2015 物理電子システム創造専攻

物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
Interdisciplinary Graduate School of Science and Engineering
Tokyo Institute of Technology
2015 東京工業大学 大学院総合理工学研究科
http://www.ep.titech.ac.jp
C O N T E N T S
物理電子システム創造専攻へのお誘い
1
本専攻の位置づけ
2
講義科目と開講時期
3
教員一覧
4
大学院生活
6
入学試験案内と問い合わせ先
8
各教員の研究内容の紹介
10
角嶋研究室 ●機能性界面の制御による次世代電子デバイスの創出
10
若林研究室 ●シリコン・トランジスタ技術を基礎とした低電力・高性能な知的システムデバイスの先行研究
12
大見研究室 ●超高速・低消費電力LSI実現に向けた新機能デバイスの創製
14
岡本研究室 ●プラズモニクスによる高効率光電子デバイス
16
梶川研究室 ●光を巧みに操る技術:プラズモニクスとメタマテリアル
18
伊藤(治)研究室 ●ナノ量子フォトニクス
20
浅田研究室 ●半導体ナノ構造によるテラヘルツデバイスの研究
22
渡辺研究室 ●超ヘテロ結晶の創製と量子ナノ構造光・電子機能デバイス
24
筒井研究室 ●新材料・新機能素子技術による電子デバイス:ナノデバイスからパワーデバイスまで
26
加藤研究室 ●π共役分子の集合状態の制御による新しい光電子機能性材料の開発
28
町田研究室 ●異種機能集積化技術による次世代デバイスの創出
30
半那研究室 ●情報技術のための新しい機能材料の開発とイメージングデバイスへの応用
32
飯野研究室 ●大面積イメージングデバイスを目指した有機半導体材料・デバイスの開発
34
宗片研究室 ●スピンフォトニクス ─ 電荷の先に見えるもの ─
36
菅原研究室 ●シリコン・スピンエレクトロニクスの研究
38
植之原研究室 ●超高速フォトニックネットワーク用光信号処理システムと光集積デバイスの実現 40
益 研究室 ●高速・高周波集積回路からSwarm Electronicsへ ─ 我々は変化を目指す ─ 42
伊藤(浩)研究室 ●実世界とサイバースペースを結ぶ集積回路・ハードウエア技術の創出
44
小山研究室 ●光ネットワークデバイスと光集積回路
46
宮本研究室 ●次世代光エレクトロニクスに向けた半導体光デバイス研究
48
石橋研究室 ●ナノスケール構造の物理と量子ナノデバイス
50
すずかけ台キャンパスへのアクセス
52
すずかけ台キャンパス案内
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すずかけ台キャンパス案内
東京工業大学
昔、プラトンはすずかけ(プラタナス)の木影で学生たちに講義し、討論したと伝えられています。
その情景を現代に再現したい、との願いをこめて、田園都市線のすずかけ台駅近くの緑の多い閑静な地に、すずかけ台(旧 長
津田)キャンパスは創設されました。もと “馬の背” と呼ばれただけあって、丘あり、谷ありの変化に富んだ美しい学園です。20
万平米を超える敷地には、大学院の五つの建物を含む大学院総合理工学研究科の建物群をはじめ、生命理工学研究科、精密工学
研究所と像情報工学研究所、資源化学研究所、応用セラミックス研究所、附属図書館、総合研究館(本学80周年記念事業として
計画され、共同研究、大型研究機器の集中管理等を目的とする)
、合同棟、フロンティア研究機構などの建物が、青く澄んだ空と、
周囲の緑を背景としてそびえ立っています。
左頁にキャンパスまでの交通案内と下にキャンパスの案内図が示されています。ぜひ一度、この美しいキャンパスを訪問され
市
都
園
田
長津田門
号
線
す
ず
か
け
台
駅
線
至
渋
大 谷
岡
山
・
大
井
町
ることをおすすめします。
国
道
2
4
6
光学トンネル
至
中
央
林
間
総合研究館
すずかけ門
歩行
東名高速
横浜インター
チェンジ2km
図書館分館
フロンティア
研究機構
者専
用
超高電圧電子顕微鏡室
資源化学研究所
精密工学研究所
像情報工学研究所
(R2棟)
応用セラミックス研究所
岡部門
大学会館
合同1号館
(J1棟)
設備センター
生命理工学部
テニスコート
合同3号館
(J3棟) トンネル
合同2号館
(J2棟)
大学院2号館
(G2棟)
大学院5号館
(G5棟)
大学院4号館
(G4棟)
大学院3号館
(G3棟)
平成27年度版 物理電子システム創造専攻パンフレット
東京工業大学大学院総合理工学研究科物理電子システム創造専攻 発行
平成27年4月1日
〒226-8502 神奈川県横浜市緑区長津田町4259
53
物理電子システム創造専攻へのお誘い
平成16年度まで密接な連携のもとに運営してまいりました物理情報システム創造専攻と電子機能システム専攻の2専
攻は、平成17年度に改組し、現在の物理電子システム創造専攻と物理情報システム専攻となりました。旧2専攻では材料・
デバイスから情報システムといった電子・情報技術を共に教育研究の対象とし、電気情報系をバックグラウンドとして物
理学、化学、応用物理学、機械工学、制御工学、情報工学などの幅広い分野を取り込んだ新しい学問領域を切り開く専攻
として、多くの卒業生を様々な分野に送り出してきました。その成果として近年、人間と情報の関わり合いを数理・物理
的に捕らえる情報システム分野は専門分野として定着し、一方では、ナノテクノロジーといった極微の物質の究極的性質
を駆使して、革新的な情報通信技術(ICT)の創出を目指す新しい材料・デバイス分野が起こってきました。このような
背景から2専攻を改組して、ナノサイエンス、量子・光技術を含む、先端的な電子情報通信ハードウェア技術を研究教育
分野としてカバーする物理電子システム創造専攻を創設し、新学問分野の創造を目指すことになりました。
物理電子システム創造専攻は、前身の物理情報システム創造専攻と電子機能システム専攻の「デバイス・材料系」教
員で構成されています。本専攻では、
旧専攻が築いてきた教育研究に関する資産を継承しつつ、
ICT分野を支える先端材料、
ナノテクノロジー、光デバイス、シリコン集積回路等の最先端材料デバイスの教育研究を行います。図は物理電子システ
ム創造専攻のコンセプトを示したものです。次世代のICT技術を創り出すためには、新しい材料の性質とその精密な制御
に関する深い物理的理解と最高水準の技術基盤が必要とされるのはもちろん、それらを基礎とした新しいコンセプトに基
づく光デバイス、電子デバイス、さらには生体を模したデバイス等の創造が求められてきています。さらに、個々のデバ
イスの機能を相互に連携・融合させ、システムとしての機能を発現させることが求められています。物理電子システム創
造専攻では、ICT分野における新材料の創造や新物性の探索、新しい光・電子・生体に関わるデバイス・システムの開発
において、一見多様に見える材料・デバイス分野を互いに “機能融合・集積化” させ、先進情報デバイス・システム分野
の創造と教育・研究を推進することを目的としています。
講座や講義構成は、様々な側面から新しいICT分野に取り組むことができる人材を育成することが可能な形になってい
ます。本専攻は、
「先端デバイス講座」と「新機能デバイス講座」の2つの基幹講座と、これを支援する5つの協力講座か
ら成ります。基幹講座の研究室に配属されても、協力講座の研究室に配属されても、学生のみなさんにとっては同じ条件
で、最先端のテーマによる研究を経験でき、必要な力を身につけることができます。また一方で、技術の細分化・専門化
が進行し、ともすれば全体を見わたすことが難しくなっているにもかかわらず、ハードウェアとソフトウェアの連携もま
すます重要になってきています。本専攻では、物理情報システム専攻と、講義や入試をはじめ密接な連携のもとに運営し
ており、材料・デバイス分野を中心にすえた上で、情報・システムなど他分野にわたる教育・研究内容を経験することが
可能です。
材料と物性
光、電子、磁性、誘電性、超伝導、ナノ構造新物性、融合新機能
材料を創る
機能融合・集 積 化
光で広げる
光デバイス
イメージングデバイス
光集積回路・システム
近接場光学とメモリ
Integration
電子を生かす
ナノデバイス 有機デバイス
生体に学ぶ
バイオセンサ
バイオデバイス
適応学習デバイス
知的情報処理デバイス
メゾフェイスデバイス
波動応用デバイス 集積回路・システム
1
本専攻の位置づけ
東京工業大学には、理工学研究科、生命理工学研究科、総合理工学研究科、情報理工学研究科、社会理工学研究
科の5つの大学院があります。物理電子システム創造専攻は総合理工学研究科に属しています。総合理工学研究科
は従来の大学院とは異なり、学部・学科から独立した研究科で、これまでの学問領域を超え、総合と創造に力点を
おいた創造大学院と位置づけられています。研究科固有の基幹講座、および研究所などの他部局から教育研究に参
画する協力講座とから構成されており、これらが相互に密接に協力しあう体制を保持しています。また、学外研究
組織との連携による連携客員教授制度を有し、博士後期課程の充実を図っています。
総合理工学研究科の11専攻の一つが物理電子システム創造専攻です。本研究科のある「すずかけ台キャンパス」
には3つの大学附置研究所、フロンティア研究機構があり、これらの組織の教員が協力講座として専攻の教育研究
の一翼を担っています。また、物理電子システム創造専攻は物理情報システム専攻と、入試・講義をはじめ密接な
連携のもとに運営しています。大岡山キャンパスの電気・情報系専攻とも協力体制にあります。
大学院
大岡山
理工学研究科
情報理工学研究科
社会理工学研究科
総合理工学研究科
生命理工学研究科
総合理工学研究科の専攻群
物質科学創造専攻
基幹
物質電子化学専攻
研究所等
すずかけ台
材料物理科学専攻
環境理工学創造専攻
人間環境システム専攻
資源化学研究所
創造エネルギー専攻
精密工学研究所
応用セラミックス研究所
フロンティア
研究機構
像情報工学研究所
化学環境学専攻
協力
物理電子システム創造専攻
メカノマイクロ工学専攻
知能システム科学専攻
物理情報システム専攻
すずかけ台キャンパスは、神奈川県
横浜市と東京都の接点に位置する、
自然豊かなキャンパスです。
2
講義科目と開講時期
物理電子システム創造専攻は、総合理工学としての学問的体系の新しい視点から、材料・デバイスの設計・製作か
らシステムにわたる広い視野と個別の深い専門を同時に身につけ、急速に進歩する “情報通信技術” を革新するナノ
材料、プロセス、極限情報デバイス、システムの研究・教育の先頭に立って活躍できる人材の養成を目指して、カリ
キュラムが組まれています。また、物理電子システム創造専攻と物理情報システム専攻では、密接な協力のもとに講
義を行っており、下記の表には、この2つの専攻に関する専門授業科目が、材料・デバイス系と情報・システム系の
2つの系に分類して記載されています。
履修に当たっては、一つの分野あるいは特定の学期に偏ることなく学習計画を立てること、前期、後期のどちらか
に偏ることなくバランス良く科目を取得することを推奨しています。
M前期
○光と物質基礎論Ⅰ(物電)
光と物質基礎論 Ⅱa(物電)
※Fundamentals of Light and
Matter Ⅱb(物電)
※先端機能材料光学(物電)
オプトエレクトロニクス
(物電)
イメージング材料(物電)
視覚情報処理機構(物情)
音声言語情報処理(物情)
光画像工学(物情)
医用画像情報学(物情)
波動マイクロシステム
(物情)
計算論的脳科学(物情)
人間情報学特別演習(物情)
仮想世界システム
(知シ)
先進情報材料特論(物電)
D後期
イノベーション工学マネージメント特論︵電電・指定科目︶
フォトニクス
○物理電子システム基礎論 Ⅰ(物電)
物理電子システム基礎論 Ⅱ(物電)
VLSI工学Ⅰ(物電)
※VLSI Engineering Ⅱ(物電)
高周波計測工学特別講義(物電)
脳の統計物理と並列計算(物情)
高機能VLSIシステム
(物情)
知的情報システム
(物情)
D前期
技術マネージメント特論︵電電・指定科目︶
材料・デバイス系
エレクトロニクス
感覚情報学基礎(物情)
超音波エレクトロニクス
(物情)
言語工学(物情)
音声認識と機械学習(物情)
◎★物理電子システム特論︵物電・オムニバス︶
情報・システム系
ヒューマン
インフォメーション
○先端物理情報システム論︵物情・オムニバス・指定科目︶
★知的情報資源の活用と特許︵物電︶
★物理情報システム特別講義第一・第二︵物情︶
情報システム
ディジタル信号処理基礎論(物情)
IT社会と情報セキュリティ
(物情)
VLSIシステム基礎論(物情)
画像解析論(知シ)
M後期
光通信システム
(物電)
記号の説明
◎必修科目 ○これらのうち2科目を履修する科目 ★非常勤講師科目 ※国際大学院プログラム科目も兼ねる (物情)物理情報システム専攻科目 (物電)物理電子システム創造専攻科目
(知シ)知能システム科学専攻科目 (電電)電気電子工学専攻
変更される場合があるので、年度ごとの教授要目を確認のこと
3
教員一覧
講座・分野名
先
端
デ
バ
イ
ス
講
座
集積機能デバイス分野
准教授 角嶋 邦之
教授 若林 整
電子デバイス
電子デバイス、集積回路、
ナノデバイス
知的システムデバイス分野
准教授 大見俊一郎
創造機能物質工学分野外部連携
連携教授 岡本 隆之
教授 梶川浩太郎
基
幹
研 究 分 野
職・教員名
集積化電子デバイス、半導体デバイス・プロセス
ナノフォトニクス、
プラズモニクス
プラズモニクス、
メタマテリアル、非線形光学、液晶
機能量子場分野
新
講 機
能
進化機能デバイス分野
座 デ
バ
イ
ス ナノ機能デバイス分野
講
座
創造情報デバイス分野
外部連携
准教授 伊藤 治彦
教授 浅田 雅洋
准教授 渡辺 正裕
教授 筒井 一生
アトムフォトニクス・ナノフォトニクス・量子機能デバイス・量子エレクトロニクス
テラヘルツデバイス、超高周波ナノエレクトロニクス・ナノデバイス
量子効果光電子デバイス、
ヘテロエピタキシャル成長
固体電子工学、
ナノ電子デバイス・プロセス技術
連携教授 加藤 隆志
有機材料化学、機能性色素、画像表示材料、
有機半導体材料
連携教授 町田 克之
集積化CMOS-MEMS技術、CMOSLSI技術、MEMS技術、異種機能集積化イン
技術、実装技術、異種機能集積化プラットフォーム
教授 半那 純一
光電変換・大面積電子デバイス材料、半導体薄膜物性、液晶性有機半導体材料、
イメ
イメージング材料講座
准教授 飯野 裕明
教授 宗片比呂夫
協 フロンティア物性デバイス講座
准教授 菅原 聡
液晶性有機半導体、
有機エレクトロニクス、
イメージングデバイス、
薄膜トランジスタ
固体物理(実験)、結晶工学、
スピントロニクス、光物性
半導体デバイス、
スピンデバイス、電子/スピン物性、集積回路
力
フォトニックシステムデバイス講座
教授 植之原裕行
光ルーティング、光スイッチング、光信号処理、光集積素子
教授 益 一哉
集積回路工学・半導体エレクトロニクス、RF-CMOS集積回路設計
講
座 知的電子システム講座
准教授 伊藤 浩之
教授 小山二三夫
集積回路工学、CMOS回路技術、無線通信機器
光エレクトロニクス、光通信ネットワーク、光インターコネクト、光マイクロマシン、面発
集積フォトニクス講座
准教授 宮本 智之
理研連携
4
連携教授 石橋 幸治
光エレクトロニクス、半導体光デバイス、面発光レーザ、量子効果構造
固体電子工学・ナノ構造作製プロセス、
ナノデバイス工学
所 属 ・ 居 室
5847
[email protected]
G2-1003
5594
[email protected]
J2-1204
5481
[email protected]
S2-20
G2-22
http://www.lsi.ip.titech.ac.jp/
J2-72
G2-33
5596
[email protected]
http://www.opt.ip.titech.ac.jp/
G2-1111
5459
[email protected]
http://www.ito.titech.ac.jp/
G2-23
[email protected]
http://www.pe.titech.ac.jp/AsadaLab/
G2-10
5299
03-5734-2564
G2-8
J2-1102
5454
[email protected]
http://www.pe.titech.ac.jp/WatanabeLab/
J2-71
J2-1103
5462
[email protected]
http://www.tsutsui.ep.titech.ac.jp/
J2-69
富士フイルム
(株)
R&D統括本部
光レーザ
http://www.iwailab.ep.titech.ac.jp/
メール
ボックス
G2-1005
G2-1107 大岡山南9-703
ージング材料
U R L
e-mail
S2-708
独立行政法人理化学研究所
タフェース
TEL
(045 )924-
0544-26-7672
[email protected]
G2-33
[email protected]
NTTアドバンステクノロジ ㈱
J1-205
5176
[email protected]
http://www.isl.titech.ac.jp/~hanna/
J1-2
J1-207
5181
[email protected]
http://www.isl.titech.ac.jp/~hanna/
J1-2
J3-1217
5185
[email protected]
http://www.isl.titech.ac.jp/~munelab/
J3-15
J3-1216
5184
[email protected]
http://www.isl.titech.ac.jp/~sugaharalab/
J3-14
R2-820
5038
[email protected]
http://vcsel-www.pi.titech.ac.jp/
R2-43
S2-408
5010
[email protected]
http://masu-www.pi.titech.ac.jp/
S2-14
S2-408
5010
[email protected]
http://masu-www.pi.titech.ac.jp/
S2-14
R2-603
5068
[email protected]
http://vcsel-www.pi.titech.ac.jp/
R2-22
R2-817
5059
[email protected]
http://vcsel-www.pi.titech.ac.jp/
R2-39
[email protected]
http://www.riken.jp/lab-www/adv_device/index.html G2-33
独立行政法人理化学研究所 048-467-9499
■博士前期課程(修士課程)の研究室配属について
