高アルミナ高炉スラグを用いた混合セメントの耐硫酸塩

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太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第167号(2014):小川 他
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◇論 文◇
高アルミナ高炉スラグを用いた混合セメントの
耐硫酸塩性向上に関する研究
Research on Improvement of
Sulfate Resistance of Blended Cement Containing
High Alumina Blast Furnace Slag
小
川
彰
山
一*, 野 崎 隆 人**, 扇
下
平 尾
弘
嘉 史***,
樹****, 吉 山 大 介*****,
宙******, 山 田 一 夫*******
OGAWA, Shoichi*; NOZAKI, Takahito**;
YAMASHITA, Hiroki****;
HIRAO, Hiroshi******;
要
OHGI, Yoshifumi***;
YOSHIYAMA, Daisuke*****;
YAMADA, Kazuo*******
旨
石灰石微粉末と硫酸カルシウムが高炉スラグ微粉末(GGBS) 混合セメントの耐硫酸塩性に与
える影響について検討した. 耐硫酸塩性は ASTM C 1012 による6年までの長さ変化率と水和物
の分析および Sの浸透量で評価した. GGBSは硫酸イオンの浸透を抑制したが, 一方で, GGBS中
のAl2O3 成分は, 外来から浸透した硫酸イオンと反応し, 膨張性のエトリンガイトを生じさせ
る可能性が考えられた. 石灰石と硫酸カルシウムの添加は, 試験体内部にモノカーボネートと
エトリンガイトを生成させるが, モノサルフェートは生成させず, 結果として外来から浸透す
る硫酸イオンによる膨張性のエトリンガイトの生成を抑制した. 適正量の石灰石と硫酸カルシ
ウムを含むスラグセメントは, 長期にわたり非常に優れた耐硫酸塩性能を示した.
キーワード:耐硫酸塩性, 高炉スラグ, 石灰石微粉末, SO3 量, 粉末X線回折, EPMA
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* 株式会社 太平洋コンサルタント Taiheiyo Consultant Co., Ltd.
** 中央研究所 第2研究部 土壌・資源 チーム Soil & Aggregate Team, Central Research Laboratory
*** 中央研究所 第1研究部 セメント技術 チーム Cement Technology Team, Central Research Laboratory
**** 中央研究所 第3研究部 資源プロセス チーム Processing for Resources Team, Central Research Laboratory
***** 中央研究所 第1研究部 セメント化学 チーム Cement Chemistry Team, Central Research Laboratory
****** 中央研究所 第1研究部 セメント化学 チーム, セメント技術 チーム リーダー
Manager, Cement Chemistry Team & Cement Technology Team, Central Research Laboratory
******* 独立行政法人 国立環境研究所 National Institute for Environment Studies
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太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第167号(2014):小川 他
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ABSTRACT
This paper is focused on the effect of limestone and calcium sulfate contents on sulfate
resistance of ground granulated blast furnace slag (GGBS) blended cement. Sulfate
resistance was evaluated using length change over six years in accordance with ASTM C
1012, and sulfate resistance mechanism of GGBS blended cement was discussed by
analyzing the hydration products and sulfate ion ingress. Although GGBS was found to
suppress sulfate ion ingress, it was probable that alumina in GGBS would form ettringite
with externally supplied sulfate ions. Addition of limestone and increase in calcium
sulfate content allowed both monocarbonate and ettringite to form without generating
monosulfate. This was thought to suppress further formation of ettringite with external
sulfate ions during immersion in sulfate solution. GGBS blended cement with a suitable
amount of limestone powder and a controlled content of calcium sulfate exhibited markedly
excellent long term sulfate resistance.
Keywords:Sulfate resistance, Blast-furnace slag, Limestone powder, SO3 content,
X-ray diffraction, Electron probe micro analysis
1.は じ め に
高炉スラグ微粉末 (GGBS) を混合したスラグセメ
ントは, 流動性, 水密性, 塩化物イオンの浸透性等
の観点でコンクリートの性能を向上させる. 一方で,
初期強度発現性や炭酸化抵抗性が低いということや,
高温環境下では GGBS の水和が促進されてしまうた
め, 逆に水和熱が増加してしまうという特徴も持つ1)2)3).
また, 耐硫酸塩性については, 混合する GGBS の
Al2O3 量の影響を受けることが知られている.
Locher は, C3A 量の異なるポルトランドセメント
をベースとし, Al2O3 量の異なる GGBS を混合したセ
メントについて耐硫酸塩性試験を実施した4). その
結果, Al2O3 量が 11.0% の GGBS の混合は, ポルトラ
ンドセメントの C3A 量に関わらずに耐硫酸塩性を向
上させたが, Al2O3 量が 17.7% の GGBS を混合した場
合 ( 置換率は 20 から 50%) には耐硫酸塩性が向上し
なかった. その後の研究により, 混合する GGBS が
耐硫酸塩性に与える影響について, その Al2O3 量や
置換率, クリンカの C3A 量が重要な因子であること
が解明された1)5)6)7).
