第145回 Moodleで相互評価をはじめよう • 相互評価学習の背景,先行研究 • Moodleで相互評価をする方法 – – – – フォーラムモジュール(掲示板)と実践例 ワークショップモジュール(相互評価) データベースモジュール 設定のポイントは,ロールとパーミッション • こんな研究しています(キャリア教育で相互評価) • 相互評価の注意点 • Moodleで相互評価を試してみませんか? ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 1 相互評価学習の背景 • 相互評価学習とは – クラスやコース内で学習者同士が互いに評価し合うこと. – ガニェの9教授事象:フィードバック(7)や学習の指針(5)を学習者同 士で見つけていくこと(稲垣・鈴木 2011) – 学生主体の学習方法の一つである相互評価学習は,他者の成果か ら学ぶと同時に,他者視点を参照することで自己の内省を促すことが できる(植野 2008) • 構成主義 – 人や環境との関わり・相互作用を通じて学習する – 学習プロセスの重視 • 新しい学力観(1989) – 相対評価から絶対評価へ,評価方法の工夫 • eラーニングの普及 – 学習場面に埋め込まれた評価,一体化した環境, 社会的存在感 ©2012 桑原千幸 2 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 先行研究① • ICTを使わない相互評価 – 責任感を持たせる→ピアレビュー証(関田 2004) – リフレクションシートにポストイット(溝上 2004) • 相互評価の実践 – プレゼンテーション,情報教育,作品製作,総合的な学習 • 相互評価学習の論点(藤原ほか 2007) – 学習コミュニティと評価コミュニティ – 相互評価支援システム – 評価の妥当性・公平性,評価者の選択,効果,教師の役割 ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 3 先行研究② • 多段階相互評価 :学習者の相互評価を多段階で行う – 形成的評価として相互評価を繰り返すことによって,知識 の定着,意見の明確化,成果物の質向上に効果あり – 学習者の提出した解答を中心とした擬似的フォーマルグ ループを形成(布施・岡部 2010) – 評価を繰り返すことで有益なコメント数が増加.特に,評価 能力の向上には補正表示が有効(藤原ほか 2008) ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 4 フォーラムモジュール • 掲示板モジュール,学生にも評価の権限を与えることで, 簡単な相互評価に使える • 主な設定項目 – 評価の総計タイプ • 評価平均,評価数 最大評価,評価合計 – 評価尺度は1種類のみ – 返信機能を利用して 評価コメントも入力可能 • フォーラムタイプ – 一般利用のための標準フォーラム or 各人が1件のディスカッションを投稿 ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 5 フォーラムモジュールの例 評価入力 評価閲覧 ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 6 フォーラムを使った実践例 • 情報倫理教育におけるプレゼンテーションの 相互評価(河野 2012) ① フォーラムに成果物を添付して投稿 ② 授業外でフォーラム上の自分の作品と他の学習者の成 果物3つを評価し,結果を紙の評価シートに記入 ③ フィードバック機能を利用したフォームにすべての評価 結果を入力 ④ 評価した他の学習者の成果物に対して,フォーラム上 で,全評価項目の合計点で評価 ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 7 ワークショップモジュール • 相互評価のためのモジュール,複雑だが多機能 • 評定方法 – 累積評価,コメント,エラー数,ルーブリック • 提出例を提示して評価の練習をさせることができる • 評価の割り当て – ランダム:評価者/提出あたりのレビュー数を0-10,15, 20,25,30から選択 – 手動割り当て:教員がユーザをコンボボックスから選択 ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 8 相互評価学習の流れ(フェーズ) 教師 • セットアップ • フェーズ • • 提出 フェーズ ワークショップのイントロダクションを設定する 提出のインストラクションを記述する 評価フォームを編集する 提出例・評価例を準備する • 評価のインストラクションを記述する • 提出を割り当てる • 提出開始日時、提出終了日時を指定可能 評価 フェーズ 成績評価 フェーズ • 提出に対する評点を計算する • 評価に対する評点を計算する • 次のフェーズで学習者全員が閲覧できるよう