収益不動産の保有効果~資産効率向上、収益安定化の観点から

2015
6
June
トピックス1
収益不動産の保有効果
〜資産効率向上、収益安定化の観点から〜����� 2
トピックス2
2014年度のオフィスビル売買取引額は
過去最高に������������������� 6
マンスリーウォッチャー
大規模オフィスビルの運営収益は
2014年下期に増加に転じた����������� 8
収益不動産の保有効果∼資産効率向上、収益安定化の観点から∼
昨年秋に公表された日本再興戦略改訂版では日本企業が“稼ぐ力”を取り戻すため、グローバル水準
のROEの達成が目安とされました。またROEを評価指標の一つとするJPX日経インデックス400の
算出が開始されるなどROEが注目を浴びています。日本再興戦略では、ROE向上に向けた積極的な
新規設備投資、事業再編、M&Aなどを促していますが、他方、収益不動産の活用によっても資産効
率を高めることでROEを向上させること、あわせて、収益の安定化を図ることが可能と考えられます。
本稿では、ROEを構成する要素のうち企業の根本的な“稼ぐ力”に着目し、ROAを分析指標の中心
として、収益不動産の保有効果を考察しました。
資産効率と収益不動産比率からみた収益不動産の保有効果
ROE 向上の基本的方策
ROEは売上高利益率と総資産回転率と財務
レバレッジに分解され、ROEを向上させるには前
者2項目を掛け合わせたROAあるいは財務レバ
レッジのいずれかを上げることが基本的方策とな
ります。
自己資本利益率
=
ROE
売上高
利益率
×
総資産
回転率
×
財務
レバレッジ
(総資産利益率:ROA)
収益不動産保有による ROE 向上の
基本的方策
上記に照らすと、収益不動産を取得して、取
得不動産による不動産賃貸事業のROAが基盤
事業(不動産賃貸事業を除いた事業を総称して
いう。
)のROAを上回る場合、あるいは(取得不
動産のROAが低いケースでは)借入により財務レ
バレッジを上げる場合、ROEの向上効果が期待
できることとなります。
借入により収益不動産を取得する場合、財務
レバレッジが上がる分、ROEを向上させる方向
に作用しますが、反面、資金繰りや財務状況が
悪化する可能性があります。そのため、基盤事
業などで資金ニーズがなく、かつ内部留保した
キャッシュを活用するケースや遊休資産の売却代
金を収益不動産の取得資金に充当するケースな
ど限られた状況を除いては財務面への影響を検
証することが必要と考えられます。不動産トピック
ス2015年3月号で紹介した事業法人が収益不動
産を取得する際の資金調達事例では、全額ある
いは大半を借入金で調達する事例から全額自己
資金の事例まで、財務状況などに応じ様々な資
金調達方法がとられているようです。
なお、不動産投資を行うなど新規事業の投資
判断においては、ROE、ROAのような利益率の
指標だけでなく利益額の指標による評価、既存
事業との対比だけでなく、資本コストとの対比に
よる評価、静態的(ストック)
、動態的(フロー)評
価など、複数の評価指標・評価手法があります
が、本稿では昨今注目を浴びているROE、中で
も企業の根本的な“稼ぐ力”に着目し、ROAを指
標として、主に不動産賃貸事業のROA(営業利
益、時価ベース。)と基盤事業のROA(営業利
益、簿価ベース。)の比較により、収益不動産の
保有効果を考察しました※1。
※ 1:時価ベースと簿価ベースの比較となるが、これは収益不動産を
保有していない企業の立場でみると、現状(収益不動産を保有し
ていない状況)での ROA と収益不動産を取得した場合の不動
産賃貸事業の ROA を比較するものととらえられる。
基盤事業の資産効率が低い企業ほど、収益
不動産の保有効果が高い
賃貸等不動産の時価開示を実施した上場企業
(下枠参照)を対象に、資産効率(当該企業の
ROA)の水準別に不動産賃貸事業のROAと基
○本稿は賃貸等不動産の時価開示情報および有価証券報告書に記載のセグメント情報を基に分析を行った。
