マスコミュニケーション理論 科学コミュニケーション

マスコミュニケーション理論と、
科学コミュニケーションへの展望
早稲田大学 政治学研究科
科学技術ジャーナリスト養成プログラム
中村
理
分類
- マスコミュニケーション論
集団における情報伝達のされ方を扱う
- メディア論
情報伝達を媒介する装置に付随する特質を扱う
- ジャーナリズム論
情報の内容や訴え方を扱う
マスコミュニケーション研究
二つの特徴:
- 20世紀からの学問であること (アメリカから)
- 学際研究であること
研究領域:
-
成立過程
送り手
オーディエンス
内容
伝達過程
制度論
世論・宣伝
コミュニケーション文明論、発達史
産業論、メディア特性論、ジャーナリズム論
認知論、効果論、機能論、行動論
メッセージ論、ストーリー論、ニュース論
普及過程、伝達過程
マスコミ法制、メディア政策
世論研究、政治意識研究、宣伝研究
研究手法:
- 経験的、実証的、史学的 
体系化へ
科学コミュニケーションとの関連
科学コミュニケーションは新しい分野
現在まで研究主体はケーススタディ  体系化が望まれる
理論的背景に乏しい
cf. Science Communication in Theory and Practice
(Susan Stocklmayer)
科学コミュニケーション、マスコミュニケーションは、
いずれもコミュニケーションを扱う
マスコミ論では情報伝達の仕組みの理解が、効果的な情報配布に
役立てられる。科学コミュニケーションは部分的にはマスコミュニケ
ーションの鏡像として参照可能。ただし、相違点は多々ある。
マスコミュニケーション過程モデルの歴史
1
Lasswell の一次線形モデル (1948)
who  what  channel  whom  effect
who
what
channel
whom
effect
2





送り手研究へ
メッセージ・記号・シンボル分析へ
媒体研究へ
受け手研究へ
影響・効果分析へ
Channon and Weaver の数学的一次線形モデル (1949)
source + message  transmitter  signal
destination  receiver
noise
マスコミュニケーション過程モデルの歴史
循環モデル
情報源
目的地
self-feedback
記号化 (encode)
↑
解釈 (interpret)
↑
解読化 (decode)
メッセージ
self-feedback
3
目的地
解読化(decode)
↓
解釈 (interpret)
↓
記号化 (encode)
情報源
メッセージ
循環: 情報は再生産され、共通経験として
社会の中に蓄積される
上の流れは2者間の相対的関係。
実際にはこれにマスメディアが加わる。
cf. 科学コミュニケーションのモデル
1
deficient model
(~1990年代)
研究者  市民
市民は空っぽの脳みそを持っており、研究者はそこへ向かって
知識を放り込んでいけばよい
cf. one-way communication model
2
dialogue model
研究者
⇔
(1990年代~)
市民
双方向に情報を伝達する関係が大切である
特徴:
- コミュニケーションの過程に関するモデルというよりは、
情報発信時の(研究者の)態度・意識に重点。
- 過程のモデルとしては単純。素過程の必要性は認識されてない。現実の
コミュニケーション過程を扱う程の具体性にはまだ発展していない。
流れ
マスコミュニケーション論の歴史・アメリカ
マスコミュニケーション論の歴史・日本
マスコミュニケーションの歴史
マスコミュニケーション過程のモデル
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
オーディエンスのメディア利用・満足度研究
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
Hypodermic Needle Model
-
“Invasion from Mars” (「火星からの侵入」)
H. Cantril,
1940
1938年のラジオCBS放送 「宇宙戦争」(Orson Welles)
 100万人が虚構に恐怖
-
“Mass Persuasion” (「大衆説得」)
R. K. Merton, 1943
1943年のラジオCBS放送 戦時国債キャンペーン
歌手ケイト・スミスによる18時間中65回のスポットアピール
 1日で3900万ドル
マスメディアによる効果は直接的だと結論:
Hypodermic Needle Model
(皮下注射モデル)
Magic Bullet Theory (魔法の弾丸理論)
実証的研究へ
戦時宣伝
へ利用
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
エリー調査
1940,
Erie County,
Ohio state
大統領選挙キャンペーン調査
600人、パネル法(同じ人に同じ質問を繰り返す)
(キャンペーン期間中に6回の面接)
1
オーディエンスの選択的接触の発見
メディアへの接触の仕方が選択的
情報の取得の仕方が選択的
 オーディエンスは主体的に行動する
2
マスメディア効果の発見
改変効果
補強効果
健在化効果
 補強効果が最も高い
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
エリー調査
3
行動決定におけるパーソナル効果(と集団)の発見
マスメディアよりパーソナルコミュニケーション
(を媒介にした社会集団)が態度決定に効いている
4
オピニオンリーダの存在の確認
パーソナルコミュニケーションによる意思決定では、
特定の誰かの意見が反映されている
5
オピニオンリーダのcommunication特性の分析
メディア接触が高い
政治的知識が高い
 こういった者が集団へ影響を与える
cf. 科学コミュニケータ
Two steps of Communication hypothesis へ
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
Two Steps of Communication Hypothesis
( 「2段階の流れ」仮説 )
集団
情報
オピニオンリーダ
「皮下注射モデルのように、マスメディアの意見が直接人々へ届くわけではない。
マスメディアの意見は、まず「集団」へ取り込まれる。
そこでは、opinion leaderが介在して情報修正が加えられてから、末端の人々
へ届く。」
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
Two Steps of Communication Hypothesis
( 「2段階の流れ」仮説 )
社会学的な理解:
ある社会的属性を持った集団  先有傾向  態度・行動
宗教
地域
経済的地位
メディアへ選択的接触
(メディア効果は補強的、
顕在化的)
社会集団による情報修正
(2段階。集団の影響
がメディアより高い)
帰結:
1
2
直接効果論の否定

