372(150515) (更新)

2015年05月15日 NO.372
ゆきのした
contents……………………
疑問に答える
15頁
今月の学習
01頁
過労自殺とはなにか
時勢(ときの勢い)──休載
18頁 -MARX ENGELSを直訳で学ぶ
明日を拓く言葉
林 昭・龍谷大学名誉教授
解(説 )
この文章も前回と同じくエ
ンゲルスの「空想から科学へ」
からの引用ですが、資本主義
の下での生産力の発展が、資
本主義の枠内で収まらないよ
うになって矛盾を起こすこと
について解説しています。
そしてその矛盾が人間の頭
の中に生まれてくるのではな
く、社会のそのときどきの経
エ(ンゲルス「空想から科学へ」
大月書店・国民文庫 89ページ)
済関係の中にあらわれるよう
になるということを解説して
います。
「「大工業も、それがますます完全ににできあがってくるにつ
れて、資本主義的生産様式がそれをとじこめている諸制限と衝
突するようになる。
新しい生産力は、すでにその利用のブルジョア的形態をのり
こえるまで成長した。しかも、生産力と生産様式とのあいだの
この衝突は、たとえば人間の原罪と神の正義との衝突のように
人間の頭の中に生じた衝突ではなくて、客観的に、われわれの
外部に、それをひきおこした人間の意欲や行動そのものとは無
関係に、事実の中に存在しているのである。」
フリードリヒ・エンゲルス
022
る、とりわけ営業職に拡大することも狙
安倍政権、あるいはこういう制度を導
ぶつかっています。一方で、去年(二〇
入し、拡大することを求めている人たち
われています。こちらのほうが影響は大
月に施行されました。この法律は全会一
は、「労働時間にもとづく働き方ではな
きいかもしれません。
致で可決されています。つまり、過労死
一四年)六月に「過労死等防止対策推進
本日は過労自殺について考えます。現
や過労自殺は異常な事態で、それを防止
法」(過労死防止法)が成立して、一一
在の労働をめぐる状況との関係でこの問
はじめに
題をどう考えるか、マルクスの労働論に
で、労働時間は短くなる」と言います。
しなければいけないという点については、 くて、成果にもとづく働き方にすること
本当にそうでしょうか。労働時間の延長
照らしてこの問題をどう考えるか、これ
運動の努力の成果として、国会全体が合
過労自殺とはなにかということについ
らに焦点を当ててお話したいと思います。 これらの問題の非人間性を追及してきた
が野放しになる危険はないのでしょうか。
「過労自殺とは、仕事による過労・スト
書)に依拠しています。この本の最初に
書かれた『過労自殺 第二版』(岩波新
みです。これは、いわゆる「ホワイトカ
類の労働者を労働時間管理から外す仕組
ル制度」という名前の仕組み、特定の部
制改革の目玉は「高度プロフェッショナ
他方、アベノミクスの労働部面での規
えで避けて通れない問題として、過労自
日本における労働のあり方を問い直すう
ている状況を念頭において、ここでは、
このように二つの流れがぶつかり合っ
私はたいへん危険な仕組みだと考えてい
意したわけです。
レスが原因となって自殺に至ることを意
ラー・エグゼンプション」です。二〇〇
ては、基本的には弁護士の川人博さんが
味する」と書かれています(『過労自殺
みを記す)。定義的に言えば、これで尽
「残業代ゼロ制度」として猛反対にあい、
七年にも同様の制度が提案されましたが、 殺について考えてみたいと思います。
の事例を挙げています(二~九二ページ)。
川人さんは、過労自殺に至った一〇人
ていた若者です。この方は、入社二年目
- 1 -
ます。
第 二 版 』 ⅰペ ー ジ 、 以 下 、 ペ ー ジ 数 の
きています。しかし、どういう状況で過
導入できませんでした。これをまた導入
Ⅰ
過労自殺の実態
しようと画策しているわけです。もちろ
品の開発業務、金融商品のディーリング
1.川人が示す事例
業務、アナリストの業務(企業・市場等
最初に、この事例を見ておきましょう。
①二四歳・化学プラント工事監督者
が次々と広げられる危険性が十分にあり
に自殺の引き金になった現場に異動になっ
一人目は化学プラントの工事監督をし
(二〇〇八年一一月一一日、自死)
ます。また、裁量労働制の対象を拡大す
の仕組みがいったん導入されれば、対象
務などが挙げられています。しかし、こ
度な考案又は助言の業務)、研究開発業
業務(事業・業務の企画運営に関する高
の高度な分析業務)、コンサルタントの
ています。具体的な例としては、金融商
以上とか、専門的な職種に限定すると言っ
労自殺は生じているのか、それがなくな
文責は編集部にあります
らないのはどうしてなのかが問題です。
2015年春の情勢セミ
ナー第3講義(2015/2/11)
の講義です。
ん対象者は限定する、年収一〇七五万円
流通科学大学教授
今日、働き方をめぐって二つの流れが
真生
■上瀧
http://kyoto-gakusyuu.jp/
ホームページ
月刊:京 都 学 習 新 聞 発行は京都労働者学習協議会
り組んでいました。二〇〇八年二月から
で、ずいぶんと気を使いながら業務に取
いている作業員はすべて年上という環境
した。非常に忙しい現場で、しかも、働
て、そこの補修工事の監督業務に就きま
ります。一一月三日に自身のブログに
になって、再び長時間労働の生活が始ま
さらに一一月初めから別の現場での業務
ているという診断を受けて、通院加療が
新入社員で、四月~九月の研修期間は時
三人目は営業職の若者です。この方は
ひどい言動を行うようになったと言いま
ところが、それ以降、支店長はいっそう
間外労働もありませんでした。ところが、 せるからと慰留され、勤務を継続します。
転換されますが、そこでも残業があった。 年一二月下旬、自死)
始まります。九月にデスクワークに配置
一〇月から業務を担当するようになり、
申し出たのですが、翌年四月には異動さ
になっていったそうです。そこで退職を
度で、しだいに体調が悪化、目がうつろ
う日々が続きます。睡眠時間は四時間程
最終電車に間に合うように退社するとい
七月の月別時間外労働時間は、二月八四
「これが一一月最後の休みです」と書き
③二三歳・新入営業職社員(二〇〇二
時間一五分、この状況が数ヶ月続くと過
ていきます。一〇月下旬に発注ミスがあっ
す。この方のメモには、支店長から言わ
て、顧客の店を訪問して事後処理に追わ
と言っている)を必ず達成しなければな
二人目はシステムエンジニアの若者で
れ、一〇月には一五〇時間、一一月にも
日本大震災の一七日前、二月二二日にニュー
こみ、その一週間後に亡くなっています。 月々の販売目標(この企業では「予算」
す。この方は二〇〇三年の春、入社二年
一四九時間、一二月は二二日までに一一
ジーランドで大地震がありました。この
労死・過労自殺の認定基準になります
方の時間外労働は三月には一五一時間二
目で放送のシステム開発のプロジェクト
二時間という法外な時間外労働が続きま
方の旅行会社では、ニュージーランドへ
(月八〇時間以上の時間外労働が二ヶ月
一分、これは単月で過労死認定基準を超
に配属されました。地上波の放送がアナ
した。睡眠時間がとれず、実家の母親が
のホームステイを斡旋するということを
れたと思われる「ウソツキ」「お前が嫌
えています(死に至る直前の一ヶ月で一
ログからデジタルに転換するときで、一ヶ
遅刻しないようにと毎朝電話で起こさな
いだ」という言葉が遺されていました。
〇〇時間以上の時間外労働があれば、過
月一〇〇時間を超えるような時間外労働
ければならないという状態だったそうで
らないと指示され、「新人も特別扱いし
労死・過労自殺が認定されます)。さら
が続いたということです。九月には一日
やっていて、大地震の善後策に追われま
②二七歳・システムエンジニア(二〇
に四月は九四時間二七分、五月は一四〇
二一時間労働、翌日にかけて事実上約三
す。それ以前から長時間労働が続いてい
~六ヶ月にわたって続いて突然死や自殺
時間四三分、六月は一六七時間二二分、
三時間連続勤務という状態も生じました。 す。そんななかで自殺されています。
たのですが、失踪直前一ヶ月の時間外労
そんななかで自ら命を絶ってしまいます。
七月は二一八時間二三分、しかも一日も
仕事の現場にはソファーや仮眠用の施設
ない」と言われる。しかし、目標はなか
休みなく働いています。三一で割ったら
などはまったくなく、机とパソコンがた
働は三五八時間二〇分、睡眠時間はせい
なか達成できず、しだいに元気をなくし
一日あたり七時間の時間外労働、つまり
くさん並ぶなか大人数で働く状況でした。 〇一年一二月、自死)
〇六年一月、うつ病が原因となった過量
一日一五時間労働が三一日続いたという
ですから、机につっぷすような格好で仮
機関で法人営業を担当していたのですが、 ました。そんな状態で自殺に至ります。
服薬で死亡)
ことです。その前にも、四月下旬には三
眠をとっていたそうです。ミスは許され
上司である支店長からいじめられたこと
などに結びついた場合、過労死・過労自
日連続の徹夜勤務などもあって、三月は
ない神経をする減らす作業が続いて、そ
殺が認定されます)。それどころかこの
二一日連続、六月は一八日連続の勤務と
の年の一一月にうつ病を発症しています。 が原因となって自殺に至ります。パワー
を飲みすぎて二〇〇六年一月に亡くなり
その後、休職、復職をくり返す中で、薬
ら「朝八時に出社して、仕事が終わるま
た過労自殺の事例です。彼女は支店長か
ハラスメント(パワハラ)が引き金となっ
四人目は若い女性です。この方は金融
そういう状態が続いた後、この方は八
ました。
のセールスをしていた方です。この方は
六人目は、お医者さんを回って医薬品
年三月、自死)
⑥三四歳・医療情報担当者(二〇〇三
ぜい四~五時間程度で、徹夜勤務もあり
五人目は旅行会社の課長さんです。東
三月六日、失踪、三月一一日自死)
⑤四〇歳・旅行会社課長(二〇一一年
続き、さらに七月は一日の休みもなしだっ
④二六歳・金融機関女性総合職(二〇
たわけです。
月半ばに無断欠勤して行方不明になりま
では帰るな」と言われ、毎日二三時半頃、 亡くなる前年の三月までは、元気に働い
した。そのときは幸い戻ってこられまし
た。心療内科に行き、精神疾患に罹患し
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ていたんです。ところが、配転で新しく
上司となった係長から非常に激烈なパワ
⑨四四歳・小児科医師(一九九九年八
九人目は中年の小児科医です。常勤医
月半ば、自死)
棒」「硫酸で顔を洗ってこい」といった
師が実質的に半減するもとで、なんとか
ハラを受けるようになります。「給料泥
暴言があびせられたそうです。そのため
きに自殺に至ります。
③その特徴
川人さんはその特徴を次のように総括し
この資料と政府の統計などを踏まえて、
2.「過労死110番」東京窓口への四
ています(一〇〇~一〇一ページ)。
一つの特徴は、業種や職種で見て広範
六二件の自殺相談から
種や職種を問わず、ほとんどの分野の職
に過労自殺が広がっていることです。業
場で過労自殺が発生している。民間、公
以上の事例を見るだけでも、どんな状
の三月には八回当直、休日はわずか二日、 況で働く者が自殺に追い込まれるかがリ
に心身に変調をきたして、亡くなります。 小児科を維持しようと奮闘され、その年
これもパワハラが自殺を引き起こしたケー
務の区別もあまりない。中間管理職や会
社役員など、会社内の地位にかかわらず
アルにわかると思いますが、川人さんは
