英米法 最近の連邦最高裁判決から見るアメリカ法の動向 #03 Golan v. Holder 2012年9月28日 北海道大学大学院法学政治学研究科(法科大学院・法学政治学専攻) 会沢 恒 出席をとる 3 Golan v. Holder, 132 S. Ct. 873 (2012) 連邦制 > 連邦議会の立法権限 知的財産 > 著作権 4 アメリカ著作権制度の特徴 “COPYright” – – – – – ←→ droit d’auteur 産業政策的 固定要件、かつての発行要件 かつての短い保護期間、更新制度 (かつての)方式主義 • ©マーク – 著作者人格権の軽視 5 著作権制度の変遷と国際体制へのconvergence 1790年 原著作権法 – 1886年 ベルヌ条約 • 内国民待遇の原則 • 著作者人格権の重視 • 米国は不参加 – 二国間相互主義、パン・アメリカン体制 1909年 全面改正 – 発行publication要件 – 方式主義:表示要件 6 1976年 現行著作権法 – 固定要件 – 方式主義 – 保護期間=著作者の死後50年まで 1988年 米国のベルヌ条約への加盟 ベルヌ条約執行法BCIA – 無方式主義への転換 – ただし、米国著作物についての訴訟要件・法定損害賠償 – “minimalist approach” 7 1994年 TRIPs協定 ウルグアイラウンド合意法URAA – 権利回復著作物restored works – 不正録音防止anti-bootlegging 1998年 デジタルミレニアム著作権法DMCA – 迂回禁止措置 ソニー・ボノ保護期間延長法CTEA – 保護期間:著作者の死後70年 8 Golan v. Holder:事案――権利回復著作物 従前の状況 – 二国間相互主義 – 方式主義 – =方式を履践しない著作物はパブリック・ドメインに ベルヌ条約への加盟・BCIAによる無方式主義への転換 – だが遡及保護はなし;既にパブリック・ドメインに入っている著 作物についてはそのまま URAA – 1996年以降、権利回復著作物として保護 – ただし、①発効時期;②善意の利用者への通知;③派生著作 →既にパブリック・ドメインに入っているとして著作物を利 用していたユーザが利用できなくなることから、出訴 9 著作権・特許条項 U.S. Const. art.I, §5, cl.8 The Congress shall have power … To promote the progress of science and useful arts, by securing for limited times to authors and inventors the exclusive right to their respective writings and discoveries… 10 Eldred v. Ashcroft, 537 U.S. 186 (2003) CTEAの合憲性が争点 “Mickey Mouse” Case 【争点】著作権条項の射程、第1修正(言論の自由)との関 係 →結論合憲 11 U.S. Const. amend. I “Congress shall make no law respecting an establishment of religion, or prohibiting the free exercise thereof; or abridging the freedom of speech, or of the press; or the right of the people peaceably to assemble, and to petition the government for a redress of grievances.” →編入理論(incorporation theory)を通じて州へも 12 Golan v. Holder:法廷意見① 権利回復著作物の規定は著作権条項による連邦議会の 権能を越えない – 文言上、パブリック・ドメインに属する著作物に対して保護を及 ぼすことに問題はない • 新法による保護が「一定の期間」のものであることは明らか;この文言 が「固定の期間」「変更不可能な期間」とは読まない • 議会が漸進的に保護期間を延長することにより無限の保護を達成しよ うとしているとはいえない – 連邦議会はこれまでもパブリック・ドメインに属する既存の著 作物に対して保護を拡大してきた • これまでの拡大は著作権法の新規立法や戦争といった大きなイベント に関連しているが、TRIPsへの加盟はそれに劣らない 13 Golan v. Holder:法廷意見② – 「学術及び技芸の進歩を促進する」 • The Copyright Clause “empowers Congress to determine the intellectual property regimes that, overall, in that body’s judgment, will serve the ends of the Clause.” • 新たな著作物の創作の促進のみに限定されるものではない • 著作物の頒布・流通の促進も目的として認識されてきた • 国際著作権体制は流通を促進する – コンプライアンス→海外市場の開拓・海賊版対策→著作権産業の 利益・再投資 14 Golan v. Holder:法廷意見③ 権利回復著作物の規定は第1修正によって妨げられない – 