平成 27 年度 第 42 回 呉地区七夕学会 抄録集 日時 : 平成 27 年 6 月 20 日(土) 13 時 30 分~18 時 10 分 場所 : 大和ミュージアム(大和ホール) 一般社団法人広島県臨床検査技師会 平成27年度呉地区七夕学会プログラム 平成27年6月20日(土)1 3:30~18 :10(13 :00 ~受付) 於:大和ミュージアム 【一般演題】 13:40 ~ 微生物検査部門〔13 :40~13 :49〕 座長 ① 大和ホール 田寺加代子(呉医療センター) 「血液培養より Rothiamucilaginosaが検出された1例」 横畠千代美(呉市医師会臨床検査センター) チーム医療部門〔13 :49~13 :58〕 ② 座長 中家寛美(福山臨床検査センター) 「臨床検査技師の肝疾患コーディネーターとしての挑戦」 月原麻美(呉共済病院) 生理検査部門〔13:5 8~14:0 7〕 ③ 座長 有北仁美(呉共済病院) 「学校検診が発見の契機となった QT延長の一例」 桝田彰子(中国労災病院) 病理・細胞検査部門〔14 :07~14 :25〕 ④ 座長 道中孝典(中国労災病院) 「薄切の精度向上を目指して~組織切片自動作製装置の導入と効果~」 田中美帆(呉医療センター) ⑤ 「頚部に発生した胸腺腫の 1例」 二反田裕美(済生会広島病院) 血液検査部門〔14:2 5~14:3 4〕 ⑥ 座長 高橋美菜(呉市医師会臨床検査センター) 「血液凝固自動分析装置CP3000の基礎的検討」 為数ひとみ(済生会呉病院) 臨床化学検査部門〔14:34~14:43〕 ⑦ 座長 河野雄一(済生会呉病院) 「組換えキヌレニン 3-モノオキシゲナーゼの発現と精製 ~キヌレニン新規測定法の開発を目指して~」 川本雅也(広島国際大学 【今日から使える患者対応のコツ 臨床工学科 臨床検査学専攻) ~基礎から難しいケースの対応まで~】〔15 :05~16 :35〕 講師 広島市立安佐市民病院 司会 保健医療学部 精神科 心理療法士 岡野 浩二先生 有谿俊一(済生会呉病院) 【積水メディカル学術講演】〔1 6:35~1 6:55〕 「今話題の腎マーカーL-FABPについて」 積水メディカル株式会社 松本美枝 先生 【教育講演】〔17:1 0~18:1 0〕 司会 丹下富士男(呉共済病院) 「国レベルでの臨床検査の動向-どうすれば良いか臨床検査技師? -」 講師 【懇親会】〔18:30 ~20:30 〕 慶應義塾大学医学部名誉教授 渡辺清明先生 呉阪急ホテル(4階 皇城の間) 司会:呉市医師会臨床検査センター 血液培養より Rothia mucilaginosa が検出された 1例 呉市医師会臨床検査センター ○横畠 千代美 山本 望 山本 香 満留 ひとみ 【はじめに】 今回検出された R.mucilaginosa は口腔内常在菌で、血 Rothia mucilaginosa はヒトの口腔内および上気道に 液培養からの検出例が少なく貴重な体験をした。検出 常在する通性嫌気性グラム陽性球菌である。本菌は喀 できた背景として 痰・血液から分離され、まれに敗血症、心内膜炎など ○日常検査における疑問点 を起こす菌として報告されている。 今回我々は、血液培養から R.mucilaginosa を検出した 症例を経験したので報告する。 CNS とのコロニー形態の違い ○情報収集(臨床とのコミュニケーション) 心室中隔欠損症による感染性心内膜炎の疑い 【症例】 が挙げられる。 患者:4 歳、女児。基礎疾患:心室中隔欠損症 これらが結びついて R.mucilaginosa の検出・同定に至 主訴及び経過:20XX 年 11 月 12 日より発熱が続き、 った。当施設は検査センターであるが臨床側からの情 11 月 17 日近医を受診。