画像への奇妙な愛情 - SQUARE - UMIN一般公開

ある奇妙な愛情について
or: How I Learned to Stop
Thinking and Love MRI
次にシナリオを示す
鑑別診断を3つまで挙げよ。4つ目は“その他”にせよ。
各診断の確率の合計は100とせよ。
マジックナンバーは20,50,80
病歴後
診断1
診断2
診断3
その他
診察後
検査1後 検査2後
診断は?
67歳男性。朝食後外出しようとしたが,
玄関先で突然歩行不能となり,這って
家の中に戻った.同時に呂律が回りに
くくなり,めまい,嘔吐もあった.救急車
で来院した.
タバコ1日40本,日本酒1日三合
高血圧,高尿酸血症
何を診察しますか?
• 肥満体,BP186/74, P 70/分・整
• 覚醒は維持できるが,ややもうろうとしている
• 頸部血管雑音なし.両下肺野にfine crackleを聴
取.腹部,四肢には異常をみとめず
• 対光反射は両側迅速
• 左方向の自発性水平性+回転性眼振をみとめた
• 構音障害がある
• 立てないが,四肢の動きには左右差なし
• 他の神経学的検査には協力が得られない
– 苦しい,気持ちが悪い,そんな診察より何とかしてくれ
放射線科に電話したところ・・
あいにく,脳外科入院患者の急変で
緊急MRIのオーダーが今さっき入っ
てしまって,午前中はもう手一杯で
す.X線CTではいけませんか?
X線CTではいけませんか?
=MRIに固執する理由は?
= X線CT と比べた時MRIの利点は?
= X線CT でもわかる&X線CTではわからないこと
とにかくX線CTを撮って,普段懇意
にしている脳外科医に見てもらった
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ちょっとmotion artifactが入っちゃってるねえ・・・・
ところで,症状はどうなの?
要するに,病変はテント下?テント上?
発症からどのくらい経っているの?
出血はないことだけは言えるね.梗塞があるかどうかは,
CTじゃわからんよ
• えっ?MRI ? CTでもこれだけ動くのに?しっかり鎮静しな
いとdiffusionとれないぜ.
• MRI/CT室は救急外来でも一番危険な部屋だって事ぐらい
知ってるだろ。鎮静するなら挿管の用意しとけよ.あっと,
俺の病棟患者のMRだ.じゃあね.
診断は?
先ほどの各診断の確率はどう変わったで
しょうか? 記入してください.
どうしようか?と考える前に・・
1. X線CTの情報で、先ほどの各診断
の確率はどう変わったでしょうか?
記入してください.
2. さらに、決死の思いでMRIを撮ること
によってどんな情報を期待します
か?
3. その情報はあなたの診断をどのよう
に変えますか?
当たり前のアルゴリズム
脳卒中
出血あり
出血なし
脳出血
脳梗塞
CT or MRも、 DWI陽性所見も関係なし
急性脳梗塞に対するMRIの感度
Lancet 2007;369:293
感度(%)
すべて
83
12時間以上
92
3-12時間
81
3時間以内
73
脳幹・小脳ではもっと感度が低くなる!
拡散強調画像で陰性でも驚かない
67歳男性。朝食後外出しようとしたが,
玄関先で突然歩行不能となり,這って
家の中に戻った.同時に呂律が回りに
くくなり,めまい,嘔吐もあった.救急車
で来院した.
タバコ1日40本,日本酒1日三合
高血圧,高尿酸血症
急性脳卒中の臨床診断と画像
• 画像の目的は,脳出血の検出・除外である
– CT、MRIともに脳出血の感度・特異度100%
• 脳梗塞は,脳卒中ー脳出血=脳梗塞
– たとえ拡散強調でも脳梗塞の感度は7-8割
– 脳梗塞の陽性画像はあくまで補助的な情報
• 以上より,急性脳卒中の診断において,MRI
とCTの意義に差はない
CTでもいいことがすぐわかる例
67歳男性。朝、起きてこないので妻が寝室
に行くと、起きあがれずに布団の中でもが
いていた。救急車で来院。ストレッチャーの
上で開眼しているが言葉が全く,喋れない。
右の手足が全く動かない
タバコ1日40本,日本酒1日三合
高血圧,高尿酸血症
簡単な診察でより明確に→CTで十分
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BP186/74, P 70/分・整
左頸部に血管雑音を聴取する.
