コアグラーゼ陰性 ブ ドウ球菌 の カテーテルへの付着 性の研究

1542
コ ア グ ラ ー ゼ 陰 性 ブ ドウ球 菌 の カ テ ー テ ル へ の 付 着 性 の 研 究
東 京 医 科大 学 微 生物 学 教 室
小
Key words :
池
直
人
(平成2年7月9日
受 付)
(平成2年8月6日
受 理)
Coagulase-Negative Staphylococci (CNS),
Catheter-associated infection, Bacterial adherence
要
旨
静 脈 カ テ ー テ ル な ど体 内 挿 入 物 や 医 用 器 材 か ら し ば し ば 分 離 さ れ る コ ア グ ラ ー ゼ 陰 性 ブ ド ウ 球 菌
(CNS)の
静 脈 カ テ ー テ ル へ の 付 着 性 を 検 討 し,カ テ ー テ ル を 介 す る 感 染 の 機 序 とそ の 予 防 法 に つ い て 考
察 し た.CNSの
カ テ ー テ ル へ の 付 着 性 は カ テ ー テ ル 素 材 の 種 類 に よ り差 が あ り,培 養 ヒ ト細 胞 へ の 付 着
能 と相 関 す る こ とが 認 め ら れ た.又,静
脈 カ テ ー テ ル 由来CNSは,他
い 細 胞 付 着 能 を 有 す る株 が 多 か った.検
討 し た4種
最 も高 い 付 着 性 を 呈 しSiliconが
化 学 的 性 質(両
者 の 疎 水 性,菌
テ ル 表 面 処 理)が
最 も低 い 付 着 性 を 示 し た.CNSの
体 の 陰 性 荷 電,カ
重 要 な 役 割 を 果 た し,更
の 臨 床 材 料 由 来 のCNSに
の カ テ ー テ ル 素 材 の 内,Ethylene
比べ高
vinyl acetateが
カテー テルへ の付着 には両者 の物 理
テ ー テ ル の 表 面 構 造,カ
テ ー テ ル へ の 添 加 物,カ
テー
に 両 者 が接 す る生 体 内 の 因 子 と して フ ィプ ロ ネ ク チ ンや 輸 液
剤(プ ロテ ア ミン-ハ イ カ リ ッ ク液)が 付 着 を増 強 させ た.そ
す るた めに
ご,表 面 が 平 滑 で 疎 水 性 が 高 く,タ
の 結 果,CNSの
ン グ ス テ ンを 含 み,ウ
カテ ーテル へ の付着 を抑 制
ロキ ナ ー ゼ に よ り表 面 処 理 を 施 さ れ
た 素 材 を 用 い た カ テ ー テ ル が 有 効 で あ る こ とが 認 め られ た.カ テ ー テ ル を 介 す る感 染 の 予 防 に
ごは,カ テ ー
テ ル 素 材 の 改 良 の 検 討 と共 に,カ
見 感 染)原
因 菌 と してCNSの
序
内 感 染(日
和
病 原 性 を 見 直 す 必 要 性 も認 め ら れ た.
非 病 原 性 菌 と考 え られ て い た が,医 療 環 境 の 複 雑
文
感 染 症 の 発 症 機 序 に お け る 第1段
階 は 細 菌 を初
化 に 伴 い い わ ゆ る 日和 見 感 染 の 一 起 因 菌8)と し
の 付 着 で あ る1).
て,静 脈 カテ ー テ ル を初 め 静 脈 シ ャ ン ト・人 工 弁 ・
菌 が 何 ら か の経 路 を 経 て生 体 内
人 工 血 管 な どの 医 療 器 材 や血 液 等 か ら分 離 され る
め と す る 微 生 物 の 生 体(細
そ の た め に は,細
テ ー テ ル 操 作 に お け る無 菌 操 作 の 重 要 性 が 示 唆 され,院
胞)へ
に 侵 入 す る こ と が 前 提 と な る が,治
療 目的 の た め
こ との 多 い細 菌 で あ る.そ
こで 著 者 は 静 脈 カテ ー
に
ご生 体 内 へ 挿 入 さ れ た 様 々 な 器 具 か ら細 菌 が 侵 入
テ ル や 血 液 な ど の臨 床 材 料 か ら本 菌 を 分 離 し,分
し感 染 が 成 立 す る ケ ー ス が 近 年 多 く認 め ら れ
離 さ れ たCNSの
る2)3).特 に,静
て い る カ テ ー テ ル へ の 付 着 性 に つ い て 検 討 し,カ
脈 カ テ ー テ ル を 使 っ て の 輸 液 ・薬
剤 の 投 与 は 高 頻 度 に 行 わ れ る が,こ
の カテーテ リ
ゼ ィシ ョン が 原 因 と さ れ る 感 染 症 も 少 な く な
体 内 挿 入 物 と して 最 も多 用 さ れ
テ ーテ ル 感 染 の 機 序 と予 防 方 法 に つ い て 考 察 し
た.
