全体構成 地球環境と技術 第3回講義 「ライルサイクルアセスメント手法」 経営情報系 中村和男 1.なぜライフサイクルアセスメント (a)人類の諸活動は地球環境問題をもたらす? ・産業革命から20世紀にかけての工業社会の進展は、 人口増加を支え、人類の福祉の向上と暮らしの豊かさ をもたらしてきた。(便益) – 電力、鉄鋼、石油製品、自動車、家電、情報通信・・・ ・しかし、工業化は様々な資源とエネルギーの消費と環 境悪化をもたらす物質の排出との引き換えになされるこ とになる。(環境負荷) – 化石燃料、温暖化ガス(CO2、CH4、N2O、(代替)フロン、・・) (C) 技術評価としてのLCA 1. なぜLCA<3> 2.LCAの概念<7> 3.インベントリー分析の基礎的方法<5> (積み上げ方式 /産業連関表活用方式) 4.インベントリー分析の実践事例<7> 5.インベントリ分析適用における2つの論点<5> 6.環境影響評価(LCIA)の実践事例 <3> 7.企業とLCA<1> [参考文献] 足立・松野・醍醐・滝口:環境システム工学-循環型社会のためのライフサイクルアセスメント, 東京大学出版会,2004. 日本エネルギー学会編:講座ライフサイクルアセスメント(LCA),日本エネルギー学会,2006. 稲葉・青木(監修),伊坪・田原・成田(著):LCAシリーズ[第1分冊]LCA概論,丸善,2007. (b) 技術で製品の環境負荷を低減する • 省資源・省エネ製品のための新たな技術は 真に環境負荷を低減できるか? – 高効率冷媒のフロン • 省エネ効果の優等生、しかしオゾン層破壊の元凶であることが分 かった (→ 代替フロン開発 : しかし温室効果大) – 太陽光発電 • 化石燃料を使わないで電力を生み出す省資源・創エネ技術 • しかし、太陽電池の製造時や廃棄処分時の投入エネルギーや温 暖化ガスの排出は・・・ – 電気自動車は救世主? • 使用段階のCO2排出はガソリン車より減る。しかし製造段階での、 CO2排出は増える? NOx、SOxの排出などが増える可能性 も・・・ 2.LCAの概念 • 製品のライフサイクルに着目し • 技術評価(テクノロジーアセスメント) – 技術は人類に様々なメリットをもたらすために開発・導入される – しかし、自然環境破壊や人間社会の安全・安心を脅かしたり、伝統 を破壊し文化の変容をもたらしてきた – 技術の開発や導入について • 人間社会、地球環境に及ぼす影響を多角的・客観的に調査 • 事前に利害損失を総合的に評価 • 発生しうる弊害への対応策の策定、開発方向の修正などを行う • 技術のLCA(ライフサイクル・アセスメント) – 技術の開発・導入がもたらす地球環境負荷への効果を客観的・定 量的・総合的に分析・評価 – 製品の誕生から処分までの生涯に関わる全プロセス 資源の採掘、エネルギー・素材の生産、部品の生産、 製品の組立、輸送、使用、保守、リサイクル・廃棄 • ライフサイクルの全プロセスでの「資源」「エネルギー」の消費量 および「環境影響物質」の排出量を分析し – 「全プロセス」は現実的に「どの範囲で」「どの程度詳細に」扱うか – 量的データをどのように取得するか • 総合的な環境影響の程度を評価する – 環境影響の多面性から評価 – 注目の技術方策がどのプロセスでどんな環境問題に影響を与えるのか – 環境改善のためのより良い技術方策を考える 1 LCAの意味を具体的に捉える (1) 便益の享受 インプット アウトプット (インベントリ) (インベントリ) 資源採取 太陽光発電 単位発電量当りの CO2誘発重量 =40g-CO2/kWh 大気への放出 資源 製造 水域への放出 エネルギー 通常の石油火力発電に 比べて1/5程度 固体廃棄物 a-Si エネルギー回収年数(年) 製品のライフサイクル poly-Si 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0 使用 2 4 6 8 生産量(万kW/年) 10 12 図 太陽電池生産量とエネルギー回収年数の関係 廃棄 エネルギー回収年数 (製造段階での消費エネルギー) =――――――――――――――― (年間の発電エネルギー) (地球)環境への影響 図1 LCAの基本的考え方[1] ISOによるLCAの実施手法の規格化 LCAの意味を具体的に捉える (2) ISO14040 (1997) : 主として4つの段階で構成 ①目的及び調査範囲の設定 電気自動車(EV)とガソリン自動車(GV)の比較 2 環境負荷 1.5 廃棄 保守 走行 車両製造 材料製造 1 0.5 対象製品?