集団の自立性と多元性
2段階の流れ仮説
+
メディアの限定効果論
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
Two Steps of Communication Hypothesis
( 「2段階の流れ」仮説 )
ロービア調査
オピニオンリーダの特性を分析
エルミラ調査
パーソナルコミュニケーションとマスメディアの影響の競合性
パーソナルコミュニケーションの優位性
オピニオンリーダの特性、社会内での分布の傾向の分析
集団内で意見が同質化する現象
ディケータ研究
政治以外の3つの場面(買物、流行、映画)でのオピニオンリーダの特性
発見された「集団」に対して、「人」の、情報伝達における役割の分析
personal communicationの重要性の明示
2段階の流れ仮説の定着
マスメディアの限定効果モデルの定着
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
Two Steps of Communication Model の修正
I.
認知効果と態度決定効果の分離
- “Person to Person Communication in the Diffusion of News and Event”
Greenberg, 1960
ケネディ大統領襲撃事件などの報道の流布過程を調査

伝達度90%の大きなニュース
伝達度50%の中位のニュース
伝達度20%の小さなニュース

事実伝播はマスメディアが支配的(オピニオンリーダを介さない)
--- 個人コミュは 10% 程度
--10% 以下
--10% 程度
「知る」ことと「態度を決定する」ことは異なる事象だと認識されるようになる
cf. ディケータ研究までは、態度決定へのマスメディアの影響を調査していた
cf. “understanding of science is different from awareness of science”
(S. Stocklmayer)
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
Two Steps of Communication Model の修正
II.
認知と態度決定におけるメディアの役割変化
- “Diffusion of Innovation”
Rogers, 1962
農村で新しい農薬の広まる過程を調査
個人の態度決定過程を以下のsequeceに分化:
認知
(awareness)
関心
(interest)
評価
(evaluation)
試行
(trial)
採用 (adoption)

マスメディア
及び広域指向的情報源は、認知段階に有効
パーソナルコミュ及び地域思考的情報源は、評価段階に有効
(両者は相互補完的)
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
Two Steps of Communication Model の修正
II.
認知と態度決定におけるメディアの役割変化
- “Diffusion of Innovation”
Rogers, 1962