発生している。それから、正規労働者だ
量的・統計的にみるとどうかということ
も示しています。一九八八年六月に始まっ
けではなくて非正規労働者のケースもあ
四月は六回当直というような厳しい労働
て二〇一三年六月一五日まで、「過労死
が続きます。その結果の自死です。遺書
には日本の小児医療を憂える言葉が遺さ
一一〇番」の東京窓口には四六二件の自
るということです。
十人目は新任の小学校教員です。この
①被災者の年齢
もとづいているので、中高年で大量に発
死、心疾患系等の過労死は肉体的疲労に
で存在しています。過労自殺以外の過労
二つ目の特徴は、年齢的にも広範囲に
殺に関する相談があったそうです。その
方は新任の四月からクラスをもたされま
まず、年齢です。二〇代が一〇六人、
生する傾向があります。それと比較する
相談の内訳を年齢別と職種別に見ていま
部下からこの方に対する中傷ビラとか脅
す。しかも、配属された学校は一学年一
三〇代が一一八人、四〇代が九二人、五
月一日、自死)
⑩二三歳・小学校教員(二〇〇六年六
れていました。
スです。
⑦五一歳・中間管理職(一九九八年四
七人目は五〇歳台の中間管理職の方で
月二四日、失踪、自死)
す。このケースは独特です。ある部下が
迫とか嫌がらせとかが続きます。さらに
クラスで、同学年にこの方をフォローで
〇代が八六人、六〇代が六人、七〇代が
リストラの対象になったのですが、その
それに対して上司は有効な対応をせず、
きるベテランの先生がいないという状況
広がっていることだと言います。二〇代
事実も確かめずにこの方を左遷してしま
でした。初めての授業準備だけでめちゃ
と、過労自殺の場合、若者でも多数発生
から五〇代まで、ほぼ同じくらいの比率
います。このことを苦にして自殺に至り
一人、不詳が五三人となっています。
八人目は若い外科医です。救急対応も
うです。そういう多忙な状況に加えて、
自宅で夜中まで作業することもあったそ
日のいずれかは出勤しています。さらに
時~二一時まで仕事をし、そのうえに土
運転手が一一人、研究職が九人、厨房・
一一三人、事務が八八人、現業が四五人、 五千人程度なので、その五倍です。一時
次に職種です。営業が六〇人、技術が
②被災者の職種
位だそうです。一般に、自殺は若者の命
二八人、販売が四人、医療・福祉が九人、 大学生の死因では、自殺が五三%で第一
役員が一四人、教員が一〇人、管理職が
を脅かす主要な原因なのです。これは若
す(九五ページ、表2―1)。
ます。
くちゃ大変です。この方も平日は七時三
やっていて、その結果、月平均約一七〇
ある保護者からのしつような批判にさら
者がまだ人格的に成熟に至る途上にあり、
現在、自殺で亡くなる方が全国で年間
時間の時間外労働が続きます。二〇〇時
され、その保護者との関係にすごく悩ん
コックが三人、保安が四人、その他一二
していることが特徴です。
間以上の月もあったそうです。休日は平
で、対応できなくなっていきます。その
人、不詳が五二人です。
〇分~四〇分頃に出勤して、学校で二〇
均月一回に満たず、自宅でも緊急対応の
結果、一度自殺未遂をして抑うつ状態を
⑧二九歳・外科医(一九九二年四月、
ために連絡を受け、相談に応じて指示を
診断され、抗不安剤を処方されます。そ
自死)
出したりしています。また、病院に呼び
関係がありそうです。そこに過重な労働
多くの悩みを抱え込む傾向にあることと
期は三万人を超す状況が続いていました。
二万五千人くらいいます。交通事故死が
出されることもあったそうです。そうい
う苛酷な労働のなかで自ら死を選びます。 んななか、家族がちょっと目を離したと
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負担が重なることによって、若者の過労
以上働いている者の割合は総数で二二・
上残業している人を取り出してみると、
方が先に悲鳴をあげて死んでしまうわけ
過労自殺以外の過労死の場合は身体の
肉体的疲労が、脳神経系のバランスを崩
ですが、過労自殺の場合は、ストレスや
してしまって、そこから自殺に至ります。
以上の一、二位の要因を挙げている者が
が五七%となっています(なお、この調
ですから、長時間労働に加えて精神的な
六七・四%、三位の要因を挙げている者
査は複数回答可です)。つまり、多くの
七%。五人に一人以上います。年代別に
代後半で二六・一%、三〇代前半で二六・
人は人手が足りないのでやむなく時間外
みると、二〇代前半で二五・八%、二〇
五%、三〇代後半で二五・一%、四〇代
三つ目は、男女比です。男性の被災事
例が多いというのが特徴です。一般に男
前半で二四・七%が週六〇時間以上働い
自殺が引き起こされると考えられます。
性の方が長時間労働をしがちであるとい
す。
ると、過労自殺に結びつきやすくなりま
う状況がを反映していると、川人さんは
このように時間外労働が非常に多く、
ストレスが過大になるような事情が重な
長時間労働で、休日労働があって、深夜
労働をしているのです。
週六〇時間以上というのは、週五日勤
ています。
務だとすれば一日一二時間労働になりま
述べています。ただし、女性が男性と同
その被災事例も増加傾向にあると言いま
す。週六日勤務で一日一〇時間労働です。 労働があってというふうになると、それ
様の働き方をするようになってきていて、
す。
では、なぜ、過労自殺が起きるのでしょ
が続いて死に至れば、過労死認定される
〇時間以上の時間外労働です。この状態
時間以上です。月あたりで計算すれば八
けば、週当たりの時間外労働時間が二〇
考えられます。また、週六〇時間以上働
多くの場合、休日出勤しているだろうと
あります。眠れない、眠りが浅いという
けでなく、脳の疲れを取るという役割も
態が続く。睡眠には身体の疲れを取るだ
眠れない、眠っても眠りが浅いという状
として睡眠障害が起こりやすくなります。
しかし、それだけではなくて、その結果
バブル崩壊以降、特に九七年のアジア通
ています。、その中で、九〇年代初めの
バルな資本の運動に主導されるようになっ
化があります。この間、資本主義はグロー
だから、週六〇時間以上働いている人は、 自体で肉体的に非常に負荷がかかります。 3.これらの背景
うか。それを引き起こす諸要因について
に至ります。
自律神経の失調、あるいは精神的な疾患
本はそういう条件のもとでもうけをあげ
て低迷状態が続いてきました。日本の資
しています。そのため、まず人件費が削
ないといけないので、非常に競争が激化
までの男性正社員の四人に一人は過労死
す。どこで過労死・過労自殺が起こって
員をぎりぎりまで削減することがありま
げることもありますが、もう一つには人
減されていく。その方法は賃金を引き下
このように、長時間労働そのものが精
なぜ、そんなに長時間働くのか。連合
もおかしくありません。
神的ストレスに結びつきます。そこに、
2.精神的なストレスの増大
認定水準の長時間労働をしているわけで
これらの背景には、日本資本主義の変
も 、 『 過 労自 殺 第 二 版 』 に よ り な が ら
ことが続けば、脳が休めない。その結果、 貨危機以降、日本の国民経済は全体とし
Ⅱ
過労自殺を引き起こす諸要因
見てみましょう(一〇二~一〇八ページ)。 水準です。ですから、四〇代前半くらい
1.過重な労働による肉体的負荷
まず、なによりも長時間労働、休日労
の二〇一二年一二月の調査では、「残業
働、深夜労働、劣悪な職場環境が過労自
しているのはなぜですか」という問いに
セクハラなどのハラスメントがあるとか、 なっています。これが長時間労働の温床
殺を引き起こすということです。月一〇
さらに川人さんは次のような事情を挙
職場での人間関係のトラブルがあるとか、 になっています。
〇時間を超えるような時間外労働をして
げています。一つは、競争が激化する中
す。その結果、仕事量に対して人員が足
五五・一%がそう答えています。二位は
そういう要因が加わると、さらに精神的
りないという状態が広く見られるように
「残業しないと処理しきれない量の業務
なストレスは厳しくなり、精神的な疾患
事例でも見たように、ノルマがむちゃく
ところが、そういう長時間労働は今日
がある」で五三・三%、三位は「残業が
対して、「仕事を分担できるメンバーが
の日本においてはあまり特殊な例ではあ
前提で業務が動いている」で二六・八%
で、取引先との関係で、納期が非常に厳
いては、正常に生きていくことのほうが
りません。二〇一二年の「就業構造基本
につながるケースが増えます。
少ない・いない」という回答が一位です。 ちゃ過大で達成困難だとか、パワハラや
調査」によると、年間二五〇日以上就業
となっています。さらに、月六〇時間以
難しいのです。
する男性正規労働者のうち、週六〇時間
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に、十分に人を雇って余裕をもって仕事
は同様な状況です。財政的な制約のため
公務とか非営利の職場でも、基本的に
ります。
生まれるので、自殺に結びつきやすくな
して「死んでしまいたい」という思いが
のなかでもうつ病の場合、症状の一つと
的な疾患の兆候がみられます。精神疾患
んぜん平気でした。それが大学の先生だ
わからないといった講義をしていてもぜ
るような、わからないような、でも結局
私が大学生だった頃の大学教員は、わか
私の職場の話で恐縮ですが、かつて、
が強制されています。
底しないといけないという、他者配慮性
されない。どんな間違いも許さない。そ
をするという体制がつくれない。仕事量
中学校や高等学校の保健の授業で、う
とか、だから学生は自分で勉強しなきゃ
に至るというプロセスが多くの場合に見
もう一つは、需要が増えない中で、そ
に対して人員が足りず、過重な労働にな
つ病などの精神的な疾患にはその疾患に
ならないんだとか、そんなふうに大学全
方は入ったときから、あるいは入って二
れでも買ってもらおうとすると、結局、
りやすい。さらに、福祉や医療、あるい
なりやすい性格のタイプがあるんだと習
体が納得していました。いまや、私が勤
しく設定されるようになっているという
営業で頑張らないといけないことになり
は教育の職場では、目の前にクライアン
いませんでしたか。一般にうつ病になり
めているような私立大学ではそんなこと
ういう厳密さ、完全主義が多くの職場に
ます。そこで、非常に過大なノルマとか
トとか患者さんとか生徒とかがいますか
やすいとされている性格類型では、非常
は許されません。学生さんが授業を評価
浸透している。特にお客さん、クライア
目標とかが課される。また、小売とか外
ら、その要求に「ちゃんと応えなければ
するアンケートがあって、ちゃんとわか
年目から、現場で非常に責任のある仕事、 られます。明確にそういう診断を受けて
食産業とかでは、需要が少しでもあれば
す。さらに社会全体が長時間労働なので、 に几帳面で、責任感が強くて、勤勉で、
ならない」という圧力がすごくかかりま
対人関係に誠実で、権威や秩序を尊重し
る講義をしないと学生さんからコテンパ
あるいはノルマの厳しい仕事をやらされ、 いる場合も多いし、そういう診断を受け
それを取り込みたいと深夜営業や二四時
て、道徳心が高い、などの要素が見られ
ンにやられます。だから、気の弱い私な
ことです。そういう厳しい納期に対応で
間営業が広がっているという問題もあり
保育の現場だと「保育時間を延長しなけ
ます。こうした性格は「メランコリー親
どは学生さんにわかるように講義しなけ
