日本英語教育学会ワードテンプレート (タイトル)

Proceedings of the 44th Annual Meeting of the English Language Education Society of Japan
日本英語教育学会第 44 回年次研究集会論文集
語順整序トレーニングが日本人英語学習者の
統語処理能力に与える影響
森下 美和
山本 誠子
神戸学院大学経営学部 〒651-2180 神戸市西区伊川谷町有瀬 518
E-mail: {morisita | yamamoto}@ba.kobegakuin.ac.jp
概要 本調査では、パイロット調査 (Morishita & Yamamoto, 2013) の結果に基づき、初級レベルの日本人英語
学習者(大学 1 年生)を対象とした授業(10 回分)の最初の約 15 分間、Versant English Test (Pearson Knowledge
Technologies) のパート D(文の構築)の形式を使用した語順整序トレーニングを行った。事前・事後テストとし
て、トレーニングと同形式の語順整序タスクおよび Versant English Test をトレーニングの前後に実施し、その効
果を調べた。4 クラス分の学生のデータについて t 検定を行った結果、語順整序タスクについては、事前テストよ
りも事後テストのスコアの方が有意に高くなっていることが分かった。しかしながら、同様に事前・事後テストと
して行った Versant English Test のスコアには変化が見られなかった。このことから、音声で語群を聞き取り、口
頭で並べ替えを行う練習は、統語処理の自動化を促し、リスニングとスピーキングの基礎力を高める可能性がある
ものの、必ずしも総合的な音声言語処理能力が短時間で顕著に向上するとは限らないことが示唆された。
Effect of Training Sessions of Word Order Rearrangement on
Japanese EFL Learners’ Syntactic Processing
Miwa MORISHITA
Tomoko YAMAMOTO
Faculty of Business Administration, Kobe Gakuin University
518 Arise, Ikawadani-cho, Nishi-ku, Kobe 651-2180 Japan
Abstract Based on the results of a pilot study conducted earlier (Morishita & Yamamoto, 2013) and
revising some of the implementation designs, we worked out 15-minute training sessions of word order
rearrangement tasks at the beginning of each lesson for elementary-level Japanese EFL learners (university
freshmen) in four English classes over a period of ten lessons. The result of the t-test shows that there was a
significant difference in the scores of the word order rearrangement tasks between the pre-test before the
training and the post-test after the training. Overall, the training seems to have had a positive effect on the
automatization of students’ spoken language processing. The fact that no significant difference was found in
the scores of the Versant English Test suggests, however, that the effect of the training was not large enough
to be reflected on the result of such a comprehensive language test within a short period of time.
1. は じ め に
音 」・「 語 彙 」・「 文 法 」 の 7 項 目 に つ い て 「 得 意 だ と 思
大学生全体の中で、非英語専攻の学生の占める割合
う 順 」・「 伸 ば し た い と 思 う 順 」 に 順 位 を つ け て も ら っ
は、英語専攻の学生に比べて圧倒的に大きい。しかし
た 。そ の 結 果 、「 話 す 」こ と と「 聞 く 」こ と は 、学 生 が
な が ら 、非 英 語 専 攻 の 中 で も 特 に 社 会 科 学 系 の 学 生 は 、
最も苦手だと考えていると同時に最も伸ばしたい項目
英 語 を EAP (English for Academic Purposes) や ESP
であることが分かった。さらに、同一の学生に対し語
(English for Specific Purposes) と し て 学 ぶ こ と が 少 な
順整序テストを行い、統語知識を測定したところ、英
く、学習目標設定が難しい。そこで、彼らの現状を把
検 3 級レベル(中学卒業程度)の問題においても誤答
握し、効果的な指導につなげるため、 神戸学院大学経
が 散 見 さ れ た ( 森 下 ・ 山 本 ・ 中 西 、 2012)。
営 学 部 の 学 部 生 約 200 名 に 対 し て 英 語 学 習 に 関 す る 意
音 声 言 語 モ デ ル の 一 つ で あ る Levelt (1993) の「 言 語
識 調 査 を 行 い 、「 読 む 」・
「 書 く 」・
「 聞 く 」・
「 話 す 」・
「発
の 理 解 と 生 成 に お け る 語 彙 仮 説 モ デ ル 」を 図 1 に 示 す 。
森下美和・山本誠子, "語順整序トレーニングが日本人英語学習者の統語処理能力に与える影響,"
日本英語教育学会第 44 回年次研究集会論文集, pp. 87-94, 日本英語教育学会編集委員会編集, 早稲田大学情報教育研究所発行, 2015 年 3 月 31 日.