●基幹講座の研究室、協力講座の研究室、併任教員の研究室でも同じ条件で配属します。ただし、年度によっては
配属できない研究室がある場合もあるので、専攻長に問い合わせて下さい。
●年度によっては外部連携(客員)教員の研究室には配属できない場合もあるので、専攻長に問い合わせて下さい。
外部連携教員の配属になった場合、外部連携先等の研究施設で主に研究を行う場合もあります。
5
大学院生活
■最先端研究テーマで研究の第一線に
本専攻に入学すると、各教員の研究室に配属されて、最先端の研究テーマを
通して高度な教育を受けることができます。一方で、物理情報システム専攻と連
携して構成される各分野のバラエティに富んだ講義によって、自分の研究テーマ
を進めるためのみならず将来に役立つバランスのとれた知識を養います。研究室
では各人が独立した研究者として研究の第一線に立つことになりますから、成果
によっては国内外の学会等で研究発表するチャンスがあります。実際、多くの先
輩たちが自らの研究成果を社会に発信して、それに対する社会の反応に感激し、
さらに自らを高めていっています。また、本専攻の教員は企業等との共同研究や政府等のプロジェクト研究も活発に行って
おり、在学中から社会の動きを感じつつ勉学を進めることができます。
■教員との交流、他の研究室との交わり
本専攻は、自分の指導教員からだけでなく、他の研究室の教員からアドバイス
を受けたり、研究上の協力を受けることができます。全く新しい研究をしようと
するとき、広い範囲の知識と技術を集積しなければ前進できませんが、エレクト
ロニクスに関する材料・デバイス系の第一線の教員が集まっている物理電子シス
テム創造専攻ではそれが行いやすい環境と雰囲気があるのです。入学直後のオリ
エンテーションから、全ての教員、他の研究室の学生と知り合う機会が作られて
います。このような多くの教員との触れ合いや、たくさんの仲間との交流は在学
中の生活面でも役立っていますし、卒業後も大きな財産になっています。
■構想発表会、中間発表会、そして学位論文発表会
学位を得るまでに専攻内で何度か研
究発表をしなければなりません。構想
発表会では「何をねらって」
「どのよ
うに」これから研究を進めようとする
のかを説明します。他分野の教員から
も質問やアドバイスがでます。中間発
表会は研究の進捗状況や困難な点を報
告して、他の研究室の教員から問題解決のヒントをもらったり、研究の軌道修正を受けたりします。学生諸君は発表内容の
充実と発表技法にも気を配っており、就職先の企業からも本専攻卒業生の発表技術の高さは定評があります。
■研究室生活
研究室は友達や先輩後輩と向き合う場でもあります。教員と同級生だけではな
く、研究面のさまざまな面倒を見てくれる助教や技術職員といったスタッフ、先
輩学生、後輩の学部学生、そして企業からの研究員などから構成されるのが研究
室です。全国の大学から学生は集まっていますし、留学生も多くいます。研究室
旅行、キャンパス祭である「すずかけ祭」
、スポーツ大会など楽しく潤いのある
大学院生活を送っています。
6
■博士後期課程と経済的支援
本専攻のカリキュラムは、博士前期課程(修士課程)から博士後期課程修了までを通して学ぶことを前提に構
成されています。博士後期課程まで進学し、社会の要請に十分応えられる実力を身につけることが望まれていま
す。修士1年次の終わり頃に進路指導を行い、修士修了後就職を希望するものには、就職指導を行います。なお、
修士課程、博士後期課程ともに、優秀な者については短縮修了制度があります。
大学院での勉学を経済的な不安なく行うために、多くの学生が日本学生支援機構をはじめとする各種奨学金や
日本学術振興会特別研究員(研究奨励金給付など)の制度を利用しています。ティーチングアシスタント(TA)
など講義補助を行って謝金を受ける制度もあります。また、博士後期課程学生に対して、授業料相当額を支援す
る制度があります。
■物理電子システム創造専攻 進学・修了のカレンダー
4月
修士1年
修士2年
博士1年
博士2年
オリエンテーション
中間発表会
オリエンテーション
博士3年
5月
6月
中間発表会
7月
8月
9月
10月
修了予備審査
構想発表会
11月
12月
進路指導開始
1月
論文準備
2月
論文発表会
3月
修了
構想発表会
論文準備
中間発表会
論文発表会
最終試験
修了
10月入学の場合は半年シフトします。
卒業後の進路
2014年度に博士前期課程(修士)を修了した学生の昨年の進
博士前期課程(修士)修了者(2014年度)の進路
路は右図に示すとおりです。博士前期課程(修士)修了者の多く
30
は電気電子関係または情報関係企業へ進んでおり、卒業生がこの
25
分野で活躍しています。また、機械・自動車関係企業、化学・材
料関係企業から報道や金融・商社まで、各分野に広く卒業生を送
り込んでいます。博士後期課程修了者に関しては、主に大学や研
究機関、企業の研究所等へ進んでいます。
21
20
15
13
10
10
5
1
2
1
その他
商社・金融関係
公官庁
化学・材料関係
機械・自動車関係
電気・情報関係
博士進学・研究生
0
3
7
入学試験案内と問い合わせ先
物理電子システム創造専攻は、同じく本学総合理工学研究科の物理情報システム専攻と綿密な協力の下に入学試
験を一本化した運営をしています。主にデバイス・材料系の教員が物理電子システム創造専攻に、情報・システム系
の教員が物理情報システム専攻に属します。
入学試験においては両専攻の区別はなく、受験者は出願の際に両専攻の教員の中から希望の教員を指導教員として
志望することができます。入学後は、配属先の指導教員の所属する専攻に所属することになります。
両専攻は学際的な教育・研究を指向していることから、電気電子・情報系、物理・応用物理学系、化学・応用化学
系、機械・制御系などさまざまな学科の出身者を受け入れています。このため、入学試験の専門科目では、受験者が
自らの履修学科目や専門知識をもとに選択して解答できるように配慮されています。また、入学試験では専門科目の
他に英語の試験として、専攻が認める外部テスト(TOEIC,TOEFL)の成績証明書を提出することが必要です。詳し
くは必ず募集要項で確認してください。
入試の詳細な情報については、東京工業大学入試課で発行する募集要項をお読み下さい。また、物理電子システ
ム創造専攻に関するさらに詳しい情報については、3月〜6月のすずかけ台キャンパスにおける専攻説明会・研究室
公開や専攻ホームページ(http://www.ep.titech.ac.jp/)を参考にされるか、9ページの入試問い合わせ先にお尋
ね下さい。なお、過去の入試問題の入手方法に関しては、専攻ホームページに記載されています。
また、博士後期課程入学については専攻長にお問い合わせ下さい。
■専攻説明会・研究室見学会のご案内
物理電子システム創造専攻と物理情報システム専攻の専攻説明会を以下の日程で行います。
第1回 3月28日(土)
全体説明
ポスター説明(各研究室)
研究室個別訪問
第2回 5月15日(金)(オープンキャンパス同時開催)
全体説明
ポスター説明(各研究室)
研究室個別訪問
第3回 5月16日(土)(オープンキャンパス、すずかけ祭同時開催)
全体説明
ポスター説明(各研究室)
研究室個別訪問
第4回 6月3日(水)
全体説明
ポスター説明(各研究室)
研究室個別訪問
最新の情報は専攻ホームページで確認して下さい。
8
■修士課程入学試験の予定(平成27年度入試・4月入学)
募 集 要 項
5月上旬発行
願 書 受 付
6月中旬〜下旬
選 抜 試 験
7月末〜9月初旬
合 格 発 表
9月中旬
※いずれも正確な日程は募集要項で確認してください。
※10月入学も可能です。詳しくは募集要項をご覧下さい。
■東京工業大学入試課
http://www.titech.ac.jp/entrance_information/index.html
電話 03-5734-3990
■入試に関する問い合わせ先
平成27年度専攻長
若林 整
教授
045-924-5594
[email protected]
045-924-5010
[email protected]
平成27年度専攻幹事
伊藤 浩之 准教授
物理電子システム創造専攻ホームページ http://www.ep.titech.ac.jp/
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物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
機能性界面の制御による
次世代電子デバイスの創出
角嶋 邦之
研究室(Kuniyuki KAKUSHIMA)
専門分野:電子デバイス
Home Page:http://www.iwailab.ep.titech.ac.jp
● 研究目的
●
今後の省エネ社会を実現するためには大規模集積回路を利用した高効率なエネルギー制御が必須になりま
す。そのためには高性能は半導体デバイスが必要になりますが同時にデバイス自身の消費電力を抑制する必
要があります。高性能・低消費電力の半導体デバイスを実現するためには新しいデバイス構造や新しい材料
を導入することが必要です。半導体デバイスは異種材料の界面の性質を利用して動作してきました。そのた
め、新構造や新材料の異種材料界面の潜在的に有する機能を最大限に引き出すことが高い性能を持つデバイ
スの実現に繋がります。本研究室では理想的な異種材料界面を実現するプロセスを考案し、デバイス試作を
通じて実証する研究を行っています。
尚、本研究室は岩井研究室と共同で運営をしております。
● 研究テーマ
●
超平坦な金属/半導体のショットキー界面の実現
ショットキー界面の電気特性は、界面における原子の結合が大きく左右します。これまで金属を堆積して熱
処理を行うことでシリサイド/シリコン基板界面を形成しておりましたが、良好な特性が得られる温度範囲が
狭いという課題がありました。そこで、シリコン基板との反応を極限まで抑えることが可能な NiSi2 を用いる
ことで超平坦界面を実現するプロセスを考案しました。この材料を用いることで高温の熱処理でも理想的な電
気特性が得られる特長があります。また、シリサイドの高い耐熱性から Ge や diamond など様々な半導体基板
に適用できます。
NiSi2を用いた場合Si基板との界面は原子レベルで平坦であり、高い耐熱性を有する界面が実現できます。界面反応が無いため、不純
物原子添加でショットキー障壁を制御できます。
10
界面制御に基づく抵抗変化型メモリの研究
高速に動作し、高いオン/オフ比が得られる抵抗変化型の二端子メモリデバイスの実現を目指しています。
現在までに誘電率の違いを利用した絶縁破壊と酸素イオンの働きに注目した陽極酸化による再酸化を利用して
104 を越えるオン/オフ比と1μ秒以下の動作速度を実現しています。
高い酸素イオン伝導を示すCeOx膜の抵抗変化型メモリとメモリ動作速度
ダイヤモンド半導体の伝導モデリングとデバイス特性の予測
ダイヤモンド半導体を用いたデバイスは、高電圧領域の電力変換に期待されていますが、キャリアのバン
ド伝導に加えてホッピング伝導が発現し、そのデバイス特性の予測は困難です。そこで、キャリア伝導のモ
デリングを通じて、デバイス特性の予測を行い、Si や GaN、SiC などと比較してダイヤモンド半導体が有利
となる電圧領域とデバイス構造の検討を行っています。
ダイヤモンド半導体のキャリア伝導のモデリングとp型JFETの特性予測
● 教員からのメッセージ
●
本研究室ではウェハレベルからスタートして加工プロセスを進めてデバイス試作を行い、電気測定に物理
分析、解析ソフトウェア開発に至るまで一貫して行います。探求的要素の強い研究内容になりますが、自由
な発想をもって世界トップのデータを出したいと考えております。
●参考文献
1. K. Kakushima, K. Tsutsui, S. I. Ohmi, Rare earth oxides in microelectronics Rare Earth Oxide Thin Filmes:Growth,
Characterization, and Applications, Topics in Applied Physics, Vol. 106, Springer, ISBN 978-3540357964, 2006, pp. 345-365.
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物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
シリコン・トランジスタ技術を基礎とした
低電力・高性能な知的システムデバイスの先行研究
若林 整
研究室(Hitoshi WAKABAYASHI)
専門分野:半導体デバイス,MISFET, ナノデバイス
● 研究の背景と目的
●
皆さんの身の回りの電子機器に用いられている、シリコン・トランジスタからなる集積回路(Integrated
Circuits: IC)は、
“Moore’s law” の通り、
“Scaling concept” に支えられて LSI(Large Scale Integration)
から VLSI(Very LSI)
、ULSI(Ultra LSI)へと進化し、さらに、Smartphone 等に搭載されている様に、
高周波通信素子や撮像素子(Image sensor)
、Motion sensor 等のインターフェース機能を、モジュールとし
て混載する“More than Moore” と呼ばれる領域へ、
応用範囲が急速に拡大しています。そこで当研究室では、
シリコン・トランジスタ技術[1-10]を基礎として、アプリケーションを意識した高集積・低消費電力・高性能
を目指した知的システムデバイスの先行研究を行います[1, 2]。
● 研究テーマ
●
現在でも世界最小のトランジスタの部類にあるゲート
電極長が 5 nm のシリコン CMOS[6-8]を含む様々な高性能
CMOS デバイス動作を実証した経験を基礎に、さらなる
高集積化・低消費電力化 ・高性能化に加え、多機能化
[9]
を目指した 先 行 研 究を行 います。 特に、右 図の 様 な
12
ET
また今後、研究領域をさらに拡大して行きます。
SF
造に関して考えて行きます。
MI
来の光電変換効率を凌駕することを目指し、材料や構
T
コン太陽電池に関する先行研究を行います。特に、従
0.7
Si
まず、エネルギー問題の解決策の一つとして、シリ
1.0
0.9
M
HE
先行研究
2.0
s
aA
2)シリコン・トランジスタ技術の応用に関する
4.0
InG
効率的にデバイス動作を実証して行きます。
− 2012 iedm
Open: pMISFET
Close: nMISFET
t
tes
La
がら、デバイス・シミュレーション等を駆使した上で、
6.0
the
Benchmark data 等も用いて、研究の意義を明確にしな
On resistance, Vdd/Ion [kohm−um]
1)ULSI用トランジスタ技術の先行研究
0.5
3
4
5
10
10
10
2
2
Power density, fCV = Vdd x Ion / Lg [uW/um ]
図 最近のシリコンMISFETの性能推移。縦軸に駆動時の抵抗、
横軸に駆動時の消費電力の面密度、赤は2012年12月にiedm
(the IEEE International Electron Devices Meeting)で
発表されたDataを示している。駆動時のエネルギー効率を
向上させるには、左下の方向へ研究を進める必要がある。
● 教員からのメッセージ
●
人と人との触れ合いや情報の交換に関する人類の欲求は高まるばかりで、集積回路技術に対する期待も
益々高まっています。そこで、その解決の一助となる様な実用的研究と将来を見据えた探索的研究について、
領域を柔軟に設定して研究を進めます。他方、2013 年 1 月 1 日に企業より赴任し、未だ研究室立ち上げの段
階ですので、筒井研究室及び角嶋研究室と強く連携して研究を進めます。
とても貴重な立ち上げの楽しい時間を一緒に過ごす学部/修士/博士の学生を募集しています!また共
同/委託研究も広く募集していますので、お気軽に御連絡下さい!([email protected]
226-8502 横浜市緑区長津田町 4259(G2-22)
、G2 棟 10 階 1003 号室、Tel/Fax: 045-924-5594)
●参考文献
1. Hitoshi Wakabayashi, More-than-Moore Devices based on Advanced CMOS Technologies (Keynote Address), 2012 Asia-Pacific
Workshop on Fundamentals and Applications of Advanced Semiconductor Devices (AWAD), June 2012, Invited.
2. Hitoshi Wakabayashi, CMOS-Device Technology Benchmarks for Low-Power Logic LSIs , G-COE PICE International
Symposium and IEEE EDS Minicolloquium on Advanced Hybrid Nano Devices: Prospects by World s Leading Scientists,
October, 2011, Invited.
3. Hitoshi Wakabayashi, SONY's outstanding work involving HK-MG on Silicon, 7th International Symposium on Advanced Gate
Stack Technology, SEMATECH, 2010, Invited.
4. S. Mayuzumi, H. Wakabayashi, et. al., High-Performance Metal/High-k n- and p-MOSFETs with Top-Cut Dual Stress Liners
Using Gate-Last Damascene Process on (100) Substrates, IEEE Transactions on Electron Devices, Vol. 56, Issue 4, 2009, pp.
620-626.
5. S. Mayuzumi, H. Wakabayashi, et al., Mobility and Velocity Enhancement Effects of High Uniaxial Stress on Si (100) and (110)
Substrates for Short-Channel pFETs, IEEE Transactions on Electron Devices, Vol. 57, Issue 6, 2010, pp. 1295-1300.