材 料 と方 法
い4)5).
近 年 こ の よ うな感 染 症 か ら コ ア グ ラ ーゼ 陰 性 ブ
ド ウ 球 菌(Coagulase
下CNS)が
negative
staphylococci以
多 く分 離 さ れ て い る6)7).CNSは
別 刷 請 求先:(〒160)新
従 来
本 学 病 院 ・中検 微 生 物 検 査 室 に て 臨 床 材 料 よ り
分 離 され たCNSを
broth (HI-broth,栄
宿 区新 宿6-1-1
東 京 医 科大 学 微 生物 学 教 室
1. 菌 株 及 び 培 養
小池
直人
供 試 菌 と し,Heart
研)で37℃,20時
最 小 発 育 阻 止 濃 度 測 定 に はMueller
感 染 症学 雑 誌
Infusion
間 培 養 した.
Hinton
第64巻
agar
第12号
カテ ー テル感 染 の 機序 と予 防方 法 につ い て
培 地 を 用 い た.
2.
(5mm角
カ テ ー テ ル(カ
テ ー テ ル 素 材)
カ テ ー テ ル 素 材 と し てPolyurethane
Polyvinyl
tate
chloride
(EVA),
Silicone
社 提 供)を
3.
(PVC),
性 を液
体 シ ン チ レ ー シ ョ ン カ ウ ン タ ー(Aloka)で
測定 し
vinyl ace-
た.
(日 本 シ ャ ー ウ ッ ド
定 用)
(PG),
Cephalothin
(塩 野 義 製 薬),
(CET),
(ABPC)
Erythromycin
Minocycline
(MINO,日
(CP,三
(明 治
buffer
(EM)
1.8g,
本 レダ
共 製 薬)を
用 い
た.
4.
菌 種 同 定 用 キ ッ ト及 び 試 薬 類
ブ ド ウ 球 菌 同 定 用 キ ッ ト と し てIDテ
18(ニ
ス),
ッ ス イ),
Hydroxyapatite
ス ト SP-
(BDH,
PROTEAMIN-HICALIQ液(テ
bronectin
(Hoechst
イギ リ
ル モ),
-Behrig,西
ドイ ツ),そ
Fiの他
試 薬 類 は 和 光 純 薬 製 を 用 い た.
5.
て 陰 性 菌 を 分 け,IDテ
&
Kloosの
ス トSP-18及
び
ブ ド ウ球 菌 種 同 定 法9)に 従 い
菌 種 の 同 定 を 行 っ た.
6.
CNSの
CNSの
の付
の 強 弱 に よ り菌 株 を 大 別 し た.細
養 をPBSで
(2×108CFU/ml)を0.4ml
洗 っ た 後,菌
(/cover
培 養 しPBSで
洗 浄,メ
ギ ム ザ 染 色 を 施 し,鏡 検 し た.付
slip)か
満:±)を
け,
着 能 は 細 胞100当
上:升,
判 定 し た.
7. 最 小 発 育 阻 止 濃 度(MIC)の
透 過 率(%T,
細 胞 付 着 能 の 強 いAD,KU株
に な る よ う再 浮 遊(3本
分 注)し
25∼35%
た.菌
(5ml)
間 激 し く撹 拌 し 室 温 で30分
間 静 置,水
0.5ml加
液
分 間 反 応 し た 後,90秒
え37℃,
30
層 部 の 透 過 率 を 測 定 し,xylene量
に対
す る 透 過 率 の 変 動 曲 線 よ り疎 水 性 の 強 弱 と そ の タ
イ プ を 分 類 し た.
(2) カ テ ー テ ル 素 材 の 疎 水 性:
angle
method11)に
van
Ossら
の
よ り測 定 し た.各
間 浸 洗 し,流
素材
水 及 び蒸 留 水 に て 充
分 リン ス した 後 乾 燥 さ せ た も の を サ ン プ ル と し
た.素
材 に 蒸 留 水 を 滴 下(1滴=10μl)し,水
と 素 材 表 面 の 成 すContact
10.