製鉄所や原料の影響により, GGBS のAl2O3 量は変
化するが, 本国内の製鉄所で製造される GGBS は,
Al2O3 量が 15.0% とほぼ安定している. その内の一
部はアジアへ輸出されており, 輸出先には, 硫酸塩
土壌が広く分布することが知られる東南アジア諸国
も含まれる. GGBS の Al2O3 量が多い場合は, その置
換率を 70% とすると耐硫酸塩性が向上する5)が, そ
の一方で置換率が大きいために強度発現性が低下し
たり, 炭酸化しやすくなったりするなど性能は低下
する. したがって, GGBSの置換率が小さく, 耐硫酸
塩性に優れた混合セメントの開発は, 非常に有用で
あると考えられる.
石灰石微粉末や硫酸カルシウムの添加により, 耐
硫酸塩性が向上することが報告されている. 硫酸カ
ルシウムの影響については, 竹本らの研究 6)があり,
その添加量が少ない場合は, 硫酸塩劣化が顕著に生
じたことが報告されている. Gollop らは, GGBS を
65% 含む混合セメントに, 5% の二水石膏を添加す
ると, 硫酸塩劣化に対して高い抵抗性を示したこと
を報告した 8). 石灰石微粉末の効果については,
Chatterjiが CaCO3 からなる微粉末をポルトランド
セメントに添加すると, カルボアルミネート水和物
が生成するため, 硫酸塩膨張が抑制されることを示
した9). Irassarのレビュー10)によると, 石灰石フィ
ラーを添加したポルトランドセメントの耐硫酸塩性
はベースとしたセメントの C3A 量に依存し, 石灰石
フィラーを添加することによる C3A の希釈等の要因
は長期的な耐硫酸塩性能には大きく影響しない. し
かし, スラグセメントに対する石灰石添加が耐硫酸
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太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第167号(2014):小川 他
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塩性に与える影響については不明瞭な点が多い. ス
ラグセメントの水和については, Hoshino らの検討
11)
がある. これによれば, ポルトランドセメント
に GGBS を混合した場合にはモノサルフェートが増
加, そして, さらに石灰石微粉末を添加すると, カ
ルボアルミネート水和物が生成した.
本研究では, C3A 量の異なる2種のポルトランド
セメントと, Al2O3 量の異なる2種の GGBS を用い,
これらの特性と耐硫酸塩性との関係, さらに耐硫酸
塩性に及ぼす石灰石微粉末や石膏の添加の効果につ
いて検討した. 耐硫酸塩性は, ASTM C 1012 に従っ
た長さ変化率により評価し, 浸漬期間は石灰石や石
膏添加の効果を長期間に渡り確認する目的で6年と
した. また, 水和物や外来からの硫酸イオンの浸透
を評価し, 耐硫酸塩性のメカニズムを考察した. な
お, 本研究では, 外部硫酸塩劣化に関する化学反応
を以下のように考える.
-
C3A + 2Ca2+ + 2SO42- + 26H2O → C6AS3H32 ・・・
-
-
・・・
2C3A + C6AS3H32 + 4H2O → C4ASH12
-
-
22+
C4ASH12 + 2Ca + 2SO4 + 20H2O → C6AS3H32 ・・・
C3A + 0.5CaCO3 + 0.5Ca(OH)2 + 12H2O
-
→ C4AC0.5H12 ・・・
Table 1
(1)
(2)
(3)
(4)
(1)式では, セメント中の二水石膏由来の硫酸イ
-
オンと C3A との反応でエトリンガイト (C6AS 3H32 ) が
生成する. 次の(2)式では未反応の C3A がエトリン
-
ガイトと反応してモノサルフェート( C4AS H12 ) が生
じる. 外部環境より硫酸イオンが供給されると, モ
ノサルフェートと反応してエトリンガイトが生成し,
膨張をもたらす. この(3)式からなる反応にはカル
シウムイオンが必要であり, C3Sや C2Sの水和で生成
する Ca(OH)2 がその供給源となる. 石灰石微粉末が
存在する場合は, カルボアルミネート水和物が(4)
式のように生成する.
2.材料および試験方法
2.1 材料
混合セメントの材料として, ポルトランドセメン
ト, GGBS, 石灰石微粉末, 硫酸カルシウムを用いた.
