SPSCマネジメント - アスタ新長田 ALL IN ONE OFFICE

平井経営研究所
顧客、従業員、地域社会を味方につけ、売上・利益を伸ばす!
SPSCマネジメント
1.SPSCマネジメントとは
(1) SPSC マネジメント(=戦略的ポジティブ社会貢献経営:Strategic Positive Social-Contribution マネジメ
ント)の定義
SPSC マネジメントの究極の目的は、
『積極的・前向きな社会貢献による、企業価値の向上と、経営の長期
的安定(持続・存続可能性:Sustainability)及び成長』である。
そのため、企業の社会貢献を、A.市場(顧客・他)
・経済、B.人間(ヒト)
、C.環境(生物多様性維持含む)
、
D.社会(地域社会)の4つの軸(=社会貢献評価4軸)で評価し、企業の「主力事業・製品商品・サービス等」
において、ポジティブ(Positive=積極的、肯定的、陽性の、人為的に定めた)で能動的かつ主体的(受動的、
受け身的・守り等ではない)な戦略的経営を実践し顧客や地域社会が望む提供価値を創造すれば、従業員を含
む多くの利害関係者(=ステークホルダー:図1.参照)が応援団・信者となって、企業の存続・成長に結び
付くというものである。
(2) SPSC マネジメント 7 原則
この考え方の原則的特長を概説すると、次の7点に集約される。
① 顧客、従業員、地域社会、取引先等を強力な応援団・信者にし、企業価値の向上と経営の長期的安定・成
長を確実にする。 ⇒ 勝ち残り!
② 適用業種・業態に制限はないが、特に最終消費者・ユーザー向け製品・商品・サービスを扱っている事業
では目に見える成果・効果の顕在化が早い。 ⇒ 即効性!
③ 企業の使命(=Mission)
・経営理念を、市場・経済、人間(ヒト)
、環境(生物多様性維持含む)
、社会(地
域社会)の社会貢献評価4軸で再評価し、自分達の表現で具体的なSPSC行動憲章、長期ビジョン・経営目
標等として見える化・見せる化し、企業内外に浸透させる。
⇒ 社会貢献内容の明示!
④ 経営理念・SPSC行動憲章・長期ビジョン・経営目標等実現のため、企業の主力製品・商品・サービス・事
業等で、上記社会貢献評価4軸に適う提供価値を「こだわり」を持って実現する。
基本的な提供価値(=キーワード)とは、
「安心、安全、健康、省エネ、省資源、環境・自然保護、ヒト
に優しい、新鮮、美味しさ、幸福・満足感、ステイタス、本物、こだわり等」である。 ⇒ 貢献の本質・
提供価値の具体化!
⑤ 経営理念・SPSC 行動憲章・長期ビジョン・経営目標等(=社会貢献目標)及びその実践成果の積極的な
情報発信(企業内外)により、顧客・従業員を始めとする利害関係者の満足度を高め、強力な応援団・信
者とする。 ⇒ 積極的な情報発信
⑥ 自社の経営資源を考慮し、重点事業・分野・項目の絞り込みと優先順位を明確にする。
⇒ 選択と集中・優先順位明確化!
