アメリカ反トラスト法 と ネットワーク外部性 弁護士 高橋郁夫 1 アメリカ反トラスト法 の 基礎知識 反トラスト法の理念 アメリカの経済活動-強靱、生産性の高さ 反トラストは、国家ポリシーの基礎 力強い競争がある社会 • 低価格 • よい製品 • 偉大な消費者の選択 消費者の選択 – 売値を安くし、質を高くするパワフルなインセ ンティブ 反トラスト法の歴史 英国におけるコモンローの歴史 – (効力の否定、損害賠償) 南北戦争-アメリカ産業は急激に発展 – 「トラスト」-信託制度を利用したビラミッド型の 企業支配組織 反トラスト法の制定 – 各州における反トラスト法の制定 – 1890年シヤーマン法の制定 反トラスト法の二つの要求 会社は消費者を傷つ ける競争を制限する 合意をなしえないこと 一つの会社は、独占 できないこと、ないし は、不公正な行為に より独占しようとする ことはできないこと 損差 害止 賠請 償求 訴訴 訟訟 反トラスト法の仕組み クレイトン法 ・価格差別・排他条件付き取引・株式または資産の取得 取引制限の 合意の禁止 シャーマン法 消費者 の選択権 独占行為の禁止 刑 差事 損止的 害請コ 賠求ン 償訴ト ロ 訟ー ル 取引制限の合意 数州間または外国との取引または商業を制限するす べての契約,トラストその他の形態による結合また は共謀は,これを違法とする(シヤーマン法1条) 水平的制限 マーケット パワー カルテル 市場 排抱 他き 的合 取わ 引せ ・ 独占行為の禁止 (シャーマン法2条) 数州間または外国との取引または商業のいかなる部 分をも独占し,独占を企図し,またはその目的を もって1人もしくは数人と結合もしくは共謀をする者 – 市場において、独占的地位を有することじたい は、違法ではないが、反トラスト法は、市場から の不当な排除ないしは競争能力を重大に損な う戦略をもって独占を維持したり、独占を得よう と試みることは、違法となる。 価格差別 同等同質の商品の異なる需要者間において価 格の面で直接または間接に差別することは, (略) かかる差別の結果が商業のいずれかの部 分において競争を実質的に減殺することとな りもしくは独占を形成するおそれがあり,ま たは、かかる差別の利益を許与する者もしく はこれを知って受ける者についての競争もし くはこれらのいずれかの者の顧客についての 競争を侵害し破壊しもしくは阻害することと なる場合(クレイトン法2条) 価格差別 2 供給者 需要者 排除条件付き取引 その貸借者または購入者に,賃貸者または販 売者の競争者の物品の使用または取扱いを行 わない旨の条件,協定または了解に基づいて これを行うことは,(略) 商業のいずれかの分 野において競争を実質的に減殺することとな りまたは独占を形成するおそれがあるときに は,これを違法とする(クレイトン法3条) 反トラスト法の執行機関 刑事的コントロール – 司法省(取引制限・独占に対するシャーマン法 違反) 差止請求 – 司法省、FTC、私人 損害賠償請求 2 マイクロソフト事件を追う マイクロソフト事件の経緯 ライセンス事件(1994年7月15日の同意審 決から95年裁判所命令への上訴) 裁判所民事侮辱事件(1997年10月20日か ら始まる) 98年から現在までのトライアルによる審理 事件 ライセンス事件 1994年7月15日 同意審決 ライセンス契約の期間限定・不更新の罰禁止 • OEMのライセンシング、販売、配布を禁じる 契約の禁止・プロセッサー数による契約の禁止 • コピー数によるライセンス契約以外の禁止 • 非マイクロソフト製品の非ライセンス等の条件 とするライセンス契約を行わないこと. • MSはランプ・サム・プライシング行為を利用 できない。 • 秘密保持契約について(など) • ライセンス事件の経緯 1995年2月14日-同意判決は公共の利益 に合致しないというSporkin裁判官の法 的見解 上訴 1995年6月16日、控訴審 – 地裁での判断は、その権限を越えるもので あるとして、結局、同意判決が、公共の利 益に合致するものとされたのである。 民事裁判所侮辱事件 1997年10月20日-司法省・民事裁判所侮 辱の申立 – OEMに対してWindows 95のライセンスの 条件としてIE3.0 のプレインストールを条 件 – 将来、IE4.0についてもその抱き合わせは 同意判決のセクション4の (E) (i) 項に違反 する – 司法省は、マイクロソフトと顧客との秘密 保持契約が司法省の調査を妨げていると主 張した。 民事裁判所侮辱事件2 1997年12月11日裁判所侮辱とは考えないが、暫定的差 し止め命令 事実認定および救済策についてスペ シャルマスターに審理をゆだねるとい う判断 マイクロソフトは、これを争う。 民事裁判所侮辱事件3 1998年1月21日の部分的合意 Windows95-OSR2 – IE3を削除できること – アイコンを消去し、スタートメニューからとりはずすこ と – OEMは、OSR2.5ではなく、OSR2.0 を供 給してもらうことができること、 民事裁判所侮辱事件4 6月23日判断 暫定的差し止め命令は、適切な通知に 関する規定の誤読と第4項 (E)(i)の誤読 から生じている。 統合製品についての判断能力について 民事裁判所侮辱事件5 高裁は、裁判所には技術の進化を判断す る能力がない – (i)利用者は別個のブラウザーのアプリケー ションソフトを立ち上げる必要がなくなる – (ii)ブラウザーの統合は他のアプリケーション ソフトの性能を高める効果がある – (iii)Internet Explorerの機能により、ブラウ ザーに関係ないオペレーティング・システム自 体の性能が向上している、とする。 