これら材料の化学組成を Table 1 に示す. ポルトラ
ンドセメントには普通ポルトランドセメント( OPC)
と ASTM C150の規定による Type Vを使用した. Bogue
式による鉱物組成を Table 2に示す. OPCの C3A量は
8.7 % であり, Type V は 4.9 % であった. GGBS には,
Chemical composition and Blaine surface area of materials
(材料の化学組成と比表面積)
TypeV
OPC
SL
lowSL
Limestone
Anhydrite
Gypsum
filler
Surface area
(cm2/g)
3750
3280
4460
4480
8450
4140
6610
Chemical composition (%)
SiO2
21.2
21.9
34.3
35.0
0.3
0.5
1.7
Al2O3
4.4
5.2
15.2
10.4
0.1
0.2
0.8
Fe2O3
3.9
3.1
0.5
0.5
0.1
0.1
0.2
CaO
65.5
64.4
42.8
35.9
55.6
40.8
32.3
MgO
1.2
1.4
5.9
11.7
0.2
0.0
0.1
SO3
2.5
1.7
0.1
3.4
57.5
44.0
Na2O
0.0
0.2
0.2
0.4
0.0
K2O
0.6
0.4
0.3
0.5
0.2
TiO2
0.3
0.5
0.7
0.0
P2O5
0.3
0.0
0.0
MnO
0.3
0.5
0.0
1.4
0.7
0.2
1.9
43.7
0.5
20.5
100.8
99.5
100.3
100.6
99.9
99.6
99.9
LOI
Total(%)
6
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Al2O3 量が 15.2% の高アルミナ品 (SL)と, Al2O3 量が
10.7% の低アルミナ品 (lowSL)を用いた. SL は日本
で市販されており, lowSL は北アメリカで市販され
ている. 石灰石微粉末は日本産の石灰岩を粉砕して
調製したものであり, 構成鉱物相はカルサイトであ
った. 無水石膏と二水石膏は混合セメントの SO3 量
の調整に用いた.
Table 2
Bogue composition of Portland cements
(ポルトランドセメントのボーグ式
による鉱物組成)
TypeV
OPC
C3S
59.2
51.2
C2S
16.3
24.3
C3A
4.9
8.7
C4AF
11.9
9.4
Mineral
composition(%)
2.2 材料配合
Table 3 に混合セメントの配合を示す. Type V と
OPCを混合セメントのベースとした.
Type V をベースとした際には, GGBS の置換率を
60%とした. TypeⅡをベースに GGBSの 置換率を 50%
以上とすると, 硫酸塩劣化に対して高い抵抗性を得
られたと報告されている12). 本研究では, TypeⅡよ
りも C3A 量が少ない Type V を用いたため, C3A量が耐
硫酸塩性に与える影響を低減でき, 結果としてGGBS
のAl2O3量の影響を顕著に捕らえられると考えた.
OPC をベースとした混合セメントは, SLの置換率
を30 から 40% の範囲とした. コンクリートの炭酸化
抵抗性や初期強度の確保という観点では, GGBSの置
換率が小さいほうが好ましい. しかし, Locherの報
告 4)から, 30から 40%といった GGBSの置換率が小さ
い範囲では激しい硫酸塩劣化が生じると推測される.
本研究では, 適切な量の石灰石と硫酸カルシウムの
添加で, スラグセメントの耐硫酸塩性が向上すると
考えた. また, OPC と Al2O3 量の多い GGBS はアジア
諸国で広く用いられており, このような耐硫酸塩性
の改善方策が実用的に重要である.
Table 3 Material proportions of blended cements
(混合セメントの配合)
Symbol
Proportion by mass, %
Type V
V/(2.5)
100.0
V+SL/(1.0)
40.0
V+lowSL/(3.0)
40.0
OPC
SL
Total SO3, %
lowSL
Limestone filler
Gypsum
Anhydrite
2.5
60.0
1.0
60.0
V+SL+L4/(1.0)
40.0
56.0
V+SL/(4.0)
40.0
53.6
V+SL+L4/(4.0)
40.0
49.6
3.0
4.0
4.0
1.0
6.5
4.0
6.5
4.0
OPC/(2.0)
99.4
0.6
2.0
OPC/(2.8)
97.9
2.1
2.8
OPC+L4/(2.0)
95.4
4.0
0.6
2.0
OPC+SL/(2.6)
60.0
37.3
2.7
2.6
OPC+SL+L4/(2.6)
60.0
33.2
4.0
2.8
2.6
OPC+SL+L8/(2.6)
60.0
29.2
8.0
2.8
2.6
OPC+SL/(4.2)
60.0
34.6
5.4
4.2
OPC+SL/(5.8)
60.0
31.9
8.1
5.8
OPC+SL+L4(4.2)
60.0
30.6
5.4
4.2
4.0
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0.20
x : Broken
0.15
Expansion (%)
2.3 耐硫酸塩性の評価
耐硫酸塩性の評価は ASTM C 1012 に従い, 試験体
の長さ変化率によった. 試験体の圧縮強度が 20MPa
となるまで養生した後, 23 ℃ 下において5% Na2SO4
溶液に浸漬した. なお, 長期的な膨張挙動を明らか
にするため, OPCベースの混合セメントについては,
浸漬期間を最長6年とした.
