事業信託とは

テーマ:信託
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
第6章
旧信託法
新信託法の概要
自己信託
事業信託
受益証券発行信託
まとめ
第1章 旧信託法
平成19年度税制改正以前の概要

信託税制は、大正11年に日本において信
託が法制度化されて以来、細かい制度改正
はあったものの、基本的な骨格自体はほと
んど変わっていない。それらは大きく分けて
①本文信託(受益者発生時信託)と②但書
信託(受益者分配時信託)の2つに分かれる。
平成19年度税制改正以前の概要
①本文信託とは、簡単に言ってしまえばパス・
スルー課税であり、信託財産に発生した損益
が発生した時点で受益者に対して課税がなさ
れることになる。なお例外として、受益者が特
定できない、または存在しない場合には、委
託者に課税することとなっている。
平成19年度税制改正以前の概要

それに対して、②の但書信託は、信託財産に損益が
発生した時点でなく、その損益が受益者に分配され
た時点で受益者に対して課税される仕組みを指し、
課税の繰り延べが可能な変形のパス・スルー課税だ
ということができる。

上記の①と②に加え、平成12年度税制改正により、
SPCや投資法人との税負担の整合性を図るという観
点から、③特定信託が新たに創設された。
平成19年度税制改正以前の概要

③においては、特定信託の受託者である内
国法人に対して法人税が課されることとなっ
ており、①や②のような受益者課税とは一線
を画した規定といえる(ただし、信託収益の
90パーセント超を投資家に分配した場合に
は、その分だけ損金算入できるペイ・スルー
課税であるので、受託者段階で二重課税の
調整を行なっている)。
平成19年度税制改正以前の概要

つまり、平成19年度税制改正前までは、①
~③までの課税ルールを兼ね備えた三重構
造として、信託税制は機能していたと考えら
れる。
「信託の意義」
委託者が、受託者に対して、財産の
譲渡を行い、譲渡等の処分を媒介にし
てさらに財産の管理、運用、処分を行
い、信託利益を受益者に還元すること。
○参考図○
委託者
信託契約
財産の移転
受託者
監視・監督権
信託利益の
給付
受益者
① 受益者発生時信託
ⅰ)実質的所得課税の原則(法11条)に基づく信託
制度
ⅱ)信託財産に着せられる収入および支出の帰属
者を受益者にあることの法律的関係からの確認
②受益者分配時課税
対象)「合同運用信託」、「公社債投
資信託」、「適格退職信託等」
の信託。
特徴)受益者に分配された時点にの
み受益者の所得として課税さ
れることを規定するものである。
③ 特定信託
規定)
投資信託及び投資法人に関する法律。
第2条3項に属する投資信託。
特徴)
特定目的信託については、受託者である法人に対し
特定信託の各計算期間の所得に対して法人税を課す
るものとされている。
第2章 新信託法の概要
平成18年度信託法改正 及び
平成19年度税制改正の概要
平成18年12月の信託法の改正は、大正11
年制定以来の抜本的な改正であり、様々な
スキームの信託が新たに設けられた。また、
平成19年度税制改正では、それに呼応する
形で、法人課税信託という受託者段階課税
の範囲を広げる制度が規定された。以下で
は、その2つの改正について簡単に説明す
る。
(1)新たに登場した信託
①自己信託
信託宣言を行なうことにより、委託者自らが受託者
となる信託をいう(詳しくは第3章参照)。
②事業信託
法人自らが委託者としてなる信託をいう(詳しくは第
4章参照)。
③目的信託
受益者の定めのない信託、すなわち委託者と受託
者しか存在しない信託をいう。
(1)新たに登場した信託
④受益証券発行信託
信託受益権を有価証券化し、投資家から資金を調達
することができる信託をいう(詳しくは第5章参照)。
⑤限定責任信託
受託者が信託に関して負担する債務について、受
託者が信託財産に属する財産のみをもってその履
行の責任を負う信託をいう。
⑥受益者連続信託
生前から自分の財産を継ぐ人を決めておき、法定相
続人に関係なく、子供や孫などに資産を引き継ぐこ
とが可能な信託をいう。
(1)新たに登場した信託
⑦遺言代用信託
委託者の死後、特定の財産を特定のものに承継さ
せること、すなわち遺言と同じ機能を果たす信託。
⑥と⑦は一定の場合に受益権が順次移転するス
キームとなっており、受益者指定権を有していると
いえる。
なお、それぞれのスキームを組み合わせることで、
利用者のニーズに適合した多様なバリエーションを
達成できる。
(2)法人課税信託について