(洗濯機) 目的?(従来製品と新製品の機能単位の環境負荷・影響の比較) システム境界? (洗濯機本体の資源採掘から廃棄処理+洗剤製造+上下水処理) 目的及び調査範囲の設定 0 GV EV CO2 GV EV NMHC GV EV NOx GV EV PM GV EV SOx インベントリ分析 環境負荷の種類と車の種類 結果の 解釈 図 ガソリン車と電気自動車のLCAによる環境負荷の相対比較 • • 電気自動車(EV)は、ガソリン自動(GV)と異なり、走行中は排出ガスを出さない EVについては発電所での排出ガス、蓄電池、モーターなどの生産工程関連の環 境負荷を考慮 ②インベントリ分析 • • • • 環境影響評価 図 ISO14040によるLCA実施手法の枠組 ISOによるLCAの実施手法の規格化(つづき) 製品のライフサイクルで投入される資源、環境へ排出される物質の定量データを収集 自社あるいは関連他社への協力依頼で直接収集できるデータ 公開・市販されている間接なデータ収集 機能単位当り(シャツ1枚当りなど)の資源、環境へ排出される物質の定量データに集計 洗濯機1台製造に必要な 素材の種類と重量 製造工程での電力・燃料消 費量 製品輸送の方法と距離 洗濯回数の頻度 洗濯1回当りの水・電力洗剤 BOD排出重量、 廃棄処理での電力・燃料消費 ③環境影響評価 製品がライフサイクルを通して環境にどれだけの影響をもたらすか評価 ④解釈 -設定された目的と調査範囲に沿って②③が適切になされているか点検 -データの品質・信頼性評価 -結果を分かりやすく体系化 -前提条件や適用の限界を明示 2 積み上げ方式の考え方 3.インベントリー分析の基本的方法 エネルギー / 資源 エネルギー 資源 原料 採取 エネルギー 資源 エネルギー 資源 エネルギー 資源 材料 製造 製品 製造 製品 使用 エネルギー 資源 製品 処分 Ra1 原料 αkg Ea1 プロセス A Ea2 Rb1 排出物 排出物 排出物 排出物 排出物 再利用 再生利用 原料 βkg (1) 単位プロセス型データ Ra2 Rb2 Rc1 Rc2 γakg プロセス C γbkg Ec1 Ec2 Rd1 δkg Ed1 Rd2 プロセス D 製品1kg Ed2 プロセス B Eb1 Eb2 排出物 (2) プロセス合算型データ (1)積み上げ方式(プロセス分析方式) 製品のライフサイクルにおいて、分析対象として焦点を当てた範囲に含まれるプロ セスを抽出し、各プロセスごとに投入する資源・エネルギー量、ならびに排出する環 境負荷物質量について調査データを収集し、それらを合計して、環境負荷の各項目 を算出。 すべての対象に応用可能であるが、データ収集のための労力が多大。 エネルギー / 資源 原料 (Ra1+ Rb1 +Rc1+Rd1) 製品1kg αkg βkg (Ra2+ Rb2 +Rc2+Rd2) 対象のマクロプロセス (Ea1+ Eb1 +Ec1+Ed1) (Ea2+ Eb2 +Ec2+Ed2) 排出物 積み上げデータの収集様式 3.インベントリー分析の基本的方法 (つづき) (2)産業連関表活用方式 (a) 産業連関表とは何か? 国の経済をいくつかの部門(わが国では最も詳細には約400部門)に分割 し、1年間における部門間の財・サービスの流れを一覧表にしたもの。 産業連関表 (b) 直接間接に排出されるCO2の算出 e =(e1,e2)T =(1,2)T : 各産業の製品1単位を生産する際、直接排出するCO2の量(トン)のベク トル ε=(ε1, ε2)T : 各産業の製品1単位を生産するのに関わる、全プロセスで排出された累積 のCO2の量(トン)のベクトル X=(X1,X2)T =(100, 200)T: 各産業の年間の生産製品量(単位)のベクトル Xij : 産業 iから産業 jに投入される年間の生産製品量(単位) (前頁参照) aij =Xij /X j :産業 jの単位製品量当りに産業 iから産業 jに投入される年間の生産製品量 (投入係数と呼ぶ)(前頁参照) 農業 工業 最終需要 総生産 農業 20 60 20 100 工業 30 80 90 200 付加価値 50 60 総生産 100 200 投入係数行列A 0.2 =20/100 0.3 =80/200 0.3 =30/100 0.4 =80/200 4.