「ユビキタスとウェアラブル」 - 技術と現場の間で - 花田 英輔 島根大学医学部附属病院医療情報部 用語の定義(考え方) • 医療におけるユビキタス –患者情報の入力、参照、共有が「いつで もどこでも」可能な状態 –医師は患者に対する医療行為等の指示 を「いつでもどこでも」できる状態 –具体的には(主に無線)通信の活用によ り端末が使いたい場所で使える状態に なっていること • ウェアラブルな状態 –情報入出力機器を身体に装着し、かつ 両手(両足)を自由に使える状態 ベッドサイドにおける 医療情報の閲覧と入力 • 医療における「ユビキタス」環境の需要 –電子カルテ化・ペーパーレス化 • 情報漏えいの防止 –看護システムの導入 • 実施入力 –コメディカル業務の推進 • 服薬指導(薬剤師) • 栄養指導(栄養士) –患者確認・指示内容確認 • バーコードの導入等 ウェアラブルを誰が使うのか? • 下記2つの条件を同時に満たす職 種に向く –体を動かす必要がある職種 –情報参照・入力を伴う職種 • 例) 外科医、看護師、薬剤師、生理 検査技師、作業療法士等 ユビキタスとウェアラブル • ユビキタスは単独で存在可能 • ウェアラブルはユビキタスなしでは機能 を発揮できない • デバイス等の問題: –ユビキタスは無線通信を活用可能な ものはすべてデバイスとなる (ノートPCもそのひとつ) –ウェアラブルでは軽量小型のデバイス でなければ装着者に負担がかかる ユビキタス環境の構築 • 無線LANシステムの進化 → 医療 情報システムのネットワークとして用 いることにより既に構築可能 –例:島根大学医学部附属病院に おける無線LAN 島根大学医学部附属病院 における 院内データ通信環境 島根大学医学部附属病院の ユビキタス環境 • IEEE802.11a規格の無線LAN(5.2GHz帯) – 1フロアにつき13台のアクセスポイント • 1病棟(45床程度)にノートパソコン8台配置 – 日勤の看護師数は1病棟あたり8~9名 • 看護師長は歩き回らないという前提 • ナースステーションは無人にしてはいけない という前提 – 全台にバーコードリーダ添付 島根大学医学部附属病院の ユビキタス環境 IEEE802.11a のカードアンテナ • 専用ワゴンを購入(一部 は電源付ワゴン) • むしろ電波状態が良い箇 所でローミングに不自由 島根大学医学部附属病院の ユビキタス環境 本院での不正利用・情報漏えい対策 • IEEE802.11a規格 • 通信暗号化 – 普及率が比較的低 い – WEPを使用せず – ゾーン別SS-ID設定 • MACアドレスフィル • 端末は看護部管理 タリングによるフロ – 持出し対策(看護師 ア別接続制限 の管理は厳しい) – 同一フロアのみ接 続可能(異なる階で は使えない) 島根大学医学部附属病院の ユビキタス環境 • 利用形態 –患者確認 • バーコード入りリストバンドを利用 –輸血時のロット確認と実施入力 –点滴の確認と実施入力 –看護師による患者情報登録 • ベッドサイド・デイルームでの聞き取 りと現場入力 –医師による情報参照 –服薬指導等 • 薬剤部がノートPCを別途購入 ユビキタス環境の問題点 • 電波到達範囲の問題 – 壁、扉、床の構造により到達範囲は変わる – アクセスポイントは多いに越したことはない • ローミング – 長い直線廊下ではローミングしにくい – 無ローミング(同一チャンネル使用)技術もあり • セキュリティの確保 – 不正アクセス・盗聴防止 • 端末の種別 – ノートパソコンだけでは必ずしも喜ばれない – PDAは高い ウェアラブルの現状 • 要素技術は試行可能 –情報提示機器(超小型スクリーン) –音声入力機器(音声認識技術) –瞬き等による入力機器(障害者向け入力 機器) –大容量小型電池 • 現場での応用実現例はない –E-ナイチンゲールプロジェクトでのテスト 例のみ? なぜウェアラブルが使えないのか? • 技術的には使える域に達している • ではなぜ使われないのか? → 現場がウェアラブル機器の使用を受 け入れにくいから • 主な要因 – 医療者の装着位置 – 機器の見た目と装着方法 – 音声入力の認識精度 – 音声入力そのものの問題点 – 患者が抱く印象 なぜウェアラブルが使えないのか? 主な要因(1) • 医療者の装着位置 – 指先や手首は清潔を保つ必要あり – 患者の移動介助までを考えると機器装着は 難しい • 機器の見た目と装着方法 – 小型化しても目の前に小型スクリーンがあっ たり、顔のそばにマイクロホンがある(はず) – 一般に眼鏡をかけた看護師は少数 → 違和感残る – 電池をどこに持つかも問題 • 特に看護師は重いものを持ちたがらない なぜウェアラブルが使えないのか? 主な要因(2) • 音声入力の認識精度 – 認識率99.7%でも現場は満足しない – 略語を正式記述に変換して記載して欲しいな ど、音声認識後の技術が必要 – (ウェアラブル機器を必要と考える)看護分野 での用語統一が進んでいない • 音声入力そのものの問題点 – 深夜帯は声を発することそのものが嫌われる – 代替手段は多くはない → 音声入力無しではウェアラブルは情報 提示機能のみにとどまる恐れ なぜウェアラブルが使えないのか? 主な要因(3) • 患者が抱く印象 –「機械化された看護師(医師、薬剤師)」 という印象をもたれ嫌われる恐れ • 特に高齢患者から –機器への音声入力は「独り言」と捉えら れかねない • 大声での入力は個人情報流出(漏え い)の恐れ • 騒音環境下での音声入力の頑健性? ウェアラブルを使用できる箇所は あるのか? 例1) 手術中の術者(執刀医) • 利点 – 術者は手が使えない(原則的にはマウス・ キーボードには触れられない) • 欠点・疑問点 – 長時間短距離焦点でスクリーンを見続ける のは疲労を増す原因となる – 手術はチームで行うので、画面などの情報 共有はどうするのか? ウェアラブルを使用できる箇所は あるのか? 例2) SPD部門、滅菌部門、薬剤部(調剤) • 利点 – 声を出して物品確認をしながら手を使える – 清潔物に触れるのでキーボードを触りたくな い • 欠点・疑問点 – 交代勤務なので話者不特定音声認識が必要 – 長時間短距離焦点でスクリーンを見続けるの は疲労を増す原因となる 結 論(?) • ユビキタス環境は構築可能 –設置コストの面や情報共有の迅速化の 面などからもユビキタスは有用 –電磁環境的な面での安全性もほぼ確立 –セキュリティ面など十分な配慮も必要 • ウェアラブルにとって医療現場(特に患者と 接する区域)は理想的環境ではない –ウェアラブルは、まず機能を限定し、かつ 環境整備の後に取り入れを図るべき?
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