従来の信託税制の三重構造自体には大き
な変化はない(特定信託が廃止され、法人
課税信託が創設された程度のもの)が、受託
者段階で法人税を課す信託の範囲が広く
なっている。
(2)法人課税信託について

追加された信託
①特定受益証券発行信託以外の受益証券発行信託
(特定受益証券発行信託は受益者段階課税(受領時))
②受益者が存在しない信託(目的信託)
③法人が委託者となる信託(事業信託)の内、一定の
要件に該当するもの。
④投資信託(分配時課税される投資信託以外)
⑤特定目的信託
など、以前から存在していた信託も併せたものが法人課税信託の範囲で
ある。このように、租税回避の懸念により、法人格というメルクマールを持
たない信託に対して法人課税の適用範囲が拡大されたのは特筆すべき
ことといえる。
第3章 自己信託
1.自己信託とは
新信託法によって信託宣言(自己信託)が認められることになりま
した。自己信託とは、委託者が自ら受託者となる信託であり、委託
者が自己の財産を他人のために管理処分する旨の宣言(信託宣言=
Declaration of Trust)をすることによって信託を設定することをい
います。
この結果、信託の設定時から委託者と受託者とが同一となることに
なります。つまり、自己が所有する一定の財産を、「これから信託
財産として、その他の固有財産とは別に扱います」と宣言すること
によって信託を設定することになるわけで、自己の財産を第三者に
信託するのではなく自分に信託することになり、「委託者=受託
者」と少し我が国ではなじまないスキームが誕生することになりま
した。
○参考図○
委託者兼受託者
財産
信託宣言
受益権
信託財産
資金
委託者=受託者
受益者
2.具体的なニーズ
1.貸出債権等の流動化の促進
2.事業部門の自己信託
3.中小ベンチャー企業の資金調達手段の多様化
4.親による特定財産の自己信託
貸出債権等の流動化の促進
委託者=受託者
受益権
投資家
自己信託
売掛債権等
信託財産
資金
債権者の変更
親による特定財産の自己信託
子供
親(委託者=受託者)
自己信託
特定財産
信託財産
倒産隔離
3.税務上の取り扱い
原則
・・・受益者課税
 例外
・・・受託者課税(法人課税信託に該当する場
合)

1.原則(受益者課税)
信託課税の大原則は、受益者課税です。
自己信託については、委託者と受託者がたまたま同一であるが、
信託財産と受託者(=委託者)の固有資産とは分別管理の上、受益者
のために管理・処分され、利益が受益者に帰属するという信託の
原則はそのまま当てはまると考えられます。もし、信託段階=受
託者に課税するならば、本来、利益の生じていないところに課税
し、さらに受益者に分配された段階で課税されるという二重課税
となり、自己信託を活用する意味はほとんど失われてしまいま
す。
そこで平成19年度改正の結果は、受益者課税という信託課税の
原則を貫きながらも、租税回避行為につながる場合には信託段階
での課税(受託者課税)を行うものとされました。
○参考図○
二重課税
課税
受益権
委託者=受託者
財産
信託宣言
事業活動
課税
受益者
信託財産
資金
利益
利益
利益の帰属
パススルー
課税
2.例外(受託者課税)
改正法人税法は、受益証券発行信託、受益者が存在しない信託、
法人が委託者となる信託のうち一定の要件に該当する信託に関す
る定めをおくとともに、これら(集団投資信託並びに退職年金等信
託及び特定公益信託等を除く)を一定の投資信託及び特定目的信託
をと伏せて法人課税信託として、その受益者段階において信託財
産にかかる所得について、当該受託者の固有財産にかかる所得と
は区別して法人税、所得税を課すことを規定しています。
この法人課税信託の中には、法人(公共法人又は公益法人等を除
く)が委託者=受託者である信託のうち①信託期間が20年を超える
自己信託等②損益分配の操作が可能である自己信託等に該当する
ものが含まれます。
○参考図○
受益権
委託者=受託者
財産
信託宣言
事業活動
受益者
信託財産
資金
利益
利益
利益の帰属
課税
法人課税
4.税制上の問題点

法人課税信託に該当する自己信託は、その
利益や損失が受益者に帰属することは明ら
かであるにもかかわらず、受託者に対して法
人課税が行なわれる。
第4章 事業信託
事業信託とは