V+SL/(1.0)
0.43%
at 727days
1.01%
at 728days
V/ (2.5)
V+SL/(4.0)
V+SL+L4/(1.0)
0.10
V+lowSL/(3.0)
0.05
2.4 EPMAによる S浸透量の測定
硫酸塩溶液に浸漬したモルタルへの S 浸透量は,
電子プローブマイクロアナリシス法 (EPMA) により
測定した. モルタル試験体を切断後, 測定面を研磨,
カーボン蒸着を施し, EPMA による SO3 の面分析を行
った.
2.5 X線回折 (XRD)による水和物の評価
硫酸塩溶液に浸漬したモルタルの水和物の評価は
XRD によって行った. モルタルを粗砕し, アセトン
で水和停止後, さらに微粉砕し, XRD 用の試料を得
た. XRDの測定条件は, CuKα, 管電圧 50kV, 管電流
350 mA, 走 査 範 囲 5 ~ 65 °( 2θ ), ス テ ッ プ 幅
0.0234°, スキャンスピード 0.13sec/ stepとした.
V+SL+L4/(4.0)
0.00
0.5
6
0
Fig. 1
3.1 耐硫酸塩性試験
Fig.1 および 2 に ASTM C 1012 による結果を示す.
Table 4 に長さ変化率が 0.10% となるのに要する推
定期間を示す.
OPC(OPC/(2.0))は約4ヶ月で膨張破壊し, Type V
( V/(2.5))は約8ヶ月で長さ変化率が 0.10% となっ
た. ASTM C 1012 により耐硫酸塩性ポルトランドセ
メントを評価した結果, 長さ変化率が 0.10% に到達
する浸漬期間には7から 20ヶ月程度と差があった
という報告13)がある. これは, 本試験におけるType
V の結果と一致したものである. 次に, Type V ベー
スの混合セメント, OPC ベースの混合セメントにつ
いて考察する.
(1) Type Vベースの混合セメント
Type Vをベースとした混合セメントは, 置換する
GGBS の Al 2 O 3 量によって異なる膨張挙動を示した.
Al2O3 量の少ない GGBS を混合した V+low SL / (3.0)に
ついては, 2年の浸漬期間を経過しても長さ変化率
が 0.06 % と非常に小さいものであった. 一方で,
1.5
18
2.0
24
Expansion behavior of Type V based
blended cement by ASTM C 1012
(ASTM C 1012 による Type V ベースの
混合セメントの膨張挙動)
Table 4 Estimated time to failure which was
assumed to occur at 0.1% expansion
(0.1%の膨張に到達する推定期間)
Symbol
3.結果と考察
1.0
12
Time (years)
Time to expansion (0.1%),
months
V/(2.5)
8.2
V+SL/(1.0)
6.8
V+lowSL/(3.0)
>24
V+SL+L4/(1.0)
8.2
V+SL/(4.0)
18.0
V+SL+L4/(4.0)
>24
OPC/(2.0)
3.7
OPC/(2.8)
5.5
OPC+L4/(2.0)
5.4
OPC+SL/(2.6)
6.3
OPC+SL+L4/(2.6)
18.6
OPC+SL+L8/(2.6)
19.2
OPC+SL/(4.2)
21.7
OPC+SL/(5.8)
>24
OPC+SL+L4(4.2)
>24
Al2O3 量の多い GGBS を混合した V+SL/ (1.0) は, ベ
ースである Type Vよりも急激に膨張が生じた. よっ
て, GGBSをポルトランドセメントに置換させた場合
には, その Al2O3 量が少ないときには膨張が抑制さ
れるが, 反対に Al2O3 量が多いときには, ポルトラ
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ンドセメント中の C3A 量が少ない場合であっても膨
張が加速されると考えられる.
石灰石微粉末や硫酸カルシウムの添加により,
Al2O3 量の多い GGBS を混合したスラグセメントにお
ける耐硫酸塩性が改善した. 石灰石微粉末を含まな
い V+SL/(1.0) の長さ変化率が 0.10% に到達する期
間は7ヶ月であったが, これに4% の石灰石微粉末
を添加することにより (V+SL +L4/(1.0)), その期
間は8ヶ月となった. 一方で, 硫酸カルシウムを添
加することで (V+SL/(4.0)), 18 ヶ月における長さ
変化率が 0.10 %以下となり, ACI 318-11に規定され
る「Class S3-very severe」を満足するまでに耐硫
酸 塩 性が 大き く 向上 した . こ れ らを 併 用す ると
(V+ SL + L4/(4.0)), さらに耐硫酸塩性が改善され,
Type V に Al2O3 量 が 少 な い GGBS を 置 換 し た
V+ low SL/ (3.0)と同等の膨張挙動となった.