⑦ ポジティブに考え、焦らず、欲張らず、できることから実践する。
⇒ ポジティブ+分相応
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図1.SPSC マネジメント(=戦略的ポジティブ社会貢献経営)の概念 ※太線内は利害関係者/例示
企
業
社会貢献評価軸
市場・経済
顧
客
主
取 引 先
競合相手
金融機関
投 資 家
企業・団体
客
従 業 員
取引先関係者
潜在顧客
経 営 者
地域の人々
世界の人々
地域社会
市民社会
国際社会
N P O
現在の世代
将来の世代
各種規制機関
N G O
理念・リーダーシッ
プ
マネジメント
体制
コンプライアンス
(法令遵守)
ディスクロージャ
ー・コミュニケーシ
ョン
政府・自治体
人
社
間
会
顧
株
自 治 会
環
境
(生物多様性維持)
コーポレート・ガバナンス(企業統治)
(白潟敏朗、青木茂雄、北島隆次著、
「図解 よくわかるCSR/日本実業出版社、2005.06 発行」19 ページの
「経済団体が捉えるCSRの概念」を参考に、著者が作成)
2.SPSC マネジメント(戦略的ポジティブ社会貢献経営)推進のメリット
(1) 顧客満足度の向上で売上高が増加する
ポイントは、企業の使命・経営理念実現のための経営者等の情熱と徹底した「こだわり」である。
キーワードは、経営理念、行動憲章、長期ビジョン等の明確化・見える化(キャッチ・コピー、ロゴマ
ーク含む)と情報発信、他。
(2) 従業員満足度の向上で、企業の活性化が図れる
ポイントは、認められること(自社内外)
、自己実現、誇り・使命感(顧客・地域社会等からの支持・共
感・称賛・感謝・期待、他)
、感動・共感の場の創造、経営理念、ビジョン、社員証・手帳・カード(クレ
ド)
、バッジ、ユニフォーム、等。
(3) 社会(地域社会)からの信頼性を確保できる
ポイントは、使用原材料・副資材、取扱製品・商品・サービス、物流頻度・ルート・手段、ゼロエミッ
ション・廃棄物処理、雇用・教育関係、施設、設備投資、等。
キーワードは、感動・共感の創造(場も含む)、掲示板、HP、広報紙、メルマガ、キャッチコピー、
その他。
(4) 経営理念の再評価が可能になる
この機会に経営理念を社会貢献評価4軸から再解釈し、その浸透度や実践度を再評価することも有意義で
ある。
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(5) 当たり前のことを当たり前に行う社内風土を醸成することができる
コンプライアンス(法令順守)やCSR(企業の社会的責任)体制構築は、SPSC マネジメント実践の大
前提である。企業の主力事業において社会貢献が可能な仕組みを整備することにより、法令遵守はもとより、
従業員が社内ルールを守り、倫理的に行動することを促進する。
キーワードは、SPSC 経営理念・行動憲章・規範の見える化・見せる化及び繰り返し語りかけ、カード・
手帳、コンプライアンス・マニュアル、スローガン、等。
(6) 従業員の意識改革による社内の革新が可能になる
従業員が行動憲章・規範を正しく理解し、効果的な社会貢献を実現するために自分が何を行うべきか意識
して行動するようになれば、SPSC マネジメントの推進目的は達成される。その行動憲章・規範の従業員へ
の浸透・実践の最も効果的な仕掛けは、経営トップの熱い気持ち・信念を従業員に直接訴え続けることであ
る。
キーワードは、自律型人財育成、プロジェクト・チーム、会議、年頭挨拶、カード、ポスター、手帳、社
内報、問題意識涵養、社内キャンペーン、スローガン、キャッチ・フレーズ、顧客・地域の声、提案制度、
TQC活動、その他。
(7) 「部門間の壁」を取り除き、全社最適の状態を実現することができる
SPSC マネジメントの成果追求には、
「SPSC プロジェクト」
、
「従業員満足度向上プロジェクト」等の部
門横断プロジェクトチームの設置が効果的である。そうしたプロジェクトチームにおける成果追求・目的達
成のための活発な議論や行動は、偏狭なセクショナリズムを打破し、全社一丸の体制を構築する良き機会と
なる。
キーワードは、プロジェクト、部門横断的チーム、委員会、提案、議論、合宿研修等。
(8) 経営リスクを軽減することができる
従業員の意識改革が進めば、個人情報保護リスク、品質・製品安全リスク、労働安全リスク、環境リスク、
コンプライアンスリスク等の経営リスク軽減は可能である。