WBC11200/μℓ 、CRP5.9 ㎎/dl 報を引き出すことがいかに大切かということを痛感し、 であった。 疑問の追求を心がけ精度の高い結果が出せるよう努め 翌 18 日、不明熱が続き心室中隔欠損症であることから ていきたい。 感染性心内膜炎を疑われ、当検査センターに血液培養 を提出。翌 19 日、他院へ紹介入院となる。 【細菌学的検査】 血液培養好気ボトル、嫌気ボトル 1 セットが提出され、 バクテアラート 3D(シスメックス・ビオメリュー)を 用いて培養し、翌日好気ボトルが陽性となった。グラ ム染色にてグラム陽性球菌を認め、羊血液寒天培地で 35℃24 時間培養し、灰白色の粘調の強いコロニーの発 育を認めた。 グラム染色による鏡検所見とコロニーの形態を観察し て CNS(coagulase-negative-staphylococci)を疑ったが、 コアグラーゼテスト・カタラーゼテスト・オキシダー ゼテストすべて陰性であった。菌種の同定は BBLCRYSTAL GP とバイテック 2GP 同定カードを使 用し、菌の特徴と感染性心内膜炎の疑いであることを 考慮して R.mucilaginosa と同定した。 【まとめ】 血液培養検査は感染症を診断する上で重要な検査であ る。 臨床検査技師の肝疾患コーディネーターとしての挑戦 〇月原 麻美,河津 沙耶佳,荒木 康晴,宗本 聖,荒谷 千登美,丹下 富士男,木村 昭郎 国家公務員共済組合連合会 呉共済病院 〈はじめに〉 策などがある。肝疾患コーディネーター養成講座の受講 当院では 2009 年から、臨床検査技師による輸血後感染 後、認定書と認定カードが交付される。また、その後の 症検査の説明を開始した。経験年数がわずか 2 年半余り フォローとして、肝疾患コーディネーター取得者を対象 だった私も昨年 11 月から、輸血療法を受けた患者を対象 に継続研修も行われている。 に検査説明に参加している。その中から見えてきた問題 〈取得後の取り組み〉 点として、輸血前感染症の結果が陽性者も含め患者に伝 今回我々は、肝疾患コーディネーターとして臨床検査 わっていない可能性があることや、肝炎関連研修会等か 技師の視点から、以下のことについて取り組みを始めた。 ら住民健診においても自分自身の検査結果を把握してい (1)広島県が住民健診で配布している肝炎ウイルス検査 ないという現状があることを知った。そこで、臨床検査 の記録カードを当院用に作成し、肝炎ウイルス検査を受 技師として患者のためにできることはないかと考えてい 検した患者全員に医師から手渡す。医師の患者への検査 るところに、 「ひろしま肝疾患コーディネーター」という 結果説明漏れ防止や、患者自身が肝炎ウイルス検査や他 資格に目が留まった。ひろしま肝疾患コーディネーター の検体検査結果を医師に確認出来るきっかけになればと の資格取得は、自身のスキルアップと検査説明時の自信 開始された。 (2)医師の陽性結果確認漏れ防止対策とし に繋がった。今回、資格取得までの経緯と、新たな院内 て、肝炎ウイルス検査が陽性となった患者カルテに付箋 での肝炎対策の取り組みについて紹介する。 を付ける。付箋内容は各肝炎ウイルス検査項目の結果に 〈肝疾患コーディネーターの主な役割〉 応じて、専門外の医師でも的確な判断が出来るように工 ①住民への肝炎ウイルス検査の受検勧奨②肝炎ウイル 夫している。 (3)化学療法中の B 型肝炎再燃チェックと ス陽性者への医療機関への受診勧奨③キャリア、患者又 して HBV-DNA(外部委託)結果の確認を日常業務に取 はその家族からの各種相談応需④所属機関における肝炎 り入れる。外部委託の検査結果は検体提出から数日かか に関する正しい知識の普及啓発 るため、確認漏れ防止策として行っている。 