6. Hitoshi Wakabayashi, et al., Characteristics and Modeling of Sub-10-nm Planar Bulk CMOS Devices Fabricated by Lateral
Source/Drain Junction Control, IEEE Transactions on Electron Devices, Vol. 53, Issue 9, 2006, pp. 1961-1970, Invited.
7. 朝日新聞朝刊一面 Top「トランジスタ最小化に成功」,日本経済新聞夕刊他,「Sub-10-nm CMOS デバイスに関して」,
2003 年 12 月 8,9 日 .
8. 若林整,五十嵐信行,最上徹,「電子ビームリソグラフィーで作られた世界最小 5 nm トランジスタ」,集英社,イミダス
2006,2006, pp. 859.
9. Hitoshi Wakabayashi, Ganesh Shankar Samudra, Ihsan Djomehri, Hasan Nayfeh, and Dimitri A. Antoniadis, Supply-Voltage
Optimization for Below-70-nm Technology-Node MOSFETs, IEEE Transaction on Semiconductor Manufacturing, Vol. 15, No.
2, 2002, pp. 151-156, Invited.
10. Hitoshi Wakabayashi, et al., Sub-50-nm Physical Gate Length CMOS Technology and Beyond using Steep Halo, IEEE
Transaction on Electron Devices, Vol. 49, No. 1, 2002, pp. 89-95.
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物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
超高速・低消費電力 LSI 実現に向けた
新機能デバイスの創製
大見 俊一郎
研究室(Shun-ichiro OHMI)
専門分野:集積化電子デバイス、新構造半導体
Home Page:http://www.lsi.ip.titech.ac.jp
● 研究目的
●
超高速かつ低消費電力で動作する 3 次元ゲート CMOS と、フレキシブル集積回路応用に向けた有機半導体
CMOS などの新機能デバイスを創製する。
● 研究テーマ
●
1.超低コンタクト抵抗シリサイドの形成
Self-aligned silicide(SALICIDE)プロセス技術
はゲート電極上およびソース、ドレイン拡散層上に
自己整合的に金属シリサイド層を形成する技術であ
り、CMOS フロントエンドプロセスにおいてゲート
およびソース、ドレインの抵抗を低減するために重
要なプロセスである。CMOS における n + および p + シ
リコン層に同一材料系で形成可能で、さらに両者に
対して 10-9 Ω・cm2 以下の低コンタクト抵抗を具現化
することがシリサイドには 要 求され る。これまで
CMOS には耐熱性金属シリサイド中で最も抵抗率の
低い TiSi2 や CoSi2 などのダイシリサイドが用いられ
て き た。 し か し、2026 年 に は 3 次 元 構 造 を 有 す る
図1 PtSi/Si(100)界面の障壁高さ
MOSFET において、膜厚 5.3 nm でコンタクト抵抗
10-9 Ω・cm2 を有するシリサイド層の形成が要求され
ており、最先端の CMOS では Si の消費量の少ない
NiSi などのモノシリサイドが導入されている。
本研究室では、耐熱性に優れた PtSi に着目し、Yb
や Hf などの小さい仕事関数を有する金属との混晶化
プロセスおよび PtSi/Si 界面への不純物偏析プロセス
によるコンタクト抵抗低減に関する研究を行ってお
り、PtSi の n-Si および p-Si に 対 す る障 壁 高さを 0.2
eV に低減することに成功し、10-9 Ω・cm2 以下にコ
ンタクト抵抗を低減する可能性を示している。
(図 1、
図 2)
14
図2 PtSi/Si(100)界面のコンタクト抵抗
2.フレキシブル有機半導体デバイスの研究
近年、有機半導体材料の開発と様々なデバイス応用に
関する研究が盛んに行われている。有機半導体には、フ
レキシブル、軽量、低コストといった利点があり、有機
EL ディスプレイ、有機薄膜トランジスタ、太陽電池、メ
モリ素子などへの応用が期待されている。本研究室では
図 3 に示す有機半導体を利用したフレキシブル有機薄膜
トランジスタに関する基礎研究を行っている。有機半導
体の中でも高移動度であり、有機薄膜トランジスタ材料
として注目されているペンタセンを用いたトランジスタ
を作製し、低電圧動作、高移動度のデバイスを実現する
図3 有機薄膜トランジスタの構造
ための研究を行っている。
3.新構造3次元MOSデバイスの研究
現状のプレーナ形 CMOS 構造の微細化限界を打破する
ため、現在、縦型 MOSFET、Fin-FET、ダブルゲート
MOSFET など、3 次元構造を有する新しいデバイス構造
に関する研究が盛んになってきている。また近年、様々
な面方位の Si 基板上へ良好に SiO2 や Si3N4 膜を形成する
技術も確立してきているが、ゲート絶縁膜を介したリー
ク電流を抑制するために、より誘電率の高い high-k ゲー
ト絶縁膜の 3 次元構造上への形成が不可欠とされている。
本研究室では、3 次元構造の MOSFET の中でもゲー
図4 3次元構造MOSFET
トを 3 方向から制御可能な tri-gate MOSFET に着目し、
その基礎プロセスに関する研究を行っている。また、堆積した薄膜へのプラズマによるダメージが低く、良
好な高誘電率薄膜の形成が可能である ECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタ法を用いて、high-k
材料として有望な HfO xN y を 3 次元構造上に形成する研究を行っている。これまで、3 次元構造側壁部にも被
覆性の良好な HfOxNy 薄膜を形成することに成功し、SiO2 換算膜厚 0.5 nm を達成している。
● 教員からのメッセージ
●
自分で考えて自分で実験できる。そんな恵まれた環境の東工大・Si デバイス系で思いっきり研究を楽しん
でみよう。夢に見るくらい考え抜けば、君のアイディアが世界を変えるかもしれない。
●参考文献
1. Shun-ichiro Ohmi, Go Yamanaka and Tetsushi Sakai: Characterization of AlON Thin Films Formed by ECR Plasma Oxidation of
AlN/Si(100) , IEICE Trans. Electron., E87-C, pp. 24-29 (2004).
2. 岩井洋、大見俊一郎: 微細シリコンデバイスに要求される各種高性能薄膜 , 応用物理学会誌 , 69, No.1, pp. 4-14 (2000).
3. S. Ohmi and R. T. Tung: Effect of Ultrathin Mo and MoSix Layer on Ti Silicide Reaction , J. Appl. Phys., 86, pp. 3655-3660
(1999).
4. S. Ohmi and R. T. Tung: Silicide Formation in Co-Deposited TiSix Layers: The Effect of Deposition Temperature and Mo , J.
Electronic Materials, 28, pp. 1115-1122 (1999).
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物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
プラズモニクスによる
高効率光電子デバイス
岡本 隆之
研究室(Takayuki OKAMOTO)
専門分野:ナノフォトニクス、プラズモニクス
● 研究目的
●
金属が銀色をしているのはその反射率が可視域全域において高いからです。もちろん金属内部を光は伝搬
しません。しかし、金属の表面を光は伝搬します。この光は表面プラズモンと呼ばれており、金属中の自由
電子の集団的な振動と強く結びついています。近年、表面プラズモンをあつかった科学や工学はプラズモニ
クスと呼ばれています。当研究室では金属表面にナノ構造を導入することで光を表面プラズモンとして蓄積
したり、また、表面プラズモンから光としてエネルギーをとり出す技術を開発し、光電子デバイスへの応用
を行います。
● 研究テーマ
●
1.高効率有機EL素子の開発
有機EL素子は厚さが1µm以下の極薄の発光デバイスであり、
視野角依存性がなく、色表現の範囲が広いため液晶ディスプ
増強電場
レイを置き換える可能性を持っています。しかし、一方で生じ
た光エネルギーの 20% しか自由空間に取り出せていないため、
エネルギー利用効率は良くありません。これは光エネルギーの
大部分が金属陰極表面を伝搬する表面プラズモンに変換され、
金属
熱に変わるためです。私達は、金属表面にプラズモニック構造
と呼ばれるナノ構造を導入することで表面プラズモンを効率良
く光として取り出すことに取り組んでいます。
2.高効率有機太陽電池の開発
金属
有機太陽電池は安価に大面積の素子が簡単に作製できると
いう利点を持つので、次世代の太陽電池として期待されていま
す。有機太陽電池はエネルギーの流れは有機 EL 素子とは逆で
すが、その構造は基本的には同じです。相反則を考えると表面
プラズモンを活用することで、有機太陽電池の高効率化が可
増強電場
図1 伝搬型の表面プラズモン(上)と
局在型の表面プラズモン(下)。
能となります。有機太陽電池の活層の厚さは数 100nm 以下で
あるため、入射光は十分吸収されずに反射され、効率の低下を招いています。私達はプラズモニック構造を
用いて入射光を表面プラズモンへ変換し、活性層での吸収を増強することで、変換効率の向上に取り組んで
います。
16
有機 EL 素子
有機太陽電池
I
ナノ構造なし
I
ナノ構造あり
図2
透明電極
金属電極
透明基板
有機活性層
発光、太陽光
表面プラズモン
有機EL素子と有機太陽電池の基本的な構造。
プラズモニック構造を導入した場合、それぞれの素子で表面プラズモンが有効に活用されます。
図3 作製した有機EL素子、左が従来型の
素子で右がナノ構造を電極に付与した
素子。両者は直列に接続されてます。
● 教員からのメッセージ
●
プラズモニクスそのものはかなり道具に近くなってきています。皆さんの柔らかい頭でこの道具の斬新な
使い道を探して下さい。
●参考文献
1. 岡本隆之、梶川浩太郎、「プラズモニクス−基礎と応用」(講談社サイエンティフィク、2010).
2. 梶川浩太郎、岡本隆之、高原淳一、岡本晃一、「アクティブ・プラズモニクス ,」(コロナ社、2013).
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物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
光を巧みに操る技術:
プラズモニクスとメタマテリアル
梶川 浩太郎
研究室(Kotaro KAJIKAWA)
専門分野:プラズモニクス・メタマテリアル・非線形光学
Home Page:www.opt.ip.titech.ac.jp
● 研究目的
●
光を貯めたり、加工したり、好きなように伝搬させたり放出させたりする技術が注目を集めています。こ
れらは、表面プラズモンという金属中の電子波を使えば可能となります。私たちは表面プラズモンを巧みに
操った光学技術、プラズニクスやメタマテリアル技術の開発を行っています。
● 研究テーマ
●
1.表面プラズモンとは?
金属中の自由電子波(プラズマ波)は光と相互作用することはりませんが、図 1 に示すように表面やナノ
粒子では光と相互作用するモードが存在します。これが表面プラズモン(表面プラズマ波)です。特殊な分
散関係を持つため、表面プラズモンの励起には工夫が必要ですが、逆にこれを利用して、光を自在に、そし
て巧みに操る「からくり」をつくることができます。
それでは、
「からくり」の例をあげてみましょう。分子サイズのレーザー、それらをつなぐ数 10nm 程度の
太さの極細の光配線、同じ大きさのスイッチング素子がつくられてい
ます。また、SF 小説のような話かもしれませんが、物質を透明に見せ
る媒質を作成したり、100nm の厚さでも光や電磁波を完全に吸収でき
るフィルムが開発されたりしています。負の屈折率を持つ物質(メタ
マテリアル)をレンズに使えば、図 2 に示すように電子顕微鏡を使わ
ずにウイルスや DNA などのバイオ分子を生きたまま観察することがで
きるようになります。表面プラズモンは、このようなエキゾチックな
フォトニクスの世界を開く最先端のナノフォトニクス技術です。
2.ナノレーザー
図1 金属ナノ粒子や表面で生じる表面プ
ラズモン
レーザー光をつくるには、共振器中を使って光を増幅しなければな
りません。現在のレーザーでは共振器の寸法は、どんなに小さくして
も数ミクロンは必要です。これは、光が波であるためです。ところが、
最近、表面プラズモンを使えば、図 3 に示すような直径 10 ナノメート
ル程度の共振器が実現できるため、直径 100nm 程度のサイズのナノレ
ーザーが実現できることがわかってきました。これを使えば、ナノレ
ーザーを標識として用いて、蛋白質や DNA、ウイルスなどの検出や働
きを調べることができるようになります。また、光を使った微小で「光
速」な局所的な情報伝送を実現することができます。
18
図2 完全レンズを使った光学顕微鏡
レンズには屈折率が- 1のメタマテ
リアルを用いる。
3.プラズモニック黒体
「黒体」というと単に黒い物質のように
思われがちですが、極薄のフィルムで高い
吸収係数を持つ物質が開発できれば、太陽
光電池の性能を改善したり、光化学反応に
よる物質生産を高効率化したりすることが
できるようになります。一方、
「黒い物質
ほどよく光を放出する」というキルヒホッ
図3 2009年に発表されたプラズモニックナノレーザー
の構造
フの法則から、集積回路や電子回路から放
熱、真空中や宇宙空間への放熱など、熱的
なエネルギー循環をサポートする媒質にな
ります。さらに、高い効率を持つ赤外光の
光源の開発に貢献することができます。わ
れわれの研究室では、表面プラズモンやメ
タマテリアルを使った極薄の黒体の開発
や、その応用分野の開拓をしています。
図4 (a)プラズモニック液晶光双安定素子の構造
(b)応答特性 1mW/mm2以下の弱い光で動作する。
4.プラズモニック液晶光素子
ディスプレイなどに用いられている液晶は、固体と液体の両方の性質を持つ不思議な物質です。これを表
面プラズモンと組み合わせることにより、図 4 に示すような、電気を一切使わない、光による光の制御を実
現できます。2 次元的な光制御が可能であるため、空間変調素子やイメージ(画像)プロセシング素子への
応用が可能です。光のみで動作するメモリ効果も持つ光双安定素子の開発に成功しており、これを利用した
2 次元フリップフロップ素子や加算器などの開発を行っています。
5.高感度ホログラム材料の開発
ワイトバンドギャップ半導体結晶を用いて従来のフォトリフラクティブ材料では、両立することができな
かった高い記録感度とメモリ性を併せ持つ新しいホログラム記録材料を開発しています。これが実現できれ
ば、記録用超高密度光メモリを実現することができます。
● 教員からのメッセージ
●
私たちは広い分野を研究対象としていますのでメンバーの専門分野は様々です。皆さんの得意なそれぞれ
の分野で個性を発揮してもらっています。
●参考文献
1. 岡本隆之,梶川浩太郎「プラズモニクス 基礎と応用」(講談社サイエンティフィク)
2. T. Yamaguchi, H. Okawa, K. Hashimoto, M. Shimojo and K. Kajikawa, Phase of the electric field localized at surfaceimmobilized gold nanospheres determined by second-harmonic interferometry , Phys. Rev. B, 83(8), 085425 (2011).
3. Pham Tien Thanh, Daisuke Tanaka, Ryushi Fujimura, Yoidhi Takanishi, and Kataro Kajikawa, Low-Power Al-Optical Bistable
Device of Twisted-Nematic Liquid Crystal Based on Surface Plasmons in a Metal-Insulator-Metal Structure , Appl. Phys.
Express, 6, 011701 (2013).
