高濁度原水対応の手引き - 身近な生活環境研究委員会

第17回日本水環境学会シンポジウム講演集(2014年9月)
「高濁度原水対応の手引き」を用いた中小規模水道事業体支援
(公財)水道技術研究センター
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相澤貴子, 中川勝裕, 安積良晃
小澤憲司, 富井正雄, 安藤茂
Study of Practical Supporting Systems for Small Water Utilities using guidance of Managing High Turbidity in Raw
Water. by T.AIZAWA, K.NAKAGAWA, Y.ASAKA, K.OZAWA, M.TOMII, S.ANDO (JWRC)
1.はじめに
近年の異常降雨や流域の荒廃等が原因で原水濁度が上
昇し、浄水施設での対応が十分にできずに大規模な断水
事故が発生する事態は年々増加する傾向にある。これら
の事態は、市民生活や地域経済活動に大きな影響を及ぼ
すだけでなく、水道事業に対する需要者の信頼を失い、
水道事業経営にも多大な損失を与えることとなる。
特に国内で大多数を占める中小規模水道事業体では、
経営状況の悪化に加え、施設の老朽化、熟練技術者の減
少等で基盤の弱体化が懸念される状況にあり、水源域の
水質変動に対する対応の遅れが重大な水質事故の発生リ
スクを高めることになる。
このような状況を踏まえ、特に中小規模水道事業者に
対する支援が必要と考え、
厚生労働科学研究費補助金
「経
年化浄水施設における原水水質悪化等への対応に関する
研究」(平成 23 年~25 年度)を実施し、濁度による水質
事故の防止と給水の安定供給を目標に「高濁度原水への
対応の手引き」
(以下「手引き」とする。
)を作成し、こ
れを用いた普及支援活動を行うこととした。
3.「手引き」の概要
「手引き」の目次構成を表1に示す。
「浄水処理における
濁度管理マニュアル」では「水安全計画」の考え方を取
り入れ、浄水プロセスにおける水質管理基準値の設定と
そのレベルに応じた対応を記し、さらに原水高濁度への
対応技術のエッセンスやトラブルシューティングの方法
も記載した。
表1「高濁度原水への対応の手引き」目次
まえがき
 浄水処理における濁度管理マニュアル [8 頁]
 高濁度原水への対応のポイント
水道技術管理者向け、現場実務者向け [各 2 頁]
 高濁度原水への対応の解説
Ⅰ 本編 [66 頁]
Ⅱ 資料編 [61 頁]
あとがき
2.「手引き」作成のコンセプト
高濁度原水への対応のポイントでは、利用者の立場を
「手引き」作成の背景と目的の概要を図 1 に示す。
「手 考慮して 2 種類
(水道技術管理者向け、
現場実務者向け)
引き」は高濁度原水の浄水処理に苦慮している中小規模 を準備し、
「高濁度原水への対応の解説」の要点を集約し
水道事業体の技術系職員(水道技術管理者、
浄水施設管理 た内容とし、職場の壁等に掲示しやすい体裁をとった。
の統括責任者や現場責任者)が使用することを前提に、自
らが課題を具体的に認識し、適切な施設運転管理、なら
びにその改善・強化を行うツールとして活用できるよう
に作成した。また、自然災害や水質事故等の非常事態に
対して基幹水道施設の安全性の確保や重要施設等への給
水の確保、さらに、被災した場合でも速やかに復旧でき
る体制の整備に向けた方策も「手引き」に示した。
また、
「手引き(案)
」を作成する過程で、主に中小規
模水道事業体を対象にアンケートやヒアリング等を実施
し、
より使い易くなるようにブラッシュアップを図った。
本書が支援
(現有施設ベース)
気候変動に伴う原水水質の変化が水質管理に及ぼす影響
異常多雨
の多発
河川増水・濁り
の多発・激化
高濁度原水への
対応の増加・困難化
適切な
対応
・被災の回避
・事故の拡大防止
悪影響・負担
中小水道事業体で顕著な、水質管理に係る事業運営上の課題
 施設や設備の老朽化、近年の要求水準とのミスマッチ
