第5章 疲労強度 材料の疲労破壊事例 インデューサ羽根 の疲労破面 1999年11月 H-2ロケット8号機打ち上げ失敗事件 5.1 疲労破壊 疲労破壊とは 一定荷重を規則的に繰り返すか、 あるいは荷重が不規則に変動する際に生じる破壊機構のこと。 ◎ 破壊の仕方 長期間にわたって動的荷重を加えると 何の前触れも無く、突然起こる。 ◎ 繰り返し荷重によって生じる応力 降伏応力や耐力より かなり低くても疲労破壊は起こる。 ◎ 破壊事故原因 約80~90%が疲労による。 腐食・破裂等 3% 静的破壊 13% 遅れ破壊、 応力腐食割れ 5% 11% 熱疲労 腐食疲労 転動疲労 8% 低サイクル疲労 単純疲労 60% 疲労現象と疲労破面 疲労破壊の特徴 (1)起点 … 部材の表面付近 応力集中源 (切欠、鋭角、キー溝、非金属介在物) (2)き裂の伝ぱ … 疲労き裂発生後、最大応力面に沿う 一対の破面はかなり滑らかで、 巨視的には塑性変形はほとんど生じていない。 巨視的破面の特徴 … ビーチマーク (繰返し応力レベルの変動、環境の変動) 微視的破面の特徴 … ストライエーション (縞状模様) その他、破面の特徴 … き裂の成長により断面が減少 荷重の負担ができず、延性的に破壊 破面上には、比較的粗い部分が残る。 疲労破壊とその因子 引張り(+) 基本的因子 応力 時間 圧縮(-) ◎ その他の原因 ・ 応力集中 ・ 腐食や高温などの環境 ・ 組み合わせ応力 ・ 過大応力 (1) 最大引張り応力 (2) 変動応力 (3) 応力の繰り返し数 十分に大きい ・ 残留応力 ・ 冶金学的組織 σmin 0 σmax σm 時間 引張り(+) 時間 圧縮(-) σa 応力 応力 5.2 疲労試験と試験機 (a)一般的波形 σm= 0 R = ‐1 σm= σa R=0 (b)両振り (c)片振り 繰り返し応力波形 σm : 平均応力 σa : 応力振幅 R : 応力比 σmax σmin 2 σ σmin σa max 2 σ R min σmax σm 5.2 回転曲げ疲労試験の例 回転曲げ疲労試験機 片持ち回転曲げ疲労試験機 図 回転曲げ疲労試験機の原理 図 片持ち回転曲げ疲労試験機と試験片形状 5.3 低サイクル疲労 5.3.1 繰返し応力とひずみ応答 極低サイクル疲労 (Extremely Low Cycle Fatigue) 低サイクル疲労 (Low Cycle Fatigue) ヒステリシスループ(後述) 応力振幅 σa σa ; 高応力の値 (塑性変形の繰り返し) 疲労寿命が短い 高温環境下で用いられる 原動機などの設計 101 102 5 106 103 104 10 破断までの繰返し数 Nf 低サイクルと高サイクル 107 熱ひずみの繰り返し ・ 原子炉圧力容器 ・ 蒸気タービン ヒステリシスループ ・・高応力で塑性ひずみを伴う一定の負荷が繰り返される時 の応力‐ひずみの関係 引張りひずみを加える 塑性域での負荷過程 B E 降伏応力 Δσ 0 除荷過程 σa A 圧縮 Δεp C 降伏 D Δεr 図 ヒステリシスループ 圧縮 最初の降伏応力より低い (バウシンガー効果) ΔεT=一定で、繰返し変形を与えた時のヒステリシスの変化 σaが徐々に増加 ・・ひずみ硬化現象 例 焼きなまし材料 (a) 繰返し硬化 σaが徐々に減少 ・・ひずみ軟化現象 例 加工硬化、析出硬化 (b) 繰返し軟化 図 低ひずみ繰返しにおける応力幅変動 ヒステリシスループ 繰返し数とともに変化抵抗である応力幅が変化 応力 静的応力ーひずみ曲線 ・ 焼きなましした材料 Δσ増加 ・ 冷間加工した材料 Δσ減少 寿命の50%で ヒステリシスループの形状は落ち着く ひずみ Δσ 繰返し応力-ひずみ曲線 Δσ Δε K ' 2 2 n' Δσ ; 応力幅 K’ ; 繰返し強度係数 Δε n’ ; 繰返し硬化指数 (一般に n’≒ 0.05~0.3) 繰り返し応力-ひずみ曲線 5.3.2 ひずみ幅と疲労寿命 低サイクル疲労における塑性ひずみ幅 Δεpと疲労寿命 Nfの関係 Δεp N f C b 5.0 ひずみ幅 Δεp マンソンーコフィン則 Δεp(Nf )0.45=0.20 b,C ; 材料によって決まる定数 (多くの材料 A ◎ε ln A 1.0 0 f f 0.1 10 100 1000 10000 破断繰り返し数 Nf 図 低サイクル疲労における塑性ひずみ幅 と破面までの繰返し数の関係(TP35) b≒0.5) A0 ; 試験前の断面積 A ; 破断後の最小断面積 φ ; 絞り εf ; 破断延性 ◎ Nf =1/4回において、Δεp=2εf C=εf またΔεp=εfのときC=εf /2 SーN曲線(高サイクル疲労と低サイクル疲労) 応力振幅 σa 極低サイクル疲労 (Extremely Low Cycle Fatigue) 低サイクル疲労 (Low Cycle Fatigue) ヒステリシスループ 高サイクル疲労 σa ; 高応力の値 (High Cycle Fatigue) (塑性変形の繰り返し) 101 102 5 106 103 104 10 破断までの繰返し数 Nf 107 弾性域内 σa ; 弾性応力とみなせる値 5.4 高サイクル疲労 5.4.1 SーN曲線と疲労寿命 疲労試験結果を評価する上で最も基本的な線図。 繰返し応力(主に応力振幅 σa)と破壊するまでの繰返し数 Nf の関係を示す。 応力集中がある場合は、 応力集中を考慮しない公称応力を適用。 疲労寿命という。 通常、常用対数 log Nf をとる。 図 高サイクル疲労におけるS-N曲線 5.4.2 疲労過程(微視組織的様相Ⅰ) 拡大 繰返し応力 試験片表面 き裂発生、初期伝ぱ過程 (き裂進展の第一段階) 固執すべり帯 試験片表面 入り込み (Ⅰ) き裂進展の第一段階 突き出し ・ アルミ合金 … き裂発生と成長が連続的 ・ 鋼、チタン … 結晶粒程度の範囲を単位としたき裂 疲労過程(微視組織的様相Ⅱ) 結晶学的き裂伝ぱ過程 (き裂進展の第二(Ⅱa)段階) き裂伝ぱ方向 試験片表面 繰返し応力 微小き裂 ⇒ 結晶粒内を伝ぱ (すべり面に沿う) き裂による応力集中のため、 き裂先端に集中的にダメージ 連続 試験片表面 き裂伝ぱ速度 (Ⅰ) き裂伝ぱ速度 da dN (a ; き裂長さ、N ; 応力繰返し数) (Ⅱa) き裂進展の第二段階 き裂先端の位置 結晶粒内にある ⇒ 速い 粒界を越える ⇒ 遅い 疲労過程(微視組織的様相Ⅲ) 巨視力学的き裂伝ぱ過程 (き裂進展の第二(Ⅱb)段階) 繰返し応力 き裂伝ぱ方向 試験片表面 結晶学的微視組織の影響 (移行) 力学的因子の支配 (応力拡大係数など) 試験片表面 ストライエーション(縞状模様) da 10分の数μ m / cycle dN 図.