4. Kotaro Kajikawa, Yusuke Nagai, Yuichi Uchiho, Gopakumar Ramakrishnan, Nishant Kumar, Gopika K. P. Ramanandan, and Paul
C. M. Planken, Terahertz emission from surface-immobilized gold nanospheres , Opt.Lett.37 (19) 4053-4055 (2012).
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物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
ナノ量子フォトニクス
伊藤 治彦
研究室(Haruhiko ITO)
専門分野:アトムフォトニクス・ナノフォトニクス・量子エレクトロニクス
キーワード:原子操作・機能化、スピンクラスター制御、ナノ光相互作用
Home Page:http://www.ito.titech.ac.jp
● 研究目的
●
情報処理システムの高機能集積化が進み、ナノメートルを超えて原子スケールへのダウンサイジングが必
要となってきました。究極的には1個の原子で構成される素子に行き着きます。こうした極小の世界では従
来の電子・光デバイスの動作原理が破綻し、量子力学や近接場光学に則った原理で動作させなければなりま
せん。本研究室では、レーザ冷却技術とナノ寸法の局所的な光の場である近接場光を用いて原子を個別選択
的に制御し、原子の量子性やスピンを機能化したデバイスおよび近接場光の特性を生かしたナノ光相互作用
で動作するデバイスの開発に取り組んでいます。レーザ光に代わる次世代の光技術の担い手と期待されるナ
ノの光で科学の未来を描きます。
● 研究テーマ
●
1.ナノ空間をデザインする
原子を個別的に制御する空間を、ナノの光で創りだします。例えば、図1のよう
に、8個の格子点に配置した近接場光によって原子を力学的に閉じ込めます。こ
れまでに、シリコン基板を微細加工して、中央に原子捕獲用のナノスペースを有
する十字構造体を作製しています。図2に断面を示します。下方からレーザ光を
図1:近接場光格子
照射すると、斜面部のAu 層に沿って表面プラズモン-ポラリトン(SPP)が伝播し、
境界端面で近接場光が発生する仕組みです。原子の量子性を機能化する素子の
端緒として、量子ジャンプによって超高速動作する光子ゲートなどへ応用します。
図2:原子トラップ断面
2.原子を集める
光学トラップに原子を送り込んだり、原子レベルからナノ構造をつくったりするのに用いる近接場光レンズ
の開発を行います。シリコン微細加工によって作製した中空逆ピラミッド構造の底面微小開口の周囲に近接場
光を誘起し、入射原子を双極子斥力によって収束して出力します。レーザ冷却原子を用いると、数ナノメート
ルのスポットに集められることを数値シミュレーションによって確かめています。このデバイスでは、ド・ブロ
イ波のスクイージングという新しいコンセプトを用いるのが特徴です。図3にフォーカシングの様子を示します。
図3 原子のナノフォーカシング
20
3.スピンクラスターをつくってナノの光で制御する
回折限界を超えて超高密度光記録を行うために近接場光を利用します。1 nm2 以上の面密度で記録できる
ならば、人間の脳の容量に匹敵するといわれる 1 Pb/in2 ストレージの実現も夢ではありません。そのための
記録素子として、少数個の原子で構成したスピンクラスターの形成に取り組んでいます。レーザ冷却したア
ルカリ金属原子を光ポンピング法によってスピン偏極し、相互作用しにくい希ガス原子をコートした基板上
で自己組織化します。クラスター化に必要な多体衝突を起こさせるために、図4に示すエバネッセント光フ
ァネルを用いて入射原子の高密度化を行います。図5は、密度汎関数理論を用いて計算した 87Rb4 クラスタ
ーのスピン1重項状態と3重項状態の形状です。近接場光で1重項 -3 重項変化を起こす方法を開発します。
図4 エバネッセント光ファネル
図5 スピンクラスター4量体
4.ナノの光の幾何学特性を調べる
近接場光の発生は、物質形状に強く依存します。ナノスリットでは、端部に誘起された電気双極子モーメ
ントによって二重ピークの強度分布が得られるはずですが、急峻でな
いと明瞭さが失われます。このような幾何学的な性質をシミュレーシ
ョンと実験の両面から調べ、近接場光に所期の機能をもたせるにはど
うすればよいかを探求します。そして、ナノスリット構造に誘起した
近接場光による原子の高精度偏向(図6)や高空間分解検出などへ応
用します。また、有限差分時間領域法(FDTD)の高速化を図り、ナ
ノ光解析に適したシミュレーション技術を開発します。
図6 原子偏向器
● 教員からのメッセージ
●
本研究室で扱う多彩なテーマは、オンリーワンのキャラクターが強いものです。結果を出すのに時間がか
かるし、ときには新奇なものに対する強い抵抗があります。しかし、できそうにないことを実現する、それ
が科学の飛躍的な発展につながります。私たちと一緒に、誰もやったことがない先進的なテーマにチャレン
ジしてみませんか。
●参考著書・アーカイブ
サイエンス ZERO「ナノの世界に輝く光 - 近接場光」NHK オンデマンド,2010
ナノ光工学ハンドブック,2.8 節「原子への力学的作用」,11.1 節「原子操作」,朝倉書店,2002
ナノテクノロジーハンドブック,I 編創る,7.2 節「近接場原子光学パターニング」,オーム社,2003
光ナノテクノロジー,基礎編「光と原子」,応用編「ナノの光で原子を操る」,アドスリー,2005
科学立国日本を築く,第8章「光で粒子・分子・原子の動きを操る」,日刊工業新聞社,2006
近接場光のセンシンブ・イメージング技術への応用,第 11 章「近接場光を用いた原子の制御と検出」,シーエムシー出
版 2010
7. 解く!量子力学,講談社サイエンティフィク,2008
8. 解く!先端技術の量子力学,講談社サイエンティフィク,2010
1.
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物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
半導体ナノ構造による
テラヘルツデバイスの研究
浅田 雅洋
研究室(Masahiro ASADA)
専門分野:テラヘルツデバイス、ナノエレクトロニクス、ナノデバイス
Home Page:http://www.pe.titech.ac.jp/AsadaLab/Asada_Lab.html
● 研究目的
●
電波と光の中間にある約 0.1 ~ 10THz の周波数はテラヘルツ帯とよばれ、これまで未開拓な領域でしたが、
最近、超高速無線通信、イメージング、分光分析、物性・天文・生体などいろいろな分野にわたる計測など、
非常に幅広い応用の可能性が明らかになり、盛んに研究が行われるようになってきました。しかしながら、
テラヘルツ波を発生できる光源や検出器はまだ十分に開発されているとはいえない状況にあります。特に、
室温で動作するコンパクトな高出力・高効率の半導体光源や高感度・低雑音の半導体検出器は未だに実現し
ていません。本研究室では、半導体ナノ構造の中で生じる新しい現象を使って、テラヘルツ波を発生・検出
する微細デバイスやその集積回路の実現、さらにはそれらの応用展開を目指しています。これまでに半導体
電子デバイスで初めての室温テラヘルツ発振の達成や、それを使った無線伝送実験などを行ってきました。
● 研究テーマ
●
1.テラヘルツデバイス
テラヘルツ帯(あるいはサブミリ波帯、遠赤外)
とよばれる、周波数が 1THz 前後の領域は光と電
波の中間の未開拓領域で、半導体による光源で満
足なものはまだ存在しません(図 1)
。
ところが、この周波数帯が開拓されれば、超高
速通信・情報処理やイメージング、分光分析、計
測など非常に広い分野で種々の新しい応用が期待
されており、光源や検出器などのキーデバイスの
開発は必要不可欠となっています。
テラヘルツ帯の高性能な光源や検出器を実現す
るには、ナノメートルオーダーの半導体極微細構
造を形成し、電子の走行時間を大幅に短縮すると
ともに、ナノ構造に生じる新たな電子物性を用い
ることが有力な方法の一つと考えられます。
本研究室では、テラヘルツ波に対する半導体ナ
ノ構造の新しい現象の追求や、ナノ構造による高
性能テラヘルツ発振・検出デバイスの実現を目指
した研究を行っています。
本研究室では、最近、ナノ構造の一つである共
22
図1 半導体単体のテラヘルツ増幅・発振素子の現状。
現在、周波数1THz周辺には満足な光源がなく谷間になってお
り、テラヘルツギャップと呼ばれています。
鳴トンネルダイオードを用いて、電子デバ
イスで初めての室温テラヘルツ発振に成
功し、その周波数の最高値を更新してき
ました(図 2)
。現在、室温で 1THz を超え
る周波数を単独で発生できるのは共鳴ト
ンネルダイオードしかなく、テラヘルツギ
ャップを埋める素子として期待されていま
す。しかし、まだ出力が小さいため、高出
力化やさらに高い周波数での発振を目指
して研究を行っています。
図2 共 鳴トンネルダイオード(RTD)による、電子デバイスで唯一の
室温テラヘルツ基本波発振。素子構造(左)と発振スペクトル(右)。
このほかにも、周波数可変機能を持つ
発振素子やその集積回路など、新しいテ
ラヘルツデバイスを目指した研究を進めて
います。
2.テラヘルツ無線通信のための発振・
Bias Tee
受信素子、変調素子、集積構造
テラヘルツ波を用いることにより、数十
~百 G ビット / 秒の超高速無線通信が可能
となります。本研究室では、このような無
線通信応用を目指して、共鳴トンネルダイ
オードとショットキーバリアダイオードに
よるテラヘルツ送受信系(図 3)や光ファ
イバからの信号をテラヘルツ波に乗せる
新しい原理のテラヘルツ変調素子、およ
SM
コネ A
クタ
RTDとスロットアンテナ
MIMキャパシタ
SI-InP基板
GN
D
ボンディング
ワイア
寄生発振防止
抵抗(ビスマス)
RTD SBD
Si レンズ
図3 通信用に作製した共鳴トンネルダイオード(RTD)送信モジュール
(左)と、RTDおよびショットキーバリアダイオード(SBD)を用
いた送受信系(右)。
び、それらを集積したデバイスの研究を行
っています。
● 教員からのメッセージ
●
研究はテラヘルツという未知の分野で、物理現象の探索からデバイス作製・応用にまで及んでおり、それ
ぞれ実験あり理論あり。簡単ではないけれど、一歩先には今までになかった最高周波数のデバイスや新しい
現象がある。メンバーが協力しあって新しい発見やデバイス実現を目指していきたいと思っています。
研究室メンバーから一言:世界初のデバイスを作れるかも ?!(教員:作れます)/電子の気持ちがわかる
ようになるかも/研究するには最高の環境です/動作時間” 0” のデバイスを目指せ(教員:これは無理です)
/メンバーは個性派ぞろい/
●主な発表論文
1. 浅田雅洋,鈴木左文, 共鳴トンネルダイオード∼テラヘルツ波の実用光源への期待 応用物理 vol.83, pp.565-570, July
2014.
2. T. Maekawa, H. Kanaya, S. Suzuki and M. Asada, Frequency increase in terahertz oscillation of resonant tunnelling diode up to
1.55 THz by reduced slot-antenna length , Electron. Lett. vol. 50, pp. 1214?1216, Aug. 2014.
3. S. Kitagawa, S. Suzuki, and M. Asada, 650-GHz Resonant-Tunneling-Diode VCO with Wide Tuning Range Using Varactor
Diode , IEEE Electron Device Lett. vol.35, pp.1215-1217, Dec. 2014.
4. M. Asada and S. Suzuki, Room-Temperature Resonant-Tunneling-Diode THz Oscillators toward High Frequency and High
Functionality , International Symposium on Terahertz Nanoscience, Martinique/ France, Dec. 2014.
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物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
超ヘテロ結晶の創製と
量子ナノ構造光・電子機能デバイス
渡辺 正裕
研究室(Masahiro WATANABE)
専門分野:量子ナノ構造デバイス、ヘテロ結晶工学
Home Page:http://www.pe.titech.ac.jp/WatanabeLab/
● 研究目的
●
集積エレクトロニクスにおける革新的機能創出を志向する新デバイスコンセプトの提案と実証を主軸に研
究教育活動を進めています。金属・絶縁体・半導体など、性質が異なる複数の材料を接合したナノメートル
厚の積層薄膜、あるいは微結晶を形成する技術を創出するとともに、その新しく創り出された人工結晶(≡
ヘテロ ・ ナノ結晶)の中で生じる光及び電子の相互作用を支配する量子物性を駆使して、高度な情報処理や
エネルギー変換の極限機能を引き出す固体デバイス設計論の構築及び原理実証を行います。これらの活動を
通じて、未来社会を支えるエレクトロニクス・システム構築へ向けた学理と基盤技術の開拓に資するととも
に、次代を担う人材の育成に貢献します。
● 研究テーマ
●
1.超高集積・高速メモリ・スイッチングデバイス
超ヘテロ結晶を用いた共鳴トンネル素子では、強い量子閉じ込め効
果から、室温においても顕著な電流スイッチング特性を示す。この共
鳴トンネル構造に、量子井戸への電荷蓄積/放出現象を適切に組み合
わせて設計・構成すると、不揮発型メモリ素子が実現される。この素
子は極限的な微細化・集積化に適した構造と原理を有しており、将来
の極限集積メモリや高速三端子素子実現への基礎になると考えられ
る。本研究では、共鳴トンネル抵抗変化スイッチング素子を提案・作
製し、理論解析及び実験的な特性解明等に関する研究を行っている。
室温でメモリサイクルを示す提案
素子のI-V特性(実測)
(グラフ中左上の図は単体素子の
バンドプロファイル)
クロスポイント型集積構造(概略図:上,実際に
作製した構造の顕微鏡写真:下)
2.ヘテロ・ナノ結晶による革新的光機能素子
異なる種類の材料(半導体、絶縁体、あるいは金属)を接合させると、その接合界面に大きなバンド不連
続が形成され、そのポテンシャル障壁を利用して人為的に電子やホールを閉じこめて制御する量子井戸や、
24
電子の波の性質を利用した共鳴トンネルなどの量子現
象を活用することが可能となる。異種材料の接合技術
により、人工的な物性の設計自由度は飛躍的に拡大し、
これまでに考えられなかった革新的な機能デバイスや
学問分野が開けてくることが期待される。
■ シリコン集積サブバンド間遷移レーザ
量子井戸中に形成されたエネルギー準位間の光遷移
(≡サブバンド間遷移)は、間接遷移型で「光らない」
サブバンド間遷移レーザの構造概略図
半導体の代表格であるシリコンを用いても原理的に光
遷移が期待でき、しかもバンド内の電子 ・ ホールの応答
速度は高速であるため、シリコン LSI と集積可能な高
速応答レーザを実現するのに適したデバイス原理であ
る。本研究では、シリコンと積層結晶形成可能な異種
材料群を駆使して、可視~赤外の発光の可能性を有す
るレーザ構造を提案し、特性の理論解析や結晶成長・
素子形成技術に関する研究を行っている。近年、導波
路構造を形成するプロセス技術の開発に成功し、電流
注入発光特性の測定評価が可能となった。
Si量子井戸サブバンド間遷移レーザの伝導帯バンドプロファイル
と電子の存在確率(|ψ|2)
■ 量子ドット太陽電池
量子ドット構造は、量子閉じ込めに
よる禁制帯幅制御や、フォノン散乱制
御により薄膜太陽電池の変換効率を根
本的に増大させる基本原理を内蔵して
いる。本研究では、単結晶で構成可能
なシリコン量 子ドット超 格 子を用い
て、変換効率増大に関する原理実証、
および、セル構造の提案や素子構造形
成技術等に関する研究を行っている。
シリコン/CaF2量子ドット太陽電池の断面構造図
(左:透過電子顕微鏡による観察像,右:構造概略図)
● 教員からのメッセージ
●
根本原理からの自然現象理解と、人間の夢や社会・システムからの要請に基づく機能設計を創造的に邂逅
させる場、それがデバイス工学です。
●参考文献
1. M. Watanabe and T. Wada, Fabrication and Characterization of CdF2/CaF2 Resonant Tunneling Floating Gate Metal-oxidesemiconductor Field Effect Transistor Structures , 2008 International Conference on Solid State Devices and Materials
(SSDM2008), H-9-3, 1090-1091 (2008)
2. T. Kanazawa, M. Watanabe and M. Asada, Room temperature negative differential resistance of CdF2/CaF2 double-barrier
resonant tunneling diode structures grown on Si (100) substrates , Appl. Phys. Lett., 99 [9] 092101 (2007)
3. K. Jinen, T. Kikuchi, M. Watanabe, and M. Asada, Room-Temperature Electroluminescence from Single-Period (CdF2/CaF2)
Inter-Subband Quantum Cascade Structure on Si substrate , Jpn. J. Appl. Phys., 45, pp. 3656-3658 (2006)
4. M. Watanabe, T. Funayama, T. Teraji, N. Sakamaki, CaF2/CdF2 Double-Barrier Resonant Tunneling Diode with High RoomTemperature Peak-to-Valley Ratio, Jpn. J. Appl. Phys., 39 [7B] L716-L719 (2000).
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物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
新材料・新機能素子技術による電子デバイス:
ナノデバイスからパワーデバイスまで
筒井 一生
研究室(Kazuo TSUTSUI)
専門分野:電子デバイス、電子材料・プロセス、結晶成長
Home Page:http://www.tsutsui.ep.titech.ac.jp/
● 研究目的
●
シリコン大規模集積回路(LSI)からパワーデバイスまで、半導体電子デバイスは大きな進歩を遂げ、そ
れは将来にわたり我々の社会を支える高度な基盤技術です。本研究室では、新しい材料技術、デバイス技術、
プロセス技術によるブレークスルーの提案、ひいては技術のパラダイムシフトの誘導をめざして研究を進め
ています。研究テーマとしては、ロングレンジの独自の研究から、近い将来の明確なターゲットを産学連携
で推進するものまで、同時にとり組んでいます。また、これらの研究テーマの多くは、当専攻の岩井・角嶋
研究室、若林研究室等との連携で進めています。
● 研究テーマ
●
1.半導体パワーデバイスの高性能化技術
電力の制御に使われるパワーデバイスは、エネルギー・地球環境問題
の克服につながる大きな役割を担っています。当研究室では種々の半導
体によるデバイスの新技術の研究に取り組んでいます。
(1)AlGaN/GaN 系パワーデバイス
高性能パワーデバイス用半導体として窒化ガリウム系材料があり、
AlGaN/GaN のヘテロ界面に発生する二次元電子ガスをチャネルに使う
高電子移動度トランジスタ(HEMT)は高速パワーデバイスとして有望
です。パワーデバイスでは、オン状態での素子抵抗を徹底的に下げて低
損失化を図ること、また、オフ状態では高い耐圧と低い漏れ電流を維持
HEMT構造とコンタクト技術
することが必要です。
オン状態の素子抵抗低減には、ソース、ドレイン
のオーミックコンタクト電極の接触抵抗を下げる技
術の開発が重要であり、コンタクト形成のメカニズ
ムに立ち戻る観点からの研究を進めています。例え
ば、AlGaN 層への凹凸構造導入などの新技術も提
案し、有用性を明らかにしています。
GaNによる立体型トランジスタ:FinFET
さらに、将来技術として、トランジスタを従来の
平面構造から立体構造にして、AlGaN/GaN 系パワーデバイスの特性を飛躍的に高めることを目指した研究
も行っています。
(2)シリコンパワーデバイス(IGBT)
現在最も広く使われているパワーデバイスの一つは、半導体シリコンの絶縁ゲートバイポーラトランジス
26
タ(IGBT)です。そのため、IGBT の低損失化の追求は、インバータ等の電力変換システムの高効率化を
通して世界の省エネルギーに大きく貢献できます。当研究室では、IGBT のゲート部分をスケーリングの考
え方に基づいて微細化することによって格段に低損失な高性能 IGBT を目指す研究にシミュレーションと実
験の両面から取り組んでいます。
2.原子ホログラフィー技術による半導体中の不純物の3次元構造の解明
半導体に不純物をドーピングして p 形、n 形の導電性を制
御するのは半導体デバイスの重要な基礎技術ですが、デバ
イスの高性能化を果たすためには、この不純物ドープにも
Si MOSトランジスタの例
電気的活性不純物
ゲート
ドレイン
ソース
極限的な特性が求められます。デバイスの低損失化のため
に非常に高濃度の不純物ドープを行うと、不純物原子が半
導体結晶の格子構造にきちんと取り込まれず原子クラスタ
ー等を作り電気的特性が劣化します。しかしこのメカニズ
ムは充分に解明されていません。この課題解決を目指し、
高不純物
濃度領域
不活性な不純物クラスター
半導体中不純物の結晶中での配置構造
大型放射光施設(Spring-8)での光電子ホログラフィーなどの新しい手法を使い、不純物の 3 次元的な原子
配列構造を解明する研究を行っています。
3.シリコンナノ構造を用いた太陽電池
シリコンを直系ナノメートルのオーダーまで細くしたシリ
コンナノワイヤーは、電子から光まで多くのデバイス技術と
して関心が高まっています。当研究室では太陽電池への応
用を目指した研究を行っています。最も広く普及しているシ
リコンを用いながら従来の層構造から高密度のナノワイヤ
ー構造にすると発電効率の顕著な向上が期待されます。し
かし、ナノワイヤーの表面制御技術や、ナノ構造への不純
物ドーピングなど、実用化に向けて課題も多くあります。微
細トランジスタでの研究蓄積も基礎として、その克服に向
シリコンナノワイヤー太陽電池
けて研究を進めています。
● 教員からのメッセージ
●
新しい物を作り出す研究は思い通りには行かないことの方がずっと多いものです。常に自分の頭でよく考
え、ねばり強くとり組んでみてください。あるときそこから小さな、しかしわくわくさせるような輝きが見
えるときが来ます。研究はそういう非常に個人的体験である一方で、他の研究者との関わりのなかで自分の
活動と存在を形にしてゆく社会的な面があります。国内、海外の学会で自分の研究成果を発表する機会も多
くあります。これも自分の世界がひろがるエキサイティングな体験になるはずです。そしてそれらは、皆さ
んが将来社会で活躍できる大きな糧になります。
●参考文献
1. Y. Takei, et al., Reduction of Contact Resistance on AlGaN/GaN HEMT Structures by Introducing Uneven AlGaN Layers ,
Physica Status Solidi A, to be published(2015).