〈資格取得までの経緯〉 〈まとめ〉 この資格を取得するには広島県健康福祉局薬務課肝炎 臨床検査技師による輸血後感染症検査の説明をきっか 対策グループが主催する、肝疾患に関連する講義を 2 日 けに、ひろしま肝疾患コーディネーターを取得し、院内 間受講する必要がある。県及び市町の保健師、肝疾患専 で新たな取り組みを開始した。開始当初は医療スタッフ 門医療機関の看護師、民間企業の健康管理担当者等の保 特に医師からのクレームもあったが、取り組みの効果も 健指導を行う立場にある者を対象に行っている。講義内 見え始めている。今後は、ひろしま肝疾患コーディネー 容には、B型肝炎・C型肝炎・ウイルス性肝炎以外の肝 ターから得た知識を生かし、多忙な医師への診療支援と 疾患・ウイルス性肝炎に関する疫学・肝硬変・肝がん・ して患者に検査結果の説明・相談ができるよう努力して 肝疾患患者に対する相談対応・広島県における肝疾患対 いきたい。 学校検診が発見の契機になった QT 延長の一例 ○桝田彰子 1) 竹石亜矢 1) 芝千穂 1) 花田君恵 1) 鵜久森淳一 1) 上林寛司 1) 1)労働者健康福祉機構中国労災病院中央検査部 2)労働者健康福祉機構中国労災病院小児科 1 はじめに QT 延長症候群は、 心電図に QT 延長を認め、 torsade de pointes と呼ばれる特殊な心室頻拍あるいは心室細 動などの重症心室性不整脈を生じて、めまい、失神な どの脳虚血症状や突然死をきたす症候群である。QT 延長症候群の診断は心電図所見、家族歴、既往歴、現 症の組み合わせによってなされ、Schwartz らによっ て作成された診断基準が用いられることが多い。今回 我々は学校心臓検診を契機に発見された QT 延長の一 例を経験したので報告する。 2 症例報告 【症例】13 歳、男性 【家族歴】所見なし 【既往歴】所見なし 【現病歴】学校心臓検診で QT 延長を認め当院に紹介 【現症】所見なし 小西央郎 2) 表) QT延長症候群の診断基準 ( Schwartzの診断基準 ) 基準項目 心電図所見 QTc 点数 ≧480ms 460~470ms 450~460ms(男性) 運動負荷後4分QTc ≧480ms torsade de pointes T wave alternans notched T波(3誘導以上) 徐脈 3 2 1 1 2 1 1 0.5 臨床症状 ストレスに伴う失神発作 ストレスに伴わない失神発作 先天性聾 2 1 0.5 家族歴 確実な家族歴 30歳未満での突然死の家族歴 1 0.5 合計点数が3.5以上で診断確実、1.5~3.0で疑診、 1以下で可能性が低いと判定される。 【心電図】洞調律、心拍数 57/分、PR 間隔 120 ms、 本症例は診断の結果、 Bazett QTc 492ms、Fridericia QT 間隔 504ms、Bazett QTc 492ms、Fridericia QTc QTc 496ms [3 点]、運動負荷後 QTc 506ms [1 点]、徐 496ms と QT 延長を認めた。 脈 [0.5 点]、合計点数が 4.5 点で診断確実と判定され 【トレッドミル検査】Bruce protocol、ステージ 4 ま た。 で実施、負荷後 QTc 506ms と QT 延長を認めた。 本症例では遺伝子検査は未実施であるが、先天性 QT 延長症候群は主として心筋細胞におけるイオンチ 【臨床経過】 以上の結果より、 アテノロールの投薬が開始された。 しかし副作用による起立性調節障害のため、現在投薬 ャネルの遺伝子異常が原因とされており、現在までに 13 の遺伝子型 (LQT1~13) が報告されている。 は中断されている。運動制限については無症候性であ り、本人の強い希望のため行っていない。 