4. - ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究プロジェクト

3.4.2
目
海域活構造の地形地質調査
次
(1)
業務の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・332
(a) 業務題目
(b) 担当者
(c) 業務の目的
(d) 5か年の年次実施計画(過去年度は、実施業務の要約)
1) 平成20年度
2) 平成21年度
3) 平成22年度
4) 平成23年度
5) 平成24年度
(e) 平成23年度業務目的
(2)
平成23年度の成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・333
(a) 業務の要約
(b) 業務の実施方法及び成果
(c) 結論ならびに今後の課題
(d) 引用文献
(e) 成果の論文発表・口頭発表等
(f) 特許出願,ソフトウエア開発,仕様・標準等の策定
(3)
平成24年度業務計画案・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・342
331
(1)
業務の内容
(a) 業務題目
海域活構造の地形地質調査
(b) 担当者
所属機関
役職
氏名
メールアドレス
独立行政法人産業技術総合研究所
活断層・地震研究センター
センター長
岡村 行信
主任研究員
堀川 晴央
地質情報研究部門
副部門長
池原 研
地質情報研究部門
研究員
井上 卓彦
同
[email protected]
(c) 業務の目的
ひずみ集中帯の海域において、浅層音波探査やマルチビーム音響測深機による精密海
底地形調査等を実施する。その情報を基に詳細な海底微地形図を作成し、断層と地形と
の関係から断層の平面的な分布を明らかにする。
(d) 5か年の年次実施計画(過去年度は、実施業務の要約)
1) 平成20年度:1964 年新潟地震(Ms=7.5)は、日本海東縁のひずみ集中帯である新潟
県粟島周辺海域を震源として発生した。震源域を含む粟島周辺海域では、旧地質調査所が
海洋地質図を作成するための深度 1 km 程度までを対象とした数多くのシングルチャンネ
ル音波探査を行っているが、粟島周辺海域の海底活断層及びその周辺の海底地質構造の更
に詳細な情報を取得するため、深度 100 m 程度までの浅層地下地質構造を詳細にイメージ
ングできるブーマーを音源とする浅層高分解能音波探査を東西 9 測線・南北 2 測線の総測
線長 240 km にわたって実施した。得られた音波断面には、東翼が急傾斜で西翼が緩傾斜
である非対称な数列の北北東−南南西走向の断面形状を持つ活動的背斜構造が認められ、
西傾斜の断層の上盤側に形成された断層関連褶曲であると解釈した。
2) 平成21年度:粟島南方沖陸棚上から 3 本の長さ 4.5~6 m のピストンコア試料を採取
し、試料中に含まれる貝殻片による年代測定を実施した。得られた試料はすべて完新世の
堆積物で、均質な泥層から成る上部層と生物擾乱の著しい砂質シルトから成る下部層に区
分できる。年代測定結果は 3 本のコアとも、上部層/下部層の境界がおよそ1万年前であ
ることを示した。昨年度得た音波探査断面上に認められる顕著な不整合面は厚さ 10~25 m
の地層に覆われているが、その上部が約 1 万年間の堆積物であることが明らかになったこ
とから、不整合の年代は約 18,000 年前の最終氷期極大期に対比できると考えた。活断層
は不整合面に約 10 m の変位を与えていることから、活断層の垂直変位速度は千年で 0.5
~0.6 m と推定した。
3) 平成22年度:2008 及び 2009 年に確認した粟島周辺の活断層の北方延長に形成されて
いるがその活動度に関する情報が乏しい酒田沖隆起帯周辺で、浅海音波探査を実施した。
その結果、隆起帯の東縁に沿って活断層が認められた。反射断面上にはいくつかの不整合
が認められるが、その内、起伏に富んだ不整合面を最終氷期の 1.8 万年前の浸食面と仮定
332
して変位速度を見積もると、1.7 m/千年程度という値が得られた。
4) 平成23年度:平成 22 年度に高分解能音波探査によって存在を確認した酒田沖隆起帯
に沿った活断層の周辺海域で、ピストンコアラーを用いて海底堆積物を採取し、その年代
を決定することによって、同活断層の変位速度及び活動履歴の解明を試みる。
5) 平成24年度:過 去 4 年 間 に 取 得 し た 新 潟 県 か ら 山 形 県 沿 岸 海 域 の 音 波 探 査 デ
ー タ 及 び 堆 積 物 の デ ー タ を 取 り ま と め る と 共 に 、他 機 関 の 同 地 域 に お け る 地 質 構
