アンケート調査の実施と注意点

アンケート調査の実施と注意点
情報リテラシー演習
深町 珠由
目次
 アンケート(質問紙)とは何か
 アンケートの利点・欠点
 項目作成の基礎
 回答方法選択の基礎とコーディング
 倫理上の問題
 参考文献
アンケート(質問紙)調査
とは何か?
 言葉を媒介とした研究法(質問紙法)

人間の意識や行動を測定する目的(心理尺度)
各種知能検査(ビネー式、WAISなど)
 各種性格検査、職業興味検査など


社会に生起する現象・実態をとらえる目的(社
会調査)

国勢調査
アンケートの利点・欠点
 利点:


多人数に同時に実施できる→大規模な統計処
理が可能
安価な費用で済む
 欠点:

調査対象者の防衛がはたらきやすい(内面を
偽って回答する、いい加減な回答をしやすい)
→尺度の信頼性の欠如につながる
項目作成の前に
 測定する内容(構成概念)を明確化する


(例)「休日の過ごし方」「親子の会話における
話題」など
漠然としたテーマは避ける
 項目作成の参考になる情報を探す


同種のテーマを行った先行研究・調査を探す
あらかじめ自由記述等による予備調査を行い、
項目の精選を行う(誰にたずねても同じ答えし
か返ってこないような項目は外す)
項目作成上の注意点(1)
 項目の量・内容は対象者の質に合わせる
小学生を対象とした場合に、難しい漢字は外す
 調査目的と関連のない質問は除去し、量をおさえる
→何でも聞けるうちに聞いておこう、という姿勢は、より
重要な質問項目への回答の質を低下させる

 自己報告型の質問項目に気をつける
自分の性格、興味、態度などを回答させる場合
 社会的に望ましい自分の姿を回答する傾向あり(「ウソ
をついたことがない」という質問に「はい」と答える等)
 調査対象者が答えやすい質問内容にし、個人データに
関するプライバシーに配慮する

項目作成上の注意点(2)
 項目の配列が回答へ影響する(carry-over effect)
前に回答した内容が後の回答へ影響する(「UFOを信じま
すか(はい)」→「地球外生物の存在を信じますか(はい)」)
 この影響をなるべく避けるために・・・
 調査目的上重要な項目はなるべく最初の方へ配置
 回答者のプライバシーに関する項目や答えにくい項目は
(調査全体に対する回答への動機づけを下げる可能性があ
るので)なるべく最後の方へ配置
 項目の順番をランダムに入れ替えたパターンを数部作り、
配布する方法もある(カウンターバランスをとる)(最高裁裁
判官への国民審査は、2番目に記された人への不信任が最
も多い→配列順序による結果の歪みの例)

項目作成上の注意点(3)
 ことばづかい・文章表現(wording)の問題
調査対象者の中で最も理解力の低い者に合わせた表
現・用語を選ぶ(特に大学生以外を対象とする場合)
→難しい質問は深く考えずに肯定する傾向(黙従傾
向)
 調査対象者は、作成者が想定したのと必ずしも同じ概
念を抱くとは限らない
 賛否を問う場合、「○○に賛成ですか」というより、「賛
成ですか、それとも反対ですか」と両方向から問うべき
→黙従傾向による歪みを小さくするため
 反転項目を作成する場合もある(「私は人前に出ること
が好きだ」「私は人目にさらされるのは嫌いだ」)

項目作成上の注意点(4)

1つの項目の中に2つ以上の論点を含む(doublebarreled question)は極力避ける
 例)「お父さん・お母さんのことが好きですか、嫌いですか」
→一方が好きでも一方が嫌いな場合、回答に困惑する
 例)「原発は危険なので、原発推進に反対しますか」
→前提を決めつけているため、その前提を認めていない回
答者を無視する内容である

