エネルギー・工業原料の安定的な輸入のための 日本籍

エネルギー・工業原料の安定的な輸入のための
日本籍船年間必要隻数算出モデルに関する研究
流通情報工学科
0523028
鈴木 理沙
1
研究背景

日本はエネルギー資源や衣食住に欠く事の出来ない多くの物資
を輸入に依存している
例)原油99.6%・石炭99.4%・鉄鉱石100.0%
羊毛100.0%・綿花100.0%・大豆96.2%
(原油と鉄鉱石は2006年の数値、それ以外は2005年の数値である)

輸入全体のうち海上貿易の占める割合は金額ベースで72.0%、
トン数ベースで見ると99.7%を占めている
日本にとって外航海運はライフラインである
2
日本籍船の現状
邦船社の運航船舶の約96%は外国籍船である
3,000
非常時に物資等の輸送が滞ってしまう危険性がある
2,500
(例)TAJIMA号事件(2005年)
2,000・パナマ籍タンカーで日本人船員が外国人船員によって殺害された事件
・日本の法制度が適用されないため、解決が遅れ一ヶ月以上錨泊したま
外国籍船
1,500 まの状態が続いた
日本籍船
1,000
500
19 年
99
20 年
00
20 年
01
20 年
02
20 年
03
20 年
04
20 年
05
20 年
06
20 年
07
年
年
年
0
98
19
90
19
19
85
エネルギー資源の安定的な輸送がストップ!
3
トン数標準税制
トン数標準税制とは
―外航海運企業に課される法人税・所得税につき、実際の
日本も「一定規模の日本籍船保有義務」を条件に
利益ではなく船舶のトン数を基準として、一定の「みなし利
トン税制の導入を検討中
益」を算定する課税標準の特例

トン税制は好不況に関わらず税額が一定であることから、特に好況の際には
ずっと税金を易くおさえる事が出来る

トン税制の導入は今や世界標準である
―日本を除いて、諸外国では既に16ヶ国がトン税制を導入しており、導
新税制の導入に向けて具体的な必要隻数
入国が全世界の58.6%を占めている
を知るツールが必要である

諸外国のトン税制の特徴
・低い「みなし利益」の設定
・一定割合の自国隻船保有義務
4
既存の算出モデルについて


国土交通省が日本籍船年間必要規模試算につい
て独自に算出モデルを作り試算を行っている
試算の前提条件は次の3つである。
①全て日本籍船で輸送しなければならない状態が1年間続
く。
②①の状態において必要な一定規模の経済活動・生活水
準を維持する上で必要な輸送力に対応した日本籍船を
確保する。
③日本への輸入を対象とする。
5
既存の算出モデルのデメリット

必要隻数算出のために重要な基礎的データについてヒアリ
ングを重視している
一航海当たりの航海時間に含まれる航海時間・荷役時間・補油時間・
修繕時間について考慮されていない
 また、エネルギー・工業原料輸送船を対象とした
非常時にも関わらず備蓄について考慮されていない
日本籍船年間必要隻数算出のための
航海距離等の基礎データから算出する精緻なモデルを構築する

エネルギー資源等の安定的な輸入のために政府が政策を
取る際、船の必要隻数の増減に与える影響が分からない
・緊急時に現状の航海距離とは異なる支援国から物資を輸入する際の必要隻
数算出が出来ない
・原油備蓄を活用した際の必要隻数について直ちに把握出来ない
6
本研究のモデル
基礎データを考慮した
航海距離
航海時間
修繕時間
荷役距離
補油時間
一航海当たりの航海時間
年間最大航海回数
3
積載能力
2
一隻当たりの年間輸送能力
備蓄量を組み込んだ
積載率
一隻当たりの平均積載量
年間輸入量
4
モ
デ
ル
の
流
れ
航海速力
1
年間必要隻数
備蓄量
年間輸送需要量
7
算出式の説明①
年間輸入量
備蓄量
年間輸送需要量
年間最大航海回数
一隻当たりの
年間輸送能力
一隻当たりの
平均積載量
Y  I  S・・・計算式(1)
Y : 年間輸送需要量(トン /年)
I : 年間輸入量(トン /年)
S : 備蓄量(トン /年)
年間輸送需要量
年間必要隻数
8
算出式の説明②
積載能力
積載率
L : 一航海当たりの
平均積載量(トン /回)
B : 積載能力(トン /回)
P : 積載率(%)
一隻当たりの平均積載量
年間最大航海回数
一隻当たりの
年間輸送能力
L  B  P・・・計算式(2)
一隻当たりの
平均積載量
年間輸送需要量
年間必要隻数
9
算出式の説明③
航海距離
航海速力
航海時間
修繕時間
荷役距離
補油時間
一航海当たりの航海時間
C
C : 航海時間(時/回)
D : 航海距離(マイル /回)
K : 航海速力(ノット )
J  C  E  H ・・・計算式(4)
F
一隻当たりの
年間輸送能力
)
J : 一航海の航海時間
(時/回)
C : 航海時間(時/回)
E : 荷役時間(時/回)
H : 補油時間(時/回)
年間最大航海回数
年間最大航海回数
D
・・・ 計算式(3
K
一隻当たりの
平均積載量
年間輸送需要量
年間必要隻数
(365 24  G)
・・・計算式(5)
J
F : 年間最大航海回数
(回/年)
G : 修繕時間(時/年)
J : 一航海の航海時間
(時/回)
10
算出式の説明④
年間最大航海回数
一隻当たりの
平均積載量
A : 一隻当たりの年間輸送能力(トン /年)
L : 一航海当たりの平均積載量(トン /回)
F : 年間最大航海回数(回/年)
一隻当たりの
年間輸送能力
年間最大航海回数
一隻当たりの
年間輸送能力
A  L  F・・・計算式(6)
一隻当たりの
平均積載量
年間輸送需要量
年間必要隻数
11
算出式の説明⑤
一隻当たりの
年間輸送能力
年間輸送需要量
年間必要隻数
年間最大航海回数
Y
V  ・・・計算式(7)
A
V : 年間必要隻数(トン /年)
Y : 年間輸送需要量(トン /年)
A : 年間輸送能力(トン /年)
一隻当たりの
平均積載量
一隻当たりの
年間輸送能力
年間輸送需要量
年間必要隻数
12
モデルの検証について