純チタン (Ⅰ) (Ⅱa) (Ⅱb) き裂進展の第二段階 ストライエーションの間隔 ⇒ き裂伝ぱ速度の変化に依存 疲労過程(微視組織的様相Ⅳ) 急速き裂伝ぱおよび最終破壊 (き裂進展の第二(Ⅱc)段階) 繰返し応力 き裂伝ぱ方向 急速にき裂伝ぱ (高強度・低延性材料 ⇒へき開、粒界割れを含む) 最終破壊 試験片表面 ストライエーション (Ⅰ) 延性破壊 (ディンプル) (Ⅱa) (Ⅱb) 図 疲労過程の模式図 (Ⅱc) き裂進展の第二段階 5.4.3 疲労き裂成長への破壊力学の適用 き裂伝ぱ速度 log(da/dN) (Ⅰ) (Ⅱ) (Ⅲ) 安定成長 最終破断 パリス(Paris)則 da m C ΔK dN き裂伝ぱの 下限界 m 1 …(式 5.6) C, m ; 実験から得られる材料定数 多くの金属材料で、m = 2~7 ・ き裂伝ぱ抵抗の比較 ・ 疲労き裂伝ぱ寿命の推定 応力拡大係数幅 log(ΔK) ΔKth ; 下限界応力拡大係数範囲 き裂伝ぱの下限界 ΔKを漸減 ⇒ da/dN → 0 破断直前のΔK ΔK K fc 1 R (R ; 応力比 , Kfc ; 疲労破壊靭性) (静的破壊靭性Kcより小さい) 5.5 疲労強度に及ぼす種々の影響 5.5.1 切欠効果Ⅰ(切欠) 切欠(Notch) 幾何学的な断面急変部 孔、ネジ、キー溝、段抜き部 き裂の起点 ・ 切欠の底における応力集中 ・ 破壊き裂の伝ぱ・拡大 圧入部、傷、欠陥 など ◎ 切欠部材の応力集中の度合い 破壊 凹凸 ⇒ 有限要素法 など ◎ 切欠部材の疲労限度 ⇒ 個々の部材の切欠へ 適用できる疲労強度データがほとんどない 疲労強度低下 切欠効果Ⅱ(切欠材の疲労限度) 切欠材の疲労限度の表現 ⇒ 最小断面部の公称応力を使用 σw1/σw0, σw2/σw0 1.0 ・ 引張の時 0.8 破断 ・ 曲げの時 0.6 曲げモーメント 最小断面に対する断面係数 停留き裂 分岐点 0.4 疲労限度 σw2 荷重 最小断面積 0.2 切欠材の疲労限度 (2つある) σw1 ① 疲れ強さ σw1 平滑材(切欠なし)と同様、 巨視的き裂が発生しない限界応力 非破断、き裂無し 0 1 2 応力集中係数 3 Kt 図 無次元化した疲労強さ、き裂強さと応力集中係数 の関係 4 ② き裂強さ σw2 停留き裂が発生する時の、 破断限界の応力 (き裂が発生しても試験片が破断しない) 1 切欠効果Ⅲ(切欠係数 Kf) 分岐点について 材料に固有な切欠半径 ρ0に依存 疲労限度 σw1/σw0, σw2/σw0 1.0 ① 疲れ強さ σw1 0.8 破断 ρ>ρ0 ; 停留き裂は発生しない σw2 0.6 ② き裂強さ σw2 停留き裂 分岐点 0.4 0.2 ρ<ρ0 ; 停留き裂が発生する σw1 切欠係数 Kf 非破断、き裂無し 0 1 2 応力集中係数 3 Kt 図 無次元化した疲労強さ、き裂強さと応力 集中係数 の関係 4 切欠によって 疲労限度がどれくらい低下したかを表現 平滑材の疲労限度 σw0 σ σ K f 1 w0 , K f 2 w0 σw 2 σw1 5.5.2 寸法効果 ρ1 ρ2 寸法効果 (通常) 材料は同じであるとすると 寸法 回転曲げ 