社会における伝播過程を見ても:
革新者
(~ 3%) はみ出し者
初期採用者(~15%) オピニオンリーダ
前期追随者
後期追随者(~80%)
遅滞者
マスメディアが情報源
パーソナルコミュが情報源
cf. ディケータ研究までは、これを一塊に見ていたので、
各構成員に統計的なウェイトをかけたものを答えと
して得ていた。
マスメディアは限定的効果しかないのではない。
マスメディアとパーソナルコミュニケーションの作用点が異なるのである
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
Two Steps of Communication Model の修正
III.
ニュース伝播におけるメディアの役割変化
- “Communication in Crisis”
Rogers, 1962
ケネディ暗殺など、危機ニュースの伝播過程を研究

1 事件発生
マスコミュ + パーソナルコミュ
(事実伝達が進む)
2 危機状況
マスコミュ のみ
(情動的、また治療的コミュニケーションが高まる)
3 社会の再統合
マスコミュ + パーソナルコミュ
(事件の解釈が進み、安定化する)
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
Two Steps of Communication Model の修正
III.
ニュース伝播におけるメディアの役割変化
- “Communication in Crisis”
Rogers, 1962
「従来の2段階モデルは、このニュース伝播過程の、ある時における
一断面に過ぎない。
一段階目としてマスコミュニケーション、二段階目としてパーソナル
コミュニケーションが果たす役割度は、状況の関数であり、普遍的で
はない。
このコミュニケーションの変化は、ニュース(即ちメディアコンテン
ツ)によって規定される。」
一見、オーディエンスの選択的
行動の発見と矛盾
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
Two Steps of Communication Model の修正
IV.
2段階の流れモデルの修正
均衡理論、認知的不協和仮説(心理学)の輸入
(Troldahl, 1965)
「人間は、自分たちの持つ考えや信念に明確な一貫性
を持つように動機づけられている」
自己の信念に反する
メディア内容へ接触
心理的不均衡に陥る
不均衡回避のため、
オピニオンリーダへ
オピニオンリーダによる
付加的認知と影響を受ける
信念の均衡の回復
自分の先有傾向の修正、または
メディア内容の修正・排除
注:このプロセスは、オピニオンリーダと他の人々のそれぞれに存在
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
Two Steps of Communication Model の修正
IV.
2段階の流れモデルの修正
均衡理論、認知的不協和仮説(心理学)の輸入
2段階目の流れはフォロワーが決定づける
(メディアやオピニオンリーダが主導するものでない)
ただし、2段階の流れは社会コミュニケーションとしては
恒常的でない。
「受け手」から
「オーディエンス」
と呼称されることに
オーディエンス個人の状態が
コミュニケーション行動に
与える影響の研究へ進展
限定効果論から、
適度効果論、ないし
強力効果説へ
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
Two Steps of Communication Model の修正
IV.
2段階の流れモデルの修正
オーディエンスの選択的接触を生み出す要素:
1
先有傾向
過去の経験に基づいて築き上げた知識、関心、意見、態度
形成要因:
- 社会的属性(地域、年齢、性、宗教、経済的地位など)
- 文化的エトス
- 帰属集団への従属・支持
2
認知的不協和による説明
不協和を積極的に解消するように、メディアを選択する
3 期待価値論による説明
過去のメディア接触に基づいて期待されるメディアからの
報酬が、接触を規定
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
The Agenda-Setting Theory
メディアを通したオーディエンスの「学習」の発見:
- 高いメディア接触が高い知識を生む傾向
- メディアは人々に学習効果を与える
メディアから得られる現実認識と体験的現実との差異が問題に
実証的研究へ
The Agenda-Setting Theory へ
Appendix
マスコミュニケーション過程と効果の経験的研究
Two Steps of Communication Model の修正
I.
認知効果と態度決定効果の分離
- “Diffusion of Knowledge of Major News Story”
Deutschman and Danielson, 1960
オーディエンスの態度決定でなく、事実の伝達を調査:
- アイゼンハワーの心臓発作
- アメリカの人口衛星打ち上げ
- アラスカの州への昇格
について、人々の情報の得方を分析

マスメディアの役割が大きいことを発見
事実伝達については、オピニオンリーダを媒介しない