我が国の対アフリカ 支援策 ー来年のG8サミット に向けてー 橘田 正造 JBIC開発金融研究所長 1 欧米先進諸国での開発分野の 関心はアフリカ ― 05年の G8サミットは英国主催 ― 欧米ドナー機関とOECDの認識は「世界の 開発問題の主対象はアフリカであり、既にア ジアはODAを卒業した」というもの。 日本がODAによるアジア重視を主張する際 には、“同時に”日本の対アフリカ支援の基 本理念(コンセプト)と具体策の提示必要。 05年の英国主催のG8サミットでは再びアフリ カ問題が主要議題の一つに。日本の主張は? 2 OECDやDAC諸国の 開発専門家達の傾向と対策 欧米諸国はOECDやDACは“政策を議論・決定 する場”との認識が強い。このため実務畑出身者と いうより“政策・戦略畑出身の専門家”を会議に派 遣する傾向が強く現場経験に基づくプラクティカル な意見は僅少。 多数派を形成するこれら欧米の“政策・戦略畑出身 の専門家”達を相手に、日本が現場重視の政策を主 張するには、開発理論を踏まえつつ、彼等も理解可 能な“開発コンセプト”の提示と、意見発信を継続 するタフな努力必要。 3 知られざる東アジアの 貧困削減の長い歴史 G.ミュルダール氏が’68年に“Asian Drama”でアジ アで の貧 困の 悪循 環を 指摘 して 25年 後に 、 世 銀の “East Asian Miracle”が発刊。97年の通貨経済危機 を経て、東アジアは再び成長の牽引車へ。 ベトナム戦争、カンボジア紛争等の長い戦乱期を含む 東アジアにおける【経済成長】&【雇用機会創出】に よる貧困削減のサクセス・ストーリーや、これへの我 が国ODAによる貢献に関する正確な情報はOECD やDAC関係者でも今や殆ど知られていない。 日本自身による英文での学術研究論文がこれまで僅少 で、欧米や東アジアの研究者達によるアクセス不可。 4 欧米主要国の アフリカ支援の背景 米国は、不安定な中東&南米の政治状況に鑑み、エ ネルギー安全保障のみならず【国家安全保障政策】 の観点からもアフリカの石油輸入拡大を重要視。 (例:02年6月議会報告:15年の依存度を25%へ) EUも、既に25%に達したロシアへの石油依存度を 背景とするロシアのEUへの政治的影響力拡大を危 惧し、英・仏はアフリカ石油への依存拡大を図る。 仏は国内の高失業率の下、アフリカからの移民流入 が悩み。旧植民地からの移民を多く抱える英仏両国 にとってアフリカ問題は国内問題。英ブレア労働党 政権も選挙支持基盤は移民を多く含む労働者階級で、 アフリカ支援は選挙対策の意味もあり。 5 欧米主要ドナー諸国の 対アフリカ・インフラ支援 への新たな動き 昨年6月のエヴィアン・サミットを前に、英仏両国を中心に 【対アフリカ・インフラ支援】をめぐる動きが顕著に活発化。 英 国 DFID も 2002 年 後 半 に “ Making Connections – Infrastructure for Poverty Reduction”を発刊して“大型経済 インフラ”の貧困削減における重要性を指摘し、OECDでも セミナーを開催(2003年3月)。(例:農道建設は幹線道路無 しでは意味が無い。- Executive Summaryより ) 欧米主要ドナーは、インフラ支援に無償資金だけでは不足が 明らかとして“PPP方式”での民間資金動員を奨励。 6 サブサハラ地域で7ヶ国がCP 到達を達成(04年2月末現在) CPに到達したのはボリビアとサブサハラ7ヶ国 (モザンビーク、タンザニア、ウガンダ、モーリ タニア、マリ、ブルキナ・ファソ、ベナン)の全 8ヶ国。 サブサハラのCP到達諸国は、各国とも人口は概 ね1千万人規模で基本的に農業立国。アフリカの 東部と西部においてモザンビーク以外は夫々隣接 国。近々ガンビア、ルアンダ、ザンビア等のCP到 達が期待されている。 7 CP到達の意味と課題 《意味》 以下の諸基準を実績面でクリア:韓国等東 アジア諸国ですら下記2や3の基準をクリアしたの はつい近年のこと。 1. マクロ経済の安定 2. 複数政党制導入と公正な選挙 3. 政治的安定 4. 政策決定過程の透明性 5. 政策決定への国民参加 他 《課題》 予算配分の調整要(農業立国にも拘らず、 地方農業インフラへの予算配分が極めて手薄) 8 日本の立場と現状の認識整理 日本の援助姿勢:【ODAによるアジア重視】と 【自助努力支援】の基本姿勢を主張しつつ、対アフ リカ支援に明確な“基本理念”を明示しているか。 TICADⅢ成功の後、来年のG8サミットでの発信は? 日本にとってのアフリカ:国民によるアフリカ支援 への理解のために。 (1)日本を含む東アジアの将来の食料安全保障の観 点から、サブサハラの穀物輸入量を低減させる。 (2)日本もアフリカの石油輸入に関与し、石油供給源 の多角化(G8で群を抜く中東依存度の軽減)を図る。 