キーワードは、ウィニー・ウィルス対策、パソコン・入退室管理、TQCサークル、PL保険から整理・
整頓、カード式簡潔行動基準・マニュアル、その他まで、多種多様。
(9) 株主や投資家からの支持が得られる
上場企業・公開予定企業の場合は、企業統治、コンプライアンスや環境、人権等への取り組みが評価され
るSRI(社会責任投資)の普及からも理解できるように株主や投資家からの支持が明確に得られる。
非公開企業の場合はそれほど支持が明確に見えない場合もあるが、SPSC マネジメントを実践することに
より業績が向上すれば、やはり企業の株主等の経営者に対する支持は大きくなる。
キーワードは、資金調達、従業員持株制度、等。
(10) 企業価値の向上と利害関係者(ステークホルダー)からの評価や尊敬・敬愛が得られる
SPSCマネジメントの究極のメリットは、企業価値の向上と利害関係者(ステークホルダー)からの評価や
尊敬・敬愛である。その結果、円滑な資金調達(投資家、金融機関)
、売上・利益増加(顧客、従業員、取
引先)
、全社員一丸・運命共同体構築(従業員)
、永続的取引による品質向上・コストダウン(顧客、取引先)
、
売上増・雇用確保(従業員、地域住民)
、等に結実する。
(白潟敏朗、青木茂雄、北島隆次著、
「図解 よくわかるCSR/日本実業出版社、2005.06 発行」の 32~
51 ページを参考に引用・作成)
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3.SPSC マネジメント(戦略的ポジティブ社会貢献経営)への具体的取り組みと留意点
(1) 経営トップの強いリーダーシップと SPSC プロジェクトチームの設置
SPSCマネジメントの最終責任者は、経営トップである。経営トップは、自身及び会社の使命を深く認識
し信念と情熱を持って(=経営理念に直結)
、企業を目標とする好ましい方向に導いていく責任がある。
その経営トップの下に、部門責任者クラスで構成された部門横断的プロジェクトチームを組織する。プ
ロジェクトチームの会議・会合では、
① ポジティブな発想・発言:ネガティブ(陰性)で否定的な発想・発言をしない、課題克服(=どうすれば
可能か)を考える、
② 発言相手の良いところの発見:揚げ足を取らない、
③ 客観的な判断:主観的・感情的にならない、
④ 本音での発言、
等を原則とする。
プロジェクトチームとは、特定の課題対応・解決を目的として関連部門からメンバーを集め一定期間設置
SPSC プロジェクトチームの場合は全部門が対象となるので偏狭なセクショ
される非常設の組織であるが、
ナリズムを打破し全社一丸体制(=運命共同体)を構築することが可能となる(経営戦略・経営計画等策
定後は、経営会議・戦略会議等への改編も可)
。
なお、プロジェクトチームの事務局・調整役は、経営企画・総務・経理部門が担当する。
また、プロジェクトを全社的な活動とするため、部門ごとに中堅・若手をメンバーとしたサブチームを設
置することも有効である(小規模企業では不要)
。
(2) 経営理念の確認・再構築または策定
経営理念とは、企業経営における憲法のようなものであり、現在から将来にわたり企業の実施する事業の
範囲や内容、経営方針、運営方法等の全てを規定するものである。
経営理念策定について特に決まったルールはないが、創業者・経営者の熱い思い(Passion=情熱、熱情、
、信念(Belief→Faith in=確信)が、特定の事業分野
激情)や使命感(Mission=使命、天職、伝道、布教)
等を通じた社会貢献を行うという形式で表現されていることが多い。
SPSC マネジメントに取り組むに当たっては、まず経営理念を次の要領で検討する。
① 経営理念を、
「市場・経済、人間(ヒト)
、環境(生物多様性維持を含む)
、社会(地域社会)
」の社会貢献
評価4軸で再評価・検討する。
② 経営理念が、上記の社会貢献評価 4 軸に基づき、顧客、従業員、地域社会等を強力な応援団・信者にし、
企業価値の向上と経営の長期的存続・安定及び成長に結び付くものになっているか検討する。
③『創業者・経営者等の熱い思い・使命感・こだわりが、自分たちの言葉で充分表現されているか』
、
『自社の
真の提供価値(=強み)は何か、表現されているか』を確認・検討する。
もちろん、経営理念が明文化されていない場合は検討結果を基に策定し、表現が不充分であれば再構築す
る。
