企業法Ⅰ講義レジュメ No.01 企業法 序説 テキスト参照ページ:1~19p テキストは弥永真生「リーガルマインド会社法第11版」 とする(以下同じ) 1 企業法序説 • 企業法:企業を対象とし、企業に関する関係 を規律する法分野を企業法と呼ぶこととする • 商法、会社法を中心とし、民法、手形法、小 切手法、金融商品取引法、その他の関連法 規にも必要に応じて言及する • 商法総則は主として、個人商人、会社法は 会社、商行為法は両者を対象とする 2 I 各種の企業組織形態 • 私企業と公企業 • 個人企業と共同企業(営業主が複数) • 営利企業と非営利企業 • 法人企業と非法人企業(法人格の有無) • 別紙表参照 3 会社の種類(1) • 別紙表参照 • 株式会社=公衆に散在する小額資本を広範に結 集し、大規模経営を可能にする共同企業形態 ⇒出資者自ら経営に参加するとは限らない(所有と 経営の分離:ただし、非公開会社は所有と経営を 一致させることも可能) ⇒社員(=株主)の間接・有限責任、資本充実維持 のための厳格な規制、社員の地位の株式化、社員 の地位の自由譲渡性(127Ⅰ)、株式の無記名証券 性 ⇒株券:不発行が原則、株券を発行する場合は定 款で定める:株券発行会社と呼ばれる(214、117Ⅵ 4 参照) 会社の種類(2)持分会社 • 合名会社=出資者自ら経営に携わり、会社の債務 につき無限責任を負う者(無限責任社員)のみが 結合した形態 • 合資会社=自ら経営に携わり、会社の債務につき 無限責任を負う者(無限責任社員)と、一定額の出 資を行い、その範囲内でのみ責任を負う者(直接・ 有限責任社員)が結合した形態 • 合同会社=社員の間接・有限責任という株式会社 の特徴と、内部関係に組合的規律が適用される人 的会社双方の特徴を併せ持つ会社形態 5 会社法総論:会社の意義 •会社とは営利社団法人(旧 商法での定義)か? •営利性 •社団性 •法人性 6 営利性 • 従来、会社と他の社団法人と区別するメルクマー ルとして挙げられていた • 定義:対外的企業活動によって得た利益を社員に 分配すること(通説) • 団体内部の活動により得た経済的利益を構成員 に享受させる相互(生命)保険会社や中小企業等 協同組合などは営利性を有しないとされる • 株式会社:剰余金の配当(453)、株主の剰余金 配当請求権(105Ⅰ①) • 持分会社:利益配当請求権(621Ⅰ) 7 ところが! • 株式会社:剰余金の配当を受ける権利および残余 財産の分配を受ける権利の全部を株主に与えな い旨の定款の定めは無効(105Ⅱ) ⇒残余財産分配請求権のみ与えれば、剰余金配 当請求権を与えない旨の定款の定めは有効 • 従来の通説の定義を前提にすると、営利性は株式 会社の本質的要素ではないのか? ⇒営利性の概念を「対外的企業活動によって得た 経済的利益を社員に分配(残余財産の分配を含 む)すること」と柔軟化することで、やはり株式会社 の本質的要素であるといえる 8 では、持分会社ではどうか? • 利益配当、出資の払戻しおよび残余財産の分配に 関する事項すべてにおいて定款自治が認められて いる(621Ⅱ、624Ⅱ、666) ⇒とすれば、持分会社においては、利益配当と残 余財産の分配のいずれをも行わない旨の定款の 定めも有効とされるのか? • 社員の一切の経済的利益を否定する旨の定款の 定めは、会社の本質に反するものであり無効と解 すべき ⇒持分会社においても営利性は本質的要素 9 社団性 1 社団・組合峻別論 • 社団という語は、民法上、組合と対比されるものとして使 用されてきた(権利能力なき社団の存在を認め、組合とは 切り離して、社団法人に準じて取り扱う)。そこでは、社団と 組合を区別する基準を巡って議論がなされている。 • 旧商法では、会社はすべて社団(一定の目的のために結 合した人の集合)とされた(旧商52)。この社団とは民法上 の組合と区別されるものとしての社団だとすると、社団で あるはずの合名会社および合資会社に組合の規定が準 用される(旧商68・147)理由の説明がつかない。 • 社団ならば、その内部関係は団体と構成員の関係となり、 組合なら団体自体が独立した存在ではないので、団体の 内部関係は構成員相互の契約(債権債務)関係ということ になるが、合名・合資会社の内部関係はどうなるのか(組 合・社団と法人格の関係)。 