連絡先 0823-72-7171 (内線 455) 3 考察 QT 延長症候群の診断は Schwartz の診断基準(表) が用いられることが多い。 組織切片自動作製装置の導入と効果 ~薄切の精度向上を目指して~ ○田中美帆 1)、菅亜里紗 1)、末田朝子 1)、安村奈緒子 1)、坂根潤一 1)、西村俊直 1)、仲野秀樹 2) 在津潤一 1)、谷山大樹 1)、斉藤彰久 1)、倉岡和矢 1,3)、尾上隆司 2,3)、谷山清己 4) 独立行政法人国立病院機構呉医療センター中国がんセンター 病理診断科 1)、臨床検査科 2)、臨床研究部 3)、病院長 4) 【はじめに】 病理組織検査における業務効率化と標準化を目的 に、病理組織標本作製工程の自動化が進められてい る。特に、パラフィンブロック薄切工程は、高い技 術と経験が必要である。また、技師の手作業工程が 多々あるため検体取り違いなどの危険性も懸念され る。 2013 年 9 月に組織切片自動作製装置(AS-400M, 倉敷紡績株式会社)を導入し、導入当初から 2014 年 4 月まで(以下、初期検討期間)の AS-400M を 用いた良好な標本作製率は 69.6%(3438/4937 個) と報告している。 【目的】 不良標本の原因を詳細に調査し、更なる標本作製 精度向上を目的とし検討を行った。 【対象】 2014 年 5 月から 2015 年 3 月の組織パラフィンブ ロック 11880 個を対象とし、AS-400M で標本作製 を行った。 【AS-400M 概要】 パラフィンブロックをセットし、薄切切片を特殊 なテープに貼り付け、スライドガラスへ切片を転写 し、伸展、乾燥までの工程を自動で処理する。 AS-400M 庫内は、温度管理(22~23℃)されており、 湿度も一定の条件下である。最大 96 ブロック、400 枚薄切することが可能である。また、病理システム との連携により、カセットバーコードを読み取り、 スライドへのバーコード情報の印字が可能である。 【方法】 1)薄切不良標本の原因調査 初期検討期間で不良標本とされた約 32%の標本 の原因を調査した。なお、貼り付け不良(切片の剥 がれ)、標本切片上の診断に支障の出る傷、HE 標本 作製後の顕微鏡的診断に影響を及ぼすアーチファク ト(メス傷、剥がれ、しわ等)がある場合を不良標 本とした。 2)自動薄切条件の設定 初期検討期間では 1 つの薄切条件のみであったが、 技師の経験則による臓器毎の微妙な薄切技術の違い をメーカーの専門家と数値化し、薄切条件の最適化 を検討した。「消化管」「硬組織」「血液が多い検体」 「その他」の 4 種の独自の薄切条件を設定した。 3) 標本作製率の調査 全てのブロックに対して面出しを行い、AS-400M で薄切を行った。2014 年 5 月~11 月における標本 作製率調査結果を参考に、自動薄切前のブロックへ 工夫を行い、標本作製率を調査した。 【結果】 不良標本の内訳は、貼り付き不良による切片剥離 が一番多く、石灰化や糸などによる刃傷が主な原因 であった。切片剥離の原因は、自動薄切装置内でテ ープからスライドガラスへ薄切切片を転写する際に テープに切片が残ってしまうという貼り付き不良で あった。また、刃傷は石灰化や糸・ホッチキスの残 存によるものであった。対策として、石灰化には、 ブロック表面に対する脱灰を行い、糸等は切り出し 時や面出し時に徹底除去を行った。 2014 年 5 月~11 月の良好な標本作製率は、75.7% (6153/8128 個)であった。自動薄切条件の最適化 を行うことで良好な標本作製率が 69.6%から 75.7% へ上昇した。更なる工夫として、面出し時に微小な 刃傷が入るブロックに対しては全て、約 2~3 時間 の表面脱灰を実施し、自動薄切装置内で 4 ブロック 薄切毎に刃が変わることから、刃傷が入りそうなブ ロックは 4 の倍数の場所にセットすること、ブロッ ク周囲のパラフィンの除去を徹底した。