CNSの
angle
滴
(θ=水
angle
平面 よ り
goniometer
表面荷 電の測定
の 方 法12)に 従 い 測 定 し た.培
菌 をPBSで
洗 浄 後 同PBSに
nm)が35∼40%に
100mg添
混 和,30分
透 過 率
再 浮 遊 し た .そ
にHydroxyapatite(φ
サ イ ズ:80
加 し,37℃,10分
養 した
(%T,
の菌液
600
(3ml)
∼ 200nm)を
間 反 応 後60秒
間激 しく
間 室 温 に て 静 置 し水 層 部 の透 過 率 を測
の3
(1μCi/ml)
除 き, PBS
菌 液 に カテ ー テ ル素 材 の 切 片
績
1. 菌 種 同 定
す.S.epidermidisが
間振 盪培 養 した菌
洗 浄 し て フ リ ー のRIを
平 成2年12月20日
400nm)が
0.25,
分 離 さ れ た126株
と 弱 い#64株
株 を 選 び 検 討 し た.〔3H〕-thymidine
に 再 浮 遊 さ せ た.各
Urea
洗浄 し
夫 々 にxyleneを0.1,
成
本 化学 療法
カ テ ー テル 素 材 へ の 付 着 性
添 加 のHI-brothで37℃,20時
7.26g,
pH7.1)で
定 し た.
学 会 規 定 の 方 法 に 基 づ き測 定 し た.
をPBSで2回
た 後,同bufferに
測定
6種 の 抗 生 剤 に 対 す るMICを,日
CNSの
KH2PO4
MgSO4・7H2O0.2g/l,
Lachicaら
液
タ ノ ー ル 固 定,
り の 菌 付 着 細 胞 数 に よ り 強 弱(50以
10∼50:+,10未
培 養 し た 菌 を PUM
で 測 定 し た.
ヒ ト上 皮 由 来 培 養 細 胞(JTC-17)へ
胞 のCover-slip培
8.
(K2HPO416.9g,
の 方 法10)を 改
水 滴 を 含 む 角 度)を,Contact
細胞付着能
着 能 を 調 べ,そ
37℃,30分
疎 水 性:Rosenbergら
を 洗 剤 に て60分
分 離 さ れ た ブ ドウ球 菌 を コ ア グ ラ ーゼ テ ス ト
(栄 研)に
疎水性 の測定
Contact
菌種 同定
Shleifer
9.
変 し て 測 定 し た.HI-brothで
Ampicillin
Chloramphenicol
浸 し24時 間 ゆ る や か に 振 壷 培 養
し,経 時 的 に 切 片 を 取 り出 し,切 片 のRI活
(1) CNSの
抗 生 剤(MIC測
リ ー),
(Sil)
片)を
(PUR),
用 い た.
Penicillin-G
製 菓),
Ethylene
1543
S.capitisは15株,
の 同 定 結 果 をTable1に
S.hominisは9株
種 の 検 出 率 は 低 か っ た.
養 由 来 株 の68%を
あ っ た.し
示
最 も 多 く67株(66.7%)で,
と続 き 他 の 菌
S.epidermidisは
占 め た が 他 材 料 で は50%以
血 液培
下で
か し菌 種 と材 料 間 に 特 に関 連 性 は 見 ら
れ な か っ た.
小池
1544
Table
1
Identification
of the coagulase
直人
negative
staphylococci
isolated
from clinical
sources
2.
細胞 付着能
S.aureus
Table
9株
2
Adherence
mercially
は全 株 陽 性 で あ った の に 対 し
of CNS
available
to 4 kinds
catheters
for
of com-
intravenous
use
CNSは119株
た.菌
中52株(43.7%)が
付着 能陽性 を示 し
種 別 で は, S.epidermidisは67株
(41.8%),
S.capitisは7株(46.7%),
は3株(33.3%)と
た が,血
中28株
S.hominis
菌 種 間 の 差 は著 明 で は な か っ
液 由 来 株43.3%,尿
由 来 株41.7%に
静 脈 カ テ ー テ ル 由 来 株 は12株 中11株
対 し,
(91.7%)が
陽 性 を 示 し た.
3.