「定義」
=税法上、法人が委託者となる所定の信託

「特徴」
事業自体を信託財産とする信託
事業信託のメリット
1.一部の事業部門が自己信託で資金調達ができること
(会社資源の効率的活用)
2.他社との事業連携手段としての活用ができること
(事業再編の円滑化)
3.スピード重視の経営が望めること
4.事業承継への効果的活用
事業信託の類型
① 重要事業の信託
② 長期の自己信託
③ 損益分配の変更が可能な自己信託
その1
<重要事業の信託 >
自社の株式等に受益権を交付
A社
受託者に課税
A社株主
受益権
α部門
A社株主に受益権の過半を交付
課税上の問題点と対応措置
●課税上の問題点●
=自社の株主等に受益権を交付すること
法人が本来行っている事業が信託され、受益権がその法人の株主
に交付された場合は、事業収益に対する法人税が課税できない。
●対応措置●
信託段階において受託者を納税義務者とし、受託者の信託財産から
生じる所得について、法人税を課税する。(受益者スルーで信託段階
課税が行われる。)
●例外●
信託財産の種類がおおむね同一である場合には上記対応措置から除かれる。
(ex)
不動産の信託などその信託財産に属する金銭以外の資産の種類がおおむね同一で
あるケース
その2 <長期の自己信託等 >
自己信託により、原則20年以上の長い信託を設定
A社
受託者に課税
α部門
長期間の信託
課税上の問題点と対応措置
●課税上の問題点●
=20年以上の長い信託を設定すること
長期間継続する事業を自己信託等により行う場合、その
事業に係る法人税の課税が減少してしまう可能性がある。
●対応措置●
信託段階において受託者を納税義務者とし、受託者の
信託財産から生じる所得について、法人税を課税する。
(受益者スルーで信託段階課税が行われる。)
「例外」
1.耐用年数20年を超える減価償却資産及び減価償却資産以外の固定資産
2.償還期間が20年を超える金銭債権
その3 <損益分配の変更が可能な自己信託等 >
自己信託等の設定により、グループ企業間での損益の付替
えを行う
A社
B社(子会社等)
受託者に課税
受益権
損失
利益
α部門の利益
B社固有の損失
損益 通算
信託
α部門
課税所得の圧縮
課税上の問題点と対応措置
●課税上の問題点●=自己信託等によりグループ企業
間で損益の付け替えを行うこと
損益の分配を操作することにより法人税を減少させるこ
とが可能となる。
●対応措置●
信託段階において受託者を納税義務者とし、受託者の
信託財産から生じる所得について、法人税を課税する。
(受益者スルーで信託段階課税が行われる。)
第5章 受益証券発行信託
1.受益証券発行信託とは
受益証券発行信託とは、信託行為により
信託受益権を有価証券として発行できる信
託である。(改正前の信託法の下での信託
受益権は、債権であり、有価証券ではない)
新信託法により、一般の信託受益権も有価
証券として発行できるようになるため、資金
調達が容易になると考えられる。
2.税務上の取り扱い
*特定受益証券発行信託
・・・受益者分配時課税
 受益証券発行信託
・・・受託者課税(法人課税信託に該当する
こととなるため)

*受益証券発行信託のうち、利益留保割合が1000分の25以下であること
その他一定の要件を満たすもの。
3.税制上の問題点
・「特定受益証券発行信託」に該当しない限り、信託財
産から生ずる所得については、受託者に対し法人課税
が行なわれるため、その利用を大きく制限されること
にならざるを得ない。
・ 「受益証券発行信託」に該当すると、その利益と損失
が受益者に帰属するにもかかわらず、受託者に対して
法人課税が行なわれる。
・
現実問題として「特定受益証券発行信託」に該当す
るための要件のうち、特に、利益留保割合が2.5%相当
額以下であるという要件を満たすことは、非常に難し
い。
第6章 まとめ
考察結果
新信託法により、事業信託や受益証券発
行信託といった新たな制度が導入された。し
かし、租税回避の防止等の観点から、結果
として法人課税の範囲が拡大される結果と
なっている。これは制度の導入のメリットを損
なう上、組織再編や経済活性化といった導
入目的に反する。
今後見直すべき点も多いのではないだろう
か。
<参考文献>
・中原祐彦「信託法改正の全体像~新信託法元年とその期待」『税理』2007年4月
号
・阿部泰久「自己信託の創設~その仕組みと受益者課税」『税理』2007年4月号
・平川忠雄「自己信託の事業への活用~受託者課税」『税理』2007年4月号
・菅野真美「限定責任信託と受益証券発行信託の創設~その仕組みと課税」『税
理』2007年4月号
・福田政之・池袋真実・大矢一郎・月岡崇[2007]『詳解 新信託法』、清文社
・税務会計研究学会 第19回大会 統一論題報告
・税務解説集ホームページ
http://www.tabisland.ne.jp/explain/index.htm