なお、なお経営理念の表現方法については、従来は「化粧品」とか「家電製品」というような具体的製品・
サービスや業種名を盛り込むことが多かったが、最近は「お客様個々の健康で自然な美しさの創造をともに
お手伝いする」とか「心と体の栄養を提供する」
、
「冷熱と真空技術であらゆる分野に貢献する」というよう
に、提供価値(機能・技術に基づく価値含む)で表現されるケースも増加している。企業の将来の成長・
存続可能性を高めるためには、そのほうが好ましいものと判断する。
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(3) 行動憲章・行動基準等の確認・策定
一般的に、
「企業の使命や創業の精神」は経営理念に表現されることが多いが、狭義の経営理念は抽象的な
表現が多く分かりにくくなっている。それをもう少し具体的に表現したものが、行動憲章とか行動基準、宣
言等である。
SPSC マネジメントでは、企業の使命(=Mission)
・経営理念を、社会貢献評価4軸で再評価し、自分達
の言葉・表現で具体的な SPSC 行動憲章として明文化する。
その明文化の内容を端的に表現するキーワードが、基本的提供価値、具体的提供価値、さらには個別企業
の詳細提供価値である。
① 基本的提供価値とは、
『安心、安全、健康、省エネ、省資源、環境・自然保護、ヒトに優しい、癒し、平穏、
新鮮、美味しさ、幸福・満足感、自己実現、ステイタス、本物、こだわり』等である。
② 具体的提供価値のキーワードの基本は、
『ゼロエミッション、地産地消、軽薄短小、季節感・旬の満足、本
物、最高級、希少性、重厚感』等である。
(表1.参照)
表1.基本的提供価値及び具体的提供価値の例示
市場・経済
基本的
提供価値
具体的
提供価値
環境・生物
地域社会
ヒト
総合・他
こだわり
本物
ステイタス
自己実現
癒し
省エネ・省資源 安心・安全
環境・自然保護 環境・自然保護
生物多様性の確 企業市民
保
安心・安全
ヒトに優しい
健康
癒し
信条・趣味のこ
だわり
本物・最高級・
希少性・重厚感
等のステイタス
本物の美味しさ
ゼロエミッショ
ン
軽薄短小
製品リサイクル
トレーサビリテ 季節感・旬の美
ィ
味しさ・満足
有機栽培
少量化
減農薬栽培
香りの癒し
女性子供にも使
いやすい
地産地消
地域産品活用
ゼロエミッショ
ン
幸福・満足感
新鮮
美味しさ
③ 個別企業の詳細提供価値とは、各企業の「強み」や「こだわり」をより明確にし、設定したターゲットが
(表 2.に参考事例掲載)
最も重視する、細分化された市場での望まれる提供価値のことである。
表2.飲食サービス業(飲食・宿泊関連)の行動憲章に表現された詳細提供価値の参考事例
【SPSC 行動憲章】
1.私達は、地産地消の原則に則り、地域産の生産者・流通経路の分かる安心・安全で本物の食材を基本とし
た季節の旬の美味しくてヘルシーなメニューを、お値頃感のある価格で提供します。
2.私達は、自慢のメニューに欠かせない重要素材については妥協せず、国内一級もしくは安心できる海外提
携先の生産者・流通経路の分かる安心・安全な食材を使用します。
3.私達は、昔からの大切な友人が我が家を訪れた時のようなおもてなしの心で、お客様をお迎えいたします。
また、運送業なら「私達は、法令を遵守し過積載はせず、荷物にもヒトにも優しい安全運転をします。
」と
いうようなことである。
・社会的責
これらの事例でも理解できるように、行動憲章・行動基準等にはコンプライアンス(法令遵守)
任履行・社会貢献方針、環境方針等を含む「SPSCマネジメント方針」が、易しく分かりやすい言葉で表現
されることが重要である。
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(4) 経営理念の組織末端までへの浸透
経営理念の定まった統一的定義は、決まっていない。一般的に経営理念(狭義)とか社是・社訓と呼ばれ
ているもの、行動憲章・行動基準やお客様への約束等から長期ビジョンまで全て含まれるとする解釈もある
が、ここでは行動憲章・行動基準までを広義の経営理念とする。
経営理念の組織末端までへの浸透のためのキーワードは、経営理念・行動憲章等の明文化・見える化・見
せる化と、あらゆる機会を通じたトップ直接の語りかけ及び実践(=言行一致)の繰り返し、及び従業員自
らが考え行動する機会の充分な提供等である。
(5) 長期ビジョン・経営目標の確認・設定