薬 剤 感 受 性(MIC)
CETに
ABPC,
対 し て 最 も 感 受 性 が 高 く, MINO,
PG,
EM,
性 株(0.09μg以
CPの
下)と
耐 性 株(100μg以
峰 性 の 分 布 を 示 し た.菌
性 の 差,細
順 で あ り,EMで
は感受
上)の2
種 及 び材 料 別 に よ る感 受
a
: Ratio to the adherence
activity
of strain #64
b
: Ratio
activity
of PUR
to the adherence
胞 付 着 能 の 強 弱 と薬 剤 感 受 性 と の 間 の
関 連 性 は 認 め ら れ な か っ た.
4.
カテーテル素材へ の付着性
実 験 に 用 い た3株
はS.hominis,
る.菌
し,4素
は S.epidermidisで
あ
株 間 の 比 較 で 細 胞 付 着 能 の 弱 い#64株
に対
材 平 均 でAD株
倍,S.aureus
し,カ
と も 血 液 培 養 由 来 で,AD株
KUと#64株
は3.76倍,KU株
(209P株)は11.4倍
と高 い 付 着 を示
テ ー テ ル へ の 付 着 性 と細 胞 付 着 能 と が 相 関
す る こ と が 認 め ら れ た.又,素
性 の 低 いPURに
2.02倍,Silは1.52倍
2).
は 7.23
材 別 で は最 も付 着
比 しEVAは7.50倍,
の付 着 性 を 示 した
PVCは
(Table
5.
カテ ー テ ル付 着 性 に影 響 す る因 子
A.
菌 及 び カ テ ー テ ル 素 材 の疎 水 性
CNSのXylene法
1に 示 す.パ
(67.7%)と
(22.6%)の3型
はA
り,細
typeに
に よ る 疎 水 性 の 結 果 を,
タ ー ン に よ り疎 水 性 の 高 い A
低 いC
type
type(9.7%),中
間 型 の B type
に 分 け ら れ,細
胞 付 着 能 の 強 い株
多 く,弱
い 株 はB又
はC
typeで
あ
胞 付 着 能 の 強 い株 は 疎 水 性 も高 い 結 果 が 得
ら れ た.
一 方 素 材 の 疎 水 性 はSi1が
PVC,
Fig.
PURの
最 も 高 く EVA
順 と な っ た.又,ノ
感 染 症学 雑 誌
,
ミリ ウ ム や タ ン グ
第64巻
第12号
カ テ ーテ ル感 染 の機 序 と予 防方 法 に つ いて
Fig. 1
Type
of hydrophpbicity
カ ー)と
of CNS
1545
して,PVC
ムが,Silに
・EVA
・PURに
硫 酸 バ リウ
タ ン グ ス テ ンが 添 加 して あ り,そ の た
め 素 材 の物 理 的 性 質 が変 化 す る こ とは 疎 水 性 の 成
績 が 示 す 通 りで あ る.CNSの
付 着 に及 ぼ す 影 響
は,菌 株 に よ り程 度 の差 は あ るが タ ン グ ス テ ン添
加 で 付 着 の減 少 を 来 し た の に 対 し,バ
リウ ム添 加
で は3素 材 共 増 加 が 認 め られ た (Table4).
D.
カテ ー テ ル表 面 処 理 の影 響
体 内 に 挿 入 され た カ テ ー テ ル に お け る血 栓 形 成
を 抑 え る 目的 で,カ
テ ー テ ル表 面 を ウ ロキ ナ ー ゼ
で コー テ ィン グ した もの が あ るが,そ
ぼ す 影 響 に つ い て検 討 した .シ
の付 着 に及
リコ ン樹 脂 で は こ
の 処 理 は不 可 能 で あ った の で 除外 した.他
材 に お い て は 何 れ の菌 株 も,ウ
の3素
ロキ ナ ー ゼ処 理 を
ス テ ンを 含 む 素 材 は 含 ま な い もの よ り疎 水 性 が 高
施 す こ と に よ り付 着 の 減 少 が 見 られ た(ウ
くな っ た が,蒸 留 水 の 代 りに 菌 液 を用 い た 場 合 は,
ナ ーゼ 未 処 理 の 素 材 に 対 す る 比 と し て PVC:
菌 の疎 水 性 に よ り異 な る結 果 が 得 られ た (Table
0.29,
3).
B.
陰性荷電
の が11株,中
に弱 い23株 の 内12株(52%)が
上昇
E.
