産業界出身教員向け研修 カリキュラムⅠ 産業界出身教員育成研修 2011年1月27日、28日 産業界出身教員部会 付属資料7-2 産学連携での高度IT人材育成 成果の見える授業を目指して -2- IT人材育成強化加速事業とは? IT産業を支える人材を輩出するために、産学が力を合わせて、 大学における “実践的な”IT教育を実現 する取り組みで、 経済産業省が平成21年度から実施している事業である。 <産業界> <教育界> 将来活躍できる 産業界で活躍できる 高度IT人材が 高度IT人材を育てるための 欲しい! 産学の マッチング 協力が欲しい! 実践的講座のカリキュラムの開発と教育実施 -3- 3 産業界出身教員育成研修 大学 実践的講座のカリキュラムの開発と教育実施 産業界出身教員 産業界出身教員への支援 実践的IT教育を円滑に行なえる環境 -4- 目的 やりっぱなしの教育を防ぎ、 成果の見える授業を行なうことを支援する。 ◇ 産学のニーズにマッチした教育を行い、実践的なIT 人材を育てるカリキュラムの開発を支援する。 ◇ 「教育技術」の体系的訓練が十分とは限らない産業 界出身の教員を支援する。 ◇ 教育の成果を図るためにはしっかり企画し、教育履歴 情報などを活用してPDCAサイクルをまわせるように 配慮することを支援する。 -5- 到達目標 授業の準備と実施に関する不足する知識と技術を再確認し、 その対策を行えるようにする。 授業の設計、評価の基本を再確認する。 -6- IDプロセス:全般 大学の教育 大学の教育は、出口(卒業生像)と入口(入学生像)をつな ぐ成長プロセスとして捉えられる。 知識、技能、態度な どの変化として証 拠づけられる成果 授教 業育 モの デ型 ル ・ ・ ・ 学 習 の 過 程 学習を成立させる 教 育 学 習 の 資 源 学教支 習材援 環 シ 境 ス テ ・ ・ ・ ム ID 場の設計と実践の指針 -7- IDプロセス:全般 IDとは? インストラクショナルデザイン(ID)とは、教育の効果と効率と 魅力を高めるためのシステム的なアプローチに関する方法 論であり、教育が学生と「産学」のニーズを満たすことを目指 したものである。 教育が何のために行われるものかを確認し、何が達成されれ ば「効果的な教育」といえるのかを明確にする。 学生の特徴や与えられた教育環境やリソースの中で最も効果 的で魅力的な教育方法を選択し、実行・評価する。 -8- IDプロセス:全般 IDプロセスの一般モデル ~ ADDIEモデル ~ 設計 分析 改 善 開発 改 善 実施 改 善 改 善 評価 (注意:IDはADDIEだけではない) -9- 参考資料 授業設計者のスキル項目 問題解決型モデル、発見型 モデル、目標達成型モデル などを用いてニーズ分析が できる。 ニーズ分析の結果に基づ いて学習環境を評価できる。 IDプロセス -分析- ニーズ・環境分析 学習者間の共通点と相違点を 指摘できる。 学習者の性格を認知的、心理 的、社会的な観点から説明で きる。 学習者分析 タスク分析 学習目標の性格分類 ができる -10- 参考資料 IDプロセス -デザイン・設計- 教員の信念やシラバ スに応じた学習目標 が明示できる。 学習目標設定 カリキュラムデザイン インターフェイス設計 教授方略のデザイン -11- 単位認定条件を満 たしたカリキュラム が策定できる。 理解の促進を考慮 したやり方を選定 できる。 問題解決型モデル、 発見型モデル、目標 達成型モデルなどに 応じた教授方略をデ ザインできる 参考資料 IDプロセス -開発- 適切な学習メディア を選択できる。 メディア選択 カリキュラムに適切な教 授ツールを活用できる。 マクロ方略 実施環境を準備できる。 学習環境の準備 教材開発 効果的な教材開発が できる。 -12- 参考資料 IDプロセス -実施- コース実施に必要な技 術を実施できる。 授業運営 メンタリング 学習者評価 状況、学習者特性に応じたメ ンタリングを指導できる。 テスト理論に基づいて学習目 標との一致度を測定できる。 -13- 参考資料 IDプロセス ~評価~ アンケート結果やヒヤリング 結果などを分析できる。 