2015 年 1 月~3 月の良好な標本作製率は、84.6%(3176/3752 個)と更に上昇した。 【結語】 不良標本の原因を調査し、薄切条件の最適化を行 った。また、薄切前処理を工夫することで標本作製 精度が向上した。 今後は、より良好な標本作製率の向上を目指すと 供に、病理診断科の向上に繋がる効率の良い自動薄 切装置の運用を考えていきたい。 連絡先:0823-22-3111 頚部に発生した胸腺腫の一例 済生会広島病院 医療技術部 臨床検査室 1) 広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 分子病理学研究室 2) ○二反田 裕美 1) 池田 隆文 1) 高夫 智子 1) 安井 弥 2) 【はじめに】胸腺は胎生期に第三鰓嚢より発生し、その AB 型胸腺腫と診断された。 後、前縦隔へと下降して正常部位の胸腺となる。胸腺由 【診断確定後の細胞診標本の再検討】診断結果を踏まえ、 来の胸腺腫は大部分が縦隔発生であるが、ごくまれに頚 再検討として重積性を示していた大型集塊のセルブロッ 部に発生する胸腺腫も報告されている。今回、我々は術 クの作製と標本の見直しを行った。セルブロック標本で 前の穿刺吸引細胞診において、推定病変の確定が得られ は小~中型のリンパ球が主体を占める像であった。免疫 なかった頚部に発生した胸腺腫を経験したので報告する。 染色においてはサイトケラチンが網目状に陽性を示し、 【症例】42 歳 女性。自覚症状なし。血液検査異常なし。 主体のリンパ球は T-cell 由来の CD3 が陽性を示した。こ 肺結節の精査のため行ったCTで頚部腫瘤を指摘された。 れらの所見は AB 型胸腺腫の中のリンパ球の豊富な部分 CT、細胞診を行うも術前の確定診断は得られなかったが、 の像として矛盾のない所見であった。標本の見直しでは、 手術適応があると判断されたため、腫瘤摘出術が行われ 一部にリンパ球と異型の乏しい紡錘形細胞の混在した集 た。 塊が散見された。これらの細胞集塊は、胸腺腫の細胞所 【画像所見】CT 所見では左甲状腺下極から縦隔にかけて 見の一つでもあるリンパ球と上皮細胞が絡み合った細胞 突出する径 35mm 大の腫瘤が認められ、甲状腺腫瘍が疑 集塊で、いわゆる“lymphoepithelial complex”の像と われた。 思われた。 【穿刺吸引細胞診所見】材料は甲状腺として提出された。 【考察】上縦隔から頚部にかけて発生した胸腺腫を経験 異型性の乏しい小~中型のリンパ球の瀰漫性出現とリン した。材料が甲状腺として提出されたため、術前の細胞 パ球の集簇と思われる重積性を示す大型の集塊像が散見 診断の確定には至らなかった。甲状腺をはじめ頚部の穿 された。慢性甲状腺炎の存在が考えられたが、明らかな 刺吸引細胞診においては、縦隔由来腫瘍の存在も念頭に 上皮細胞およびコロイド等の甲状腺由来を示唆する所見 おいて鏡検する必要があると思われた。また、鏡検時に はなかった。また、悪性リンパ腫の可能性も否定できな おいて、重積性を示し詳細な観察が困難な集塊に遭遇し かったが、異型が乏しく診断確定には至らなかった。 た場合には、診断に繋がる細胞が存在する可能性も考え 【手術所見】腫瘤は左甲状腺下極に接するように存在し られるので積極的なセルブロックの作製の必要性を感じ ていたが、上縦隔から左甲状腺下極にかけて増生する縦 た。 隔腫瘍と考えられた。 【肉眼所見】摘出された組織は 45×35mm 大の被膜を有 した弾性硬の腫瘤であった。形状は卵円形であったが、 一部に結節状の突出がみられた。