ここまでの結果より, Type VにAl2O3量の少ない GGBS
を混合することで耐硫酸塩性は向上した. しかし,
Type V に Al2O3量の多い GGBSを混合するだけでは耐
硫酸塩性は向上せず, その向上には石灰石微粉末や
硫酸カルシウムの添加が必要であった. さらに, 石
灰石微粉末と硫酸カルシウムの併用は, それぞれを
単独で添加したときよりも, 耐硫酸塩性を大きく改
善した. なお, 実用上は, これら材料の配合割合を
確認しておくことが必要であると考える. 石灰石微
粉末を適正量以上に添加してしまうと, 逆に耐硫酸
塩性を低下させ14), また, 硫酸カルシウムを必要以
上に添加すると, ASTM C 1038により測定される初期
の長さ変化率が大きくなる可能性があるためである.
x
0.8
x: Broken
x
x
0.8
0.7
0.7
OPC+SL/(4.2)
0.6
Expansion (%)
Expansion (%)
x: Broken
OPC/(2.0)
OPC/(2.0)
0.6
(2) OPCベースのセメント
OPC については, 石灰石微粉末や硫酸カルシウム
の添加により(OPC+L4(2.0), OPC/(2.8)), 膨張の
開始時期を約2ヶ月遅延させることができたが, 長
さ変化率は6ヶ月以内に 0.10%を超過した.
Fig.2 に示したように, OPC に Al2O3 量の多い GGBS
を混合すると (OPC+SL/(2.6)), 約6ヶ月で長さ変
化率が 0.10% 以上となった. Al2O3 量の多い GGBS の
混合では, OPC の耐硫酸塩性がわずかにしか改善さ
れない結果となった.
GGBS を置換したセメントに, さらに石灰石微粉
末を4% または8% 添加すると( OPC + SL + L4/(2.6),
OPC + SL + L8(2.6)), 長さ変化率 0.10 % に到達するま
での期間が 18ヶ月となり, ACI318-11の Class S3の
規定を満足した. しかし, 石灰石微粉末8% として
も, 4% とした際の膨張挙動と同等であり, 石灰石
微粉末の過剰添加では耐硫酸塩性は改善しなかった.
Gonzálezら14)は, C3A量が6% のポルトランドセメン
トに石灰石微粉末を10 % 混合した場合, 耐硫酸塩性
には大きな影響がなかったが, 20 % 置換した場合に
は, 耐硫酸塩性が低下したと報告した. その原因と
して, 毛細管空隙や水和物の差異等が考えられた.
Schmidtら 15)は数 % 程度の石灰石微粉末の添加は空
隙を減少させ, 耐硫酸塩性を向上させるが, 25 % の
添加は空隙を増加させ, 耐硫酸塩性を低下させると
報告した. 本研究では, 石灰石の添加により, スラ
グセメントの耐硫酸塩性が向上したが, その添加量
は, 膨張挙動に大きな差を与えなかった. 添加量
OPC/(2.8)
0.5
x
0.4
0.3
OPC+L4/(2.0)
0.2
0.1
x x
0.5
OPC+SL+L8/(2.6)
OPC+SL/(2.6)
0.4
x
x
OPC+SL+L4/(2.6)
0.3
OPC+SL/(5.8)
0.2
0.1
0.0
OPC+SL+L4/(4.2)
0.0
0
0.5
Time (years)
1
0
1
2
3
4
Time (years)
5
Fig. 2 Expansion behavior of OPC based blended cement by ASTM C 1012
(ASTM C 1012による OPCベースの混合セメントの膨張挙動)
6
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4% と8% の差異は, 空隙に大きな影響を与えず,
また, 石灰石の溶解度は小さいため, 水和に与える
影響も限定的であったと推測される.
GGBS を混合したセメントに, 硫酸カルシウムを
添加すると(OPC+ SL/(4.2), OPC+SL/(5.8)), ASTM C
1012に準じた試験による膨張は大きく抑制された.
さらに, 石灰石と硫酸カルシウムを添加すると
(OPC+SL+L4/(4.2)), 4年経過後の長さ変化率が
0.12%, 6年経過後の長さ変化率が 0.20 %となった.
石灰石微粉末と硫酸カルシウムの複合作用により,
それぞれを単独で添加したときよりも, さらに耐硫
酸塩性が向上した. なお, 上記で述べた結果より,
GGBS を置換しない場合, 石灰石微粉末や硫酸カル
シウムの添加は耐硫酸塩性を十分に改善しないと推
測される.
GGBS の置換率を大きくすれば, 耐硫酸塩性能を
確保できるが, 初期強度発現性等に課題が残る. し
かし, 本研究の範囲では, OPC をベースセメントと
し, GGBS置換率を 30から 40%程度とした混合セメン
V/(2.5)
トであっても, 石灰石微粉末と硫酸カルシウムを適
正量添加することにより, 優れた耐硫酸塩性を持つ
セメントとし得た. こうした結果や考察を受け, 非
常に厳しい硫酸塩環境を有するが, それに対応でき
る耐硫酸塩性ポルトランドセメントを入手できない
地域や, Al2O3 量の少ない GGBS を利用できない国に
おいても, 石灰石微粉末と硫酸カルシウムの併用に
より, 耐硫酸塩性に優れたセメントを設計すること
が可能になると考える.
