たつ りゅう 辰(竜)にまつわる民話 お姫様とドラゴン(スペイン) むかしむかし、ある国に、とても立派な一 人の王さまがいました。 その王さまには、三人のお姫さまがいます。 上の二人のお姫さまは、おしゃれ好きでわ がままでしたが、一番下のお姫さまはお父さ ん思いのやさしい娘です。 1 お姫様とドラゴン(スペイン) ある日の事、王さまは遠い国へ旅をする事 になりました。王さまは、お姫さまたちに尋 ねました。 「おみやげには、何を買ってきて欲しいんだ ね?」 一番上のお姫さまは、 「あたしには、金の着物を買ってきてちょうだ い」 二番目のお姫さまは、 「あたしには、銀のがいとうを買ってきてね」 2 お姫様とドラゴン(スペイン) そして、一番下のお姫さまは、 「あたしには、バラのお花を買ってきてくださ いな」 そこで王さまは遠くの国で用事をすませる と、お姫さまたちへのおみやげを買う事にし ました。金の着物と銀のがいとうは、すぐに 買う事が出来ました。ところがバラの花だけ は、売っている店がどこにもないのです。 「困ったな。バラの花がないと、あのやさしい 姫がガッカリするだろうなあ」 3 お姫様とドラゴン(スペイン) でも、ないものは仕方がありません。王さ まはあきらめて、帰る事にしました。 帰る途中、森の中を通っていると広い広い 庭がありました。 その庭にはバラのしげみがあって、美しい バラの花がたくさん咲いていたのです。 「ああ、よかった。姫へのおみやげが見つ かったぞ」 王さまは大喜びで、バラの花を取るために 馬からおりました。そして王さまが 4 お姫様とドラゴン(スペイン) 一番美しいバラの花を見つけて取ったとた ん、目の前に恐ろしいドラゴンが現れたので す。 「おい! 誰に許してもらって、そのバラの花 を折ったのだ!」 ドラゴンは、おそろしい顔で王さまをにらみ つけます。 「わっ、わたしは、旅から帰るところですが、 三人の娘におみやげを買ってやると約束を してきました。上の二人の娘にやる金の着 物と銀のがいとうは町で買う 5 お姫様とドラゴン(スペイン) 事が出来ましたが、一番下の娘に約束した バラの花だけは、手に入れる事が出来ませ んでした。それでつい、この美しいバラの花 を、いただこうとしたのです」 王さまが説明すると、ドラゴンは言いました 「金の着物や銀のがいとうではなく、バラの 花が欲しいとは、一番下の娘は心のやさし い娘だな。・・・よろしい。バラの花を折った事 は許してやるし、そのバラの花もあげよう。 そのかわり、一番下 6 お姫様とドラゴン(スペイン) の娘をここに連れて来るのだ」 「娘を?しかし、それは」 「いいな!もし約束をやぶったら、お前の命 はないぞ」 さて、王さまがお城に帰ると、上の二人の お姫さまが、さっそくおみやげをねだりました。 「お父さま、あたしの金の着物は、忘れな かった?」 「あたしの銀のがいとう、ちゃんと買ってきて くださった?」 7 お姫様とドラゴン(スペイン) 王さまは二人に、おみやげを渡しました。 「うわ、すごい。この金の着物は、あたしの着 物の中で一番きれいよ」 「この銀のがいとうは、あたしにとってもよく 似合うわ」 一番下のお姫さまは王さまの様子がなん となく悲しそうなので、何も言わず黙っていま した。 すると、王さまが言いました。 8 お姫様とドラゴン(スペイン) 「姫、これは、お前に頼まれたバラの花だよ」 「まあ、すてき。こんなきれいなバラのお花、 見た事がありませんわ」 お姫さまは、心から喜びました。それを見 て王さまもニッコリしましたが、すぐにまた悲 しそうな顔をすると自分の部屋に入ってしま いました。それに気づいた一番下のお姫さま は、王さまの部屋に行って尋ねました。 「お父さま。どうして、そんなに悲しそ 9 お姫様とドラゴン(スペイン) うにしていらっしゃるのですか?」 「いいや、何でもないよ」 「いいえ、きっと心配な事が、おありにちがい ありません。どうか話してください」 そこで王さまは、わけを話しました。 「実は、バラの花がどうしても買えなかった のだよ。 