消費者行動A(第2回) 動機づけ 香川大学経済学部 堀 啓造 1 ここで学ぶこと • 2つの要求(ニーズ)と欲求(ウォンツ)の考 え方 • マズローの欲求階層説とその応用 • HM理論とその適用 • 製品評価の重点移行ルール 2 1節 動機づけとは何か • (1)「なぜその行動が生じるのか?」 • (2)動機づけの発想源:メタファー • (3)欲求を創り出すことができるか? 3 (1)なぜその行動が生じるの か? • 説明原理 • 仮説構成概念 • 本能との比較 4 (2)動機づけの発想源:メタファー • ①(将棋のコマ)行動は神に決定されたもの • ②(将棋の指し手)自由意思で行動する。 例.統制の位置(帰属理論),計画 • ③本能のリスト,傾向性(傾性) • ④ すべての現実は生気に満ちており,感情と意 志をもっている(生命主義) 蒸気圧説:ときどき ガス抜きをしないとイライラが増すよ • ⑤機械にたとえる(ニュートン力学)。時計→蒸気 機関車→コンピュータ(内部状態が自動的にある 行動をさせるようにする) 5 フロイトの自我論と要求・欲求 6 • 消費者 • Need → Want → Benefit 特定 • ↑ ↑ ↑ • ↓ ↓ ↓ • Motive → Goal Object → Goal 抽象 • 心理学 • Foxall, Goldsmith and Brown(1998). Consumer psychology for marketing (2nd ed.). Thompson. 7 (3)欲求を創り出すことができる か? • 水路づけはできる。 • 文化・生活圏によって食生活は異なってくる。 • どんな趣味を持つかは,それをやってみて からである。 • しかし,まったく新たなものをつくり出すこと はできない。 8 2節 動機づけの内容理論(分類) • 1 欲求の階層構造 • a 欲求階層説 • マズロー(Maslow,A.H.)(1987)『人間性の 心理学-モチベーションとパーソナリティ (改訂新版)』産業能率大学出版部 • 下のレベルの欲求が満たされて、上のレ ベルの欲求がはっきりしてくる。 9 10 マズローの欲求階層説(1) • ①生理的欲求…空腹、のどの渇き、疲れ、 …など生理的変化から生じる欲求 • ②安全の欲求…安全、安定、依存、保護、 恐怖・不安・混乱からの自由、構造・秩序・ 法・制限を求める欲求、保護の強固さ 安全で秩序だった予想できる法則性のあ る組織された世界を好む 11 マズローの欲求階層説(2) • ③所属と愛の欲求…孤独、追放、拒絶、寄 る辺ないこと、根無し草であることなどの痛 恨を感じる。 • 高度産業化→過度の移動、祖先がわから ないこと、出身・祖先・所属集団をばかに すること、家や家族・友人・近隣から引き離 されること、定住者でなく短期滞在者ある いは新参者になること 12 マズローの欲求階層説(3) • ④尊重(承認)の欲求…安定したしっかりした根 拠をもつ自己に対する高い評価、自己尊敬、ある いは自尊心、他者からの承認などに対する欲求 • (1)強さ、達成、適切さ、熟達と能力、世の中を前 にしての自信、独立と自由などに対する願望 • (2)(他者から受ける尊敬とか承認を意味する)評 判とか信望、地位、名声と栄光、優越、承認、注 意、重視、威信、評価などに対する願望 • ○自信、有用性、強さ、能力、適切さの感情、世 の中に役に立ち、必要とされるなどの感情 13 マズローの欲求階層説(4) • ⑤自己実現の欲求…自分がなりうるものにならな ければならない • 自分に適しているものをしていない限り落ち着か ない。 • 真実,善,美,全体性,二分法超越,躍動,独自 性,完全性,必然性,完成,正義,秩序,単純, 富裕,無碍(むげ:何の障害もない),遊興,自己 充足 14 マズローの欲求階層説(5) • 「欠乏欲求」が欠けているときは、はっき りとした欲求がわかるが、 • 「成長欲求」が欠けているときはなにが 問題なのかわからない場合が多い。 • 「知る欲求」と「理解する欲求」=意欲, 審美的欲求も基本的欲求 • この2つが高次欲求に至り,高次欲求 を追求するのに必要である。 15 欲求階層説と 消費者行動との関連 • • • • • • • (i)必欲・必需 第2のニーズ・ウォンツの区別 (社会学者 ダニエル・ベル) 欠乏欲求,成長欲求 物質主義・脱物質主義 (ii)時代区分との関係 国の発達段階。個人の発達段階 16 Woods,W.A.の商品の機能 • ①消費者の自我を拡大する • 威光商品 高級車・住宅・家具 • 成熟商品 酒・たばこ・化粧品 • 地位商品 自動車・時計 • ②自我の防衛 • 不安商品 石鹸・防臭剤・ある種の医薬品・ はげの防止 • ③快楽商品 ファッション品・食料品・酒類 • ④機能性商品 文化的・社会的意味をあまり与 えていない商品。