Copyright © 2014-2015 by Miwa Morishita and Tomoko Yamamoto. All rights reserved.
も、文法ルールに則って即座に正しく語と語を組み合
わせて文を作ること(統語処理)ができなければ、産
出につながらないと考えられる。
図1
言語の理解と生成における語彙仮説モデル
(Levelt, 1993)
このモデルでは、まず、リスニングのプロセスとし
て、音響・音声処理装置
(ACOUSTIC-PHONETIC
PROCESSOR) で 音 声 信 号 が 音 声 表 象 に 変 換 さ れ る 。文
解析装置
(PARSER) で は 、 音 韻 化 ・ 語 彙 選 択
(phonological decoding and lexical selection) に よ っ て 、
図2
文 法 符 号 化 モ デ ル (Bock & Levelt, 1994)
メ ン タ ル レ キ シ コ ン (mental lexicon) に 格 納 さ れ て い
る レ キ シ ー ム (lexeme) か ら 音 韻 情 報 が 検 索 さ れ 、 レ
マ
(lemma) に よ っ て 文 法 復 号 化
これらのことから、音声言語における統語処理能力
(grammatical
を伸ばすためには、文法的(および音韻的)復号化と
が 施 さ れ る 。 概 念 化 装 置
符 号 化 を 促 進 す る こ と が 不 可 欠 で あ り 、 特 に 、 EFL
(CONCEPTUALIZER) で 発 話 の メ ッ セ ー ジ や 意 図 が 処
(English as a Foreign Language) 環 境 下 で は 、 音 声 言 語
理され、理解(アウトプット)に至るプロセスも示さ
のインプット(リスニング)およびアウトプット(ス
れている。
ピ ー キ ン グ )を 意 識 的 に 行 う 必 要 が あ る と 考 え ら れ る 。
decoding)
一方、スピーキングのプロセスとして 、概念化装置
Morishita and Yamamoto (2013) で は 、 語 順 整 序 タ ス
でプランニングされた発話すべきメッセージは 、形式
クを使用した統語処理のトレーニングにより、 暗示的
化 装 置 (FORMULATOR) で 文 法 符 号 化 (grammatical
な文法学習の機会を与え、 初級レベルの英語学習者が
encoding) お よ び 音 韻 符 号 化 (phonological encoding)
「聞く」ことと「話す」ことの能力を伸ばすことを目
の操作が施される。このとき、メンタルレキシコンの
的とした授業実践を行った。本調査では、問題数の増
レマによって統語表象が構築され 、レキシームによっ
加 、イ ン タ ー フ ェ イ ス の 充 実 な ど に よ り 、Morishita and
て 音 韻 表 象 が 構 築 さ れ る 。 最 終 的 に 調 音
Yamamoto (2013) の 問 題 点 を 改 善 し 、 新 た な 学 生 を 対
(ARTICULATION) が な さ れ て 、 発 話 ( ア ウ ト プ ッ ト )
象に調査を行った。
に至るプロセスが示されている。
2. 調 査
2.1. 参 加 者
この一連のプロセスは 、時間的制約の中で行われる
が、母語話者の場合は「自 動化」され 、並行処理され
ていると言われている。しかしながら 、非母語話者の
筆者たちが担当する同一の英語科目を履修する大
場合は、高い認知的負荷がかかるため 、流暢さ・正確
学 1 年生 4 クラスを対象とし、事前・事後テストの両
さ・複雑さの間に 、いわゆるトレードオフ効果がしば
方 を 受 け た 学 生 96 名 分 の デ ー タ を 分 析 し た 。 英 語 の
し ば 見 ら れ る ( 森 下 ・ 横 川 、 2014)。
習 熟 度 を 調 べ る た め 、 Quick placement test (Oxford
ま た 、 Bock and Levelt (1994) の 文 法 符 号 化 モ デ ル
University Press, 2004) を 実 施 し た と こ ろ 、平 均 ス コ ア
( 図 2) に よ る と 、 形 式 化 装 置 に お け る 文 法 符 号 化 の
は 22.8 点 ( 60 点 満 点 ) で 、 換 算 表 に よ る と Common
処 理 は 、 機 能 レ ベ ル (functional processing) と 位 置 レ
European framework of reference for languages (Council
ベ ル (positional processing) の 2 段 階 に 分 か れ て お り 、
of Europe, 2001) の A2 (elementary) に 当 た る レ ベ ル で
前者では主に意味役割が付与され、後者では語順が決
あった。
められる。そのため、たとえ適切な語彙を思いついて
88
2.2. ス ケ ジ ュ ール
表2
本調査では、トレーニングの効果を調べるため、
pre
Who wrote this Christmas card?
post
pre
Who made this vegetable juice?