バ リ ウム を 含 む も の
血 液 成 分 の影 響
分 と接 触 して お りそ の 影 響 に つ い て 検 討 した.ヒ
素材添加 物の影響
ト血 清(10%)を
カ テ ー テル に は体 内 挿 入 時 の 指 標(ラ
Hydrophobicity
イ ンマー
of catheter
含 むPBS,或
b : Contact
angle
(ƒÆ•}SD) c:
は 血 漿(100%)中
で は どの 素 材 に お い て も付 着 の減 少 が 見 られ,特
materials
determined
by
method
平 成2年12月20日
PURの
生 体 内 に 挿 入 され た カ テ ー テ ル は た えず 体 液 成
も高 い こ とが認 め られ た.
: Tungsten
リウ ム添
に対 す る比 較 は材 料 の 都 合 上 で き な か った).
停 滞 型 で,
細 胞 付 着 能 の 強 い 株 は そ の菌 体 表 面 の陰 性 荷 電 量
a
リウ
加 に よ る付 着 増 加 が ウ ロキ ナ ーゼ の抑 制 効 果 を上
まわ って い た(PVC,
細 胞 付 着 能 の 強 い11株 の 内10株(91%)は
3
お いて も ウ ロキ
ム を 含 む 素 材 で は減 少 せ ず(同1 .23),バ
上
下 に と ど ま った も
間 型 が15株 と な った.
Table
材 の 中 で最
ナ ー ゼ 処 理 に よ り付 着 減 少 が 見 られ た が,バ
検 討 した34株 の 内,静 置 後 の透 過 率 が80%以
C.
PUR:0.37).素
も高 い 付 着 性 を 示 したEVAに
CNSの
に 上 昇 した もの が8株,50%以
型,逆
EVA:0.78,
ロキ
()
Hydrophobicity
type
contact
angle
小池 直人
1546
Table
4
Effect
adherence
of
barium
or
of CNS to catheter
tungsten
on
the
materials
20分 反 応)す
る と,未 処 理 の もの に比 べ3∼9倍
もの 付 着 の 増 加 が 認 め られ た.付 着 性 の 低 いSil
と弱 い 付 着 能 の#64株 の 組 み 合 わ せ で も7.16倍 の
増 加 が 見 られ た(Table
5).CNS及
プ ロネ クチ ン との結 合 性 は,菌
び素材 とフ ィ
との 結 合 は アル ブ
ミンや 塩 化 カル シ ウ ム存 在 下 で 増 加 した こ と,素
材 の種 類 に 関 らず 結 合 す る こ とが 認 め られ た.
a
: Values
are
additive
ratio
of
adherence
to adherence
in the
in the absence
presence
of
F.
of additive
輸液成 分の影響
静脈 カ テ ー テ ル を 介 して 行 わ れ る輸 液 の 影 響 に
つ い て,高
Table
5
Effect
adherence
of fibronection
of CNS to catheter
treatment
カ ロ リー輸 液 剤 と し て汎 用 され る プ ロ
on the
テ ァ ミンーハ イ カ リ ック液 を 用 い て 検 討 した.同 液
materials
は プ ロテ ア ミン液 とハ イ カ リ ック液 の混 合 液 で あ
るが,同
液 に よ りい ず れ の素 材 で も付 着 の 増 加 が
起 こ り,特
に 付 着 能 の 強 いAD株
(12∼15倍)で
では著 明
あ っ た (Table6).
考
察
近 年 の診 断 治 療 技 術 の 著 し い進 歩 に 伴 い,高 分
a
: Catheter
materials
fibronectin
b
at
: See the footnote
were
37•Ž
for
pretreated
with
31ƒÊg/ml
of
子 化 合 物 を 素 材 と した 新 し い器 材 の 利 用 は,今 後
20 min.
of Table
ます ます 増 加 す る もの と思 わ れ る.し か し この よ
4.
うな器 材 を 用 い た 治 療 を 行 うに あ た っ て,付 随 す
あ っ
る感 染 症 に留 意 す る こ とは疾 患 の 予 後 の 面 か ら も
ト血 漿 よ り フ ィ プ ロ ネ ク チ ン 及 び フ ィ
肝 要 で あ り,そ の予 防 は 極 め て重 要 な問 題 で あ る.