インベントリー分析の実践事例 [洗濯機1台のライフサイクルにおける誘発CO2重量の算定] 従来型:プラスチック樹脂槽を用いた洗濯機 節水型:ステンレス鋼板槽で槽回転数を上げ、少ない水と洗剤で衣類を洗浄でき る <製造段階のCO2排出量算定(1)> 投入原材料と投入2次エネルギー 着目する産業部門で生産された製品の累積CO2排出量は、 投入製品がもたらす累積のCO2排出量に新たな直接的CO2排出量が加算される ε1X1=(ε1 X11+ ε2 X 21) +e1X1 →[X1で割る] ε1=(ε1 a11+ ε2 a21) +e1 ε2X2=(ε1 X12+ ε2 X 22 ) +e2X2 →[X2で割る] ε2=(ε1 a12+ ε2 a22) +e2 ε=Aε+ e ∴ 0.2 0.3 1 1 0.3 0.5 2 2 ε= (I-A) -1 e ☆輸入を考慮する場合にはさらに工夫が必要 3 各種化石燃料の燃焼、および電力の製造段階で誘発されるCO2 燃料 燃焼量 発熱量(MJ) CO2排出量(kg) 重油 1kg 44.9 3.34 軽油 1kg 46.4 3.30 LPG 1kg 44.9 3.34 LNG 1kg 54.4 2.86 都市ガス 1㎥ 46.0 2.44 備考 1 liter=0.83kg <製造段階のCO2排出量算定(2)> 従来型:0.82×1.98+14.9×2.05+0.25×4.14+0.68×11.7 +0.62×1.36+8.8×0.77+1.51×2.25+0.28×0.95 +2.93×1.41+8.87×0.45+0.46×3.34+0.27×2.44 = 62.8 kg-CO2 節水型: 77.0 kg-CO2 CO2 (kg/kWh) 日本平均電力 0.45 ☆製造段階はステンレス鋼板を使う節水型がCO2排出量が多い 各種素材単位重量の製造で排出されるCO2 素材 CO2排出重量 (kg-CO2/kg) 素材 CO2排出重量 (kg-CO2/kg) 冷間圧延鋼板 1.98 PP 0.77 亜鉛めっき鋼板 2.05 PS 2.25 ステンレス鋼板 4.14 PVC 0.95 アルミニウム板 11.7 包装材 1.41 銅板 1.36 <使用段階のCO2排出量算定(1)> • • • • <輸送段階のCO2排出量算定> 両タイプの洗濯機を、東京-大阪間(500km)をトラックで運ぶ。 10トントラックで100台の洗濯機を運搬、トラックの燃費は軽油0.256 liter/km。 0.256×500/100×0.83×3.3 = 3.51 kg-CO2 <使用段階のCO2排出量算定(2)> 各家庭での1日の平均洗濯回数: 1.4回/日 洗濯機の購入から廃棄までの平均年数: 9年 • 1回の洗濯当りに消費される水、洗剤、電 力 1回の洗濯当りに排出されるBOD(生物 化学的酸素要求量)重量 を合計して、両タイプ洗濯機の使用 段階のCO2排出量を求める • 消費される水、洗剤、電力が誘 発するCO2排出量 排出BODを処理するのに必要な 電力が誘発するCO2排出量 水のCO2排出原 単位 0.113 kg-CO2/kg 洗剤のCO2排出 原単位 0.769 kg-CO2/kg 単位排出BODの 処理に要する電力 1.68 kWh/kg 従来型洗濯機: 690×0.113+166×0.769+603×0.45+81.9×1.68×0.45 • 両タイプ洗濯機のライフサイクル当りの – 総洗濯回数: 1.4×365×9=4600回 – 消費される水、洗剤、電力 – BOD排出重量 <廃棄処分段階のCO2排出量算定(1)> 洗濯機1台を廃棄する際のシュレッ ダー、埋立処理による消費電力、軽 油の消費量が誘発するCO2排出量 を求めたい • 洗濯機重量 従来型:27.9 kg 節水型:30.7kg • シュレッダーで1kgの投入物を粉砕す るのに必要な電力: 0.016 kWh/kg • ごみ1kgを埋立処理するのに必要な エネルギー: = 78.0 + 128 + 271 + 61.9 = 539 kg-CO2 節水型洗濯機: 55.6 + 118 + 271 + 57.4 = 502 kg-CO2 <廃棄処分段階のCO2排出量算定(2)> 上記結果をもとに、両タイプの洗濯機1台を廃棄処分するプロセスに関連して誘 発されるCO2排出量を算定する。 