地球と火星における ダストデビル現象

地球と火星における
ダストデビル現象の概要
~DUST DEVILS ON EARTH AND MARS
のレビュー~
北海道大学理学部地球科学科
惑星物理学研究室B4
加藤美和
研究目的
• 私の研究目的
– Balme and Greeley(2006) の論文のレビューを
通して, ダストデビル現象の地球と火星の共通
点・相違点や基礎的な構造をまとめる.
• Balme and Greeley(2006) の研究目的
– 火星で起きるダストデビルが将来の有人火星探
査に影響を与えるかもしれないため, 危険度を予
測するために事前にダストデビル研究を行う.
ダストデビルとは
• 地球と火星で共通に
起きる大気現象の
ひとつ.
• 塵や砂を含んだ目
に見える螺旋状の
上昇流.
• 主に乾燥した砂漠地
域で観測される.
• 日射により勢力を増
す.
アメリカ・モジャヴェ砂漠のエルミラージュ
乾湖で観測されたダストデビル.
2005年3月21日の現地時間12:55にJeff
T. Aluによって撮影された.
(http://www.answers.com/topic/mojave
-dustdevil-jpg-1より引用)
ダストデビルの形成メカニズム
1. 地表面が日射によって暖
められる.
2. そのことにより地表面付
近の断熱空気の温度勾
配が大きくなる.
3. その結果強い上昇流が生
じる.
4. それがダストを巻き上げ,
渦を巻くことでダストデビ
ルとなる.
高度に対する断熱大気の温度の模
式図.
(a)は日射の強い昼の場合を, (b)は
日射のない夜の場合を表している.
日射が強いと地表面付近の気温が
上昇し, 強い上昇流が起きやすくな
る.
ダストデビル内部の風速
• 左図は地球のダストデビル内
部の風速の模式図である.
• 領域 1 はダストが流入する領
域, 領域 2 はダストが回転し
ながら上昇する領域, 領域 3
はダストが流出する領域であ
る.
• 領域 1 – 2 , 2 – 3 の境界で
の風速はいずれも 10m/s 以
下である.
• 領域 2 – 3 の境界ほどの高
度(オーダー10~100m)では,
しばしば下降流が観測される.
(Wが負の値をとる.)
ダストデビルの観測例
地球
その場観測
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(a) と (b) は地球で観測されたダストデビ
ルの直径ごとの発生率である.
棒グラフの上の数字はダストデビルの数
を表している.
(a) は定点観測の気象データであり, (b)
は500m×300mの領域観測の気象デー
タである.
火星
衛星画像
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(a) は上空から見たダストデビル(MOC
NA images M1001267)であり, (b) はダ
ストデビルの軌跡(NASA Planetary
Image Atlas image PIA02376)である.
図はいずれもBalme, M., and R.
Greeley(2006)より引用した.
ダストデビルの観測結果のまとめ
発生地域
発生時刻
発生季節
地球
乾燥地域
10時~17時
夏
火星
全球規模
12~13時
夏
直径
オーダー1m
オーダー10m~100m
高さ
風速(高度~2m)
温度変位
圧力変位
オーダー1m~100m オーダー100m~1000m
オーダー1m
オーダー10m
オーダー1K
5~6K
オーダー1mbar
オーダー0.001~0.01mbar
ダストデビルが大気に及ぼす影響
• 地球・火星両惑星における大気のダスト循環
に影響を与えている.
– 地球
• 地域的:アメリカ全土や, アフリカ-ヨーロッパ間のダス
ト循環に大きく関与している.
– 火星
• 全球的:ダストストームや全球規模の大気の靄の原因
である可能性がある.
ダストデビル観測の問題点
• 上昇流がなぜ渦を巻くかわかっていない.
• ダストデビルが巻き上げるダストのその場観
測の例がない.
• ダストデビルと軌跡の明確な相関関係が分
かっていない.
• 定点観測が主流のため, 小さなダストデビル
について十分な観測を行えていない.
• 火星ではその場観測の例が少ないため, 詳
細なデータが分かっていない.
将来の展望
• 風洞実験などのシミュレーションを研究する.
• ダストデビルに含まれるダスト粒子などの観測
を行う.
• 軌跡のフィールド研究を行う.
• 定点観測だけでなく, 領域観測を行う.
• 火星探査機を送り, 全球規模のその場観測を
行う.
Balme and Greeley (2006)のまとめ
• 火星のダストデビルは地球のものより影響力
があると分かった.
• 火星探査への影響をより詳しく知るためには
シミュレーション研究と観測との整合性を高め
たり, ダスト粒子や火星で全球規模の観測を
したりする必要がある.
卒論全体のまとめ
• ダストデビルの地球と火星での共通点や相
違点やおおまかな構造が理解できた.
• しかし, より詳細な部分はシミュレーションや
他の論文などで研究する必要がある.
• 今後もダストデビルの研究を行っていくことで,
将来地球型惑星を発見した際, 惑星探査の
手助けになることが期待される.
参考文献
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