○賃貸等不動産の時価開示情報は2013 年の決算期を対象とし、
賃貸等不動産の時価開示を行った上場企業(その後上場廃止となった企業除く)
のうち、不動産、建設、保険業を除き、分析に必要なデータ
(総資産、営業利益、賃貸等不動産の時価、簿価、賃貸損益)がすべて得られ
た 719 社を対象とした。賃貸等不動産には未利用地や低稼働物件が含まれる(一部を自社使用し、一部を賃貸している賃貸等不動産は集計
から除外)。本来は複数期を対象に分析することが望まれるが集計業務が膨大なため、単年度の分析を中心とした。本稿で使用する指標は以
下のとおり。
・不動産賃貸事業の ROA=賃貸等不動産の営業利益÷賃貸等不動産の期末時価
*賃貸等不動産の期末時価は 2012 年と2013 年の平均値。
・基盤事業(不動産賃貸事業を除いた事業を総称していう。)
の ROA
=
(営業利益―賃貸等不動産の営業利益)
÷
(期末総資産―賃貸等不動産の期末簿価) *期末総資産、賃貸等不動産の期末簿価とも2012 年と2013 年の平均値。
・収益不動産比率=
(賃貸等不動産の期末時価)
÷
(期末総資産+賃貸等不動産の含み損益)
*賃貸等不動産の期末時価、
(期末総資産+賃貸等不動産の含み損益)
とも2012 年と2013 年の平均値。
○セグメント情報に関しては P4 の※ 2、4、5 参照。
2
June, 2015
みずほ信託銀行 不動産トピックス
盤事業のROAを比較すると
[図表1-1]
、不動産
賃貸事業のROAは当該企業の資産効率水準に
よらずおおむね4%台であり、基盤事業のROA
がこの水準を下回る場合に収益不動産の保有
効果が得られることになります。法人企業統計に
より資本金1億円以上の企業を対象に業種別の
ROAを算出すると約2/3の業種が5%未満であり
[図表1-2]
、収益不動産保有によって資産効率
が向上する企業は少なくないと考えられます。
なお、不動産賃貸事業のROAが基盤事業の
ROAを下回るケースでは、収益の下支え(資本
コストを上回っている前提で収益額による貢献)
や収益の安定化(基盤事業の利益変動が相対
的に大きい場合)など別の側面で保有効果が認
められる、あるいは他の明確な保有理由がある
場合を除くと、収益不動産を売却し、他の資金
ニーズに振り替えることなどが選択肢となりえま
す。
収益不動産比率が高い企業ほど、収益不動
産の保有効果が高い
収益不動産比率別(総資産に賃貸等不動産
の含み損益を加算した額に対する賃貸等不動
産時価の割合別)に不動産賃貸事業のROAと
基盤事業のROAを比較すると
[図表1-3]
、収益
不動産比率が15%未満では両者のROA水準に
大差はありませんが、15%以上になると不動産賃
貸事業のROAが基盤事業のROAを上回る傾向
が強まっています。基盤事業のROAが低い群ほ
ど、収益不動産比率が高く、基盤事業の赤字
(あ
るいは低収益)を補完している状況と考えられま
す。
[図表 1-1]資産効率
(ROA)
の水準別の不動産賃貸事業の ROA と基盤事業の ROA の比較
(%)
16
14
12
10
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
-8
10
0%未満の企業群
(71)
賃貸等不動産のROA
(時価ベース)
―基盤事業のROA
(簿価ベース)
不動産賃貸事業のROA
(時価ベース)
基盤事業のROA
(簿価ベース)
収益不動産比率
(*)
0~2%
(124)
2~4%
(215)
4~6%
(129)
6~8%
(82)
8~10%
(40)
10%以上
(58)
*収益不動産比率=
(賃貸等不動産の期末時価)
÷
(期末総資産+賃貸等不動産の含み損益)
横軸は当該企業の ROAの水準による区分 ( )
内はサンプル数
[図表 1-2]業種別の ROA
(資本金 1 億円以上の企業対象。2013 年度。
)
(%)15
*金融業、保険業、不動産業、建設業、純粋持株会社除く。
*一部、業種名を略記した。
10
5
電気業
リース業
水運業
非鉄金属製造業
