Advanced Airport Systems Technology Research Consortium Public-service Corporation of Ministry of Land, Infrastructure & Transport, Government of Japan 国際空港のセキュリティと航空機テロの現状と課題 山内康英 多摩大学情報社会学研究所教授 次世代空港システム技術研究組合運営委員長 http://www.astrec.jp/ 国際空港のセキュリティと航空機テロの現状と課題 1. 日本の国際空港の空港保安 2. 日本の関連した旅客機ハイジャックと航空機テロの推移 3. グローバリゼーションの進展 4. 空港セキュリティの諸課題 5. 日本の政策対応と今後の取り組み 1. 国際空港の空港保安 国際空港を事例とする空港保安および航空保安の推移と現状 • 航空旅客や鉄道・道路といった交通・運輸機関は、電力・ガスなどのエネルギー供 給や、電話・放送などの情報通信などと同じように社会の重要インフラである。と くに国際航空旅客や国際空港は、継続的にハイジャックや施設の襲撃などテロの対 象となっており、全般的なセキュリティの向上が重要になっている。 • 空港保安の観点からすれば、日本の国際空港(成田国際空港)は開港以前から左翼 集団の政治活動の対象になっており、現在でも中核派(革命的共産主義者同盟)や 革労協(革命的労働者協会)など過激派暴力集団によっていわゆる三里塚闘争が続 いている。 航空保安の観点からすれば、国際空港はハイジャックや航空機テロなどの策源地と なる可能性があるほか、違法な出入国や不拡散関連物資や技術の取り締まりなどに ついても重要な国家保安上の役割を担っている。 本報告は成田国際空港を事例として、空港保安および航空保安の推移と現状につい て調査検討する。 国際空港のセキュリティ問題に的確に対応するためには脅威の主体を特定し、その 活動の時間的な推移と現状について把握することが重要と考え、まず、この問題を 概観する。 • • • 19 78 19 79 19 80 19 81 19 82 19 83 19 84 19 85 19 86 19 87 19 88 19 89 19 90 19 91 19 92 19 93 19 94 19 95 19 96 19 97 19 98 19 99 20 00 20 01 20 02 20 03 20 04 左翼過激派集団による全国のテロ件数と成田空港関連の毎年の推移 160 140 120 100 80 全国 成田関連 60 40 20 0 「図1」(出典は『警察白書』等) 1971年 9月16日 第2次代執行開始、警察官3人死亡(東峰十字路事件)(~20日) 1978年 3月26日 過激派が管制塔を占拠、破壊(開港延期) 1988年 9月21日 千葉県収用委員会会長がテロで重傷(その後、委員全員が辞任) 2000年 8月 26日 運輸省運輸政策局情報管理部システム分析室長宅爆発事件(東京) 9月 13日 運輸省大臣官房文書課長宅車両放火事件(千葉) 11月 8日 NAA運用本部運用管理部管理役宅爆発事件(神奈川) 1月 23日 NAA情報業務部調査役宅車両等放火事件 4月 18日 千葉県企画部理事宅車両放火事件 10月 2日 千葉県企画部交通計画課主幹宅車両放火事件 2001年 2002年 1月 9日 2月 11日 米軍施設を狙った飛翔弾発射事件 4月 12日 京成本線特急電車放火未遂事件 4月 22日 千葉県土木部職員宅等放火事件 8月 6日 2003年 2004年 千葉県総務部幹部宅(元地域共生財団事務局長)等放火事件 成田新高速鉄道アクセス(株)監査役宅車両放火事件 11月 15日 千葉県企画部交通計画課主幹宅等放火事件 11月 18日 米軍座間キャンプに向けた飛翔弾発射事件 11月 20日 自衛隊朝霞駐屯地に向けた飛翔弾発射事件 2月 24日 自衛隊市ヶ谷駐屯地に向けた飛翔弾発射事件 3月 12日 米軍横田基地に向けた飛翔弾発射事件 4月 3日 米軍厚木基地に向けた飛翔弾発射事件 2月17日 防衛庁に向けた飛翔弾発射事件 11月7日 陸自朝霞駐屯地に向けた飛翔弾発射事件 成田空港関係の主要なゲリラ事件 左翼過激派集団による成田国際空港関連の事案の推移: 3回のピーク • (1)70年代後半 開港直前の施設に対する直接の攻撃 • (2)80年代半ば 80年代には千葉県の土地収容委員会メンバー、運輸省職員、 建設業者などへの個人テロ、 • (3)90年代初頭 防衛庁や米軍施設への飛翔弾発射事件などを通した 政治的アピール • (4)現時点 暴力的な活動は沈静化 • 他方、2005年7月に法務省が起こした管制塔占拠(1978年3月26日の事件)にともな う損害賠償請求訴訟判決に関する賠償の強制執行(約1億300万円)に際して、イン ターネットを通じたアピールなどにより、元実行犯(服役後社会復帰)に対する連 帯基金が全国の関連組織などから集まり、管制塔被告団による支払いが期日までに 完了するなど、いわゆる三里塚闘争に対する世論の関心は依然として高いことを考 えれば、左翼グループなどによる政治的表出活動は今後とも継続することが予想さ れる。 (1)70年代後半の状況 • 『警察白書』などによれば、1978年当時、極左暴力集団は成田闘争を最大の 闘争課題に掲げ、現地に延べ約14万5000人、22回の主要闘争に約5万人を動 員するとともに、前年を大幅に上回る121件のゲリラ事件を起こした。 • 福田内閣は、新国際空港の開港日を同年3月30日と発表し、警備当局は2月か ら、反対派の建設した横堀要塞などに強制収容のための大量動員を行ってい た。 • これに対して「3.26開港阻止闘争」では、極左暴力集団は約1万人を動員し 、「第4インター日本支部」を中心とする約300人が改造トラックや火炎自動 車を使用して空港構内に侵入した。 • この横堀要塞および空港ゲートから突入したグループを陽動として、別働隊 十数人がマンホールを通じて管制塔を占拠し機器類を破壊した。 • このため開港は5月に延期となった。極左暴力集団は、3月26日を中心に「航 空保安協会研修センター放火事件」等を起こすとともに、再度、横堀要塞に 妨害鉄塔を建てて妨害行動を繰り広げた。 (2)80年代半ばの状況 • 極左暴力集団は、1986年の前半は昭和天皇在位60年記念式典とG-7東京サミ ットを、後半は成田空港と国鉄分割・民営化をめぐって多数のテロやゲリ ラ事件を引き起こした。 • この時期の特徴は、新型迫撃弾、設置式爆弾、手投げ爆弾、時限式発火装 置等の製造など、左翼ゲリラの武力闘争が専門化したことと、攻撃の対象 が全国の神社や皇室関係施設、警察施設や自衛隊施設等の官公庁施設、外 国公館、米軍施設、国鉄・私鉄関係施設、新東京国際空港関係施設、運輸 省職員や成田空港の関係業者(建設業者、航空機整備業者など)の個人宅 などに拡大したことである。 • 1988年9月には、千葉県収用委員会会長がテロで重傷を負い、その後、委員 全員が辞任するという事件が起きた。 (3)90年代初頭の状況〜 (4)90年代半ば • 90年代初頭の極左暴力集団の活動は、天皇の即位の礼および大嘗祭(1990年)とカ ンボジア国連平和活動に対する自衛隊の海外派遣(1992〜93年)の二つに関連して いる。 • 中核派、革労協などは、皇室闘争に成田、関西空港、原発などの政治問題を絡めて 闘争を展開した。 • また破壊活動防止法の団体規制の適用論議も政治課題となり、1990年に極左暴力集 団は1975年以降最多の143件のゲリラ事件を引き起こした。 • 90年代半ばになって旧ソ連邦をはじめとする東側ブロックの崩壊と体制移行が決定 的になるとともに、各国の左翼=共産主義運動は次第に勢力を失った。 • 各国の状況を見れば、これに代わる形でシリアやリビアなどの中東諸国、チェチェ ン、北朝鮮などによる国家テロや、アル・カイダなど宗教的原理主義によるテロ活 動が拡大している。日本でも1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件のよう に既存の過激派組織との連携を持たない集団が登場している。 2.日本が関連した旅客機ハイジャックと航空機テロの推移 旅客機ハイジャックや航空機テロといった航空保安が主として対象と するセキュリティの領域についての脅威主体の推移 • (1)1960年代には、東西体制間の政治亡命等に起因するハイジャックが多発し、東京条約やヘー グ条約のような民間航空保安の国際条約がはじめて成立した。この条約は飛行機内の犯罪の定義、 機内の犯罪に対する裁判直轄権や機長の権限、締約国の権利と義務を規定し、航空機のハイジャッ ク犯罪を特別な国際犯罪として取り扱うものである。 • (2)70年代になって、イスラエルとアラブ連合諸国の間の武力紛争や占領地の支配が続くなかで 、パレスチナ・ゲリラと各国の赤軍派など、いわゆる新左翼が連携するかたちで航空機のハイジャ ックや空港施設の襲撃が起こった。このため西側各国はモントリオール条約を締結して航空施設や その運営に対する犯罪、航空機に対して行われる爆破・武器の発射・航空機内に爆発物を設置する 行為に対しても国際条約の対象を拡大した。 • (3)1980年代になると、国際的なゲリラ組織に代わって、リビアや北鮮などの国家が主導する航 空機テロが始まった。 • (4)1990年代になると原理主義者グループやイスラム過激派による爆弾テロや襲撃事件が多発す るようになった。2001年の9・11同時多発テロ以降、米国はアル・カイダ(Al-Qaidah)などの国際 テロネットワークとの間のGWOT(Global War on Terrorism)に注力している。ラムズフェルド国 防長官の主導する防衛の改革(Transformation)では、このような脅威主体と脅威認識の変化が米 軍の装備体系やグローバルな配備の態勢に反映するかたちになっている。 (1) 1960年代の東西体制間の政治亡命等に起因するハイジャック • 1970年3月、赤軍派のメンバー9名が、羽田発福岡行きの日本航空351便ボーイン グ727型機(よど号)を乗っ取り、北朝鮮への飛行を要求した。よど号は韓国の 金浦空港に着陸して当局と79時間にわたる交渉を行った。犯人側は山村運輸政 務次官(当時)を人質の身代わりとして乗客、乗務員を解放して平壌に向かっ た。「よど号事件」が日本の最初のハイジャックの事案である。 (2)70年代になって、イスラエルとアラブ連合諸国の間の武力紛争や占領地の 支配が続くなかで、パレスチナ・ゲリラと各国の赤軍派など、いわゆる新左翼が 連携するかたちで航空機のハイジャックや空港施設の襲撃 • 1976年6月のエンテベ空港事件では、パレスチナ・ゲリラ4名が、アテネ空港離陸後にテルアビ ブ発パリ行きエールフランス国営航空139便A300型機をハイジャックした。航空機はウガンダ( 当時アミン政権下)のエンテベ空港に着陸し、犯人はパレスチナ人政治犯の釈放を要求した。7 月3日深夜イスラエルの特殊部隊が機体を急襲して犯人を射殺した。 • 1977年10月のモガディシュ空港事件では、パレスチナ・ゲリラ4名が、スペイン領マヨルカ島 離陸直後のルフトハンザドイツ航空181便ボーイング737型機をハイジャックし、ソマリアのモ ガディシュに着陸した。ハイジャック犯はテロリスト13人の釈放と1500万ドルを要求した。こ の事件は、PFLP(Popular Front for the Liberation of Palestine )とバーダー・マインホ フ(西独赤軍)の共同作戦であった。24日早朝、ドイツ特殊部隊(GSG-9)が機内に突入して犯 人4名のうち3名を射殺して乗客を解放した。 • 1977年9月のダッカ空港事件では、日本赤軍が日本航空パリ発東京行472便DC-8をハイジャッ クした。犯人グループ(5名)はボンベイを離陸直後に同機を乗っ取り、バングラデッシュのダ ッカ空港に着陸した。犯人グループは乗員・乗客151人の人質と交換に、日本で在監・拘留中の 日本赤軍のメンバーと現金600万ドル(当時約16億円)を要求した。日本政府は「超法規的措置 」として要求を受け入れ、出国を希望した6名を釈放した。その後、同機はダマスカスを経てア ルジェリア政府に投降した。この事件もPFLPと日本赤軍の共同作戦である。 (3)中東問題の激化とパレスチナ・ゲリラ/新左翼(赤軍派等) • • ※ 1977年10月(モガディシュ空港事件) パレスチナゲリラ4名が、スペイン領マヨルカ島離陸直後のルフトハンザドイツ航空 181便ボーイング737型機をハイジャック、ソマリアのモガディシュに着陸。ハイ ジャック犯はテロリスト13人の釈放と1500万ドルを要求。PFLPとバーダー・マインホ フ(西独赤軍)の共同作戦と判明。24日早朝、ドイツ特殊部隊(GSG-9)が機内に突入 して犯人4名のうち3名を射殺して乗客を解放。 • • ※ ミュンヘンオリンピック/イスラエル選手団人質事件 1972年9月5日、ミュンヘン・オリンピック(西ドイツ)で「ブラックセプテンバー」 (パレスチナ・ゲリラ集団)7名がイスラエルのコーチと選手の2名を射殺し、残った 9名を人質にして立てこもった。犯人グループのうち3名は逃亡。 (4)国家テロ(1980s)/イスラム原理主義と宗教テロ(1) • 1982年8月に東京発のパン・アメリカン航空830便ボーイング747の後部客室の座席下で時限爆弾が 爆発(ホノルルの西150マイル)し、16才の少年1名が死亡、15名が負傷した。この爆発によってキ ャビンの床に穴が空き急減圧が起こったが、航空機は無事に着陸した。犯人はギリシャで逮捕され たパレスチナ人過激派である。 • 1985年6月には成田空港の貨物仕分け作業所でスーツケースに隠されていた爆弾が爆発し、作業員 2名が死亡、4名が負傷した。このスーツケースはバンクーバから到着したCPカナダ航空003便から、 バンコク行エア・インディア301便に積替え中の受託手荷物であった。この事件の1時間後、ボンベ イ行エア・インディア182便ボーイング747がモントリオールからロンドンに向かう途中で貨物室の 爆発により墜落し329名が死亡した。この両者は関連したもので、成田での事件は航空機の延着によ る地上作業中の爆発と推測されている。犯行はシーク教過激派によるもので、理由は前年にパンジ ャブ州の寺院をインド軍が攻撃したことに対する報復と推定された。 • 1987年11月の大韓航空機爆破事件では、バグダッド発ソウル行き大韓航空858便ボーイング707が 、アブダビを離陸してバンコクに向かう途中、アンダマン海上空で消息を絶った。韓国保安当局が 、アブダビで降機した乗客リストの中から日本人偽名パスポートを使っていた北鮮工作員を割り出 したところ、バーレーンで出入国管理当局に拘置されていた内1名は服毒自殺し、他の1名は韓国に 移送された。