形成的評価 総括的評価 運用評価 総合的なコースの成果を記 述できる。 ライフサイクルを考慮した学習 コースの改善を行うことができる。 -14- 参考資料 その他 組織管理 プロジェクトマネジメント 法制度への対処 著作権の関連政策と管理 個人情報の対処 個人情報の関連政策と保護 -15- IDプロセス:全般 企業からの教員派遣パターン -16- IDプロセス:全般 産業界出身教員の分類 -17- IDプロセス:全般 授業のデザインとID技法 辞書には、「インストラクション」には、「教育」、「教授」、 「命令」、「指令」などとあり、はば広い意味がある。 何かを教えることはすべて「インストラクション」である。 「教育」とは異なる。 インストラクションとは、何らかの行動を引き出すための仕 掛けである。 インストラクションが成功するには、そのためのデザインが 不可欠である。 -18- IDプロセス:全般 インストラクションの考慮点 何を教えるかをはっきりさせる インストラクションとは、行動を引き出す仕掛けである。 ⇒ どんな行動を引き出そうとするのかをはっきりさせな いといけない。 インストラクションの目標 知識 知っていること(聞かれたら答えられること) 技能 できること(やろうとすればできること) 遂行 実際にすること 学びにコミットする << 教える >> ≠ << 学ぶ >> -199- IDプロセス:全般 現場での経験知を生かした教育 知識、技能、態度な どの変化として証 拠づけられる成果 教科書 教科書で学ぶ 教科書を学ぶ 科学・技術の成果 -20- ○社会でどのように 生かされるか? ○現場での経験 ○技術者の暗黙知 参考資料 産業界出身教員の理想像* • 産業界出身教員に真に求められるのは、企業における第一線 の優秀な人材としての自分の姿を学生に見せることである。優 秀な産業界出身教員は、そのまま学生の将来の目標になり得 る。産業界出身教員は何かを教えに行くのではなく、将来の目 標として学生に自分の姿を示しに行くのである。 • 産業界出身教員は、ある程度リーダーとしての経験を積んだ人 材が望ましい。リーダーとしての自信と経験、風格を伴った人材 だけが、学生を感化し、啓発することができる。 • 大学教員が何らかの感銘を受ける水準の人材でなければ、学 生も感銘を受けることはない。そのような意味では、産業界出 身教員は、大学教員からも一目置かれるようなハイレベルな人 材であることが望まれる。 • 教育者として大学に派遣されるのであるから、教育や人材育 成に対して熱意を持っていることも非常に重要である。そのよう な意味では、産業界出身教員には、次世代の人材育成に対す る強い使命感を持っていて欲しい。 -21- 参考資料 産業界出身教員として期待される人材像* • 産業界出身教員は、研究者ではないため、実際のプロジェクト 経験があることが必須である。実際のシステム開発経験こそが、 大学教員にはない、産業界出身教員固有の経験といえる。 • システム開発の経験のある人材でないと、リアリティをもって、 その楽しさや難しさを伝えられない。また、演習での学生の受け 答えができない。 • 現場経験のある人材だけが、体験談や事例を交えた講義をす ることができる。自分自身が体験していない事例は、話に奥行 きがなく迫力に欠けるが、学生はそれを敏感に察知してしまう。 そのため、大学教員が、企業での事例を学んで、産業界出身教 員の代わりをすることは、現状では非常に難しい。 -22- 参考資料 • 産業界でなければ身につけられない意識として、高いコスト意 識がある。システム開発における高いコスト意識を持っている ことも、産業界出身教員に期待される要件である。 • 修羅場をくぐり抜けた経験のある人材が、産業界出身教員 にふさわしい。 • 産業界の人材であっても、ソフトウェア工学のすべての分野 に精通している人材は少ない。しかし、大学で教えるからに は、ソフトウェア工学の全体像を示せることが必要である。例 えば、ソフトウェア工学の諸領域における著名な書籍を知っ ており、学生に対して適切にアドバイスできるなどの力は必 要である。 • 産業界出身教員の年齢は重要ではないが、学生との距離感 がちょうどよいという意味では、やはり中堅人材がよいのでは ないか。若手の人材で、学生とあまり歳が離れていない場合 は、産業界出身教員としての威厳が薄れてしまい、指導がし にくいこともある。 -23- IDプロセス:全般 授業の組立 「何を」「どの順で」学ぶか? 学びを支援するための外側からの働きかけ → ガニエの9教授事象 学習の動機づけ → ARCSモデル 次に向かって評価する → カークパトリックの4段階評価 -24- IDプロセス:全般 ガニエの9教授事象 -25- IDプロセス:全般 ARCSモデル Attention 注意 → 面白そうだ Relevance 関連性 → やりがいがありそうだ Confidence 自信 → やればできる Satisfaction 満足感 → やってよかった -26- IDプロセス:全般 カークパトリックの4段階評価 Reaction 反応 → 満足されたか? Learning 学習 → 理解されたか? Behavior 行動 → 実務で活用されたか? Results 成果 → 業績に貢献したか? -27- 参考資料 教育に関する知識・スキルについて* • 授業をする前に、受講学生数や授業の位置づけなど十分な情報 を得る必要がある。 • 産業界出身教員は、講義において自身の経験談をただ話してい けばいいと考えるところがあるが、講義は15 回の枠を利用し体 系立て教育を実施する必要がある。そのため、体系立てた講義 を設計できるようなトレーニングが必要である。 • 教育を設計する教育工学については、学ぶ必要があると感じる。 • 本学では、インストラクショナルデザインを身に付けてもらうこと を狙いとして、教員予定者向けにカリキュラム設計の方法や社 会人に向けた授業設計の方法などの講習を実施している。 • ID は授業設計の目安になるし、参考になるキーワードも多い。 ただし、座学には有効だが、PBL など演習には当てはまらない 事柄もある。 • 産業界出身教員におけるティーチングスキルは、個人の資質で -28- あるといえる。 IDプロセス:分析 大学のプロフィール • HPやヒアリングによって下記の項目を理解 する ・建学の精神 ・学長、学部長のメッセージ ・JABEEに準拠しているか ・J07のどの領域に該当するか ・学生の男女構成、留学生の数 学生のレベル、気質を把握 -29- 参考資料 JABEEについて • 日本技術者教育認定機構 (Japan Accredication Boad for Engineering Education)が大学など高等教育機関で実施 されている技術者教育プログラムが、社会の 要求水準を満たしているかを認定する制度。 企業におけるISO-9001に該当する制度。 -30- 参考資料 J07について • 世界標準である米国IEEE/ACMの CC2001-CC2005を土台として日本の 情報専門教育の状況に対応して見直しを実 施し、以下の5つの領域についてのカリキュ ラム標準を定めた CS(Computer Science) IS(Information Systems) SE(Software Engineering) CE(Computer Engineering) IT (Information Technology) 情報処理 VOL.49 NO.7 -31- IDプロセス:分析 講座に対する大学の期待 • 担当する講座の教育目標 • 担当する講座についてカリキュラム全体の中 での位置づけの把握 • 産業界出身教員に何を期待しているか • 産業界出身教員に講座内容についてどのよ うな自由度があるか • 複数の教員が同じ講座を 担当するケースがある -32- 参考資料 産業界出身教員に求められる教育の方向性* • 通常、学生は何かを作ることに懸命になるが、そこで終わってし まい、コスト・納期・品質に関する意識が低い。それらに関する 意識を持たせることが、産業界出身教員による実践的な教育の 目的の一つである。 • 企業によって異なる基準等については、何を標準として教えるべ きか悩んだが、相談した大学教員に「応用できる原理を教えるの が大学であり、原理が伝われば、若干不正確でもいいのではな いか」というアドバイスを受け、楽になった。 • 産業界出身教員は、学生にすべてを教えるのではなく、気づき を与えればよい。例えば、産業界で使われている具体的なツー ルの使い方などではなく、大学で学ぶ基礎技術が産業界でどう 使われているかを伝えることの方が重要ではないか。 • 表面的なテクニックや技術ではなく、一生使える思考・行動 パターン(自分で問題を発見し、自分で解決する姿勢など) を伝えるべきだと考えている。 -33- 参考資料 • 学生にある程度の前提知識がある場合、産業界出身教員は、 例えば「障害が起きた場合にまず何を調べるべきか」、また、 「テストは正常系でなく異常系が重要だ」など実務で実際に配 慮するポイントを教えるべきであり、それが実践的な教育なの ではないか。 • 産業界出身教員は、「大学教員として何でも知っていなければ ならない」と考えがちであるが、専門外で知らないことは知らな いと言えばよい。専門外のことは、それを専門とする教員に尋 ねてもらうというスタンスでよいと考えている。 • 情報系分野の具体的な技術や知識に関しては、書籍や情報 が豊富にあるので、極論すれば、誰でも教えられるといえる。 産業界講師は、自分の経験に基づいて、自分が教えられるも のや得意とするもの(自分しか教えられないもの、大学の先 生が教えるのは難しいもの)を教えればよい。 -34- IDプロセス:分析 企業内教育と大学での講義の違い • 企業:企業人は給与を貰いながら仕事として 教育研修を受けている。 • 大学:大学生は授業料を支払って講義を受け ている。企業人に比べて一般的にモチベー ションは低い • 大学生の気質 • 大学一年生は高校4年生 • LED:真面目で輝いているが(熱く)ない -35- 参考資料 学生のモチベーションへの配慮* • 企業内教育との大きな違いは、モチベーションである。社会人 と学生は置かれている環境が異なる。しかし、根底にある知的 欲求は社会人も学生も大差はない。学生は興味をもったことに 関しては、熱心に取り組む。 • 学生が興味を惹く話題をちりばめないと、学生は話についてこ ない。また講義の間に演習を折り込むなど、学生がついてくる ための工夫が必要である。 • 社会人に比べ、学生は密度の高い講義が長時間続くと、疲 れてしまう。 • 90 分の密度の高い授業を2 コマ続けると、疲れてついてこら れなくなる学生が目立った。一部の学生は、ついてこられなく なると口をきかないなどコミュニケーションをとらなくなる場合 があり、社会人以上に学生の様子に気を配りながら授業を進 める必要がある。 -36- 参考資料 • 大学では、企業とは異なり、学生のモチベーション管理まで行う 必要がある。モチベーション低下の一番の要因として、つまずく ことが挙げられる。そのため、学生を教える際は、否定しないこ とが重要であり、つまずかないように多少の支援(解答やヒント をあるタイミングで提示していく等)をしていく必要がある。ただし、 教えすぎもよくないため、バランスが重要である。 • 給与をもらいながら講義を受ける社会人と違い、学生はお金を 払って授業を受けているというお客様的な意識を持っている。 • 学部生に教えるにあたり、どのように興味を喚起するかは、課 題である。最近の学生は、先端技術が当たり前の環境の中で 育っており、企業での中堅人材の世代とは興味を持つ観点が異 なる。 • 学生に接する時間をなるべく多くとって、学生からのアクション にきちんと応えることで、学生は徐々にモチベーションを上げる。 -37- 参考資料 • 学生に対しては、「ほめる」ことでモチベーションアップを図っ た。細やかな進捗管理をし、達成するたびにほめる、また達成 できない場合には、低いハードルを用意し答えを導かせること で、達成感や理解できる喜びを与えた。何かを達成することの 満足感が、更に上を目指す動機付けとなるよう仕向けた。 • 学生が質問をしてくれることは、心をつかんだという1つのサ インである。 -38- IDプロセス:開発 シラバスについて • シラバスには下記の事を記述する ・科目名 ・授業実施曜日,時限 ・講師名 ・授業の目的、目標 ・評価方法、基準 ・授業内容(各週、各回) ・教科書、参考書 • 大学毎に書式があるのでそれに従う。 • 例えば「~を学習する」という表現ではなく 「~が出来るようになる」という表現にする。 -39- 参考資料 学校教育法施行規則改正 学校教育施行規則等の一部改正の省令 (平成22年6月15日公布、平成23年4月1日施行) 第百七十二条の二 大学は、次に掲げる教育研究活動等 の状況についての情報を公表するものとする。 (中略) 五 六 授業科目、授業の方法及び内容並びに年間の授業の 計画に関すること 学修の成果に係る評価及び卒業又は修了の認定に 当たつての基準に関すること (後略) -40- IDプロセス:開発 講義の時間数 • 大学の講義は1時限(1コマとも言う)90分で ある(一部の大学では75分) • 2単位の科目で半期90分コマを15回が 一般的 • 講義の始めに前回の復習に5分~10分取る また講義の終了時には纏めを5分~10分確 保する。従って1時限の正味の講義時間は 70分~80分として設計する。 -41- IDプロセス:開発 授業計画(レッスンプラン) • 授業の概要 ・講義のテーマ、目的、目標 ・時間、場所、講師名 ・利用する教材、機材 • 授業の進め方 ・予定時刻、時間 ・種別(講義、演習、実習) ・重要なキーワード ・教科書の参照ページ -42- 参考資料 講義のボリュームについて* • 産業界出身教員が作成する教材は、内容を詰め込み過ぎ、学生 の理解できる量を超えてしまうことが多い。学生が過去に学んだ ことを踏まえ教授内容をよく吟味し、また授業中の学生の顔色を 見るなどし、教える量に配慮する必要がある。 • 産業界出身教員は、90 分の授業には多すぎる資料を用意して いることが多い。学生のレベルに見合ったボリュームと時間配分 を考慮することが必要である。 • 講義内容を詰め込み過ぎて学生がそれを十分に理解できないと、 学生から不満が挙がる。伝えたいことを明確にし、的を絞って講 義することが重要である。 • 現役技術者教員の中には、話し慣れていないためか、90 分の授 業時間内に納まらないことがある。用意する資料の量はやや少な めがちょうどよい。 • 学生が自ら学ぶために、教えすぎてはいけない。産業界出身教員 は話し過ぎることが多い。その加減は難しい。 -43- IDプロセス:実施 講義のスピードについて • 企業では一枚のPPTを3分間前後で説明を している。 • 大学においては、一枚のPPTを4~5分かけ て説明することが望ましい。 -44- IDプロセス:実施 学習意欲の向上策 • 大学では理論や技術を教えるが現実の社会 で どの様に活用されているかが良く説明さ れておらず、学生の学習意欲の低下を招い ている。 • 産業界出身教員は講義の中で理論や技術の 適用や応用についての説明を 自分の体験に基づいて 話すと良い。 -45- 参考資料 今と昔の学生の違いに対する理解* • 産業界出身教員は学生のレベルを、実際よりも高く想定している ことが多い。 • 産業界出身教員には、当時の教育と現在の教育とのさまざまな 違いをまず認識してもらう必要がある。 • 産業界出身教員が想像するよりも学生の学力レベルは低く、通 常、産業界出身教員が想定するレベルよりもう一段下げて教えな いと、学生は授業についていけないことが多い。 • 産業界出身教員に来ていただく際に、現在の学生の学力は、昔 と比べて一段と低いことを事前に伝えている。 • 産業界出身教員には、現在の大学と産業界出身教員が在学中 の頃の大学との違いを認識してもらう必要がある。学生の質や教 える領域は、昔よりも格段に多様化している。教育を底辺にあわせ ることもできない一方で、底辺を切り捨てることもできないため、多 様な学生に個別に対応していかなければならない。また、教える領 域が多様化し、教員側も、さまざまな内容を教えなければならない。 -46- 参考資料 • 今は、進学率が大幅に上がっているほか、学生の読書量も圧倒 的に少ない。