10 2 旧商法上の社団とは? • 多数説は、旧商法52条の社団とは、組合と区別さ れるものとしての社団ではなく、財団(一定の目的 のためにささげられた一団の財産)に対する概念 であり、広く、共同の目的を有する複数人の結合 体としての団体を意味すると理解する→民法上の 組合もここでいう社団に該当する。 • 社団は人の集まりであるが、ここでいう「人」には、 法人も含む。自然人の社員がおらず、法人のみを 構成員とする会社その他の社団は数多く存在する (純粋持株会社の傘下にある株式会社など)。 11 3 一人会社 • 会社が人の集まりとしての団体であるとすれば、 社員が一人の会社は社団性がないことになるか? • 旧商法では、合名会社では社員が一人になること は会社の解散原因となる(旧商94)。合資会社も同 様(旧商147)⇒一人会社は認められない • これに対して、株式会社、有限会社では社員が一 人になることが解散原因とされない(旧商404参照) また、設立の際の発起人の人数規制が撤廃(旧商 165参照)⇒間接的に一人会社を容認(経済的実 態としても100%子会社が多く存在する) 12 会社法における社団性 • 会社法は、会社が社団であることを示す規定を置 いていない(旧商52と対比)、また持分会社につい ても、社員が一人となったことは会社の解散事由と されなくなった(社員の欠乏=社員が全くいなくなる こと、は解散事由である)⇒全ての会社形態で一人 会社が容認(合資会社は合名会社か合同会社に) • 「共同の目的を有する複数人の結合体としての団 体」としての社団性は会社の本質的要素ではなく なった • ただし、財団に対する概念としての社団性は認め 13 られる 法人性 1. 法人性の意味 →会社は法人であり(3)、社員とは別個独立の 権利義務の主体である。会社は自分自身の財産 をもち、会社の名で訴えまた訴えられる。このよう に法人とされることで団体の法律関係の処理が 簡明になる。 2. 団体のうちどのような種類のものに法人格を認め るかは立法政策によって異なる。そして法人とさ れることから当然に特定の属性をもつことにもな らない。 14 法人の属性 1. 権利義務の帰属主体となる 2. その名前で訴訟の当事者となる 3. その法人名義の債務名義によってのみ強制執行 を受ける 4. 法人財産が社員の債権者の責任財産とならず専 ら法人債権者の責任財産となる(排他的責任財産) 5. 法人財産の充実維持のための規制がなされる 6. 社員の有限責任 →株式会社はこれらすべての属性を満たす →持分会社では、4は不完全(609、832参照)、合名 15 に5・6はない、合資に5はなく、6は部分的 法人格否認の法理 • 法人格否認の法理とは、法人制度の目的に照らして、あ る会社の形式的独立性を貫くことが正義・衡平の理念に 反すると認められる場合、または会社という法形態が法人 格の目的をこえて不法に利用されている場合に、その会 社の存在を全面的に否定するのではなく、その法人として の存在を認めつつ、特定の事案の妥当な解決のために必 要な範囲で、一時相対的に、法人格の機能(会社と社員 の分離)を否定して、会社と社員(支配株主等)を同一視す る法理。 • 小規模閉鎖会社や支配従属関係にある会社を巡るさまざ まな法的問題の中で、特に会社債権者保護に関して展開 される。 16 具体例 • 昭和44年最高裁判決(最判昭44.2.27民集 23.2.511 百選3事件) • 事案:XはY会社と店舗の賃貸借契約を締結してい た。Yは電器機器販売業をしていたが実質的には 代表取締役Aの個人企業であり、Xは電気屋のAと 契約したつもりであった。その後XはAを相手に賃 貸家屋の明渡請求訴訟を提起し、賃貸借契約を解 除する和解が成立した。和解に基づきXはAに家 屋の明渡しを求めたが、Aは和解の当事者はXAだ からAが使用していた部分は明け渡すがYが使用 している部分は明渡しを拒否した。そこでXがYを 相手に提訴した。 17 判旨 • 「…法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法 の適用を回避するために濫用されるが如き場合において は、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的 に照らして許すべからざるものというべきであり、法人格を 否認すべきことが要請される場合を生じるのである。