回転曲げ 大 ⇒ 強度 低下 主として2つの要因あり ① 応力勾配 ② 危険にさらされる表面積(統計学的因子) 試験片を相似的に小さくする 危険断面が広い ⇒ 1/ρ 大きくなる Kt Kt , ⇒ K f1 Kf2 ⇒ 微視的欠陥が存在する確率 大 ⇒ 疲労強度の低下 増大する ⇒ Kt は同じだから、Kf1、Kf2 は小さくなる ⇒ K f1 σw0 σ , K f 2 w0 σw1 σw2 より、 σw1、σw2は、大きくなる 5.5.3 平均応力の影響Ⅰ(疲労限度線図①) 疲労限度線図 最大 ・ 最小変動応力がこの範囲を越えると 過度の塑性変形を生じる 応力振幅 (三角形 ABC、 σS ; 降伏応力 両振り 引張り・圧縮 B σS 平均応力が作用する場合の 疲労限度 45° D E 片振り 引張り・圧縮 B ; 真破断応力 σT 45° σa σw0 G A -σS A ; 平滑材の疲労限度 σw0 C 0 σm σS σT 平均応力 図 疲労限度線図 領域 ADEC ; 安全に使用可能領域 平均応力・残留応力の影響Ⅱ(疲労限度線図②) 平均応力の影響 疲労限度σa 疲労限度 ゲルバー線 修正グッドマン線図 σw0 ゾーダーベルク線 平均応力 ; σm σS 0 σB n σm σa σw0 1 σ B σB ; 引張り強さ σm ; 平均応力 σw0 ; 平滑材の疲労限度 n = 1 … 直線 n = 2 … 放物線 n = 1 … σSに置き換えた 図 広く使用される疲労限度線図 残留応力の影響 ・ 圧縮残留応力 ⇔ 圧縮の平均応力が作用する ・ 引張り残留応力 ⇔ 引張りの平均応力が作用する に対応する 5.6 疲労強度設計(線形累積損傷則Ⅰ) 変動応力下における疲労寿命の推定① 応力 応力繰返しの途中で応力振幅を変化させる σ1 応力 σ1 における疲労寿命 Nf = N1 σ2 時間 応力 σ2 における疲労寿命 Nf = N2 線形累積損傷則(マイナー則) 応力 (a) σ2 σ1をn1(n1<N1)回繰返した後、 σ2 をn2回繰返すとした時 σ1 時間 D n1 n2 1 N1 N 2 … (式 5.10) (D;累積破壊損傷値) (b) 図 2段2重重複応力 疲労損傷 線形累積損傷則Ⅱ 応力 変動応力下における疲労寿命の推定② 線形累積損傷則(マイナー則) σ1 σ2 時間 σ1をn1(n1<N1)回繰返した後、 σ2 をn2回繰返すとした時 D 応力 (a) σ2 n1 n2 1 N1 N 2 … (式 5.10) (1 に達すると破壊する) σ1 しかし実際は… 時間 (a)繰返し応力 高い ⇒ 低い (b) 図 2段2重重複応力 D<1 (b)繰返し応力 低い ⇒ 高い D>1 (条件によっては、D=0.1~20 ⇒ 修正が必要) 線形累積損傷則Ⅲ マイナー則 Σ(ni/Ni)=1 σ2 修正マイナー則 σ3 N3=∞ σW 応力振幅 σa σ1 n1 N1 n2 N2 繰り返し数 n3 N3* N 図 線形累積損傷則、修正マイナー則 まとめ ※ 第五章のキーワード 疲労破壊、S-N曲線、ヒステリシスループ、パリス則、切欠き 切欠き係数(Kf)、寸法効果、線形累積損傷則(マイナー則)
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