クロマグロ資源の再生・確保事業について

クロマグロ資源の再生・確保事業について
(有)ジェノテックス
取締役社長
添田
栄一
[email protected]
【要旨】激減するクロマグロ資源の持続的利用のために、ミトコンドリア(mt)D ループの母系特異
的配列で標識した人工孵化稚魚(種苗)を適時適所に放流します。数年後、捕獲した成魚は天然魚の母
系多様性と識別し、その生産履歴から事業主や漁獲高への貢献度、棲息域や生態系への影響を明らかに
し、孵化放流によるクロマグロ資源の再生・確保の事業にします。
【食卓からトロが消える】
大西洋クロマグロ、およびミナミマグロの漁獲量は、かつて 44,000tも有りましたが、その 70%を日
本人が消費したために資源は激減しました。欧米諸国はこれまで大陸棚や 200 海里制を敷き、日本の遠
洋漁業を閉出してきましたが、現地の買付けや畜養でしのいできました。しかし、資源量が限界に達し
たために、大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)では日本の漁獲量を 1,148tに減され、さらに輸
入量までも規制されました。
他方、生トロの原料である太平洋クロマグロ(以下、本マグロと略)の漁獲量は 21,000tで大西洋以
下の状態になっています。このために中西部太平洋マグロ委員会(WCPFC)では未成魚 4,500t、成熟
魚 2,000tの漁獲量制限を沿岸国に割り当てましたが、東アジア諸国の経済発展と急激な人口増大によっ
て、回復は絶望的状態にあります。先ずは、本マグロの自然の孵化場である尖閣列島海域の保護が最大
の課題です。
【クロマグロ資源は回復できるか?】
我が国には世界最先端の養殖・育種技術があり、世界第 6 位の豊かな領海があります!養殖場で産卵
孵化した大量の稚魚(種苗)を標識放流すれば、数年後に成魚となって帰還します。その結果、漁獲高への
貢献度や棲息域など生態系への影響が明らかになり、私たちが食べる量だけを日本の排他的経済海域
(EEZ)で育てる栽培漁業の実用化ができます。
クロマグロの雌親は数百万個の卵を産み、その大半が孵化しますが、このうち、海洋で成魚になるの
は僅か 1~2 尾です。一方、水槽では数十万尾が丈夫な稚魚になり、種苗として生け簀養殖に使用されて
います(図 1)が、マダイの種苗同様、生産過剰になるのは時間の問題です。
受精
(標識)
♂
♂
牡魚
♂
(マイクロサテライト)
雌魚♀
(ミトコンドリア)
浮遊受精卵
(数千万粒/回)
採取
人工
孵化
人工種苗
増殖サイクル
選抜育種
生け簀養殖
母系特異的配列
初期減耗
中間養成
網入れ
仔魚
(3 ヶ月齢、2 万尾) 共食い
データベース検索
標識稚魚
稚魚
(30 日齢、30 万尾)
クロマグロ
海洋飼育
EEZ 内成育
給餌
養殖ブランド
遺伝子ブランド
(商標化)
ブランド
クロマグロ
天然クロマグロ
母系識別
図 1 クロマグロ人工種苗のブランド化と栽培漁業
(魚市場収集)
ただし、狭い生け簀では共食いや衝突が絶えず、さらに長期にわたる過酷な労働、生餌の確保、残餌
による海底汚染等で経営を圧迫しています。一方、元気な幼魚を外洋に放流すれば、
「餌要らず世話要ら
ず」でその 15~40%が成魚になって帰ってきます。これまで放流魚と天然魚との区別ができず、適切な
評価が得られませんでした。たとえば、サケは人工孵化種苗を 10 億尾放流しこの内 6%は河川に回帰し
ますが、産卵数と母系が 17 では天然魚との識別が困難なために、事業費負担に課題を残しています。
【クロマグロの母系多様性】
弊社は、天然のマグロ 6 種類、マダイの mtD ループの配列を DNA の両鎖から決め、分子系統樹法で
分類を行った結果、異種間はもとより同種内でも千以上の母系に分かれることを発見しました(図 2)。
ただし、3 代以上完全養殖(系統保存)した親魚とその受精卵、種苗は均一の特異的配列で標識され、天
然魚の母系多様性と識別できることを発見し(特許 4958019 号)、これを人工孵化種苗の母系特異的配
列と定め、遺伝子ブランドにしました(DNA 識別商品、商標登録第 5277171)。
図 2 系統樹によるクロマグロの母系多様性と漁獲地との関係
●大西洋黒マグロ ●黄肌マグロ ●南まぐろ ●メバチマグロ ●鬢長マグロ ●本マグロ
本マグロは 400 種類、大西洋クロマグロは 260 種類の母系が築地市場で見つかりました。
また、平成 21 年度暮れに津軽海峡を通るマグロ系群に同母系はほとんどいませんでした。
マグロ 785 尾の D ループ塩基配列を国立遺伝研 DDBJ に登録・公開しました。
Accession number"AB535754-AB536538"。
本法によって養殖場で人工孵化し選択育種された種苗は遺伝子ブランドとして生物産業の知的資産とな
ります。完全標識した幼魚を外洋へ適時適所に放流すれば、数年後成魚となり、ウロコ1枚、刺身片の
収集で誰が放流したか判ります。捕獲した成魚を母系別に加入量変動調査を行なえば、その生産履歴が
判明し棲息域や生態系への影響、漁獲高への貢献度が評価され、このために事業資金の円満な解決がで
き、栽培漁業の路が拓けます。