基本商品 17 2 HM理論と購買動機 • 小嶋外弘 • 必要条件-消費者に安心を与える要因 • 魅力条件-この必要条件が満たされた上 で,消費者をより引きつけるための要因 • ①ブランド テキストの例 p138 18 HM理論 ネーミング • 電気洗濯機で三洋電機がトップメーカー だった。知名度もサンヨーの「ママトップ」が 高かった。脱水機付き洗濯機への買い換 えが本格化しはじめた時期に「うず潮」(ナ ショナル)、「銀河」(東芝)などが市場に食 い込んできた。三洋電機もこれに対抗して 新製品を出すことにした。これまでと同じ 「ママトップ」をつかうかどうか? 19 • 有力量販店の店頭での観察。洗濯機を買い に来た消費者が「うず潮をくれ」「銀河が欲し い」という指名買いがかなりあるのに,「ママ トップを」という指名買いが一件もなかった。 • すでに「ママトップ」という名前は魅力要因が なくなって,必要要因でしかなかった。三洋 電機は新しいネーミングにすることを決断し た。 • →琵琶湖 • 小嶋外弘(1972)『新・消費者心理の研究』日 本生産性本部 20 ③製品ライフサイクルとHM要因。 • 電気冷蔵庫 • 「電気で冷やす」「いつでも一定の温度に冷 えている」→「自動霜取り」「フリーザー」 • 秋庭雅夫・圓川隆夫(1986)『消費者からみた 耐久消費財の製品評価』日刊工業新聞社 21 製品評価の重点移行ルール • (1)基本機能から付随的な機能である製品の 特徴に移行 • (2)製品の機能というよりも生活空間における "もの"として価値に重点が移行 • (3)やがて新しい製品概念が定着するととも に • (4)再び基本機能に重点が移る。 22 23 クーラーの例(1/3) • (a)クーラーが出だしたころは,その[基本機能] である冷却能力に関心が集まった。 • (b)そして,ウインドタイプによる振動,騒音など の[弊害機能]も関係して,セパレートタイプがだ された。 • (c)一応,これらが満足されると,消費電力など の[経済性]が問題となった。 24 クーラーの例(2/3) • (d)次には,空気や吸い取った際のごみの処理方式[保 守性]や,高いところに取り付けたクーラーのON,OFF, あるいは水準の切り換えなどの操作を離れたところから できるリモートコントロールの方式など[操作性]が考えら れた。 • (e)そして,壁型も,しだいに薄いタイプになってきて, クーラーを取り付ける台をはりだす必要がなくなるなど, [設置性]が考えられた。 • (f)今までの定型化されたクーラーの形,色から踏み出し て,家具や部屋の様子にうまく適合する形とか色彩の クーラーが出てきて,[嗜好性]が考えられた。 25 クーラーの例(3/3) • (g)冷やすという基本機能に対して,それだけでな く,同じ[基本機能]の,暖めるという複合機能が 考えられてきた。それが一般化して,[付加機能] ではなく,「エアーコンディショナー」(エアコン)と して,[基本機能]が認められる製品となった。 • (h)さらに,インバータ方式などによる[基本機能] の強化と,そのための省エネタイプという[経済 性]の向上が進められた。 26 自由課題 • 機能やニーズが変化したものとして携帯電 話について考えてみよう。 27 3 電通のニーズ(1985) (1)安心してくらしたい (a)健康の重視 (b)心の不安 (c)資源災害への不安 (2)賢く(便利に)暮らしたい (a)住の工夫・改善 (b)家事再考 (c)コンビニエンス (3)楽しく暮らしたい (a)ファッション化 (b)トライアル (c)ネオ・ステイタス 28 5 ベネフィット(便益) 29 (1)ベネフィットの大きなタイプわけ (ex. Engel et al.,1990) (a)功利的ベネフィット 客観的、機能的製品属性 (b)快楽的ベネフィット 主観的反応、感覚的快楽、美的配慮=>主観的、象徴的=製品 またはサービスそれ自体の鑑賞 ex.車=地位の感覚,威信,運転の曲がる際の快 功利的ベネフィット,快楽的ベネフィットの両者が使われる。 モティベーション・リサーチ時代は感情重視。その後,情報処理重視 の時代があった。 Copeland(1924)の合理的側面と感情的側面の両者つまり功利的ベ ネフィットと快楽的ベネフィットを考慮する必要がある 30 (2) ベネフィット・セグメンテーション • 鳥居直隆・近藤礼一(1974)『ベネフィット・セ グメンテーション』ダイヤモンド • Haley, R.I.