1H-NMR とは? 1H-Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy プロトン核磁気共鳴分光法 分子内における個々の 1H の情報を得る分析方法 *厳密に言うと「分子内における個々の水素の情報を得る分析方法」ではない。 *NMR は 1H に限定されない 2D, 13C, 14N, 17O, 19F, 31P, 33S, etc ⇒有機化合物を構成する元素それぞれの情報を別々に取ることができる。 1H-NMR でわかること ・ある 1H が何の元素の原子に結合しているか? C-H, O-H, N-H, S-H, etc. ・その原子がどの官能基に結合しているか? C-C-H, O-C-H, N-C-H C-O-H, C(O)-OH, C-N-H, C(O)-N-H ・ある 1H が結合している原子に他の 1H が結合しているか? CH, CH2, CH3 ・ある 1H が結合している原子に結合している原子にどの 1H が 結合しているか?相対配置は? Ha-X-Y-Hb, cis/trans 1H-NMR のチャートの例 1H-NMR のチャートから読み取るもの ・化学シフト (d 値) ピークがどこに出ているか 低磁場 (d の値が 大きい) ・カップリングパターン ピークが何本に分かれているか 高磁場 (d の値が 小さい) d ・カップリング定数 (J 値) ピークが分かれたときの割れ幅 J ・積分値 (I 値) ピークの相対的な大きさ (CH3)4Si d1 d2 d1 + d2 d= 2 J = (d1 - d2) x (共鳴周波数) 1H-NMR で読み取る情報 J3 6重線 H2 C 3重線 3重線 J1 6重線 J2 NO2 H3C C H2 3重線 3重線 d1 d2 d3 チャートから読み取る情報と、それから得られる情報 ・ある 1H が何の元素の原子に結合している か? 化学シフト ・その原子がどの官能基に結合しているか? ・ある 1H が結合している原子に他の 1H が結 合しているか? ・ある 1H が結合している原子に結合している 原子にどの 1H が結合しているか?相対配 置は?cis/trans? 積分値 カップリング 定数 (J 値) 化学シフトの一般的な領域 化学シフト 1 置換脂肪族の場合 -CH-CH2R -CH2-CH2R CH3-CH2R 化学シフト 二置換メチレン・三置換メチンの場合 化学シフト 二置換メチレンを計算で予測する 化学シフト 二置換メチレンを計算で予測する ― b-置換基 H2 H2 H2 H2 O Br Br H1 H1 H1 H1 化学シフト アルケンの d を計算で予測する gem cis trans 化学シフト アルケンの d を計算で予測する 化学シフト アルキンの d sp3: 0.8 – 2.0 (無置換) sp2: 4.5 – 7.5 sp : 1.7 – 2.6 sp > sp2 > sp3 ではなくて sp2 > sp > sp3 化学シフト ベンゼンの d p o m このずれが大事 加成性 化学シフト ベンゼンの加成則 7.34 H OMe H 6.88 (- 0.46) H 7.25 (- 0.09) 7.50 (+ 0.16) 7.94 (+ 0.60) O OMe 7.34 - 0.46 + 0.16 = 7.04 (exp. 6.929) 7.34 - 0.09 + 0.60 = 7.85 (exp. 7.929) O NMe2 H 6.71 (- 0.63) H H H 7.21 (- 0.13) NMe2 H 7.52 (+ 0.18) NO2 8.19 (+ 0.85) 7.34 + 0.63 + 0.18 = 6.89 (exp. 6.59) H NO2 7.34 - 0.13 + 0.85 = 8.06 (exp. 8.09) 化学シフト ヘテロ原子についた 1H 残留水の影響―溶媒が変わるだけでこんなに変わるの? カップリング定数 脂肪族の場合 Ha と Hb の環境 が違うとき Ha と Hb とが互い に隣り合っている ことがわかる 隣の情報はわかるが それ以上向こうはわからない カップリング定数 環状脂肪族化合物の場合-相対配置の決定 H H H H HH 応用 1,3-ジオールの相対配置の決定 OH OH O O Ha Hc Hd O O Hb Hb Ha 15 (a-b) 3 (a-c) 3 (a-d) 15 (b-a) 9 (b-c) 9 (b-d) Hc OH OH O O O Ha O Hd Hb 3 (a-c) 3 (a-d) JHa-Hb = 15 Hz JHa-Hc = JHa-Hd = 3 Hz JHb-Hc = 9 Hz JHb-Hd = 3 Hz Hb Ha Hb の現れ方が 異なる JHa-Hb = 15 Hz JHa-Hc = JHa-Hd = 3 Hz JHb-Hc = JHb-Hd = 9 Hz 15 (a-b) 9 (b-c) 3 (b-d) 15 (b-a) アルコール、アルデヒドのカップリング定数 脂肪族アルデヒドか a,b-不飽和 アルデヒドか区別できる 交換があると 0 になる ・高濃度 ・一級 (低立体障害) ・水 etc オレフィン周りのカップリング定数―相対配置の決定 Ha Ha Hb 12-18 17 Hb 0-3 1.5 0-3 2 4-10 7 0-3 1-2 Ha Ha Hb Hb 6-12 10 Ha Ha 0-3 Hb 0-2 Hb HaHb スチレンのカップリングとカップリング定数 JAX = 18 Hz JBX = 11 Hz JAB = 2 Hz H-F,H-P のカップリング定数 基本的な傾向 は H-H カップ リング定数と 同じ H-H カップリ ング定数と 順序が異な る 他核種 NMR ここに数字が入っていれば測定可能:スピン数≠0 NMR チャートの予測 酢酸エチル (Ethyl Acetate) の 1H-NMR チャートを予測する。 