3.2 ASTM C 1012に用いた試験体の分析
(Type Vベースの混合セメント)
(1) 硫酸イオンの浸透
耐硫酸塩性向上に関するメカニズム解明のため,
EPMA による面分析を行った. 硫酸塩溶液に浸漬し
た試験体の膨張は, カルシウムアルミネート水和物
と外来の硫酸イオンとの反応で生成する, エトリン
ガイトに起因するという考えのもと, 特に試験体に
おける Sの分布に注目した.
Fig.3 に浸漬期間2年における試験体断面の SO 3
V+lowSL/(3.0)
V+SL/(1.0)
SO 3
mass%
25.00
20.00
15.00
10.00
V+SL+L4/(1.0)
V+SL/(4.0)
V+SL+L4/(4.0)
5.00
2.00
1.00
0.50
0.00
5mm
Fig. 3
Distributions of SO3 concentration in ASTM C 1012 mortar specimens after 2 years of immersion
(2年浸漬後のモルタル試験体における SO3 濃度分布)
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太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第167号(2014):小川 他
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.
V/(2.5)
V+SL/(4.0)
SO3 content, mass%
15
15
10
10
5
0
0
10
20
Depth, mm
5
0
0
V+low SL/(3.0)
20
20
SO3 content, mass%
SO3 content, mass%
20
15
10
10
20
Depth,mm
5
0
0
10
20
Depth, mm
Fig. 4 Averaged SO3 contents in the mortars
(モルタルにおける平均化した SO3 濃度)
V/(2.5) では硫酸イオンが表層付近に濃集してい
るうえ, 中心付近まで浸透していることが確認でき
た. GGBS を置換したセメントでは, GGBS の Al2O3 量
に関わらず, 中心付近で一定の SO3 濃度となってお
り, 硫酸イオンの浸透が抑制されていた. GGBSの浸
透抑制効果は, GGBSの化学組成, 石灰石や硫酸カルシ
ウム添加の影響が小さく, したがって, 膨張には硫酸
イオンの浸透以外の要因も影響すると考えられる.
Fig. 5
XRD patterns of ASTM C 1012 mortar
specimens after 2 years of immersion
Et:ettringite, Gyp:gypsum, CH:portrandite
(2年浸漬後のモルタルを対象とした XRD
パターン)
分布を示す. この断面は, ASTM C 1012 に用いた試
験体の中央部において, 長辺に垂直な方向で切断し
て得た.
硫酸イオンの浸透は Fig.3 に示すように, 対象と
した試験体のすべてにおいて確認できた. V +SL/(1.0)
ではひび割れが, V+ SL+L4/(1.0)では角における破
壊が確認された. また, SO3 濃度は表層面のほうが,
中心部よりも高かった. V/(2.5) は, 硫酸イオンの
浸透深さが最も大きく, GGBSを混合したセメント間
では浸透深さに大きな違いはなかった.
浸透方向における SO3 の分布図を Fig.4 に示す.
これは, Fig.3に示した SO3 濃度を, 垂直方向に平均
した値である. なお, モルタルの表層上下8mm は
計算から除外した.
(2) 水和物の評価
Fig.5 に浸漬期間2年における試験体の XRD パタ
ーンを示す. EPMAに供した試験体と同一のものを用
い, 硫酸イオン浸透の影響を受けている表層部と,
その影響のない中心部とを区別することなく, 平均
化した試料を分析対象とした.
Type V は混合セメントと比較すると, エトリンガ
イトとポルトランダイトに対応するピークが大きか
った. GGBS の混合は, その Al2O3 量に関わらず, ポ
ルトランダイトに対応するピークを減少させた. ポ
ルトランダイト減少に関するメカニズムは,
Uchikawa らの研究 16) に詳しい. ポルトランダイト
は(3)式のようにエトリンガイト生成に必要であり,
ポルトランダイト量の低減は耐硫酸塩性向上に寄与
すると考えられる. 一方, GGBS を混合したセメント
のエトリンガイト量について, そのAl2O3量が少ないと
き(V+lowSL/(3.0))は, エトリンガイトのピークが減
少した. Al2O3 量が多いとき( V+SL/(1.0))は, ベー
スの Type V 由来の C3A 量等が希釈されているのにも
関わらず, エトリンガイト量は Type V と同等であっ
た. これらセメントの GGBS置換率は等しく, よっ
て, GGBS 中の Al2O3 成分が外来の硫酸イオンと反応
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太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第167号(2014):小川 他
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してエトリンガイトを生成し, 結果として膨張をも
たらしたと考えられる. この考察は, V+SL/(1.0)
が Type Vより早期に膨張したことと一致し, さらに,
Al2O3 量の多い GGBS の置換は耐硫酸塩性を向上させ
ないとする既往の知見4)とも一致した.