…会 社という法的形態の背後に存在する実体たる個人に迫る 必要を生じるときは、会社名義でなされた取引であっても、 相手方は会社という法人格を否認してあたかも法人格が ないのと同様、その取引を背後者たる個人の行為である と認めて、その責任を追及することを得、そして、また、個 人名義でなされた行為であっても、相手方は商法504条を まつまでもなく、直ちにその行為を会社の行為であると認 め得る…」 18 法人格否認の要件(1) 1. 法人格の濫用事例 ① 支配要件=法人格がその背後にあって支配している者により 単なる道具として意のままに支配されていること ② 主観的要件(濫用目的)=法人格を違法・不当な目的のために 利用するという目的 2. 類型 a. 法の潜脱(法定の競業避止義務の潜脱、会社を被保険者とす る保険につき社員による故意の事故招致、労働組合員解雇の ための偽装解散) b. 契約上の義務の潜脱(契約上の競業避止義務回避、会社債務 (作為義務)の免脱のための別会社設立) c. 債権者詐害(過小資本会社の設立による不法行為責任の限定、 強制執行免脱のための会社設立(財産の現物出資)) 19 法人格否認の要件(2) 1. 法人格の形骸化事例 • 法人とは名ばかりで実質的には個人営業又は親会社 の営業の一部門にすぎない場合 2. 以下の諸点等を勘案して判断される A全株式の所有(名義が別でも実質一人会社であること) B経営の実権 C主体の混同 D会社財産と個人財産の区分不分明 E会社法上の手続不遵守 F過小資本 20 G会社利益の搾取 法人格否認の効果 • 会社の存在を全面的に否定するのではなく、特定 のある局面で、会社の行為を株主個人の行為と同 視したり、有限責任を否定したりする。 • なお、この法理は取引行為だけでなく、不法行為 の場合にも適用される • また会社・社員(株主)の側からこの法理の援用は できないと解されている(多数説):会社・社員(株 主)側に有利な形での適用の余地を認める見解も ある(江頭) 21 法人格否認の法理の役割 • 法人格否認の法理は一般条項であり、また特に形 骸化事例では要件があいまいなことから、適用は 慎重になされるべきといわれる。法人格否認の法 理を持ち出さずに既存の法規定や契約内容の解 釈から妥当な解決が図られる場合が多々あり、そ れが不可能なときだけ、最後のより所としてこの法 理を用いるべき。 →例えば、実質的に個人営業の会社が破綻した際 に会社債権者が会社の背後にある個人に責任追 及する手段として、取締役の第三者に対する責任 (429)が法人格否認の法理に代わり、一定の役 割を果たしている 22 会社の商人性 • 会社法上、会社を商人であると明示する規定はな いが、会社法5条は、「会社がその事業としてする 行為」および「その事業のためにする行為」を商行 為とする→従来の商事会社・民事会社という区別 がなくなった • 会社は法人である(3)から、会社は、「自己の名を もって商行為をすることを業とする者」(商4Ⅰ)とい える • 会社は商人であり、商法504条以下の「商行為」 には会社の行為も含まれ、商人には会社を含むも 23 のと解する II 会社の経済的機能 1. 資本・労力の集中:共同企業の一種なので、複数 の者が一つの事業に出資することによって、資本 の集中が可能になる。特に株式会社では有価証 券(株式・社債)市場を通じて資本を広範囲から 結集することが可能である。 2. 危険の分散 1. 事実上の危険分散:複数の者が損失を分担 2. 法律上の危険分散:有限責任制度→株式会社、合同 会社、合資会社の有限責任社員 3. 永続性の確保:法人格が付与され、その構成員 から独立した排他的責任財産を形成する 24 Ⅲ 会社法の法源 • 法源とは:法を適用するにあたって法として援用 • • • • しうる法形式、特に裁判官が判決理由でそれを援 用して裁判の理由となしうる法形式を意味する 成文法源と不文法源とに分類できる 成文法源:国際法(条約等)・国内法、さらに国内法 は憲法、法律、命令などに分かれる 不文法源:判例、慣習など(条理の法源性について は争いあり) 参考:H17年改正商法は、商慣習を商法の法源と 定めた 25 1 会社法の意義 1. 2. 