割面は紅灰白色調、充 実性で線維性の隔壁によって分葉状となっていた。 【病理組織所見】線維性の厚い被膜を有し、その内部に 多結節性の腫瘍が認められた。紡錘形~卵円形細胞から なる細胞の増生が見られ、リンパ球の乏しい部分とリン パ球の豊富な部分とが混在して認められた。一部で、軽 度にリンパ球が被膜外にも認められた。以上の所見より 連絡先 :(0 8 2 )8 8 4 2 5 6 6 内線:2 1 4 8 血液凝固自動分析装置CP3000の基礎的検討 済生会呉病院 臨床検査室 ○為数ひとみ 森實夏子 河野雄一 有谿俊一 永島和子 【はじめに】 ール Lと Hでは、それぞれ、Dダイマー( 3 . 0 %, 2 . 2 %) で 私たちは血液凝固自動分析装置CP3000( 積水メデ あった。現行法との相関はPT:r = 0 . 9 7 5 ( n = 7 5 ) 、APT ィカル社)の基礎的性能とCA550(シスメックス社) T:r = 0 . 8 7 7 ( n = 6 7 ) 、Fib:r = 0 . 9 7 3 ( n = 6 1 ) 、ATⅢ: との相関、ヘパリンナトリウムの影響について検討を行 r = 0 . 9 3 7 ( n = 4 5 ) 、Dダイマー:r = 0 . 9 9 9 ( n = 2 9 ) であった。 ったので報告する。 ヘパリンナトリウムの影響についてはPTではトロンボ 【対象と方法】 レルSとコアグピアPT-Nは同等の延長傾向を示した。 対象は当院検査室に凝固線溶検査の依頼のあった75検 APTTではコアグピアAPTT-Nの方がトロンボチ 体について行い、検体は 3 . 2 %クエン酸加血漿検体を用い ェックAPTTより明らかな延長傾向を示した。 た。測定項目はPT、APTT、Fi b、ATⅢ、Dダイ 【考察】CP3000における基本性能は良好であった。 マーの 5項目とした。PT、APTT、Fi b、ATⅢの 相関については、APTTが他の項目より低かったが機 検討にはCA550、DダイマーにはTBA1 2 0 FR(東 器間差よりも試薬間差によるものと考えられた。ヘパリ 芝)を対象機器とした。CP3000の試薬はPT:コ ンナトリウムの影響ではコアグピアAPTT-Nがトロ アグピアPT-N、APTT:コアグピアAPTT-N、 ンボチェックAPTTよりヘパリン感受性が強いと考え Fib: コアグピアFbg、ATⅢ:テストチームS A られた。CP3000は、クロスミキシング機能やオプ TⅢ、Dダイマー:ナノピアDダイマーを使用した。C ションでCTS(C l o s e dT u b eS a m p l i n g ) 機能もあり、日 A550の試薬はPT:トロンボレルS、APTT:ト 常ルーチン検査において有用な装置であると考える。 ロンボチェックAPTT、Fib: トロンボチェックFi 連絡先:0 8 2 3 2 1 1 6 0 1 b(L ) 、ATⅢ:ベリクロームATⅢ、Dダイマー:ナ 内線 2 0 2 ノピアDダイマーを使用した。検討方法は、①同時再現 性②日差再現性③現行法との相関性④ヘパリンナトリウ ムの影響については、添加濃度を 0 . 0 ~0 . 5 U/ m lとなる ように調整し、PT、APTTのそれぞれの相対比を求 め感受性の比較を行った。なお、PT、APTT、Fi b、ATⅢの同時および日差再現性にはコアグトロール ⅠⅩ、コアグトロールⅡX、DダイマーにはFDPコン トロールを使用した。 【結果】 同時再現性はコアグトロールⅠⅩ、コアグトロールⅡX でそれぞれ、CV( %) はPT( 0 . 4 %, 0 . 4 %) 、APTT ( 0 . 4% , 1 . 6% )、 F i b ( 1 . 1% , 2 . 2% )、 A T Ⅲ( 1 . 2 %, 3 . 