きないと仕事を取れないので、達成する
ます。
ればならない」ということになるし、介
和型」と呼ばれているそうです。非常に
ントに対して、非常に細やかな配慮を徹
さらに、失業とか半失業とかの圧力が
護が必要な人の面倒を家族で看られない
まじめで、対人関係も大切にする。きち
ればと頑張ってしまいます。
てない場合でも、その人の言動には精神
非常に強くて、過重な労働に駆り立てら
ので、施設でも在宅でも「二四時間サー
んきちんとやっていくことに、ある意味
大きなストレスがかかっています。
れやすいということがあります。「いや」
ビスが必要だ」ということになります。
で快感を覚える。そういうタイプの人は、
ことが困難な納期設定でも無理やり間に
と言いにくい。「いや」と言えば「辞め
こうして、公務の現場、非営利の現場、
きちんきちんとやるために非常に過重な
合わせようとする。その結果、長時間過
させられるのではないか」という圧力が
教育や福祉や医療などの現場でも長時間
密労働になってしまう。
ある。「就職が厳しい中ようやくこの職
過密労働が蔓延しています。
ところが、今や、そこまで几帳面でま
度のまじめさの人でも、ごく普通の他者
働き、普通に生活しようと思っている程
ませんが、そういうクライアント、ある
まあ、大学はまだたいしたことはあり
に就いたのだから、とにかく頑張らない
じめな性格でなくても、十分にうつ病に
られ、他者との関係も非常に配慮しなけ
なりやすくなっていると言われています。 配慮性の人でも、職場では完璧さを求め
いはお客さんの要求にきちんと答えない
過労自殺の場合は、肉体の方が悲鳴を
ればならないと迫られます。そのために
といけないという圧力がいろいろな職場
あげて過労死に至るのとは違う要素が加
つまり、職場自体がそういう几帳面さ、
ストレスを感じてしまう。だから、うつ
れて、長期的に仕事をしていけるように
わっています。それは、うつ病のような
まじめさを厳しく求めるようになってい
病になりやすい。だいたいそういうふう
なるには、それなりの試行錯誤と経験が
精神的な疾患を罹患することです。過労
4.うつ病など、精神疾患の罹患
といけない」と思わされるわけです。
さらに、若い人との関係で言えば、い
きなり負担の大きな仕事に就かされると
必要です。けれども、今の日本企業はそ
とストレスがうつ病などの精神的な疾患
非常にストレスがかかっているのです。
で強まっているわけです。今や、普通に
れを待てない。新入社員を「即戦力」と
ると言うのです。ちょっとした失敗も許
に説明されてきたのです。
して扱い、いきなり過大な負担を課すこ
に結びついて、その結果として自殺企図
いうことも問題です。若い人が仕事に慣
とが増えています。事例の最初の四人の
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は、こういうものをつくろうと考えて、
面的に喜びでもない
2.労働は一面的に苦しみでもなく、一
に敵対するようなものになるということ
ですから、以前は非常にまじめな人がう
最初に完成品のイメージがあって、それ
ところで、そういう人間の本質として
をつくるための段取りのイメージがあっ
て、それにもとづいて、完成品をつくっ
の労働は、本来、喜びに満ちたものなの
いう言葉は使われていませんが、その内
今はごくごく普通の人、本来的に言えば
容がより具体的に展開されていると思い
ていきます。意識の中にあるものを現実
つ病になりやすいと言っていたんですが、 です。『資本論』では「労働の疎外」と
メランコリー親和型の性格類型ではない
に実現するわけです。これが人間の労働
もう一つの基本的な要素は、人間は一
はずだという考え方の影響力が強いよう
でしょうか。それとも苦しみに満ちたも
人で労働するのではない、労働はたくさ
に思いますが、ヨーロッパ的な世界観、
のなのでしょうか。マルクスは『経済学
ということについてです。人間を動物か
んの人が集まってやるものだということ
キリスト教的な世界観では、労働は人間
の基本的な要素の一つです。このことを
ます。
1.人間の本質としての労働
ら区別するものを突き詰めてみれば、そ
です。共同して集まって仕事をすること
批判要綱』の中でこの問題を考えていま
れは人間が労働するということです。労
によって、それぞれが持っている良さが
「意識性」とか、「目的意識性」とか、
働によって与えられた環境を自分の意識
に与えられた苦しみだという考え方の影
まず、労働が人間の本質的要素である
した目的にあわせて変えていくことがで
引き出されるということです。このこと
そういう言葉で言い表します。
人でも、うつ病になりやすくなっていま
す。
こうして、過重労働の職場、ストレス
フルな職場が増え、誰もが過労自殺に至
きるということです。人間は労働を通じ
を「共同性」という言葉で言い表します。 響力のほうが強いようです。キリスト教
るリスクを負っているというのが日本社
て、与えられた自然環境を自分が利用で
の考え方は、マルクスが若いときに書い
のです。これが人間の本質なんです。こ
個々人も能力を発展させると考えていま
類としての本質を発揮することを通じて、 ら 追 い 出 さ れ ま す 。 そ の と き 、 神 様 は
には「原罪」という物語があります。生
日本的な世界観では労働は喜びである
きるように、自分の思い描いたとおりに
は労働など必要ない楽園に住んでいたの
と「共同性」が、人間の類としての本質、 まれたばかりの人類であるアダムとイブ
す。
ここまでの話は基本的に川人さんの議
ですが、悪魔の誘いによって知恵の実を
会における働き方の現状です。
論によっています。より詳しく知りたい
変えます。これが生産です。この生産を
人間に特有なあり方だとマルクスは考え
ここまでだけでは今日の講義のオリジナ
た『経済学・哲学草稿』の中ですでに述
Ⅲ
マルク スの労働 論か ら見 た過
労自殺
方 は 『 過 労自 殺 第 二 版 』 を ぜ ひ 読 ん で
ています。
リティはまったくありません。そこでこ
べられていますし、より発展した形で
以上、人間の労働に見られる「意識性」
いただきたいと思います。ということで、 行うことが人間と他の動物とを区別する
こから、過労自殺とはどんな問題なのか
す。人間は自然をつくり変えるけれども、 みを与える」と言って放り出したという
容で構成されています。一つは、本来的
います。「労働の疎外」論は、二つの内
えた「労働の疎外」という考え方だと思
のは、彼が若い頃、資本主義の矛盾と考
ういうものをつくろうと考えて、つくっ
最初から完成品のイメージがあって、こ
をつくります。しかし、これらの動物は
チとかクモとかは、非常に緻密な建造物
で成り立っているのでしょうか。ミツバ
質としての労働は、どういう基本的要素
一つの基本的要素だと思います。
ながっている。これが人間の労働のもう
労働することが個々人の能力の発達とつ
それを通じて自分自身もつくり変える。
ではあり得ない、喜びの側面があると言
スはそれを批判して、労働は苦しみだけ
とする学説が存在していました。マルク
す。
のです。ですから、労働は苦しみなんで
「お前らには労働の苦しみと産みの苦し
かじってしまいます。そのために楽園か
ということについて、マルクスの労働論
他の動物と人間とを区別する人間の本
『資本論』の中でも述べられています。
に労働は人間の本質的な要素であるとい
います。では、労働は喜びに満ちていて、
そのうえでマルクスは、労働において
マルクスの労働論の根底を貫いている
を基礎にして考えてみたいと思います。
うことです。もう一つは、資本主義にお
ているわけではありません。人間の場合
スに代表されるように、労働は苦しみだ
経済学的伝統の中でも、アダム・スミ
ける労働者の労働は自らに疎遠な、自ら
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ち入った分析はありません。そこで私な
『経済学批判要綱』では、これ以上立
です。
はフリエという人の考え方に対する批判
面を見ていないと批判しています。これ
働は楽しいものだとばかり言う人はこの
主義のおける労働は苦痛が多くなる、労
クスはそれも違うと言います。特に資本
楽しいだけのものなのかというと、マル
ていると思います。
ます。労働の過程はこのように成り立っ
として、生産物という「成果」が出てき
必要なのです。そして、「実行」の結果
りません。意識的な「コントロール」が
深くチェックしながら作業しなければな
ていることが合っているかどうかを注意
されているかどうか、目的と自分がやっ
て意識され、この目的に合うように実行
ジが達成されなければならない目的とし
くれない。抵抗します。ノコギリで木を
ける対象は、自分の思い通りにはなって
進まないからです。一般に労働が働きか
面に出ます。なかなか思い通りに作業が
「実行」の部分は、苦しみのほうが前
から、ここでも苦しみがあります。
んだったんだ」とがっかりします。です
ます。この場合は「これまでの苦労はな
思い通りにならないこともたくさんあり
たということもあります。労働の結果は
ます。
みがないまぜになっていることが分かり
その過程のそれぞれの部分で喜びと苦し
果」という過程として分析してみると、
に注目して、「構想」―「実行」―「成
はあるわけです。
いう快感です。ですから、ここでも喜び
れが「構想」の部
つくられます。こ
取りのイメージが
り着くかという段
め、完成品にたど
れます。また、どういう手順で作業を進
きあがりの、完成品のイメージがつくら
の過程を考えてみると、一番最初に、で
識の中にあるものを現実化していく労働
働の模式図」を見てください。人間が意
ということから考えてみましょう。「労
まず、労働がどんなふうに行われるか
くまでにはいろいろと悩むこともあるで
うにすればいいんだ」と段取りを思え描
い浮かばないこともあるし、「こんなふ
他方で、完成品のイメージがなかなか思
いいんじゃないか」といろいろな段取り
また、「そのためにこんなことをしたら
などと労働の結果をあれこれ思い描き、
あるいは「あの患者さんの笑顔が見たい」
るのか、一般的に考えてみましょう。ま
こに喜びがあるのか、どこに苦しみがあ
こうした労働の過程に立ち入って、ど
では、「実行」の部分は苦しみばかり
に、苦しみを味わうことになります。
た、なかなか思い通りにすすまないため
りません。ですから、この部分で人間は
か、注意深くチェックし続けなければな
や手順のイメージどおりに進んでいるの
の部分です。さらに、その作業が完成品
破りながら、一歩一歩進むのが「実行」
に出ます。「こんなものをつくりたい」、 ばならない。そういう対象の抵抗を打ち
ず、「構想」する部分では、喜びが前面
かというと、そうでもありません。苦労
想像力が働くので、喜びが感じられます。 精神的にも、肉体的にも疲労します。ま
を思い描いているとき、そこには自由な
しながらでも思い通りに作業がすすむと
らって、少しずつ断ち切っていかなけれ
を、場合によってはその繊維の方向に逆
には切れてくれないでしょう。硬い木質
切る場合、木はチーズのようにかんたん
しみがないまぜになっている過程です。
面でも、「共同性」の面でも、喜びと苦
このように、労働はその「意識性」の
すること自体がそれなりの困難を伴って
助け合う仲間の人間関係をつくり、維持
生じる。そういうことはままあります。
いる。コミュニケーション・ギャップが
ているはずなのに、どこか思いがずれて
ありません。同じ目的を持って一緒にやっ
