サーボプレスのためのエネルギー管理 - 安川シーメンス オートメーション

サーボプレスのためのエネルギー管理
サーボプレスのエネルギー管理は必要ですか? それには意味がありますか?
これは投資コスト、例えば、ユニットコストにどのように影響するのでしょうか?
siemens.com/metal-forming
サーボプレスのエネルギー管理
プレス製造メーカおよびプレスを使用するユーザ様は、遅くとも、シーメンスが 2008 年に最初のサーボプレスを市場
に導入して以来、エネルギー管理というトピックに積極的に関わっています: サーボプレスのエネルギー管理は必要で
すか? それは意味があることですか? それはどのように投資コスト、例えば、機械コストに影響しますか? サーボプレス
が消費する総電力量を削減することも可能ですか? これらを明らかにするために、ある金属成形プロセスを例にとり、
説明することにします。
金属成形プロセスの要件
代表的な金属成形プロセスを例にして、様々なエネルギー
管理方法の効果を考えてみます。下死点 (BDC) 到達前に
10 mm の荷重工程がある 2,000 トンのサーボプレスだと
仮定します。エンドユーザは、650 mm の最小ストロー
ク、ストロークあたり約 550 kJ の最大仕事量、0.14 m/s
の最大成形速度を指定しています。このデータをベースに
して、実際に成形プロセスに必要な電力が計算できます。
この場合には、約 2,750 kW となります。30 spm を実現
する必要があります。
従来方式の場合、これらのモーションタスクは、カムおよ
び高次多項式関数を使用して導き出されていましたが、エ
ネルギーに関しては全く考慮されていませんでした。その
ため、生産性を向上させるのは困難でした。シーメンス
は、このため新たにサーボプレスのモーションプロファイ
ル計算式を開発しました。モーションプロファイルは電気
的、機械的制限を考慮しながら、最適なエネルギー効率で
計算され、指定されたストローク数を保証します。この方
式で計算された代表的なプレスのモーション特性が以下に
なります。30 spm 時でも、すべての必要な制限が遵守さ
れています:
これらの仕様に基づいて、機械装置メーカは以下の主要な
仕様のクランクプレスを設計します:
◾◾
◾◾
◾◾
◾◾
◾◾
◾◾
ストローク:
650 mm
コネクティングロッド:2,650 mm
ピストン重量:
100 t
ギア比:
1:26
慣性モーメント:
60,000 kgm²
機械的効率:
~ 92 %
偏心速度 [ストローク/min]
サーボプレス
偏心運動のプロファイル
40
30
20
10
0
30
60
90
120
150
180
210
240
270
300
330
360
クランク角 [°]
機械的効率 92 % では、2,750 kW の形成エネルギーのた
めに、最低 3,000 kW のサーボが必要とされます。
◾◾ 最大モータ速度およびパーツ移動時間 1.0 秒が
維持されます
モーションコントロールで生産性を最大に
サーボプレスを使用する場合、ピストンの自由度が重要で
す。それにより、成形品質、ストローク数およびプロセス
を最適化することができます。モーションコントロール
は、以下の条件を満足する必要があります:
このプレスの例では、下死点前 10 mm において、2,000
トンのプレス圧力および 550 kJ の成形仕事量を維持しな
がら、30 spm を達成できています。
1.) シ
ステム出力は静的にも動的にも使用を満足している
必要があり、その時の出力が最も効率が良く、生産性
も最大となります。
2.) 3
0 spm が指定される場合にも、システム全体にかかる
すべての制限が維持されなければなりません:
1
0.5
ラム速度 [m/s]
◾◾ 成形状態
◾◾ 最大モータ速度
◾◾ 許容ラム速度
◾◾ 取り付けられたモータ出力および利用可能なトルク
を超過してはいけません
◾◾ 偏心位置 250 ° および 100 ° の間にパーツを移動させ
るために最低 1.0 秒が必要です。
角度に対するラム速度
1.5
0
-0.5
-1
-1.5
0
30
60
90
120
150
180
210
クランク角 [°]
◾◾ 最大ラム速度が維持されます
2
240
270
300
330
360
1.5
ケース 1:
エネルギー管理のないサーボプレス
トルク特性
x 104