I had my watch stolen.
post
pre
post
Tom had his hair cut.
Small cars are easy to park.
This box is difficult to move.
4
pre
post
I found the book very interesting.
I thought his speech exciting.
5
pre
post
She looks much happier than before.
He looks more careful than usual.
6
pre
post
I am very pleased with his present.
She was very surprised at the news.
7
pre
post
He is as tall as his mother.
This car is as big as mine.
8
pre
post
How do you like the new system?
How do you feel about learning English?
9
pre
post
The man riding a horse is my uncle.
The dog runningaroundtheparkiscute.
10
pre
post
It is important to have a future dream.
It is possible to get a high score.
1
2012 年 度 後 期 の 授 業 の 最 初 と 最 後 に そ れ ぞ れ 事 前・事
後 テ ス ト と し て 語 順 整 序 タ ス ク お よ び Versant English
2
Test (以 下 VET; Pearson Knowledge Technologies) を 実
施 し た ( 表 1)。
3
表1
調査スケジュール
2012年4月
2012年10月
2012年10月
~12月
習熟度テスト (Oxford QPT) 実施
事前テスト(語順整序タスク①+VET)
授業内に約15分間のトレーニング
(語順整序タスク②~⑨、計8回分)
2013年1月
事後テスト(語順整序タスク⑩+VET)
2.3. 素 材
語順整序タスクについては、株式会社成美堂のテキ
スト数冊を参考に 問題文を作成し、語数・シラブル数
を含む各問 題セットの難易度を調整した(1 回あたり
10 問 、 計 100 問 )。
タ ス ク の 作 成 に あ た っ て は 、VET の パ ー ト D( 文 の
語順整序タスクの事前・事後 テスト用素材
構築)を参考にした。ポーズを挟んで聞こえる 3 つの
VET は 自 動 音 声 認 識・自 動 採 点 シ ス テ ム に 基 づ く リ
語群を正しい語順に口頭で並べ替えるというもので、
た と え ば 、‘ makes you,’‘ what,’‘ think so’で あ れ ば 、
スニングおよびスピーキングのテスト であり、以下の
正 解 は ‘ What makes you think so?’ と な る 。 各 問 題 文
よ う な タ ス ク で 構 成 さ れ る ( 表 3)。
につき、語順整序用と復唱用の 2 種類の音声を、
表3
GlobalvoiceEnglish (HOYA)で 作 成 し た 。
パート
A
B
C
D
E
F
口頭での語順整序トレーニングでは、メン タルレキ
シコン内の 語彙にアクセスし、各語群を記憶し 、正し
い語順に組み立て、発話するという一連のプロセスを
ほぼ同時に行わなければならない。したがって、単な
る復唱よりも認知負荷が大きい分、学習効果が高いと
考えられる。
Morishita and Yamamoto (2013) で は 、 事 前 ・ 事 後 テ
VET の 各 パ ー ト の タ ス ク
タスク
Reading(音読)
Sentence Repeat(復唱)
Short Answer Questions(質問に答える)
Sentence Builds(文の構築)
Story Retelling(話の要約)
Open Questions(自由回答式質問)
スト用の語順整序タスク(表 1 の①と⑩) には、まっ
たく同じ文を使用したが、本調査では、練習効果をで
受験に際し、受験者は個別化された試験用紙と固定
きるだけ排除するため、同じ文法構造を持つ異なる文
電話を使用する。 試験用紙に印刷されてある電話番号
を 使 用 し た ( 表 2)。
に電話をかけ、プッシュボタンを使い、印刷されてあ
る個別のテスト番号を入力すると音声指示が聞こえ、