に 付 着 能 の 弱 い#64株
た.又,ヒ
は 著 明(0.14
ブ リ ノ ー ゲ ン を 除 い た 血 漿 を 得,新
∼ 0.71)で
た に フィプ ロ
又 この よ うな感 染 症 か らCNSの
分離 が多 い こ と
ネ ク チ ンを 加 え て も対 照 に比 べ 付 着 は低 値 で あ っ
は,CNSの
た.し
とで あ る6)7)13)14).本 研 究 は この よ うな 高 分 子 化 合
処 理(フ
か し カ テ ー テル 素 材 を フ ィプ ロネ クチ ンで
ィ プ ロ ネ ク チ ン 液 〔31μg/ml〕
中 で37℃,
病 原 性 を示 唆 す る極 め て 注 目す べ き こ
物 を素 材 とす る器 材 を 介 し た感 染 の 機 序 の 解 明 と
Table 6 Effect of PROTEAMIN-HICALIQ
CNS to catheter materiais
solution on the adherence of
感 染症 学 雑 誌
第64巻
第12号
カ テ ーテ ル感 染 の機 序 と予 防方 法 に つ い て
そ の 予 防 に視 点 を お い た もの で あ る.
CNSはS.epidermidisが
1547
が 低 い 付 着 を示 す と の報 告 と一 致 す る.こ の 表 面
最 も多 く分 離 さ れ た
処 理 の影 響 につ い て は ウ ロキ ナ ー ゼ処 理 を 施 す こ
が,菌 種 と材 料 間 に特 に相 関 関 係 は見 られ ず,皮
とに よ り血 栓 形 成 の 予 防 だ け で な く,カ テ ー テ ル
膚 常 在 菌 といわ れ て い るS.epidermidisが
原因菌
表 面 の 凹 凸 を 僅 か で も カ バ ー す る こ とに よ り菌 の
とな る可 能 性 の 高 い こ とが 示 唆 され た.カ
テーテ
付 着 抑 制 に も有 効 で あ る結 果 が 得 られ た.し か し
ル 由来 株 に細 胞 付 着 能 を有 す る株 が 多 か った こ と
こ の ウ ロキ ナ ー ゼ に よ る表 面 処 理 は,そ の 安 定 性
か ら,カ テ ー テ ル を 介 した 感 染 に お い て, CNSの
(生 体 内 で の 持続 性)や コ ー テ ィ ン グ の均 一 性,血
カ テ ー テ ル 付 着 性 が 重 要 な 因 子 で あ る こ とが 示 唆
液 成 分 や 補 液 成 分 に よ る影 響,更
され た.又 細 胞 付 着 能 の強 い株 は カ テ ー テ ル に対
し て も高 い 付 着 性 を 示 した こ と よ り,菌 の 有 す る
材 が 限 られ る こ とな どの 点 に お い て 問 題 もあ る.
一 方CNSと
カ テ ー テ ル とが 接 触 す る 生 体 内 環
付 着 因子 の み な らず,受
境 で は単 に菌 とカ テ ーテ ル 素 材 の 二 者 間 の 関 係 だ
け手 で あ る カ テ ー テ ル 側
の 因 子 の解 明 も必 要 と思 わ れ た.
に処 理 可 能 な素
け で は な く,そ れ らを取 り巻 く生 体 側 因 子 の影 響
カ テ ー テル に代 表 され る高 分 子 化 合 物 へ の 付 着
も重 要 で あ る.Procter 19)の菌 と フ ィブ ロネ クチ ン
に関 与 す る因 子 と して, Christensen13), Hogt 14),
との 結 合 が細 胞 や 器 具 へ の 付 着 を 促 す との報 告 に
Gerson 15)らが 指 摘 す る様 に 菌 及 び カ テ ー テ ル 素
もあ る よ うに,CNS及
び カテーテル素材 とフィブ
材 の物 理 的 性 質 が考 え られ る.『 疎 水 性 と荷 電 』の
ロネ ク チ ンの結 合,及
び フ ィブ ロネ ク チ ン処 理 を
2つ の性 質 は 物 質 問 の 物 理 的 結 合 に 重 要 な役 割 を
施 した 素 材 で 付 着 の増 加 が 見 られ た 結 果 よ り,生
は た して い るが,著 者 の 成 績 で細 胞 付 着 能 の 強 い
体 内 で フ ィブ ロネ ク チ ン を 介 し たCNSの
株 は 疎 水 性 ・陰 性 荷 電 共 に高 い結 果 が 得 られ た こ
テ ル へ の 付 着 が 起 こ る こ とが 示 唆 され た.
と よ り,菌 体 の 有 す る これ ら の物 理 的 性 質 は,細
カテ ー
カテ ー テ ル に よ る輸 液 は,水 分 の補 給 ・薬 剤 の
胞 へ の 付 着 に 関 わ る と同 時 に カ テ ー テ ル 付 着 性 に
投 与 ・経 口摂 取 不 能 な患 者 に 対 す る 栄 養 分 の補 給
お い て も重 要 な因 子 で あ る と考 え られ た.