帰りがけに広い庭に咲いていたきれいな バラの花を見つけて折ったのだが、そうした ら急にドラゴンが現れて、お前を 10 お姫様とドラゴン(スペイン) 連れて来いと言うのだよ」 「ドラゴンが・・・」 「そうだ、わたしはどうすればいいのだ」 悲しむ王さまに、お姫さまは言いました。 「ご心配なく、お父さま。あたし、ドラゴンのと ころへ参ります」 「しかし、お前にもしもの事があったら」 「いいえ。あたしに何かがあってもこの国は 大丈夫ですが、国王でいらっしゃる 11 お姫様とドラゴン(スペイン) お父さまに何かがあっては、この国は大変 な事になりますから」 次の朝、王さまとお姫さまは馬に乗って、ド ラゴンのいる庭に出かけました。 けれどもそこには、誰の姿もありません。 そこで王さまとお姫さまは庭を通って、立派 なご殿の中に入っていきました。中に入って も誰もいませんでしたが、食堂のテーブルの 上には二人の為に用意したと思われる、と てもすばらしいごちそうが並んでいました。 12 お姫様とドラゴン(スペイン) 二人はお腹がペコペコだったので、喜んで ごちそうになりました。それから庭に出てし ばらく散歩をしましたが、やはり誰もいませ ん。 そして夕方になって二人がご殿に戻ると、 食堂のテーブルにはまたすばらしいごちそう が並んでいました。二人が夕食をすませて 寝室に行くと、ちゃんとべッドの用意も出来 ていました。 あくる朝、目を覚ました二人が食堂へ行く と、おいしそうな朝食が用意されていました。 13 お姫様とドラゴン(スペイン) 朝食を食べ終えると、王さまは目に涙を浮 かべて言いました。 「姫よ。わたしはもう帰らねばならない。かわ いそうだが、お前はここに残っておくれ」 「はい、お父さま。心配なさらないでね」 お姫さまは笑顔で王さまを見送りましたが、 でも王さまが行ってしまうと、お姫さまは、 わっと泣き出しました。 これから先、自分がどうなるのかと 14 お姫様とドラゴン(スペイン) 思うと、怖くてたまらなかったのです。 しばらくしてお姫さまは、また庭へ散歩に 行きました。すると突然、あの恐ろしいドラゴ ンが目の前に現れたのです。お姫さまは まっ青になって、逃げだそうとしました。でも ドラゴンが、とてもやさしい声で言ったのです。 「怖がらないでください。ぼくはあなたに、お 嫁さんになってもらいたいと思っているので す。ぼくのお嫁さんになると、約束してくださ い」 15 お姫様とドラゴン(スペイン) 「いいえ、そんな事は出来ないわ」 お姫さまは、こんな恐ろしいドラゴンのお嫁 さんになる気はありません。けれどもドラゴ ンと一緒にお昼を食べたり、夕ご飯を食べた りしているうちに、だんだんとドラゴンの事が 好きになってきました。 それにドラゴンが、何度も何度も、 「お嫁さんになってください。幸せにしますか ら」と、頼むので、心のやさしいお姫さまはつ い、 16 お姫様とドラゴン(スペイン) 「はい。お嫁さんになります」 と、言ってしまったのです。 あくる朝、お姫さまが食堂に行くと、そこに はすでに一人の美しい王子さまがいました。 王子さまはニッコリ微笑むと、お姫さまに言 いました。 「おはよう。ぼくのお嫁さん」 お姫さまは、ビックリして尋ねました。 「あの、あなたはどなたですか?」 「ぼくの声を、忘れたのかい? ぼくは、 17 お姫様とドラゴン(スペイン) ドラゴンです。ぼくは昨日まで、魔法をかけら れてドラゴンになっていました。誰かがぼく のお嫁さんになると約束してくれれば、魔法 がとける様になっていたのです。心やさしい あなたのおかげで、この通りぼくは元の人間 に戻れました。ありがとう。本当に、ありがと う」 美しい王子は、お姫さまに心からお礼を言 いました。間もなく二人は立派な結婚式をあ げて、幸せに暮らしたということです。 おしまい 福娘童話集許可転載<http://hukumusume.com/douwa/> お姫様とドラゴン(スペイン) 18
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