これは1988年のソウルオリンピックの妨害を目的としたテロの一環だと言われている 。 (4)国家テロ(1980s)/イスラム原理主義と宗教テロ(2) • 1988年12月のパンナム機爆破事件では、パン・アメリカン航空103便ボーイング747が、スコッ トランド上空で爆発し、259名の乗客・乗員とロカビリー周辺住民11名が犠牲になった。左前部 貨物室内スーツケース内のラジオカセットプレーヤーに高性能爆薬を仕掛けたのはリビアの工作 員で、米国のトリポリ空襲に対する報復であったと推定されている。 • 1994年12月のフィリピン航空434便事件では、沖縄県・南大東島付近上空を飛行中だったマニ ラ発セプ島経由成田行きのフィリピン航空434 便ボーイングー747(乗客272人、乗員20人)の機 内で爆発が起きた。同機は繋急事態を宣言し、午後零時45分ごろ那覇空港に緊急者陸した。この 爆発で、乗客の会社員(24歳)が死亡し、乗客6人が火傷した。機体外側に大きな損傷はなかっ たが、右主翼の付け根付近の座席周辺や客室天井が損傷した。AP通信マニラ支局にイスラム原理 主義組織 「アブ・サヤフ」のメンバーを名乗る男から犯行声明を認める電話があった。1995年 にパキスタンで逮捕されたこの事件の主犯(ラムジ・アフメド・ユセフ)は、1993年2月のニュ ーヨーク貿易センタービル爆弾テロ事件に関与しており、東南アジア発各国際空港経由米国行き の米国エアライン複数便を爆破したり、ハイジャックして米国本土への突入に利用する計画を準 備中だったと報道されている。 • 1995年にパキスタンで逮捕されたこの事件の主犯(ラムジ・アフメド・ユセフ)は 、1993年2月のニューヨーク貿易センタービル爆弾テロ事件に関与しており、東南 アジア発各国際空港経由米国行きの米国エアラインを同時に爆破したりハイジャッ クする計画を準備中だったと報道されている。 Ramzi Yusef, architect of first World Trade Center bombing, carried plans for airliner suicide crashes Special to World Tribune.com MIDDLE EAST NEWSLINE Saturday, September 15, 2001 Ramzi Ahmed Yusef has long been behind bars. But he might provide the key for federal investigators examining the suicide attacks in New York and Washington. U.S. officials said the destruction of the World Trade Center and the Pentagon bear the imprint of Yusef, the 41-year-old Pakistani who was convicted for the 1993 attack on the World Trade Center. Yusef was arrested and found with plans for a coordinated series of hijackings and suicide crashes of several U.S. commercial airliners. The plan was never carried out, the officials said, because of the limitations of the poorly-trained squad. Most of Yusef's plans, including the 1993 World Trade Center attack, failed to succeed. "What we saw was the completion of Yusef's plans," an official said. "The resemblance is too strong to ignore." (5) 9・11以降/global war on terrorism (gwot) (1) 米国対アルカイダ 【Al-Qaidah】の国際テロネットワーク • • ※ 2001年9月1日(9・11同時多発テロ事件) イスラム原理主義者の犯人グループが4機の国内線旅客機をハイジャックし、 1機はペンタゴンに、2機はニューヨークの世界貿易センタービルに突入し た。死傷者は3000人以上と推定されている。 • ※2004年8月の「モスクワ発2機同時爆破テロ」では、モスクワ(ドモジェ ドヴォ空港)発ヴォルゴグラード行きヴォルガ・アヴィア航空JI1303便と ソチ行きシベリア航空S7-1047便が同時に墜落した。