Ha Ha Hc Hc O Ha Hc O Hb Hb 酢酸エチルには 3 種類の H (Ha, Hb, Hc) がある。 Ha: カルボニル基の a-位のメチル基→図 A・1 より d 2.0。隣の炭素には水素 はないので一重線。積分値は 3H 分。 Hb: エステル酸素の a-位のメチレン基→図 A・1 より d 4.1。隣の炭素に水素 が 3 つ (Hc) あるので四重線。積分値は 2H 分。 Hc: エステル酸素の b-位のメチル基→図 A・2 より d 1.3。隣の炭素に水素 が 2 つ (Hb) あるので三重線。積分値は 3H 分。 JHb-Hc は自由回転のアルキル基なので 7 Hz。 酢酸エチルのチャートの予測と実測 予想: d 4.1 (q, J = 7 Hz, 2H), 2.0 (s, 3H), 1.3 (t, J = 7 Hz, 3H) 実測: d 4.119 (q, J = 7.1 Hz, 2H), 2.038 (s, 3H), 1.260 (t, J = 7.1 Hz, 3H) 1H-NMR スペクトルから分子構造の推定まで ⑥ ② ③ ⑤ ④ ① d 7.58 (d, J = 18 Hz, 1H), 7.48 (d, J = 8 Hz, 2H), 7.34 (d, J = 8 Hz, 2H), 6.39 (d, J = 18 Hz, 1H), 4.25 (q, J = 7 Hz, 2H), 1.32 (t, J = 7 Hz, 3H) ピークの整理:隣り合う 1H を探す ①元素分析、質量分析から分子式が C11H11BrO2 であることがわかる。 分子式から,不飽和度は 6。炭素数に比べて不飽和度が高いので,芳香環が 入っている可能性が高い。 ②NMR の積分値の合計が 11 なので、矛盾はないことが確認できる。 ③カップリング定数の値が同じものを探すと ピーク①⇔ピーク④ (18 Hz) ピーク②⇔ピーク③ (8 Hz) ピーク⑤⇔ピーク⑥ (7 Hz) が同じ。だからこれらがお隣同士いうことになる。積分から考えて ピーク①:二重線 (ピーク④が1H (積分1) だから) ピーク②:二重線 (ピーク③が1H (積分1) だから) ピーク③:二重線 (ピーク②が1H (積分1) だから) ピーク④:二重線 (ピーク①が1H (積分1) だから) ピーク⑤:四重線 (ピーク⑥が3H (積分3) だから) ピーク⑥:三重線 (ピーク⑤が2H (積分2) だから) と予測され,実際のカップリングパターンと矛盾していない。 ピーク ①ー③ の解析 ピーク ①―③:芳香族,アルケンの領域 ② ③ ピーク②,③:二組の d (2 H) なので、1,4-二置換芳香 環。化学シフトがやや低磁場側にシフトしている (値が大 きくなっている) ので、電子求引基が置換している。 ① ピーク①:J 値が 18 Hz もあること、ピーク④とカップリン グしていることから,trans-二置換のアルケン。化学シフ H H1 O トが 7.6 付近まで下がっているので,ピーク①の水素の H 結合している炭素には芳香環が置換し、ピーク④の水素 4 H H の結合している炭素には電子求引基が結合している。 H 2 3 H or H 付録 D より,その電子求引基は共役カルボニル基。 ピーク ④ の解析 ピーク④: ④ H H1 O H H H4 H H2 or H3 H4 のついている炭素の Zgem 値が 0.77。付録 D から、 この置換基は COOR (共役) もしくは COOH になる。分 子式から考えるとあと C2H5BrO が残っており,結合手 が最低二本いるので、COOH はありえないことになる。 したがって、ここは COOR (共役) 。 ピーク ⑤、⑥ の解析 ピーク⑤、⑥:互いに隣同士にあり,積分値から考えて CH2CH3 と考えられる。ピーク⑤の化学シフトが約 4.2 であり,これはエチ ルエステルの構造を示している (図 A・1)。 H H1 O H OCH52CH63 H H4 H ⑥ H2 or H3 ⑤ 分子式からは Br が残っているので,これを芳香環に結合させて H H1 O H OCH52CH63 Br H H4 H H2 or H3 芳香環部の再検討 7.34 O H O C2H5 Br 7.50 (+ 0.16) 7.17 (- 0.17) 7.44 (+ 0.10) 7.38 (+ 0.04) H H 5 Br H H H2, H3 の化学シフトを再 計算しても矛盾はない。 H1 O H4 6 3 OCH 2CH 3 7.34 + 0.16 - 0.17 = 7.33 (H : exp. 7.35) 7.34 + 0.10 + 0.04 = 7.48 (H2: exp. 7.48) H3 H1 H2 O OCH52CH63 4 3H Br H H2
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