一般論としての質問か、個人的問題としての質問か
 「あなたは麻薬の使用を認めますか」・・・一般論
 「あなたの家族が麻薬を使用することを認めますか」・・・個
人的問題
 回答者の自我関与の違いがあり、結果が異なることが多い
回答方法選択の基礎(1)
 2件法
「はい」「いいえ」、「賛成」「反対」
 評定は大まか、情報量少ない、比較的多数の項目
でも実施可能、低年齢者でも利用しやすい

 3件法
「はい」「?(どちらともいえない)」「いいえ」
 2件法とほぼ同じだが、「?」(中間項)に回答が集中
すると分析が難しくなる

回答方法選択の基礎(2)
 多肢選択法
欲しい物は?「携帯」「PC」「デジカメ」「DVD」「車」
 4つ以上の選択肢から一つ(または複数)選択させる

 評定法
「とてもあてはまる」「ややあてはまる」「どちらともいえ
ない」「ややあてはまらない」「全くあてはまらない」
 程度・頻度を複数の段階(5段階、7段階など)で評定
 「とても」「やや」「あまり」等の形容詞は、感じ方に個
人差があるので注意

回答方法選択の基礎(3)
 順位法
複数の選択肢の順位づけを求める方法、全部の順
位づけをしたり、上位のみ順位づけする方法もあり
 順位づけする項目数が多すぎないように注意

 一対比較法
政権を任せるとしたら?「自民党」「民主党」
 すべての項目でいずれか一つを強制的に選択させ
る方法、2件法に類似

コーディング(1)
 2件法、3件法の場合
「はい」=1、「いいえ」=0、「?」=0.5、など
 男女のコーディングもどちらかを1,どちらかを0、など

 評定法の場合
「とてもあてはまる」~「全くあてはまらない」を5~1に割り
当てる、など(5段階の場合)
 反転項目がある場合は、数値の割り振りを逆にする

 「私は外向的だ」:「とてもあてはまる」5 ~ 「全く当てはまらない」1
 「私は内向的だ」:「とてもあてはまる」1 ~ 「全く当てはまらない」5
コーディング(2)
 順位法

1位、2位に回答された頻度を数えるなど
 多肢選択法・一対比較法
その後の分析方針によるが、機械的に数値を割り当
てるなど(「PC」=1、「DVD」=2・・・)
 「~3000円」=1、「3001円~10000円」=2、などのよう
に価格帯ごとにコーディングする場合もある
 そのコーディングをすることで、後の分析にどう使うの
か、調査前に吟味しておく必要がある

倫理上の問題(1)
 通常、表紙「フェイスシート」をつける
調査タイトル:(例)「母親の意識に関する調査」
→研究上、真の調査内容を隠す必要がある場合は、あた
りさわりのないタイトルをつけることもある
 調査概要:「この調査は○○について調べようとするもの
です。結果は統計的に処理されるため、個人の名前が公
表されることはありません。ご協力いただければ幸いで
す」
→プライバシー保護を明記
 調査者氏名と連絡先(最低限の礼儀)

倫理上の問題(2)
年齢・性別・氏名(無記名の場合もある)・職業・家族
構成など(デモグラフィック変数)
→必要のないことは聞かない
 記名式か、無記名式か(記名式の方が責任をもって
答えることもあるし、無記名の方が本音を答える場
合もある)(郵送等で回収する場合はプライバシー保
護用の封筒・シール等の準備も必要)
 分析終了後は厳重に保管または処分(フェイスシー
トだけ抜き取って別に処分するなど、個人を特定でき
ないような配慮をする)

実際のアンケート
(5段階評定法の例)
想定していた構成概念(例)
地球環境保全への影響大
自分が払う
コスト小
コスト大
地球環境保全への影響小
各区画に入る質問項目を作成する
良くないアンケート項目例
どこがどう良くないのだろうか、考えてみよう
(特に、ワーディングはどうか?)
参考文献
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鎌原雅彦・宮下一博・大野木裕明・中澤 潤(1998).
心理学マニュアル 質問紙法 北大路書房.
森 敏昭・吉田寿夫 編著(1990). 心理学のための
データ解析テクニカルブック 北大路書房.