Al2O3 量の少ない GGBS を混合したセメントについ
ては, エトリンガイト量の減少が耐硫酸塩性を向上
させた可能性がある. しかし, Al2O3 量の多い GGBS
を混合, さらに石灰石や硫酸カルシウムを添加した
セメントは, 優れた耐硫酸塩性を示したが, Type V
と比較して顕著なエトリンガイト量の減少は確認で
きなかった. 石灰石や硫酸カルシウム添加が耐硫酸
塩性に与える影響に関し, そのメカニズムを理解す
るためには, エトリンガイトだけではなく, その他
のカルシウムアルミネート水和物も加味して評価す
る必要があると考えられる.
3.3 耐硫酸塩性改善のメカニズム
耐硫酸塩性の改善メカニズム解明のため, 別途浸
漬試験を実施した. Table 3に示す OPCをベースとし
た混合セメントに関し, 一辺 50 mm の立方体のモル
タル試験体 ( 配合等は ASTM C 1012 に準拠)を作製,
その後, 23℃ 下のもと5% Na2SO4 溶液に6ヶ月浸漬
した. この試験体について, 浸漬面から5mm まで
を「表層部」, それ以降を「内部」と切り分け, そ
れ ぞ れを XRDに よ る 水和 物 評価 に用 い た . なお ,
EPMA により, 硫酸イオンの浸透深さは5mm 以内で
あることを確認した.
内部における水和物は混合セメントの組成に依存
したものであり, エトリンガイトやその他の水和物
が確認されると期待される. 表層部については, 外
来の硫酸イオンと反応してエトリンガイトが生成す
るため, 内部と比較するとエトリンガイト量が増加
すること等が期待される.
Fig.6 に表層部と内部のXRD パターンを示す. モ
ノカーボネート(Mc)に由来する 11.6°のピークと,
二水石膏 (Gyp) に由来する 11.7°のピークは近接し
ており, その区別が難しい. しかし, 石灰石を含ま
ない場合にはモノカーボネートは生成しないため,
OPC/(2.0) の表層部における 11.6 から 11.7°付近の
ピークは二水石膏に由来するものであると考える.
一 方 で , 石 灰 石 を 含 む 場 合 (OPC+SL+L4/(2.6) と
OPC+SL+L8/(2.6))について, そのピークは主にモノ
カーボネートに由来するものであると考えられる.
次に硫酸塩膨張を抑制するメカニズムについて考
察した.
Fig. 6
XRD patterns of mortar cubes after 6
months exposure to sodium sulfate
Et:ettringite, Ms: monosulfate,
Gyp:gypsum, Mc: monocarnonate,
CH: portlandite
(硫酸塩溶液に6ヶ月浸漬した後のモル
タルを対象とした XRD パターン)
(1) OPCの場合
OPC/(2.0) の内部においては, ポルトランダイト
とモノサルフェートの存在が確認できた. 表層部で
は, それと比較してモノサルフェートとポルトラン
ダイトのピークが小さい一方で, エトリンガイトの
ピークが明瞭に確認できた. 表層部ではモノサルフ
ェートが外来の硫酸イオンとポルトランダイトと反
応し, 二次的にエトリンガイトを生成したと考察さ
れる.
OPC に石灰石や硫酸カルシウムを添加しても,
Fig.2 に示したように耐硫酸塩性は十分に改善しな
かった. その原因の特定には至らなかったが, 組織
の緻密化が不十分のため, 硫酸イオンが容易に浸透
できたことを一因と考える.
(2) GGBSの混合効果
OPC+ SL/(2.6) の内部について, モノサルフェー
ト量はベースの OPC と比較して多く, 表層部ではエ
トリンガイトとモノサルフェートの存在が確認でき
た. モノサルフェートと外来の硫酸イオンとの反応
により生じる膨張性のエトリンガイトは, OPC/2.0の
場合と同様に急速な膨張をもたらすと推測される.
しかし, Fig.2 に示すように OPC と比較すると膨張
が抑制されており, エトリンガイトの生成に必要と
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太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第167号(2014):小川 他
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される Ca(OH)2 が GGBS の水和反応で消費されること
や, GGBSの水和により組織が緻密化することが影響
したと考えられる.
(3) 石灰石微粉末の添加効果
石灰石微粉末を含む混合セメント(OPC+SL+L4/(2.6)
や OPC+SL+L8/(2.6)等)では, 上記(1)および(2)で
述べたセメントにおける水和物の生成と傾向が異な
った. 内部においては, エトリンガイトとモノカー
ボネートが確認され, モノサルフェートは確認され
なかった. これは, 石灰石を含むスラグセメントに
おけるカルシウムアルミネート相の水和反応に関す
る Hoshinoらの報告11)と一致したものである.
モルタルの表層部においては, 内部と比較すると
モノカーボネートのピークが小さく, 逆にエトリン
ガイトのピークは大きかった. これは, 硫酸イオン
の存在下においてモノカーボネートは徐々に減少し,
エトリンガイトが生成することを示唆している.
