第4章 相談援助の考えと 福祉住環境整備の進め方 第1節 福祉住環境整備とケアマネジメント 第2節 福祉住環境整備の進め方 第3節 福祉住環境整備関連職への理解と連携 第4節 相談援助の実践的な進め方 第1節 福祉住環境整備とケアマネジメント <学習のポイント> 要介護者の自立を支援し、効果的に住宅改修 を進めるにあたり、ケアマネジメントにおける住 宅改修の流れと、相談支援体制を理解し、福祉 住環境整備のアセスメントの視点を整備・把握 する。 ケアマネジメントとは・・・ 介護支援専門員(ケアマネージャー)が、利用 者から相談をうけて、住環境整備をはじめとす る生活改善に必要なさまざまなサービスを複合 的に組み合わせたケアプランを作成・実施し、 ケアプランの実施後もサービスの提供状況を定 期的・継続的にチェックして問題点への対応を 行うこと。 把握する内容として ①利用者の身体機能や 日常生活動作(ADL)能力 ②社会参加状況 ③家族の介護力 一連のプロセス ①「出会い」 希望・要望を聞きだす ②「見立て」 生活を阻害している問題点を探す ③「手立て」 解決する方法を作成 ⇒ケアプランの作成 ④「介 入」 具体的なサービスの提供 ⇒ケアプランの実施 ⑤「見直し」 必要に応じて再度問題点の解決 ⇒提供状況を確認・評価するモニタリング 福祉住環境コーディネーターとは 介護専門員が利用者とともに構築しようとし ている生活とねらいを把握し、福祉住環境 整備を行うことで解決できることは何か、他 のサービスや支援体制を利用してどのよう にコーディネートしていくのかを十分に検討 し、介護専門員と連携しながら支援を行う。 福祉住環境整備におけるアセスメント ◎アセスメントとは、 介護支援専門員が介護保険サービス利用者 のケアプランを作成するにあたり、自立を支援 するために、利用者本人の心身の状態を把握 し、課題を導きだす。 ◎アセスメントでは、 身体的特性などの基本的知識を理解したう えで、利用者との面接により、状態を客観的 に観察・確認し、利用者の生活全般の機能 を把握する。 ◎アセスメントの3つの視点 ・ 生活をみるアセスメント ・ 動作をみるアセスメント ・ 介護予防のアセスメント 福祉住環境整備の際には、 住環境だけを単独で考えるのではなく、 活動や参加状況などの全体の生活機 能を把握し、人の生活の中で住環境 をとらえることが大切。 *建築物や機具などは住環境は、 「環境因子」に位置づけられる。 住宅改修では、 基本的動作がどの程度できるか、生活動作が 行われる場所や時間帯をしっかりとらえる。 ◎基本的動作とは、 ① 移動動作 ② 立ち座り動作 ③ 段差昇降動作 ④ 姿勢保持 ⑤ 排泄動作 介護予防のアセスメントの視点 介護予防支援が必要で、ハイリス クな特定高齢者を健康診断などで 選定するための質問項目として、 厚生労働省から「基本チェックリス ト」が示された。 「基本チェックリスト」 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 運動器の機能向上 栄養改善 口腔機能向上 閉じこもり予防・支援 認知症予防・支援 うつ予防・支援 新予防給付の対象者 ○要支援1及び要支援2 ○利用者については、住宅改修サー ビスが併せて提供される場合、転倒 予防と外出を支援するための住環境 整備に留意する。 転倒予防のための住環境整備 ①どこで ②いつ ③何をしていて ④どのように転んだか? *その状況を把握し、従来のアセスメント に加え、転倒予防のアセスメントを行う。 転倒予防のための住環境整備 ①夜間、寝た状態からの点灯方法やベッドの高さ ②夜間、動線上の点灯の方法・スイッチの位置 ③スリッパの着用の有無 ④移動の動線上のじゅうたん敷の有無 ⑤動線上のコードの有無 ⑥滑りやすい床材の有無 介護保険制度を利用する前に・・・ 利用者から福祉住環境コーディネー ターに住宅改修の相談があった場合 制度上の利用について 介護支援専門員に話をつなげる 福祉住環境整備プラン 「全体のサービスを視野に入れたプランでなけ れば、有効性は低くなる!」 利用者の生活がどのように改善されるか? 具体的な助言や提言を行うことができるよう、 介護支援専門員や他のサービス事業者などと しっかりとした連携をもとに進めていくことが重 要である! 福祉住環境コーディネーターは ケアプランを作成する際に介護支援専門員が サービス提供者とともに開催するサービス担当 者会議に積極的に参加し、住宅改修のみなら ず、福祉用具も含めた全体的な福祉住環境整 備プランや通所系サービスを利用する際などを 考慮し、他のサービスと関係のある事項につい ても積極的に把握したうえで、提案することも大 切である。 地域リハビリテーション 支援体制整備推進事業 老人保健福祉圏域(市町村単位の一次圏域よ り、もう少し広範囲な圏域)ごとに地域リハビリ テーション広域支援センターを医療機関等に設 置し、PT・OTなどの専門職の技術的相談・指 導が受けられる事業で、各都道府県で取り組 みがことなる。 