従来型洗濯機: 0.446×0.45+0.027×0.45+0.0105×3.30= 0.248 kg-CO2 節水型洗濯機: 0.491×0.45+0.023×0.45+0.0088×3.30= 0.260 kg-CO2 <ライフサイクル全プロセスのCO2排出量のまとめ> – 電力: 0.002 kWh – 軽油: 0.00078 kg • 埋め立てる廃棄物量 従来型: 13.52 kg 節水型:11.32k 4 5.インベントリ分析適用における2つの論点 <配分問題の対処方の概念的説明図(1)> 実際に得られたデータ (1)配分(アロケーション)問題 製品A 1kg 原料D 6kg ある生産プロセスで2種類以上の製品が同時に生産される場合に、そのプ ロセスにおける資源、エネルギー消費量や排出物をそれら製品にどのよう に割り付けたらよいか? 例1: 「鉄鋼製品生産システム」 主製品の鉄鋼製品 + 高炉スラグを原料としたセメント 例2: 「原油精製プロセス」 LPG、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油、A重油、C重油、アスファルト 製品B 2kg CO2 1kg 原料D 2kg CO2 3kg 原料D 6kg 原料D 4kg 図5.1 <配分問題の対処方の概念的説明図(2)> 製品A 1kg 製品B 2kg 製品B 2kg 質量基準の配分手法 (2)リサイクル工程の扱い CO2 3kg • クローズドループ型リサイクル 製品A 1kg @100円/kg 100円 原料D 6kg 製品A 1kg CO2 2kg <対処方法> (a) 配分を回避 (単位プロセスの細分化、代替システム分を差し引く) (b) 物理的な基準(容積、質量、発熱量など)に基づく配分 (c) 経済的な価値(価格基準)に基づく配分 実際に得られたデータ CO2 3kg 製品B 2kg @10円/kg 20円 計 120円 – 使用済みの製品の部品・素材を同種の製品の新品の部品・素材と合 わせて再生利用 CO2 2.5kg 原料D 5kg 製品A 1kg CO2 3kg 原料D 6kg CO2 0.5kg 原料D 1kg 図5.2 製品A 1kg 製品B 2kg 製品B 2kg 価格基準の配分手法 • オープンループ型リサイクル – 使用済みの製品の部品・素材を他の製品の新品の部 品・素材と合わせて再生利用。再生素材は品質低下 により元の製品には使えないことも。 6.環境影響評価の実践事例 大別して以下の2つの評価の流れ 1)影響領域における評価 インベントリ→特性化→影響領域毎の評価(正規化)→重み 付け 地球温暖化、オゾン層破壊、酸性化、富栄養化、 光化学オキシダント、廃棄物 2)被害評価 インベントリ→特性化→被害評価→正規化→重み付け 人間健康、資源・社会資産、1次生産(植物の生産活動)、 生物多様性 5 <冷蔵庫の冷媒による4つのシナリオ(1)> 1)影響領域における評価 インベントリ分析結果 影響領域毎の評価(正規化) <冷蔵庫の冷媒による4つのシナリオ(2)> 2)被害評価 被害項目毎の評価(正規化) 統合化 7.企業活動とLCA 全体構成 1. なぜLCAが必要か(エコとは何か、エコ製品とは、技術評価として)<3> <事業者にとって> 1) 製品の製造から廃棄、・リサイクルに至る製品寿命全体をとらえつつ製 品設計を行うことが可能となる。 2) どの段階での環境負荷が発生しているかを客観的に認識できるように なるので、効果的に環境負荷を削減できる。 3) 次世代製品の企画、開発の意思決定を行う際の指針を得られる。 4) 消費者に科学的な情報を提供し、コミュニケーションの促進が図られる。 5) 企業の社会的責任を果たし、企業イメージを高めることができる。 <消費者にとって> 1) 客観的な評価に基づく環境負荷情報を入手することにより、より環境負 荷の少ない製品を選択することで環境負荷の低減に貢献することが可 能となる。 2) 選択的な購買を行うことで、生産者の環境配慮を促すことが可能となる。 2.LCAの概念(製品の誕生から廃棄・再生の全生涯に関わるすべての環 境影響を分析・評価;数理的捉え方)<3> 3.インベントリー分析の基礎的方法 (積み上げ方式 /産業連関表活用 方式)<6> 4.インベントリー分析の実践事例<3> 5.環境影響評価(LCIA)の実践事例 <3> 6.統括的事例分析(洗濯機、アルミ缶、冷蔵庫、建築物) <9> 7.社会的環境影響の評価に向けて(PBM、寿命、効用、エアコン)<3> 8.企業とLCA(社会的責任、環境会計、企業イメージ)<3> 6
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