2. Y. Kobayashi, et al., Analysis of Threshold Voltage Variation in Fin Field Effect Transistors: Separation of Short Channel
Effects , Jpn. J. Appl. Phys., vol.49, 044201(2010).
3. K. Tsutsui et al., Activated Boron and its Concentration Profiles in Heavily Doped Si Studied by Soft X-ray Photoelectron
Spectroscopy and Hall Measurements , J. Appl. Phys., vol.104, 093709(2008).
4. 筒井一生,「よくわかる電子デバイス」,オーム社 ,(1999).
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物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
π共役分子の集合状態の制御による
新しい光電子機能性材料の開発
加藤 隆志
研究室(Takashi Katoh)
専門分野:有機材料化学
● 研究目的
●
π共役分子の集合状態を制御することで新しい機能を有する光電子機能性材料の開発を行います。分子集
合体における光および電子との相互作用に関する理解を深めて、
次世代の表示材料ならびにデバイス材料(有
機半導体)への応用を目指します。尚、当研究室は、半那純一研究室および飯野裕明研究室と密接に連携を
取りながら、専攻での教育、研究に取り組みます。
● 研究テーマ
●
1.色素分子の集合状態の制御
π共役分子として色素に着目して、その集合状態の制御を行っています。これまで、色素分子を特定の配
列に連結したモデル化合物を系統的に合成し、配列様式が光学的および電子的性質を大きく変えることを明
らかにしてきました。現在、結晶および液晶場の利用により色素分子の集合状態を制御して、新しい光電子
材料を開発することを目指しています。同時に、色素分子集合体の基礎的性質の理解および量子力学的な解
釈について取り組んでいます。
図1
色素モノマーの配列の違いによる吸収スペクトル変化(Ref 4)
(直線状(1a,1b)では長波長シフト化、サンドイッチ状(2)では短波長シフト化します。
図2
28
連結型メロシアニン色素の立体異性体比率による吸収スペクトル変化(Ref 2)
(溶媒極性によってsyn体とanti体の比率が変化し、吸収スペクトルが変化します。)
2.有機半導体材料の開発
インターネットとモバイル機器の普及により、デジタル情報を手軽に表示させる技術に注目が集まってい
ます。これまで、次世代ディスプレイ用材料として期待される 2 色性色素を開発してきました。現在は、次
世代ディスプレイに必要とされる有機半導体材料の開発を目的として、π 共役分子の薄膜を、均一、大面積
で簡便に作成する技術の開発に取り組んでいます。実用に耐える有機半導体材料が開発されるには、基本性
能、保存安定性、耐久性、素材安全性、製造方法、コストなど様々な関門を突破する必要があり、これら実
用的な観点から研究を行います。
図3
新たに開発したアントラキノン2色性色素(Ref 6)
(ゆらぎの大きなネマチック液晶中でも、高い秩序で配列する特徴があります。)
図4
有機半導体材料であるルブレン分子
(結晶状態で、高い移動度での電荷輸送ができます。)
● 教員からのメッセージ
有機化学は暗記ではなく、無限の可能性を秘めた研究分野です。π 共役分子は、多様な光および電子との
相互作用を持つ大変魅力的な機能性材料です。大発見の期待を胸に、新しい光電子機能性材料の開発を一緒
に考えていきましょう。
●参考文献
1. 加藤隆志 , 合成的アプローチによる色素会合体の機能制御 , 有機合成化学協会誌 , 59, 454 (2001).
2. Katoh, T.; Inagaki, Y.; Okazaki, R., Synthesis and properties of bismerocyanines linked by a 1,8-naphthylene skeleton. Novel
solvatochromism based on change of intramolecular excitonic coupling mode, J. Am. Chem. Soc., 120, 3623 (1998).
3. Katoh, T.; Ogawa, K.; Inagaki, Y.; Okazaki, R., Biscyanines linked by a 1,8-naphthylene skeleton: models of polymethine dye
aggregates, Bull. Chem. Soc. Jpn, 70, 2287 (1997).
4. Katoh, T.; Inagaki, Y.; Okazaki, R., Linear and stack oligostreptocyanines. Effects of relative orientation of chromophores on
redox potentials of dye aggregates, Bull. Chem. Soc. Jpn, 70, 2279 (1997).
5. K a t o h , T. ; O g a w a , K . ; I n a g a k i , Y. ; O k a z a k i , R . , E v i d e n c e f o r s p i r o c o n j u g a t i o n i n p e r p e n d i c u l a r l y - l i n k e d
pentamethinestreptocyanine dimmers, Bull. Chem. Soc. Jpn, 70, 1109 (1997).
6. 加藤隆志 ,「最新機能性色素大全集」,第 2 章,第 4 節「ゲストホスト液晶方式二色性色素」,技術情報協会(2007 年)(分担)
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物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
異種機能集積化技術による
次世代デバイスの創出
町田 克之
研究室(Katsuyuki MACHIDA)
専門分野:異種機能集積化技術、統合設計技術
CMOSLSI技術、MEMS技術、集積化CMOS-MEMS技術
Home Page:
● 研究目的
●
当研究室は、異種機能集積化技術の研究を行います。近年、LSI の研究開発の技術方向性のキーワードと
して、More Moore(微細化)
,Beyond CMOS(ナノ)
,More Than Moore(集積化)という三つがあります。
特に、More than Moore としての異種機能素子には将来性も含め大いに期待され、世界中で活発に研究開発
がされています。異種機能素子として MEMS やセンサなどが挙げられます。これらの素子と LSI など、あら
ゆる階層、あらゆる特徴のあるデバイスを融合することにより新機能のデバイスを実現すること、それが異
種機能集積化技術です。新たな産業の芽を創出するためにプロセス、回路、統合設計、実装と集積化に必要
な要素技術を開拓構築することを目的とします。益一哉研究室、伊藤浩之研究室と密接な連携のもとに研究
推進いたします。
● 研究テーマ
●
●異種機能集積化技術における
統合設計技術に関する研究
CMOS と MEMS が融合することにより同
じ環境でシミュレーションできることが大き
な鍵です。これを統合設計技術と呼びます。
当 研 究 室 で は、CMOS 回 路 設 計 環 境 で
MEMSデバイスがシミュレーションできる統
合設計技術の研究・構築を実施します。これ
までに MEMS のモデル化などその実証をし
てきています 1)。MEMS デバイスの機能向上
を追究すると共に CMOS との融合により異
種機能素子の集積化が容易に実現できるよう
にしたいと思っています。一例として、コル
ピッツ発振回路の Si 共振子に本手法を適用
図1 回路シミュレータを用いたCMOS-MEMS統合設計技術
固定電極
した回路図と過渡解析の結果を発振回路と
組み合わせた解析結果を図 1 に示します。本
加速度センサ
可動錘
バネ
結果から、構築した統合設計技術が有効で
あることを確認しました。
金めっき
MEMS構造
CMOS LSI
図2 集積化CMOS-MEMS加速度センサの概念図
30
●集積化 CMOS-MEMS 加速度センサ技術に関する研究
当研究室では、集積化 CMOS-MEMS 技術の研究対象として、集積化 CMOS-MEMS センサの研究を行っ
ています。数多くの種類がある MEMS デバイスの中でも加速度センサは CMOSLSI で量産されるメモリに匹
敵するほど世の中で必要とされるデバイスです。今後、集積化により多軸化・高機能化・小型化が期待され
ています。当研究室では、図 2 に示す概念を提案し、その実現に向けた MEMS デバイスを研究しています。
統合設計のためのモデル化の研究を行うとともに試作を行い集積化 CMOS-MEMS 加速度センサの実現を確
認しました 2, 3)。図 3 は、アレイ型 MEMS 加速度センサの試作結果を示しています。さらに、MEMS 加速度セ
ンサの極限デバイスを研究しています。具体的には、1G 以下の測定を可能にするデバイス(無重力空間での
測定や高精度地震計用など)の実現をめざし、世界で初めて高分解能の 1G 以下の MEMS 加速度センサの実
現に成功しました 4)。
(a)チップ写真
(b)アレイ型加速度センサSEM写真
(c)加速度センサ拡大図
図3 試作したアレイ型MEMS加速度センサ
●エナージーハーベスティングデバイス技術に関する研究
センサネットワーク時代に向けて環境エネルギーを用いたデバイスの研究開発は活発に行われています。
すなわち、エナージーハーベスティングデバイスです。当研究室では、集積化 CMOS-MEMS 技術の観点か
ら本デバイスの研究を進めています。
●次世代デバイス技術に関する研究
当研究室では集積化 CMOS-MEMS 技術をドライビングフォースとして、THz 級デバイス、超微小ナノ機
械デバイス、
次世代医療・バイオ応用デバイスの研究にも取り組んでいます。CMOS 回路という “知能” を様々
なデバイスと融合することで、これまでにない革新的な技術・価値を生み出す意欲のある学生を歓迎します。
なお、本研究に当たっては多くの研究者のご協力なくしては遂行できません。東工大のみならず、日本の
各大学の先生方や産業界の方々との連携により推進していく予定です。
● 教員からのメッセージ
●
本研究室の特徴は、MEMSデバイス、センサの設計、そのための回路設計技術など多義にわたった研究を行い
技術課題の抽出と新しい概念の創出にあります。実際には、益・伊藤研究室と密接な関係の下に研究するだけでなく、
他大学、産業界の方々との連携の中で研究を行うことになります。Dynamicな経験をしていただきたいと思います。
●参考文献
1. T. Konishi, et al., A Single-platform Simulation and Design Technique for CMOS-MEMS Based on a Circuit Simulator with
Hardware Description Language, IEEE/ASME J. Microelectromech. Syst., vol. 22, no. 3, Jun. 2013, pp. 755-767.
2. D. Yamane, et al., An Arrayed MEMS Accelerometer with a Wide Range of Detection," in Proc. 17th Int. Conf on Solid-State
Sensors, Actuators and Microsystems (Transducers 2013), Barcelona, Spain, Jun. 16-20, 2013, pp. 22-25.
3. T. Konishi, et al., "Novel Sensor Circuits Design using Multi-physics Simulation for CMOS-MEMS Technology," in Proc. 2013
Int. Conf. on Solid State Devices and Materials (SSDM 2013), Fukuoka, Japan Sept. 24-27, 2013, G-4-2.
4. D. Yamane, et al.,"Design of sub-1g microelectromechanical systems accelerometers,"
Applied Physics Letters, Vol. 104, Issue 7, 074102, Feb. 2014.
【2014 年(1 月- 12 月)成果報告】32 件:
国
際誌原著論文 5 件,招待講演 1 件,国際会議 7 件,国内会議・シンポジウム 19 件
【2014 年プレスリリース】7 件:日経産業新聞,日刊工業新聞など
31
物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
情報技術のための新しい機能材料の開発と
イメージングデバイスへの応用
半那 純一
研究室(Jun-ichi HANNA)
専門分野:有機・無機薄膜半導体材料、イメージング材料
Home Page:www.isl.titech.ac.jp/~hanna/
● 研究目的
●
半那研究室では、情報技術に用いる新しい機能性材料やそれを用いた新しいイメージングデバイスを開発
することを目的に研究を進めています。中でも、特に画像に関わる技術を中心に、情報の記録、記憶、表示、
複写などを行なう際に用いられる新しい材料やデバイスの開発を目指します。実験を通じて自然の仕組みに
触れながら、それを活用して新しい材料やデバイスの開発を進めるというのが基本的な取り組みです。材料
という視点に立ってものを考え、その開発に取り組むとともに、学問の発展に寄与できる新しい概念の創出
やアプローチの独自性が発揮された研究を目指しています。
● 研究テーマ
●
現在の研究テーマは新しい半導体薄膜材料の開発とその
イメージングデバイスへの応用です。具体的なターゲット
はガラス基板上に形成可能な高品質な多結晶 Si 系薄膜と液
晶性有機半導体材料です。
多結晶 Si 薄膜は、電卓の太陽電池や液晶ディスプレー用
の TFT に用いられているアモルファス Si の次世代を担う材
料として最も有望とされるもので、有機 EL ディスプレーや
小型液晶ディスプレー、次世代の高精細液晶テレビのなど
に用いる駆動用の TFT アレー、太陽電池などへの応用が期
待されます。この研究では、原料ガスの反応性に注目した
図1 プラズマCVDと反応性熱CVDにおける膜堆積の低温
化の原理と比較:反応性熱CVD法は加熱された基板
付近でのみ原料ガスの分解が起こるため、粉の発生を
抑制し、均一な大面積膜の堆積に有利となる
反応性 CVD 法という新しい概念に基づく薄膜材料の低温気
相成長技術を提案し、その考えのもとに、高品質なポリシ
リコン薄膜の低温形成を目指しています。この概念は、基
本的に、プラズマ CVD 法、熱 CVD 法などに適用可能で、
原 料 ガ ス に Si2H6 と GeF4 を 用 い た 反 応 性 熱 CVD 法 で は
450℃以下の低温で結晶性に優れた多結晶 SiGe 薄膜の堆積
に成功しています。堆積した 200nm の膜厚のポリシリコン
を用いた TFT の試作では、従来の低温 CVD によるポリシ
リコン膜では実現が困難であった 50cm2/Vs を超える高い
移動度を実現しています。最近ではこの考え方をプラズマ
CVD 法に適用した新たな取り組みや国家プロジェクトの支
援を受けて、太陽電池への適用を目指した反応性熱 CVD 法
32
図2 ガラス基板上に堆積した200nmのPolySiGe膜を用い
て作製したトップゲート型TFTの特性
従来結晶性が悪く困難であった直接形成の低温ポリシ
リコンが電子材料として適用可能であることを示す結
果である
による高品質な Ge 薄膜の成長技術の開発も進めています。
これらの研究は、通常、1000℃以上を必要とする結晶質 Si
をいかに低温で形成するかというチャレンジでもあります。
一方、液晶性有機半導体の開発では、これまで表示用材
料として身近な液晶物質を有機半導体に仕立て上げようと
いう研究です。液晶物質の電気特性は、これまで長い間、
その流動性のためにイオン伝導により支配されていると考
えられてきました。ところが、私たちの研究によって、液
晶物質は実用的に用いられる非晶質有機半導体に比べて
1000 ~ 10000 倍もの高速の移動度を示すことが明らかにな
りました。これは、液晶物質を用いて、発光素子(有機
EL 素子)やトランジスタ(有機 TFT)を作製できること
を意味しています。この研究では、液晶物質を自己組織的
に分子配向をもつ凝集体を形成する新しいタイプの有機半
導体、つまり、
「液晶性有機半導体」として位置づけ、結
図3 世界初の電子、正孔の高速の輸送が可能な液晶性有機
半導体と伝導のモデル図
晶類似の高品質な物性と大面積適用性を兼ね備えた新しい
有機半導体材料としての展開を目指しています。
図 3 に示す液晶液晶物質は典型的な棒状液晶物質の一つ
で、この物質を用いて、液晶物質中では電子と正孔の両方
が高速に輸送できることを世界で初めて実証しました。こ
れまで、図 4、及び、図 5 に示すように液晶物質を用いた
高速の光センサや偏光を発する EL 素子の試作を通じて、
液晶物質が高品質な有機半導体として応用できることを実
証しました。最近の成果では、液晶物質の多結晶薄膜を用
図4 C70を分光増感剤に用いた液晶性有機半導体高速光セ
ンサ:μsオーダーの高速の応答が観測される
いて、10cm2/Vs を超える高い移動度を示す薄膜トランジ
スターを実現しています。
現在、これまでの基礎研究を基盤として、素子機能に応
じた液晶性有機半導体材料の開発、素子作製のための要素
技術とプロセス技術の開発、有機 EL や太陽電池などのデ
バイス応用を進めています。
この研究はいずれも私たちの研究グループのオリジナル
な研究で、世界に先駆けて、低温 CVD 多結晶シリコンを
用いた TFT や液晶性有機半導体材料を用いたトランジス
タや有機 EL 素子の実用化を目指します。
図5 液晶性有機半導体を用いた偏光発光性EL素子
液晶分子の配向に沿った強い偏光が観測される
● 教員からのメッセージ
●
半那研究室では、物理系、電気系、化学系などのバックグラウンドの異なるそれぞれの学生、研究者が協
力しながら研究を進めています。新しいものを作り出すこと、新しい現象の発見、すべてがチャレンジです。
好奇心の旺盛な皆さんの研究への参加を歓迎します。
●参考文献
1. 半那純一:カラミチック液晶の有機半導体特性 −その特性と今後の展開―液晶学会誌 , 17, pp7-25 (2013).
