1 第4回岐阜建築鉄骨技術交流会 (かんたん構造講義) 第2部 その3 実際に計算してみましょう 小梁(単純梁)のメンバーを 計算してみます 岬建築事務所 下川 隆司 2 まずは、設計用荷重の話から 慣れていない方が多いとは思いますが (私もなんですが・・・) 数値は全てSI単位とします。 1kg=9.80665N≒10N 1t=9.80665kN≒10kN 荷重の種類としては次の様なものがあります。 ◇固定荷重 3 つまり材の自重のことです。 杉・米松 5kN/m3 檜・合板 6kN/m3 木毛セメント板 6kN/m3 ALC板 6kN/m3 石膏ボード 9kN/m3 水 10kN/m3 サイディング 11kN/m3 土 16kN/m3 モルタル・タイル 20kN/m3 コンクリート 23kN/m3 鉄筋コンクリート 24kN/m3 鉄骨鉄筋コンクリート 25kN/m3 ガラス 25kN/m3 アルミ 26kN/m3 鉄骨(鋼) 77kN/m3 アルミサッシュ 0.40kN/m2 (ガラスとも) 天井 0.20kN/m2 (一般のボード張り下地・照 明・空調器具込) 4 ◇積載荷重 施行令第85条で部屋用途別に決められた値以上。 床用 大梁・柱・基礎用 地震力用 ①居住室・宿泊室・病室 1.8 1.3 0.6 kN/m2 ②事務室 2.9 1.8 0.8 ③教室 2.3 2.1 1.1 ④百貨店・商店の売り場 2.9 2.4 1.3 ⑤劇場等の集会室(固定席) 2.9 2.6 1.6 ⑥劇場等の集会室(その他) 3.5 3.2 2.1 ⑦車庫・自動車通路 5.4 3.9 2.0 ⑧廊下・玄関・階段 ③から⑥に連絡するものは⑥ ⑨屋上広場・バルコニー 学校・百貨店は④ その他は① 倉庫・工場等の重たい場所や重量物は、実情に応 じた値としますが、倉庫業を営む倉庫の床用は 3.9kN/m2以上と規定されています。 5 フォークリフトは、動荷重としての注意が必要です。 小梁については、施行令に規定はありませ。 床用~大梁用の間で決めます。 人の載らない水平で平らな屋根については 施行 令に規定はありませんが、内規で①の半分の積載 以上を見込むことになっています。 ◇積雪荷重 積雪量(cm)、多雪地域、雪の重さは岐阜県建築基 準法施行細則でその最低値が指定されています。 雪の重さは、 一般地域では、深さ1cm当たり 20N/m2 多雪地域では、根雪で重たいため 深さ1cm当たり 30N/m2 6 7 一般、多雪地域ともに この荷重を短期荷重(3日間程度)として扱い →材の許容強度として短期強度を採用。 多雪地域ではさらに この荷重の70%を長期荷重(3ヶ月程度)として扱い →材の許容強度として長期(短期の2/3)を採用。 これより、多雪地域の屋根小梁は たわみについては→短期荷重扱いの場合で決定。 強度的には→長期荷重扱いの場合で決定。 多雪地域ではさらに 積雪時に地震が発生する確率が高いために 地震力の計算においても 短期の積雪荷重の35%を見込みます。 8 9 ◇風荷重 建築基準法施行令で定められています。 やや複雑なため求め方は省略しますが、 ・建物高さが高くなるほど ・周囲に建物等が少ないほど ・海に近いほど 風圧が強くなります。 たとえば羽島市内の高さ10mの建物では、 550N/m2 風向 880N/m2 440N/m2 天井の無い軽い屋根(たとえば瓦棒葺き100+ 木毛セメント板 90+積雪(30cm)600=790N/m2)では →母屋(790N)より胴縁(880N)の方が荷重が大 10 ◇地震荷重 各階を階高の中央で輪切り→各階の重量W W3 P3=α3・W3・C W2 P2=α2・W2・C W1 P1=α1・W1・C Wに係数を乗じ→各階の発生地震力(水平力)P 床レベルに集中的に加わるとみなします 11 12 係数α→1階を1.0として、 上階ほど鞭振り現象で大きくなる係数 13 C→材の発生応力が、 許容応力度以下となる様に設計する場合は 最低値0.2 (震度5弱相当)以上 →材の発生応力が、 塑性耐力以下となる様に設計する場合は 最低値1.0 (震度6強相当)以上 ◇ 設計荷重 以上の様な荷重の合計が、設計荷重となります。 床、床小梁の場合であれば、 (固定荷重)+(積載荷重) 屋根、屋根小梁の場合であれば、 (固定荷重)+(積載荷重)+(積雪荷重) または、 (固定荷重)+(積載荷重)+(風荷重) 壁等がある場合は、別途見込むことになります。 14 では、 実際に やって 見ましょう!! 右の様な 伏図の 事務所床 とします 15 合成床版にモルタル+タイルカーペットとすれば、 固定荷重は、 16 タイルカーペット 軽いから無視 モルタル厚30 20kN/m3x0.03=0.60kN/m2 鉄筋コンクリート平均厚120 24 x0.12=2.88 デッキPL EZ75 t=1.2 0.14 天井(下地材、照明、設備機器とも) 0.20 梁自重 0.30 合計 4.12kN/m2 設計荷重は 4.12+2.90(積載荷重)≒7.0kN/m2 17 ここで問題です! 広い事務室で、壁等は無いものとして 皆さんの経験と感覚では、b1、b2梁は どの程度の部材(SS400)になると思いますか? ① b1 H-400x200x 8x13 b2 H-200x100x5.5x8 ② b1 H-500x200x10x16 b2 H-250x125x6x9 ③ b1 H-600x200x11x17 b2 H-300x150x6.5x9 18 ◇b1の計算 19 床荷重Wは、隣接梁(今回では大梁)までの距離の 半分が自身に加わると見なします。 