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第2回&第3回マージ・バージョン
だから日系企業は苦労する?:
華東地域に進出した日系企業の十年の変化を追って
園田
茂人
東京大学大学院情報学環&
東洋文化研究所新世代アジア研究部門教授
0.宿題へのコメント
宿題:「中国とのビジネスを行うにあたって、日
本の企業はどのような人材を中国に派遣すべきだ
と思うか。そして、それはなぜか。こうし政策は
どのようにして実行が可能となるか。これら3点を
含め、1000字以内で議論しなさい」
提出者:15名
回答例
*一定程度中国で仕事をしたことがある、中国語
がわかる日本人(渡邉)
*欧米・中国などに留学した経験がある者(桑原、
閻偉)
*日中共働を指向する人(張永祺)
*日本で5年以上の実務経験がある中国人(楊為
舟、角野、ホンカサロ・サミ)
1.私の日系企業調査史
(1)駐在経験者を対象にした調査
*質問票調査A(1999年2月~9月)
・調査対象:(社)日本監査役協会主催の筆者の
講演に参加した監査役・及びその紹介者(サンプ
ル数205)
・質問内容:本社の海外人事に対する評価、アジ
ア駐在員として必要な条件、など
*質問票調査B(2001年8月~11月/2010年8
月~)
・調査対象:上海から蘇州に位置する日系企業で
働いている日本人ビジネスマン(サンプル数71
/87)
・質問内容:中国人へのイメージ、ビジネス・パ
ートナーへの信頼度、など
*インタビュー調査(1991年10月~2000年2
月)
・調査対象:アジアへの駐在経験をもつビジネス
マン(雪だるま式のサンプリング+割当法による、
サンプル数101)
・質問内容:駐在中に遭遇した困難やトラブル、
現地に派遣されてから帰国するまでの経緯など
(2)現地従業員/マネジャーを対象にした調査
*質問票調査A(1991年5月~1992年12月/
2007年2~5月)
・調査対象:アジア5地域(中国、台湾、タイ、
マレーシア、インドネシア)の日系企業で働く現
地従業員(サンプル数11,104/3,639)
・質問内容:日本人へのイメージ、労働条件に対
する評価、日系企業への選好など
*質問票調査B(1995年9月~1997年12月)
・調査対象:アジア、北米、ヨーロッパの日系企
業で働く現地人マネジャー(サンプル数664)
・調査内容:企業内での意思決定権限の分布、職
務待遇への満足度など
*質問票調査C(2001年8月~11月/2010年8
月~)
・調査対象:上海から蘇州に位置する日系企業
で働く現地従業員(サンプル数152と164)
・質問内容:日本人へのイメージ、日本人との
コミュニケーション頻度、など
いくつかの知見(1)
日本的経営に対する評価
図 3-4 中国における日本的経営に対する評価:2 時点比較(単位:%)
注)スコアは「有用だ」と回答した者の割合を示す。
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いくつかの知見(2)
日系企業と欧米系企業の待遇評価
図 4-4 中国における労働条件をめぐる日欧比較:2時点
注)数値は日系企業の方が優れていると回答した%から欧米系企業の方が
優れていると回答した%を引いた値。
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いくつかの知見(3)
日系企業への選好度の変化
表3 現地系企業との対比でみた日系企業への企業選好:2時点比較(単位:%)
タイ
マレーシア
1991
2007
現地系企業
25.3
25.4 現地系企業
日系企業
21.1
30.7 日系企業
どちらも可
52.6
43.9 どちらも可
インドネシア
1991
中国
台湾
2007
1991
2007
1992
2007
1992
2007
10.3 現地系企業
41.4
20.5 現地系企業
40.8
37.9 現地系企業
36.2
14.8
21.2
26.5 日系企業
17.9
21.4 日系企業
21.7
11.7 日系企業
24.1
29
68.9
63.2 どちらも可
40.6
58.1 どちらも可
37.5
50.4 どちらも可
39.7
56.2
9.9
表4 欧米系企業との対比でみた日系企業への企業選好:2時点比較(単位:%)
タイ
欧米系企業
日系企業
どちらも可
マレーシア
インドネシア
中国
台湾
1991
2007
1991
2007
1991
2007
1992
2007
1992
2007
32.5
24.8 欧米系企業
26.7
24.1 欧米系企業
22.8
17.5 欧米系企業
40.3
53.2 欧米系企業
24.6
12.7
9.5
34 日系企業
22.2
17.9 日系企業
25.2
23.7 日系企業
12.3
8.4 日系企業
36.3
35.4
48.1
41.1 どちらも可
51.1
58.8 どちらも可
47.5
38.4 どちらも可
39.2
51.9
58 どちらも可
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2.2001年の華東調査の十年後を追って
(1)「二極分化」が進む現地従業員:中核人員
の成長と言えるか?
