な人間関係の形成 利用者理解とニーズの把握及び支援計画の作成 利用者等との援助関係の形成 利用者等への権利擁護及び支援とその評価 チームアプローチの実際 社会福祉士としての倫理、施設等の就業などに関す る理解と組織の一員としての役割と責任の理解 キ 施設等の経営とサービスの管理運営の実際 ク 地域社会の中の施設等であることの理解と社会資 源の活用・調整・開発に関する理解 現場が実習生を受入れ・指導する意義 (1)施設・機関の社会的使命として 福祉サービスの質の評価項目に「実習の適切な受入れ」が 挙げられている。 社会福祉事業の公共性(人材の育成と確保) (2)利用者への責任 実践水準の維持と向上は利用者の最善の利益の向上に寄 与 (3)社会福祉実践の整理 ソーシャルワーク実践の整理と実践の確立 (4)新任職員の研修への援用 (5)実習指導の組織と実践チームの組織 実習展開のために現場の業務を対応させる努力は、結果と してチーム実践の組織的機能化を図ることになる。 ソーシャルワークの基本的枠組みの理解 ①価 値 ・対象の不全を不全と判断できる。 ・方向性の判断ができる。 ②知 識 ・利用者を理解するための知識 ・実践のための知識 ・自己の能力に関する知識 ③技 術 ・対象を解読する方法 ・対象を変化させる方法 ・自己の能力を更新する方法 実習指導における3段階モデルの理解 ①職場実習 職場の構造と機能を全体的に理解することを目指す。 ②職種実習 実習指導者の職場内での位置づけ、職種の業務内容 の理解を目指す。 ③ソーシャルワーク実習 ソーシャルワーク実践の実態を理解し、実習生自身が ソーシャルワーク実践を行い、その習得を図る。 実習指導者の4つの専門性(能力・力量) (1)実習マネジメント能力 実習指導者の負担を軽減する 円滑に実習を進める (2)実習プログラミング能力 実習生に施設と職員業務の理解を促す ソーシャルワークの理解を促す (3)実習スーパービジョン能力 実習生の経験を理解・納得の段階まで変換する (4)社会福祉士像の伝達能力 価値・知識・技術に基づいて業務遂行している 専門職としての社会福祉士像を 実習生に十分に伝える 実習マネジメント能力 ①施設・機関内マネジメント 実習指導の意義の共有の働きかけ、実習受け入れに絡 む事務手続き、職種間の連携、実習指導上の役割り分 担、実習受け入れの周知と協力依頼、各種文書・記録 類の開示方針の策定、実習生の居場所の設定、実習 指導・スーパービジョンのための時間の確保の承認、実 習に必要なミーティングの開催、実習費用の精算などを 行う。 ②施設・機関外マネジメント 外部での諸施設・機関実習に絡む養成校との調整、見 学・部分実習の連絡・調整・依頼・事務手続き・交通手 段の確保などを行う。 実習プログラミング能力 ①オムニバス型実習・・・多様な経験をソーシャルワーク実践 として総合的に理解できるように丁寧な説明必要 ②ソーシャルワーク/ケアワーク混合型実習・・・ケアを担う専 門職種の訓練を受けていないという点。 ③集中型・分散型・通年型・混合型の実習形態・・・利用者の 特性と実践のあり方に応じて選択する必要性。 ④通勤型・宿泊型実習・・・宿泊型の場合、実習生の生活上と 経済的負担の問題にも対処する必要あり。 ⑤実習時間・・・一の実習施設において120時間以上の実習 を行うことが基本となった。 ⑥実習評価を踏まえた実習経験の提供。 実習スーパービジョン能力 ①管理的機能・・・現場の組織が攪乱されないように実習生を 囲む組織の秩序を維持すること ②教育的機能・・・実習生に専門性のミニマムを身につけられ るように解説すること ③支持的機能・・・不安・困惑・悩み等をかかえる実習生を支 え、実習展開を円滑に行えるように支援すること。 ④①~③によって実習生が相談できる環境が整う。 ⑤実習指導方法と関連させて実習スーパービジョンを行うこ と。 社会福祉士像の伝達能力 (1)「伝えるべき社会福祉士像」 (日本社会福祉士会実習指導者養成研究会 2000年~2002年) ①社会福祉士は、相談・援助を中核とするソーシャルワーク を行う専門職です。 ②社会福祉士は、専門職として倫理綱領に基づいて専門的 価値・知識・技術を習得して実践を行います。 ③社会福祉士は、専門職団体を組織し、その組織のもとで 研鑽と社会的な活動を行います。 (2)社会福祉士の役割の見直しと社会福祉士 養成課程における教育内容等の見直しについて (2007年) ①福祉課題をかかえた者からの相談に応じ、必要に応じ てサービス利用を支援するなど、その解決を自ら支援す る役割。 ②利用者がその有する能力に応じて、尊厳をもった自立 生活を営むことができるよう、関係するさまざまな専門 職や事業者、ボランティア等との連携を図り、自ら解決 することができない課題については当該担当者への橋 渡しを行い、総合的かつ包括的に援助していく役割。 ③地域の福祉課題の把握や社会資源の調整・開発、ネッ トワークの形成を図るなど、地域福祉の増進に働きかけ る役割。 フィールドとレジデンシャルの理解 (1)フィールド・ソーシャルワークの特性 ①相談型・訪問型実践(福祉事務所、支援センター) ・伝統的なソーシャルワークが展開しやすい。 ・特化された経験になりやすい。 ②組織・地域型実践(社協) ・組織・地域という広がりがあり理解のしにくさがある。 ・資源動員、資源開発型の実習になる。 (2)レジデンシャル・ソーシャルワークの特性 (通所・入所施設型実践) ①人為的に作られた生活空間である。 ②生活空間全体が利用者のニーズを充足することが できているかを検証するような実習となる。 (3)通所型・入所型実践の特性 ①利用者の〔心=身= 社会連関・生活・環境〕に関する情報の集 約点であること。 ②利用者の個別支援計画の作成・実施・モニタリング・評価の機能 ③利用者の個別相談援助機能(狭義のソーシャルワーク機能) ④施設内外の職種・機関の調整機能 ⑤施設評価機能と施設改革機能 ⑥資源開発機能 ⑦研究機能 ⑧教育機能 ⑨リスクマネジメント 個人情報の保護に関する潮流 1980年 OECD「プライバシー保護を個人データの国 際流通についてのガイドライン」 2003年 (日本)行政機関の保有する個人情報の保 護に関する法律 独立行政法人等の保有する個人情報の保 護に関する法律 2004年 福祉関係事業者における個人情報の適切な 取り扱いのためのガイドライン 医療・介護関係事業者における個人情報の 適切な取り扱いのためのガイドライン 2005年 個人情報の保護に関する法律 個人情報保護法の対象となる情報とは (1)個人情報の範囲 ①個人情報(氏名など) ②個人情報データベース等(入所者名簿など) ③個人データ(ケース記録など) ④保有個人データ (2)個人情報取扱事業者 法の対象となる事業者とは、個人の数の合計が6ヶ月以内 のいずれかの日に5000人を超える事業者 センシティブ情報と実習 (1)センシティブ情報 第3者に知らせると人権を侵害するおそれの強いもの (2)実習 実習生が記録や訪問を通じて知ることになる情報の 中にもセンシティブ情報がありうる。 実習と個人情報保護~ガイドラインの考え方~ (1)匿名化 個人を識別情報を除き、個人を識別できない ように すること。 (2)本人同意 特定された利用目的以外に個人情報を用いるとき (3)第3者への提供には本人の同意が必要、ただしオプト アウトの方法は可能。 ※実習に際し、実習先と養成校と実習生の間で 個人情報の取り扱いについての合意が 必要であることは当然。 国民生活審議会第12回個人情報保護部会ヒアリング資料 (平成18年12月8日 厚生労働省社会・援護局) (2)「個人情報保護に関する主な検討課題」についての見解 ①いわゆる「過剰反応」について 福祉に関する相談援助を業とする社会福祉士の養成課 程における実習においては、利用者や家族に対する支援 の方法について理解を深めるために、生活歴や家庭関係 等が記載されたケース記録の閲覧が不可欠である(匿名 化をすれば問題は生じないと考えられる)が、個人情報保 護を理由にケース記録の閲覧が一律に拒否され、効果的 な実習の実施が妨げられるという問題が生じている。この ようないわゆる「過剰反応」が生じている原因は、事業者の 法の規定に対する理解不足にあると思われる。したがって、 法の規定の解釈の明確化、具体化が必要であるとともに、 法の周知徹底が必要であると考える。 個人情報保護施策の今後の推進について (平成19年6月29日個人情報保護関係省庁連絡会議決定) Ⅰ 背景 緊急の課題であるいわゆる「過剰反応」への対応につい ては、個人情報の保護と利用のバランスを図ることの重 要性にかんがみ、取りまとめに即し、関連事項と併せて、 当面、以下のとおり対応する。 Ⅱ 今後の施策 個人情報の取り扱いについて、国民の不安を解消すると ともに、各種名簿の作成方法、本人同意を得ず第三者に 個人情報を提供できる場合等、個人情報保護法の解釈 について、きめ細かく周知し、いわゆる「過剰反応」の解 消を図る。 まとめ 1.社会福祉士養成教育における実習の意義 社会福祉士及び介護福祉士法等の一部改正を受けて行 われた教育内容の見直しの中で、実習が重要な位置を占 めること、この実習は施設との連携なしには不可能であり、 効果的な実習の実現は福祉専門職制度の根幹にかかわ る重要なことである。 2.社会福祉士養成教育の概要と実習教育の内容 高い実践力を有する社会福祉士の養成のために、実習 教育内容の充実を図ろうとしている。 3.相談援助実習の内容と指導方法の概要 実習教育の具体的な内容として、ソーシャルワーク実習 の成立が重要であり、実習モデル、実習における諸課題 の整理、実習指導者に求められる能力などを示した。また、 個人情報保護と実習の関係も示した。 4.社会福祉士が相談援助実習に関わる必要性 技能継承と専門職の発展の側面から、専門職と専門職 団体の必然として、後継者育成の一環として、実習にかか わる必要性がある。 5.実習指導者には、実習マネジメントと実習プログラミング と実習スーパービジョンと社会福祉士像の伝達能力が必 要である。
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