この実感も抵抗なしに得られるわけでは
喜びが感じられると思います。しかし、
ういう仲間との関係が実感されるとき、
「私もみんなのためになっている」、そ
とき、「みんなが私を助けてくれる」、
仲間と一緒に助け合っている実感がある
からみると、どうでしょう。この面では、
「共同性」、仲間と一緒に働くという面
労働のもう一方の基本的要素である
このように労働をその「意識性」の面
りに、労働の喜びと苦しみについてもう
分です。そのうえ
いう局面は存在しているので、そこに達
少し立ちいって考えてみたいと思います。
で、完成品と段取
しょう。「構想」の部分でもそういう苦
成感が生まれます。また、本当にうまく
みがあります。
いるわけです。ですから、そこにも苦し
りのイメージにし
しみがあります。
たね」という達成感が得られます。その
ナーズ・ハイと同じような状態になるこ
そこでの反復作業が脳を刺激して、ラン
が苦しいばかりなら、労働をつうじた人
として発達していくのですが、もし労働
「成果」が出てくるところはどうでしょ
たがって実際に作
かぎりでは、喜びが前面に出ています。
間の発達はないでしょう。労働における
業していく「実行」
「実行」の部分で
ともあります。「俺っていけてるわ」と
進んでいるかどうかわからないとしても、 そして、この過程を通じて人間は働く人
は、完成品のイメー
しかし、できあがってみれば失敗作だっ
の 部 分 が あ り ま す。 う。思い通りの完成品ができれば、「やっ
ジと段取りのイメー
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産されません。マルクスは『資本論』で、 ています。
後に適切な休息がなければ、人間は再生
働のこの本質的要素は重要です。労働の
くに過労死や過労自殺との関係では、労
とを考えておかなければなりません。と
精神的にも肉体的にも疲労するというこ
ギーの支出であり、労働の結果、人間は
さらにもう一つ、労働は人間のエネル
ないと思います。
ることがないと、働く人としての発達は
喜びとか、達成感がある程度、実感され
来社会でも労働時間の短縮が大切だと言っ
自由は労働時間の外にある。だから、未
いうことです。そういう意味で、本当の
間は本当の意味で自由ではありえないと
は必然の王国です。労働のなかでは、人
ルしなければなりません。だから、労働
こから外れないように自分をコントロー
た実行のやり方、手順が必ずあって、そ
もう一つは、労働には構想、目的に見合っ
大します。
あり、労働の喜びが奪われ、苦しみが増
程についても、いくつかの大きな変化が
「構想」―「実行」―「成果」という過
さらに労働の「意識性」にかかわる
みが増大します。
より疲れるのです。こうして労働の苦し
になります。労働の強度が増大すれば、
ます。機械が労働強度増大の強力な手段
ないという意味で労働は必然の王国です。 高く労働させることが意識的に追求され
分の意志で「コントロール」する場合で
されるということも起こってきます。自
き方やスピードによって「コントロール」
るわけです。機械化が進めば、機械の動
ロール」されながら仕事をするようにな
主義における労働者は、他人に「コント
出は増大し、労働力の消耗も増大します。 ントロール」するようになります。資本
以前と同じ労働時間であっても労働の支
も労働の「実行」の部分は苦しみが前面
さらに「実行」の過程では、資本家や
のですが、それがなくなってしまいます。
することができるから達成感も得られる
まず、労働の「構想」あるいは「目的」
ル」の下に置かれれば、それだけ自由を
に出るわけですが、他人の「コントロー
資本家の代理人が指揮・監督する、「コ
労働時間の制限について非常に重きを置
は、基本的には資本が与えるものになり
奪われていることがはっきりと実感され、
3.資本は労働の喜びを奪い、苦しみを
ます。やるべきことは他から与えられる
労働の苦しみは増します。
増大させる
ものになり、自発的なものではなくなる
いて分析しています。労働時間が適切に
わけです。自発的にやるべきことを考え
制限されなければ、労働者は生き続ける
ことはできないんだということを強調し
では、資本主義になると労働はどうな
ちが自分たちで自分の労働のあり方を決
本主義を乗り越えた未来社会で働く人た
苦しみが増大させられますが、では、資
とをより具体的に分析的に示しています。 命じられる。その内容がより細かくなれ
葉は使われていませんが、同じ趣旨のこ
『資本論』では「労働の疎外」という言
の下では一般的に労働の喜びは奪われて、 が奪われて、苦しみが増大することを、
では、そういう自発性が奪われて「これ
「労働の疎外」という言葉で表しました。 ります。しかし、資本主義における労働
若いマルクスは『経済学・哲学手稿』で
をやりなさい」、「こうやりなさい」と
と考える余地があって、そこに喜びがあ
るのであれば、ああしよう、こうしよう
本的には見ず知らずの労働者たちが、職
て、たまたま一緒になっただけです。基
労働者は同じ資本が雇い入れることによっ
くようになります。しかし、その多くの
に比べて、より多くの労働者が一緒に働
資本主義では、それまでの小規模な経営
労働の「共同性」の面はどうでしょう。
るのか。資本主義の下での労働は、喜び
めていけるような社会になったら、労働
さらに、後で述べるように、資本主義
ているわけです。
はすべて喜びになるのか。マルクスはそ
場でたまたま一緒になるわけです。です
させるということです。労働者の抵抗が
働時間を延長するし、労働の強度を増大
「成果」は労働した者、労働者のもので
管理する人と管理される人という関係が
さらに、職場には管理職がいるわけで、
から、とりあえずその出発点では自発的
ばなるほど、労働は自由ではなくなりま
という分析があって、そこでは「未来社
弱まれば、資本は際限ない労働時間延長
はなく、資本のものです。自分の労働の
持ち込まれてきます。そのうえ、仕事の
すから、非常に苦しいものになってしま
以下、その概略を見てみましょう。
会で労働のやり方がより喜びを得られる
を追求します。その結果、一九世紀前半
「成果」なのだからと言って、生産物を
まず、資本はもうけをあげるために労
うではないと言っています。『資本論』
ように変革されても、やはり労働は必然
のイギリス資本主義でも過労死が生じて
第三部に「必然の王国から自由の王国へ」
の王国であり、本当の自由の王国は労働
います。他方、労働時間が制限されると、 持ち帰れば泥棒として捕まえられます。
違いで等級がつけられ賃金が違ってくる。
な仲間が協働している状態ではありませ
時間の外にある」という趣旨のことを言っ
労働の「成果」を自分のものとして手に
います。
ています。一つには、人間は食うために
作業の隙間時間をどんどん奪って、密度
基礎があります。
また、労働の結果、生みだされるもの、 ん。ここに職場の人間関係が難しくなる
労働するのであって、そこから逃れられ
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しくなり、労働の苦しみが増します。
間としての助け合いを実感することが難
互いに競争させられる。そうなると、仲
素はすごく大切だと改めて思います。
今日の過労自殺の事例を見ると、この要
らかにしています。後でも述べますが、
間に到達するとか、そういう人がいる。
月一〇〇時間を越えるとか、月二〇〇時
がたくさんいます。さらに時間外労働が
に増大していることが、今日の過労死や
に濃くなっていること、労働強度が非常
と思います。このように労働密度が非常
り具体的に分析したことをごくごくおお
外」という言葉で示し、『資本論』でよ
ています。特に3の部分、資本主義にお
「資本のもとで働く」でより詳しく論じ
『経済』二〇一五年五月号掲載の論文
*Ⅲ―1~3で考えた内容については、
させています。例えば、ある病院ではウェ
タと情報通信網の発達が労働強度を増大
しています。とくに今日では、コンピュー
けではなくて、労働の強度が非常に増大
さらに、単に労働時間が長いというだ
あるいは「目的」が資本から与えられ、
先ほど、資本主義では一般に「構想」
ています。
働者の肉体と精神を破壊する要因が加わっ
立ち入って見ると、それぞれの部分で労
「実行」―「成果」という労働の過程に
労働の「意識性」の面、「構想」―
ざっぱに見てきました。要するに資本主
ける労働の分析については、この論文を
ラブル・コンピュータを身につけた非常
過労自殺の温床になっています。
義では、労働の喜びが奪われ、苦しみが
勤の職員が、コンピュータの指示に従っ
これでは、生きていられません。
増大するわけです。しかし、もう一方で
合わせて読んでいただけるとうれしいで
ここまで、若いマルクスが「労働の疎
マルクスは、資本主義の中で、労働の苦
す。
その歯止めは、資本の動きに対抗する
うな、資本主義では一般的に労働の喜び
いて考えてみると、これまで見てきたよ
過労自殺をもたらす労働のあり方につ
に伴って作業は簡単になったけれども、
たそうです。この場合、システムの導入
つ薬品を確認しながら、薬剤を揃えてい
な知識を身につけた看護師さんが一つ一
このシステムが導入される前は、専門的
運ぶという作業をやっているそうです。
命じられる。これが過労死をもたらす労
た納期になにがなんでも間に合わせろと
の配慮が求められる。あるいは、差し迫っ
ています。過大なノルマ、過大な顧客へ
てたのでは実現できないようなものになっ
が与える「構想」・「目的」が普通にやっ
労自殺をもたらすような労働では、資本
奪われ、苦しみが増すと述べました。過
て患者さんごとに治療に使う薬剤を揃え、 そのために労働者にとって労働の喜びが
しみを減らし、喜びを取り戻すための歯
労働者の仲間意識、あるいは連帯、それ
その分、一定時間内の作業量はずっと増
止めが生まれるし、その歯止めが将来的
らを基礎に組織された労働組合です。一
が奪われ、苦しみが増大するというだけ
えているはずです。歩いている歩数がぜ
4.過労自殺をもたらす労働のあり方
九世紀のイギリスでは、同じような仕事
まず、労働時間が異常に長いというこ
では収まらない問題があると思います。
には資本主義を乗り越える力にもなると
をしている労働者たちが同じ地域に住ん
考えています。
で隣近所の付き合いをし、さらに近所の
働の一つの大きな特徴だと思います。
る労働組合に発展していきます。資本に
スクラムを組んで資本に対抗して行動す
やがて労働者の共通の要求にもとづき、
本でも労働基準法があって、一日八時間
が法的に制限されるようになります。日
める労働者の運動に押されて、労働時間
れました。その後、労働時間の制限を求
延長を追求し、その結果、過労死が生ま
たりする。そういうところから始まって、 にイギリスの資本は際限のない労働時間
動時間は休める時間ではなく、職場で仕
ういう人にとっては、いまや電車での移
る営業職らしき人をよく見かけます。そ
報告書をまとめたり資料を整理したりす
ると、パソコンでメールをチェックし、
はどうでしょう。昼間に電車に乗ってい
事だと考えられていました。しかし、今
に時間的な余裕があり、自由度のある仕
過労自殺につながる非常に大きな要因に
げている実例を見ると、そういうことが
奴だ」と思い込まされる。川人さんが挙
できない状態が続き、「自分はできない
り組む。あるいは、営業目標などを達成
じることもできないまま延々と仕事に取
て、何かをやり遂げたという達成感を感