*日本語がわかる社員、わからない社員:現地
化のジレンマ(図1,2)
*長期勤続者の誕生(図3、4):彼らの会社
への貢献は?
*欧米系に比べられ、中国系にキャッチアップさ
れる企業(図5):日系企業のメリットは?
図1 従業員の年齢
図2 従業員の勤続年数
図3 日本人駐在員との会話の頻度
図4 日本語の理解度
図5 同じ条件ならいきたい企業
(2)依然として「現地語ができない」日本人駐
在員:それでよいのか?
*現地語を軽視する日系企業(図6、7、8):
意図的、それとも仕方なく?
*拡がらない現地でのネットワーク(図9):細
かいことは現地人スタッフ頼み
図6 中国語の会話能力
Figure 6 Expatriates:
Proficiency of Chinese
3.00
2.80
2.60
2.40
2.20
2.00
1.80
1.60
1.40
1.20
1.00
Speaking
Comprahensive of
Chinese
Korea 2001
Hearing
Comprehensive of
Chinese
Korea 2010
Reading
Comprehensive of
Chinese
Japan 2001
Japan 2010
図7 通訳の必要度
Figure 7 Expatriates:
Necessity of Translator
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
Korea
2001
Always
Korea
2010
Many times
Taiwan
2001
Taiwan
2010
Sometimes
Japan
2001
No
Japan
2010
Hard to say
図8 事前に中国語を習ったか
Figure 8 Expatriates:
Learning Experience of Chinese
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
Korea 2001
Korea 2010
Yes
Japan 2001
No
Japan 2010
図9 現地での「つきあい」
Figure 9 Expatriates:
Social Capital in China
250.0%
200.0%
150.0%
100.0%
50.0%
0.0%
Friends in Local Business Partner
Firends in Foreign Competitors
Friends in Chamber of Commerce
Friends in Local Government
Korea
2001
Korea
2010
Taiwan
2001
Taiwan
2010
Japan
2001
Japan
2010
60.7%
25.9%
58.6%
65.5%
58.9%
37.6%
72.4%
31.5%
31.6%
15.8%
63.2%
21.1%
49.1%
10.4%
52.1%
13.5%
40.8%
42.3%
55.5%
17.1%
40.7%
34.3%
56.8%
16.4%
まとめ(1)
*華東地区に進出した日系企業では、駐在員の
「使い回し」が発生しており、高齢化が進んでい
る。これも、若年駐在員では用が足りないばかり
か、人材の供給がスムーズに進んでいないためで
ある。他方で現地では、日本人と密接に連絡をと
る長期勤続者が生まれつつあり、彼らが実際には
日本と中国の「パイプ役」となるケースが多い。
まとめ(2)
*近年は中国人の日本留学経験者を中国ビジネス
に利用しようとする傾向が強い。しかし、製造業
の現場に、こうした留学経験者が派遣されるケー
スは少なく、人材のミスマッチが生じている。
*韓国と比べると、日本人駐在員の「文化資本の
欠如」が目につく。その理由として、国内におけ
る労働市場での競争の強弱、国内教育市場の構造、
中国での駐在に対するインセンティブの強弱など
が考えられる。日本にとって中国は重要な市場と
言われているものの、その対応は、韓国に比べて
明らかに鈍く、かつ本社指向的である。
参考文献
園田茂人(2001)『中国人の心理と行動』NHKブック
ス
園田茂人(2003)「日系企業から中国人従業員が流出する」
『エコノミスト』6月17日号,50~53ページ,毎日新聞
社.
園田茂人(2011)「面子が立つか立たないか それが付
き合い方の基本」『週刊東洋経済』2月26日号(掲載予
定)