 職員数や専門技術者の不足
財政難
図2 高濁度原水への基本対応フロー
図1 手引き作成の背景と目的
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図2は高濁度原水への基本対応フローを示すが、事故
の影響を最小限に抑えるためには、マニュアル整備等に
よる事前対応と日常管理が極めて重要なことからこのよ
うなフローを提示した。
参加希望者には事前アンケートを実施し、施設、浄水
処理の現況や課題について情報を収集した上で、同じ課
題を抱えている参加者が共通のテーマでディスカッショ
ンができるようにグループ分けし、水道事業者同士が交
また、高濁度原水への対応の解説、本編の目次構成は 流しながら自ら課題解決策を見出す方式をとる。また、
次のとおりであり、
主にフェーズごとに章立てを行った。 課題解決のツールとして「手引き」の説明、活用法を提
示し、開催現地の浄水場を見学しながら具体的な改善策
1. 総説
を見出すことを促す。必要に応じて課題改善提案の支援
2. 高濁度原水対応の基本要件と現状評価
(簡易実験、水質試験)も行う予定である。
3. 基礎知識(降雨に伴う水質変動が浄水処理や給水
に及ぼす影響)
(1) 開催案内
4. 事前準備と平常時の対応
5. 高濁度原水が発生する場合の対応
6. 事態が終息した後の対応
(2) ワークショップの開催
7. 技術紹介
この内、2~4章は主に使用者自らが課題を認識し、
(事前アンケート)
改善することを支援する内容であり、現状評価や基礎知
識、事前準備などについて記載した。5~7 章は実際の対
(アンケート結果に応じたグループ分け)
応方法やツールを紹介する内容である。高濁度原水への
対応の解説の資料編には、用語の解説、維持管理の現状
テーマ設定
を評価するためのチェック―シート、薬品注入率の早見
ディスカッション(水道事業者同士の交流)
表、水質事故発生時の対応フロー作成例等、本研究で収
集した情報を記載した。
4.「手引き」を活用した支援活動
「手引き」の活用について中小水道事業体にアンケー
ト調査を行った結果、取り組みたい改善項目としては、
対応マニュアルの作成や「手引き」に高濁度原水対応技
術として提示した、二段凝集処理、凝集剤適正注入法等
を導入・活用したいとの回答が多く寄せられた。
「手引き」は当センターの HP で公開するとともに、本
年度から実施する
「水道技術研究成果活用事業」
の中で、
この手引き等を題材としたワークショップ『一緒に課題
を解決しませんか?~浄水処理ワークショップ』等を開
催し、豪雨等による高濁度原水に苦慮している中小規模
水道事業体の課題解決に向けた支援活動を行うこととし
ている。
ワークショップのイメージを図3に、また、流れを図
4に示す。
講師
進行役
(ファシリテータ)
聴講者
参加者
1 開催あたり約 20 名
(6~7 名×3 班)
手引き説明
課題の抽出
他事業者との情報共有化等
(3) 課題改善の支援
(ア)ヒアリング、現地見学
(イ)改善策の検討
(ウ)状況に応じて改善策の検証(簡易実験、水質分析等)
(エ)改善提案書作成
図4 ワークショップの流れ
5. おわりに
我が国の水道事業は基盤の弱体化が懸念されているこ
とから厚生労働省では新水道ビジョンで、水道サービス
の持続性の確保に向け、安全、強靭、持続の政策目標を
掲げている。しかしながら中小規模水道事業体の人材不
足は深刻であり、技術継承もままならない状況下で、政
策目標を達成することは至難の技と云わざるを得ない。
「手引き」を活用したワークショップを通じて情報を共
有化し、人のネットワークを構築することで、課題を相
談・解決し合える仲間づくりができると考えている。
謝辞
「手引き」の作成に当たり、研究分担者や研究協力者
をはじめ、アンケートや査読に御協力をいただいた水道
事業者等の皆様に深く感謝申し上げます。
図3 ワークショップ開催イメージ
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