があります。次から次に課題がやってき
ても「成果」に到達できないという状況
そして、その結果、頑張っても頑張っ
んぜん違うと思います。
対抗する自分たちの仲間、連帯、労働組
週四〇時間という労働時間が法定されて
事をしているのと変わらないわけです。
とです。一八世紀の終わりから一九世紀
合があって、労働者の労働や生活もそれ
います。ところが、実際には週六〇時間
パブに集まって酒を飲みながら仕事の愚
なりのものになりうるし、労働者が社会
を超えて働いている労働者、月に八〇時
なっているように思います。
また、かつて外回りの営業はそれなり
の主人公になっていく準備も進む。そう
同様のことがいろんな職場で進んでいる
のはじめ、機械が導入されはじめた時期
いうことがなければ、労働者は惨めな存
間を超える時間外労働をしている労働者
痴を言ったり、雇い主に対する文句を言っ
在になる。そういうことをマルクスは明
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笑顔を絶やさず真摯に対応しないといけ
つけても、ひどいクレームを受けても、
待たせないためにダッシュでレジに駆け
る。お客さんを待たせてはいけないし、
とでも乱れていると、ものすごく怒られ
たたまれた状態でなければならない。ちょっ
ユニクロなどでも、商品は常にきちんと
りなさい」という強制が働いています。
ニュアルが決められていて「この通りや
ル」の面では、非常に事細かに仕事のマ
また、「実行」における「コントロー
が過労自殺の温床になっているように思
や福祉や教育の現場では、そういう事情
メだ」と感じるようになりやすい。医療
張って当たり前」、「頑張れない私はダ
鳴して仕事に就いた人が多いので、「頑
る労働者はもともとそういう使命感に共
る。医療・福祉・教育などに従事してい
働にたいして異議申し立てがしづらくな
される。そうなると、長時間で過密な労
ならない」という使命感がたいへん強調
「クライアントの利益を優先しなければ
に敏感になりやすい。そこにもってきて
前にクライアントがいるので、その反応
場における労働者の仲間意識、連帯が破
問題を抱えています。これらの結果、職
者との板挟みになってしまう。そういう
られて、中間管理職は会社と現場の労働
ないといけないとか、困難な課題が与え
なければいけないので労働の強度を上げ
か、少ない人員で多くの仕事量をこなさ
また、人員整理をしなければならないと
者との対立関係が非常に強まりやすい。
標が与えられれば、管理する者とされる
込まれています。さらに、達成困難な目
価します」と言われて厳しい競争が持ち
非正規雇用の間でも「頑張った個人を評
績主義という名目で、正規雇用の間でも
相手がいることが大切だと思います。
つ、その話をちゃんと聞いてくれる相談
られないとか、口に出せること、なおか
えず、厳しいとか、苦しいとか、やって
しかし、そこまでいかなくても、とりあ
存在していれば良いに決まっています。
るとか、そういう力をもった労働組合が
るとか、過度な労働の押し付けに対抗す
に最低限必要なことだと思います。
思います。それが労働者の命を守るため
「労働を自分の喜びとしなければいけな
る。人でなしのように言われる。人間性
ともまま見られます。罵声をあびせられ
スメント的・いじめ的な対応がされるこ
うかが大きな問題だと思います。仕事が
うものが十分に存在感を持っているかど
とか、連帯とか、労働組合とか、そうい
ですから、働く人たちの間の仲間関係
まず、直近の課題についてです。労働
章を参照しています。
点に つ い ても 『 過 労 自 殺 第 二 版 』 第 四
この点について考えてみましょう。この
んなことが課題になっているか。最後に
過労自殺をなくしていくためには、ど
おわりに
―過労自殺をなくすために
もちろん、厳しい労働のあり方を変え
ない。そういうふうに「コントロール」
います。
壊されてしまう。それが過労自殺を生み
が非常に細部にわたって綿密になってい
さらに「できない」労働者に対して、
るし、感情の「コントロール」にまで及
んでいます。
い」という圧力もかかっています。長時
が否定される。そういうことが続けば、
政策審議会は「高度プロフェッショナル
だすもう一つの要因でしょう。
間で過密な労働を強いるブラックな職場
厳しくて、しんどくなったときに、愚痴
感情の「コントロール」という面では、 非常に強圧的・暴力的な、あるいはハラ
であればあるほど、「やりがい」とか、
自己否定に追い込まれる人が出てくるの
以上で専門的な仕事をしている人につい
「仕事をつうじて成長する」とか、そう
ては、労働時間ではなく成果で管理する
制度」という名前で、年収一〇七五万円
だけで、ぜんぜん違います。しんどくなっ
を聞いてくれるとか、しんどいことをわ
このように、「実行」過程の「コント
ている人がいれば、まずちゃんと話を聞
かってくれるとか、そういう仲間がいる
ロール」をめぐっては、人間性を破壊す
は当たり前です。
るような管理のあり方が多面的に展開し
いうことが強調される。ある居酒屋さん
から。この修行に耐えて人間は一人前に
では「仕事は大変だけど、それは修行だ
なるんだ」などと言われます。長時間で
かなければダメです。こうしなさいとか、 仕組み、つまり労働時間管理をはずす仕
に、裁量労働制(労使協定にもとづき、
ています。それが過労自殺などを生み出
実際の労働時間はどうあれ、決められた
過密な労働を「喜び」としなければなら
他方、労働における「共同性」の側面、 言っちゃだめなんです。まずはとにかく
時間働いたとみなす仕組み。深夜労働や
ああしなさいとか、頑張りましょうとか、 組みを導入しようと提案しました。さら
話を聞く。そういう相談相手が職場の中
休日労働には時間外手当を支払わなけれ
るかどうか、点検しなければならないと
ばならないが、それ以外の時間外手当は
こういう傾向は、少し別の形をとって
にいるかどうか、私たちが、あるいは労
ないという圧力がかかっているわけです。 す要因になっていると思います。
働組合が、そういう相談相手になってい
あるいは非営利組織の職場でも強まって
用の区別があるし、成果主義あるいは業
労働者間の関係では、細かな分断が行わ
ではあるけれども、民間企業の職場だけ
うだけではなくて、正規雇用と非正規雇
ではなく、医療や福祉や教育などの公務、 れています。管理職と一般の労働者とい
いると思います。これらの現場では目の
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不要になる)を営業職に広げることも提
をやるのは無理じゃないの?」という状
としては、「この人員でこれだけの業務
もしれませんが、全体としては、多数派
める、二四時間の間に必ず休息時間を確
もう一つ、川人さんは、連続勤務をと
者や労働組合の運動がなければ、なかな
う議会の中の動きも、議会の外での労働
吉良さんなどが頑張っています。そうい
案しています。これを受けて、安倍政権
す。
はこれらの仕組みを実現するための労働
か実を結びません。私たち自身が先の三
在の職場の実態を仲間で意識化し、共有
つの課題を実現できるだけの力をつけて
し、世の中に知らせていくことだと考え
保することが非常に大切だと言っていま
の職場にも、例えば二四時間営業のコン
は少し時間が必要かもしれません。そし
況で仕事をしているのが実態でしょう。
これを食い止めることが非常に大切で
切だと思います。向こうが攻めてきてく
は長時間の連続勤務を防ぐため、「二四
れているわけですから、それを利用して、 ビニなどにもはびこっています。EUで
て、これらが実現しない段階でも、仲間
法制の改定をこの通常国会で通そうとし
す。それは、一つには、労働時間規制に
それに対する反撃として、実際の職場、
から過労自殺を出したくないわけです。
いかないといけない。その出発点は、現
一回穴が開いてしまうと、次々に穴が広
時間につき最低連続一一時間の休息時間」
そこで、二つのことが大切だと考えます。
す。今、医療や福祉の現場では長時間の
げられる危険があるからです。実際、今
まで仕事をしたら、翌日は一〇時以降し
うことを、まずは職場の仲間で意識化し、 を取ることを義務づけています。二三時
仕事のあり方がどうなっているのかとい
か仕事を始められないということです。
連続勤務が結構あると思います。その他
回の労働法制改定でも、すでに導入され
共有する。さらにそのことを広く伝えて
日本でもそういう仕組みが必要だという
だから、時間外労働が増える。そこのと
ている裁量労働制の適用範囲の拡大がめ
いく。そういうことがすごく大切だと思
ころを多くの人に伝えることがすごく大
ざされています。「高度プロフェッショ
います。
ています。
ナル制度」なるものも、いったん導入さ
ラ残業する」と言います。あるいは「仕
は、「残業代をつけているから、ダラダ
みにしないといけないと主張する人たち
働時間管理を外して成果にもとづく仕組
ち出されているのが大きな問題です。労
す理由づけとして、労働時間の短縮が持
さらにもう一つ、労働時間管理をはず
ます。
象をできるだけ広げてほしいと言ってい
会長などは、労働時間管理からはずす対
の拡大を求めます。すでに日本経団連の
が一日一〇時間、月一〇〇時間を超える
している大企業でも、時間外労働の最大
くらい長い。日本経団連の正副会長を出
ている時間外労働の最大もびっくりする
いことになっているし、そこで定められ
協定(三六協定)を結べば残業してもい
は、労働基準法第三六条にもとづく労使
と述べています。現在の日本の法制度で
ことができないようにすることが必要だ
で定めて、労使協定や労働契約で超える
日労働とか、深夜労働とかの限度を法律
ためには、第一に、時間外労働とか、休
川人さんは、過労死や過労自殺を防ぐ
ん。それが出発点だと思います。そのう
きちんと知らせていかなければなりませ
時間過密労働となっている職場の実態を
ていくためには、先に述べたように、長
て、このことを世の中に訴え、共感を得
を防ぐためにはぜひとも必要です。そし
この三つのことは、過労死・過労自殺
が必要です。
です。そういう職場づくりを求めること
それから若い人に配慮できる余裕が必要
いうことです。これが緊急避難的にはす
そういう関係をどれだけ広げられるかと
この組合員さんなら聞いてくれるとか、
この人に相談したら聞いてくれるとか、
合の存在感が求められていると思います。
るクライアント数、無理のない納期設定、 もう一つは、職場の仲間づくり、労働組
過大でない目標・ノルマあるいは担当す
ごく大切だと考えます。
場で実現するためには、適切な人員配置、 壊れそうになっている仲間を見たら「休
とはいえ、これらの課題を実現するに
ます。
れてしまえば、資本は必ずその適用範囲
事ができず、ダラダラ残業する人のほう
ような三六協定を結んでいるところがあ
えで、私たち働く者がそうとう力をつけ
一つは、自分が壊れそうになったら勇気
が、賃金が高くなるというのはおかしい」
ります。こんな状態では、過労死や過労
なければなりません。この間、議会の中
では、ブラック企業問題などで共産党の
これで本日の講義を終わります。
め」と言う勇気をもとうということです。
を出して休もうということです。同時に、
と言うんです。要は「労働時間が長いの
自殺はなくならない。だから、法律によっ
「それは本当か?」と問い返すことが
度を例外なしに決めることが必要なので
そして、以上の二つのことを本当に職