Windows98事件 司法省および州は、1998年5月12日、 反トラスト法違反の訴訟を提起 – OEMによって製造する業者のライセンス契 約について初期画面のディスプレイを修正 することを禁じた条項-取引制限 – ISPとの間のブラウザーについての契約 – Windows98のOSとInternet Explorerは独立 の需要を有する2個の商品-Windows98は抱 き合わせに該当する Windows98事件2 1999年の1月13日まで政府側の証人尋問 が続き、その後、マイクロソフト側の 証人尋問が開始された。 IE のみを除去する実験などが行われた。 3月から5月までの休み 6月からさらに証言が続けられ、6月24 日で証人尋問は終了した 事実認定 1 11月5日事実認定 – マイクロソフト社の独占を認定 – 1 背景 – 2 関連市場(インテル互換PC OS) 需要維持性 (サーバー、マックその他の代替性) • 供給対応可能性 -鶏と卵(アプリケーション参入 バリア) • – 3 マイクロソフトの独占力 事実認定 2 マイクロソフトの独占力 – マイクロソフトのマーケットシェア • 95パーセント(ここ2、3年) – 参入のアプリケーションバリア – 選択肢の欠如 参入の アプリケーションバリア 継続的なバージョンアップ • 失敗の場合の退出コスト • 正のネットワーク効果・フィードバック効果 • アプリ アプリ os OS 事実認定 3 独占力の裏付け – ミドルウエアの脅威 • NSのプラットフォームとしての発展を防止しよう(79以 下)とする行為 • 重要な技術情報を開示しなかった(90) • IEを開発し、それの利用に報奨を与え、流通からNNを 排除しようとした • 他の会社(インテル、アップル、リアルネットワークス、 IBMなと)も同様な経験 – JAVAの脅威に対する行為 • 「Windowsへの実装をして、他の実装と互換性をとれな くした(387以下)」 • 「デベロッパーに対してマイクロソフトのJAVAを用い るように誘引した(395)」 事実認定 4 消費者への影響 – 性能の向上、料金の低下 – ウエブブラウザーやJAVAの実装を含めてミドル ウエアによる参入バリアーを低くしようとする努 力をさまたげ、消費者を傷つけた – インターネットエクスプローラーを削除しえない こととして、消費者にフラストレーションと混乱 をきたしているのである。 法的結論 2000年4月3日 独占力を反競争的な手段を用いて独占 力を維持し、ウエブブラウザ市場を独 占しようとした。-法2条に違反 不法にウエブブラウザーと基本ソフト を抱き合わせし、シャーマン法1条に違 反する。 他社とのマーケッティングのアレンジ の効果-違法な排他取引にあたる. シャーマン法2条(独占) A「反競争的な手段による独占力の維 持」 – 「独占力」 – 「反競争的な手段による独占力の維持」 • • • a フラウザーの脅威 b JAVAの脅威 c MSの全体としての行為 B「副次的マーケットにおける反競争的 な手段による独占力の取得の試み」 「反競争的な手段による 独占力の維持」 a フラウザーの脅威 – OEMチャンネル – ISP(IAP)との関係 – ベンダー・アップルとの関係 b JAVAの脅威 c MSの全体としての行為 – 行為を全体とみるとき、イノベーションを 刺激するソフトウエア業界を台無しにして、 消費者の利益を侵害した 「副次的マーケットにおける反競争 的な手段による独占力の取得の試 み」 要件 – (1)被告は、掠奪的ないしは、反競争的行為 をとること – (2)独占する意図があること – (3)独占力をえる危険な蓋然性があること NSとの市場の分割の試み(1995)は、明 確に(1)の要素を満たす。またそれらの 行為について見るとき、責任が認めら れる シヤーマン法1条(抱き合わせ) – (1)二つの「製品」が、含まれ – (2)抱き合わせ商品を得るためには、消費者 には、タイド製品も購入せざるをえないこ と – (3)相当程度州際取引でなささること – (4)抱き合わせ商品で「マーケットパワー」 を有すること シヤーマン法1条(抱き合わせ)2 – マイクロソフトは契約および技術的なもの であるとの主張 – 裁判所は、ワシントン控訴審の判決を(1)被 告の視点から見過ぎる(2)現実を無視してい る(3)利益の衡量を放棄している、と批判す る。 – マーケットの現実からながめるとして、裁 判所は、別個の商品でしるとして「抱き合 わせ」であると結論 シヤーマン法1条(排他的取引) 以下の点では第1条違反とはなしえない – (1)契約条件によって示される排他性の程度および 取引の該当性 – (2)契約によってライバルが、どの程度、市場から 排除されるかどうか。 – (3)取引の経緯において契約の反競争的効果の程度 – (4)被告による正当化の存在 – (5)契約の期間・解約可能性 – (6)同様の利益をえるための他の選びうる手段の可 能性などから総合的に判断 分割提案 米司法省などは4月28日、同社に対する是 正措置案を米連邦地裁に提出した。 OS(基本ソフト)事業と、それ以外の応用 ソフト事業に会社を二分割するという内容 MSは「死刑判決に等 しい」と徹底抗戦の 姿勢を崩していない。 3 ネットワーク外部性の概念 と反トラスト法 ネットワーク外部性とは 「製品・サービスを利用するユーザー数が増 大するほど、個々のユーザーがその製品・ サービスから得られる便益が増大する」とい う性質 直接的効果-ユーザー数の増加自体が便益の増 大に直結する効果である 間接的効果-当該製品・サービスにかかわる補 完的製品・サービスが多様になるために、当 該製品・サービスから得られる便益が増大す る効果 ネットワーク外部性 と反トラスト法 将来の課題である 日本法における問題点 to be continued--- 最後に http://www1.sphere.ne.jp/netlaw 上記に本日のスライドをあげますのでご参 照ください。
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