セラミックス界面化学 講義用資料(平成 27 年度) 1.セラミックスと界面

セラミックス界面化学 講義用資料(平成 27 年度)
1.セラミックスと界面の科学
セラミックスの応用 (応用化学シリーズ5 機能性セラミックス化学 (朝倉書店)より)
1.電子材料(誘電体、圧電体、絶縁材料、導電材料(電子伝導体、イオン伝導体))
2.磁性材料
3.光学材料(光ファイバー、蛍光材料、レーザー発振素子など)
4.構造材料(高靱性材料、超塑性材料、曲げ強度材料、クリープ材料など)
5.表面利用材料(吸着剤、触媒など)
6.生体材料(バイオセラミックス)
Ì 一部の例外を除き、気相や液相との接触をともなう ⇒ 界面の存在
Ì 表面は固体内部に比べてエネルギー的に不均質で高い状態にある。
⇒ 気相成分の固体表面への吸着や吸着した物質の反応(触媒反応)が起こる。
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2.固体材料の調製と界面現象
2-1.固体材料の調製法
表 固体材料の調製法
(1) 沈殿法: 金属塩の溶液(通常は水溶液)をアルカリで中和して沈殿(通常は水酸化物)やコロイドを生
成させる。沈殿を洗浄、乾燥後、適当な活性化処理をする。複合酸化物触媒は、複数の金属の沈殿を同時
に沈殿させるか(共沈法)、ゾルを同時にゲル化させると(ゾルゲル法)、均質な触媒が得やすい。沈殿生成時
の濃度、中和速度、pH、熟成時間、撹拌法などが生成する触媒の物性に影響する。
(2) 含浸法: 担体(適当な表面積、酸塩基性をもつ酸化物など)を金属塩溶液に浸した後乾燥し、触媒有
効成分を担体表面に分散固定する方法。吸着法、ポアフィリング法、最小湿潤法、蒸発乾固法などがある。
溶液の濃度、液量、乾燥速度、塩の種類、共存成分が分散担持状態に著しい影響を与える。
(3) イオン交換法: 担体表面のイオン交換能を利用して、活性成分イオンを含む溶液に担体を浸し、イオ
ン交換により活性成分を担体表面に固定化する方法。分散状態が均質になりやすいが、担持量はイオン交
換容量の制約を受ける。担持後、適当な洗浄を施してから乾燥する。
(4) 混練法: 担体と活性成分ゲルの混合スラリー、あるいは複数の活性成分ゲルのスラリーを練り合わせ
た後、乾燥させる方法。
(5) 気相合成法: 気体分子どうしの気相反応により触媒を調製する方法。超微粒子の SiO2、TiO2 などが
MClx+H2O→MOy の反応で合成される。
(6) 溶融法: アンモニア合成用鉄触媒やラネー金属が溶融法でつくられる。ラネーニッケルは Ni と Al の
比がほぼ 1:1 の合金から Al を NaOH 水溶液で溶出し、残った Ni 骨格を触媒として用いる。
(7) その他: 水熱合成法、気相析出(CVD)法、噴霧乾燥法、均一沈殿法、逆ミセル法、金属コロイド法な
どがある。
2-2.固体材料調製時における界面現象
【溶液中での核生成と沈殿の生成】
Ì水溶液反応によって生成する反応生成物にとって過飽和状態にあると沈殿が起こる。
Ì一般に、水溶液中の金属イオン(Mn+)は pH を上げると M(OH)n の形で沈殿する。
Ì沈殿の生成速度は相対過飽和度比 (C-Ce)/Ce (C:沈殿が起こる前の沈殿成分イオ
ンの濃度、Ce:沈殿させたい温度での溶解度)に比例する。この比が大きいほど多数の
核が発生して、沈殿粒子のサイズが小さくなる傾向がある。“溶液濃度を高くする”、“溶
液温度を低くする”、“核の成長を遅くするため撹拌を速くし、熟成時間を短くする”こと
により微粒子が得られる。
M(OH)n の水中での平衡関係:
M(OH)n = Mn+ + nOH-
KSP = [Mn+] [OH-]n
H2O = H+ + OH-
KW = [H+] [OH-] = 10-14
pX = -log[X]の関係を用いると、
pMn+ = (pKSP - n·pKW) + n·pH
(例題)
Ca2+=0.01mol/dm3 の水溶液において、Ca(OH)2 の沈
殿が生成し始める pH は?