① 長期ビジョンの策定
5年後、10年後の企業の望ましい姿を、できるだけビジュアルに表現したものが長期ビジョンである。
企業内外の「多くの利害関係者(ステークホルダー)に好意的な気持ちを持ってもらい協力してもらう」
ことにより、経営理念の実現に貢献する重要な役割がある。
将来の業務内容や規模拡大、組織・グループ戦略等をできるだけ具体的に見える化・見せる化し、特に全
社の一体感や従業員のモチベーション・アップにも結び付けたい。
② 経営目標の設定
経営目標は主に内向きに策定されるもので、経営理念や長期ビジョン実現のために財務内容をどうする、
新製品開発を年間何件行うといった具体的数値目標の設定が行われる。
ただし、多くの場合は、経営目標が長期ビジョンの中に反映されている。
この長期ビジョンや経営目標の中に、将来の経営理念の実現した姿を具体的に分かりやすい表現で、事業
内容・規模、組織・グループ体制、社会貢献内容、財務内容、労働分配率・平均人件費、等の目標として盛
り込み情報発信していけば、顧客、従業員、取引先、地域社会等多くの利害関係者を巻き込んだ大運命共同
体の構築も可能となる。
SPSC 経営理念・行動憲章、長期ビジョン・経営目標等をビジュアルかつ具体的に表現して見える化・見
せる化(図表化、グラフ化、達成予想図・イラスト、CG 等)し、社会貢献目標とその実現した望ましい姿
を企業内外に浸透させることにより、顧客・従業員・地域社会・取引先等の利害関係者を熱烈な応援団・信
者とする。
当然、企業内部では、経営者自らが繰り返し組織の末端にまで熱い気持ちを直接語りかけ、浸透させる。
(6) SPSC マネジメントの経営戦略策定
次にSPSC経営理念・行動憲章、長期ビジョン、経営目標達成のため、その企業本来の主力製品・商品・
サービス・事業を主体にした今後の事業展開をいかに行っていくかというSPSCマネジメントの経営戦略を
策定する。
(もちろん、次代の主力製品・商品・サービスや新事業の開発も考慮)
。
① 経営戦略策定の手順・枠組み
1) 戦略ドメインの策定(図2.参照)
戦略ドメインとは、経営理念を実現するための活動の領域や進むべき方向性を示すもので、具体的な市
場ニーズ・商品・サービス等によって特定される。
なお、
事業領域を示す言葉は、
広すぎるとイメージが拡散するし、
狭すぎると事業展開を制約するので、
適当な広がりを持たせる。
a. 標的市場(対象顧客)
・提供価値の設定
顧客・市場ニーズの探索により、標的となる顧客・市場と、提供価値を設定。
b. 独自能力の明確化
経営資源の有利性を活用し、生き残るために必要な独自能力を設定する。
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【図2.戦略ドメインの策定】
(ターゲット)⇒どのような顧客の
*経営資源の有利性
(独自能力/技術・ノウハウ)
⇒差別化し,勝ち残るために必要
な独自能力の明確化!
(提供価値)⇒どのようなニーズ
を満足させるか!
2) 全社・全体戦略の策定
全社・全体戦略は、戦略ドメイン、基本戦略、組織戦略で構成される。
a. 基本戦略
基本戦略の見方・分類には、成長戦略、競争戦略等各種あるが、ポーターの競争戦略を説明すると下
記の通りである。
* コスト(・リーダーシップ)戦略
* 差別化戦略
* 集中戦略(特定セグメントにターゲット絞込み)
・コスト集中戦略(低コストで勝負)
・差別化集中戦略(差別化で勝負)
他の切り口で検討してみると、市場創出戦略、デファクト・スタンダード戦略や、事業分野を拡大す
る多角化戦略、M&A・提携戦略等、様々である。
b. 組織戦略
企業グループ全体か単独企業か、持ち株会社制度、子会社・関連会社の配置、事業部制、カンパニー
制度、マトリックス組織、社外取締役制度、委員会制度導入、執行役制度等、組織構造の検討と同時
に、意思決定、部門間調整、情報伝達等の組織運営面での検討も必要となる。
関係するその他のキーワードを挙げてみると、社内ネットワーク、コミュニケーション、社内ベンチ
ャー、バーチャル組織、企業統治(コーポレイトガバナンス)
、コンプライアンス等、幅広い検討が必
要である。
c. 全社・全体戦略の決定
戦略ドメイン、基本戦略、組織戦略の検討後、採用可能な 戦略代替案の開発 ⇒
決定 ⇒ 最適戦略案の選択 という段階を経て全社・全体戦略を決定する。
戦略的意思
3) 個別事業戦略の策定
