朝鮮学校における イマージョン教育

朝鮮学校における
小学校一年生のL2朝鮮語指導と習得
―中間報告-
母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究会
2008年度大会
立命館大学大学院修士課程 千石美佐
[email protected]
2008年8月10日
1. はじめに

日本語を母語とする在日コリアン児童
-小学校入学後、どのような指導を通して
朝鮮語を獲得するのか。
-第二言語での教科学習はどのように
行われるのか。

入学直後から7月までの一学期間に観察されたもの
を中心とする中間報告
中間報告事項
 研究の詳細
 対象児童の現在の朝鮮語レベル
 朝鮮学校における第二言語教授法
 言語教育と教科教育の統合
 学習者に見られる特徴
 まとめ
2. 研究の詳細
目的:
朝鮮学校のトータルイマージョンによる
継承語教育の特徴と、一年生児童の
第二言語習得過程を明らかにする。
対象校: 京都市内にある朝鮮初級学校一校
期間: 2008年4月~7月
方法: 参与観察
国語(朝鮮語)・算数・日本語・音楽・その他
3.対象児童
 2008年4月に入学した小学一年生
男子2名、女子4名の計6名
(内2名は朝鮮幼稚園出身)
 在日朝鮮人・在日韓国人4世
 母語は日本語
時間割表
週間授業数
国語(朝鮮語) 9
時間割
算数
4
日本語
4
図画・工作
2
音楽
2
体育
2
英語
1
4. 児童のL2朝鮮語レベル(入学後3ヶ月経過)
日常の挨拶ができる
 身の回りにある物の名前を言うことができる
 感情を表す表現を使える
 授業中の教師の説明や指示を理解できる
 授業中に質問や返事をすることができる
 友人同士で簡単な会話ができる

◆授業中の教師の発話例
「後ろから四番目に色をぬりなさい。」
「一枚につき1回だけ書きなさい。表に書いた
場合は、裏に書かなくてよろしい。」
「ここで、さっきと違うところは何か、わかる人は
いますか?」
◆生徒の発話例

授業中

友人どうしで
「先生、点はつけるんですか」
「前に座りたい人は手をあげて」
「お友だちが魚をみています」
「~~ちゃん、一緒にあそぼう」
「うん、いいよ」
「昨日は~~へ行きました。」
「~~すればいいでしょ?」
「~~してもいいですか。」
「痛い、痛い!」 「大丈夫?」
5. 第二言語教授法における特徴
教師は在日2世、朝鮮学校出身者
朝鮮語・日本語バイリンガル
 ルーティーンによる学習
 教科書-児童の日常に則した内容
 明示的指導
 徹底した反復練習
-大量のインプット・アウトプット

◆児童の日常に即した教科書内容
第一課
第二課
第三課
第四課
第五課
第六課
第七課
第八課
第九課
이름이 뭐니?
(名前は何?)
안녕하십니까
(こんにちは)
이건 뭐라고 해요? (これは何といいますか?)
여기가 어디니?
(ここはどこなの?)
공부 시간이예요 (勉強の時間です)
쉬는 시간이예요 (休み時間です)
점심 먹자
(お昼ごはんを食べよう)
깨끗이 할래요
(きれいにします)
내가 할래
(私がするわ)
◆テーマに応じたダイアログ
例: 第七課
점심시간이야
점심먹자
손씻자
점심준비하자
먹겠습니다
어서 먹자
(お昼の時間だ)
(お昼ごはん食べよう)
(手を洗おう)
(お昼の用意をしよう)
(いただきます)
(早くたべよう)
◆徹底した反復練習
主題の絵を見ながら教師が読むのを聞き、児童がリピート
 新出単語の絵を見ながら教師の発音を聞き、児童が
リピート
 ダイアログを教師のあとについてリピート
 教師の指示で児童のみコーラス
 教師と児童達とでダイアログ
 教師と児童(一人)とでダイアログ
 児童同士でダイアログ
 児童各自で読み
 児童で順番につなげて読み
 その他(一語ずつ、文章で、女子のみ、男子のみ)
 宿題で読み(通常教科書を5回以上)