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pH13 および pH14 では何%の Ca2+が沈殿するか?Ca(OH)2 の KSP は 5.5×10-6 である。
Ca2+=0.01mol/dm3 の水溶液では pH12.4 で沈殿する。
pH13 での Ca2+の平衡濃度: 5.5×10-4mol/dm3 なので、
94.5%が沈殿する
同様に pH14 では、99.9%が沈殿する。
共沈法の場合、金属イオンの種類により溶解度が異
なるため、不均一な沈殿が生成する。ただし、多くの
場合、最初に沈殿する水酸化物の粒子を核として、も
う一方の沈殿生成濃度に達していない水酸化物も不
均一核生成により沈殿する。沈殿が生成する pH の差
が 2 以内であれば起こる。
【ぬれ現象】
ぬれ ・・・・・ 固体面への液体の吸着現象
ぬれやすさ ・・・・・ 液体分子と固体表面の相互作用の程度
ぬれの評価 ・・・・・ 固体表面におかれた液滴との角度(接触角: contact angle)を測る
(a) θ = 0
(拡張ぬれ:spreading wetting)
液体は固体表面全体に広がり、表面をぬらす。
(b) 0 < θ < 90°
(浸漬ぬれ:immersional wetting)
液体は限られた領域の中で広がり、ある程度表
面をぬらす。
(c) 90° < θ < 180°
(付着ぬれ:adhesional wetting)
液体は固体表面に広がらず、できるだけ接触面
積を減らすように小さな球になる傾向
(d) θ = 180°
ぬれは全くなし
2-3.ぬれを利用した固体材料調製法
【含浸法(impregnation method)】
担体細孔中へ目的成分をしみ込ませて担体壁に固定させ、乾燥、焼成して目的成分
を担持する方法。担体壁への吸着が主な固定化機構である。
含浸法の種類
(a) 蒸発乾固法(evaporation to dryness)
担体を過剰の含浸液に浸した後、煮詰め、乾燥させる方法。吸着しにくいものでも強制
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的に沈着させるところから、乾燥時に成分が濃縮されて大きな粒子が生じやすい。
(b) 平衡吸着法(equilibrium adsorption)
含浸後、過剰の溶液を濾別し、吸着した成分だけを残す方法。担持量は溶液濃度、pH、
細孔容積による。酸化物担体の表面水酸基は pH により下式のように変化する。電荷が
0 となる等電点は担体により異なる。pH が低いと担体が正(+)に荷電するため、アニオ
ンが吸着しやすく、pH が高いとカチオンが吸着しやすい。
M - OH2+ ↔ M - OH ↔ M - O-
低い
←
pH
→
高い
Ex-1) Al2O3 に Pt を担持する場合
Pt 原料に塩化白金酸(H2PtCl6)を用いる Al2O3 の等電点は 7~9。塩化白金酸水溶液
の pH はそれより低い(pH 約 5)等電点以下の pH の溶液中では Al2O3 表面では、[Al
-OH2+]となっているので、アニオン([PtCl6]2-)を吸着できる。
Ex-2) SiO2 に Pt を担持する場合
SiO2 の等電点は 1~2。それより pH の高い溶液中では、表面は[Si-O-]となっている。
カチオンを吸着できる。
白金アンミン錯体([Pt(NH3)4]Cl2 など)を用いると、カチオン([Pt(NH3)4]2+)が SiO2 表面
の[Si-O-]に結合し、Si-OH の H+との交換が起こる。
(c) Incipient wetness 法
溶液を少しずつ加えて担体表面が均一に僅かにぬれはじめた状態(incipient wetness)
になった時点でやめる方法。前もって見積もった細孔容積分の溶液を含浸させる。
Pore-filling 法と実質的には同じ。
(d) スプレー法
担体表面を乾燥状態に保ちながら活性成分溶液を噴霧し含浸させる方法。Incipient
wetness 法の一変型といえる。
(e) 有機溶媒の使用
酸性金属塩で MgO を含浸する場合、水溶液系で行うと MgO が溶解してしまう。このよ
うな時にはアセトニトリルなどの非水溶媒を用いればよい。セラミックスではないが、活性
炭などの撥水性担体でも含浸速度をたかめるために有機溶媒を用いることがある。
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3.吸着現象の解説 化学吸着と物理吸着
3-1.吸着(adsorption)とは...(岩波理化学辞典より)
固相-気相、固相-液相の界面で、互いに接触する物質相が界面で化学変化を起こ
さない場合に、相の内部と異なる濃度で平衡に達する現象。
簡単には、“分子が固体表面で拘束された状態”を吸着という。
よく似た現象で吸収(absorption)があるが、一般的に化学反応をともなう。
Ì 表面は固体内部に比べてエネルギー的に
不均質で高い状態にある。
⇒ 気相成分の固体表面への吸着や吸着
した物質の反応(触媒反応)が起こる。
吸着過程の自由エネルギー変化 ΔG は
ΔG = ΔH − TΔS
吸着のエントロピー変化:
ΔS < 0
吸着の自由エネルギー変化: ΔG < 0
吸着のエンタルピー変化:
ΔH < 0
⇒ 吸着は発熱過程。-ΔH 吸着熱(kJ/mol)と表す。