実際には、梁長さ当たりに均等に加わるのでなく b2を介して集中的に加わりますが、「曲げモーメ ント」や「たわみ」については大差ありません。 「せん断力」では誤差が大きいですが、鉄骨材で はせん断力で部材が決定されることはまれです。 (鉄筋コンクリートではこうはいきません) W=7.0kN/m2 * 4.5m/2 * 2(左右) = 31.5kN/m 等分布荷重を受ける両端ピン支持の部材 (梁でも母屋でも柱、胴縁でも) の曲げモーメントMは、下式で計算します。 M=W * L2 / 8 L : 部材の長さ =31.5kN/m * 9.0m2 / 8 ≒ 319kNm 部材長の二乗に比例することがポイントです 20 材の許容曲げ耐力Maは、 横座屈止材が適当な間隔で入り横座屈を無視で きる場合(fb=ftとなります)は、下式で計算します。 Ma=Z * fb Z : 材の断面係数(材の断面性能表による) fb : 材の許容曲げ強度 = 許容引張強度 SS400 : 235N/mm2(短期) 235N/1.5=156N/mm2(長期) SN490 : 325N/mm2(短期) 325N/1.5=216N/mm2(長期) 21 横座屈を無視できる座屈止め材間隔は 断面性能表等に載っています。 また 無視できるように スラブやデッキと梁天端を スタッドジベルや焼抜き栓溶接で 繋いだりします。 22 SS400を使用とすると、材の必要な断面係数Znは Zn = M / ft = 319kNm / 156N/mm2 = 319*106Nmm / 156N/mm2 = 2045000mm3 = 2045cm3 SN490を使用とすると、材の必要な断面係数Znは Zn = M / ft = 319kNm / 216N/mm2 = 319*106Nmm / 216N/mm2 = 1477000mm3 = 1477cm3 23 一方、等分布荷重を受ける両端ピン支持の材の (梁でも母屋でも柱、胴縁でも) たわみは、下式で計算します。 δ(デルタ) = (5/384)*W*L4/(E*I) L : 材の長さ E : 材のヤング係数 (鋼は鋼種に関係なく 206kN/mm2) I : 材の断面2次モーメント (材の断面性能表による) 部材長の四乗に比例することがポイントです 24 これより許容されるたわみ量をδaとすると、 必要な断面2次モーメントInは下記となります。 In = (5/384)*W*L4/(E*δa) 一方、許容たわみ量は、通常 「部材長の1/300」 としますが、スパンに比例して大きくなりますから 使用上の支障が予想される場合は、かつ 「絶対値○○cm(たとえば2cm)」としたりもします。 今回は1/300とすると、 許容たわみ量δa = 9000/300 = 30mm 25 これより、材の必要な断面2モーメントInは、 In = (5/384)*W*L4/(E*δa) In = (5/384) * 31.5kN/m * 9000mm4 /(206kN/mm2 * 30mm) = (5/384) * 0.0315kN/mm *9000mm4 /(206kN/mm2 * 30mm) = 436000000mm4 = 43600cm4 たわみは、材のヤング係数できまりますから 「SS400でも、SN490でも」必要なInは同じです 26 27 以上より 必要な材の性能は、曲げ耐力より 曲げより Zn = 2045(SS400),1477cm3(SN490)以上 たわみ制限より In = 43600cm4 以上 H形鋼の断面性能表より、これを満たす材を探すと w(kN) Z(cm3) I(cm4) H-390x300x10x16(SS400) 1.03 940× 37900× H-440x300x11x18(SS400) 1.19 2490○ 54700○ H-500x200x10x16(SS400) 0.86 1870× 46800○ H-500x200x10x16(SN490) 0.86 1870○ 46800○ H-600x200x11x17(SS400) 1.01 2520○ 75600○ ◇b2の計算 荷重⇒負担幅3.0m⇒b1(4.5m)の 0.67倍 スパン 4.5m⇒b1(9.0m)の 0.50倍 曲げモーメントM⇒b1の 0.67 x 0.52 =0.168倍 必要断面係数Zn⇒Mに比例⇒ b1の 0.168倍 もしb1と同じ材とすれば、 たわみδ ⇒b1の 0.67 x 0.54 =0.042倍 許容たわみδa⇒スパンに比例⇒ b1の 0.50倍 必要断面2次モーメントIn⇒b1の 0.042/0.50 =0.084倍 28 これより、b1の必要係数から換算して、 Zn=2045(SS400) x 0.168倍 = 344cm3 In=43600 x 0.084倍 = 3660cm4 H形鋼の断面性能表より、これを満たす材を探すと w(kN) Z(cm3) I(cm4) H-200x100x5.5x8(SS400) 0.20 181× 1810× H-250x125x6.0x9(SS400) 0.28 317× 3960○ H-300x150x5.5x8(SS400) 0.36 481○ 7210○ こんな感じで、同じような荷重の床であれば ある梁から、異なる負担幅・スパンの梁の断面の 見当をつけることができます。 29 30 おしまい
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