Irasserのレビュー10)によると, モノカーボネート,
モノサルフェート, ヘミカーボネート, ハイドロガ
ーネットは不安定な相であり, 外来の硫酸イオンと
反応してエトリンガイトに変化し, その結果として
膨張破壊をもたらす. Matscheiら17)は, C3A, ポルト
ランダイト, 硫酸イオンと炭酸イオンが共存する系
における熱力学的平衡計算を行った. それによれば,
硫酸イオンが多い環境においては, モノカーボネー
トやヘミカーボネートは生成せず, エトリンガイト
やジプサムが確認された. カルボアルミネート水和
物がエトリンガイトへ変化するということは, 石灰
石微粉末の添加によって耐硫酸塩性が限定的にしか
向上しなかった理由の一つであると考える.
(4) 硫酸カルシウムの添加効果
GGBS を混合したセメントに硫酸カルシウムを添
加すると(OPC+SL/(4.2), OPC+ SL/(5.2)), 内部で
はモノサルフェートのピークは小さくなり, エトリ
ンガイトのピークは大きくなった. エトリンガイト
生成に起因する膨張が, 外部からの硫酸イオンによ
って二次的に生成するエトリンガイトによるもので
あると考えると, 硫酸塩溶液に浸漬している間にエ
トリンガイト生成に寄与するアルミネート水和物の
量が重要である. 硫酸カルシウムがスラグセメント
に多く含まれているとき, 初期に生成するエトリン
ガイトの量は増加し, モノサルフェート量は減少す
る. そのため, 外来の硫酸イオンとの反応による二
次的なエトリンガイト生成が抑制されたと推測される.
(5) 石灰石微粉末と硫酸カルシウム添加の
複合効果
石灰石微粉末を含み, 硫酸カルシウム量の多い
OPC+ SL+ L4/(4.2)の内部においては, モノサルフェ
ートは確認されず, エトリンガイトとモノカーボネ
ートの存在が確認された. これは上記(3)で示した
OPC+ SL+ L4/(2.6) や OPC+ SL+L8/(2.6) で も 同 様 で
あった. しかし, これらのセメント間で比較すると,
OPC+ SL+ L4/(4.2)では, 内部と表層部でのエトリン
ガイトのピーク強度の差が最も小さかった. これは
二次的に生成するエトリンガイトが減少したことを
示唆しており, 硫酸カルシウム量を増加させたこと
に起因すると考える. 硫酸カルシウムを増加させる
と, モノサルフェート量は減少しただけであった.
しかし, 硫酸カルシウム量を増加させ, さらに石灰
石を添加するとモノサルフェートは生成しなかった.
こうした石灰石と硫酸カルシウムの複合的な効果に
より, 硫酸カルシウム量を過大とすることなく6年
の浸漬期間においても耐硫酸塩性が大きく改善され
たと考えられる.
4.結
論
スラグセメントの耐硫酸塩性向上のメカニズムを
解明するため, C3A 量の異なるポルトランドセメン
ト, Al2O3 量の異なる GGBS を用い, さらに石灰石微
粉末や硫酸カルシウムを添加したセメントについて,
ASTM C 1012 による試験, 硫酸イオンの浸透や水和
物の分析を実施し, 以下の結果を得た.
・Type V(5% C3A)と Al2O3 量の少ない GGBS(11% Al2O3,
60% 置換率)からなる混合セメントは, 非常に優
れた耐硫酸塩性を示した. しかし, Al2O3 量の多い
GGBS(15% Al2O3, 60 % 置換率)では, 硫酸カルシウ
ム量の増加や石灰石微粉末の添加 (4%) なしでは,
十分な耐硫酸塩性を発揮しなかった.
・GGBS の Al2O3 量に関係なく, GGBS を Type V に添加
することは硫酸イオンの浸透を抑制し, 硬化体中
のポルトランダイト量を低下させた. GGBS の
Al2O3 成分は外来の硫酸イオンとの反応で二次的
にエトリンガイトを生成したと考えられ, Al2O3 量
の多い GGBS を混合したセメントが十分な耐硫酸
塩性を発揮しない原因と考えられた.
・スラグセメント( OPCベース, GGBS 置換率 30 から
40%) に石灰石を添加(4もしくは8%) すると耐硫
酸塩性が向上した. これは, モノカーボネートが
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生成し, 外来の硫酸イオンと反応して膨張性のエ
トリンガイト生成に寄与する, モノサルフェート
が減少したためであると考えられた. しかし, モ
ノカーボネートは硫酸イオンの供給下でエトリン
ガイトに変化するため, 石灰石添加による耐硫酸
塩性の改善は限定的なものであった.
・スラグセメントに硫酸カルシウムを添加すると耐
硫酸塩性が向上した. これは, モノサルフェート
の量を減少させることに起因する.
・適正量の石灰石と硫酸カルシウムはスラグセメン
トの耐硫酸塩性を大きく向上させた. これら材料
の複合的な効果は, Al2O3量の多いGGBS(15% Al2O3)
を混合したセメントについても確認された.
参 考 文 献
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