3-2.物理吸着(physisorption)と化学吸着(chemisorption)
表 物理吸着と化学吸着の差
比較項目
物理吸着
化学吸着
吸着力
ファンデルワールス力
化学結合力
活性化エネルギー
ゼロ
ある
吸着熱
蒸発熱のオーダー
反応熱のオーダー
選択性
なし
ある
吸着速度
速い
遅い
吸着等温線
BET 型、
ラングミュア型
フロインドリッヒ型
吸着層
多分子層
単分子層
可逆性
可逆的
不可逆的
表面変化
なし
顕著
(界面化学、近澤正敏・田嶋和夫 共著(丸善)より)
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物理吸着とは
分子を無限遠から表面に向かって近づけると、まず分子間力のうち引力が作用してエネ
ルギーが低下。さらに近づけると斥力の支配が大きくなり不安定化(ポテンシャルエネル
ギーの増大)する。(ΔEa:吸着エネルギーで吸着熱に相当)
化学吸着とは
希ガス以外の原子が表面の極近くに接近すると、吸着原子や吸着分子と表面との間で電
子の授受が起き、いわゆる化学結合が形成され、吸着原子や吸着分子は表面近傍に強
く束縛される。化学吸着の場合、物理吸着と比較して、より表面近傍にポテンシャル最少
点がある。
(a) 水素結合(hydrogen bond)
固体表面に存在する極性官能基(-OH、-SH、-COOH、-SO3H、-NH2 、
>NH など)の水素原子が、吸着分子の電気陰性度の大きい酸素、硫黄、窒素、フ
ッ素、塩素などの原子の非結合電子対と直線的に結合した状態。
(b) 吸着電荷移動錯体(adsorption electron transfer complex)
電子の授受をともなう吸着現象
図 吸着に対する種々のポテンシャル曲線
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4.吸着の理論
吸着現象を利用するセラミックスでは、できるだけ
表面積をかせぐ目的で多孔質な材料を合成・利用す
る。多孔体は様々な細孔を有しており、表面特性は
細孔の大きさや分布に依存するため、その特性を知
ることは重要である。
4-1.吸着等温線
吸着量 V は、一定温度 T において吸着質気体の
圧力 P、あるいは溶液中の吸着であれば吸着質の濃
度と比例関係にある。
V = f (P) T ----- 吸着等温式
Ⅰ型~Ⅵ型の分類は IUPAC で
定義されている。
4-2.吸着等温式
(1) ラングミュア(Langmuir)の吸着等温式(Ⅰ型)
最も基本的な吸着等温線。単分子層以上の吸着が起こらないとき、例えば化学吸着で
見られる。
【3 つの仮定】
Ì 固体表面は均一で吸着質である分子や原子の吸着場所(サイト)は決まっている。
Ì 吸着した分子同士、原子同士は相互作用を生じない。
Ì 吸着サイトが占有されると吸着能力はなくなり、多分子層吸着は起こらない。
Ⅰ型等温線が見られる場合:
マイクロ孔やウルトラマイクロ孔をもち外部表面が細孔
表面と比較して圧倒的に小さい固体への吸着
被覆率(θ:全サイトに対する吸着しているサイトの割合)、吸着速度(dV/dt)、脱離速度
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(-dV/dt)、平衡吸着(dV/dt = -dV/dt)、吸着分子の圧力(P)の関係から、
V=
aPVm
: ラングミュア型吸着等温式
1 + aP
(V:平衡圧 P における吸着量、Vm:単分子層吸着量)
【課題】
吸着質が2原子分子(例えば H2 など)で、固体表面で解離吸着(A2 ↔ 2A)する場合の吸着
等温式を導出する。また解離吸着の妥当性を示すための方法を示すこと。
(2) BET の吸着等温式(Ⅱ型)
Ì 非多孔性の固体上で多分子層吸着が起こるときに得られる。
Ì Brunauer、Emmett、Teller によって理論的に導かれたもの。ラングミュアの式を多分
子層吸着まで発展させた形。
Ì 固体の表面積を知りたい場合、窒素を吸着質として、液体窒素温度で吸着等温式
を測定することで算出できる。
【5 つの仮定】
Ì 固体表面は均一で、吸着サイトの吸着エネルギーは同じ。
Ì 吸着した分子同士の間に相互作用を生じない。
Ì 二分子層以上の吸着では吸着熱は測定温度における吸着質の液加熱に等しい。
Ì 第一層~第 n 層の各吸着層に対してラングミュアの吸着式が成立。
Ì 吸着分子は多分子層に無限に吸着できる。
第一層目の吸着分子が第二層目の吸着サイトになり、第二層目の吸着分子が第三層目の
吸着サイトになるという吸着モデルを想定し、以下の吸着式が導かれた。
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V / Vm =
C ( P / P0 )
[1 − ( P / P0 )] ⋅ [1 − ( P / P0 ) + C ( P / P0 )]
(V:吸着量、P/P0:相対圧 ----- 実測値)
P/[V(P0-P)] vs. P/P0 のプロットから Vm(単位表面を覆うのに必要な気体分子の体積)を求
め、Vm 値から表面積を算出する。
(3) その他の吸着等温式
(界面化学、近澤正敏・田嶋和夫 共著(丸善)より)
Henry 型、Freundlich 型と呼ばれる実験式から得られた等温線があるが、平衡圧が低いとこ
ろで Langmuir 型と BET 型の区別が困難なので、ここでは考えない。