は、できないあなたたちが悪いんです」
て時間外労働や休日労働、深夜労働の限
ことです。
という主張です。
大切だと思います。そういう人がいるか
- 11 -
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〝変革の世紀〟に生きる青年・労働者のための
◎上野俊樹「見田石介著作集」
第3巻解説から
「(見田石介の『資本論』の方法
の研究は)、『論理=歴史説』を、
国際的な権威や他人からの借物によっ
てではなく自分の頭で徹底的に考え
ぬいたうえで批判したものである。
と同時にこれらの業績は、たんなる
批判や古典の解釈ではなく激動する
現実によって与えられる新しい問題
意識から古典を見なおし、それを解
釈し、現実を真理へと媒介する方法
論を創造的に発展させようという意
欲に満ちみちたものであった」。
第3回
学習テーマ
見田石介著
講師:上瀧 真生・流通科学大学教授
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(2)中央労働学校の運営活動について
第49回定期総会は「講師団の全面的な協力のもとで、内容を充実させ受講生の成長に向き合う講義の実現
を追求し一定の到達点を実現しています。これをすべての運営活動の中につらぬかなければ、毎回最初の一人
から準備する中央労働学校を前進させることはできません。」と、講義で勝ち取られている到達点を運営活動
に生かすことの重要性を指摘しています。第150期の運営活動に事務局長が改めて参加し、受講生の感想の
推移と講義との関わり、それと結びついた運営活動の方向性を明らかにするために事実を集め、分析を行って
きました。これは年間(3期)を通して一定の結論がつくり出されるのかどうか、しっかりと研究をすすめる
必要のある大きな課題です。以下の事は、第1回目の中間報告です。
毎回の講義感想を丹念に読み、そこから受講生の成長を認めることができました。明らかに第5課以後の感
想が変化しています。科学的社会主義を丁寧に学ぶことで労働者が成長している。この事実を運営活動に生か
すことが課題です。これまで運営活動は、受講生を成長させるための条件として講義をとらえていた(生き方
交流や職場交流などと同じような)のですが、基礎として土台として位置づけて理性的にも、感性的にも成長
させる活動へと変革することが必要です。そのためには、運営委員の科学的社会主義の学習を強めることが求
められます。
講義を要にして受講生の成長をとらえることは、出席受講生と欠席受講生の成長の度合いの違いを認識する
基本を提供することになります。欠席受講生への出席を促す活動は、成長をつくりだす対話活動です。講義や
感想、講師通信を深くとらえることがなければいきいきとこれを実践出来ません。
分散会討論が受講生の成長に大きく関わっていることも講義感想に現れています。重要な役割を持っている
わけです。それがつくり出されるのは、受講生同士の信頼関係がつくり出されてゆくからです。講師への信頼
関係の醸成と受講生同士の信頼関係の醸成は、講義に対する学習姿勢を確立することとが互い影響をあたえな
がら前進していると思われます。
運営委員会は、労働者が科学的社会主義を学び成長することに注目しそれを援助することが出来なければな
りません。まずは、職場から複数参加している集団受講が〝まとまる〟場合に職場に出かけて学習を援助する
ことを可能にしなければなりません。それがつくりだされるのは、運営委員会が科学的社会主義の学習と実践
によって成長した集団に生まれ変わることです。その第一歩として第151期の運営活動を成功させるために
5月、6月をかけて、レジュメと感想、講師通信をつかっての準備学習を行います。
(3)『学習の友』について
第49回的総会方針には、「〝継続する職場の学習教育運動〟を実現するために「『学習の友』研究会」を
4回開催し、『学習の友』の内容をどうみるか、労働者の階級的自覚の前進に寄与するためにどのように活用
するのか、などに関わる一定の結論を得ることができました。」との報告があります。これを土台に『学習の
友』活動を深めてきました。
「『学習の友』をまなぶ」冊子を5回発行してきました。第4号は、昨年の9月号から連載されていた田中
悠(日本民主青年同盟委員長)さんの『安心?面倒?ちょっとしたことで変る人間関係』を取り上げ、労働者
との〝対話の思想〟を提起しました。第5号は、牧野先生の連載「世界を変えることができる」を取り上げて
います。他の雑誌にはない、学習誌としての『学習の友』の魅力が強調できたのではないかと思います。労働
者を成長させる素材が『学習の友』にある! この事に確信をもたなければなりません。
『まなぶ』冊子の発行は、学習教育活動家が学習の対象として『学習の友』をとらえ学び、周りにひろげる
運動をすすめることが出来る〝武器〟をつくり出しているわけです。まず何回も『学習の友』を読んで学ばな
ければ「まなぶ」も活用できません。そして、職場で学習討論会を行い労働者を成長させてゆくことを目標に
もたなければ、読み合わせ感想会にとどまって継続させることは出来ません。それでは参加労働者が成長する
ことはできません。──以下略
(4)組織強化について
事務局を〝運動をすすめてゆく指導的組織〟として強化していく活動は、4つの課題を通して行われていま
す。週1回の事務局会議で意思統一したことが、すべての学習教育活動家に伝えられ実践が総括されて事務局
にまとめられ、さらに補強された方針をもって実践に望んでゆく。という循環をつくりだすことを目標にして
います。徐々にですが、そういう方向で運動が作り始められています。事務局員を中心にブロック会議、運営
会議が開催されています。現時点では、運動を成功させるために会議を開催し意思統一を強めてゆく、という
ことになっておらず「習慣的に開催」している状況があります。停滞し後退していても緊急の意思統一の場所
がもうけられず、1週間、1ヶ月が終わっているケースもあります。
さらに、ブロック会議が高め合う場所になっていないで、報告して終わるケースもあります。事務局員の目
的意識的な姿勢が求められています。──以下略
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◎第1回理事会(2015/4/29)への事務局からの活動報告
【1】到達点
◎年間総受講生数
セミナー 01年度 02年度 03年度 04年度 05年度 06年度 07年度 08年度 09年度 10年度 11年度 12年度 13年度 14年度 15年度
春の情勢セミナー
92
秋の情勢セミナー
84
現代経済学ゼミナール
96
35
63
71
79
66
75
41
74
69
76
76
72
120
77
57
80
61
52
62
51
84
63
67
84
80
34
46
59
41
62
35
61
81
58
61
77
70
59
61
98
312
299
353
514
合宿ゼミ
29
38
文化ゼミナール
集中セミナー
81
91
285
329
381
その他
97
133
105
69
79
222
104
28
36
35
114
小計
273
264
279
243
297
349
272
478
525
630
602
559
660
927
労働学校
302
304
308
306
314
221
189
168
203
207
196
233
210
205
82
年間総合計
575
568
587
549
611
570
461
646
728
837
798
792
870 1132
368
286
中央労働学校 01年度 02年度 03年度 04年度 05年度 06年度 07年度 08年度 09年度 10年度 11年度 12年度 13年度 14年度 15年度
春(2月∼4月
108
96
98
109
109
67
56
50
64
70
72
97
91
68
夏(6月∼8月)
93
104
116
90
109
89
71
55
71
75
64
72
58
82
秋(10月∼12月
101
104
94
107
96
65
62
63
68
62
60
64
61
55
年間総合計
302
304
308
306
314
221
189
168
203
207
196
233
210
205
82
82
京都学習協 集中セミナーの展開
(1)全体の動き
年度
2015年の1月から4月までに私たちは、「春の情勢
セミナー」「第150期中央労働学校」「第38回集中セ
ミナー」「現代経済学ゼミナール」の4つの課題を取り組
んできました。「春の情勢セミナー」以外は、前年度をう
わまわることができました。特に「経済学ゼミナール」は
過去最高の受講生登録になりました。
しかし、「経済学ゼミナール」は出席が最悪のレベル5
0%(46名)にとどまりました。2013年、2014
年と当日参加者を100%に近づけることを重視、活動の
中で強調してきましたが、運動の出遅れもあって当日対策
が打てませんでした。また、受講生からの「質問・感想」
用紙も準備されないという初歩的なミスがあり、これを即
座に解決する決断が出来ませんでした。こうしたことは近
年ないことであり、方針とかけ離れたものです。学習教育
運動の組織としてあってはならないことです。今年度は、
事務局を強めて運動を成功させることを組織強化の一番の
課題においていますが、そこでの対策の弱さが表れたもの
です。
4つの課題は、民間医療機関で働く労働者、京都府で働
く労働者の受講と広がりをつくりだしています。また、郵
政労働者の受講とひろがりも続いています。
2008
回数・日程
4回 6/1
労働法を考える
脇田 滋・龍谷大学教授
66
5回 8/3
労働者支配のイデオロギーとは
田辺 崇博・労働者教育協会事務局長
61
6回 10/5 21世紀の国際金融問題を学ぶ
奥田 宏司・立命館大学教授
56
7回 12/7 現代でも搾取はあるのか
上瀧 真生・流通科学大学教授
50
8回 4/5
野口 義直・摂南大学講師
58
石川 康宏・神戸女学院大学教授
90
脇田 滋・龍谷大学教授
63
麻生 潤・同志社大学准教授
51
エネルギーの転換と「地球」
韓国の労働組合運動から学ぶ
11回 9/20 恐慌は資本を〝どこに〟駆り立てるか
牧野 広義・阪南大学教授
57
13回 3/14 近現代史における日米関係
山田 敬男・労働者教育協会会長
58
14回 5/9 科学的社会主義の労働組合論
戸木田 嘉久・立命館大学名誉教授 102
12回 11/29
マルクスの〝哲学思想〟を学ぶ
2010 15回 9/23 日本型〝雇用・賃金構造〟は機能しつづけるのか
16回 10/17
上瀧 真生・流通科学大学教授
生熊 茂美・JMIU委員長
62
319
380
103
牧野 広義・阪南大学教授
55
18回 3/18 地方自治とはなにか
岡田 知弘・京都大学教授
83
19回 5/29 〝労働法〟原理と実際
萬井 隆令・龍谷大学名誉教授
48
財政危機と現代資本主義
河音 琢郎・立命館大学教授
50 312
エジプトの民衆革命とその影響
坂井 定雄・龍谷大学名誉教授
79
22回 12/4 弁証法について
牧野広義・阪南大学教授
52
23回 3/04 日本の〝幸福度〟を考える
角田 修一・立命館大学教授
62
24回 5/20 ドイツ資本主義
林 昭・龍谷大学名誉教授
47
25回 7/08 〝変革の哲学〟とは
牧野 広義・阪南大学教授
52 299
21回 9/25
2014
日本の労働組合運動の課題