2. 半那純一:非晶質から非「非晶質へ」−高品質な大面積半導体材料の開発に向けて−;応用物理 , 75, pp843- 851 (2006).
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物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
大面積イメージングデバイスを目指した
有機半導体材料・デバイスの開発
飯野 裕明
研究室(Hiroaki IINO)
専門分野:有機エレクトロニクス、イメージングデバイス
Home Page:www.isl.titech.ac.jp/~hanna
● 研究目的
●
情報の入出力に用いられるイメージングデバイスの実現を目指して、大面積の半導体薄膜を簡易な製膜プ
ロセスで作製可能な有機半導体材料の開発とデバイス応用の研究を行なっています。材料としては新しい有
機半導体である『液晶性有機半導体』に注目しています。液晶性有機半導体の材料開発、物性・電気特性評
価からプロセス開発、デバイス応用までを検討し、印刷プロセスを利用して、安価なプラスチック基板上に
フレキシブルで軽量なディスプレイや発光素子、光電変換素子等のイメージングデバイスの開発に取り組み
ます。
尚、本研究室は半那研究室と共同で運営しています。
● 研究テーマ
●
本研究室では材料の開発から基礎物性の評価、デバイス応用までを研究グループ内で一貫して進めています。
【1】液晶性有機半導体材料の開発
液晶性有機半導体とは、液晶性を示す有機半導体のこ
液晶性有機半導体
とです。液晶性とは液体のような流動性と結晶のように
O
分子が自発的に並ぶ特徴を有します(図 1)
。液晶ディス
プレイにはこの性質から導かれる光学的な特徴である複
(1分子に半導体部位と絶縁体部位を持つ)
屈折が利用されています。一方、半導体の性質を持つ有
機物質に液晶性を持たせた材料では分子が自発的に並ぶ
ため、配向性と秩序性をもった高品質の有機半導体薄膜
自己組織的に分子が凝集し、液晶相を形成
図1 代表的な液晶物質の分子構造と液晶相の凝集状態(スメク
チック相)。
を容易に作製することができることになります。また、
200
液晶性有機半導体は結晶薄膜としても利用可能です。こ
の研究では、有機トランジスタ、有機光センサ、有機 EL
は図 2 のように材料の電荷輸送特性や電極との界面特性を
1000
100
ることは、材料設計の指針を得る上でも重要となります。
この研究では、移動度の評価や界面特性の評価ばかりで
なく、その物理的理解を深めることを目指します。
34
10
1
50
0.1
0.1
電気的な測定を通じて明らかにする必要があります。また、
材料開発を進める上でも合成した物質の基礎特性を調べ
+20V
+15V
+12V
+10V
+8V
+6V
+5V
+4V
+3V
+2V
100
Current ( A)
開発した液晶性有機半導体をデバイスに応用するために
Current ( A)
【2】材料の基礎物性の評価
C10H21
S
Ph-BTBT-10
150
素子、有機太陽電池等への応用を目指した新規材料の開
発を行ないます。
S
SmE
0
0
0.5
1
1.5
1
10
Time ( s)
2
2.5
Time ( s)
3
3.5
4
図2 T
ime-of-Flight法による液晶物質の移動度の評価例。
Ph-BTBT-10は液晶物質の中で現在最も高い移動度を示す。
【3】プロセス技術の開発
材料をデバイスへ応用するためには、材料の薄膜形
成やパターニングが必要となります。液晶性有機半導
体は容易に有機溶媒に溶かして溶液にすることができ
るため、種々の塗布技術やインクジェット法を含む種々
の印刷法を適用することが可能となります。さらに、
液晶物質は適度な流動性と分子配向した均一な液晶薄
膜を結晶薄膜の前駆状態として利用することも可能で、
分子レベルで均一な結晶性の高い多結晶薄膜を溶液プ
ロセスであるスピンコート法により作製する技術の開
発に成功しています(図 3)
。今後は、インクジェット
法や印刷法を利用したプラスチック基板上への薄膜作
製技術の確立を目指します。
図3 溶 液から液晶相を経由して作製した液晶性有機半
導体の多結晶薄膜。表面形状を原子間力顕微鏡で
観測すると分子長に対応するステップしか観測さ
れず、非常に均一な膜であることがわかる。1
【4】デバイス応用
液晶性有機半導体は、従来の非液晶性の有機半導体
材料と同様、有機トランジスタ、有機 EL 素子、有機光
0.008
S
ことが可能です。最も、手短な応用は有機トランジス
タです。液晶薄膜を前駆状態に用いた結晶薄膜は均一
多結晶薄膜にもかかわらず、ボトムゲート・ボトムコン
0.5
D
0.004
0.002
機薄膜太陽電池への応用にも取り組んでいます。
● 教員からのメッセージ
●
本研究室で研究している有機エレクトロニクスは物
理、化学、電気の分野にまたがっており、様々な分野
の研究者が力を合わせて研究を推進しております。様々
11cm2/Vs
V =-30V
DS
タクト構造で移動度 10cm2/Vs を超す FET の作製に成
功しています。現在、有機 EL 素子、有機光センサ、有
10
-6
10
-8
10
-10
0
L=100 m
W/L=1
SiO 300nm
2
-30 -25 -20 -15 -10 -5 0
10
-12
Gate voltage V (V)
(A)
FET(電界効果トランジスタ)の伝達特性の一例です。
-4
D
性 有 機 半 導 体(Ph-BTBT-10) を 用 い て 作 製 し た、
(A )
有機トランジスタ用に当研究グループで開発した液晶
0.5
トランジスタを容易に作製することができます。図4は、
10
0.006
-I
性、表面平坦性に優れ、素子ごとのばらつきの少ない
C10H21
Drain Current I
S
センサ、太陽電池へなどの種々のデバイスへ応用する
5
G
図4 液 晶性有機半導体(Ph-BTBT-10)の多結晶薄
膜を用いて作製した有機FETの伝達特性。簡易な
溶液プロセスで作製した多結晶薄膜としては非常
に高い移動度(>10cm2/Vs)を有するトランジ
スタが実現でき、画像表示デバイスの薄膜トラン
ジスタ(TFT)として期待されている。
な分野に挑戦したい皆さんの積極的な参加をお待ちし
ております。
●参考文献
1. H. Iino and J. Hanna, Availability of Liquid Crystallinity in Solution Processing for Polycrystalline Thin Films Adv. Mater., 23,
1478 (2011).
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物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
スピンフォトニクス —電荷の先に見えるもの—
SPIN PHOTONICS — beyond charge-based electronics —
宗片 比呂夫
研究室(Hiro MUNEKATA)
専門分野:Applied Physics based on CMP*
Home Page:www.isl.titech.ac.jp/~munelab/
* CMP : Condensed Matter Physics
●
●
Backgroud and objectives
A hundred year ago, people used a printing press and black-and-white films to, respectively, mass-produce
documents and take pictures. The first fully-programmable computer was made using a mechanical system. X-ray,
hemadynamometer, and electrocardiography entered the stage of medical diagnosis. Telephone system was available,
yet wireless communication was about to be established. Nowadays, many of those instruments and systems become
highly effective by, some of them totally replaced by, the concepts born out from modern physics, in particular
electronics. Wouldn’t be exciting to imagine our life a hundred year from now, and think how we approach to this
heart-leaping problem? There are so many approaches to this endless, interesting, yet somehow distressful problem.
My approach is to study new behavior of electrons in electromagnetic fields in solids, and propose concepts of new
devices and applications which would lead us to a paradigm full of new knowledge and exciting ideas, and
consequently to the improvement of our life.
Modern electron-based devices rely on the motion of charges. When charge of electrons move in matters which
are full of atoms, they collide with the atomic network and yield heat. This is one of the fundamental limitations that
electron-based devices face nowadays; the faster move electrons the hotter get devices! This means we generate more
and more heat as far as we keep improving our life using the technology based on nowadays electronics. This is why
people in fundamental research have started looking into phenomena that do not involve the motion of charges,
before we face serious energy crisis in the future.
Spintronics is one of the candidate directions which people working in condensed matter physics have proposed;
My vision for electronics.
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The concept of a light-sensitive magnet.
it relies on quantized direction, up or down, of electrons and atomic nuclei. The past half-century has been devoted
primarily to build a framework in which spins and charge motions both participate. Thanks to this effort, knowledge
in spintronics has been materialized into the realization of ultra-high-density magnetic storage and development of
integrated non-volatile memory. At present, scientists worldwide are about to start building the second framework in
which spin information is input, processed, and output without the charge motion. To this end, I, with my colleagues,
am studying the way to manipulate spins in magnetic materials with light, kinds of high-frequency electromagnetic
waves of around 1015 Hz and higher.
Why use light? Firstly, it is mass-less so that it does not induce motion of a charge center**. Secondly, it
propagates very fast through the real space, e.g., c = 3.0 × 108 m/sec in the free space so that it can carry lots of
information. Thirdly, it has both non-local and local characters depending on its frequency. Forth, since fire became
a ground-breaking tool for our ancestors, light (an electromagnetic wave) has been and will be an indispensable
partner for human being to exploit our future. ●
●
** Momentum of light is ignored for simplicity.
Present research subjects
At the present stage, it is very important to pave the way toward establishing fundamental concepts of optical
manipulation of spins. A key is the spin-orbit interaction. In order to understand this interaction, we pursue
experimentally (i) how fast we can manipulate spins and (ii) to what extent the power of optical excitation can be
reduced to manipulate spins, and (iii) development of new materials to pursue (i) and (ii). Another important subject
is establishing fundamental concepts of devices for mutual conversion between light and spins; we study this with
(iv) circularly polarized light emitters/detectors and (v) spin-controlled optical waveguides.
●
●
Message from HM
We do both advanced materials science and advanced optical experiments. We need strong attitudes that we absorb anything
that is necessary to achieve something new. Intermixing heterogeneous backgrounds sometimes takes time but is very important
in science and technology. I love to work with those who like nature and see things from various angles. Discussions are very
important. In order to keep your eyes sensitive to phenomena that are new for you, your mind should be refreshed everyday. Do
you have your own way to refresh yourself? Visit our lab., the spin-photonics lab., if you wish to get in touch with us.
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物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
シリコン・スピンエレクトロニクスの研究
—電荷とスピンが生み出す新機能デバイスとその集積回路応用に関する研究—
菅原 聡
研究室(Satoshi SUGAHARA)
専門分野:半導体デバイス、スピンデバイス、電子/スピン物性、集積回路
Home Page:http://www.isl.titech.ac.jp/~sugaharalab/
● 研究目的
●
電子は “電荷” と “スピン” の両方による特徴を持ちますが、従来はこれらの一方のみに着目してそれぞ
れ半導体エレクトロニクス技術と強磁性体ストレージ技術に活用されてきました。本研究室では、スピント
ランジスタという “電荷” と “スピン” の融合が生み出す新しい機能デバイスを実現して、これまでにない新
しいエレクトロニクスの体系を創出することを目的として研究を進めています。特に、大規模集積回路の基
盤である高度に洗練されたシリコン・テクノロジーに立脚して、スピンによる機能を発現させる新しい材料
およびスピンによる機能を活用したデバイス・回路・アーキテクチャの開発・研究を行っています。
● 研究テーマ
●
1.新しい高機能スピン材料の開発(ハーフメタル強磁性体)
ハーフメタル強磁性体は一方のスピンに対して金属的なバンドを持ち、
他方のスピンに対して絶縁体的(ま
たは半導体的)なバンド構造を持つことから、フェルミ準位において 100%のスピン分極率を有する新しい
スピン材料です。本研究室ではシリコン・テクノロジーに整合する手法によって Si ベースのハーフメタル強
磁性体・フルホイスラー合金を作製する技術の開発を進めています。ハーフメタル性に特に重要な規則度の
極めて高いフルホイスラー合金の形成や、さらに、このような高品質のフルホイスラー合金を用いた各種接
合構造の作製やデバイス応用を進めています。
超高真空マルチチャ ンバー成膜装置
( 半導体・ 金属・ 酸化物・ 磁性体)
(d)
図1 (a)ハーフメタル・フルホイスラー合金の結晶構造( L21構造)とその形成方法。 (b)作製したフルホイスラー合金Co2FeSiの規則度。
(c)Co2FeSiトンネル接合の電子顕微鏡写真。(d)超高真空マルチチャンパー成膜装置(半導体・金属・酸化物・磁性体)
2.シリコンへのスピン注入とスピン伝導の評価
強磁性金属やハーフメタル強磁性体などを用いて、シリコンへのスピン注入やシリコンチャネル内でのス
ピン伝導の評価の研究を行っています。これらの物性はデバイス応用の観点から特に重要ですが、これまで
のところ完全には理解されていません。本研究室では磁気伝導評価のための新型デバイスを作製して、種々
の磁気伝導の観測からシリコンへのスピン注入とシリコンチャネル内でのスピンダイナミクスの評価を行
い、その理解と応用技術の開発を進めています。
38
図3 (a)磁気伝導評価デバイス
(b)スピンダイナミクスの評価
図4 スピンMOSFETのデバイス構造
3.スピン機能MOSFETの開発とその集積エレクトロニクスへの応用
本研究室で提案されたハーフメタル強磁性体によってソースとドレインを構成したスピン MOSFET とい
う新しい高機能トランジスタの研究・開発を進めています。スピン MOSFET の最大の特徴は、ソースとド
レインの磁化の状態に応じた不揮発な情報保持と再構成可能な出力特性です。この特徴を用いれば、高性能
な不揮発性メモリ/ロジックや、超低消費電力のパワーゲーティング・プロセッサ/ Soc などを実現するこ
とができます。本研究室ではこのスピン MOSFET の理論解析、ハーフメタル・フルホイスラー合金ソース/
ドレインを用いたスピン MOSFET の試作・評価、集積回路応用について研究を進めています。また、二端
子のスピンデバイスである強磁性トンネル接合(MTJ)を用いてスピン MOSFET と同等の動作を実現でき
る擬似スピン MOSFET とその回路応用についても研究を行っています。
(a)
(b)
(c)
図5 (a)擬似スピンMOSFETの回路図.
(b)擬似スピンMOSFETの出力特性(シミュレーション結果).
(c)擬似スピンMOSFETを用いた不揮発性SRAM/ラッチ回路
● 教員からのメッセージ
●
新しい研究分野を自分の手で開拓して行こうというフロンティア精神旺盛な学生諸君の参加を待っています。
学生の皆さんからのアイデアも大歓迎です。アクティブな研究活動を実践・エンジョイして下さい。
●参考文献
1. S.Sugahara, Y.Takamura, Y.Shuto, and S.Yamamoto, Field-Effect spin-transistor technology , Handbook of spintronics, edited by
Y. Xu, D. Awschalom, and J.Nitta, Springer, 2014.
2. 菅原聡,周籐悠介,山本修一郎,CMOS /スピントロニクス融合技術による不揮発性ロジックシステムの展望 ,まぐね/
Magnetics Jpn, 6(2011)5-15.
3. S.Sugahara and J. Nitta, Spin-Transistor Electronics : An Overview and Outlook , Proc. IEEE, 98(2010)2124-2154.
4. 菅原聡, スピン機能 MOSFET による新しいエレクトロニクスの展開 ,応用物理,78(2009)236-241
5. S.Sugahara, Perspective on Field-Effect Spin-Transistors , Physica Status Solidi C, 3(2006)4405-4413.
6. S.Sugahara, Spin Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistors (Spin MOSFETs) for Spin-Electronic Integrated Circuits ,
IEE Proc. Circuits, Device-Systems, 152(2005)355-365.
7. 菅原聡, スピントランジスタ ,電子情報通信学会誌,88(2005)541-550.