モデルの検証について
・原油タンカーを対象として邦船社の実際の運航隻数を使い
検証を行った よって本研究で開発した
日本籍船年間必要隻数算出モデル
・2007年の輸入量・備蓄量データを使った
は妥当であると言える

検証結果
隻数の誤差は5隻で、実際の運航隻数の約4.5%と非常に
小さい事が分かった
邦船社による運航隻数
モデルの結果
必要隻数(隻)
112
107
13
モデルを使った日本籍船の年間必要隻数
の算出について

モデルを使って、現状に近い2007年の年間輸送
需要量のデータを基に、エネルギー・工業原料輸送
船の年間必要隻数を算出した
船種
原油タンカー
石炭専用船
年間必要隻数(隻)
76
146
鉱石専用船
鉱炭兼用船
87
146
14
日本籍船年間必要隻数における国の試算と本
モデルによる結果の比較について

比較の対象を油送船等(原油タンカー・化学薬品船・液化ガス船)
とする

国の試算について
・前提条件①②③を基に既存の算出モデルを使って試算をする
前提条件
①全て日本籍船で輸送しなければならない状態が1年間続く。
②①の状態において必要な一定規模の経済活動・生活水準を維持する上で
必要な輸送力に対応した日本籍船を確保する。
③日本への輸入を対象とする。
・一定規模の経済活動・国民生活水準の確保についての指標
一人当たりのGDPを基準としてこれが100%の時を平時、35.5%の時を最低保障
水準レベルとして分けて試算をする
15
モデルによる算出方法について
本モデルの計算部
年間輸入量
比較にあたって本研究の
「年間輸送需要量」の計算
部を既存のモデルの「船種
別必要貨物量」の計算部と
同様にした
備蓄量
年間輸送需要量
既存のモデルの計算部
船種別海上貨物量
備蓄量を
考慮して
いない
・「船種別海上貨物量」は国の試算と
同じ2004年の港湾統計データより
求めた
・「一定規模の経済活動・国民生活水準
の係数」は、平時の場合を100%、最低
一定規模の経済活動・国民
保証水準レベルの場合を35.5%として
生活活水準の係数の設定
それぞれ必要隻数を求めた
船種別必要貨物量
16
油送船等の日本籍船
年間必要隻数の比較結果
◆平時の場合
必要隻数
(隻)
国の試算 259
結果
モデルに 145
よる結果
◆最低保障水準レベル
の場合
国の試
算結果
必要隻数
(隻)
92
モデルに 68
よる結果
17
比較結果の考察
 既存のモデルに基づく国の試算は、余裕
を持った多くの隻数の確保を示している
事が分かった

また、既存の算出モデルには非常時であるこ
とから備蓄量も考慮すべきである。
そうすればさらに少ない必要隻数でも一定規
模の経済活動・国民生活水準の確保が可能で
あると予想される
18
モデルの有効性
本研究のモデルによって、エネルギー・工業原料の安定的な
輸入のために政府が取り得る政策が、船舶の隻数に与える影
響について明確に分かるようになった!