試 験 が 開 始 と な る 。試 験 は 約 15 分 で 終 了 し 、音 声 認 識
システムを使用した自動採点システムにより採点され
る 。 通 常 、 試 験 終 了 後 数 分 以 内 で Pearson の ウ ェ ブ サ
イトからスコアレポートが入手可能となる。
VET は 、シ ス テ ム 要 件 を 満 た せ ば 、コ ン ピ ュ ー タ に
よ る 受 験 も 可 能 で あ る 。本 調 査 で は 、CDT ク ラ イ ア ン
トと呼ばれる無料ソフトをウェブサイトからダウンロ
ー ド し 、VET の テ ス ト 実 施 に 利 用 す る コ ン ピ ュ ー タ に
事 前 に イ ン ス ト ー ル し て お き 、 CALL 教 室 を 使 用 し た
授業内で一斉に受験を行った。
89
2.4. 手 順
お よ び VET を 事 前・事 後 テ ス ト と し 、ス コ ア を 繰 り 返
しのある t 検定(両側)により分析し,トレーニング
Morishita and Yamamoto (2013) で は 、 学 生 用 PC
の 効 果 を 調 べ た ( 表 4)。
に イ ン ス ト ー ル 済 み の 音 声 ソ フ ト (SoundEngine
Free ver. 4.59) を 各 自 起 動 し 、あ ら か じ め 配 布 さ れ て
表4
いるパワーポイントのスライドショーを開き、語順整
語 順 整 序 タ ス ク お よ び VET の 平 均 ス コ ア と SD
序タスクに解答した。
各 問 題 に つ き 、英 文 が 2 回 ( 語 順 整 序 タ ス ク の 解 答
pre
post
および正解文の復唱)録音されていることを想定して
いたが、音声を何回も聞くことが可能であったため、
n
M (SD)
M (SD)
p
英 文 が 2 回 以 上 録 音 さ れ て い る 場 合 も あ り 、ど こ ま で
語順整序タスク
96
4.49 (1.85)
4.96 (1.65)
VET
53
25.62 (4.03)
24.81 (3.86)
0.016*
0.121
が解答で、どこからが正解文の復唱かの判断が困難で
あった。正解を先に確認している可能性も否定できな
語 順 整 序 タ ス ク( 10 点 満 点 )に つ い て は 、音 声 デ ー
いため、履歴を取る、後戻りができないようにする、
タをチェックし、 文の中核をなす構成素の配列 が合っ
などのシステム上の工夫が 必要であることが分かった 。
ていれば正解とし、冠詞や形態素などのエラーについ
ては、今回は採点対象外とした。
本調査では、インターフェイスを修正してこれらの
問 題 点 を 改 善 し 、 英 語 の 授 業 ( 10 回 分 ) の 最 初 の 約
VET の ス コ ア レ ポ ー ト に は 、総 合 点 の ほ か 、文 章 構
15 分 間 、語 順 整 序 タ ス ク を 使 用 し た ト レ ー ニ ン グ を 行
成 ・ 語 彙 ・ 流 暢 さ ・ 発 音 の 各 サ ブ ス コ ア が 20 点 か ら
った。トレーニングの手順は、以下の通りであった
80 点 の 間 で 報 告 さ れ る 。本 調 査 で は 、VET の ス コ ア は 、
( Appendix 参 照 )。
受験後すぐに学生自身がウェブサイト上で チェックす
るよう指示した。
語順整序タスクのスコアには、全体として事前・事
1) 学 内 の e-learning シ ス テ ム か ら 、 ト レ ー ニ ン グ
後テスト間で有意な伸びが見られたことから、語順整
(Sentence Builder) の ペ ー ジ を 開 く 。
2) 各 画 面 で は 、選 択 で き る ボ タ ン が カ ラ ー 表 示 さ れ
序タスクは、明示的な文法指導だけでは難しいであろ
ているので、まず「聞く」 ボタンをクリックし 、3 つ
う統語処理の自動化を促し、リスニングとスピーキン
の 語 群 を 聞 く 。1 回 聞 き 終 わ る と 日 本 語 訳 が 表 示 さ れ 、
グの基礎力を高める可能性が示唆された。 しかしなが
「 も う 1 回( 聞 く )」か「 録 音 す る 」を 選 択 で き る 。音
ら 、VET の ス コ ア に つ い て は 変 化 が 見 ら れ な か っ た こ
声は 2 回まで聞くことができる。
とから、総合的な音声言語処理能力が 短期間で顕著に
向上するとは限らないことが分かった。
3) 「 録 音 す る 」ボ タ ン を ク リ ッ ク し 、 3 つ の 語 群 を
な お 、 語 順 整 序 タ ス ク の 受 験 者 数 (n = 96) と VET