印刷・同関連業
石油製品・石炭製品製造業
情報通信機械器具製造業
繊維工業
卸売業
生活関連サービス業
その他の運輸業
パルプ・紙・紙加工品製造業
鉄鋼業
宿泊業
その他の物品賃貸業
電気機械器具製造業
その他のサービス業
木材・木製品製造業
漁業
窯業・土石製品製造業
陸運業
農業、林業
はん用機械器具製造業
金属製品製造業
食料品製造業
ガス・熱供給・水道業
生産用機械器具製造業
その他の製造業
医療、福祉業
娯楽業
その他専門・技術サービス業
広告業
その他輸送機械器具製造業
業務用機械器具製造業
化学工業
飲食サービス業
自動車・同附属品製造業
小売業
情報通信業
教育、学習支援業
鉱業、採石業、砂利採取業
職業紹介・労働者派遣業
0
[図表 1-3]収益不動産比率水準別の不動産賃貸事業の ROA と基盤事業の ROA の比較
(%)
6
賃貸等不動産のROA
(時価ベース)
―基盤事業のROA
(簿価ベース)
5
4
3
不動産賃貸事業のROA
(時価ベース)
2
1
基盤事業のROA
(簿価ベース)
0
-1
2.5%未満
の企業群
(120)
2.5~5%
(114)
5~7.5%
(96)
7.5~10%
(80)
10~15%
(117)
15~20%
(60)
横軸は収益不動産比率
(*)水準による区分 ( )
内はサンプル数
20~50%
(107)
50%以上
(25)
*収益不動産比率=
(賃貸等不動産の期末時価)
÷
(期末総資産+賃貸等不動産の含み損益)
データ出所:図表 1-1、1-3 は有価証券報告書、図表 1-2 は財務省「法人企業統計調査」
みずほ信託銀行 不動産トピックス June, 2015
3
収益不動産を保有する事業法人の個別事例の考察
以下、収益不動産の保有効果を計測しやす
いと考えられる企業として、収益不動産比率が
高い事業法人上位10社を抽出し※2、考察を行い
ました※3。
不動産賃貸事業が企業業績の柱となって
いる企業も
抽出した10社の特徴は、不動産賃貸事業の
ROAが高く収益性の引き上げに寄与している企
業(10社中7社)
[図表1-4]や、不動産賃貸事業
の利益構成割合が8割以上あり収益の柱となっ
ている企業(10社中8社)
[図表1-5]※4、5 が多くを
占め、不動産賃貸事業が企業業績の柱となって
いるとみられます。
また、不動産賃貸収益はテナントの大幅な入
れ替えなどがなければ景気に遅行する形で緩や
かに変動し、賃貸費用も大きく変動しないことか
ら、賃貸利益は一般的な基盤事業と比較し安
定的に推移する可能性があると考えられます。対
象10社においても不動産賃貸事業が収益安定化
※4、5
。
に寄与する企業が複数みられます
[図表1-6]
不動産賃貸事業の体制は専業子会社を
有する企業から必要最低限の対応まで様々
収益不動産比率が最も高く、かつ不動産賃
貸事業のROAと基盤事業のROAの差が最も大
きいA社は、不動産賃貸事業が企業業績の柱と
なっている典型的な企業と考えられます。古くか
ら不動産賃貸事業(商業施設)を展開し、傘下
に不動産事業を行う子会社を有し、直近の中期
経営計画においては不動産賃貸事業の強化にと
どまらず、商業施設運営のノウハウ活用によりプ
ロパティマネジメント業務を新たに展開するなど、
不動産事業を主力事業に育成する成長戦略を
打ち出しています。
不動産賃貸事業のROAと基盤事業のROA
の差がA社に次いで大きいD社は都心5区内に
時価約100億円の賃貸オフィスを保有しています
が不動産事業を行う子会社はなく、セグメント別
の従業員数の開示情報からは不動産賃貸事業
に専従する従業員も配置していません。不動産
賃貸事業への人的な資源投下を最小限に抑え、
A社とは対極的といえます。
※ 2:分析に必要なデータ(不動産賃貸事業が属するセグメント情報
の時系列データ
(少なくとも 4 期))が得られる企業を対象に、収
益不動産比率上位 10 社を抽出。不動産賃貸事業が属するセ
グメントに賃貸事業や関連すると考えられる管理事業以外の事業
(販売、仲介事業など)が含まれることが明記されている場合