4-3.吸着科学的手法による固体材料の評価
測定項目
研究対象および内容
表面積
触媒、吸着剤、焼結、粉砕、粒度、反応(脱水、脱炭酸、複分解などの分解反応)
細孔分布
触媒、センサー、透過、分離、フィルター、焼結、充填構造、ガスクロマトグラフィ
ー
化学的性質
触媒活性、酸・塩基(強弱・量・分布)、反応性、官能基、親水性、疎水性、親油
性、吸着熱、吸着量、表面電場
吸着状態
官能基、表面・界面現象
吸着層の状態
気体、液体、固体
(界面化学、近澤正敏・田嶋和夫 共著(丸善)より)
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表面積
窒素などの固体表面と反応しない気体の物理吸着を利用した BET 法が広く用いられる。
液体窒素温度において窒素の吸着量を測定し、単分子層吸着量 Vm を測定する。
BET プロットより求めた Vm に吸着分子の断面積をかけると表面積が求まる
S = Vm・NA・σ/W
(Vm:単分子層吸着量(mol)、NA:アボガドロ数、σ:分子断面積(m2)、W:試料重量(g))
【BET 一点法】
BET プロットが成立する相対圧は P/P0 = 0.05~0.35。
一点法は BET プロットにおいて原点と測定点を結んだ直線の傾きから Vm を求める方法。
BET プロットに近似するように、P/P0 = 0.30~0.35 になるように吸着量を測定する。
Vm = V (1 − P / P0 )
P = 252.5mmHg、V = 110.6 cm3/g → 表面積 S = 321m2/g
【課題】
アルミナ 0.5g に対する液体窒素温度での窒素吸着量を測定し、下記 2 点のデータが得られ
た。この 2 点のデータを使ってアルミナ 1g あたりの比表面積を算出すること。算出過程も記
載すること。なお液体窒素温度での窒素の飽和蒸気圧は 760mmHg、窒素分子の断面積は
0.162nm2 である。
平衡圧(P)
吸着量(V)
76mmHg
40cm3
182mmHg
50cm3
固体の細孔径分布
セラミックス材料の焼結程度により空隙や空孔が発生し、セラミックスの物理的・化学的特性
(吸着、気体・液体の透過性、防音、断熱・膨張・収縮、流動性、機械的強度など)を支配す
る。細孔径の大きさを測定することは材料特性を理解するためには重要。
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細孔をもつ固体への吸着ではⅣ型もしくはⅤ型の吸着等温線が得られる。
⇒ ヒステリシス現象の出現。この現れ方が細孔の形と大きさに依存
【Kelvin 式と毛管凝縮】
Kelvin 式: 液体の示す飽和蒸気圧が液体表面の曲率に依存し、半径 ρ の液滴の示す飽
和蒸気圧 p と液体表面の示す飽和蒸気圧 p0 の関
係式
ln( p / p0 ) = 2Vmγ / RTρ
(Vm :液体のモル体積、γ:表面張力、R:気体定数、T:絶対温
度)
毛細管や細孔中に液体があるとき、液面メニスカスができる
ln( p / p0 ) = −(2Vmγ / rRT ) cosθ
(ρ = r/cos θ)
p < p0 --- 毛細管中では液化が起こる
⇒ 毛細管凝縮
【ヒステリシスの機構】
吸着過程のメニスカスの形成と脱離過程のメニスカスの消滅が異なるメカニズムで起こること
によるものと説明
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【ヒステリシスの型と細孔の形】
【細孔径分布】
細孔径分布は吸着等温線から計算する。いくつかの手法がある。
一般的には吸着等温線の脱離曲線から細孔径分布を求める。
⇒ 脱離過程での平衡圧の方が吸着過程での平衡圧より低いためギブスの自由エネル
ギーも小さくなり、脱離側等温線の相対圧の方がより安定な吸着状態にあるため。
細孔径分布の解析方法
(1) t-プロット(比較プロット)
実験式に基づくマイクロ孔の評価法。細孔内と細孔外の表面積ならびにマイクロ孔の分
布が求まる。
(2) DR 法
マイクロ孔の解析に使われる手法。
(3) BJH 法
主にメソ孔の細孔分布を解析する手法。細孔は全て円筒型を想定し、Kelvin の式を基
に算出。Al2O3 などの細孔径を求める際によく用いられる方法。
(4) 水銀ポロシメトリーによる細孔径分布
水銀を細孔内に入れるために圧力をかける必要がある。圧力と細孔内に入った水銀量
を求め、細孔分布を解析する。市販装置では最大 4000atm まで圧力がかけられる。
1.8nm までの細孔半径まで測定可能であるが、それ以下の測定は困難。
化学的性質
化学吸着を利用し、固体酸塩基特性、金属粒子表面の電子状態などの化学的性質を評
価する。
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5.吸着の応用
【吸着剤としての条件】
Ì被吸着質の濃度が低くても吸着量が大きいこと
Ì吸着質に対する選択性が高いこと
Ì長期間の使用に耐えうること
Ì吸脱着が容易に行えること
Ì物理的・化学的に安定なこと
表 代表的なセラミックス系吸着剤とその主な用途
活性炭
ゼオライト
シリカゲル
特徴
疎水性が強いために水溶液から
の吸着に適する
バラエティに富む製品製造が可
能
分子ふるいによる高い選択的吸
着特性が得られる
主な用途
有機溶剤の回収
空気浄化と脱臭
上水処理
放射性物質の除去など
空気の分離