一 方 カ テ ー テル 素 材 の物 理 的 要 因 と して ,素 材
な どが 主 た る 目的 で あ る が,ビ
の 種 類 ・素 材 の 疎 水 性 に つ い て は, Gerson 16),
る.高
Bayston 17),Sheth 18)らの 報 告 もあ るが,カ テ ー テ
ミンーハ イ カ リ ック 液 に よ りCNSの
ル表 面 の構 造,添
加 物 質 や表 面 処 理 に 伴 う物 理 的
に増 加 した こ とは,治 療 目的 の た め に な され る輸
性 質 の 変 化 も重 要 で あ る.素 材 に タ ン グ ス テ ン を
液 が カテ ー テ ル感 染 の 危 険 性 を 増 す こ とを 示 唆 し
添 加 したSilで 付 着 の減 少 を 来 した の に 対 し,バ
て い る.特
に,そ の 増 加 が ハ イ カ リ ッ ク液 に 起 因
し,25%も
の 高 濃 度 に 含 ま れ る ブ ドウ糖 が そ の 原
リウ ム添 加 で は逆 に増 加 が 認 め られ た.こ れ は走
査 電 子 顕 微 鏡 に よ る 観 察 でSilやPURの
PVCやEVAに
表面は
比 べ よ り平 滑 で あ る こ と,又 バ リ
因(自
カ ロ リー 輸 液 剤 と して 用 い られ る プ ロテ ア
家 製 の ハ イ カ リ ック液 に 種 々 濃度 の ブ ドウ
が 増 加 した)で
り,不 均 質 な カ テ ー テ ル表 面 で の菌 の機 械 的 接 触
に よ る 付 着 の 増 加 は,カ
が き っか け とな り,定 着 へ と進 行 す る こ とが 示 唆
割 に鑑 み,そ
さ れ た.又,バ
必 要 性 を 認 め た.
リウ ムや タ ン グ ス テ ン が 加 え られ
付 着 が著 明
糖 を加 え比 較 した と こ ろ,そ の 濃 度 に応 じて 付 着
ウ ム を 含 む 面 は 凹 凸 が 著 し い こ と と合 致 し て お
る と疎 水 性 が 高 くな り,Silが 最 も高 い疎 水 性 を 示
タ ミンや 糖 等 を 多
く含 む 補 液 剤 は 菌 に と って も好 都 合 な 環 境 で あ
CNSの
あ る と見 な され た.こ
の ブ ドウ糖
ロ リー源 と して の 糖 の 役
の濃 度 ・種 類 ・投 与 方 法 に 留 意 す る
カテ ーテルへ の付着 性 が細 胞付 着能 と
した こ と,及 び先 の 付 着 実 験 の 成 績 か ら菌 付 着 を
相 関 す る結 果 が 得 られ た が,付 着 の 機 序 と して は
抑 制 す るた め に は タ ン グ ス テ ン添 加 のSilが 最 も
タ ンパ クや リポ タ イ コ酸 な どが 関 与 す る細 胞 へ の
適 し て い る と 考 え ら れ る.こ
れ は Hogt 14),
付 着20)とは 異 な り,機 械 的 な 付 着 即 ち カ テ ー テ ル
Sheth 18)らの疎 水 性 の 高 い 素 材 は 付 着 し に くい こ
表 面 の微 細 な凹 凸 へ の 接 触 を 引 き金 と して,菌 及
と,同 素 材 で も表 面 を コー テ ィ ン グ した もの の 方
び カ テ ー テ ル の 物 理 的 性 質 が誘 因 と な り,更 に は
平 成2年12月20日
小池
1548
直人
生 体 側 の 因 子 も加 わ り確 固 と した 付 着 が 成 立 す る
と考 え る.