個別事業戦略でも全体戦略で取り上げた各種戦略は有効であるが、それ以外に「コトラーの 4 つの競
争地位」からみた戦略の基本方針を紹介する。
a. リーダー:圧倒的地位
市場規模拡大、全方位型事業展開。ポイントは、コストリーダーシップと同質化。自ら能動的に競争
を仕掛けない。
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b. チャレンジャー:リーダーに次ぐシェア
革新的差別化。他社が模倣できない独自の「仕組み」づくりがポイント。
c. ニッチャー:独自のサブ・セグメントを支配 ⇒ 強みを活かす
集中化、直接的競争の回避。
d. フォロワー:独自性なし
経営資源の最大限の効率活用。開発のリスクやコストの徹底的回避がポイント。
3) 機能別戦略の策定
マーケティング戦略、研究開発戦略、財務戦略、人事労務戦略、物流戦略、情報化戦略等の機能別戦略
を策定する。
※ 個別事業戦略と機能別戦略のどちらが上位に位置するのかは、個別企業や置かれている経営環境・次期
により変化するため特に決まっていない。
② マーケティング戦略の構築
全社・全体戦略で、
「ターゲット」
、
「提供価値」
、
「活用する独自能力」や、
「基本戦略」
、
「組織戦略」が
設定できたら、次は機能別戦略であるマーケティング戦略の策定が主要なテーマとなる。
なぜなら、SPSC マネジメントで、社会貢献実践の主要な対象となるのが企業の『主力製品・商品・サ
ービス・事業等』と位置付けられているからである。もちろん、マーケティング戦略達成のために財務戦
略、技術・研究開発戦略、製造戦略、人事労務戦略等はどうするのかという考察は重要であり、企業によ
ってはマーケティング戦略と同等以上の価値を持つ場合もあるが、大半の企業にとってはマーケティング
戦略策定による「社会貢献のための仕組みづくり」が最も重要な「企業価値の向上及び存続可能性の確保・
勝ち残り」に直結するからである。
マーケティング戦略構築・展開のための基本的枠組み・考え方の事例は、表3.の SPSC マネジメント・
経営戦略策定マトリクス(主にマーケティング関係部分)をご覧いただきたい。
SPSCマネジメントでは、
「経営理念・SPSC行動憲章・長期ビジョン・経営目標等」実現のため、企業の
「主力製品・商品・サービス・事業等」で、社会貢献評価4軸に適う提供価値について『こだわり』を持
って実践し、社会貢献することを目標としている。
ターゲットとする顧客を明確にし、企業の使命や経営理念に表現されるこだわりを『主力製品・商品・サ
ービス・事業等』の中に組み込み、具体的な提供価値として表現する。
考慮するべき範囲は、製品・サービス等の企画開発・設計、ネーミング、原材料調達、製造・加工方法
設定、物流・販路設計、市場投入、販売促進から廃棄・リサイクル等まで非常に幅広い。
なお、マーケティング戦略(=売れる仕組みづくり)の目標達成のために必要となるその他の機能別戦
略の策定マトリクスについては、表4.を参照願いたい。
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表3.SPSC マネジメント/経営戦略策定マトリクスのマーケティング部分(10 ページ表2.の飲食・宿泊関
連を主なモデルにした個別企業の詳細提供価値等の例示)
市場・経済
環境・生物
地域社会
総合・他
環境・生物保護や地域行事・祭り等へ 事業所・施設バリ SPSCマネジメン
の人的支援、寄付等
アフリー化
ト PT の設置
組織・グループ
マーケティング
製 品 ・ 商 地域・季節の「旬 省エネ機器・自然
品・主力サ の味・空気・風 エネルギー活用
ービス
情・文化」を体現 機器の導入
した料理・施設・
サービスの提供
廃棄ロス削減メ
ニューの開発
地域・国内・海外
の本物素材を活
用した妥協なし
の新鮮で美味し
い料理の提供
価格
ヒト
地域特産素材を 生産者・流通過程 素朴だが地域の
主に使用した料 の見える安全・安 歴史・文化が育ん
理の提供
心な料理の提供
だ「癒しの空間」
を提供
地域の人財を活 有機・減農薬栽培
用した素朴で心 の素材を活用し 従業員との心の
のこもった地域 たヘルシーメニ ふれあい
独特の接客サー ューの提供
ビス
メニュー・宿泊
懐かしい故郷に 室・その他のネー
手づくり地域工 帰ったような暖 ミングの工夫
芸品等の販売
かい「おもてな
し」
目玉メニュー、地
酒、特産品の通信
販売
お値ごろ感ある価格設定
