精神保健福祉基礎研修 ~基礎知識編~

平成26年4月25日(金)
三重県津庁舎 大会議室
精神保健福祉基礎研修会【知識編】
精神保健福祉総論
~歴史と理念~
三重県こころの健康センター
技術指導課 中井 芳
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なぜ、歴史を学ぶのか・・・
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今、生きている人の人生が、その人の生まれてから
の積み重ねであるように、国や社会の現状もその
国や社会の歴史の積み重ねによるもの
今の問題の原因は過去にある。過去の出来事を正
確に知ることで、現状の問題を理解することにつな
がる
歴史は過去の出来事の記録ではなく、今つくられて
いる出来事であり、未来につながる出来事
過去に起こったことを次に活かすために学ぶ
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保護に関する法律ができるまで
飛鳥時代(701)年~明治32(1899)年
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明治政府の強力な「富国強兵策」
⇒結果、福祉・医療政策は後回しへ
「相馬事件 明治20(1883)年」
精神病者に対する関心が高まった。
癲狂院⇒精神病院の名称が一般的になる
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私宅監置の時代
明治33(1900)年~昭和24(1949)年
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「精神病者監護法 明治33(1900)年」
患者保護に関する日本で最初の法律
治安第一主義⇒私宅監置を法的に位置づけ
「精神病院法 大正8(1919)年」
公共の責任として公立精神病院の設立を明記⇒予算不
足で進まず
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病院収容の時代 1
昭和25(1950)年~昭和39(1964)年
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「精神衛生法 昭和25(1950)年」
私宅監置は禁止されたが、病院への収容主義的な方向
※実際は、病院設置の遅れにより私宅監置継続
「精神衛生法の改正 昭和29(1954)年」により、民間病院への国
庫補助を規定
⇒昭和30~40年にかけて、精神病院の大増設
「ライシャワー事件 昭和39(1964)年」
※「精神衛生法改正」の契機
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ライシャワー事件
昭和39(1964年)
(*1)
駐日米国大使エドウィン・O・ライシャワー氏が日本人の19歳の
少年に刺され重傷を負った事件。
東京オリンピック開催の7ヶ月前。日米間の重大な国際問題へと
発展する可能性を危惧し、国を挙げて対応。
少年は精神分裂病(当時)で精神病院で治療を受けていたこと
が判明。「世間を騒がせるために大使を襲った」と犯行の動機を自
白したが、犯行は病気によるものであると不起訴処分となった。
ライシャワー氏は日米の友好関係を傷つけないように、と繰り返
した。その後、事件の時に受けた輸血による肝炎を併発し闘病生
活を強いられることになった。
(*1) 日本生まれ。宣教師の父の影響で16歳まで日本で生活。親日家。妻は日本人。
ジョン・F・ケネディ大統領が任命。
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【この事件が日本にもたらしたもの】
・「輸血用の売血制度廃止」⇒献血運動へ。「黄色い血」
・世界の中での日本の医療レベルが浮き彫りに
・精神病者に対する対策の強化
昭和40(1965)年の「精神衛生法の改正」
★改正の中心的な目的:地域医療の充実
向精神薬開発により精神病患者の社会復帰促進、入院
⇒通院治療を目指した
・通院医療費公費負担制度新設
逆
( 行
(現:自立支援医療費支給認定制度)
・保健所を精神保健行政の第一線機関と位置づけ
・精神衛生センター(現:精神保健福祉センターの設置)
★精神病患者を治安の対象とした
・緊急措置入院制度の新設
入院病床数が増加
昭和30年:4.4万床⇒昭和45年 25万床に
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精神病床数の推移
(人口1,000対、OECD30ヶ国1960-2000)OECD HealthDate2000
S50年
障害者の
権利宣言
S56年
国際障
害者年
S62年
「精神保健法の成立」
病院から社会復帰施設へ
S45年
心身障害
者対策基
本法成立
S40年
入院中から通
院促進
「日本医療最後の暗部に光を求めて」
長谷川敏彦:国立保健医療科学院 政策科学部
J.Nath.Inst.Public.Health,53(1):2004
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病院収容の時代 2
昭和40(1965)年~昭和61(1986)年