に,提出物を公開することができる 終了 ©2012 桑原千幸 学習者 • 提出例を評価する • 自分のワークを提出する • 自分に割り当てられた提出を 評価する • 自分の提出および評価の修正は できない • 自分の提出物、提出物への評価 および他の提出物を閲覧する eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 9 Moodle1.9→2.0xへの変更点 • フェーズの管理と把握が容易になった. (セットアップ,提出,評価,成績評価,終了) • フェーズの差し戻しによって,形成的評価を行うことができる. • 複数の評価結果が一画面で表示されるようになった. • 課題の提出後すぐに評価活動を行うことが可能になった. • 設定が一部複雑に(匿名・実名設定はパーミッションで・・・) ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 10 評価入力画面(Moodle 2.0x) 11 評価の確認画面(1) 12 評価の確認画面(2) 13 データベースモジュール • 教師や学生が,レコードエントリのバンクを構築、 表示および検索することができる – フィールドの種類 • URI,テキスト,テキストエリア,ファイル,画像・・・ • 学生がそれぞれエントリを追加し,相互に評価する. • 評価尺度は1種類のみ(フォーラムと同様) • 評価コメントも入力可能 ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 14 データベースモジュールの例 評価入力 評価閲覧 ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 15 データベースモジュールの設定 一定数のエントリを入力しないと, データベースの他のエントリを閲 覧できない ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 16 ロールとパーミッション • Moodle1.7xから導入された機能 • ユーザがどのように相互に動作するか管理できる • 事前に定義された7つのロール – 管理者,コース作成者,教師,編集権限のない教師, 学生,ゲスト,認証ユーザ (1.8以降) – コースにユーザを登録する時には,あるロールを割り当てる – 特定の活動におけるユーザの動作を個別に制御するために,新たな ロールを追加することも可能 • (例) 学生(ロール)は,ワークショップモジュール(コンテクス ト)において,評価者名を表示すること(ケイパビリティ)が,で きない(パーミッション) → 学生者間の匿名相互評価 ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 17 18 ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 研究:相互評価学習による進路選択自己効力の向上 • 対面授業における実践の概要 – キャリア教育科目における個人プレゼンテーションの相互評価 – 対象学生:短期大学1回生 4クラス92名 – 対象科目:2012年度前期キャリア教育科目(選択科目) – 評価対象:1人に対して本人以外の5人が匿名で評価 – 評価項目:8 項目について5段階のルーブリックを学習者に提示 – システム:Moodle 2.0xのワークショップモジュール • 調査項目 – 進路選択自己効力尺度(浦上 1995)30項目4件法 ①入学時(2012.4),②相互評価学習 実施前(第11回,2012.6) ③相互評価学習 実施後(第15回,2012.7) – 学習課題に対する認知に関する質問項目(ARCS モデルを参考に) ©2012 Chiyuki KUWAHARA 19 研究:授業の流れ 回 内容 オリエンテーション 1~ 10 11 12 相 互 評 価 学 習 13 14 15 詳細 尺度による調査① キャリア形成の概念,雇用形態,自己理解 ライフサイクル,社会人基礎力,職業観… キャリアプラン作成 尺度による調査② キャリアプラン作成のための講義とワーク キャリアプラン作成 PowerPointの使い方,キャリアプランを作成 キャリアプランの 相互評価① 評価規準の説明と評価の練習 ファイルを対象とした相互評価 評価の確認とキャリアプランの改善 キャリアプランの 相互評価② プレゼンテーションを対象とした相互評価 相互評価の 振り返り 他者からの評価確認 自己評価入力(動画を参照) アンケートの実施,尺度による調査③ 20 研究:対面授業における実践の結果 (N=63) CDMSE平均 77.19 81.05 90.91 標準偏差 11.05 11.28 11.50 • 1元配置の分散分析の結果,F(1.651,102.385)=74.259, p < .01で有意な変化が見られた. • Bonferroniの多重比較により, p < .01で入学時<事前<事後. • 相互評価学習の実施前後で,進路選択自己効力が有意に上昇した. 