動作点: 4766.2 Nm, 780.0 rpm 時
エネルギー管理のないサーボプレスの場合、モータから出
力される機械的出力は、電気的出力損失と同様、電源装置
および商用電源により、随時完全に給電されなければなり
ません。
1
トルク [Nm]
0.5
0
ドライブの総出力 (機械的) 最大出力 ~3000 kW
3000
2000
P(kW)
-0.5
1000
機械的ドライブ出力
平均的な機械的出力
0
-1000
-1
-2000
-1.5
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
-3000
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
1.6
1.8
2
時間 [s]
モータ速度 [rpm]
◾◾ 最大出力が維持されます
DC リンク
SINAMICS S120
ギアボックス
シーメンスは、SIMOTION モーションコントロールシス
テムに新しい計算方式を導入しました: OACAMGEN ブ
ロックは、指定されたストローク数で、システム全体の機
械的および電気的制限を遵守するモーション曲線を自動的
に作成します。その結果、プレスを使用するユーザ様は、
最大の自由度を獲得することになります。これにより、製
品に合わせて容易にプレスを設定することができます。
プレス
シャーシ
アクティブ
ライン
モジュール
SIMOTICS T-1FW4
ヘビーデューティ
3相
AC 電圧
トランス
2,000 kVA
エネルギーの考慮
サーボプレスを効率的に利用するための先述のモーション
プロファイルでは、モータ軸における出力特性は以下とな
ります:
P (kW)
2000
1000
この場合、電源装置は 3,000 kW を超えるピーク出力をカ
バーする必要があり、上流のトランスは、これらの負荷
ピークを処理せねばならず、大きな負荷変動が直接商用電
源に影響を及ぼします。最低でも定格電力 2,000 kVA の
トランスが必要になります。
ドライブ総出力 (機械的) 最大出力 ~3000 kW
3000
機械的ドライブ出力
平均的な機械的出力
0
-1000
-2000
-3000
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
1.6
1.8
2
時間 [s]
◾◾
◾◾
◾◾
◾◾
◾◾
平均出力 (P)
出力実効値 (˜P)
最大出力 (ˆP)
最小出力 (ˇP)
出力変動 (∆P)
299 kW
1,630 kW
3,000 kW
-3,000 kW
6,000 kW
電力損失はここでも考慮していません。
実際の出力と出力実効値の大きな差は、システム全体の
モーションプロファイルが最適に利用されていることを示
します。トルクモータの使用により自由度が広がり、ま
た、そのダイナミックな性能により指定されたストローク
数において、最大限の生産性を実現することができます。
3
ケース 2: フルサイズエネルギー管理を備えた
サーボプレス
フルサイズエネルギー管理の場合、このプレスの例のドラ
イブシステムでは、1 台あたり最大出力 1,000 kW x 3 台
の運動エネルギーバンクが搭載できます。これにより、
サーボプレスドライブシステムのエネルギーの変動を低く
抑えることが可能になります。このため、電源装置の負荷
がほぼ一定となり、電源回生は必要なくなります。スト
ローク毎の成形の仕事量、機械的や電気的システム損失か
らなる一定のエネルギーが一般電源から給電されます。こ
れは、電源装置やトランス定格出力が最小限に抑制される
ということです。
ドライブの総出力 (機械的) 最大出力 ~3000 kW
3000
機械的ドライブ出力
平均的な機械的出力
P(kW)
2000
1000
一定のエネルギー
0
-1000
-2000
-3000
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
1.6
1.8
変動するエネルギー
2
時間 [s]
DC リンク
アクティブ
ライン
モジュール
ギアボックス
プレス
SIMOTICS T-1FW4
ヘビーデューティ
SINAMICS
S120
シャーシ
3 相 AC 電圧
トランス
630 kVA
SIMOTICS M-1PH8
フルサイズエネルギー管理システムの場合、エネルギーバンクは、電源に回生されるエネルギーを蓄えます。