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「精神衛生法の改正 昭和40(1965)年」
※地域医療の充実を目的の中心としたが、受け皿の
不足により、社会的入院が増加
「宇都宮病院事件 昭和59(1984)年」
国際的な人権問題となる。
※「精神保健法」制定へ
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人権擁護・社会復帰の時代
昭和62(1987)年~平成6(1994)年
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「精神保健法 昭和62(1987)年」
※昭和63年7月施行
人権擁護と精神病者の社会復帰促進
入院から地域へという動きがスタート⇒受け皿不足
・任意入院制度の創設
・精神科病院に対する指導監督・精神医療審査会の設置
・精神保健指定医制度の創設
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「障害者基本法 平成5(1993)年」
精神病者が初めて障害者として位置づけ
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自立・社会参加の時代1
平成7(1995)年~平成16(2004)年
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「精神保健福祉法 平成7(1995)年」
法律の中に、福祉の対象=障害者であることが明記
自立・社会参加の促進
精神保健福祉手帳の創設 入院告知義務の徹底など
「精神保健福祉法の改正 平成11(1999)年」
【平成12年4月1日施行】
医療保護入院のための移送制度の創設
保護者の義務の軽減
【平成14年4月1日施行】
居宅3事業(ホームヘルプ・ショートステイ・グループホーム)
手帳・通院医療等の申請窓口が保健所⇒市町村へ
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自立・社会参加の時代2
平成17(2005)年~平成24(2012)年
 「精神保健福祉法の一部改正」 ※段階的に施行された
【平成17年11月7日施行】
「精神分裂病」⇒「統合失調症」に呼称変更
【平成18年4月1日施行】
平成17年の「障害者自立支援法」の成立を受け、精神保健福祉法
から福祉に 関する事項や通院医療に関する事項が削除された
※障害福祉サービスが身体・知的・精神の3障がい共通・平等に
【平成18年10月1日施行】
精神科病棟等に関する指導監督体制の見直し
精神医療審査会委員の見直し
精神保健福祉手帳の見直し
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自立・社会参加の時代3
平成25(2013)年~現在
 「精神保健福祉法の一部改正 平成25(2013)年」
【改正の4本柱】
※①~③は平成26年4月1日施行
①精神障害者の医療を確保するための指針の策定
②保護者制度の廃止 ③医療保護入院の見直し
④精神医療審査会の見直し(平成28年4月1日施行)
※法改正のきっかけ
「障害者権利条約」が平成18年12月に国連総会で採択。日本は、翌19年9月
に条約に署名したが、批准には至らず。批准のためには障害者権利条約が
求める水準の「人権配慮」の達成が必要。⇒精神保健福祉法、障害者基本
法の改正、障害者差別解消法の施行等、多くの国内法が整備・改正された。
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障害者権利条約
(21世紀最初の人権条約)
日本は、平成26年1月20日に締結
【基本理念】
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すべての障がい者は、障がい者でないものと等しく、
すべての基本的人権の享有主体として、個人の尊厳
が重んじられ、その尊厳にふさわしい生活を保障され
る権利を有すること。
すべての障がい者は、障がい者でないものと等しく、
自らの判断により地域において生活する権利を有す
るとともに、自らの決定に基づき、社会を構成する一
員として、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活
動に参加する機会を有するものとする。
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まとめにかえて・・・
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精神障がいは、外からはわかりにくい障がいであり、
理解が得られにくい。
過去の歴史から、根深い偏見がある。
世界の中での日本の取り組みの遅れ
⇒当事者と関係者が協力しあって、偏見をなく
すための普及啓発、障がい者の権利を守り、
自立・社会参加を目指す取り組みが大切です。
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ご清聴ありがとうございました。
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