天然ガスの精製
気体の乾燥など
各種乾燥剤
クロマト分離用カラムなど
極性分子に対して強い吸着作用
がある
表面積や細孔径分布が広範囲
に可変である
(応用化学シリーズ5 機能性セラミックス化学 (朝倉書店)より)
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(触媒化学、御園生誠、斉藤泰和 共著 (丸善)より)
ゼオライトの種類は構造骨格によって現在 194 種類が登録されている
(http://www.iza-structure.org/databases/)
(使用例)
・ 吸着デシカント式空調機器への水分吸着剤として利用
・ 原子炉汚染水中の Cs イオンの吸着除去
6.触媒化学の基本的概念
化学吸着した物質が固体表面で反応をともなう場合、吸着剤を「触媒」とよび、反応現象を
「触媒反応」とよぶ。
(1) 触媒の定義
化学反応系に少量存在して、化学反応を著しく加速したり、特定の反応だけを起こしたり
するが、それ自身は反応の前後でほとんど変化しない物質を触媒(catalyst)という。
ある種の物質が化学変化を引き起こす作用を触媒作用(catalysis)とよぶ。
(2) 身近に使われている触媒・触媒作用
(a) 臭いのしない石油ストーブ、煙の出ないグリル:不完全燃焼生成物の酸化
(b) 空気清浄機・トイレの脱臭装置・たばこの分煙器など:オゾン分解
(c) 包装フィルム・冷蔵庫・青果倉庫など:エチレンガスの分解
(d) 光触媒:空気清浄機、防曇ミラー、建物建材
(e) 触媒栓式蓄電池(遮断器、非常灯などに使用): 水素の酸化
(f) 使い捨てカイロ
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(環境調和型新材料シリーズ 触媒材料 (日刊工業新聞社)より)
(3) 触媒反応について (触媒化学、御園生誠、斉藤泰和 共著 (丸善)より)
(a) 化学反応の速度と平衡
A ↔ B の可逆反応において、A から出発し ても
B から出発しても同じ組成(平衡組成)に到達す
る。しかし、到達する速度は触媒により異なる。
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下し、新しい触媒への交換が必要になる。
(iv) 低環境負荷(グリーンケミストリー)
特に、化学プロセスにおける省エネルギー
化や低環境負荷プロセス化。
副生成物の併産が不可避な化
学量論反応を使わない、有害な
原料を使う反応や有害な副産物
を伴う反応を回避したプロセス。
(c) 触媒作用のからくり
CO 酸化反応: CO + 1/2O2 → CO2
無触媒では反応が進行しないが、触媒に
よりエネルギー障壁の小さい素反応が組
み合わされた新しい反応ルートが出現し、
反応が進行する。
Ì 酸素分子の結合を切断する反応が容易に
起こる
Ì 表面に生成した酸素原子の反応性が高い
Ì 反応が終わると触媒が元に戻る
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分子のエネルギー分布
濃度
温度
分子数
(b) 触媒の三大機能+α
“活性”、“選択性”、“寿命”
(i) 活性
最も基本的な機能。触媒なしでは起こ
らない反応が触媒の存在により起こる。
(ii) 選択性
可能性のある複数の反応のなかから、希望
する反応を選んで進行させる能力。
(iii) 寿命(耐久性)
実用上特に重要。
定義によると触媒は変化しないことになって
いるが、実際には使用中に次第に機能は低
触媒が活性化エネルギー
を下げる
エネルギー
活性化エネルギー
(活性化エネルギー以上の運動エネルギーを
持って接近した分子が反応する)
7.反応速度論の基礎
逐次反応:
“A → B”、”B → C”とも一次反応
(右図:k1 = 2k2 の場合)
① 時間 0 では[B]が 0 なので C の生成速度は 0
(d[C]/dt = 0)
② [B]に極大点がある
③ [C]の変化に変曲点がある
B が不安定な中間体で反応性が高い場合、k2>>k1 となることから、[B]は非常に小さくなる
[A] + [B] + [C] = [A]0 Æ [A] + [C] = [A]0
d[A]/dt + d[B]/dt + d[C]/dt = 0 Æ d[A]/dt + d[C]/dt = 0
反応性が高く、濃度の非常に小さい中間体について、その濃度変化を無視する近似
(d[B]/dt =0)を定常状態近似をいう([A]の減少量 = [C]の生成量)
7-1.定常状態近似法
A
r1
r-1
B
r2
r-2
C
r3
r-3
D
r4
r-4
E
定常状態とは、反応開始直後や平衡状態から離れたところで、定常的に反応が進行してい
る状態、中間体(B,C,D)の濃度の時間変化が無視できる状態をいう。すなわち、中間体の
生成速度と消失速度が近似的に釣り合っている状態である。
d [B ] d [C ] d [ D ]
=
=
=0
dt
dt
dt
よって
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d [ B]
= r1 + r− 2 − r−1 − r2 = 0
dt
d [C ]
= r2 + r−3 − r− 2 − r3 = 0
dt
d [ D]
= r3 + r− 4 − r−3 − r4 = 0
dt