6 %) 、FDPコントロールでは、Dダイマー ( 1 . 5 %, 0 . 9 %) であった。日差再現性はコアグトロールⅠ Ⅹ、コアグトロールⅡXでそれぞれ、CV( %) はPT ( 0 . 9% , 1 . 3% )、APTT ( 1 . 0% , 1 . 0% )、F ib ( 2 . 2 %, 3 . 4 %) 、ATⅢ( 2 . 2 %, 6 . 9 %) 、FDPコントロ 組換えキヌレニン 3-モノオキシゲナーゼの発現と精製 ~キヌレニン新規測定法の開発を目指して~ 広島国際大学 川本 保健医療学部 臨床工学科 雅也、藤垣 英嗣、石田 藤川 有里、松尾 円香、三東 紗英、笹根 真介、川中 【背景】 臨床検査学専攻 由樹、 洋平、板羽 秀之 【結果】 必須アミノ酸の一つであるトリプトファンは、生体内 大腸菌より精製した組換え KMO 蛋白質を SDS-ポリ において蛋白質合成に利用されるだけでなく、生化学的 アクリルアミドゲル電気泳動法で確認したところ、KMO に代謝されて代謝産物が生成する。生体内のトリプトフ に由来すると思われる単一のバンドのみが検出され、高 ァンの主な代謝経路はキヌレニン経路であり、その中間 純度な組換え KMO 蛋白質を精製できたことが確認され 代謝産物であるキヌレニンの末梢血液中および脳脊髄液 た。また、精製した蛋白質の濃度を測定したところ 110 中濃度は、精神疾患などにおいて上昇することが明らか ng/ml であり、400 ml の大腸菌培養液から約 22 mg の組 になっている。血液や髄液などの試料中キヌレニンの測 換え KMO 蛋白質を得ることができた。 定は、各種疾患のマーカーとして利用できる可能性があ る。現在、試料中キヌレニンの測定には高速液体クロマ 【考察】 トグラフィーを用いた方法が確立されているが、分析に 今回、大腸菌を用いた組換え蛋白質発現系により、高 長時間必要なことや多数検体の同時測定ができないこと 純度な組換え KMO 蛋白質を得ることができた。今後、 から、より迅速な測定法の開発が望まれている。 酵素活性を測定し、試料中キヌレニンの測定を行えるか そこで、本研究はキヌレニンを代謝する酵素であるキ を検討していきたい。また、複数検体のキヌレニン測定 ヌレニン 3-モノオキシゲナーゼ(KMO)を用い、酵素反 を行うためには大量の酵素が必要になると思われること 応を利用したキヌレニン測定法の開発を目指している。 から、より効率よく大量に組換え KMO 蛋白質を精製で 今回、大腸菌を用いて KMO の遺伝子組換え型酵素を発 きるよう大腸菌の培養系を検討していく予定である。 現・精製したので報告する。 【方法】 大腸菌を用いた KMO 組換え蛋白質の発現と精製は GE ヘルスケア社の pGEX ベクターを用いた組換え蛋白 問い合わせ先 質発現系を用いた。ヒト RNA より RT-PCR 法で得た 広島国際大学 保健医療学部 KMO 遺伝子を pGEX プラスミドに組込み、形質転換に 〒739-2695 広島県東広島市黒瀬学園台 555-36 より大腸菌内に導入した。KMO/pGEX ベクターを含む TEL:0823-70-4640 大腸菌を液体培地 400 ml 中で培養し、イソプロピル-βチオガラクトピラノシドを加え KMO 遺伝子の発現を誘 導し、組換え KMO 蛋白質を大腸菌内で合成させた。大 腸菌を超音波破砕装置で処理後、大腸菌内の蛋白質粗抽 出液を得た。アフィニティーカラムを用いて粗抽出液よ り組換え KMO 蛋白質のみを精製した。組換え KMO 蛋 白質の純度は、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法 により確認した。また、組換え KMO 蛋白質の収量はブ ラッドフォード法により測定した。 