21 研究:相互評価学習の要素と効力感の関連 Bandura 効力感を 育む4つの源 相互評価学習の要素 先行研究 遂行行動の 達成 • キャリアプランの作成 • 協調学習による効力感向上 (舟生・加藤, 2010) • キャリアプランを • 繰り返し評価を行うことで評価能力が クラスの前で発表 変化(藤原ほか, 2008) • 評価能力の向上 代理体験 他人を評価すること 言語的説得 他人から評価される こと 情動的喚起 「楽しかった」 「嬉しかった」 • 多段階相互評価で,他者の意見を踏 まえて自分の意見を明確化 (布施・岡部, 2010) • ポストイット的相互評価による自身の 学びの振り返り(溝上, 2004) • 情動の喚起が気づき・意欲・行動の変 容に関連(内浦・毛受, 2008) ©2012 Chiyuki KUWAHARA 22 研究:相互評価学習方法・システムの提案 • 主な相互評価学習の先行研究では, 独自開発システムを利用 • 汎用性のある相互評価学習システムの必要 ⇒ Moodleのワークショップモジュールを改良 •(参考)現在の評価確認画面 •リフレクションの促進 •他者からの評価を一覧・比較しやすく •多段階相互評価への対応 •相互評価フェーズに柔軟性を持たせる •提出課題の改善履歴の可視化 •評価能力の向上を把握できるようにする 23 相互評価の注意点 • 相互評価の意義を十分に説明すること • 評価観点と基準の明確化 – 評価基準を公開して,相互評価で用いる – 評価基準を学習者自身に作らせる • 評価能力に差がある – 補正表示するような機能があれば... – 評価の公平性 – 相互評価の得点をコースの得点に影響させるか • 学習者コミュニティの作り方 – 学生は匿名を好む? – お互いさま効果(藤原ほか 2007) ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 24 Moodleで相互評価を試してみませんか? • どんなものか,まずは触ってみたい! → テストコースを開放します. http://lemon.kbu.ac.jp/moodle/ • 自由にコースを編集できる教師ユーザアカウントを 提供しますので,ご希望の方はご連絡ください. [email protected] ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 25 参考文献 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 稲垣忠・鈴木克明(2011)授業設計マニュアル―教師のためのインストラクショナルデザイン.北大路書 房 植野真臣・ソンムァン・ポクポン・岡本敏雄・永岡慶三(2008)ピアアセスメントにおける評価者特性を考 慮した項目反応理論.電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム J91-D(2) :377-388 藤原康宏・大西仁・加藤浩(2007)学習者間の相互評価に関する研究の動向と課題.メディア教育研究 4(1) :77-85 布施泉・岡部成玄(2010)多段階相互評価法による学習の実践と効果.日本教育工学会論文誌 33(3) : 287-298 藤原康宏・大西仁・加藤浩(2008)継続的な学習者間評価を導入した情報教育の実践.情報処理学会 論文誌 49(10) : 3428-3438 河野稔(2012) 動画としてのプレゼンテーション制作と相互評価による情報倫理教育,教育システム情 報学会第37回全国大会発表論文集:220-221 Moodleドキュメント「ワークショップモジュール」 http://docs.moodle.org/2x/ja/%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83% A7%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%A2%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83 %AB 桑原千幸・喜多敏博・合田美子・鈴木克明(2012)キャリア教育における多段階相互評価の実践と進路 選択自己効力の向上.日本教育工学会第28回全国大会発表論文集: 423-424 藤原康宏・大西仁・加藤浩(2007)公平な相互評価のための評価支援システムの開発と評価 : 学習成 果物を相互評価する場合に評価者の選択で生じる「お互い様効果」.日本教育工学会論文誌 31(2): 125-134 ©2012 桑原千幸 eラーニング推進機構eラーニング授業設計支援室 ランチョンセミナー 26
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