2機の旅客機にはチェ チェン名の女性が搭乗していたことから、連邦保安局は、ロシアからの独 立を求めるチェチェン武装勢力による犯行の線からも捜査を進めていると 報道されている。 現状の総括 • • • • 以上の分析のように、空港保安が対象とする分野については、左翼過激派による活動 の傾向的な沈静化、また航空機ハイジャックやテロについては、パレスチナ・ゲリラ =新左翼テロ集団から、宗教的原理主義や民族主義テロ集団に脅威の主体が推移して いる。 一般に大規模なテロ活動を実施する際には、現地で一定の準備期間を設けて、資金、 武器や爆発物を調達する必要があり、このために現地での協力者グループが不可欠に なると考えられる。具体的な例として、パレスチナ・ゲリラや北鮮との連携は日本赤 軍の海外での活動の前提となっていた。空港保安の箇所で述べたように、現時点では 日本国内の過激派集団の活動は低下しており、海外のテロリスト・ネットワークとの 連携は未だ活発化していないと推測されている。 このような海外のテロリスト・ネットワークの浸透と国際連携の点から考えれば、日 本国内における国際テロの危険性は必ずしも高まっていないが、他方で、米国本土に 対する攻撃については一貫して高い危険性があり、乗り継ぎ便を利用した爆発物の残 置、テロリストの米国への潜入経路、資金や部品等の調達の観点などから、日本の国 際空港が米国国内および米国向け航空機を対象とした航空機テロの中継地となる危険 性がある。 このように国際航空旅客ネットワークのセキュリティ・ホールを防止する国際的な取 り組みが重要になっており、今後とも日本の空港としてはセキュリティの向上に向け た全般的な取り組みが重要になっている。 3.グローバリゼーションの進展と国際空港 Malaysia Kuala Lumpur International Airport - Satellite Building (Construction: JV) 1998 グローバル化の進展と航空旅客 グローバル化の進展にともなって、アジア地域の大規模な国際ハブ空港とローカル空港の建設や拡張が計画されて います。 Second Bangkok Kuala Lumpur Changi Incheon Hongkong Tokyo 総面積 3,200 ha 10,000 ha 1,663 ha 1,511 ha 2,500 ha 900 ha 利用者数(年) 4500万人 2500万人 4400万人 2700万人 3500万人 2200万人 拡張計画 1億人 1億人 6400万人 1億人 8000万人 3000万人 40 【建設を計画中の空港】 ・Boryspil(Ukraine ) passenger million pax / year ・ Tan Son Nhat(Vietnam ) 30 ・ Noi Bai ( Vietnam ) ・ Borg Wl Arab( Egypt ) ・ Cairo(Egypt ) 20 ・ Jakarta( Indonesia ) ・ Medan(Indonesia ) ・ Delih( India) 10 0 92 19 94 19 96 19 98 19 year 00 20 02 20 HKG NRT SIN BKK SUL KIX KUL 2. グローバリゼーションの進展と国際航空事業 世界の航空旅客(人×キロ)の推移と予想 航空貨物(100万トン×キロ)の推移と予測 日本と東アジア諸国・地域の域内各空港間の就航便 数(往復)/JTB資料 東アジア諸国・地域の国際空港の離発着数と空港の規模 /国土交通省調査 成田国際空港の最近の動向 ※2004年4月1日に新東京国際空港公団から民営化して株式会社となった。資本金は1000 億円。 ※ 2006年6月から、第1旅客ターミナルビル南ウイングが開業して、第1旅客ターミナル ビル全体の延床面積を改修前の2.4倍に当る約44万㎡に拡張した。この結果、第1旅客タ ーミナルビルは、第2旅客ターミナルの約30万㎡を上回る規模になった。 ※第1旅客ターミナルビル南ウイングには、スターアライアンス・グループ(USエアウェ イズ、ユナイテッド航空、ルフトハンザドイツ航空、上海航空、タイ国際航空、全日本 空輸(ANA)など)を集約して、チェックイン・カウンターのほかにCommon Use Selfservice Check-in System(CUSS/共用自動チェックイン)を導入した。 ※受託手荷物のセキュリティチェックについては、CTXによるインライン・スクリーニン グ・システムを導入した。 CTXは荷物の断層画面をコンピュータで合成して3次元映像を 作成して手荷物を検査する最先端の爆発物探知装置(EDS)である。インライン・スクリ ーニング・システムは、EDSと手荷物搬送システムを一体化したシステムで、ベルトコン ベア上を流れる手荷物のセキュリティチェックを短時間で行うことができる。 ※第1旅客ターミナルビル南ウイングでは、「e-エアポート構想」の一環として、バゲッ ジ・ハンドリング・システムにRFID(無線識別)技術を用いたICチップ付きの手荷物タグ を導入して従来のバーコードタグと併用している。