出席%
285
17回 12/5 疎外された労働
2011 20回 7/10
2013
募集数 年間計
52
2009 10回 7/19
2012
講師
井手 幸喜・京都橘大学講師
9回 5/10 「資本主義の限界」を考える
2015
26回 8/05 〝自立 自助・共助〟のイデオロギーとの対決 浜岡 政好・佛教大学教授
88
27回 12/09 労働者階級の歴史的使命
吉井清文・関西勤労協会長
50
28回 3/31 戦後労働組合運動の源流を学ぶ
仲村 富夫・労働運研究家
72
29回 5/26 現代の社会福祉をどうとらるか
岡崎 祐司・仏教大学教授
86
30回 9/01 人間的価値とはなにか
牧野広義・阪南大学教授
57 353
31回 11/17 男女平等の社会へ
広井 暢子・日本共産党副委員長
65
32回 12/22 新自由主義と公共性
芦田文夫・立命館大学名誉教授
73
33回 3/16 自民党改憲草案批判
奥野恒久・龍谷大学教授
67
67
34回 5/25 ドイツの環境倫理思想と脱原発
牧野 広義・阪南大学教授
81
65
35回 7/27 過労死は何を告発しているか
森岡 孝二・関西大学教授
36回 9/21 アメリカの社会保障
河音 琢郎・立命館大学教授
71
78
37回 12/21 「福祉の思想」
牧野 広義・阪南大学教授
195
82
38回 3/22 生活の中の資本の論理・人間の論理
角田修一・立命館大学教授
73
79
39回 5/31 イスラムをめぐる 激動を学ぶ
坂井 定雄・龍谷大学名誉教授
41
40回 7/26 国民のくらしと憲法
奥野 恒久・龍谷大学教授
41回
42回
- 14 -
テーマ
3回 3/30 「日本の軍隊」はいま
100 514 80
114
が起こり、特に「人は何のために生きる
世代ですから、敗戦を境に価値観の転換
ではないかと思われます。この問いはひ
まざまな具体的な問題が含まれているの
多いことを感じ、驚いたり安心したりし
も私たちの青年時代と共通するところが
青年労働者たちと接してみると、案外に
ちが接する学生や、労働学校に来ている
ろうと思うのですが、しかし最近、私た
現代の青年たちはこれとは違っているだ
意識することが多かったと思われます。
しょうか。
のとして把握することが必要ではないで
たちはこの問いを、なるべく具体的なも
的内容は人によってさまざまですが、私
はさまざまに異なっていますから、具体
思います。人が置かれている現実の条件
現実が基礎となっていることが分かると
うですが、よく考えてみると、具体的な
のか」とか「人生の目的とは何か」とか、 どく難解で、観念的・抽象的な事柄のよ
ています。「人は何のために生きるのか」
という問題は、現代でも問題であり続け
るいは自分と他人との関係をどう構築す
「人は何のために生きるのか」という問
よせよせ問答。
「さばかりの事に生くるや」
「さばかりの事に死ぬるや」
石川啄木の歌に(『一握の砂』)
このような質問は、哲学の講義をして
ればいいのか模索が始まる時期にこの質
題は、極めて抽象的な問いかけで、これ
ているということでしょう。
いると、よく出される質問です。実はこ
に直接に答えることは困難な問題である
らしい歌の一つです。これは明治の青年
問が提出されることが多いとおおわれま
たちの精神状況をよく示していると思わ
す。言い換えると「人は何のために生き
に整理され体系立てられた答えは出来な
れますが、同時に現代にもよく通じるテー
の疑問はわりに古典的な質問ですが、現
いと思われます。そのうえで、この問い
マではないでしょうか。何とも生き難い
代でもよく問われる問題です。特に若い
現代社会は、さまざまな社会的な対立
は簡単なようでありながら、実はさまざ
この世、死んでしまいたくなるようでも
というのがあります。あまりにも早く世
や矛盾が渦巻いていますから、若者たち
まな具体的な問題が絡まっている複雑な
ということを、まず最初に告白しておき
は、子供の時に自然に身に着けた考え方
問題であり、また人々の思想的立場によっ
るのか」という問いは、青年の自我確立
この質問は「若い人が提起することが
とは違った考え方があることに気付き、
人が提起することが多いです。しかし実
多い」と今書きましたが、実は青年に特
それとの対立・葛藤の中で自己形成をし
あるが、やはり生きていたいという青年
を去った詩人・石川啄木のいかにも青年
有な質問といえるかもしれません。まず
の気持ち。しかし人生の目的について議
いのか、ここで改めて考えてみましょう。
子供たち(幼児たち)はこの疑問を持ち
て多様な答え方があるだろうと思われま
はいい、ともかくもこの人生を生きてみ
ていきます。その過程で「人は何のため
るべきだ、一回限りの人生なのだからと
ません。「人は何のために生きるのか」
すが、しかし何かのはずみで思い出し、
言っているようにも感じられます。いさ
論をしても簡単には答えは出ないよと彼
問い続けないわけにはいかない問いなの
す。したがって多くの場合、私たちはこ
私たち(筆者)の世代は、戦争中の小
ではないか。そしてこの問いは極めて抽
の問いを胸の奥にしまい込んでいるので
学生であり、敗戦後に中学生・高校生の
に生きるのか」という問いが生れます。
す。自分と他人との区別が意識され、自
生活を送った世代であり、第二次大戦後
さか観念的ですが、ほほえましい歌です。
これはいわば自然のことです。
分の生き方が探求され始める、自分を取
象的な形ではあるが、この中には実はさ
というのは、幼児が青年となり、自我に
り巻く世界(社会的環境)の中で、自分
の荒廃と混乱の時期に青春時代を送った
目覚めてきて、まず当面する問題なので
ましょう。比喩的な形で臨機応変の答え
関西大学名誉教授
を出すことは出来るでしょうが、理論的
鰺坂真
の過程でほとんど必然的に遭遇する問い
哲学 答える先生は
であるともいえましょう。
「人は何のために生きる
のか」「人生の目的とは
何か」、どのように考え
たらよいのでしょうか。
はこれに直接に答えることは案外に難し
哲学
…Question 05
い問題です。この問題にどう答えたらい
08
がどういう位置を占めればいいのか、あ
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ていません。特に福島原発の事故に見ら
や「労働の厳しさ」や「人間関係のむず
ふくまれているであろうということを感
れるように、原発の事故が一旦起これば、 かしさ」などへの極めて具体的な悩みが
じっと手を見る
取り返しのつかない環境破壊が起きる訳
人生の目的について明確な答えを見出せ
なくても、どんなに生き難い人生であっ
迫られています。また学問の府であるべ
ても、私たちも勇気をもって生きていこ
き大学が政府や財界によって歪められ、
じる必要がありそうです。
我に働く仕事あれ
こころよく
それを仕遂げて死なんと思う
成機関に変えられようとしています。こ
「人は何のために生きるのか」という問
石川 啄木
で、科学技術の非人間性は深刻な反省が
うではありませんか。
ところで、「人は何のために生きるの
か」というこの問いは、例えば青年たち
のような状況ですから、学生諸君がこれ
単なる資本家にとっての有用な人材の養
あまりにも有名な彼の歌ですが、ここ
が世間のしきたりや習慣、あるいは社会
には極めて具体的に彼の日々の労働と生
や政治に疑問を感じて、これらに反発し、
自由でありたい、主体的でありたいとい
を集約して、「人は何のために生きるの
らの問題に疑問を持たざるを得ないのは
か」という問いになっているのだと思わ
当然であり、そのようなさまざまの疑問
また彼は社会問題・政治問題にも敏感
れます。
活苦とそしてそれにもかかわらず前向き
で、例えば1910年に日本帝国主義が
誰でも具体的に生きているのですから、
う気持ちから出てくる問いであるかもし
朝鮮全土を日本領土として併合(いわゆ
「何のために生きるのか」という抽象的
の労働への意欲が感じられます。
化して、何が善であり何が悪なのか、何
る韓国併合)した際に、これを憤り、次
あるいは、この問いは、価値観が多様
が正義で何が不正義なのかといったこと
の歌を残したのでした。
れません。
が解りにくくなっていることから、どん
いは、現代の学生の場合、何のために学
に利用されるばかりで、労働強化や環境
な問いの中に、具体的な「生活の苦しさ」
な価値観をもって生きたらいいのかわか
らないという問いであるかもしれません。
朝鮮国に黒々と墨を塗りつつ
地図の上
秋風を聞く
あるいはこの問いは「人は何のために
働くのか」という労働の目的についての
味や価値について、抽象的なことを言っ
問をするのか、科学・技術は何のために
問いであったと思われます。
うな時代の現実を基礎として発せられた
人生の意味についての彼の疑問はそのよ
疑問を含んでいるかもしれません。現代
日本の超過密労働の現状から出て来る当
先ほど紹介した石川啄木も、先ほどの
然の疑問でありましょう。
歌だけ読むと「さばかりの事に死ぬるや」
ているようですが、彼は新聞社の校正係
「さばかりの事に生くるや」と人生の意
としての安い賃金によって、両親と妻子
はたらけど
破壊を引き起こすなど人類の福祉に役立っ
ん。科学は大企業・大資本の利潤のため
を養わなければならぬ明治の青年でした。 あるのかという問いであるかもしれませ
働けどなおわが暮らし楽にならざり
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カール・マルクス
『価値、価格、および利潤』
1865年の5月の終わりから6月27日の間に書かれる 初版1898年
第12〜13段落
ある商品の交換可能な価値を計算する時、私たちはその商品の原料に以前に用いられた労働の量、そして、
そのような労働が援助される道具、工具、機械そして建物に用いられた労働の量を加えなければならない。例
えば、ある一定量の綿の紡ぎ糸の価値は、紡ぐ過程の間に綿に加えられた労働の量、綿それ自体に以前に実現
された労働の量、使われた石炭、油、そして他の補助の物質に実現された労働の量、蒸気機関、紡錘、工場建
物に固定化された労働の量の結晶体である。例えば道具、機械、建物のようなまさしくいわゆる生産の諸道具
はより長い期間にしろより短い期間にしろ繰り返される生産の過程の間は何度も役に立つ。もしそれらが原料
のように一度に使い果たされるならば、それら全体の価値が生産する時にそれらが援助する諸商品にただちに
移ることになるだろう。しかし、例えば紡錘は徐々に使い果たされるのみであるので平均的な計算はそれが続
く平均的な時間、そしてある一定期間つまり一日の間平均的な消耗、もしくは摩滅に基づいてされるものであ
る。このようにして私たちは紡錘の価値のどれくらいが1日に紡ぐ紡ぎ糸に移されるか、そしてそれゆえ1ポン
ドの紡ぎ糸に実現された労働の総量のどれくらいが、例えば紡錘に以前に実現された労働の量に相当するのか
を計算するのである。私たちの現在の目的のためにはこの点にこれ以上とどまる必要は無い。
もしある商品の価値がその生産に用いられた労働の量によって決定されるならば、ある人が怠惰であればあ
るほど、不器用であればあるほど、彼の商品はより多くの価値のあるものになる、なぜならより多くの労働時
間がその商品を仕上げるのに必要とされるからだ、と思われるかもしれない。しかしながら、これは悲しい誤
りであろう。あなた方は私が「社会的労働」という語を使ったことを思い出すだろう、そして多くの点がこの