第2節 福祉住環境整備の進め方 <学習のポイント> 援助関係、面接技術などの相談援助の基本的 な考え方と方法、福祉住環境整備における実 践的な進め方まで、相談援助に関する知識と 技術について整理する。 「相談援助」を行う実践原則 ①個別化の視点をもち、「できること」を重視する。 ②自分で解決できるように援助する。 ③信頼に基づく援助関係を形成する。 ④社会環境になかで対象者をとらえる視点をもつ。 ⑤守秘義務とプライバシーの保護。 「個別化の原則」=相談援助の基本 (F.P.Biestek) 福祉住環境コーディネーターは 性別、年齢、家族構成、地域特性など の基本属性をはじめ、障害の原因や 程度、住環境、日常生活動作(ADL)、 手段的日常生活動作(IADL)等の要 素を、個々の対象者ごとに把握しなけ ればならない。 個別化された 福祉住環境整備を推進するためには ◎ 特定の障害や機能低下に対して 画一的な提供ではいけない。 ◎ 本人の価値観や認識 ◎ 希望や期待等を十分に把握 することが重要である。 ○ 自己決定のプロセス ⇒信頼関係に裏打ちされた援助者との関係を 通して遂行されることになる。 ○ パターナリズム(父親的温情主義:paternalism) ⇒強い立場にある者が、弱い立場にある者に 対し、後者の利益になるとして、その行動に 介入・干渉すること。 福祉住環境コーディネーターは、専門的な知識、 情報、技術を保有する「援助する側」と治療や 解決が必要な「問題」、「弱点」をもつ「治療され る側」という構図の中に、一方的で圧倒的なパ ワーの差を有するパターナリズムが発生しがち になることを常に意識しなければならない。本 人が自ら希望する生活を実現するための自己 決定を促し、本人との協働作業に取り組むこと が求められる。 援助関係を結ぶための専門的視点 ①対象者本人と援助者が 同じ空間で「一緒にいること」。 ②本人のありのままを受け止めること(受容)。 ③本人の感情にアプローチすること。 ④会話を有効に活用し、本人の話をしっかりと 傾聴して、正確に応答していくこと。 ⑤対象者との協働作業を大切にすること。 相談援助の専門的な方法 ①「説明と同意」の厳守 ②ニーズへの「気づき」を促す支援 ③相談面接の形態 ④相談面接のための環境づくり ⑤相談面接技術とコミュニケーションの特性 ⑥相談面接技術の構成要素 来所相談のメリット 面接専用の場所と時間を設定して行うため、 ①他人に話を聞かれる心配がないので、来訪 者が集中して話をすることができる。 ②本人や家族に、相談に乗ってほしいという動 機づけがある程度できているため、問題解決 に向けてスムーズに入ることができる。 などが挙げられる。 訪問相談のメリット 実際に本人が生活している場所で行われるため、 ①本人はリラックスして話ができる。 ②援助専門職にとっては、面接室や相談室では 把握できない情報を得ることができる。 などが挙げられる。 リラックスして面接に 臨めるような環境づくり ①相談者の個人的空間を尊重し、適切な距離 を保って話をする。 ②相談者との目線をできるだけ水平に近づけ て話をする(本人が車いすに乗った状態や ベッドに横になった状態の場合は、特に配慮 する)。 ③真正面から視線を合わせる位置関係は圧迫 感を与えるので、左右のどちらかに椅子をずら して座るなどの配慮をする。 ④来所相談の場合は、部屋の照明や室温を適 度に調節する。 ⑤花や絵を置くなどして、話しやすく、話し声がも れないという安心感のある環境に配慮する。 ⑥訪問相談の場合には、プライバシーの確保に も十分配慮する。 バーバルコミュニケーションとは 内容に影響を与える要素として、ニュ アンスを大きく左右する言葉の選択、 疑類言語といわれる音量、スピード、 声の質、発音、言葉を用いずに具体 的なメッセージを伝える沈黙等がある。 ノンバーバルコミュニケーションとは 感情を伝える重要な手段であり、その要 素としては、「表情」をはじめ、眼球の動き、 まばたき、涙、視線の方向、凝視の長さに 加え、しぐさやジェスチャー等の身体動作、 身長や服装などの外見的特徴、スキン シップによる接触行動などがある。 第3節 福祉住環境整備関連職への 理解と連携 <学習ポイント> 整備を円滑にすすめるためには、保健、医療、 福祉、建築など、多くの関連職種がかかわって くる。ここでは主として高齢者を対象とする立場 からそれぞれ専門性を理解し、連携を取るのか 整理する。 地域包括ケアの目的・・・ 1人ひとり異なり、時間や場所によっ ても変化しやすい高齢者が、可能な 限り、住み慣れた地域においてその 人らしく自立した日常生活を営むこと を支援すること。 地域包括ケアでは ◎介護支援専門員などを中心に、ケアにかか る職種が連携して、個々の高齢者の状況や 変化に応じて継続的にフォローアップしていく ことが重要である。 ⇒そのためには、支援に関わる専門職が自分 の領域の活動を超え、協働してサービスを提 供する「チームアプローチ」が必要である。 