ICに書き込んだ手荷物や旅行情報など をベルトコンベア上で読みとることが出来るので、インライン・スクリーニングと組み合 わせてキュリティの機能向上を図っている。 ※制限エリアでの店舗展開を重視し、出国審査を終えた乗客向けに総合免税店や有名ブラ ンド専門店などの物販店を集めたモール街を設置した。 ※ スターアライアンス・グループの第1旅客ターミナルビル移転後、第2旅客ターミナル には、ワンワールド・グループ各社を再配置する予定である。 『成田空港:その役割と現状』 2005年11月、など (http://www.naa.jp/jp/airport/yakuwarigenjyo/2005/contents.html) 4. 空港セキュリティの諸課題 空港セキュリティの諸課題 • 1. 出入国管理の強化と空港の役割 • • (1)旅客手荷物探知システムの高度化 (2)爆発物検知の強化 • 2. 旅券と出入国管理 • • • (1)18年5月の出入国管理法の改正と外国人入国時の指紋採取、 外国人テロリスト等の退去強制事由およびAPISの導入 (2)IC旅券の導入開始とSPTカードの検討継続 • 3. • • (1)関係者の身元背景調査と制限区域のアクセス管理 (2)出国と入国の構造的な分離と利用者の動線管理 空港施設のセキュリティ強化 1. 出入国管理の強化と空港の役割 (1)手荷物探知システムの高度化 CTX+ETDS CTX: Computer Tomography X-ray(X線断層写真撮影装置) ETDS: Exprosives Trace Detection System 1980〜90年の探知システムの開発に続いて00年頃より統合に向かう。95年頃からInvision 社とCTXの開発を開始。L-3、Ion Track Itemiserなどとも協力。1996年のTWA800機事件が 契機。X線写真のコンピュータ合成による3次元画像と自動形状認識能力 2. 旅券と出入国管理 (1)「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律 (平成18年5月/第164回国会)」→ 平成19年11月までに実施 (ア)上陸審査時における外国人の個人識別情報の提供に関する規定等の整備 外国人は上陸審査時に電磁的方式によって指紋や顔写真などの個人識別情報を提供する 。(①特別永住者,②16歳未満の者,③「外交」又は「公用」の在留資格に該当する活 動を行おうとする者,④国の行政機関の長が招聘する者などを除く) (イ)外国人テロリスト等の退去強制事由に関する規定の整備 「公衆等脅迫目的の犯罪行為」、その「予備行為」若しくはその「実行を容易にする行 為」を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者として法務大臣が認定す る者、または国連安全保障理事会決議などの国際約束により本邦への入国を防止すべき ものとされている者は、退去強制の対象となる。(『公衆等脅迫目的の犯罪行為のため の資金の提供等の処罰に関する法律』第1条の規定を準用) 年間約700万人の外国人入国者から指紋を採取。報道によれば、入国管理局は7〜80万人 の被退去強制者の指紋を保有しているので、退去者が偽造旅券などで他人になりすまし て入国する場合には有効。外国人入国者の指紋のデータベース化を促進、なお個人認証 情報の保有期間は未定。 (ウ)本邦に入る航空機等の長に乗員・乗客に関する事項の事前報告を義務付ける規定 の整備 本邦の空港・海港に到着する航空機・船舶の長は、航空機・船舶が到着する空港・海港 の入国審査官に対し,事前に乗員及び乗客に係る事項を報告しなければならない。(注 )報告義務違反及び虚偽報告に対しては50万円以下の過料 → 入国者情報事前通報制度(APIS:Advanced Passengers Information System)の導入 (エ)上陸審査手続を簡素化・迅速化するための規定の整備(自動化ゲートの導入) 在留外国人で本邦から出国する前に指紋等の個人識別情報を提出して自動化ゲートの利 用希望を登録した者は、上陸申請の際に、再度、指紋等の個人識別情報を提供すること により,上陸許可の証印を受けることなく自動化ゲートを通過して入国することが可能 (①再入国許可を受けていること、または難民旅行証明書を所持していること,および ②上陸拒否事由に該当しないことが必要) 米国政府は、2004年1月5日から「US-VISIT 」を実施中 • 米国政府は、2004年1月5日から「US-VISIT (Visitor and Immigrant Status Indicator Technology)プログラム」と呼ばれる新たな出入国管理システムを導入。 米国出入国時にパスポート、ビザおよび指紋のスキャン(機械による自動読み取り) ならびに顔写真を撮影。