造、堆積 物、地形 データ を 収集し 、再解析 を 行うこ と によっ て 断層の 平 面分布 を
明らかにすると共に、断層変位速度を推定する。
(e) 平成23年度業務目的
平 成 22 年 度 に 高 分 解 能 音 波 探 査 に よ っ て 存 在 を 確 認 し た 酒 田 沖 の 活 断 層 の 周
辺海域 で 、海底 堆 積物試 料 を採取 し 、その 年 代を決 定 するこ と によっ て 、同活 断
層の変位速度及び活動履歴を明らかにする。
(2)
平成23年度の成果
(a) 業務の要約
山形県酒田沖陸棚上から 4 本のピストンコア試料を採取し、試料中に含まれる貝殻片、
泥炭、木片、堆積物中の有機物による年代測定を実施した。採取された 4 本のコアのうち
3 本は、下位に潮間帯の泥層と上位に海成の砂礫層からなる。潮間帯の泥層の上限年代は
およそ 1 万年程度である。潮間帯の泥層の年代測定結果のばらつきは大きいが、コア
Sakata4 の 85.5 cm の 12,490 年と 143 cm の 12,920 年から、堆積速度は 134 cm/千年程度
と速いことが推察される。コア Sakata4 の採取地点の反射記録の“最終氷期浸食面”を覆
う層には明瞭な内部浸食面は認められないので、コアで採取された潮間帯の泥層が累重し
ている可能性が高い。“最終氷期浸食面”までの厚さは約 13.4 m(17.9 ms)であるので、
134 cm/千年で堆積していれば、約 2 万年前から 1 万年前までの約 1 万年間の堆積物と推
定できる。したがってこの “浸食面”は、最終氷期最盛期に形成されたものとしても問
題ないと考えられる。以上から、最近約 1.8 万年間の垂直変位量は最大で約 7 m、変位速
度では 0.4 m/千年と推定した。この数字は昨年度、音波探査データから推定した変位速度
の 1/3~1/4 であるが、堆積物を採取して年代を決定することによって、変位速度の信頼
性を向上させることができた。活動履歴は直接解明することはできなかったが、変位量と
断層規模(長さ 30~40 km と仮定)から考えると、最近約 1.8 万年間で 2~4 回程度活動
したと推定される。
(b) 業務の実施方法及び成果
2010 年に実施した高分解能音波探査記録に時間目盛を入れ、音波探査記録中に確認され
た最終氷期最盛期に形成されたと考えられる“最終氷期浸食面”の年代の妥当性を判断す
るため、山形県酒田沖陸棚上において、4 地点でピストンコアラーによる海底堆積物採取
を行った。昨年度実施した粟島周辺の測線から、完新統と考えられる堆積物の分布と層厚、
港からの往復も含めた作業時間を考慮し、地底的高まりである明石礁を含む酒田沖隆起帯
333
の東側において、2 測線上の 4 地点で試料採取する計画を立てた(図 1、2)。試料採取作
業は、復建調査設計株式会社に依頼し、同社の保有するピストンコアラーにより行った(図
3)。ピストンコアラーは砂質の底質では貫入しにくく、既存の資料からこの海域の表層堆
積物は砂質であることが予想された(図 4)。このため、コアリング作業の前に表層堆積物
の状況をスミス・マッキンタイヤー式グラブ採泥器で確認した。コアラー長は“最終氷期
浸食面”の深度を考慮して 8 m で計画したが、事前の表層堆積物の状況と現場の海況や実
際のコアラーの刺さり具合から、4 m に変更して実施した。実際に採取された試料の長さ
は 1.9~2.6 m であった。地点 1 では最初のコアリング作業でコアラーが曲がったため、
再度コアリング作業を実施し、2 回目に採取された試料を採用した。試料採取地点の位置
と水深は、表 1 に示した。
図1
海底堆積物コア試料採取地点
334
図2
2010 年の高分解能音波探査記録上での採泥点位置
図3
使用したピストンコアラー
335
図4
山形県酒田沖の表層堆積物分布(池原ほか
表1
1)
の一部を抜載)
ピストンコア採取地点
採取された試料は、現場でおよそ 1 m 毎に分割し、半割後、試料が変形しないように厳
重に梱包して、つくば(産業技術総合研究所)に搬送した。産業技術総合研究所に運ばれ
たコア試料は、肉眼記載と写真撮影後、軟 X 線写真撮影用スラブの採取と年代測定用試料
の採取を行った。年代測定には、堆積物試料中に含まれる貝殻片(11 試料)、木片(2 試
料)、泥炭(3 試料)、堆積物中の有機物(7 試料)の 23 試料を用いた。年代測定は、(株)
地球科学研究所を通じてアメリカの Beta Analytic 社に依頼して、加速度質量分析法によ