確かに著作権体制は言論の自由に制約を加えるもの;だが建 国者は両者を両立しうるものだと考えていた – 著作権制度自体に言論の自由と両立させるための “traditional contour”がある;本件規定はこれらにノータッチ • アイディア/表現二分論 • フェアユース – 本件規定導入の際に、既存ユーザに配慮している – パブリック・ドメインの著作物を利用する「既得権vested rights」があるわけではない – 本件規定により既存著作物が完全に利用できなくなるわけで はない 15 フェアユース fair use 17 USC § 107 - Limitations on exclusive rights: Fair use – Notwithstanding the provisions of sections 106 and 106A, the fair use of a copyrighted work, including such use by reproduction in copies … or by any other means specified by that section, for purposes such as criticism, comment, news reporting, teaching ..., scholarship, or research, is not an infringement of copyright. In determining whether the use made of a work in any particular case is a fair use the factors to be considered shall include— • (1) the purpose and character of the use, including whether such use is of a commercial nature or is for nonprofit educational purposes; • (2) the nature of the copyrighted work; • (3) the amount and substantiality of the portion used in relation to the copyrighted work as a whole; and • (4) the effect of the use upon the potential market for or value of the copyrighted work… 16 フェアユース(続) Time-shifting – Sony Corp. of Am. v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417 (1984)(ベータマックス事件) パロディ – Campbell v. Acuff-Rose Music, 510 U.S. 569 (1994) 一般規定;事案特定的 17 Golan v. Holder:反対意見① 著作権制度の持つ危険性故の限定性を重視 – インセンティブ論を強調 本件規定は著作物の頒布を阻害する – 権利者による対価請求 – 権利管理コスト – <外国にいる権利者 「権利回復」によりパブリック・ドメインから自由利用可能な 著作物が削られる – 言論の自由の制約 – 議会に反映される利害関係 18 Golan v. Holder:反対意見② 本件立法は新規著作物とは無関係 – 議会はパブリック・ドメインの著作物に保護を拡大することに 慎重だった – 著作権保護の第一の関心は新規創作に対するインセンティブ – ホーソーンやスウィフトや聖書に対しても保護を与えることが できるのか? – ヨーロッパ的;アメリカ的ではない – 国際協調体制に入るにせよ、アメリカ著作権の特徴を維持す ることはできる/できたはず 19 分析と評価 パブリック・ドメインの著作物に対する保護の拡張に制約 はないのか? – 「パブリック・ドメイン」概念の錯綜? インセンティブ論と「頒布」の位置付け 国際協調の重視? 判断構造:連邦議会の裁量を重視 著作権条項と第1修正の重なり合い・コインの裏表 – Cf. 「言論のエンジン」論 – ズレ・後者の独自の機能はないのか “traditional contours” – 限定列挙!? – 憲法的地位? 20 著作権条項の迂回? 不正録音防止anti-bootlegging U.S. v. Martignon, 346 F.Supp.2d 413 (S.D.N.Y. 2004) – 著作権条項で正当化されないので違憲 U.S. v. Moghadam, 175 F.3d 1269 (11th Cir. 1999); U.S. v. Martignon, 492 F.3d 140 (2d Cir. 2007) – 著作権条項では正当化されない、が通商条項によって正当化 可能 制約・限界はないのか? – 個別的審査かカテゴリカル・アプローチか 次回 Arizona Christian School Tuition Organization v. Winn, 131 S. Ct. 1436 (2011) 司法制度> 当事者適格> 納税者訴訟 人権> 宗教> 政教分離
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