雑誌メディア掲載変遷からみる代官山・自由が丘 人気タウン比較論

雑誌メディア掲載変遷からみる代官山・自由が丘比較
野口 愛
*
三宅 季璃子
矢内 結
*
末繁 雄一
*
**
1. 背景と目的
東京の商業市街地は都市間競争に晒されながら、地域
官山は自由が丘に比べファッションの比率が高い。自由
の魅力を高め、賑わいを維持してきた。地区の賑わい創
おり、その傾向は 2000 年以降顕著である。
出の背景には個店独自の魅力および街路の空間的魅力や、
450
市民や商店会や行政などの街づくり主体の関与などが考
が丘はスイーツ店の掲載が多く食品の比率が高くなって
↑代官山
300
えられるが、近年ではこれらに加え、メディアによる街
のイメージ形成も無視できなくなっており、実際の街の
2012
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
1978
1976
ではメディアのなかでもタウン誌に着目し、都内屈指の
0
1974
ポテンシャル以上の集客につながることもある。本研究
150
0
人気タウンである代官山地区と自由が丘地区を対象に、
タウン誌がその街をどのように紹介しているかの変遷を
150
↓自由が丘
辿ることで、メディアが街をどう評価し、その街のブラ
300
飲食
ンドイメージ形成に影響を与えてきたかを明らかにする。
2. 研究の方法
雑誌専門図書館である大宅壮一文庫の雑誌記事索引検
食品
ファッション
生活雑貨/住関連
その他商業
その他
図 1. 時系列業種別雑誌掲載店舗数
索により、「代官山」「自由が丘」というワードを含む雑
4-2. 掲載頻度が高い店舗の特徴
代官山はシェ・リュイやトムス・サンドイッチなど古
誌記事を抽出した。この中からタウン誌 Hanako が創刊さ
くから紹介され続けている老舗が多く、業種はフランス
れた 1988 年以前はすべての雑誌記事を、1988 年以降は
料理やカフェなどが多い。自由が丘はスイーツの掲載頻
タウン誌に絞って、偶数年ごとにその全 3061 ページの掲
度が高く、特に自由が丘スイーツフォレストはオープン
載内容を時系列でデータベース化した。
した 2004 年に 12 回掲載されている。
3. 代官山の商業市街地としての形成史
1927 年に代官山駅が開業し、同潤会代官山アパートメ
表 1. 掲載頻度が高い店舗
店名
ジャンル
掲載回数 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12
シェ・リュイ
パン・スイーツ
12
ントが建設された。1950 年代に屋敷周辺に商業が発生し、
トムス・サンドウィッチ
サンドイッチ
12
1960 年頃に八幡通沿いに商業が集積し始めた。1967 年に
レンガ屋
旧山手通りにヒルサイドテラス第 1 期が竣工し代官山のイ
Waffle'S beulah
スイーツ
1
4
1
1
1
4
1
1
1
1
1
2
1
1
1
1
1
11
1
1
1
3
3
4
1
1
2
6
4
1
2
1
1
1
フランス料理
10
代 カフェ アルトファゴス
カフェ
10
官 カフェ ミケランジェロ
山 キルフェボン代官山
カフェ
9
5
4
スイーツ
9
2
5
パン
8
2
4
カフェ
8
1
3
4
カフェ
8
1
メージ形成に大きな影響を与えた。また 1975 年にヒルサ
ヒルサイドパントリー
イドテラス向かいにハリウッドランチマーケットが出店
HEARTY
3
1
ECRU
カフェ
8
4
4
した。1986 年に駅が渋谷寄りに仮移転し、周辺のキャッ
シェルタ・キッチン
カフェ
8
7
1
スルストリート沿いの商業集積が形成された。2000 年に
同潤会代官山アパート跡地に代官山初の超高層建築であ
る代官山アドレスが完成した。さらにラフェンテ代官山
もこの年に開業し、八幡通りの雰囲気が大きく変化した。
2011 年には旧山手通り沿いに DAIKANYAMA T-SITE が
オープンし、大きな話題となった。
BOMBAY BAZAR
店名
ジャンル
1
1
1
1
1
掲載回数 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12
自由が丘スイーツフォレスト
スイーツ
20
モンサンクレール
スイーツ
17
モンブラン
スイーツ
9
自 香風
由
six
が
丘 ダロワイヨ
中華料理
9
雑貨
8
スイーツ
7
泰興楼
中華料理
7
Bar di Vino
カフェ
7
café CABANON
カフェ
7
自由が丘ロール屋
スイーツ
7
3
1
4
1
1
1
3
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
1
1
1
1
2
1
1
1
1
1
1
1
2
1
1
1
1
1
2
1
1
1
1
5
2
1
1
1
12
4
1
2
1
1
1
1
1
1
1
1
2
2
1
4
4. 分析結果
4-1. 業種別掲載店舗数の推移
掲載店舗数については、代官山は代官山アドレスやラ
4-3. 掲載記事キーワードの特徴
キーワードを見ると、「大人」「情報発信」「品良く」
フェンテ代官山がオープンした 2000 年にピークを迎え、
店舗群を想起させるキーワードが時代を問わず抽出でき
以降は減少している。自由が丘は自由が丘スイーツフォ
た。2000 年の代官山アドレスオープンでメディアへの露