「社会的」と言う制限に含まれている。ある商品の価値がその商品の中に用いられた、もしくは結晶化した労
働の量によって決定されるという時、私たちはある所定の状態の社会において、ある一定の社会的に平均的な
生産の諸条件の下で、雇われた労働の所定の社会的に平均的な強度、そして平均的技術でもっておこなわれる
生産のために必要な労働の量のことを意味するのである。イングランドにおいては力織機が手織りばたと競争
するようになった時、以前の労働時間のたった半分の時間しか所定の量の紡ぎ糸を1ヤードの綿つまり綿織物に
変えるのに求められなかった。貧しい手織りばたの織工はかつて彼が働いていた9時間、10時間の代わりに今で
は1日に17から18時間働いていた。彼の20時間の労働の生産物は今やたった10時間の社会的労働時間、つまり
ある一定量の紡ぎ糸を織物へと転換するのに社会的に必要な10時間の労働に相当する。彼の20時間の生産物は、
したがって、彼の以前の10時間の生産物しかも価値を持たなかった。
◎BY HISASI ISIDA
今回のところではspindleスピンドル、紡錘という語が何度か登場
しました。糸を紡ぐための道具で、日本でも古く「つむ」と呼ばれ
る道具があったとか。マルクスの時代には馴染みのある道具であっ
たし、同時代の日本でも同じく馴染みのある道具として読者の頭に
イメージされたのでしょうが、馴染みの無い私には文字面だけでは
難しいものです。図鑑やインターネットなどの知識を借りて、当時
の主要な産業やそれにまつわる道具を調べるのも面白いことです。
社会的労働という言葉が再度登場です。今回はより具体的な中身
が書かれています。しかし、ここで「社会的」という語が「制限」
になる、という言い方が面白いと思います。
- 17 -
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MARX ENGELSを直訳で学ぶ。英語版全集から BY HISASI ISIDA
Value, Price and Profit.
Written: between end of May and June 27, 1865;
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全集VOL.20
In calculating the exchangeable value of a commodity we must add to the quantity of la
bour previously worked up in the raw material of the commodity, and the labour bestowed
on the implements, tools, machinery, and buildings, with which such labour is assisted.
For example, the value of a certain amount of cotton yarn is the crystallization of the
quantity of labour added to the cotton during the spinning process, the quantity of labo
ur previously realized in the cotton itself, the quantity of labour realized in the coal,
oil, and other auxiliary substances used, the quantity of labour fixed in the steam-eng
ine, the spindles, the factory building, and so forth. Instruments of production properl
y so-called, such as tools, machinery, buildings, serve again and again for longer or sh
orter period during repeated processes of production. If they were used up at once, like
the raw material, their whole value would at once be transferred to the commodities the
y assist in producing. But as a spindle, for example, is but gradually used up, an avera
ge calculation is made, based upon the average time it lasts, and its average waste or w
ear and tear during a certain period, say a day. In this way we calculate how much of th
e value of the spindle is transferred to the yarn daily spin, and how much, therefore, o
f the total amount of labour realized in a pound of yarn, for example, is due to the qua
ntity of labour previously realized in the spindle. For our present purpose it is not ne
cessary to dwell any longer upon this point.
It might seem that if the value of a commodity is determined by the quantity of labour
bestowed upon its production, the lazier a man, or the clumsier a man, the more valuabl
e his commodity, because the greater the time of labour required for finishing the commo
dity. This, however, would be a sad mistake. You will recollect that I used the word “s
ocial labour,” and many points are involved in this qualification of “social.” In say
ing that the value of a commodity is determined by the quantity of labour worked up or c
rystallized in it, we mean the quantity of labour necessary for its production in a give
n state of society, under certain social average conditions of production, with a given
social average intensity, and average skill of the labour employed. When, in England, th
e power-loom came to compete with the hand-loom, only half the former time of labour was
wanted to convert a given amount of yarn into a yard of cotton or cloth. The poor handloom weaver now worked seventeen or eighteen hours daily, instead of the nine or ten hou
rs he had worked before. Still the product of twenty hours of his labour represented now
only ten social hours of labour, or ten hours of labour socially necessary for the conv
ersion of a certain amount of yarn into textile stuffs. His product of twenty hours had,
therefore, no more value than his former product of ten hours.
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月刊:京 都 学 習 新 聞 発行は京都労働者学習協議会
学習・教育活動日誌
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2015/4/13~5/02
04/13(月)第11回事務局会議
04/14(火)第150期 本科 第15課 40%
・*知のESSCENCE5 現実をとらえる方法 ─唯物論と弁証法 =牧野広義・阪南大学教授
04/17(金)第150期 本科 第16課 38%
・資本主義が直面する人類史的課題 =細川孝・龍谷大学教授
04/19(日)第13回現代経済学ゼミナール 51%
・現代資本主義から将来社会への移行―その課題と諸条件 =友寄英隆・経済研究者
04/20(月)第12回事務局会議
04/21(火)第150期 本科 第17課 43%
・*知のESSCENCE6 マルクスの社会観・歴史観 =牧野広義・阪南大学教授
04/24(金)第150期 本科 第18課 40%
・科学的社会主義の運動論 ──変革の精神と科学の目 =永戸辰夫・京都学習
04/26(日)第150期 本科 交流発表会
──何を学んだか、問題意識の過去と現在
04/27(月)第13回事務局会議
04/28(火)第150期 本科 第19課 43%
・世界でひろがる社会変革の流れ =芦田文夫・立命館大学名誉教授
04/29(水)第49回定期総会 第1回理事会 第3回論点フォーラム
05/01(金)第150期 本科 第20課 60%
・人類の将来社会〝社会主義・共産主義〟とは =芦田文夫・立命館大学名誉教授
05/02(土)第4回常任幹事会
中央労働学校の講義は、学習会のよう
ではその役割を果たせない。それでは、
学校とはどういうものか……、201
5年度の新たな研究には欠かせない問
題です。
〝木村 元著「学校の戦後史」岩波新
書〟を読み始めると〝学校の「出口」
の変遷〟という興味深いブラフがあっ
た。90年代初頭から高校を卒業して
労働者になる割合が減り大学卒業者の
割合が増えている。中央労働学校の量
的後退と関係しているように思える。
「高い学識」をもった労働者を対象に
中央労働学校は企画されてきたのだろ
うか。
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