る放射性炭素年代測定により行った。測定結果は表 2 に示した。また、下位の泥層試料に
ついては堆積環境と堆積年代の推定のため、定量花粉分析をパリノ・サーヴェイ株式会社
に依頼して実施した。
得られた 4 本のうち 3 本(コア Sakata1-2、Sakata2、Sakata4)の海底堆積物コアは基
本的に同じ層序を示し、下位に潮間帯の泥層、上位に海成の砂礫層に区分される(図 5)。
潮間帯の泥層は一部で葉理が発達し(図 6)、植物片や泥炭質の部分を含む。まれに潮間
336
帯に生息するヌマコダキガイが認められる。この泥層に含まれる木本花粉群集は、ハンノ
キ属を初めコナラ亜属、スギ属、サワグルミ属、ニレ属−ケヤキ属など河畔や湿地に生育
する植物の花粉が多く、草本類ではイネ科のほかカヤツリグサ科とヨモギ属を伴い、水生
植物であるガマ属も比較的多く含まれる。さらに、堆積有機物組成では樹木由来や草本由
来の粒子や微粒炭が多く、海域に特徴的なアモルファスなものは少ない。これらのことは
陸域の環境を示唆するが、一部で海棲微化石の渦鞭毛藻が産しているので、潮間帯の泥層
という岩相からの判断は化石群集からも支持される。この潮間帯の泥層の上限年代はおよ
そ 1 万年程度であり、越後平野での塩性湿地相の上限年代(暦年で 9000 年;Tanabe et al. 2) )
よりも古いが、この地点が現在の陸棚上であり、海の侵入が現在の平野部よりも早いと考
えられることを考慮すれば、大きな矛盾はない。また、新潟沖陸棚域のボーリングコアに
おいて海進に伴う侵食面の上への堆積開始はおよそ 1 万年前である(天野ほか
3)
)。したが
って、この泥層の堆積の終了は、この海域への海の侵入によるものと考えられる。潮間帯
の泥層の年代測定結果のばらつきは大きいが、コア Sakata4 の 85.5 cm の 12,490 年と 143
cm の 12,920 年から、堆積速度は 134 cm/千年程度と速いことが推察される。したがって、
この泥層は最終氷期最盛期以降の海水準上昇に伴って形成された堆積可能空間を埋めて
いくことで形成された堆積物と考えられる。残りの 1 本のコア(コア Sakata3)も上部は
海成の砂礫層であるが、その下位は陸成の泥炭質泥層と砂層からなる。泥炭質泥層の年代
はほかのコアの潮間帯の泥層とほぼ同じ年代を示すので、少なくともこの部分は海水準上
昇期のものである。下位の陸成の砂層については年代測定に適当な試料が得られなかった
ので、その堆積年代は未定である。
上位の貝殻片を含む砂礫層は下位の潮間帯の泥層を浸食し、コア Sakata1-2 ではその間
にやや泥まじりの砂礫層を挟む(図 7)。この海成の砂礫層はおよそ 9,000 年前以降の堆積
物であり、岩相や貝殻片の年代値から再移動を繰り返しながら形成されたものであること
が分かる。このような再移動性の堆積層の堆積開始の年代は福岡沖陸棚域のそれ(西田ほ
か 4) )や佐渡沖の岩相変化と生物相から推定される対馬暖流の流入時期(Kitamura et al. 5) )
とほぼ同じであり、このような粗粒砕屑物の再移動現象は現在と同様な日本海への対馬暖
流の流入の開始に起因したものである可能性が高い。池原他
1)
の表層堆積物の分布からす
れば、この海域の表層には対馬暖流の日本海流入以降の堆積物が覆っていると解釈できる。
337
図5
図6
採取コアの岩相と年代
コア Sakata2 の潮間帯の泥層の写真と軟 X 線写真
338
図7
コア Sakata1-2 の海成砂礫層の写真
339
表2
年代測定結果
以上のように 4 本の岩相変化は、最終氷期最盛期以降の海水準上昇に伴ったものである。
2010 年に取得された音波探査記録には明瞭で連続性のよい浸食面が確認され、“最終氷
期浸食面”と考えられた。この浸食面を最終氷期最盛期(1.8 万年前)に形成されたもの
と仮定すると浸食面を変形させる変位速度は 1.7 m/千年以上と見積もられた。この計算の
妥当性を判断するためには、この浸食面が最終氷期最盛期にできたものであるかどうかを
評価することが必要になる。
コア Sakata4 の採取地点の反射記録の“最終氷期浸食面”を覆う層には明瞭な内部浸食
面は認められない(図 8)ので、コアで採取された潮間帯の泥層が累重している可能性が
高い。
“最終氷期浸食面”までの厚さは約 13 m(18 ms)であるので、先に述べたコア Sakata4
の潮間帯の泥層がずっと 134 cm/千年で堆積していれば、約 2 万年前から 1 万年前までの
約 1 万年間の堆積物と推定できる。実際にはこの地点の水深(54.1 m)から“浸食面”の
340
