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日本麻酔科学会第62回学術集会
共催セミナーL14
The 62nd Annual Meeting of the Japanese
Society of Anesthesiologists
セッションタイトル
セボフレン・再発見
座長
順天堂大学医学部附属順天堂医院
麻酔科学・ペインクリニック講座 教授
稲田 英一
先生
神経発達とセボフルラン
防衛医科大学校
演者 麻酔学講座
佐藤 泰司
先生
血管平滑筋機能における
フォスファチジルイノシトール3-キナーゼの
役割とセボフルランの修飾作用
演者
日時
愛知医科大学病院
麻酔科学講座 教授
平成27年
木下 浩之
5月29日(金)
12:00-13:00
事前予約を
行っております
場所
先生
神戸ポートピアホテル南館
サファイア 第05会場
兵庫県神戸市中央区港島中町6-10-1
会員の方は会員HP(Datura)よりご予約ください。非会員の方の事前予約は行っておりませんので、ご了承ください。
共催 : 公益社団法人日本麻酔科学会/アッヴィ合同会社/丸石製薬株式会社
神経発達とセボフルラン
防衛医科大学校 麻酔学講座
佐藤 泰司
先生
セボフルランは、1990年にセボフレンとして販売が開始された当初より小児における使用が認められており、小
児麻酔の発展に多大な貢献をしてきたことは論を俟たない。ところがセボフルランを含む、現在臨床で用いられてい
るほとんどの麻酔薬が、発達期の脳に対して長期的な悪影響を及ぼすことが懸念されている。この小児麻酔の安全
性を揺るがすような問題は、
2003年に米国ワシントン大学のVesna Todorovic (現ヴァージニア大学)
等の報告
より始まった。動物実験の結果がヒトにおいても当てはまるのか未だに解っていないものの、現在ではマスコミにも
取り上げられる問題となっている。
我々自身もセボフルランの発達期の脳に及ぼす影響について研究を行ってきた。セボフルランは他の吸入麻酔薬
に比較して毒性効果はかなり弱いものの、生後6日目のマウスに6時間のセボフルランを曝露するだけで、成長後に
記憶・学習能力に障害が見られる。さらにこれらのマウスは顕著な自閉症様行動や、
出産しても育児がうまくできない
という異常も示す。このことは、発達過程における麻酔薬の使用が、記憶、学習だけではなく、情動、性格、人格、ある
いは本能行動へも影響を及ぼす可能性を示唆している。
このような発達期の脳における麻酔薬の神経毒性は、
どのような分子メカニズムで引きおこされるのであろうか?
現在、
多くの研究者は麻酔作用の特性という点に注目して研究を行っている。本講演ではこの点についてもう一度考
え直し、
新たな視点から問題の本質を考えてみたい。神経系は外部の情報を取り込む柔軟性と共に、
環境の変化に適
切に応答して状態を一定に保つ恒常性という二つの面を持ち合わせている。記憶・学習のような神経可塑性は柔軟
性の例であり、神経系の恒常性の乱れは高次脳機能異常につながる。これら二つの側面と発達期の神経発達メカニ
ズム、そして麻酔との関係を、我々の最新の実験結果を紹介しながら議論する。さらにその上で、小児麻酔の安全性
向上のために現時点で何ができるのかを議論する。
血管平滑筋機能における
フォスファチジルイノシトール3-キナーゼの役割と
セボフルランの修飾作用
愛知医科大学病院 麻酔科学講座 教授
木下 浩之
先生
フォスファチジルイノシトール3-キナーゼ
(以下PI3Kと略す)
は、多くの細胞内シグナル中に位置し、各種アゴニ
ストや薬剤の作用、代謝、免疫、発ガンなどに関与する。活性化したPI3Kは、PIP3、3-フォスフォイノシタイド依存キ
ナーゼ-1および-2を介してAktを活性化する。活性化したAktは、細胞質内で様々な生理活性に関与する細胞内シ
グナルに作用する。血管平滑筋細胞では、
フェニレフリン、
アンギオテンシンIIなどがPI3K-Akt経路を活性化して血
管平滑筋収縮反応を惹起する。また、血管平滑筋でのPI3K-Akt経路活性化は、
リモデリング、炎症、高血圧、糖尿病
や高血糖に伴う血管病理の発生に関与することが知られている。
麻酔薬と血管のPI3K-Akt経路との関連については、
これまでほとんど知見がなかった。われわれは、臨床使用濃
度内のセボフルラン
(1.5-3%)
がフェニレフリン惹起血管収縮を抑制する作用をPI3K阻害が増強するか否か、そ
の抑制作用の増強に血管平滑筋細胞内Ca2+濃度低下を伴うかについて検討した。フェニレフリンは、内皮除去ラッ
ト大動脈および腸間膜動脈を濃度依存性に収縮させた。PI3K阻害薬LY294002の併用でセボフルランは濃度依
存性にこれらの血管収縮反応を抑制したが、
セボフルランあるいはLY294002単独ではこれらに影響しなかった。
フェニレフリン
(10-6mol/L)
は、培養血管平滑筋細胞内Ca2+レベルをわずかに増大させ、LY294002とセボフル
ランの併用はこれを完全に抑制した。以上より、
フェニレフリン惹起血管収縮に対する臨床使用濃度内セボフルラン
の抑制作用はPI3K阻害により増強することが明らかとなった。その作用は少なくとも一部、血管平滑筋内Ca2+レベ
ルの制御により発揮されるが、その機序の関与はごく軽度であることから、細胞内Ca2+感受性機構の関与が示唆さ
れる。PI3K阻害は各種抗がん剤作用の重要な経路の一つであることから、以上の研究結果は、抗がん剤投与中の
患者へのセボフルラン暴露が、循環動態を変化させ内臓血流等の増大により抗がん剤の効果に影響を及ぼす可能
性を示唆するものと考えられる。