すばる冬の学校(2006-12-07、三鷹) プロポーザルの書き方(その2) 「基本は時間をかけて書くこと」 泉浦秀行(岡山天体物理観測所) 本日の講釈のアウトライン • • • • • 自己紹介 心構え 時間をかける 避けて通れない道 まとめ 自己紹介1 プロポーザルを書く側としての経験 • すばるに頻繁にプロポーザルを出して、だいたい 採択されている、というわけでは全くない。 • 初期に一般に1回出して、ボーダーラインで不採択 (より低い点で採択されたものもあったみたい)。 • サービス観測は4回出してA, Bが半々(結局全部 観測された)。 • 他の研究が忙しくて今はすばるは完全休業中。 すばる用のプロポーザルの書き方指南の 人間としては不適切かも? 自己紹介2 これまで書いた主なプロポーザル • 野辺山45m鏡長期共同利用観測プロ ポーザル(2回) • ISO Central Program Proposal • ASTRO-F Mission Program 自己紹介3 プロポーザルを読む側としての経験 • • • • 岡山プロ小(幹事4年、ex officio 4年) UH/UKIRT日本時間プロ小(4年) 野辺山プロ小(3年) 幸いにして、すばるプロ小の経験無し 一般論として、どのようなプロポーザルが採択され やすいかを語ることはできるかもしれない。 採択されるプロポーザルの書き方 核心 • 特にこれといって明確に決まった方法があるわけで もない(あったら私も知りたい)。 • 研究者を目指す人なら、自分で学び取るべきもの、 人から教わる類のものでない、という見方もある。 • 自己研鑽がすべて。 • 5W1H(Who,What,When,Where,Why,How)に留意。 これで終わっては、身も蓋も無いので… 心構え1 • プロポーザル書きはもはや研究者にとって 偉くなるほど必要な技量 日常業務に近い必須の作業(時代の流れ)。 (技量の高い人が偉くなる?) • 必要な技術と覚悟して(諦めて)、積極的に ↓ 技の向上に努める姿勢が必須。 私の話を真に受けてはいけない! • 常日頃から時間を割く。急に魅力的な作文 の能力は向上しない。 • 科研費、民間研究費、人事公募、海外渡航、 などプロポーザルの連続(一般社会でも)。 心構え2 • 時代の変化への対応が必要。 • さまざまな分野の観測提案が同じ土俵の上で良 し悪しを議論される時代。 • 魚屋ではどの魚がいいかな、肉屋ではどの肉に しようか、八百屋ではどの野菜がいいかなと個々 に選び出される時代でなく、全部一緒に並べられ た陳列棚の上でお客(プロ小)にアピールしてい るものが買われる(採択される)時代。 • 日本では、すばると岡山しか無いことがこの状況 を激化させている(マイノリティ側に厳しい)。 良くも悪くも、個性をアピールする必要のある時代 心構え3 • 読み手を意識して、自分の考えを(熱く)語 る心意気を持っているか。 • 今から提案することは面白いのだ、という 信念のようなものを持っているか。 • それを裏付ける豊富な知識の蓄積を持っ ているか。 良いプロポーザルのため 誰にでも始められる事 • 時間をかける • 提案書の形式に沿って *研究の背景* *観測と研究の方法* 時間をかける:その1 • まず自分で、できる限り提案内容の論理的首尾 一貫性を高める。自分で読んで首尾一貫してい ると感じられないものは、他人(レフリーやプロ 小)が読んだらもっと分からない。書き慣れない 間はいろいろ勉強しながらになるので、すぐに二、 三日はかかってしまう。 • 一旦書き上げたものを何日か寝かせて、冷めた 眼で読み直すだけの時間を初めのうちは取るべ きであろう。 時間をかける:その2 • 他人に読んでもらう。他人は急には自分の 都合に合わせてくれない。読んでもらうに は、十分に時間の余裕のあるうちに頼み、 原稿を渡す必要がある。この段階でかなり 長い時間を必要とする。 • 共同研究者に立派な名前が並んでいるのに、読むに耐 えないようなプロポーザルもある。明らかに他人の目が 通っていない、つまり、時間をかけていないのが歴然とし ている。当然評価は下がる。 その2(つづき) • まずは、やはり、指導教官にしっかり見てもらう。 • プロポーザルが頻繁に採択されていて、数多くの 観測をこなしている人に見てもらう。 • 頼む相手の分野が違っていても問題はない。 • 日本ではプロポーザルを審査する側の人間は、 高い確率で他分野の研究者である。そういう人 がスムーズに読めるプロポーザルを書く。 • まじめに読んでくれる人を探し出すのが最も難し い課題である。 時間をかける:その3 • 見やすく意図も分かり易い図や表をつける。 • 当たり前のことと思われるが、これが実践 されているプロポーザル(私が見て来た範 囲では)は必ずしも多くない。 時間をかける:その4 • 書き方指導書を探す。 • 外国の天文台のホームページを見ると、良 いプロポーザルの書き方を解説したところ が結構ある。 • すばるや岡山でも用意するのが筋である が、まだ準備されていない(ようである)。 • 当面はそれらを参照されたい。 参考例 テキサス大学のマクドナルド天文台関連のURL http://www.as.utexas.edu/mcdonald/policy/hints.html Hints for Writing Successful Observing Proposals Tom Barnes & Chris Sneden—May 2000 プロポーザル作成のいろいろなガイドライン http://www.noao.edu/kpno/tac.html http://www.noao.edu/noaoprop/help/policies.html http://stargate.jpl.nasa.gov:1090/case.html http://www.ucolick.org/keckobs/keckguide.html http://www.ucolick.org/~jacky/3mguidelines.html http://msowww.anu.edu.au/observing/outside_users.shtml http://www.mso.anu.edu.au/observing/external_users.php http://www.eso.org/observing/proposals/writing-op.html ← ← ← http://www.noao.edu/scope/regprogs/ 時間をかける:その5 • めげずに改良して出し続ける。 • 同じ内容で3回出すと、読む側は覚える。 • レフリー、プロ小委員はプロポーザル読みにうんざりして いる。 • 読む側は多数のプロポーザルを読むので、内容が分かっているもの は時間が節約できる点で嬉しい。たとえ最初は評価が低くても、毎回 進歩が見られるものには徐々に良い印象を持つようになる(頑張れ、 もう少しだぞ)。するとボーダーラインに入った時に、採択される確率 が上がる。重要なのは、改善が見られること。改善の見られないもの は、逆に評価が下がって行く確率が上がる。ひとたび採択されれば、 次回からはそのアドバンテージを活用することができる。 • ただし、読む側が分かる程度に内容が改善されるには時 間をかけて自分のレベルを上げていくしかない。 提案書の形式に沿って:研究の背景 *研究の背景を簡潔に、しかし、分かりやすく紹介する。 *提案しようとしている研究課題の周囲で、研究はどこまで進んで いて、何が分かって来ているが、何が分からずに残っているか。 新たに何が問題となって来ているか。 *読む側に「ふーん、そうなんだ、それは知らなかった、観測して 調べてみるべきだな。」と思わせることができたら大成功。 *そのような文章を書くためには、やはり他の人、しかも分野外の 人に読んでもらうのが最も効果的。 提案書の形式に沿って:観測と研究の方法 *提案する観測/研究は、「研究の背景」で提示した研究課題の うちのどれに迫ろうとするのか。 *研究課題に取り組むためにどのようなデータが必要か。 *必要なデータを、提案している観測で本当に取得できるか。 *得られたデータを、どのように解析し、目標に到達するのか。 これらを意識しながら、分かりやすく説得力ある文章を構築する。 *一般的によく見られる例として、「研究の背景」で大きな課題を 提示して重要性を強調しておきながら、その後に論理が飛躍し 小さな「観測提案」に移る、というものがある。提案された小さな 「観測」からは、どう考えてもその「大きな課題」に直接迫れると は思えないので、理解しづらくなり、印象が悪くなる。 避けて通れない道:英語 • 天文学の世界で生きて行くには、英語は 避けて通れない道。諦めてその習得に時 間を割く。 英語で書かれたプロポーザルの 読まれ方 まず1,2回読む よく分かる 英語も、論理もOK Nativeのプロポーザルの 中には目の覚めるような 英語の書き方のものがあ る。 よく分からない 自分の英語力のせい? さらに丁寧に読む 分かる たぶん自分の 英語のせい… 高い よく分からない 書き手の英語?論理? さらに読み直す 英語の問題 (評価の軸) 論理の問題 まとめにあたって: • 多くのプロポーザルを眺めていると、ある時からどれも皆、 あまり差の無いプロポーザルに見え出す。 • 基本的なところができていないプロポーザルは、科学的 見地からは本質的でないことなのだが、低く見えるように なる。 • 提案内容がたとえ画期的であっても、読む側に行間を読 んでそれを理解せよ、という書き方のものは、親切な人 以外は低い評価を与える。 • さらに重要なことに、書き方の下手なプロポーザルはた いてい論理的にもすっきりしていない。 • 少なくとも体裁を整えて書き方を向上させていくと、論理 もまとまり、内容も向上していく。 • つまり、(体裁)→(論理)→(科学的内容)の螺旋 階段を上っていくようなもの。
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