(14歳未満、80歳以上、米国永住権所持者は手続きを免除) • • 【アメリカ合衆国入国時】 入国審査カウンターでは、(1)両手人差し指の指紋のスキャン(カウンター上に設 置された小型指紋読取機に人差し指(左、右の順)をかざすことによって読取りを行 う)、(2)デジタルカメラによって顔写真を撮影し、データベースの登録情報と照 合の上、入国許可の判断に利用 • 空港や港湾で指紋などのバイオメトリクス情報やデジタル写真などを利用して、米国 に入国してくる旅客の情報を収集する。従来の出入国審査では、旅行者の氏名や国籍、 性別、誕生日、パスポート番号と発行国、ビザ番号と発行日、発行場所、入国日、移 民ステータスや外国人登録番号、現住所と米国での居所を収集しており、個人旅行者 の記録として国土安保省と国務省が運営するデータベースに登録。 • 04年に制度を導入してから2年間で4400万人入国者をチェックし、1000人弱の犯罪者 および不法入国者を入国審査の段階で摘発 これらの情報を、 TSC(Terrorist Screening Center)のデータベースと 照合すると同時に、バイオメトリクス によって旅行者の本人性を確認。 米国に入国する旅行者はバイオメトリ クス情報付きビザを取得する必要が生 じ、日本国民のようにビザ免除対象者 であっても、ビザ無しで入国するには 機械可読のバイオメトリクス情報を内 蔵したパスポート(ICパスポート)が 必要になる。 米国のテロ容疑者リストによる搭乗者の事前審査 9/11以降、CAPPS II(Computer Assisted Passenger Prescreening System)の試行実験 を開始。これは 航空券の購入者の情報を Transportation Security Agency(TSA:運輸 安全保障庁/国土安全保障省の一部門)のPassenger Name Record(PNR)と照合して国内線 の搭乗者のリスクを推定するシステム。高リスク者を”Selectee”として、手荷物審査な どを重点的に行う。 ‐ TSAはCAPPS II プログラムを修正する形で、Secure Flightプログラムを実施。Secure Flightでは、 PNR をTerrorist Screening Center (TSC) のデータベースとの照合のみと したほか、従来、航空会社が実施していたチェックを国の業務とした。 ‐国際線の旅客は、引き続きTSCとの照合を実施しているが、これはU.S. Customs and Border Protection (CBP)が、Advanced Passenger Information System (APIS)を用いて 担当している。 (2)IC旅券の導入開始とSPTカードの検討継続 ・ 日本政府は、 IC旅券の導入を規定した改正旅券法を2005年の第162回国会で可決して6 月に公布していたところ、 2006年3月20日から新しいタイプのパスポート( IC旅券)の申 請受付を開始。 ・ IC旅券は、国籍、名前、生年月日など旅券面の身分事項のほか、所持人の顔写真をメ モリーに記録。冊子中央にICチップ及び通信を行うためのアンテナを格納したカードを収納。 ・ IC旅券の導入により、冊子上の顔写真を貼り替えた偽造に対しては、ICチップに記録さ れている情報と照合することにより変造を検知。今後、各国の出入国審査等でICチップに記 録された顔画像とその旅券を提示した人物の顔を照合する電子機器を段階的に整備して他人 の「なりすまし」によるパスポートの不正使用防止に効果を期待。 ・ 旅券偽変造の事例:国際指名手配中のところ、2003年12月にドイツで逮捕されたイスラ ム教テロリストのリオネル・デュモンは、2002年から日本に出入国を繰り返し、新潟市を拠 点にしてパキスタン人業者と一緒にロシアや北朝鮮向けに中古車輸出に携わっていた。デュ モンは他人の真正旅券の顔写真を自分のものに偽造して使っていた。入管で入国許可は簡単 におり、市は外国人登録証を発効していたと報道されている。また2001年5月に北朝鮮首脳 部の金正男が不法入国を理由に成田空港で逮捕された際には、ドミニカ共和国の旅券を所持 していたと報道されている。 左上:日本の旅券 右上:中綴となっているICカード、普通は見えな い。 左下: ICカードを読みとっているところ e-Passport連携実証実験(内閣官房を中心とした関係府省連携)とSPTカード ※国土交通省、法務省入国管理局が協力して出国審査の簡略化(SPT: Simplifying Passenger Travel)を推進。個人認証(指紋)を収納した「SPTカード」と「IC旅券」を 併用する自動化ゲートの導入を予定。報道によれば 、 旅客は旅行申し込みや航空券の購 入、座席指定といったプロセスを事前に行い、ICカードに必要情報を記憶させるなどし て手続き時間30分が目標。