1,2,3,4の反応について正逆反応の速度差が全て等しいというのが定常状態である。そ
してこの差が全反応速度 r、すなわち A の消失速度および E の生成速度に等しい。
7-2.律速段階近似法
速度の速い素過程、A⇔B を例に取ると、”r1 ≈ r-1”のように、近似することが可能になる。
これが予備平衡の仮定である。反応全体が平衡に達していなくても、構成する素過程が見
かけ上ほぼ平衡状態にあると見なすことができる。
右向きの速度の中で、最も速度が小さく、robs の大きさに近い過程を律速過程(rate
determining step)という。この素過程の速度が全体の速度を決定(律する)されている。
このような場合、全反応速度が律速過程の速度(rrds-r-rds)と等しいとおき、ほかの素過程を
平衡状態にあると近似して取り扱う。律速段階近似法という。
平衡定数を
K1=k1/k-1、K2=k2/k-2、Krds=krds/k-rds、K3=k3/k-3、K=[E]/[A]
とすると、
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8.表面反応と触媒作用
8-1.不均一触媒反応(反応分子が気体、触媒が固体)の過程
(2) 吸着
(1) 拡散
(5) 拡散
(4) 脱離
(3) 表面反応
「(2)吸着、(3)表面反応、(4)脱離」は化学的なステップ
8-2.表面反応と触媒反応速度式
反応物質 A が触媒Sと反応中間体 A-S を形成し、この中間体から生成物 B が生成す
る反応を考える。実際の触媒反応では、触媒表面に反応が起こる“活性点”が存在し、
その“活性点”に反応物質が吸着して反応する機構を考える
A+S
A-S
B-S
k+1
k+2
A-S
k-1
B-S
B+S
(1) ----- 吸着過程
(2) ----- 表面反応 ← 律速段階
(3) ----- 脱離過程
(1)式が吸着平衡にあって、吸着した A-S が律速段階(2)式により生成物を与える。
さらに、活性点が均質で吸着分子間同士の相互作用はない。
Ì
Ì
Ì
Ì
表面にある活性点の数:N
反応物質 A が吸着している活性点の割合:θ (被覆率)
空いている活性点の割合: (1-θ)
反応物質 A の分圧:PA
吸着平衡: k +1 PA (1 − θ ) = k −1θ
(吸着速度) (脱離速度)
被覆率:
θ=
K A PA
(吸着平衡定数 KA = k+1/k-1)
1 + K A PA
19
反応速度: v = k + 2 Nθ =
Nk+2 K A PA
1 + K A PA
--- Langmuir 型の反応速度式
【二種類の反応機構】
より一般的には、「A + B → C」という反応を考える必要がある。
その場合、触媒表面では次の二種類の反応機構の存在が考えられている。
B
A
A
B
C
C
B
A
A
B
A
B
A
Eley-Rideal機構
Langmuir-Hinshelwood機構
ÌL-H 機構:活性点にそれぞれ吸着した吸着分子 A、B 間での反応で C が生成する機構
ÌE-R 機構:吸着した一方の分子を他方の分子が気相から(あるいは弱く吸着してから)
衝突、反応して生成物を与える機構
(a) L-H 機構
(I) 反応物質 A と B が同じ活性点に競争的に吸着し、ともに Langmuir 式に従い、吸
着種同士の反応が律速の場合
A の吸着平衡: k + A PA (1 − θ ) = k − Aθ A →
θ A = K A PA (1 − θ )
B の吸着平衡: k + B PB (1 − θ ) = k − Bθ B →
θ B = K B PB (1 − θ )
L-H 機構の反応速度: v = kNθ Aθ B
(1 − θ ) =
1
1 + K A PA + K B PB
v=
Nk+C K A PA K B PB
(1 + K A PA + K B PB ) 2
反応温度、B の分圧を一定にして、PA を変化させる場合、
KAPA << 1+KBPB → PA に対する反応次数は 1 次になる
KAPA >> 1+KBPB → PA に対する反応次数は-1 次になる
(b) E-R 機構
A の吸着平衡は k +1 PA (1 − θ A ) = k −1θ A 、被覆率は θ A =
20
K A PA
1 + K A PA
kNK A PA PB
1 + K A PA
E-R 機構の反応速度: v = kNθ A PB =
B の分圧に対する依存性は常に 1 次。A の分圧依存性は 0~1 の間で変化。
【その他の反応機構】
☆ Redox(レドックス)機構
(例)単純な酸化反応である CO の酸化反応を考える
xCO + MO
x/2 O2 + MO1-x
xCO + x/2 O2
r1
r2
xCO2 + MO1-x
MO
xCO2
触媒の酸化速度と還元速度は還元度 x に直線的に依存すると考える
還元速度:
r1 = k1 (1 − x) PCO 、 酸化速度:
定常状態では、 r1 = r2 なので、 x =
r2 = k 2 xPO 2
k1 PCO
k1 PCO + k 2 PO 2
CO の酸化速度は還元速度と等しいので、 r = r1 =
k1 PCO k 2 PO 2
k1 PCO + k 2 PO 2
(i) 酸化物の還元が進行しやすい場合:k1 >> k2
r = k 2 PO 2 --- 触媒の酸化が律速(酸素の吸着が律速)
(ii) 酸化物の酸化(酸素の吸着)が進行しやすい場合:k1 << k2