期間限定チャリ
ティ価格
チャネル
HP(インターネット予約)導入
旅行代理店の活用
販売促進・
サービス
地域特産品及び
本物素材活用メ
ニューという「こ
だわり」の見える
化
かつ値ごろ感の
訴求
同左
環境・生物保護チ 地域文化財保護 トレーサビリテ
ャリティ・キャン のチャリティ・キ ィの訴求
ペーン
ャンペーン実施
安心・安全・癒し
再生紙使用ペー 地域のマル秘観 のキャンペーン
パーバッグ・施設 光マップの提供
展開
案内・DM、メニ
ュー等の作成
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安心・信頼の価格
設定及び価格体
系の見える化
パブリシティ活
用
顧客データ活用
による季節感を
活用した DM・メ
ールニュース等
の配信
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表4.SPSC マネジメント/経営戦略策定マトリクスのその他機能別部分(
(10 ページ表2.の飲食・宿泊関連
を主なモデルにした個別企業の詳細提供価値等の例示)
市場・経済
環境・生物
地域社会
ヒト
総合・他
人事労務
中 長 期 的 に 地 ボランティア活動認定(定時退社、短 就業環境整備
域・業界水準以上 時間・有給他)
定年延長
の賃金を目指す
ライフ・ワーク・
事業所地域優先
バランス
の雇用
財務
売掛債権回転日
数短縮
情報システム
季節感・旬を意識
し、顧客ニーズに
対応したHPの作
成と更新及びメ
ールニュースの
配信
教育・研修充実
OJT 活用
自己啓発支援
女性活用
良質素材の安定・優先確保のための買掛債務決済期間の短
縮と現金決済(買掛債務回転日数短縮)
個人情報の保護 経営管理、財務・
強化(安心)
経理、販売・仕入
管理、メール配信
等に中長期的に
対応できるシス
テムの整備
(7) 広報活動と情報技術活用
SPSC マネジメントの成果の広報は、自社施設内や掲示板へのパソコンで作成したポスター・報告書等の
表示や、簡単な広報紙・レポートの作成と送付、及びホームページ・メルマガ等の活用により実施する。
(8) 利害関係者(ステークホルダー)とのコミュニケーション
「今世紀は、社会に貢献する企業しか生き残れない」といわれている。そのための情報発信に活用可能
な手段は、会社案内、製品パンフレット、総会通知、掲示板、ポスター、HP、メール・マガジン、レポート・広報紙
(社内外報:顧客・従業員・取引先・地域社会)、社外モニター・懇談会、チラシ、DM、POP、名刺やパブリシ
ティ等多様である。コスト対効果を考慮しながら、利害関係者との計画的・継続的で密接なコミュニケーション
を維持することが重要である。
なぜなら、経営理念・SPSC 行動憲章・長期ビジョン・経営目標等(=社会貢献目標)及びその実践成
果を積極的に情報発信(企業内外)することにより、顧客・従業員を始めとする利害関係者の満足度を高
め、強力な応援団・信者とする必要があるからである。
なお、利害関係者とのコミュニケーション方法等については、下記図3.も参照願いたい。
図3.利害関係者(ステークホルダー)とのコミュニケーションの例
(利害関係者)
(利害関係者)
株主・投資家
国・自治体
顧客・ユーザー
取引先
従業員、労働組合
地域住民、NPO
金融機関
業界団体、その他
企
業
CT
CT
(※CT:コミュニケーション・ツール=会社案内、製品パンフレット、総会通知、掲示板、ポスター、
HP、メール・マガジン、DM、広報紙、社内報、社外モニター・懇談会、チラシ、POP、名刺、パブリシティ等)
以上
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平井経営研究所
【主な参考文献】
1.岡本享二著、
「CSR入門」日経文庫、2004.12 発行。
2.伊吹英子著、
「CSR経営戦略」東洋経済新報社、2005.05 発行。
3.白潟敏朗、青木茂雄、北島隆次著、
「図解 よくわかるCSR」日本実業出版社、2005.06 発行。
4.日本経営倫理学会・CSRイニシアチブ委員会著、
「やさしいCSRイニシアチブ」財団法人日本規格協会、
2007.09 発行。
5.相葉宏二著、
「MBA 経営戦略」ダイヤモンド社、1999.04 発行。
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