9 日本の対アフリカ支援の方策 (私案)―選択と集中 (Ⅰ) 《選択》 “自助努力”でCPに到達した諸国を重点対象 →マクロ経済のみならず、政治的安定等ガバナン スのあることが雇用創出機会を生むFDI流入の前 提条件。政治的安定のない国にFDIは来ない。 《集中》 CP到達国は当面、無償と技協で対応:従来重視 の医療・教育に加えて住民参加型の地方農業イン フラ整備(小規模灌漑、農村と近隣市街地を結ぶ 簡易道路など)への集中支援とキャパビル。 →農業立国のCP到達諸国へ成長ファクター注入。 10 日本の対アフリカ支援の方策 (私案)―選択と集中 (Ⅱ) 円借款の出番:CP到達国を重点《選択》に無償&技協と 連携して、住民参加型の地方農業インフラ整備と隣接国と の国境を跨ぐ運輸インフラ整備を支援《集中》。 CP到達国については、PRSPプロセスにより積極的に関与 し、借款債権放棄で生じる“本来返済用の内貨資金”を地 方農業インフラ整備や隣接国との国境を跨ぐ運輸インフラ 整備等、当該国の成長ファクター支援に予算支出する様に 最大の債権放棄国として主張し、状況をモニターし確認す る(将来の返済能力向上が狙い)方策も一案。 具体的支援策:HIPC諸国への直接貸付けは避け、仏政府の 全面的サポートを受けて返済能力に懸念のない“西アフリ カ開銀(BOAD)”を介して西アフリカ地域のCP到達国を対 象《選択》に、“地方農業インフラ整備”と“隣接国を繋 ぐ運輸インフラ整備”(NEPAD支援)を支援《集中》。 11 日本の対アフリカ支援の方策 (私案)-選択と集中(Ⅲ) CP到達国以外のアフリカ諸国への対応:アンゴラ等の石油産出国 へのFDI流入は多額だが、アフリカの石油産出国での“人間の開発 指標”は世界の最低レベル。(P13の表とP14の備考を参照) チャド~カメルーン石油パイプライン建設事業は昨秋完了。チャ ド議会が採択した『石油収入管理法』により、昨年11月の最初の 石油収入650万ドルは、ロンドンのCitibankに開設のエスクロー勘 定に入り、今後石油収入は同法に基づき“医療、教育、農村開発、 更に本事業で立ち退きを強いられた住民への補償”という優先項 目に支出。これを同政府・議会、市民団体や労働組合を含むチャ ドの代表者9名(3年任期)が監理する体制。(P15の図を参照) 日本は自ら打出した“人間の安全保障”のコンセプトを旗印に、 国連と世銀の協力を得つつ、他のアフリカの石油産出国各国毎に チャドと同じ様な体制整備を働きかけ、各国の“人間の開発指 標”向上を支援。同石油収入の支出監理に日本のNGO参画も一案。 12 [表] アフリカのFDI受入国トップ 10 (出典:UNCTAD資料) 2001年 国 名 総額(百万㌦) 2002年 割合(%) 国 名 総額(百万㌦) 割合(%) 1 南ア 6,789 36.1 1 アンゴラ 1,312 11.9 2 モロッコ 2,808 15.0 2 ナイジェリア 1,281 11.6 3 アンゴラ 2,146 11.4 3 アルジェリア 1,065 9.7 4 アルジェリア 1,196 6.4 4 チャド 901 8.2 5 ナイジェリア 1,104 5.9 5 チュニジア 821 7.5 6 赤道ギニア 945 5.0 6 南ア 754 6.9 7 スーダン 574 3.1 7 スーダン 681 6.2 8 エジプト 510 2.7 8 エジプト 647 5.9 9 チュニジア 486 2.6 9 モロッコ 428 3.9 10 タンザニア 327 1.7 10 モザンビーク 406 3.7 18,769 100.0 アフリカ大陸全体 10,998 100.0 アフリカ大陸全体 13 備考:アフリカの石油産出国と 人間開発指標の実態 国連開発計画(UNDP)の「人間開発報告書」2003年版で 人間開発度を調べると、アンゴラ(175ヶ国中第164位)、ナイ ジェリア(同第152位)、チャド(同第165位)といったアフリ カの産油国は「低位国」の中でも最後方に位置付けられている。 また、世界経済フォーラム(World Economic Forum)事務局が アフリカ21ヶ国を対象に民主化の度合いを比較調査した報告書 ( «Africa Competitiveness Report 2003-2004»)においても、 アンゴラ(21ヶ国中第17位)、ナイジェリア(同第20位)、 チャド(同第21位;最下位)はいずれもランキング上の成績は 芳しくない。 これら諸国では、膨大な石油収入を如何に社会に公平に分配す るか、そして将来のFDI誘因に必要な労働力の質向上に役立て るか、が今後の重要課題。 14 チャド議会で採択された『石油収入管理法』 に従ったチャドの石油収入フローチャート 15
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