は対象外とした。
※ 3:各社が公表したリリース、決算資料などの記載内容をもとにした
考察であり、本稿で記載した考察が実態と異なる可能性がありま
す。
※ 4:図表 1-5、図表 1-6 のセグメント利益は G 社は経常利益ベース、
他 8 社は営業利益ベース(F 社開示なし)。基盤事業の売上、
利益はセグメント合計利益から不動産賃貸事業の利益を減じて
算出した。なお、図表 1-6 に関し、セグメント事業の対象見直し
や会計基準見直しなどによるデータの不連続に関しては開示内
容の制約から検証していない。
※ 5:賃貸等不動産の時価開示情報と不動産賃貸事業が含まれるセ
グメント情報では対象不動産や事業が完全には一致していない。
そのため、例えば、賃貸等不動産の時価開示情報ベースの
図表 1-4 では E 社、J 社の基盤事業の利益が赤字であるが、セ
グメント情報ベースの図表 1-5 では黒字と算出されるなどの差異
が生じている。
[図表 1-4]不動産賃貸事業の ROA と基盤事業の ROA の比較
(賃貸等不動産の時価開示情報ベース)
(%)
25
(%)
100
20
80
15
60
10
40
5
20
0
0
-5
-20
-10
-40
-15
-60
-20
-80
-25
A社
(繊維製品)
B社
C社
(卸売業) (輸送用機器)
基盤事業のROA
(簿価ベース)
D社
(機械)
E社
(小売業)
F社
G社
H社
I社
(繊維製品) (電気機器)(情報・通信業) (卸売業)
不動産賃貸事業のROA
(時価ベース)
賃貸等不動産のROA
(時価ベース)
―基盤事業のROA
(簿価ベース)
J社
(機械)
-100
収益不動産比率
(*)
(右軸)
*収益不動産比率=
(賃貸等不動産の期末時価)
÷
(期末総資産+賃貸等不動産の含み損益)
データ出所:有価証券報告書
4
June, 2015
みずほ信託銀行 不動産トピックス
保有効果をより高めるためには外部ノウハウの活用がカギ
不動産賃貸事業と基盤事業の比較により収益
不動産の保有効果を考察しましたが、不動産賃
貸事業そのものの収益性の観点からは保有す
る収益不動産の売上高利益率や総資産回転率
(=表面利回り)が物件属性に応じた合理的な
水準以上であることも保有効果を証する要素の
一つと考えられます。
不動産賃貸事業の収益性をより高めるには、
日常の運営管理においてはリーシング戦略策定、
テナント交渉、建物維持管理、修繕対応、物件
の競争力維持の観点からは計画的な大規模修
繕やバリューアップ工事の実施など、また、収益
不動産の取得・売却、入れ替えに際しては競合
分析や賃貸市場分析などをふまえた収支作成、
取得・売却価格の妥当性検証、財務面への影
響分析など、幅広い分野で専門的なノウハウが
必要となる局面が想定されます。これらの専門
的なノウハウを有する外部のパートナーを選定し、
いかに活用するかも収益不動産の保有効果を高
める一つのカギと言えるでしょう。
(以上、都市未来総合研究所 湯目 健一郎)
[図表 1-5]セグメント別の売上高、利益、従業員数の構成割合
(セグメント情報ベース)
(%)
70
60
50
40
30
20
10
基盤事業の
セグメント
不動産賃貸
事業が属する
セグメント
従業員
利益
I社
E社
F社
G社
H社
(小売業) (繊維製品) (電気機器)(情報・通信業) (卸売業)
D社
(機械)
売上高
従業員
利益
売上高
従業員
利益
売上高
従業員
利益
売上高
従業員
利益
売上高
従業員
利益
売上高
従業員
A社
B社
C社
(繊維製品) (卸売業) (輸送用機器)
利益
売上高
従業員
利益
売上高
従業員
利益
売上高
従業員
利益
売上高
0
不動産賃貸事業黒字、
基盤事業赤字
80
不動産賃貸事業黒字、
基盤事業赤字
90
不動産賃貸事業黒字、
基盤事業赤字
不動産賃貸事業黒字、
基盤事業赤字
100
J社
(機械)
*従業員数に関する注記: D社:不動産賃貸事業セグメントの従業員数は 0 名で、全社共通の従業者数の記載もないため 0 人とした。