その結果、電源装置の出力実効値は平均値と同じになり、電源回生は必要なくなります。
2000
1000
この時、取り除かれたエネルギーバンク用モータの出力が
電源装置 (ALM / AIM) によってカバーされるため、より大
きな定格の電源装置が必要になります。運動エネルギーが
部分的にしか蓄えられないことから、一般電源から給電さ
れる電力は完全には平滑化されないことになります。
機械的ドライブ出力
平均的な機械的出力
0
-1000
-2000
-3000
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
1.6
1.8
2
時間 [s]
DC リンク
ケース 3: 部分的エネルギー管理を備えた
サーボプレス
運動エネルギーの一部のみを再利用した場合、エネルギー
保存用モータの出力を低減することができます。(例えば
3 台の代わりに 2 台だけを使用)。これにより、少なくと
もフルサイズエネルギー管理よりも機械装置の価格を抑え
ることができます。
ドライブの総出力 (機械的) 最大出力 ~3000 kW
3000
P(kW)
フルサイズエネルギー管理の場合、エネルギーバンクは、
従来のプレスの機械的フライホイールに相当します; これ
らの装置は、どちらも使用電力を平滑化させます。しかし
ながら、ドライブシステムの拡張も必要となるため、電力
損失も大きくならざるを得ません。
これはデメリットとなりますが、大幅に低容量となる電源
装置 (ALM/AIM) とずっと小型になるトランスにより相殺
されます: ± 3,000 kW の代わりに、516 kW の電源装置定
格、大幅に小さな 630 kVA トランスで十分です。これに
より関連コストも削減されることになります。
ギアボックス
プレス
SIMOTICS T-1FW4
ヘビーデューティ
アクティブ
ライン
モジュール
SINAMICS
S120
シャーシ
SIMOTICS M-1PH8
3相
AC
電圧
トランス
1,000 kVA
4
これは、フルサイズエネルギー管理の場合よりもピーク負
荷が大幅に大きくなるということ、つまり、正負荷と負負
荷との間、力行と回生の間で負荷が大きく変動する、とい
うことになります。その結果、電源トランスも、それに応
じてより大きく選定する必要があります; この例の場合で
は、最低 1,000 kVA 定格のトランスが必要になります。
エネルギー管理がないサーボプレスと比較すると、部分的
な運動エネルギーの蓄えによって、電源に影響を与える負
荷ピークが低減されます。しかしながら、エネルギー管理
がない機械装置同様、回生電力による一次電源への悪影響
が発生することになります。これにより、一般電源のみな
らず、電源装置、トランスおよび給電線も周期的なプロセ
スで変動を処理しなければならず、結果として、それらの
容量に余裕を持たせなければなりません。どのバージョン
が最も安価で多くのメリットを提供できるかということを
ケースバイケースで分析する必要があります。
電力料金 vs 消費電力
ピーク電力をカットできるため、電力会社との契約電力を
低くお抑えることができます。最も好ましい管理バージョ
ンを選定するために、機械動作および成形作業に必要な電
力消費、並びに、これを実現するためのコストを比較しま
す。
トランスの出力部での測定値を、ここでは選定に使用しま
す。主な計算用データ:
運転時間
月額の電力料金 (基本料金):
業務用有効電力 (電力量料金):
約 7000 時間 / 年
10 €/kW
12 ct/kWh
電源回生される電力は含まれていません。ダイクッション
の電力消費が存在するかもしれませんが、ここでは考慮さ
れていません。
1 年の電力料金 1 パーツあたり 1 パーツあたりの
(1260 万パーツ)
の電力料金
電力消費
比較: 消費電力
下表は、考えられる 3 つのエネルギー管理バージョンで
30 spm、550 kJ / パーツ の場合に、プレスのトランスで
カバーされる電力を示すものです:
30 spm の生産例でのプレスの消費電力の比較
エネルギー管理なし
部分的エネルギー管理
フルサイズエネルギー管理
4000
[€/a]
[ct/part]
[kWh/
part]
[kJ/part]
エネルギー
管理なし
859,060.–
6.8
0.277
996
部分的
561,330.–
4.5