(1985) Developing effective communications strategy: a benefit segmentation approach. Roland. 31 (a) 歯磨き使用者のベネフィット細分 化(代表例)ブランドは一部改変して いる 名称 ベネフィット ブランド 感覚派 コルゲートスト ラップ 社交派 味と香り、商品 の外観 歯の白さ 心配性派 虫歯の予防 ホワイトアンドホ ワイト クレスト、ガム 自主派 価格 安売り銘柄 32 (b)鳥居・近藤(1974) (因子分析使用)歯磨き購入者 ① 味覚型…香りがよい,さっぱりする,泡立ちがよい,口臭 を防ぐ,中身の色 ② 価格型…安い,容量と比べて安い,店のすすめ ③ 薬効型…虫歯を防ぐ,口臭を防ぐ,歯を白く,殺菌力,歯 茎を丈夫に ④ 親近型…評判がよい,広告をよくしている,店頭で目に ついた,親しい名前 ⑤ 他動型…高級品,知人・友人のすすめ,店にたくさん あった,オマケ付き,家族の希望 33 (c) ソフトドリンク(Haley,1985) 活動 …乾きを癒す,はげしい運動の後,リフ レッシュ 味 …強い,食事と合う,いい味 食事の友…食事と合う,高品質成分 価格 …高くない,価格のわりにたくさんある 34 記号論的に力動化する • 記号論 中野収『気になる人のための記号 論入門』ごま書店 ゴマセレクト1984 • (ダイナミックさ) • 記号論の考えを消費者行動に応用する考 えは主としてロラン・バルト(1972『モードの 体系』みすず書房:原著1967年刊)からき ている。 • 星野克美(1984『消費人類学-欲望を解く 記号』東洋経済新報社)である。 35 • 中野氏の本は記号解釈のダイナミックな面 を中心に押し出しているので,記号的意味 の変化を理解でき,ダイナミックな進行が わかる。 36 37 38 • この図で考えるべきことは,まず複数の意 味が共存することである。デノテーションレ ベルしか解釈しないかもしれない。普通は, コノテーションのレベル①まではすぐ進む。 これは,梯子登り法での抽象的属性のレ ベルである。コノテーション②も抽象的属 性のレベルである。コノテーション③は結 果または価値だが,このあとの変化を見る と結果と解釈しておいたほうがいいだろう。 39 • 第2の点は,偽物ブランドがはやった頃の 本物のブランドの意味作用との対比からで てくる。高価さからでてくる意味作用が異 なってくる。これは,前提や時代や年齢や 文化などによって意味の付けが異なってく ることをしめしている。そして,対比するも のがあればよりその意味が明確に現れて くる。 40 • ニーズについては,心理学から現場まで は遠い。 • そもそも動機づけという概念が実体とは 言えない。言い訳の面を多く持っている。 生理学から裏付けられたもの以外はあや しいと思ってもいい。動機づけは社会的に 作られたものという考えは社会学にある。 また,マーケティングで語られているもの は多くは言い訳といってもいいものだった りする。 41 • 消費者がニーズを意識できるのかは心 理学は本来懐疑的である。心理学がすべ て実験的に検証しようとする方向に流れて いることからもわかる。 • また,マーケティングの現場でも,いわゆ る「高感度」人間を重視しているのもすべ ての人が自分を分析できるとは限らないか らだ。 42 • ところが,一般の人をインタビューすれば それで調査したものだという安易な考えが 普及してきている。マズローのいう知る欲 求と理解する欲求=意欲,審美的欲求が ないものにきいてもそれはほとんどステレ オタイプ的な言い訳やランダムな反応を手 にするだけである。 43 • 一方,観察する側,調査する側に審美的 なものがないと観察調査はやれない。そう いうものがないなら実験や定量調査にいそ しむべきである。 • 学問的にいえば,そういう審美的なもの は仮説生成であって,仮説検証ではない。 マーケティングは仮説生成部分は非常に 重要である。心理学的にはそのあと検証 することが重要である。 44 • なぜ,普及の阻害原因になっているのかと いう問題を考えるとき,モチベーション・リ サーチは非常に役に立つ。それらの例は テキストにもでている。阻害因を取り除くの は,広告のキャッチフレーズが非常に効果 的なときがある。 45 パッカード 『かくれた説得者』 ダイヤモンド社 • • • • • • • • ①情緒の安定を売る ②価値の保証を与える ③自己満足を売る ④創造のはけ口を売る ⑤愛情の対象を売る ⑥力量感を売る。 ⑦根強いものを売る。 ⑧不滅を売る。 46
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