E社:不動産賃貸事業セグメントの従業員数は非表示
(ハイフン表示)
のため、全社共通の従業員数とした。
G社:「不動産事業は全社共通業務の従業員が兼務」
と記載があるため、全社共通の従業者数とした。
[図表 1-6]セグメント別の利益の推移
(セグメント情報ベース)
A社
(繊維製品) (百万円)
B社
(卸売業)
1,000
(百万円)
3,000
800
400
0
-200
-600
10
11
12
-800
13(年)
200
500
0
0
-200
-500
2009
10
11
12
13(年)
0
10
11
12
-2,000
13(年)
150
100
-400
50
-600
-1,500
2009
200
2009
10
11
12
-800
13
(年)
2009
10
11
12
0
13(年)
不動産賃貸事業が属する
セグメント
不動産賃貸事業が属する
セグメント
不動産賃貸事業が属する
セグメント
不動産賃貸事業が属する
セグメント
不動産賃貸事業が属する
セグメント
基盤事業のセグメント
基盤事業のセグメント
基盤事業のセグメント
基盤事業のセグメント
基盤事業のセグメント
F社
(繊維製品)
2009
1,000
-1,000
500
250
400
1,500
1,000
-400
(百万円)
300
600
2,000
1,500
E社
(小売業)
(百万円)
800
2,500
2,000
200
D社
(機械)
(百万円)
3,000
2,500
600
2009
C社
(輸送用機器)
10
11
12
(百万円)
1,600
G社
(電気機器)
(百万円)
300
1,400
250
1,200
200
1,000
150
800
100
600
50
400
0
200
-50
13(年)
0
2009
10
11
12
-100
13(年)
H社
(情報・通信業)
(百万円)
I社
(卸売業)
25,000
J社
(機械)
(百万円)
350
20,000
(百万円)
1,000
300
900
250
800
700
200
15,000
600
150
500
100
10,000
400
50
300
0
5,000
200
-50
2009
10
11
12
13(年)
0
2009
10
11
12
-100
13
(年)
100
2009
10
11
12
13(年)
不動産賃貸事業が属する
セグメント
不動産賃貸事業が属する
セグメント
不動産賃貸事業が属する
セグメント
不動産賃貸事業が属する
セグメント
不動産賃貸事業が属する
セグメント
基盤事業のセグメント
基盤事業のセグメント
基盤事業のセグメント
基盤事業のセグメント
基盤事業のセグメント
0
データ出所:図表 1-5、1-6 とも有価証券報告書
みずほ信託銀行 不動産トピックス
June, 2015
5
2014 年度のオフィスビル売買取引額は過去最高に
株式会社都市未来総合研究所の「不動産売買実態調査*1」
(以下、本調査という)によると、上場企業
やJ-REIT等が2014年度に公表したオフィスビルの売買取引額は、2006年度(1兆9,948億円)を
上回り、本調査開始以来の最高額(2兆2,358億円)となりました。
外資系法人の取得額が総額の 2 割を占める
どを背景に、シンガポール政府投資公社(GIC)
が関連会社を通じて、「パシフィックセンチュリー
プレイス丸の内(PCP丸の内)」のオフィス部分を
約1,700億円で取得するなど高額物件の取得が
目立ちました。
売主セクター別では、SPC・私募REIT等が
約1兆円(9,786億円)で総額の44%を占めました
[図表2-1下]
。ブリッジファンド*3や私募ファンド
等の売却が活発でした。前出のPCP丸の内や
大宮センタービルなど、不動産価格が上昇した
2006年度や2007年度に取得した物件を売却す
る事例がみられました。
上場企業やJ-REIT等が2014年度(2014年4月
〜 2015年3月)に公表したオフィスビルの売買取