0.283
1020
フルサイズ
501,900.–
4.0
0.290
1046
3000
この比較でわかること: 指定された制限下では完全なエネ
ルギー管理を備えたサーボプレスでは、1 パーツあたりの
電力消費は若干高くなりますが、部分的エネルギー管理、
または、エネルギー管理がない場合よりも電力料金が最低
になります。
電力 [kW]
2000
1000
0
-1000
-2000
-3000
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
時間 [s]
投資コストを評価する場合には、トランス価格を考慮する
必要があります。完全なエネルギー管理を装備した場合、
投資コストがずっと低くなります。このコスト削減によ
り、既にエネルギー管理システムのための追加コストのか
なりの部分が埋め合わされることになります。これは、非
常に短時間でこの投資の損益分岐点に到達するという意味
です。
フルサイズエネルギー管理システムでのみ、ほぼ一定の電
源装置出力および正負荷出力の需要が実現されます。他の
2 つのバージョンの場合には、消費電力の大幅な変動と好
ましくない電源回生が見られます。
その他重要なデータの比較:
P
[kW]
˜P
[kW]
–
481
1,687 3,211 6,000
1,000 kVA
2
501
812
630 kVA
3
516
516
エネルギー
管理
トランス
定格出力
インダク
ション
モータ
なし
2,000 kVA
部分的
フルサイズ
ˆP
[kW]
∆P
[kW]
1,853 3,316
551
75
数値は電源装置の入力
5
機械的フライホイールプレスとの比較
連続運転で比較可能な同等の仕様を備えた機械的プレス
との比較から、この場合には、216 kW の接続電力で十分
であることがわかります (すべての機械的および電気的損
失を含む); しかしながら、生産性は、16 spm に留まるこ
とになります。
機械的プレス固有の「フライホイール」のエネルギーバン
クシステムにより、消費される電力の平均値は実効値に相
当します; 回生エネルギーは発生しません。1260 万パー
ツという指定されたユニット数を実際に処理するには、
1 台ではなく、2 台のフライホイールプレスが必要となり
ます。
1 年の電力料金 1 パーツあたり 1 パーツあたりの
(1260 万パーツ)
の電力料金
消費電力
機械的プレス
2台
[€/a]
[ct/part]
[kWh/
part]
[kJ/part]
378,000.–
3.0
0.219
788
サーボプレスの生産性を実現するには、2 台の機械的プレ
スが必要です。これは、反対に、2 倍の表面積、2 倍の人
員、そして、各製造に対して 2 倍のダイが必要となると
いうことです。サーボプレスは、このように、機械的プレ
スの低い電力料金と比較 / 相対化が可能になります。
要約
エンドユーザ様のご要求仕様によりサーボプレスのドライブ容量は決定されます。モーションコントロールは、
動的にも静的にも仕様を満足しながら、ドライブの機能を最大限に発揮させます。一方、これにより、ピーク電
流は非常に大きくなります。エネルギー管理システムを使用することにより、ピーク電力を平滑化することが可
能になります。エネルギー管理システムを使用した場合とそうでない場合のハードウェア費用の差は、平滑化さ
れたことにより小さくなるトランスのコストも考慮する必要があり、また、エネルギー管理システムの種類によ
っても、それは大きく異なってきます。
サーボプレスは、機械的プレスと比較し、電気料金は高額となりますが、アプリケーションに適したエネルギー
管理システムを導入することにより、その上昇率を最小限に留めることができます。よって、エネルギー管理シ
ステムの使用により、優れたコストパフォーマンスを得ながら、サーボプレスの技術的メリット (非常に優れた自
由度、製造品質、生産性) を利用することができることになります。
安川シーメンス
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DISPO 06372
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SB 10140.5
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