39
物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
超高速フォトニックネットワーク用光信号
処理システムと光集積デバイスの実現
植之原 裕行
研究室(Hiroyuki UENOHARA)
専門分野:光信号処理、光集積デバイス
Home Page:http://vcsel-www.pi.titech.ac.jp/
● 研究目的
●
光通信システムは長距離・大容量伝送用途として世界に張り巡らされ、インターネット・モバイルネットワ
ークのインフラとして必要不可欠です。しかしながら、信号当たり100Gbps、1 本のファイバ当たり1Pbps を超
え、周波数利用効率を向上するための多値変調・マルチキャリア変調方式や、必要な帯域に応じてシステムを
変更する技術、波形歪を歪量に応じて適応的に等化する技術が必須となっています(図 1)
。同時に、高密度集
積素子の活用で低消費電力を実現することが求められています。光信号処理技術は、波長多重信号の一括処
理や電気/光・光/電気変換の除去、低遅延性が期待でき、その実現を目指して取り組んでいます(図 2)
。
● 研究テーマ
●
電気処理の負荷を低減する光信号処理実現と、パケットルータなどの光ノードへの応用を目標として、光
ファイバの伝送により強度と位相の歪んだ信号を等化・再生する技術や、高速光信号の情報を解析するため
のラベル処理回路などを実現し、通信ネットワークの発展に貢献したいと考えています。行く行くは通信相
手と面と向かって会話するがごとく、高精細な映像をリアルタイムに双方向に通信する将来のフォトニック・
ネットワークを支える技術につなげていきたいと思っています。
多値変調信号を伝送すると、線形分散のみならず自己位相変調と呼ばれる強度に依存した位相変化が加わ
り、光ファイバの伝送パワーの上限を制限します。光の強度と位相の制御により簡易な構成で波形歪を補償
する技術の実現を目指しています(図 3)
。位相雑音を再生可能な非線形現象(四光波混合)を活用した全光
型信号再生器(図 4)
、位相変調に対応した全光誤り訂正符号化技術(図 5)
、光の位相と遅延干渉計を用い
て各ビットを分離する光シリアル・パラレル変換(OSPC)技術と半導体集積化(図 6)
、Si 細線光ノード(ス
イッチ・受信回路・変調器・波長合分波器)
(図 7)に取り組んでいます。また空間分割多重に対応する多次
元光ノードの実現(図 8)についても挑戦していきます。
● 教員からのメッセージ
●
楽しい研究生活を送りましょう!
●参考文献
1. H. Uenohara, and Y. Aikawa, A Bit Rate Adaptable Operation of a Hybrid Integrated Wavelength Converter using a
Semiconductor Optical Amplifier Type Mach-Zehnder Interferometer , Optics Letters, vol.38 , No.23 , pp.4982-4984 (2013).
2. K. Negishi, and H. Uenohara, Operational Performance of an Optical Serial-to-Parallel Converter Based on a Mach-Zehnder
Delay Interferometer and a Phase-Shifted Preamble for DPSK-Formatted Signals[A1] , IEICE transaction on Electron., vol.
EC96, No.7, pp.1012-1018 (2013).
3. Yusuke Naito, Satoshi Shimizu, Tomoyuki Kato, Kohroh Kobayashi, and Hiroyuki Uenohara, Investigation of all-optical latching
operation of a monolithically integrated SOA-MZI with a feedback loop , Optics Express, vol.20, No.26, pp.B339-B349 (2012).
40
図1 フォトニックネットワークの展開
図2 光信号処理技術とは?
図3 非線形歪補償技術
図4 位相感応型半導体光増幅器(SOA-PSA)
図5 全光処理による前方誤り訂正符号化技術
図6 低消費電力光ラベル処理構成の検討
図7 Si細線光ネットワークノード
図8 空間分割多重多次元光ノード
41
物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
高速・高周波集積回路から
Swarm Electronics へ -我々は変化を目指す-
益 一哉
研究室(Kazuya MASU)
専門分野:集積回路、アナログ回路、RF回路、無線通信システム、超高速信号処理
Home Page:http://masu-www.pi.titech.ac.jp
● 研究目的
●
我々のグループでは、これまで高速・高周波 Si CMOS 集積回路技術の開発、これらの応用としてのナノ
コミュニケータの研究を行ってきました。集積回路技術開発においては、ゲート長 8nm や 5.5nm の CMOS 集
積回路開発が視野に入っています。一方で、これまでの徹底的な微細化は、本当にこれまでのやり方で良い
のか、産業的に成立するのだろうかと云う課題に直面し、研究、開発、製造、そして応用の全てにおいて変化、
変革が求められています。我々のグループでは、徹底的な高性能集積回路技術の追及だけではなく、これか
らの方向性の一つである Swarm Electronics(群知能エレクトロニクス)への展開を目指しています。
具体的には、これまで推進してきた RF CMOS 無線回路技術/スケーラブル RF CMOS 集積回路技術、ワ
イヤレスセンサネットワーク応用を目指した極超低消費電力センサ・無線機能集積回路、これら異種機能集
積設計プラットフォーム構築に加えて、システム応用の研究を推進します。
● 研究テーマ
●
1.Swarm Electronics(群知能エレクトロニクス) ―これから目指す方向
あらゆるモノがネットワークに繋がり、それらが環境から情報を収集し、互いにコミュニケーションし始
めるとどうなるだろうか? モノが群として行動し始め、機能を産み出すようになる。集積回路技術はこの
ような世界で如何に進化すべきかを考えて、Swarm Electronics を定義してみました。①エネルギーは自給
する(Harvesting)
、②何か情報をとる(Sensing)
、③情報をやりとりする(Communication)
、③機能が出
現(Functionality/Intelligence)
。さらに Swarm Technology と考えると、アプリケーション/システムさ
らには社会への出口を考えた方向性となります。
2.リコンフィギュラブルGHz帯RF集積回路の研究・Scalable RF CMOS集積回路の研究
集積回路の加工寸法は 11nm(ゲート長 5nm)まで可能となる。さらに、それらを設計し動作させる技術
42
が必要である。集積回路は面積が縮小できるからこそ、技術的性能向上と経済的効率性が両立していた。極
限微細化の域に踏み込んだ集積回路技術において、個々のデバイス特性の揺らぎやばらつきを考慮、あるい
は排除した設計手法や技術の開発、設計期間短縮のための自動化などの課題がある。従来型の RF CMOS 集
積回路では、どうしてもインダクタやコンデンサなどの受動素子を多用するためプロセス世代が進展しても
チップ面積が縮小されず経済的に見合わなくなってきている。プロセス世代の進展とともに性能が向上し、
チップ面積も縮小可能な Scalable 設計が必須となる。Scalable RF CMOS によるマルチバンド / マルチモー
ド無線チップ、センサネットワークへの応用を目指したナノコミュニケータへ展開している。
小面積化可能なスケーラブルRF CMOS集積回路(低雑音増幅器、VCOなど)
3.Swarm Electronicsを目指した研究テーマ
Swarm Electronics を目指して以下の研究を推進しています。
①アプリケーション
センサネットワーク,電力マネジメント応用
②システム化技術
モジュールプラットフォームの開発(容易なシステム化インターフェース技術)
③回路技術
超低電力 RF 回路,センサンターフェース回路、電源回路、高速デジタル通信回路
④デバイス・集積化技術集積化技術:MEMS、センサ(磁気、pH、加速度、バイオ)
、次世代 THz デバ
イス、異種機能集積技術
⑤設計・計測
マルチ・フィジックス解析/統合設計環境構築、高周波信号測定技術
●現在、我々の研究グループは「ソリューション研究機構」に属し、
「Green
ICE Initiative プロジェクト」
を中心的に牽引しています。我々のグループには、ソリューション研究機構石原 昇教授、異種機能集積
研究センター後藤邦彦教授、精密工学研究所伊藤浩之准教授、山根大輔助教が在籍し、また町田克之連
携教授と協力して総合理工学研究科の大学院生とともに研究、教育に携わっております。
● 教員からのメッセージ
●
集積回路研究・開発における徹底的な微細化追及は、集積回路研究そのもの、研究開発体制、
産業構造の変化を必然的に求めるようになってきました。如何に変化すべきか、どのような
方向を目指すか? まさに我々は真っ白なキャンパスに好きな絵を描けます。この変化の時
代を如何に生きるか、如何に楽しむか? おもしろいですよ。
なお、我々のグループでは,博士課程進学予定者ならびに博士課程学生を RA(Research Assistant)と
して雇用する、奨学金や日本学術振興会の特別研究員になるよう積極的なサポートをするなど研究や勉学に
専念出来る体制を整えています。 是非、高い志を持って我々のグループに参加し、世界へ羽ばたいて下さい。
●参考文献
1. 益 一哉,天川修平,伊藤浩之,石原 昇,「RF CMOS 集積回路技術における挑戦」,電子情報通信学会誌 2011 年 5
月号,pp.427-432, Vol. 94, No. 5, 2011.(解説論文)
2. 石原 昇,天川修平,益 一哉, CMOS 集積回路と MEMS の融合 ,電子情報通信学会誌,vol. 93, no. 11, pp.928-932,
November 2010.(解説論文)(注目論文として紹介される.http://www.ieice.org/jpn/books/kaishikiji/2010/201011.pdf より
ダウンロード可能)
3. 益 一哉,「オンチップ伝送線路配線の期待と課題− True Scaling を可能とする次世代配線技術−」,電子情報通信学会
誌 , vol.91, no.3, pp.170-175, March, 2008.( 解 説 論 文 )( 注 目 論 文 と し て 紹 介 さ れ る.http://www.ieice.org/jpn/books/
kaishikiji/2008/200803.pdf よりダウンロード可能)
43
物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
実世界とサイバースペースを結ぶ
集積回路・ハードウエア技術の創出
伊藤 浩之
研究室
専門分野:集積回路、RF CMOS/MEMS回路技術、無線通信システム、
高速信号伝送技術
Home Page:http://masu-www.pi.titech.ac.jp
● 研究目的
●
実世界の様々な情報をサイバースペース(情報空間)で分析し実世界にフィードバックさせることで社会
システム最適化や社会課題解決を行う「サイバーフィジカルシステム(CPS)
」に関連するハードウエア技術
の研究を行います。サイバースペースの末端で実世界の環境情報を収集し実世界に働きかけるセンサ・アク
チュエータ端末技術や、実世界の様々なモノとサイバースペース間をネットワークで繋ぐための通信回路技
術を中心に、集積回路技術を基軸として研究開発を進めていきます。
集積回路・無線通信回路の分野では、そのアプリケーションや、新領域への展開も強く問われています。
本研究室では回路技術を研究しますが、その課題の本質を見極めていくためには、集積回路を使ってシステ
ムを構築するトップダウンの観点も必要と考えています。したがって、集積回路技術や端末ハードウエアの
研究はもちろん、それを使ったセンサネットワークや、益研究室と共同で Swarm Electronics の研究もコン
カレントに推進していきます。
※本研究室は、益一哉教授、町田克之連携教授、ソリューション研究機構 石原昇教授、異種機能集積研究センター 後藤邦
彦教授、精密工学研究所 山根大輔助教と同じ研究グループに所属し、学内外の先生方・研究者と密に連携しながら研究・
教育を進めています。
● 研究テーマ
●
1.サイバースペース末端ハードウエア技術・センサネットワークシステム
まずは実世界から環境情報を取得するためのバッテリーレスなセンサ端末ハードウエアと、それを活用し
たセンサネットワークシステムを中心に研究を進めます。端末ハードウエアの低コスト化・小型化・低消費
電力化とセンサネットワーク全体のセンシング性能向上の両立を目指し、集積回路技術を発展させるだけで
はなく、確率共鳴や群知能といった技術をセンサネットワークハードウエア・システムに展開して「量が質
を生むハードウエア技術」を研究していきます。
具体的なアプリケーションとして、
(1)本研究室の超低
電力トランシーバチップを活用した屋内モノ検索システム、
(2) 口 腔 内 pH セ ン シ ン グ シ ス テ ム、
(3) 集 積 化 CMOSMEMS 技術による加速度センシングシステム、
(4)細菌セ
ンシングシステムの研究開発を進めます。これらから得ら
れた知見をもとに、複数の環境情報のセンシングや、CPS・
Swarm Electronics へ展開していきます。
2.次世代通信回路技術
無線通信回路の消費電力・電力効率といった性能を桁で
44
小面積RFトランシーバ回路
改善するための技術を中心に研究開発を進めています。
(1 )超 低 電 力 R F 回 路 技 術
将来的に様々なモノに埋め込まれるセンサ端末は、バ
ッテリーレスで環境から電力を生成(環境発電)するこ
とが強く求められます。この時、センサ端末内の無線ト
ランシーバは、極めて低い電力・高い電力効率で通信す
る必要があります。本研究室では、数十マイクロワット
程度の消費電力で動作する RF トランシーバフロントエ
ンド回路や無線通信モジュールを開発しています。
(2 )M E M S 技 術 を 活 用 し た 新 奇 回 路 技 術
発振器といったトランシーバ要素回路の性能は受動素
MEMS素子(FBAR)を用いたデジタル制御発振器
子 特 性 の 影 響 を 強 く 受 け ま す。Film Bulk Acoustic
Resonator(FBAR)といった RF-MEMS 素子は CMOS
技術により作成した受動素子よりも桁違いに高い Q 値を
有しており、このような素子を用いることで極めて低い
位相雑音特性を有する発振器などが実現できます。現在、
MEMS 素子技術を活用した超低電力発振器や、共振器ミ
キサの研究開発を進めています。
(3 )高 速 信 号 伝 送 技 術
ハイエンドプロセッサ用のオンチップ高速信号伝送技
術や、低電力 DEMUX/MUX 回路技術、スーパーコンピ
ュータ用 40Gbps ボード配線技術、電磁放射を考慮した
有線通信技術、110GHz までの配線特性評価技術を研究
20Gbps 低電力DEMUX回路
しています。
● 教員からのメッセージ
●
集積回路や半導体について暗いニュースを耳にすることが多いと思いますが、世界的に目を向けると半導
体市場は年々拡大し、RF 回路研究者・技術者は様々な企業で必要とされています。さらに、集積回路の分
野は、発展の軸である微細化が終焉を迎えつつあり、大変革期の真っ只中にいます。これをチャンスと思え
る学生さんは我々の同士です。ぜひ一緒に新たな世界を開拓していきましょう。研究室の見学はいつでも大
歓迎ですので、気軽にご連絡ください。
●参考文献
1. Christian Enz (Editor), Andreas Kaiser (Editor), Hiroyuki Ito (Chapter 11), Hasnain Lakdawala (Chapter 11) and Ashoke Ravi
(Chapter 11), "MEMS-based Circuits and Systems for Wireless Communication," Springer Science+Business Media, ISBN 978-14419-8797-6, 2013.
2. Hiroyuki Ito, Makoto Kimura, Kazuya Miyashita, Takahiro Ishii, Kenichi Okada, Kazuya Masu, "A Bidirectional- and MultiDrop-Transmission-Line Interconnect for Multipoint-to-Multipoint On-Chip Communications," IEEE Journal of Solid-State
Circuits, Vol. 43, No. 4, pp. 1020-1029, April 2008.
3. Hiroyuki Ito, Hiroyuki Nakamoto, Masahiro Kudo, Nobuhiko Kobayashi, Masazumi Marutani, and Daisuke Yamazaki, Local
Quadrature Signal and Carrier Leakage Calibration Techniques for a Mobile-WiMAX Transceiver, IEEE Int. Conf. on Wireless
Information Technology and Systems, 2010
4. Hiroyuki Ito, Hasnain Lakdawala, Ashoke Ravi, Stefano Pellerano, Richard Ruby, K. Soumyanath, and Kazuya Masu, "A 1.7-GHz
1.5-mW Digitally-Controlled FBAR Oscillator with 0.03-ppb Resolution," the 34th European Solid-State Circuits Conference, pp.
98-101, 2008.
5. Hiroyuki Ito, Junpei Inoue, Shinichiro Gomi, Hideyuki Sugita, Kenichi Okada, and Kazuya Masu, "On-Chip Transmission Line
for Long Global Interconnects," IEEE International Electron Devices Meeting (IEDM), pp. 677-680, 2004.
45
物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
光ネットワークデバイスと光集積回路
小山 二三夫
研究室(Fumio KOYAMA)
専門分野:光 通信ネットワーク、半導体レーザ、半導体光集積回路、
光マイクロマシン、フォトニックナノ構造
Home Page:http://vcsel-www.pi.titech.ac.jp/index-j.html
● 研究目的
●
次世代光通信ネットワークを切り拓く新しい光デバイスの開拓を目指している。マイクロ/ナノ構造の光
共振器、光マイクロナノマシン、中空光導波路、スローライト導波路、サブ波長回折格子、金属ナノ構造な
どの新構造を用いて、高性能半導体レーザ、波長可変光素子、光信号処理デバイスなどの光機能デバイスと
その集積化の研究に取り組んでいる。
● 研究テーマ
●
1.面発光レーザフォトニクスと新機能集積
本学で生まれた面発光レーザの極限性能追求とその大規模集積化の
研究を進めている。将来の光通信ネットワークでは多数の波長の光を
自在に制御する波長多重化技術が重要になってくる。ここでは、半導
体の微細加工技術で光の波長の数倍程度の微小光共振器を作って、空
間的に異なる波長の半導体レーザを大規模に集積化するアレイ光源の
研究など多波長集積化の新技術に取り組んでいる。光の特徴を活かし
て、数百波の光を同時に扱い、現在の光通信システムの数千倍の大容
量光通信を可能とするデバイス技術の開拓を目指している。また、超
高速化の限界や、光信号処理デバイスへの応用などの研究を展開して
いる。
2. マイクロマシンによる新しい光デバイス
微小機械(マイクロ・ナノマシン)を半導体レーザに集積して、連
続的に波長を広範囲に掃引する機能や波長を自在に制御する新しい半
導体レーザの実現に取り組んでいる。例えば、微小な反射鏡を中空に
浮かせて、そこに電圧を印可することにより、静電力で鏡の位置を変
図1 多波長面発光レーザアレイ
数百波規模のレーザ集積化が可能に!