このような中で育った学生は、教員自身の学生時 代と比べ基礎能力が大幅に劣る。自分自身の学生時代のレベ ルを想定した授業では、レベルが高すぎる。 • 教員経験がなく、教員自身の学生時代の学生のイメージを 持ったまま今の大学に来ると、現実を知って失望することが 多い。昔の学生と今の学生は大きく異なる。 • 今の学生は、英語の筆記を読めない、「てにをは」という言葉を 知らないなど、教員の世代では考えられないところでつまずいて いることがある。授業の内容については、学生が理解しているか どうか、常に気を配る必要がある。 • 今の学生は正解を求める傾向が強い。プログラムに正解はな いため、講義中に示した回答は例に過ぎないことを伝えようとし たが、正解を求める学生が多かった。答えを教えるのではなく、 学生自身が考え、答えを導くようにするとよい。 -47- 参考資料 学生への目線に対する留意* • 今の学生は教えてもらうという姿勢が染み付いていて、自分 から行動する習慣がない。また、目立つことを嫌う傾向がある。 • 産業界出身教員は、学生を子供扱いすることがあるが、これは 絶対にやめるべきである。学生との距離感をつかめない産業界 出身教員がフレンドリーな振る舞いをしているのだと思うが、学 生へも社会人と同じように対応すべきである。 • 学生に対して丁寧すぎる言葉(お客様相手のような言葉)を使っ ているケースがあるが、これでは学生も距離感を感じてしまう。 丁寧すぎる姿勢もよくない。 • (産業界出身教員の経験者から)企業出身の一人の技術者とし て大学に派遣されたのだと考え、学生に対しても一人前の技術 者として対等に接し、対等な意見を求めるよう心がけた(未熟な 相手に教えるという態度ではなく、ともに学び考えるという姿勢 で接した)。そのように誠意を持って真摯に対応すれば、学生も、 こちらの期待に応えようとして頑張ってくれる。 -48- IDプロセス:実施 講師の体験を踏まえた講義 • 大学生の学習意欲を向上する為に産業界出 身教員の企業における体験を紹介することが 有効である。 • 特に現実の課題をいかに解決したか(事故対 策等)を紹介することは意味がある。ただし 自分の成功体験の自慢話や自社の製品の PR等は避けるべきである。 -49- 参考資料 教員自身の「経験談」について* • 学生に何が残るかという観点がない事例は、単なる自慢 話・苦労話・昔話で終わってしまう。その事例によって学生 に何を教えようとしているのか、という観点で体験談を語っ ていただけるとよい。 • 産業界出身教員の仕事の成功談を聞くと、学生は、「自分 には無理」「自分とは違う」などと敷居の高さを感じてしまう ことがある。産業界出身教員の成功談は、学生にとって逆 効果である場合もあるため、注意が必要である。 -50- 参考資料 実務関連の用語の使用について* • 「WBS」や「RFP」など企業でよく使われている略語が、学生や 教員に理解されないことがあるため、専門用語を使わず、一般 の人でも理解できる言葉を使う必要がある。また、このような用 語の説明のたびに授業が止まってしまうため、事前に学生のレ ベルを把握するように努めるほうがよい。 • 企業の実態を伝えるために、企業で標準的に使っている言葉 を、そのまま授業でも用いている。 • 学生に社会の波を感じさせるために、産業界で用いられている 用語をあえて教えるようにしている。ただし、その用語自体を講 義中に解説することはなく、必要と感じられる用語を事前に示し ておくようにしている。 • 高度な職業人材を育成するという教育の趣旨を踏まえると、専 門職大学院では、産業界出身教員が企業で使う用語を授業で 用いることは、目的に適っていると考えている。 -51- 参考資料 • 産業界出身教員の用いる言葉には、学生には分からないもの も多い。技術的な言葉やプロジェクトマネジメントに関わる言葉 以外に、「仕様」や「検収」のような企業では一般的な用語も、 学生には分からないことが多い。しかし、企業ではそのような言 葉が用いられていることを学ぶ貴重な機会でもあるため、産業 界出身教員に、言葉を修正するような依頼をすることはない。 • 大学では、計算機工学は教えられているが、ソフトウェア工学 はあまり教えられていないため、ソフトウェア工学の用語を用 いると、学生は理解できないことがある。また、経営に関する 用語も理解されないことがある。企業によって用いられる用語 が異なる場合もあるので、産業界出身教員自身は汎用的な用 語を知っておく方がよい。 • 同じものを異なる複数の言葉で表現すると、学生は異なる2 つの別のものだと受け取ることがあるため、教員間で統一し た言葉を用いる必要がある。 -52- 参考資料 企業の製品等の説明について* • 自社製品の宣伝になるような授業をしないよう、事前に申し 合わせている。そのような話をすると学生はひいてしまう。 • 産業界出身教員の教材を事前に確認し、製品の説明になら ないよう配慮した。例えば、データベース製品について説明 する場合は、製品を例として、抽象化したデータベースにつ いて解説する内容としてもらった。 • 現場だけを経験してきた産業界出身教員の中には、技術・知 識のバックグラウンド(背景や歴史等)は教えず、最先端の技 術・知識のみ教える人もいる。しかし、大学教育では、技術や 知識のバックグラウンドが重要であるため、そのような要素を 含めることが期待される。 -53- IDプロセス:実施 教育設備について • PC・・・多くの大学ではID、パスワードの入力 が必要である。インターネットが使用可能か どうかも事前に確認する。 • プロジェクタ・OHP・・・必ずしも全ての教室に 設置されていないと思うこと。 • 机・・・グループ演習を実施する場合は机が 可搬である教室を確認する。 -54- IDプロセス:実施 講義の出欠について • 出欠の取り扱いについては、各大学での規 定があるので、それに従うこと。 • 講義はすべて出席することを前提にしている が出席点を成績評価に含めないこと。 -55- IDプロセス:実施 学生からの質問 • 講義の終了時に「何か質問はありますか?」 と聞いても 殆んど挙手をする学生はいない 講義の終了後残って質問を受けると良い。 • 大学生は「メール文化」で育っているので 講師の連絡先のメールアドレスを通知すると 多くの質問が寄せられる。 • 受信したメールは誠意を持って 回答すること。 -56- IDプロセス:評価 テスト・レポートについて • テストはシラバスで記述した目標を達成した か否かの観点で実施する。 • 講義で使用した教材(プリント等)を持ち込み 可とするか否かの選択肢がある。 • レポートもテストと同様の考え方で実施する が、評価基準を明確にして、学生に説明する 必要がある。 -57- IDプロセス:評価 成績について ・一般的には成績の分布は正規分布になること が望ましいと言われているが、大学によって は成績のA,B、Cの大まかな構成比率を提 示するケースもある。 いずれにしても適切な 分布になるように講義とテストを実施する 必要がある。 ・合格者の最低レベルを 保障すること -58- 参考資料 GPA制度について • GPA(Grade Point Average)世界標準的な 大学での学生の評価方法である。日本において も公平な成績評価指標として導入する大学が増 えてきている。採用については賛否両論がある 。 評価 優(A) ポイント 4.0 良(B) 3.0 可(C) 2.0 不可(D) 1.0 評価なし(F) 0 GPA= ∑ 単位数 × ポイント(GP) 合計単位数 -59- IDプロセス:評価 講義実施後のアンケート • アンケート結果に対して 「改善する点」などのレスポンスを 大学側に返す制度がある。 • それぞれの大学でアンケートの書式が定めら れているのでそれに従って実施する。 • 自由記入欄には学生の本音が記入されてい る場合が多い。アンケートの記入時間は充分 に確保する必要がある。 -60- IDプロセス:法律・管理 著作権について ・大学の講義資料にWebページのコピーを 用 いることは著作権法第35条で許可されてい る。(条文に目を通しておくこと) 但し引用元のURLや書籍名(著作者名)を入 れること。 ・講義資料をWebページに 安易に掲載しないこと。 -61- IDプロセス:法律・管理 個人情報の保護 • 履修者一覧、成績簿、答案用紙等は個人情 報保護法による個人情報である。 • 大学には個人情報の取り扱いに関する規定 があるので、これに従うこと。 • 個人情報の廃棄(シュレッター処分が原則) には充分配慮すること。 • キャンパス・ハラスメント等 にも配慮が必要。 -62- IDプロセス:法律・管理 成績の異議申し出制度 • 多くの大学には成績の異議申し出制度があ る。成績評価の根拠となっているデータ (答案用紙、レポート等)を一定期間保存する ことが規定されているので、その規定に従う こと。 -63- これで本講義を終 わります。 産業界出身の講師として 高度IT人材育成に向けて成果の見える授業 を準備していくのに お役に立てば幸いです。 注:スライドタイトルに*印のあるものは、「平成21 年度 産業技術人材育成支援事業 IT人材育成強化加 速事業 事業報告書」からの引用である。 -64- IDの参考文献 インストラクショナルデザイン邦文書籍一覧 1. インストラクショナルデザイン―教師のためのルールブック,島宗 理 (著) ,米田出版 (2004/11) 2.はじめてのインストラクショナルデザイン,ウォルター ディック (著), ジェームス・O. ケアリー (著), ルー ケアリー (著), Walter Dick (原著), James O. Carey (原著), Lou Carey (原著), 角 行之 (翻訳) ,ピアソンエデュケーショ ン (2004/08) 3.インストラクショナルデザインの原理 ,ロバート・M. ガニェ (著), キャサリン・C. ゴラス (著), ジョン・M. ケラー (著), ウォルター・W. ウェイジャー (著), Robert M. Gagn´e (原著), John M. Keller (原著), Katharine C. Golas (原著), Walter W. Wager (原著), 鈴木 克明 (翻訳), 岩崎 信 (翻訳) ,北大路書房 (2007/09) 4.最適モデルによるインストラクショナルデザイン―ブレンド型eラーニングの効果的な手法,鄭 仁星 (著), 鈴木 克明 (著), 久保田 賢一 (著) ,東京電機大学出版局 (2008/05) 5.eラーニング専門家のためのインストラクショナルデザイン,齋藤 裕 (著), 松田 岳士 (著), 橋本 諭 (著), 権藤 俊 彦 (著), 堀内 淑子 (著), 高橋 徹 (著), 玉木 欽也 (著),東京電機大学出版局 (2006/05) 6.企業研修トレーナーのためのインストラクショナルデザイン─トレーニングの科学ハンドブック,ダン・チョンシー (著), 柳澤奈津子 (編集), 菅原 良 (監修, 翻訳), 辻谷真一郎 (翻訳) ,大学教育出版(2008/6/20) 7.実践インストラクショナルデザイン―事例で学ぶ教育設計 (情報デザインシリーズ) ,内田 実 (著), 清水 康敬 , 東京電機大学出版局 (2005/03) 8.インストラクショナルデザイン入門―マルチメディアにおける教育設計 (情報デザインシリーズ) ,ウィリアム・W. リー (著), ダイアナ・L. オーエンズ (著), William W. Lee (原著), Diana L. Owens (原著), 清水 康敬 (翻訳), 日 本ラーニングコンソシアム (翻訳) ,東京電機大学出版局 (2003/03) 9.授業の基礎としてのインストラクショナルデザイン (視聴覚教育選書) ,赤堀 侃司 (著) 日本視聴覚教育協会 改 訂版 (2006/9/21) 10.教材設計マニュアル―独学を支援するために ,鈴木 克明 (著) ,北大路書房 (2002/04) 11.学習意欲をデザインする―ARCSモデルによるインストラクショナルデザイン ,ジョン・M. ケラー (著),鈴木 克 明 (翻訳),北大路書房 (2010/07) -65-
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