海 面 下 深 度 ( 67.5 m) に 海 水 準 が 到 達 し た の は 越 後 平 野 で 復 元 さ れ た 海 水 準 変 動 曲 線
(Tanabe et al. 2))に基づけば暦年で 13000~14000 年くらいである。したがって、この
“最終氷期浸食面”を覆う一連の堆積層は、最終氷期最盛期以降に海水準上昇に伴って上
方に累重した河川成~潮間帯の堆積物と解釈できる。
図8
コア Sakata4 採取地点を通る音波探査記録
(c) 結論ならびに今後の課題
以上のように、平成 23 年度に山形県酒田沖陸棚から採取されたピストンコア試料の分
析結果は、以下のようにまとめられる。
1) 最表層の貝殻まじりの砂礫層は完新世の対馬暖流流入以降の堆積物である。これがこ
の海域の表層を広く、薄く覆っている。
2) その下位の青灰色の粘土層は、堆積相と年代から融氷期の海水準上昇期の潮間帯の堆
積物と推定される。海水準上昇に伴って急速に埋積したと考えられる。
3) ばらつきは大きいが、潮間帯の泥層は 1 m/千年程度の堆積速度が推定できるので、音
波探査記録に見られる“最終氷期浸食面”は最終氷期最盛期に形成されたものの可能性が
高い。
4) 堆積物の採取によって推定された“最終氷期浸食面”の垂直変位量は、昨年度得られ
た音波探査断面から最大で 7 m と推定された。
5) 以上の結果、断層の垂直変位速度は最大で 0.4 m/千年で、過去約 18,000 年間に 2~4
回程度の活動があったと考えられる。
(d) 引用文献
1) 池 原
研・中嶋
健・片山
肇:粟島周辺表層堆積図及び同説明書.海洋地質図、
No.42,地質調査所,1994.
2) Tanabe, S., Nakanishi, T., Yasui, S.:Relative sea-level change in and around
341
the Younger Dryas inferred from late Quaternary incised-valley fills along the Japan
Sea. Quaternary Science Reviews, 29, 3956-3971, 2010.
3) 天野敦子・井上卓彦・池原
研:新潟平野沿岸海域ボーリング試料の層相変化と音響
層序との対比.平成 21 年度沿岸域の地質・活断層調査研究報告,地質調査総合センター
速報,No.54,33-39,2010.
4) 西田尚央・池原
研:福岡沖陸棚域の海底堆積物.平成 22 年度沿岸域の地質・活断層
調査研究報告,地質調査総合センター速報,No.56,13-25,2011.
5) Kitamura, A., Ikehara, K., Katayama, H., Koshino, A.: Changes in molluscan
assemblages and sediment type in the outer shelf of the Japan Sea since 13,000 years
BP. Paleontological Research, 15, 1-6, 2011.
(e) 成果の論文発表・口頭発表等
著者
題名
堀川晴央,岡村行信, 酒田沖隆起帯における浅
村上文敏
層音波探査
堀川晴央,岡村行信, 酒田沖隆起帯における浅
村上文敏
発表先
発表年月日
日本地球惑星科学連合
平成 23 年 5
2011 年学術大会
月
活断層・古地震研究報告
平成 23 年 12
層音波探査
月
(f) 特許出願,ソフトウエア開発,仕様・標準等の策定
1) 特許出願
なし
2) ソフトウエア開発
なし
3) 仕様・標準等の策定
なし
(3)
平成24年度業務計画案
過去 4 年間に取得した新潟県から山形県沿岸海域の音波探査データ及び堆積物
のデータを取りまとめると共に、他機関の同地域における地質構造、堆積物、
地形データを収集し、再解析を行うことによって断層の平面分布を明らかにす
ると共に、断層変位速度を推定する。
平成 20 年度に実施した粟島付近の高分解能音波探査データについては、得られたデー
タを再処理し、垂直変位量の見積もり精度を向上させる。また、他機関の海底地形データ
も収集し、断層形状を明らかにする。さらに、新潟沖に発達する角田山東縁断層帯、中越
沖地震の震源断層、酒田沖の活断層についても、既存の利用できるデータを全て合わせて、
断層の変位速度を明らかにし、新潟県中越地方から山形県庄内地方の沿岸海域に分布する
活断層の変位速度を推定し、海域から陸域までを合わせた定量的なひずみの分布を明らか
にする。
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