覚醒し開眼しているが、自発語はない
右口角がやや下がり、痛覚刺激の際のしかめ
面で、右の睫毛が隠れない
• 閉眼、開口、左手・左足挙上の命令に従う
• 右上下肢は弛緩性の完全麻痺
• 感覚系については詳細不明
脳卒中の診断意義に関しては
MRIとCTは対等!
“Global Standard”からの乖離
CT
OECD平均 13.3
日本
92.6
MRI
OECD平均 5.5
日本
35.3
MR愛:科学ではなく画像ゆえに?
MRIの有用性が一番発揮されると思われ
た急性脳卒中で、その価値がX線CTと変
わらない!!
MR愛が生じる背景
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最新医学への憧れ
10億円プレーヤーへの憧れ
誰の目にも見えるわかりやすさ
病歴・診察コンプレックス
“夢の新薬”アルテプラーゼの出現
患者のMRI信仰感情の影響
→訴訟対策の幻影に怯える?
MRI feeding(餌付け)の問題
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“脳ドックで呆け予防”の商業主義
一億総始皇帝時代に迎合
医療費増大の一因
抗菌薬乱用と類似→対策も類似
粘り強いHealth Literacy向上策が有効
– 地域から始める
– 医療者、市民両側から
MR愛に溺れないために
• 検査前確率を明確にする
• 検査の目的を明確にする
– MRIがないと何が困るのか?
• 検査結果のアウトカムを明確にする
– 検査結果判明後のアルゴリズムを描く
MRIを撮らないと訴えられる
だから仕方なく撮る
本当ですか???
ロールプレイで考えてみましょう
↓
MRIよりも偉いのは誰?
よくある状況
 先生頭が痛いんです
 (問診・診察後)診察した限りでは何もありません
 でも,先生、くも膜下出血が心配なんです。検査し
て下さい
 では念のためにCTを撮りましょう
 先生,CTよりもMRIをお願いします
 MRIは予約検査ですから,今日はできません
 でも,先生, CTではくも膜下出血を見落とすことが
あるから,MRIの方がいいって,昨日「ためしてガッ
テン」で言ってたので,是非MRIをお願いします
本音シナリオ:非難合戦
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患者様:先生頭が痛いんです
先生様:診察した限りでは何もありません
患者様:でもあんたの診察だけじゃ心配だ。MRIを撮ってくれ
先生様:おい、俺を信用しねえってのか。
患者様:テレビで,お前よりずっと偉い先生がMRIがいいって
言ってたんだ.それに金はこっちが払うんだ、ぶつくさ言わず
にさっさと伝票書けよ。
• 先生様:こんなに苦労して診察してやっている俺様の言うこ
とよりテレビの言うことを信用する奴に用はない.今直ぐたた
き返してやりたいが,こういう奴に限って,あとで,院長にい
ちゃもんつけてくるような馬鹿な真似をしかねないから,どう
してくれよう.
シナリオ2:ボケとツッコミ
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先生頭が痛いんです
診察した限りでは何もありません
では,くも膜下出血は大丈夫でしょうか?
では念のためにMRIを撮りましょう
えっ?MRIを撮るんですか?どうして?
このまま家に帰って、万一くも膜下出血を起こし
たら,大変でしょう。
• 確かに大変ですが、でも、先生、今、診察した限
りでは何もないっておっしゃったじゃありませんか。
• ええ、でも念のために・・・
ボケとツッコミ(続)
• 診察ではわからないんですか?