航空旅客会社のチェックイン、保安検査、出国審査のワンス トップ化やその組み合わせ等については検討中。 3. • • • • • • 航空保安と空港保安に関する国際標準 ・ ICAO:Chicago Convention Annex17 ICAOシカゴ条約第17付属文章空港セキュリティ ・ IATA:GASAG (Global Aviation Security Action Group) ・ Industry Positions on Security Issues ・ TSA:Security Guidelines for General Aviation Airports ・ 米国連邦政府:Regulations 49CFR 1542 Airport Security (1) 関係者身元背景調査と制限区域の管理 • (ア) 施設/設備の物理的なセキュリティ(フェンス、施錠、監視機器の設置、検査機 器)、アクセスコントロール • (イ)空港職員や出入業者の身元チェック(身元背景調査、本人認証) (2) 出入国の構造的な分離と利用者の動線分離 (ア)施設のゾーニングと制限区域の段階的アクセス制限 (イ)空港施設の構造的な動線(人の動き)の管理 (3)危機管理手法の組織への導入 4. 日本の政策対応と今後の取り組み • 1. 空港セキュリティの諸課題 • (1)空港保安 • (2)航空保安 • 2.グローバルな安全保障環境の推移と日本の対応 • 航空機テロの防止や、国際テロ組織に対する出入国管理の強化の観点から、国際空 港の安全な運用と、その国際的な連携が重要性を増している。 • 他方で、経済的な相互依存関係の拡大にともなって、人と物資の交通を迅速化し、 国境の往来にともなう負担を軽減する取り組みが重要になっている。 • このために、IC旅券の導入による乗客のスクリーニングと空港手続の簡素化、RFID による物流・旅客の紐付けおよびX線断層写真や質量分析装置を利用した荷物の内 容検査と空陸一貫の手荷物サービスといった施行実験が各国で始まっている。 • このような新しい技術を、空港保安など空港セキュリティの既存のシステムに組み 合わせて用いることは、今後、国際空港の出入国管理の一般的な方策になるであろ う。 総務省資料等 • 日本では、1970年3月に我が国初のハイジャック事件である日航機「よど号」事件が発生 して以来、現在までに計20件のハイジャック事件が発生している。 • 爆弾テロ、空港施設への擾乱、違法な出入国の繰り返しなどに対して、再発防止策等を 講じている。 国土交通省資料等 空港の保安対策基準は『フェーズ1』『フェーズ2』『フェーズE(Emergency)』の3段階 に設定されていたところ、2001年9月11日以降、日本のすべての飛行場、航空運送事業者 等で、航空保安対策の基準についてに定める非常警戒態勢(「フェーズE」)を継続中。 2005年4月からこれを「レベルⅠ」として恒久化し、特定の便等に対する脅威が高まった 場合に「レベルⅡ」「レベルⅢ」を新たに設定することになった。 (1)左翼テロから原理主義、民族主義テロに脅威が推移しており、国際テロの危険性 は日本国内においては低下している。他方、米国本土に対する攻撃の中継地、米国向 け航空機を対象とした航空機テロの危険性があり、国際航空旅客ネットワークのセ キュリティホールを防止する国際的な取り組みが重要になっている。2004年12月に国 際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部が策定した『テロの未然防止に関する行動計画 』などに基づいて、2006年5月の国会で、出入国管理及び難民認定法を改正し、外国 人入国者の指紋採取、外国人テロリスト等の退去強制、APISを導入することが決まっ た。(19年11月までに実施を予定)入国時に外国人の個人情報の提供を義務付ける入 国管理制度は米国に続くものであるが、これは日本国内での外国人犯罪問題とも関連 している。 (2)近年,日本においても設備やシステムの側面から空港セキュリティを強化していく状 勢となっている。具体的に言えば,成田国際空港についても,70年代の左翼過激派集団 による空港施設を対象とするリスクから,国際テロ組織やテロ支援国家による違法出入 国などの航空機テロやボーダーコントロールによる航空保安に関するリスクに変化しつ つある。このような状勢の中で緊急管理体制や運用フローについても実運用に基づいた 検討を行うことが、安全・安心な空港及び航空保安の実現につながっていくものと考え られる。IC旅券の本格利用が始まったほか、SPTカード/自動化ゲートの実証実験が続い ている。 (3)脅威を可視化し、効率、安全、信頼の向上を危機管理の各局面で図るとともに、国際 テロリストネットワークの動向や、テロ実行の手段に関する情報活動と分析が喫緊の課 題になっている。
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