6. 言語教育と教科教育の統合
 算数-数詞の徹底反復
教科教育中の言語指導
 音楽-歌詞の説明・日本語対応
歌詞の内容に対応した振付け
 生活指導-学校生活のあらゆる場面が
言語指導の機会に
例)休み時間に教師が女児Fの髪をときながら
他の児童に、国語で習ったダイアログを応用させる
(2008年5月14日)
先生: 자, 이것은 뭐라고 했어요? (くしを見せる)
じゃあ、これは
なんて 言ったかな
児童: 빗!
くし!
先生: 빗으로 ・・・?
くしで ・・・?
児童: 빗으로 머리털을 빗어요 (既習表現)
くしで
髪を
ときます
先生: 누구의 머리털?
誰の 髪?
児童: F(女児の名前)
F
先生: 선생님이・・・?
先生が・・・?
児童: 선생님이 빗으로 F의 머리털을 빗어요
先生が
くしで Fの
髪を
ときます
7. 学習者にみられる特徴
 自律的学習者
 自発的復唱(Spontaneous
repeat)
特に指示がなくても教師の口から進出単語が
でるとすぐに全員が自発的に復唱する。
 コード・スウィッチング
5月頃から友人同士の会話に現れ始める。
6月には全員に確認される。
7月にはその頻度が増す。(日本語と朝鮮語の類似性)
◆児童の発話例
4月~日本語の授業以外での自発的発話は少ない。
5月初旬~授業中に質問をしたり、大きな声でL2で答える
ことが少しずつ増えてくる。
7月初旬~丸暗記した言葉を分析的に理解し応用している
証拠と見られるエラーが観察される。
(2008年6月18日 児童C のエラー)
D: 일어서도 좋아요?
立っても いい?
C: 일어서도 안되!
立っても だめ!
(「立ってはいけない」と言ったつもり)
◆コード・スウィッチングの例(2008年7月9日)
F: あ、ちぎれ했다!
あ、ちぎれたよ!
B: 안되! 안되!
だめ! だめ!
A: まって! 조금 기다려!
まって! ちょっとまって!
E: 이거!
これ!
A: 부쳐주* (正しくは 부쳐줘)
くっつけて
B: 안되!
だめ!
A: 이렇게 ねりつづけないと
こうして
ねりつづけないと
D: さわらせ해주* (正しくは해줘)
さわらせて
A: ついてるようなかんじが 한다
ついてるようなかんじが
する
A: ねりけしってあんまり필요없지
ねりけしって あんまり 必要ないでしょ
E: 싫다! 싫다!
いやだ!いやだ!
(始業ベルが鳴る)
D: 선생님 왔다!
(先生 きた!)
C: 선생님 왔다!
(先生 きた!)
D: 거짓말이지
(うそでしょ)
C: 정말 선생님 왔다!
(ほんとに 先生 きた!)
A: ねりけし는 정말은 학교에 가져오면 안된다
(ねりけしは 本当は 学校に 持ってきちゃ だめなんだ)
8. 児童間におけるインタラクション(1)

模倣
例)児童D(現地幼稚園出身男児)は
児童A(朝鮮幼稚園出身男児)の
言動をよく真似る。
・服装を整える時
・授業中の行動
☝行動の模倣(児童Aと同じ状況に自分を置く)
→言葉の模倣(児童Aと同じ言葉を繰り返す)
8. 児童間におけるインタラクション(2)

Peer Tutoring(児童間の教えあい)
朝鮮語が話せる児童(Ex.)は、話せない
クラスメート(Non –ex.)の理解度に合わせて
L2使用頻度とレベルを調節する。

休み時間の雑談やケンカの途中で
朝鮮語レッスン
例)ケンカの途中で朝鮮語レッスン
児童Cがふざけて児童Aを押し、怒ったAがCを
追いかけていた時
(2008年5月7日)
(C、急に立ち止まり、両手を合わせてAに謝りながら)
C: ミヤネ、ミヤネ、(間違ったアクセント)
ごめん、ごめん、
A: 「미안해, 미안해」야 「ミヤネ、ミヤネ」ちがう!
「ミヤネ ミヤネ」だ 「ミヤネ ミヤネ」ちがう! (アクセントの位置を直す)
C: 미안해, 미안해
(正しいアクセントで言い直す)
ごめん、ごめん
AはCが正しく発音したことを確認する。
再びCは逃げ、Aが追いかける。(ケンカの続き)
9. まとめ

朝鮮学校における第二言語教授法
児童の日常に即した教科書、明示的指導、
徹底した反復練習、ルーティンによる学習

言語教育と教科学習の統合
国語以外の授業や生活指導の場は
常に言語学習の機会として活用される。

学習者にみられる特徴
児童の自律的学習態度、Peer Tutoring
10.今後の課題
文字学習、読み書き指導についての分析
 児童の第二言語習得スピード
(Non-ex.がEx.に追いつくまでの時間)
 教師・児童・保護者への聞き取り
 対象校以外の朝鮮学校/教師との比較