• 診察でわかるのですが、診察で問題がなくて、MRI
を撮らずに、半年後にくも膜下出血で亡くなった例で
訴訟が起こったことがあるのです。
• でも,MRIを撮っても,私がくも膜下出血を起こす確
率そのものは低くなりませんよね?
• ああ,ええ,まあ、そ,そうですね。
• じゃあ、MRIを撮るのは、私の体を心配しているから
ではなくて、私が起こすかも知れない訴訟から自分
の身を守るために撮る、それが先生のおっしゃる”念
のため”という意味なのですね?
この漫才の背景
• 人間不信:この患者が自分を訴えるかもしれ
ないこの医者は藪かもしれない
• 人間不信から生じる機械信仰
– MRIが万能という幻覚妄想状態
• 医者と患者の双方が気付かないすり替え
– 両者とも人間不信ゆえにMRIを撮ろうとしている
のに、あたかも患者のことを心配しているから
MRIを撮っているかのような思い込み
ではどうしたらいいか?
右手のしびれで来院した池田さん
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先生、先月から右手がしびれるんです。
手の動きはどうですか?力は入りますか。
はい、動きは問題ないと思いますが。
(診察の結果、手根管症候群が疑われる)
どうも、手首のあたりで神経の通る道が狭くなっ
ているようですね。
• 先生、脳は大丈夫でしょうか?先月,母がくも膜
下出血で倒れたので・・・
• 脳は問題ありませんよ。手首ですから。
池田さんに食い下がられて
• でも、先生、心配なんです。MRIを取ってもらえま
せんか?
• えっ、でもMRIはもっと緊急性のある、本当に必
要な人のために、その枠をとっておかなければ
いけません
• でも、先生、どうしても心配なんです
• では、空き枠があるかどうか、聞いてみましょう
• (たまたま空いていたので)よかったですね。今日
取れますよ
• 先生、どうもありがとうございます
場面転換:正常MRIを前にして
• 今回は、右手のしびれとのお話があってはじめ
て、MRIなどなくても、くも膜下出血でも脳卒中で
はないと断言できました。この点は私を評価して
ください。MRIより私の方が偉いのです。
• ところが、仮にそれが、右手だけでなくて右手と
右足がしびれで、左手左足が何ともなかったら、
逆に脳卒中を強く疑わなくてはなりません。どち
らの場合でも、一番の拠り所は池田さんのお話
なのです。10億円もするMRIなんかより、池田さ
んのお話の方がずっと大切で、頼りになるのです。
MR愛の問題点
人間を愛さずに機械を愛する
• 人間愛を育む問診・診察がおろそかになる
• 根底にある人間不信を悪化させる
• 患者さんも医師も危険に晒される
– 診断リスク高止まり
– 診断効率低下
– 人材が育たない
診療の原点としての問診・診察
患者に助けてもらう,教えてもらう存在
道徳ではなく,基本的診療戦略
• 問診・診察そのものが教えてもらう行為
– 問診:何が困っているのかを教えてもらう
– 診察:どうして困っているのかを教えてもらう
• 非言語性メッセージを引き出す
– 治療が始まった後も,モニタリング・評価のため
に問診,診察を継続し,繰り返す
• 問診・診察は,相互学習の過程
Win/Win関係構築のために
患者・医師に求められる資質
病という資源を生かした教育・学習
• 患者側
– 医師を教え・育てるという覚悟・辛抱
– 医師とともに育つという喜び
• 医師側
– 患者から学び・育つという覚悟・辛抱
– 患者とともに育つという喜び
対立ゲームを煽るスローガン
医師と患者の協同作業を妨げる
• 全ては患者様のために
– 医師が人間として尊重されない
• 神の手・赤ひげ願望
– 人間不信:多くの医者はクズ
– 限られた人間だけを神に祭り上げた後に貶め
る
伝統的な誤解
医師
患者
より効率的な本来の戦略
医師
患者
病気
問題