レストがオープンした 2003 年ごろから増加し、2006 年
出が一気に増え、コアなターゲットのための穴場スポッ
以降は代官山を常に上回っている。業種については、代
トから都内を代表する人気タウンへイメージが変化した。
「散歩」など、豊かで落ち着いた空間に上質で高感度な
NOGUCHI Megumi, MIYAKE Kiriko,
YANAI Yui, SUESHIGE Yuichi
表 2. 代官山における年代別雑誌記事タイトル・キーワード
年代
1970年代
主要な施設・ショップ
ヒルサイドテラスC棟('73)
ヒルサイドテラスD・E棟('77)
ハリウッドランチマーケット('75)
シェ・リュイ1号店('75)
ヒルサイドテラスアネックス('85)
1980年代 キャッスルマンション('85)
ヒルサイドプラザ('87)
雑誌記事タイトル・キーワード
日本のモンマルトル
ファッションの街
題の施設がオープンするとタウン誌はこぞって特集を組
個性派が集まるニューな街
異国情緒が楽しめる
建築家が思いをこめて作った建物が街を変えた
キャッスルストリートはヨーロッパの下町にありそうな小道
ファッションシーンを創り続けた高感度エリアのジャストナウ
ハイスノッブ&情報発信スポット
ヒルサイドテラスF・G・N棟('92)
ヒルサイドウェスト('98)
み、さらにその施設のみならず周辺の店舗を含む街全体
を取り上げることで相乗効果が生まれていることがわか
都会の休息エリア
ちょっと行かない間に変わる街
大人のための街
った。代官山は時代の変化に伴い脚光をあびるエリアが
ニューオープン激戦区
変化しているが、「落ち着いた街並みと高感度な店舗群」
近くて遠い代官山、個性的な隠れ家の宝庫
1990年代
5. まとめ
代官山アドレス、自由が丘スイーツフォレストなど話
好きなものが必ず見つかる場所、おしゃれ発信地へ急げ!
セピアトーンの街並みと個性的なレストラン
散歩が楽しいエリア、カフェやレストランがいい具合に点在
散歩のついでに街を除く、健康都市生活がこの街にある
おいしい店隠れ家エリア代官山
カジュアル過ぎない雰囲気が心地よい
というブランドイメージは維持し続けていると言える。
代官山アドレスのオープン時に爆発的にメディアで取り
上げられたことで、それまでのコアターゲットの街から
品良く心地がいい街
今時の若者が集うかと思うとジモティのオジチャンたちがチャリで走ってたり
誰もが知っている人気タウンへと良くも悪くも認知度は
アドレス誕生で新しい波、到来!
オープンラッシュ、新ランドマークの誕生
いま東京で一番ホットなエリア
代官山アドレス('00)
2000年代 ラフェンテ代官山('00)
代官山Loveria('08)
一度は行きたい、旧山手通りの名店で特別なディナータイムを
大人の隠れ家エリアでとびきりの夜を
できているが、今春オープンするログロード代官山によ
裏路地に佇む一軒家でゆっくりと
新顔のお店もちょっと先を行くスタイルが主流
上質&最新トレンドが手に入る 裏代官山
って、キャッスルストリートなど、かつて注目されてい
スタイルのあるショップ、ハイレベルなお店
新しい大人文化を提案する場所
た東側が再び脚光を浴び、東西に集客の核が備わること
ニューオープンが続く 奥代官山 エリア
2010年代 DAIKANAYMA T-SITE('11)
上昇した。現在は T-SITE の影響で地区西側に人の流れが
暮らすように楽しむ街
で面的に魅力が向上し回遊性が増すことが期待できる。
お散歩が楽しい街
一方で自由が丘は、実際の街は緑道やサンセットアレイ
4-4. 掲載店舗の地理的特徴
掲載店舗の位置を 10 年単位で時系列にプロットすると、 など良質な空間資源をもつエリアや、狭隘な横丁的居酒
代官山については、1974-1982 年は旧山手通りのヒルサ
屋街など、様々なタイプの商業エリアが混在しているが、
イドテラスに多く、その後 1984-1992 年は八幡通りおよ
いくつかの有名スイーツ店や自由が丘スイーツフォレス
びキャッスルストリートに多くなり、掲載エリアが中心
トの存在により、「スイーツの街」というブランドイメー
から東に集まっている。1994-2002 年は代官山アドレス
ジが一貫して強化され続けていることが明らかとなった。
のオープンに伴い八幡通りを筆頭に地区全体が多く取り
上げられている。2004-2012 年は数が少ないものの再び
旧山手通りに掲載エリアが移っている。自由が丘は、駅
から離れたところに掲載エリアが多く、駅北西のサンセ
ットアレイ周辺は 1984 年以降掲載が多い。自由が丘スイ
ーツフォレストは前述のとおり集中的に掲載されている。
代官山
参考文献
1)高橋輝一,志摩憲寿,片山健介,平本一雄:東京における集客型市街地の
変容過程に関する考察 その 2 代官山の事例, 日本建築学会学術講演梗概集,
2009F-1,pp.1183-1184,2009.7
謝辞
本研究は JSPS 科研費 25820305 の助成を受けたものです。
自由が丘
図 2. 年代別雑誌掲載店舗プロット図
**東京都市大学 都市生活学部 学部生
**東京都市大学 都市生活学部 講師・博士(工学)
* Student, Faculty of Urban Life Studies, Tokyo City Univ.
** Lecturer, Faculty of Urban Life Studies, Tokyo City Univ., Dr.Eng