今日から使える患者対応のコツ ~基礎から難しいケースの対応まで~ 広島市立安佐市民病院 精神科 心理療法士 岡野 浩二 患者対応の際にもっとも大切なことの一つは信頼関係を作ることです。みな さんが患者さんに信頼され、説明を聞きたい、相談したいと思ってもらえれば、 検査説明をスムーズかつ効果的に行うことができます。 初対面でそんな関係になることは難しいと思われるかもしれませんが、いくつ かのコツが実践できれば、それほど難しいことではありません。 今回の研修では、患者さんに信頼され、効果的な関わり方ができる臨床検査技 師になるためのコツをできるだけわかりやすく、すぐに実践できる形でお伝え していきます。難しい理論はほとんど出てきませんが、体験的に気づきを得て いただくためにいくつかワークを用意しています。 少しお昼寝でもしようと考えている方にはその暇はありませんので、患者さん の対応が本気で上手になりたい方の参加をお待ちしています。 また、応用編としてクレーム対応など難しいケースの対応についても 実例を交えながら紹介していきたいと思っています。 積水メディカル学術講演 今話題の腎マーカーL-FABPについて 積水メディカル株式会社 松本美枝 平成23年度の厚労省研究班発表では、日本における CKD (慢性腎疾患)患者 数は 1,330万人と報告されており、今や CKDは国民病と言われています。L-FABP (尿中 L型脂肪酸結合蛋白)は CKDをモニタリングするためのバイオマーカー として開発されましたが、CKDだけでなく、AKI(急性腎障害)における尿細管 機能障害を反映するマーカーとして 2011年に保険収載されました。今回は、腎 疾患における L-FABPの動態や役割、臨床的意義についてご説明いたします。 国レベルでの臨床検査の動向 -どうすれば良いか臨床検査技師? 慶應義塾大学医学部名誉教授 渡辺 清明 1. 診療報酬改定 個人的には臨床検査振興協議会の理事長の立場からここ 10 数年携わっており、臨床 検査の保険点数の下げ止まりに貢献してきた。前回の改定でも臨床検査については実 施料の下げは 100 点以下の検査のみで思ったより軽微であり、採血料や時間外緊急院 内検査の増点があった事は評価できた。しかし、検査室では消費税の影響があり苦戦 している。したがって、次回改定ではさらなる要望が必要となるので、この点の現状 に触れたい。 2. 臨床検査の問題点と対策 臨床検査は医療で大変価値の高いものであるが、国レベルでは臨床検査は価値が低く 扱われている。それは以下の問題点があるからである:1)一般の人にも医療従事者に も分かり難い、2)国、特に厚生労働省などでのランクが低い、3)医療法や技師法など の法的な措置が遅れている、4)臨床検査の精度が重要視されていない、5)臨床への積 極参加がよく見えない。 これらの点の改善のために 1)については、国民や医療従者の目に見える事をする必要 があり、宣伝が重要である。2)、3)については、医療法や技師法を具体的に改正しな いといけない。4)については、今は簡易検査所の在り方や精度管理の改善が問題とな っている。5)については、厚生労働省からの通知に従い、臨床検査技師に認められて いる医療業務範囲の中で、責任の所在を明確化した上で役割分担を図っていく必要が ある。 3.臨床検査技師の今後の有り方 以上の国レベルでの多くの問題点を改善するためには、臨床検査技師自らがこれらに どう対応すべきかを具体的に考える必要が生じている。今後は臨床検査技師が主役と なり、他人任せでなく、自分達の力で臨床検査の底上げを早急に行う必要がある。 謝辞:筆者は呉市で小学校 4年生から高校卒業まで過ごしたので、今回の招待に深謝 しています。
© Copyright 2024 ExpyDoc