ある日の当直明け •土曜日の朝7時半に,やれやれ,ようやくこの当直も 空けるかと思って検食の朝食を食べようとしたところ •病院のすぐ隣にある工場から,職場で朝の会議中に突 然頭が痛くなったから受診したいとの電話を受けた •電話をしてきたのは本人(56歳男性)だから,当然意 識は清明である.昨夜は重症患者が2人も入院したが. あなたはあと1時間で当直勤務が終わり,引き継げる •休日なので頭部CTを撮影するためには放射線技師を呼 び出さなくてはならない.いずれにせよ,この場は即 答しなければ・・・ まずは電話口での回答 どれにしよう • 今すぐ来てください • もう少し後で(8時半過ぎ)に来てください • 脳神経外科のある病院に連絡してください あなたの頭の中 いくつものステップ • • • • • • 今すぐ来院? くも膜下出血? CT施行? その結果? 脳外科紹介? 移送方法? 56歳男性,鉄工所勤務 • 今朝の会議中に突然頭が痛くなった • 既往歴:特記すべきことなし • 外来には普通に歩いて入ってきた.病歴聴取に支 障なし • 体温36.5度,血圧140/80,脈拍76/分,整 • 他に身体所見異常なし,神経学的所見は?? CTどうする? 放射線技師& 神経内科医 or脳外科医 呼び出し? いつでも,どこで も? 検査前確率と検査 • 検査前確率があるのなら・・・ – 来院前確率→病歴後確率→診察後確率→検査 • 検査の意義:検査によって診療行動が変わるか – “安心したいから”ではない – エビデンスがあるのか? 検査の本来の意義・目的 • 検査によって新たな情報が加わり,かつ • その情報が診療行動を明らかに変える それ以外の理由の数々・・・・ 患者・家族が希望するから,自分がやりたいから,指導医に言われ たから,カンファランスのプレゼンで必要だから,患者(の財布)への 侵襲が少ないから,技師がいるから,病院の収益になるから,論文 に必要だから,教科書に書いてあるから・・・ 先進各国の CT台数 (1996年) 見逃してはいけない頭痛:Harrison ーこの中でCTが本当に役立つの は?ー • 髄膜炎 • くも膜下出血 • 脳腫瘍 • 側頭動脈炎 • 緑内障 “役に立つ”って一体どういうこと? 突然の頭痛の診断にCTは役立つ? • 実際に役に立った例は? – “役に立つ”って? • 頭痛の訴えと比べて感度は? • 実際の写真で見てみよう 60歳男性 午前1時にカラオケで歌っている最 中に,突然の頭痛で救急外来受診. 盛んに頭が痛いと訴えるが,呂律が 回らず,もうろうとしている 60歳男性:カラオケ中の頭痛 43歳女性 趣味のエアロビクスで踊ってい る時,突然の頭痛で救急外来 受診.独歩可能,意識清明, 強い頭痛を訴える 43歳女性:エアロビクス中の頭痛 くも膜下出血の診断とCT • “診断”という言葉のあいまいさ:感度?特異 度? • SAHの診断では,まず感度が大切 • CT:感度=検出力は病歴に劣る!! – 軽症のSAHの見落とし – 脳静脈洞血栓症や動脈解離の見落とし • プライマリケア場面と脳神経外科の違い CTの感度90%の過酷な条件 • SAH発症後24時間以内 – 2日後には76%,5日後には58%に低下 • 極薄いスライス厚: 3mm(通常は10mm) • 硬口蓋に平行にスキャン • 貧血がないこと:等吸収の可能性 • Motion artifactなきこと くも膜下出血誤診率 • 80年代:23-37%: Iowa • 90年代:25%: Connecticut CTの性能が向上してもほとんど関係な い!! くも膜下出血誤診ワースト3 1. 機能性頭痛:筋収縮性頭痛,偏頭痛 2. 発熱例:インフルエンザ,髄膜炎,脳炎 3. 嘔吐例:急性(ウイルス性)胃腸炎 これらの疾患が落とし穴になりやすいのは・・・・ 比較的状態がいい(意識は清明) 頭部CTに異常なし 機械屋,写真屋ではない 医師としての務め • 病歴,診察能力を高める →検査前確率を高める • 検査の特性・限界を知る 56歳男性,鉄工所勤務 • 今朝の会議中に突然頭が痛くなった • 既往歴:特記すべきことなし • 外来には普通に歩いて入ってきた.病歴聴取に支 障なし • 体温36.5度,血圧140/80,脈拍76/分,整 • 他に身体所見異常なし,神経学的所見は?? くも膜下出血での頭痛以外の症状 • • • • 項部硬直:21-86% 痙攣発作:32% 意識障害:29% 神経局在症状:1336% • 発熱:8% • 眼底出血2% 突然発症の頭痛の鑑別診断 • • • • • くも膜下出血 未破裂動脈瘤の急激な拡大 脳静脈洞血栓症 脳動脈解離 機能性頭痛(偏頭痛,緊張性頭痛) 実際にはこうではない→次のスライド 実際の鑑別診断 • くも膜下出血 • • • • 未破裂動脈瘤の急激な拡大 脳静脈洞血栓症 脳動脈解離 機能性頭痛(偏頭痛,緊張性頭痛) “最悪の頭痛”でSAHの可能性 25% (Lancet 1994;344:590-593) 高い?低い? “最悪の頭痛” の原因 SAH 他神経疾患 原因不明 重みつき検査前確率:私の場合 SAH 原因不明 他疾患 CT結果の重みつき予想 陰性 陽性 救急車依頼 転送 この症例でのCTの位置付け では脳神経外科では何故撮影したのか ープライマリケア場面との決定的相違ー • 他疾患(脳腫瘍,脳実質内出血など)の除外 • 診療行動の決定 – CTが陰性→腰椎穿刺 – CTが陽性→脳血管造影 その後の顛末 • • • • 頭部CT:異常なし 腰椎穿刺で血性髄液 脳血管造影で右中大脳動脈に動脈瘤 クリッピング手術後,無事退院 Key message • 医療水準が同じ先進諸国の5倍から10倍のCTを 保有する日本におけるCT撮影の無駄 • くも膜下出血の診断において,CTの感度は病歴 よりも低い • 検査の意義と位置付け – プライマリケアと専門医の違い!!
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