化させて波長を連続的に動かすことが可能である。また、熱応力によ
る微小アクチュエータを集積して、外部温度変化に対しても絶対波長の動かない新しい半導体レーザ “アサ
ーマル半導体レーザ” を世界に先駆けて実現している。
3.スローライト光導波路よる光制御
周期構造による特殊な光導波路を用いて、光の群速度、位相、遅延時間などを制御する新技術の開拓に取
り組んでいる。周期構造クラッド層を含むブラッグ反射鏡光導波路を用いることにより、光の群速度を大幅
に低下することが可能である。これによって、光変調器、光スイッチ、光増幅器、光検出器、光位相変調器
46
図2 マイクロマシンを集積した面発光レーザ外
部温度が変化しても発振波長変化しないア
サーマル動作と波長掃引動作を実現。
図3 結合共振器による面発光レーザの高速化
世界最速の変調帯域30GHzを実現。
図4 スローライト光導波路を用いた超小型光回
路とその集積化。光の群速度を1/10以下に
低下し、光集積回路の超小型に挑戦。
図5 スローライト導波路を用いた超高解像光ビーム掃引デバイス。
解像点数1,000を越える超高解像ビーム掃引を実現。
などの超小型光回路の実現を目指している。これまでに、光の群速度を 1/10 以下に低下した小型光変調器
や光検出器の実現に成功している。スローライト導波路を用いることで、巨大非線形効果や、巨大等価屈折
率など、これまでのバルク半導体材料では実現困難な特性が発現できる。超小型光スイッチ、超高解像光ビ
ーム掃引デバイスや面発光レーザとの機能集積に取り組んでいる。
4.中空導波路による巨大化変特性とその光回路への応用
超高反射率反射鏡を用いて光を真空や空気中に閉じ込める中空光導波路を用いて、光速度を自由に制御した波
長可変素子などから構成される新しい光集積回路の研究を進めている。波長数100nmに及ぶ巨大な光の可変特性
が可能になっている。波長可変レーザや立体光配線を可能にする光回路の研究に取り組んでいる。
● 教員からのメッセージ
●
大学院での研究を通じて、自らのポテンシャルをできるだけ高める不断の努力を! 具体的な研究課題を
通じて、“深く” 研究するとともに、他の学問分野にも “広く” 興味を持って、新しい分野を切り拓く気概を
持って研究を進めて欲しいと思います。
●参考文献
1. F. Koyama and M. Nakahama, Micromachined vertical cavity surface emitting lasers - athermalization, tuning and multiwavelength integration -", IEEE J. of Selected Topics in Quantum Electronics, Invited Paper, vol.21, DOI:10.1109/
JSTQE.2015.2389522, Jan. 2015.
2. F. Koyama, Advances and new functions of VCSEL photonics, Optical Review, Invited Paper, Vol. 21, No. 6, pp. 893-904, Dec.
2014.
3. F. Koyama and X. Gu, Beam steering, beam shaping, and intensity modulation based on VCSEL photonics, IEEE J. Select.
Topics on Quantum Electron., Invited Paper, vol. 19, no. 4, 1701510, Jul./Aug. 2013.
47
物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
次世代光エレクトロニクスに向けた
半導体光デバイス研究
宮本 智之
研究室(Tomoyuki MIYAMOTO)
専門分野:光エレクトロニクス、半導体光デバイス、面発光レーザ、
量子効果構造
Home Page:http://vcsel-www.pi.titech.ac.jp/
● 研究目的
●
本研究室では、面発光レーザなどの半導体光デバイスの高性能・高機能化と、その実現に必要なナノ構造・
量子構造や微細化技術の開拓、および、光デバイスの新応用創出など次世代のフォトニックシステムに関す
る研究を進めています。
● 研究テーマ
●
1.半導体・ナノ構造の光デバイス応用
光エレクトロニクス(フォトニクス)システムのカ
ギとなる半導体光デバイスの高性能化に向けて、半導
体材料とナノ構造について研究を行ってきた。様々な
発光波長の実現や、ナノ構造による材料レベルからの
光デバイス高性能化として、GaAs 基板上の高結晶歪
GaInAs 量子井戸構造や、結晶歪をもとに 3 次元ナノ
構造形成する自己形成 InAs 量子ドット構造(図 1)
、
また、これら構造への N や Sb の微量添加手法を開拓
した。さらに、電子技術との融合に向けて Si 基板上光
デバイスに用いる GaNP 系材料の発光を実現した。
1.00 µm
2.00 x 2.00 µm
図1 GaInNAs系自己形成ドットの原子間力顕微鏡(AFM)
像(左)と断面透過電子顕微鏡(TEM)像(右)。
point
defect
GaAs
2.量子効果構造による
光デバイス高性能化基盤技術
様々な半導体材料を原子 1 層単位で積層して、多様
な量子効果構造(ポテンシャル構造)を形成可能であ
る。単純な矩形量子井戸構造は、低消費電力化などの
優れた効果から既に半導体レーザや LED に実用され
ている。
Ga
In
GaInAs
図2 量子構造混晶化手法の原理。面内の目的位置に結晶欠
陥 を 導 入 し て 加 熱 し、 井 戸 層(GaInAs) と 障 壁 層
(GaAs)原子を相互拡散させる。
我々は、量子効果構造の高度化として、キャリアの波動関数の制御による光デバイスの特性向上や、量子
効果構造を結晶成長後に変形する量子構造混晶化技術の応用展開を検討している。量子構造混晶化とは、図
2 のように結晶成長で形成した異なる半導体材料界面を、後から原子の相互拡散により変形する手法である。
相互拡散する面内位置やその量を制御して、図 3 のようにポテンシャル構造を変形する。この手法は、光吸
収や光増幅の波長を面内の位置ごとに制御する手法として利用されているが、我々は、この量子構造混晶化
の物性や構造制御特性の解明を進めるとともに、キャリアのポテンシャル閉じ込めや、屈折率変化を利用し
48
た光閉じ込め、トンネル接合破壊による電流閉じ込
1.5
手法の高精度制御応用といった、光デバイスの新
規構造や特性向上手法への展開を進めている。
3.面発光レーザの高性能化
Energy [eV]
め、また、AlAs 選択酸化構造という微細構造形成
1.4
1.3
before diffusion
after diffusion
極低消費電力で 2 次元アレイレーザが可能な面発
光レーザ(東工大、伊賀健一名誉教授の発明)の
高性能化・高機能化を目指している(図 4)
。面発
光レーザは微小共振器で光を基板に垂直出射する
光デバイスであり、レーザマウスや光 LAN、レー
1.2
-40
-20
0
Position [nm]
20
40
図3 量子構造混晶化による量子井戸ポテンシャルの変形。結晶
成長時(実線)と混晶化後(点線)。
ザプリンタなど、広範囲で応用されている。今後、
電気配線に代わる光配線や各種光センシングシス
テム、高出力光源などのために、その性能向上が
求められている。
Light Output
p-GaAs/AlAs DBR
AlxOy Confinement
Insulator
p-Electrode
我々は、先に述べた光デバイス高性能化基盤技
術などにより、微小化や低消費電力化といった高性
能化を進めている。また、光システムの応用範囲の
Active Layer
拡大に伴い、様々な環境で利用するデバイスが必
要になる。そこで、従来の VCSEL の課題であった
動作温度範囲の制限を解決するため、量子井戸活
性層を最適化することで、これまでに温度差 269℃
の動作を達成した(図 5)
。さらに、VCSEL のエネ
ルギー関連応用への展開に向けて、VCSEL の特徴
n-GaAs/AlAs DBR
n-GaAs Substrate
n-Electrode
図4 面発光レーザ。極微小なレーザで通信、センシング、イメ
ージングなど多様な応用が進展中。
を生かした大規模高出力 2 次元アレー光源や、エネ
ルギー応用に重要な高効率化を進めている。
● 教員からのメッセージ
●
フォトニクスシステムには、多様な光デバイスが
必要です。光デバイスの高性能化・新機能創出には、
様々な原理を応用したデバイス機能のアイデアの
創出とその高精度設計(シミュレーション)
、また、
多様な製作プロセス開拓が必要です。本研究室で
は、実際のデバイスの製作・評価まで行うなど、最
図5 温度差269Cの範囲で動作するVCSEL。
新技術を活用したデバイスを「創る」研究を進め
ています。
●参考文献
1. Y. Higa, M. Sorimachi, T. Nishinome, and T. Miyamoto, "Well-in-well structure for high speed carrier relaxation into quantum
well," Jpn. J. Appl. Phys., vol. 50, no. 8, 080209, 2011.
2. T. Miyamoto, S. Tanabe, R. Nishio, Y. Kobayashi, and R. Suzuki, "InAs quantum dot growth on a thin GaNP buffer layer on GaP
by metalorganic chemical vapor deposition," Jpn. J. Appl. Phys., vol. 51, 080201, 2012.
3. T. Akutsu, T. Ushio, A. Matsutani, and T. Miyamoto, "Fabrication and characterization of VCSELs applying quantum well
intermixing using spin-on-glass," Physica Status Solidi, vol. 10(c), no. 11, p. 1452, 2013.
49
物理電子システム創造専攻
Department of Electronics and Applied Physics
ナノスケール構造の
物理と量子ナノデバイス
石橋 幸治
研究室(Koji ISHIBASHI)
専門分野:ナノデバイス、半導体工学
Home Page:http://www.riken.jp/lab-www/adv_device/
● 研究目的
●
本研究室では、量子物理学の基本的な原理である重ね合わせの原理や量子もつれ合いをナノスケール構造
で実現し、電子、スピン、励起子、光子などをコヒーレントに制御する技術の開発、およびそれにかかわる
新規物理現象の探索を行います。これによって量子コンピュータをはじめとする量子情報エレクトロニクス
の発展に資することを目指しています。量子的な原理を用いることはデバイスレベルでの究極の省エネルギ
ーをもたらすとも考えられます。そのために、半導体ナノワイアやナノカーボン材料、トポロジカル材料な
どの新規材料をナノスケールでハイブリッド化するプロセス技術や評価技術の開発も同時に行っています。
● 研究テーマ
●
1.単一スピンのコヒーレント操作
単一スピンのコヒーレントな操作は量子コンピュータの最
小単位である量子ビットの操作そのものです。量子ビットの
操作とは、1 個のスピンの初期化、コヒーレントな操作、そ
して読み出しからなります。コヒーレントな操作には電磁波
とスピンの相互作用を利用します。それは電子スピン共鳴そ
のものです。ただし、スピンを磁界で制御することはデバイ
スとして現実的ではないので、スピン軌道相互作用を介して
電界でスピンを操作する技術を開発しています。
2.量子ビットとマイクロ波共振器の量子的相互作用
の研究
図1 ナノワイア(NW)を用いた量子ドットデバイス
の電子顕微鏡写真
量子ドットは狭い領域に電子を閉じ込めているという点で
原子と似ていることから、人工原子とも呼ばれます。人工原
子において注目する量子準位が 2 つの場合は量子ビットその
ものです。原子と共振器の量子的な相互作用は共振器量子電
磁力学(Cavity QED)として量子光学の分野でよく知られ
ています。それを人工原子で実現することを目指しています。
人工原子のサイズは “自然の原子 “に比べて格段に大きいの
で、共振器中の電磁界と人工原子の間には大きな電気双極子
相互作用が期待できます。このことを利用すれば、共振器を
介して複数の量子ビット間で量子情報をやり取りすることも
可能です。
50
図2 マイクロ波コプレーナ回路共振器中のナノワイア
量子ドットの光学顕微鏡写真(下)とナノワイア
部の電子顕微鏡写真(上)
3.半導体ナノ構造・超伝導体ハイブリッドデバイスの新規物性の探索
超伝導体と正常金属を接合するとクーパペアーが正常金
属の中にしみこむ近接効果が知られています。このことは、
超伝導体と正常金属の界面で生じるアンドレーエフ反射と
して解釈されることもあります。正常金属を半導体量子ド
ットのようなナノな構造にした場合には、特殊なジョセフ
ソン効果やアンドレーエフ束縛状態などが生じることが予
想されています。また、正常金属としてスピン軌道相互作
用が強い 1 次元的な半導体ナノワイアとした場合には、素
粒子の世界に存在すると考えられているマヨラナ粒子が発
見される可能性も理論的に予想されています。マヨラナ粒
子を利用したコヒーレンスのきわめて良いトポロジカル量
子コンピューティングも理論的に提案されています。実現
には長い道のりですが、超伝導体とナノ構造をハイブリッ
図3 超伝導体/ナノワイア構造のジョセフソン効果とアン
ドレーエフ反射
ドしたデバイスの様々な物理現象を探索しています。
4.カーボンナノチューブ・分子ヘテロ接合を利用した高機能ナノ構造の作製と応用
カーボンナノチューブは直径が 1nm 程度しかなく究極の
微小材料です。それを用いて 2 重量子ドットなどの高機能
なナノ構造を分子スケールで作製するために、化学結合し
たナノチューブと分子のヘテロ接合を利用する技術を開発
しています。分子がポテンシャル障壁として働いたり、電
気分極を持つ分子を利用して閉じ込めポテンシャルをデザ
インすることも可能です。また、カーボンナノチューブは
光通信波長帯で発光します。そこで、量子ドットなどの超
微小ナノ構造の励起子物性や、そのコヒーレント操作につ
いても研究を行っています。
図4 カーボンナノチューブ/分子ヘテロ接合で作製したナ
ノ構造
● 教員からのメッセージ
●
研究は埼玉県和光市にある理化学研究所で行います。研究の背景となる物理は量子力学の基本的な事柄
ですが、それを実験で実証することは決して容易ではありません。ナノ加工で試料を作り、それを極低温ク
ライオスタットで 100 ミリケルビン以下に冷却し、直流、マイクロ波電気特性を測定します。作った試料が
期待通りに動作することはまずありません。それでもプロセスに改良を加え、測定装置を工夫し、何度でも
トライする辛抱強さと、なにより研究に対する熱意がなければ続きません。グループにはいろいろな大学か
らの学生、ポスドク研究員、研究職員、企業の人などいろいろな人がいます。決して楽ではない研究ですが
それを通して研究生活を楽しんでほしいと思います。
●参考文献
1. 青柳克信,石橋幸治,高柳英明,中ノ勇人,平山祥郎 共著「基礎からわかるナノデバイス」(コロナ社 2011 年)
2. Koji Ishibashi: Nanoelectronics (pp451-480) in Nanofabrication Handbook edited by Stefano Cabrini and Satoshi Kawata
(CRC Press, Florida, 2012)
51
東京工業大学
すずかけ台キャンパスへのアクセス
すずかけ台(旧 長津田)キャンパスへの最寄り駅は東急田園都市線すずかけ台駅(長津田駅より2駅目)です。す
ずかけ台駅よりすずかけ門までは徒歩3分、R2棟まで6分、J2棟まで8分、G2棟まで10分程度です。
すずかけ台駅へは、以下のルートによってアクセス可能です。
渋谷から
■ 所要時間 33〜45分 ■
東急・田園都市線(渋谷で東京メトロ半蔵門線と接続)ですずかけ台へ
40分
すずかけ台
普通
4分
長津田
28分
田園都市線
東急
渋谷
新横浜から
急行
普通
■ 所要時間 約20分 ■
JR横浜線 長津田で東急田園都市線に乗り換え、すずかけ台へ
快速 13分
田園調布
線
横
東
東
急
都市
線
渋谷
目黒
大岡山
東急目黒線
大岡山
キャンパス
東神奈川
川線
多摩
東急
菊名
新幹線
自由が丘
1
大井町
線
北
東
浜
京
川崎
京急線
羽田空港
アクセス情報およびキャンパス地図の詳細 http://www.titech.ac.jp/maps/suzukakedai/index.html
52
浜松町
田町
品川
東急
池上線
JR
東京
都営三田線・東京
メトロ南北線へ
直通運転
五反田
成田空港
日暮里
上野
東京メトロ半蔵門線へ
直通運転
大 旗の台
井
町
石川台 線
蒲田
本線
京成
新宿
代々木
JR 中央線
東京モノレール
武蔵小杉
新横浜
横浜
3
多摩川
梅が丘留学生会館
田園
藤が丘
JR南武線
松風学舎
松風留学生会館
青葉台
JR横浜線
3
長津田
2
すずかけ台
キャンパス
JR 山手線
二子玉川
東急
溝の口
2
すずかけ台
至藤沢
至立川
すずかけ台
中央林間
田園都市線
東急
横浜線
JR
普通
小田急線
町田
相模大野
長津田
新横浜
普通 15分
至八王子
至小田原
4分
1
田町
キャンパス