引額は、前年度に比べ45%増加して2兆2,358億
円となりました。これは、
2006年度(1兆9,948億円)
を上回り、1996年度の本調査開始以来の最高
額となります
[図表2-1]。
買主セクター別取得額は、J-REITが2005年
度、2006年度を下回ったものの8,495億円と活発
でした。また、外資系法人*2 の取得額が5,241億
円となり、これまで最高額だった2007年度の2,838
億円を大幅に上回りました
[図表2-1上]。オフィス
ビル賃料の上昇期待や円安による価格割安感な
[図表 2-1]買主セクター・売主セクター別オフィスビル売買取引額
〈買主セクター別取得額の推移〉
(億円)
25,000
(%)
60
50
20,000
40
15,000
不明
外資系法人
事業法人・公共等・その他
建設・不動産
30
SPC・私募REIT等
10,000
20
5,000
10
J-REIT
J-REITの占める割合
外資系法人の占める割合
0
2000
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
〈売主セクター別売却額の推移〉
(億円)
25,000
0
14(年度)
(%)
60
50
20,000
40
15,000
不明
外資系法人
事業法人・公共等・その他
建設・不動産
30
SPC・私募REIT等
10,000
5,000
20
J-REIT
10
SPC・私募REIT等の
占める割合
外資系法人の占める割合
0
2000
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
0
14(年度)
データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
6
June, 2015
みずほ信託銀行 不動産トピックス
都心のオフィスビル取引額の延床面積当り単価が上昇
2014年度に売買されたオフィスビルの取引額規
模別件数は、100億円以上がこれまで最高だった
2007年度(39件)
を上回る46件となり、高額物件の
取引が活発でした[図表2-2]
。買主セクター別平
均取引額は、外資系法人が前年度は220億円/件、
今年度は296億円/件と大幅に上昇し、他のセク
ターを大きく上回っています
[図表2-3]。
売買されたオフィスビルの立地は、都心3区が
1兆340億円と最も多く、全体の46%を占めました。
隣接3区も御殿山SHビル(品川区、515億円)や
[図表 2-2]取引額規模別オフィスビル売買取引件数
0
100
新宿アイランドの区分所有権
(新宿区、475.5億円)
などの高額取引事例がみられ、過去最高の取引
額(4,743億円)
となりました[図表2-4]
。延床面積
当り単価は、都心3区では2012年度以降上昇が
続き、2014年度は495万円/坪となりました。都心
隣接3区も2014年度は400万円/坪を上回り、2007
年度や2008年度と同程度の水準まで上昇しました
[図表2-5]
。
(以上、都市未来総合研究所 佐藤 泰弘)
[図表 2-4]立地別オフィスビル売買取引額
(件)
300
200
0
2005
2005
2006
2006
2007
2007
2008
2008
2009
2009
2010
2010
2011
2011
10,000
15,000
20,000
(億円)
25,000
2012
2012
2013
2013
2014
2014
(年度)
5,000
10億円未満
50億円以上100億円未満
10億円以上50億円未満
100億円以上
[図表 2-3]買主セクター別オフィスビル平均取得額
(年度)
都心3区
その他東京圏
都心隣接3区
大阪圏
東京その他17区
名古屋圏
その他
[図表 2-5]立地別オフィスビル売買取引単価
(万円/坪)
700
(億円/件)
300
都心3区
J-REIT
600
SPC・私募
REIT等
200
都心隣接3区
500
東京その他
17区
400
建設・不動産
その他東京圏