この よ うな カテ ー テ ル感 染 の 予 防 に は2つ
題 点 を 考 慮 しな けれ ば な らな い.先
の問
2)
づ 第 一 は,カ
テ ー テ ル側 条 件 と して 付 着 の 起 きに くい 素 材 を 用
い る こ とで あ る.又,カ
テ ー テ ル に は(素 材 の重
3)
合 度 に よ り)硬 性 或 は 軟 性 の もの が あ る が,生 体
内 に挿 入 した 際 血 管 や 組 織 に損 傷 を 与 え る もの は
不 適 当 で あ る こ とは 言 うまで もな い.特
に血 管 内
に お け る損 傷 は単 に 出 血 を来 す だ げで は な く,そ
4)
の損 傷 部 位 で の血 流 の 障 害 と共 に微 小 血 栓 の 形 成
を うな が し,ひ い て は細 菌 の マ イ ク ロ コ ロ ニ ー形
成 を 容 易 にす る こ とが 考 え られ る.こ れ は 逆 の面
で は カ テ ー テ ル 表 面 の平 滑 さが,コ
ロ ニ ー形 成 に
5)
対 す る予 防 的 性 格 を持 つ こ とを示 して い る.こ れ
らの 点 か ら カ テ ー テ ル に は 新 しい素 材 の 開 発,そ
の 形 状 ・性 状(添 加 物 の 種 類 や 量,添
加 方 法)の
改 良 に 関 して 課 題 点 も多 く存 在 す る.第 二 の 問 題
点 は カ テ ー テ リゼ ィシ ョン に お け る人 的 要 因,即
ち医 療 ス タ ッ フの 問題 で あ る.カ
離 さ れ るCNSに
テ ー テ ル か ら分
皮 膚 常 在 菌 で あ る S.epider-
mid空 が多 か った こ とは,菌
の感 染 源 が 患 者 及 び
医 療 ス タ ッ フに あ る可 能 性 が 大 き い.患 者 体 内 に
器 物 の 挿 入 ・装 着 を行 う時 に は手 術 室 に お け る外
科 的 処 置 の場 合 だ け で は な く,日 常 ベ ッ ドサ イ ド
で頻 繁 に行 わ れ る カ テ ー テル の挿 入 時 に お い て も
慎 重 な無 菌 操 作 が 必 要 で あ る こ とは 言 うま で も な
く,人 的 ミス に よ る感 染 は絶 対 避 け な けれ ば な ら
な い.近 年,メ チ シ リン耐 性 ブ ドウ球 菌 (MRSA)
が 臨 床 材 料 だ け で な く医 療 環 境 か ら分 離 され る こ
との増 加 に 伴 い,CNSが
医 療 ス タ ッ フか ら注 目さ
6)
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simple
従 来非 病原 性菌 として考 え られて 来 ただ けに カ
hydrophobicity.
-33
, 1980.
テ ー テ ル 感 染 に 見 られ る様 な 院 内 感 染 起 因 菌 と し
て再 考 す べ きで あ る と考 え る.
謝辞:稿 を終 えるにあた り御指導,御 校閲を賜 りました
金
兌貞教授 に深謝の意 を表す とともに,直 接の ご協力を
頂 いたルナール純子助教授 に感謝いた します.
文
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Adherence Ability of Coagulase-Negative Staphylococci to Catheter Materials
Naohito KOIKE
Departmentof Microbiology,
TokyoMedicalCollege
Adherence ability to catheter materials for intravenous use of coagulase-negative staphylococci
(CNS) which is frequently isolated from prosthetic implants and medical devices inserted into the body
was studied, and the mechanism of catheter-associated infections and the prevention against that
were discussed. Difference of the adherence ability of CNS to various kinds of catheter materials was
found, and adherence ability to the catheter materials was correlated with that of human epithelial
cells in culture. CNS isolated from intravenous catheters had higher adherence ability to the human
epithelial cell cultures than isolates from other clinical sources . Among 4 kinds of catheter materials,
including ethylene vinyl acetate (EVA),polyvinyl chloride (PVC), silicone (Sil)and polyurethane (PUR),
the adherence ability of CNS on the EVA containing barium was highest , and Sil treated with t
ungsten showed the lowest. The physicochemical properties of both the bacteria and the catheter
materials, hydrophobicity of the bacterial cultures and the catheter materials
, negative charges on
surface of the bacteria, surface structure of the catheter materials , additives to the catheter materials,
and coating the catheter surface gave great effects on the adherence of CNS to the catheter materials . I
n addition, as biofactors, fibronectin and PROTEAMIN-HICALIQsolutions enhanced the adherence
of CNS. These results suggested that catheter materials having a smooth surface and higher
hydrophobicity, treated with tungusten and coated with urokinase were effective on the suppression
of the adherence to catheter materials. In addition to the improvement of catheter materials
, aseptic
procedures in catheterization were thought to be critical for the prevention of catheter-associated
infections. In view of these results, it should be emphasized that coagulase-negative staphylococci is a
major opportunistic pathogen in hospital-acquired infections .
平 成2年12月20日