r = k1 PCO --- 触媒の還元が律速(CO の酸化が律速)
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9.触媒の構造と物理化学的性質:触媒機能制御
【固体触媒の活性点の構造】
金属酸化物の表面は、通常、OH 基(吸着水)や CO3 基(炭酸)で覆われている。
⇒ 熱処理により表面 OH 基や CO3 基が脱離し、酸化物イオンと金属イオンが表
面に露出する
⇒ 触媒の活性化
塩基点
OH
OH
O Al O Al O
-H2O
O
O Al O Al O
Lewis 酸点
【固体表面の酸・塩基特性】
ブレンステッド(Brφnsted)酸・塩基
特定サイトにおいてプロトン(H+)の移動がともなっている場合に定義される。
SH + A
S- + AH+
⇒ 表面の特定サイト SH は反応物質 A に対し H+を供与: SH は酸点
SH + BH
SH2+ + B-
⇒ 反応物質 BH から H+を受容: SH は塩基点
ルイス(Lewis)酸・塩基
特定サイトにおいて電子対の受容あるいは供与がある場合に定義される。
⇒ 電子対を受け取るサイトはルイス酸点。供与するサイトがルイス塩基点。
固体表面酸・塩基特性の評価
量、強度、タイプに分けて評価を行う
量:
触媒重量あるいは表面積当たりのサイト数
例えば、NH3 や CO2 を吸着させ、その脱離量から量を評価する。
モデル反応の評価
強度: NH3 や CO2 の脱離温度から強度を推察する。
指示薬(10 種類以上の pKa 値の異なるものを使用)の色の変化を観察
⇒ 指示薬の pKa(酸強度)や pKB(塩基強度)が異なる数種類を使
い、酸点に吸着すると酸型に変型し、変色する現象を利用。指
示薬の pKa より強い酸点に吸着すると変色する。酸強度の分
布が得られる。
モデル反応の評価
タイプ: Brφnsted 酸あるいは Lewis 塩。ピリジン吸着の IR 測定により判定。
22
【配位不飽和サイト】
触媒表面には配位数の異なるサイトが存在する。ステップやコーナー、キンク、エッジ
などに位置している表面原子の配位数は少ないので、不飽和結合性が高く(表面エ
ネルギーが高い)、反応性に富んでいる。
(例)Fe の結晶面によるアンモニア合成速度の変化
Fe(111):Fe(100):Fe(110) = 420:25:1
結晶面の影響は粒子を小さくすることによって顕著に現れるようになる。
23
【酸化・還元性(Redox)】
酸化反応において重要なファクターとなる。
酸化反応: (1) 酸素分子の解離吸着(触媒の酸化)
(2) 還元性物質(例えばプロピレン)の酸化(触媒の還元)
酸素の表面への吸着は弱いが、
プロピレンの酸化活性は高い。酸
素の解離吸着が律速。
酸素分子は酸化物表面にすばやく解離
吸着するが、結合が強いため、プロピレン
の酸化反応が律速。
【触媒の活性劣化と対策】
(a) 活性劣化と寿命
触媒の定義: (前略)反応前後でほとんど変化しない物質(後略)
実際は、使用過程で触媒の性能は劣化していく。
⇒ 反応条件(温度や圧力など)を修正することで性能を維持するが、それでも
十分な性能が得られなくなると触媒の再生あるいは交換が必要になる。
反応
アンモニア合成
メタノール合成
エチレンの酸化
(エチレンオキシド合成)
水蒸気改質
(メタン,水→CO,H2)
接触改質
重油脱硫
自動車触媒
表 実用触媒の寿命の例
触媒
代表的反応条件
Fe-Al2O3-K2O
500°C, 300atm
Cu-Zn-O
300°C, 70atm
Ag/Al2O3
230°C, 1atm
寿命 / 年
5~10
2~8
1~4
Ni/CaAlO3
700°C, 30atm
2~4
Pt-Re-Cl2/Al2O3
Co-Mo-Al2O3
Pt,Rh,Pd/Al2O3
550°C, 11atm
400°C, 100atm
100~800°C, 1atm
12
1
10
(触媒化学、御園生誠・斉藤泰和 共著(丸善)より)
24
(b) 触媒性能の劣化要因
① 毒物質による触媒活性点の被毒
② 炭素質の析出
③ 活性成分の変質(化学変化、相変化)と散逸(揮散、溶出)
④ 活性成分、担体のシンタリング
⑤ 機械的・熱的破壊
(c) 触媒のシンタリング
Ìセラミックスでは均一な結晶粒子を得るために高温で焼結させる。
Ì触媒反応は表面反応なので、微粒子ほど活性は高い。しかし、微粒子ほど表面エ
ネルギーが高いため、シンタリングが起こりやすい。
担体酸化物のシンタリングはセラミックスの焼結と類似のプロセスで起こる。
担体に分散担持された触媒粒子は、現象論的に粒子の分散度に対して次式に従っ
てシンタリグが進行する: dD/dt = -kDn (D:分散度、n:2~10 の値)
Ì還元雰囲気下でのシンタリングの起こりにくさ(金属の融点が高いほど起こりにくい)
Ag<Cu<Au<Pd<Fe<Ni<Co<Pt<Rh<Ru<Ir<Os<Re
Ì酸化雰囲気下でのシンタリングの起こりにくさ(酸化物の蒸気圧と相関)
Os<Ru<Ir<Pt<Pd<Rh
(d) 活性劣化の対策
活性劣化の要因を解明し、それを取り除くための対策をたてる
Ì活性成分の担持状態の制御(細孔内担持、粒子内部での担持など)
Ì担体の選択(金属との相互作用)、添加物、合金化など
25
10.固体の表面・界面の評価
表 触媒の主な物理的性質とその測定法
性質
形状、粒径
表面積