300
事業法人・
公共等・
その他
100
大阪圏
200
名古屋圏
100
0
外資系法人
2005 06
07
08
09
10
11 12
13
14(年度)
0
その他
2005 06
07
08
09
10
11 12
13
14(年度)
図表 2-2 ~ 2-5 のデータ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
(複数物件の価格しか公表されていないものは除く)
* 1:不動産売買実態調査は、「上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則(適時開示規則)」に基づき東京証券取引所に開
示されている固定資産の譲渡または取得などに関する情報や、新聞などに公表された情報から、上場企業等が譲渡・取得した土地・
建物の売主や買主、所在地、面積、売却額、譲渡損益、売却理由などについてデータの集計・分析を行っています。
なお、本調査では、情報開示後の追加・変更等に基づいて既存データの更新を適宜行っており、過日または後日の公表値と相違する
場合があります。また、本集計では、海外所在の物件は除いています。
* 2:本稿で外資系法人とは海外の企業、ファンド、REIT 等をいい、日本の証券取引所に上場している(いた)企業等を除きます。
* 3:本来の取得予定者(この場合は J-REIT)が、取得時期の調整のために、いったん物件を保有させるつなぎのファンドのこと。
買主セクター、売主セクターの分類は下表のとおり
地域区分は下表のとおり
J-REIT
SPC・ 私募 REIT 等
建設 ・ 不動産
製造業
運輸 ・ 通信
国内法人等 事業法人 ・
商業
公共等 ・ そ 金融 ・ 保険
サービス
の他
その他の事業法人
公共等 ・ その他
外資系法人
都心 3 区
東京 23 区 都心隣接 3 区
東京その他 17 区
その他東京圏
大阪圏 名古屋圏
その他
J-REIT
SPC、 私募 REIT 等で外資系法人に分類されるものを除く
建設、 不動産
素材型、 組立加工型、 その他
陸運、 海運、 空運、 倉庫 ・ 運輸、 通信
小売業、 卸売業
銀行、 保険、 証券 ・ 商品先物、 その他金融
電気 ・ ガス、 サービス
水産 ・ 農林、 鉱業、 医薬品
公共、 公共等、 その他法人、 個人
海外の企業、 ファンド、 REIT 等
みずほ信託銀行 不動産トピックス
千代田区、中央区、港区
新宿区、渋谷区、品川区
東京 23 区から上記 6 区を除いた 17 区
東京 23 区を除く東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県
大阪府、京都府、兵庫県、奈良県
愛知県、三重県、岐阜県
上記以外の地域
June, 2015
7
大規模オフィスビルの運営収益は 2014 年下期に増加に転じた
東京都心5区※1に立地する賃貸オフィスビルで、空室率が低下し募集賃料は上昇※2しています。
J-REITが保有するオフィスビルの運用データ※3(
[図表3-1、3-2]
)では、NOI※4 は全体ではわ
ずかに上昇の兆候を示す程度ですが、大規模※5 オフィスビルのNOIは2014年上期から増加に
転じ、
2014年下期には運営収益※6も増加に転じました。空室率の低下に加え、
契約賃料の上昇、
フリーレント期間の縮小・終了などで運営収益が増加したと考えられます。
[図表3-3]
、運営収益値の減
不動産運営での運営費用値※7 は固定費的な特性を持っており
少時にはNOI値は急速に低下しますが、逆に運営収益値の増加時にはNOI値は急速に上昇す
る傾向[図表3-4]があります。このため、運営収益値が増加に転じたことで、大規模オフィスビ
ルのNOI値は、今後本格的な上昇が期待できます。
(以上、都市未来総合研究所 仲谷 光司)
[図表 3-1]オフィスビルの NOI の推移
[図表 3-2]オフィスビルの運営収益の推移
NOI
(NOI値÷取得額)
6.0
運営収益
(運営収益値÷取得額)
8.5