年間輸送需要量に関係する政策の場合
国際エネルギー機関(IEA)の参加要件の一つに石油の備蓄基準があ
るが、今後基準が変更することによって、備蓄量が変わった時など

航海距離に関係する政策の場合
新しい港湾の開発による新航路開設や輸入国の政情不安によって他
の支援国に頼らざるを得なくなった事によって、航海距離が変更した時
など

荷役・補油・修繕時間に関係する政策の場合
貨物の輸送量は変えずに一サイクルの航海時間の短縮をして必要隻
数を減らすという効率の良い輸送を目指す事によって、荷役・補油・修繕
時間の調整を行う時など
19
結論



エネルギー・工業原料を安定的に輸入するための
日本籍船年間必要隻数を算出するモデルを開発し
た
開発した算出モデルは検証の結果、非常に精度が
良い事が分かった
モデルによって、エネルギー・工業原料輸入のため
に政府が取り得る政策が、船舶の必要隻数に与え
る影響について明確に分かるようになった
20
パナマ籍船のAnnual Feeと日本籍船の
固定資産税の比較
ハンディサイ ケープサイ
ズバルカー ズバルカー
VLCC
コンテナ船
パナマ
US$12,690
US$18,350
US$23,900
US$14,840
日本
US$28,438
US$58,438
US$100,000
US$77,344
日本籍船の方がパナマ籍船より3.7倍の固定資産税がかかる!
21
外国籍船の危険性
TAJIMA号事件(2005年)
日本の法制度が適用されないため手続きが遅れて、姫路港に
-パナマ籍タンカーで外国人によって日
入港していたにも関わらず、一ヶ月以上錨泊したままの状態が続いた
本人が殺害された事件
エネルギー資源の安定的な輸送がストップ!
TAJIMA号の管轄権はパナマにある




日本の刑法が適用されないため、刑事裁判管轄権
を持つパナマ政府の要請を待たずに日本政府が被
疑者を拘束する事が出来ない
パナマとの間で逃亡犯罪人引き渡し条約がない
パナマには国外犯を裁く法律がない
22
トン数標準税制

トン数標準税制額
=(船舶のトン数×みなし利益×運航日数)×法人税率
現行の法人税額=(収益-費用)×法人税率

トン税制導入国
イギリス、ドイツ、米国、韓国、インド…..等の16ヶ国
トン税制の効果
-自国籍船の増加-
(例)
英国(2000年導入):1999年
379隻
ドイツ(1999年導入):1998年 1,482隻
自国隻船が
増加した!!
2005年 608隻
2005年 2,100隻
23
国土交通省の試算結果

平時の場合
年間必要
隻数
コンテナ船 ドライバル
カー
油送船等
その他
計
226
259
26
1280
769
最低保障水準レベルの場合
合計隻数のみの算出で約450隻である。
24
国の試算方法

最低保障水準レベルでの「一定規模の経済活動・国民生活
水準の係数」の設定について
(1)標準世帯の実収入を525,254円
(2)生活保護世帯の生活保護基準額を175,170円(186,486円)
※()内の数字は、3人/世帯を4人/世帯に換算した金額
非常時における最低保障水準として、(1)と(2)の比より、
186,486円÷525,254円=35.5%
25
本モデルの定式化における記号
V:年間必要隻数
(隻/年)
Y:年間輸送需要量
(トン/年)
S:備蓄量
(トン/年)
I:年間輸入量
(トン/年)
A:一隻当たりの年間輸送能力
(トン/年)
L:一航海当たりの平均積載量
(トン/回)
P:輸入時の積載率
(%)
B:積載能力
(トン/回)
F:年間最大航海回数
(回/年)
G:修繕時間
(時/年)
J:一航海当たりの航海時間
(時/回)
H:補油時間
(時/回)
E:荷役時間
(時/回)
C:航海時間
(時/回)
K:航海速力
(ノット)
D:航海距離
(マイル)
26
既存の算出モデル
品目別海上貨物量
モ
デ
ル
の
流
れ
既存の算出モデルのデメ
リット
①「船種別海上貨物量」の算出方
法
船種別海上貨物量
 非常時にも関わらず備蓄量を
考慮していない
一定規模の経済活動・国民
生活活水準の係数の設定  原油備蓄を活用した際の必要
隻数について直ちに把握出来
航海距離や備蓄量等の基礎データ
船種別必要貨物量
①
ない
貨物と船種の対応づけ
からの精緻なモデルとなっていない!
船種別平均積載率
船種別必要船腹量
船種別平均船型
船種別年間運行回数
船種別平均輸送日数 ②
船種別年間必要隻数
②「船種別平均輸送日数」の算出
方法


船社へのヒアリングに頼ってい
る
緊急時に現状の航海距離とは
異なる支援国から物資を輸入
する際の必要隻数算出が出来
ない
27
国際エネルギー機関(IEA)

参加国について
OECD加盟国(現在30カ国)であって、かつ、備蓄基準(前
年の1日当たり石油純輸入量の90日分)を満たすことがIEA
に参加する要件

日本の現在の備蓄量(2007年10月現在)(トン)
国家備蓄
(100日分)
原油
保有量
43,969,850
民間備蓄
(84日分)
原油
17,251,370
製品
21,721,710
28