細孔分布
担持金属粒径(分散度)
元素組成
結晶構造
測定法
顕微鏡(光学、電子)
物理吸着法(静置法、流通法)
水銀圧入法、物理吸着法(N2、Ar)
化学吸着、X 線小角散乱、電子顕微鏡
原子吸光、ICP
X 線回折
(触媒化学、御園生誠、斉藤泰和 共著(丸善)より抜粋)
表 代表的な機器分析と得られる情報
解析法
X 線回折法(XRD)
得られる情報
結晶構造。ピークの解析から結晶子径(必ずしも粒子径では
ない)や格子歪に関する情報が得られる。低角度側の散乱部
分の解析からナノ粒子の平均粒子径が推定できる(X 線小角
散乱:SAXS)
走査型電子顕微鏡(SEM) 触媒粒子の形状、粒子径が直接観察できる
透過型電子顕微鏡(TEM) EDX(エネルギー分散型 X 線分析:XRF の一つ)との併用
により、SEM。TEM の観察オーダーでの局所元素分析が可
能。TEM では電子線回折によりナノ領域での構造解析が可
能。
走査トンネル顕微鏡(STM) 原子サイズの分解能を持ち、原理的には原子、分子の直接観
原子間力顕微鏡(AFM)
察が可能
X 線光電子分光法(XPS)
表面の原子組成や電子状態、吸着分子の電子状態、表面組成
オージェ電子分光法(AES) 分析や表面組織の解析ができる。
紫外・可視分光法(UV-Vis) d-d 遷移、金属との配位子間の電子遷移から、価数、配位構
造、配位子場などの情報が得られる。固体のバンド間遷移(吸
収端)の解析からバンドギャップエネルギーが見積もれる。
X 線吸収分光法(XAFS)
X 線吸収近傍構造(XANES)の解析から、測定原子の電子
状態、結合(配位)している原子の種類、結合様式、配位構
造に関する情報が得られる。
広域 X 線吸収微細構造(EXAFS)の解析から、測定原子の
周囲の局所構造(結合距離、配位数、構造の乱れ)に関する
情報が得られる。
赤外吸収分光法(IR)
分子等の結合や構造に関する情報が得られ、吸着種、反応中
ラマン分光法
間体の同定、XRD で検出できない固体の構造の同定などが
可能
核磁気共鳴法(NMR)
溶液 NMR は主に有機化合物の構造解析に、固体 NMR は測
定対象原子の配位環境(配位数、配位元素の種類など)の測
定に用いられる。
昇温脱離法(TPD)
原子・分子を吸着した固体表面の温度を上げるにつれて表面
との結合の弱い分子種から強いものへと順次脱離して圧ま
たは濃度のピークを生じ、温度についての脱離分子種のスペ
クトルが得られる。酸性評価の場合、アンモニアなどの塩基
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昇温還元法(TPR)
昇温酸化法(TPO)
性ガスの吸着脱離を観測し、塩基性評価の場合は CO2 などの
酸性ガスを使用することが多い。
還元性ガス(水素や CO)、酸化性ガス(O2)流通下で触媒層の温
度を一定速度で昇温させ、昇温中における触媒の還元挙動や
酸化挙動を調べる。不定比性酸化物や担持金属(貴金属)の還
元・酸化特性の評価。
(触媒便覧、触媒学会/編(講談社)より)
【化学吸着を利用した金属粒子径の評価】
ÌH2 や CO の不可逆吸着量の測定
⇒ 貴金属上には CO は強く化学吸着し、また H2 は解離吸着することを利用
Ì簡単に不可逆吸着量を測定する方法はパルス法
斜線部分が不可逆吸着量:斜線部分の総和を算出
(例題)
1wt% Pt/Al2O3 への CO 吸着量が触媒 1g あたり 1.0ml であった場合の Pt 分散度と Pt 表面
積ならびに Pt 粒子径を算出せよ。ただし、25℃、1 気圧とする。
【分散度】
吸着 CO のモル数: 4.46×10-5mol/g
触媒 1g 中の Pt のモル数: 5.13×10-5mol/g
Pt の分散度: DPt = nCO/nPt = (4.46×10-5/5.13×10-5) = 0.87
【表面積】
定数: Pt 原子の金属結合半径: 0.1390 nm
Pt 密度: 21.450 g/cm3
Pt 1g あたりの表面積: [(4.46×10-5mol/g)×(6.02×1023)]×[(1.39×10-10)2×π] / (1/100) =
163 m2/g-Pt
【粒子径】
表面積(S) = 6/[ρ(密度)×d(粒子径)]
Pt 粒子径: 1.72nm
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参考図書
1.応用化学シリーズ5 機能性セラミックス化学 掛川一幸・山村博・守吉佑介・門間英毅・
植松敬三・松田元秀 著 (朝倉書店)
2.界面化学 近澤正敏・田嶋和夫 共著 (丸善)
3.化学セミナー16 吸着の科学 近藤精一・石川達雄・安部郁夫 共著 (丸善)
4.触媒化学 御園生誠・斉藤泰和 共著 (丸善)
5.現代化学への入門14 表面科学・触媒科学への展開 川合真紀・堂免一成 著 (岩波
書店)
6.新しい触媒化学 菊地英一・瀬川幸一・多田旭男・射水雄三・服部英 共著 (三共出
版)
7.環境調和型新材料シリーズ 触媒材料 (社)日本セラミックス協会編 (日刊工業新聞
社)
8.固体表面キャラクタリゼーションの実際 田中庸裕・山下弘巳 編 (講談社サイエンティフィ
ク)
9.トコトンやさしい触媒の本 触媒学会編 (B&T ブックス:日刊工業新聞社)
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