チームアプローチが 機能するためには 支援に関わる専門職種が自分の領域の活動を 行うだけではいけない! 利用者の ①「解決すべき問題」 ②「目標」 ③「達成までの期間」 をチームメンバーが共有し、様々な状況に対応 し連携をとる必要がある。 第4節 相談援助の実践的な進め方 <学習ポイント> 高齢者や障害者の住宅生活を支援するために、 さまざまな分野の人々が連携して、福祉住環境整 備の流れとコーディネートの役割について理解す る。 福祉住環境整備相談の留意点等 ○どのような住環境下でどのよう に生活することで行われている かを把握することにより、現在 の住環境の問題点や課題を明 確にすることが必要である。 そこで・・・ ⇒本人から直接意見や要望を聞き、正確な情報 を得る必要がある。体調が悪い際には、日を 改める。入院中であれば病院に出向いて本人 の意向を確認する。 ⇒本人の立ち合いや面接が不可能な場合には、 本人の身体機能や生活動作の現状や意向を 把握している様々な関係者から情報を得るこ とが、必要である。 高齢者や障害者本人が 福祉住環境整備を行うこ とに積極的でない理由 はなんだろう? ①日常生活の不便・不自由をしかたのないこと とあきらめている。 ②住み慣れた住まいに手を加えることへの抵 抗感がある。 ③生活がどうかわるかイメージがもてない。 ④費用の問題で家族への遠慮がある。 ⑤費用をかけても何年使えるかわからないと いった不安がある。 福祉住環境整備相談では ○生活の場を共有する家族にとって不便が生 じてはいけない。 ⇒家族の要望も十分に把握する必要がある。 ○本人の将来の身体機能低下に備える必要が ある。 ⇒本人の了解の上、医療機関から本人の身体 機能に関する情報を得て、慎重に検討し、幅 広いプランを検討する。 基本的に相談の中心は本人であるが、 必要書類の作成や工事の準備など、 高齢者や障害者本人では速やかな対 応ができない、あるいは負担になる場 合には、必要に応じて相談者側の中 心となるキーパーソンを決めておく必 要性がある。 福祉住環境整備を検討する際には、 大がかりな工事を伴うものばかりでなく、 ○家具の配置替え ○既存品の代用 ○福祉用具の活用 など 比較的費用のかからない改善案やいくつかの 案を提示し、各改善案の長所や短所を説明し、 本人や家族が考える際の判断材料をできるだ け多く提示する努力が必要である。 福祉住環境整備の目標は ①本人の在宅生活における自立と活動、社会参加 を促すことである。 ②同居する家族にも介護負担の軽減とともに安全 で快適な生活を保障するものである。 理解してもらうことが重要である! チェックシートについて 本人にとって直接福祉住環境整備と関係のな いと思われるような生活全般にわたる質問も含 まれるため、最初に質問の意図や必要性を説 明しなければならない。 <基本姿勢> 相手の話をよく聞き、問題を整理しながら問題 解決につながるよう、話しを導く。 ADL項目について 「移動動作」「排泄動作」「入浴動作」「更衣動作」 「食事動作」「家事動作」の項目ごとに記入。 レベルを表す自立、見守り、一部介助、全介助 の評価は、住環境によって異なるため、段差や 浴槽の深さ、現在使用している福祉用具につい ても併せて記入する。 契約書 契約書には工事内容、工期と引渡し時期、金 額、支払い方法、計画変更や追加工事の対処 法、施行者の過失による賠償責任、プライバ シーの保護、解約に関する項目、保障内容等 の記載があることが望ましい。 省略がある場合でも、依頼者として納得のいく 書類内容である必要がある。 工事内容の変更や細かな調整・修正工事が入 る可能性があることを契約の時点であらかじめ 明示する。 調整工事を含めた契約にするか、問題の発生 原因ごとにその所在によって追加工事費用を 負担をどうするかを、依頼者および施工者の了 解を得て、明確にしておく必要がある。 <施工後の手直し> 工期の遅れと余分な費用の発生につながるた め、できる限り手直しが行われないよう、工事 着工前に再度、現場にて細かく工事内容の確 認をすることが重要。 <工事終了後> 本人や家族、設計者、施工者の立ち合いのもと、 工事の確認を行い、実際に本人に生活動作を 行ってもらい、使い勝手を確認する。 介護保険制度の住宅改修では、 ○ 施工後に工事内容や工事金額に ついてトラブルになることがあるた め、文書で工事内容を残しておき、 依頼者、施工者、介護支援専門 員、福祉住環境コーディネーター が共有することが望ましい。 住環境整備後 使用して不便と思われたことも、しば らく使用してみると慣れによってできる こともあるので、福祉住環境コーディ ネーターは、整備個所の使いにくさが 修正工事を必要とするものかそうでな いものかの判断を求められることがある。 第4章まとめ お わ り
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