形式的意義の会社法=会社法という名称の法律(平成 17年6月29日)→私法規定だけでなく、訴訟手続や罰 則などの規定が含まれている(商法から独立し、商法特 例法などに分かれていた規定を整理・統合した 実質的意義の会社法=会社に関係する私的経済主体 の間の権利義務ないし利害関係を妥当に調整するため、 会社の成立から消滅に至る過程を規制する私法法規の 総体を指す(=企業組織法)→伝統的な理解によれば、 ほとんどが強行規定とされる(ただし、会社法の領域にお いても、契約の自由が十分に機能し得る部分があり、立 法論・解釈論上の議論がある) 26 2 会社法の法源(制定法のレベルで) • 会社法の法源の中心は、形式的意義の会社法 • 商法の他、手形法、小切手法、金商法、配当支払 法、株券等の保管振替法、担保付社債信託法、会 社更生法、企業担保法、商業登記法など多数の商 事特別法。これらの法律に基づく政省令(とりわけ 会社法において多くの法務省令委任がなされてい る会社法施行規則等、商法施行規則、財務諸表 規則等が重要) • 各種業法における会社組織に関する規定 27 Ⅳ 会社の能力 1. 権利能力 2. 行為能力 3. 不法行為責任能力 4. 刑事責任能力 28 1 会社の権利能力 • 会社はその成立時より権利能力を有する →会社の成立=設立の登記(49、579) • 清算結了の登記によって権利能力を失う (929) • 自然人である商人の権利能力には制限はない が、法人である会社の権利能力に関しては、 次のような制限が問題になる ① 性質・法令による制限 ② 定款所定の目的による制限 29 ①性質による制限 1. 自然人に特有の権利義務を有しない ex.身体、生命に関する権利や親族関係を前提 とする権利義務 →名誉権のような人格権は有しうる 2. 法令による制限:従来、法人は、他の会社の 無限責任社員となることはできない(旧商55、 有4)とされていたが、会社法ではこの制限は 廃止された →株式会社を唯一の社員とする合名会社も成立しう る →法人は株式会社の取締役にはなれない(331条1項 30 1号) ②定款所定の目的による制限 • 民43(改正後34)は会社にも適用ないし類推適 用され、会社の権利能力も定款所定の目的によ り制限されると解されている(判例)→類推適 用を否定する学説も有力 • 近時、取引の安全への配慮から、定款所定の目 的の範囲を緩やかに解釈する ①定款所定の目的自体に含まれなくても、目的 遂行に必要な行為は範囲に入る ②目的遂行に必要かどうかは、定款の記載自体 から観察して客観的・抽象的に必要でありうる かどうかの基準により判断する 31 業務執行者の目的の範囲外の行為 ①株主または監査役(監査委員)は、行為の 差止請求権を有する(360、385Ⅰ、407Ⅰ) ②取締役の善管注意義務ないし忠実義務違反と なり、損害賠償責任(任務懈怠)を生じる (423Ⅰ) →責任追及訴訟の対象となる(847) ⇒会社の政治献金について(百選2事件参照) 32 2 会社の行為能力 • 会社は法人であり、権利義務の主体となりう るが自ら実際に行為をすることはできない • 自然人によって構成される会社の機関(株式 会社では株主総会、取締役会、代表取締役、 監査役等)の意思決定と行為が会社自身の意 思決定・行為として法的に評価される • 機関の対外的活動を代表といい、代理の規定 が類推適用される 33 3 不法行為責任能力 • 会社の代表機関がその職務を行う際に他 人に損害を加えた場合は、会社は不法行 為に基づく損害賠償責任を負う(持分会 社:600、株式会社:350)→民事責任 • 代表機関を構成する自然人自身の不法行 為責任(民709)を排除するものではな い 34 4 法人の刑事責任能力 • 会社法上は、原則として、法人には犯罪能力 がないとする刑法理論を前提とし、会社自体 を処罰せず、行為者である自然人(取締役・監 査役・清算人・発起人・執行役等)を処罰す るが、一部に両罰規定が置かれた(975) • 不正競争防止法、独占禁止法、銀行法、保険 業法、証券取引法、知的所有権法等の分野で は、行為者自身のほか法人も処罰する両罰規 定が置かれる。法人には自由刑ではなく罰金 刑であるが近時法人に対する罰金刑の法定刑 が高額化している 35
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