5.5
8.0
大規模オフィスビルの運営収益は
2014年下期から上昇
7.5
5.0
7.0
4.5
6.5
4.0
6.0
大規模オフィスビルのNOIは
2014年上期から上昇
3.5
5.5
3.0
(%)下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期
2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 (年)
全体
大規模
大型
5.0
(%)下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期
2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 (年)
全体
中型
大規模
大型
中型
[図表 3-3]オフィスビルの運営費用値の推移 [図表 3-4]運営収益値と NOI 値の関係例
(東京都心 5 区)
指数
(2007年上期の運営収益値=100)
120
運営収益値が10%減少時
基準時
運営収益値が10%増加時
100
80
60
NOI値
60
運営費用値は固定費的な動き
40
20
0
上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014 (年)
運営収益値/オフィス
運営収益値/賃貸住宅
運営費用値/オフィス
運営費用値/賃貸住宅
運営
収益値
90
運営
30
費用値
30
NOI値の変動率
14.3%低下
図表 3-1、3-2、3-3 のデータ出所:都市未来総合研究所
「ReiTREDA」
※ 1:東京都心 5 区
特別区のうち次の区をいう。千代田区、中央区、港区、
新宿区、渋谷区。
※ 2:空室率が低下し賃料は上昇
オフィス賃貸の仲介業者各社の公表データによる。
※ 3:J-REIT 保有のオフィスビルの運用データ
図表 3-1、3-2 の対象は、物件数がそれぞれ 25 物件以上
となるセグメント。なお、各年上期は 1 月〜 6 月、各
年下期は 7 月〜 12 月を示す。
※ 4:NOI
運営純収益(Net Operating Income)を指し、運営収益
値から運営費用値を控除したもの。
本稿では、取得額に対する NOI 値の割合を NOI とした。
[図表 3-1]は各物件の単純平均値。
不動産トピックス 2015.6
NOI値
70
"## !
運営
収益値
100
運営
30
費用値
30
基準時の費用比率
=運営費用値÷運営収益値
=30%
NOI値
80
"## !
運営
収益値
110
運営
30
費用値
30
NOI値の変動率
14.3%上昇
出所:都市未来総合研究所作成
※ 5:大規模
本稿では、規模は次の基準で区分した。
大規模:基準階面積が 200 坪以上
大 型:基準階面積が 100 坪以上 200 坪未満
中 型:基準階面積が 50 坪以上 100 坪未満
※ 6:運営収益
本稿では、取得額に対する運営収益値の割合を運営収
益とした。[図表 3-2]は各物件の単純平均値。
※ 7:運営費用値
物件のそれぞれの費用比率(運営費用値÷運営収益値)
の平均から算出。なお、[図表 3-3]では、同一物件比較
とするためデータ欠落のない物件のみを対象とした。
発 行 みずほ信託銀行株式会社 不動産業務部
〒 103-8670 東京都中央区八重洲 1-2-1 http://www.mizuho-tb.co.jp/
編集協力 株式会社都市未来総合研究所
〒 103-0027 東京都中央区日本橋 2-3-4 日本橋プラザビル 11 階 http://www.tmri.co.jp/
■本レポートに関するお問い合わせ先■
みずほ信託銀行株式会社 不動産業務部
金子 伸幸 TEL.03-3274-9079(代表)
株式会社都市未来総合研究所 研究部
佐藤 泰弘、池田 英孝 TEL.03-3273-1432(代表)
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