口頭で正しい順序に並べ替える。録音が終わったら、
「録音終了」および「正解へ」ボタンをクリックして
の 受 験 者 数 (n = 53) に か な り の 違 い が あ る の は 、VET
次の画面へ進む。
の 場 合 、声 が 小 さ す ぎ る 場 合 や ス コ ア が 20 点 以 下 と 判
断 さ れ た 場 合 は 、ス コ ア レ ポ ー ト に「 採 点 で き ま せ ん 」
4) 「 聞 く 」ボ タ ン を ク リ ッ ク し 、正 解 の 音 声 を 聞 く 。
と表示され、外れ値となるためである。
1 回 聞 き 終 わ る と 日 本 語 訳 が 表 示 さ れ 、「 も う 1 回 」か
「録音する」を選択できる。音声は 2 回まで聞くこと
3.2. ア ン ケ ー ト
ができる。
5) 「 録 音 す る 」ボ タ ン を ク リ ッ ク し 、正 解 の 音 声 を
最終日に、語順整序タスクに関するアンケートを行
復唱する。
「 録 音 終 了 」を ク リ ッ ク す る と 、正 解 文 が 文
い 、各 項 目 に つ き 、4 件 法 ま た は 5 件 法 に よ る 評 価( 表
字 で 表 示 さ れ る 。「 第 ○ 問 へ 」ボ タ ン を ク リ ッ ク し て 次
5) お よ び 記 述 回 答 を し て も ら っ た 。
の画面へ進む。
6) す べ て の 解 答 が 終 わ り 、「 録 音 し た 音 声 デ ー タ を
保存する」をクリックすると、デスクトップ上に音声
ファイルが保存される。
7) 音 声 フ ァ イ ル を ド ラ ッ グ ア ン ド ド ロ ッ プ で「 フ ァ
イ ル の 提 出 」の ダ イ ア ロ グ ボ ッ ク ス に 入 れ て 提 出 す る 。
3. 結 果 と 考 察
3.1. 事 前 ・ 事 後テ ス ト
ト レ ー ニ ン グ の 1 回 目 と 10 回 目 の 語 順 整 序 タ ス ク 、
90
表5
アンケート項目
1
2
3.15 と な り 、 両 者 に は あ ま り 違 い が 見 ら れ な か っ た 。
3
4
この結果は、上記の記述回答におけるコメントを反映
5
しており、正解文の復唱に困難を感じている学生が少
1
トレーニングにどの程度満
足しましたか?
不満
やや不 やや満
満
足
2
「語の並べ替え」は、どの
程度難しかったですか?
簡単
やや簡 ちょう やや難
難しい
単
どよい しい
3
「 正 解 文の 復唱 (リ ピー
ト ) 」 は、 どの 程度 難し
かったですか?
簡単
やや簡 ちょう やや難
難しい
単
どよい しい
4
トレーニングで、「リスニ
ン グ 」 「ス ピー キン グ」
「語彙」「文法」「発音」
の能力が伸びたと思います
か?
満足
なくないことが分かる。本調査の語順整序タスクの 場
合 、語 群( 1~ 4 語 の 短 い チ ャ ン ク )は 3 つ に 分 け ら れ
ていたが、復唱の段階では 、1 つの長いチャンク(正
解 文;5~ 8 語 )が 与 え ら れ た こ と に よ り 、文 構 造 を 十
分理解していない場合は、全体として処理が困難にな
った可能性がある。また、各語群は、ポーズを挟んで
ゆっくり読み上げられるが 、正解文では発話速度が増
伸びな やや伸
とても
伸びた
かった びた
伸びた
し、音声変化を伴うため、復唱のためのリスニング自
体も難しくなったと考えられる
(Morishita &
Yamamoto, 2013)。
さらに、トレーニングでどのような英語の能力が伸
ト レ ー ニ ン グ の 満 足 度 を 、4 件 法( 1. 不 満 、2. や や
びたと思うかについて、本調査のタス クに特に関連す
不 満 、 3. や や 満 足 、 4. 満 足 ) で 評 価 し て も ら っ た と
る と 思 わ れ る「 リ ス ニ ン グ 」
・
「スピーキング」
・
「語彙」
・
こ ろ 、 平 均 ス コ ア は 2.76 と な っ た 。
「 文 法 」・「 発 音 」 の 5 項 目 に つ い て 、 4 件 法 ( 1. 伸 び
満 足 し た 点 と し て は 、「 今 ま で や っ た こ と の な い ス
なかった
2. や や 伸 び た
3. 伸 び た
4. と て も 伸 び
タ イ ル だ っ た の で よ か っ た 」、「 自 分 の 家 で は で き な い
た)で答えてもらったところ、以下のような結果とな
ト レ ー ニ ン グ だ っ た の で よ か っ た 」、「 終 わ っ た 後 に 達
っ た ( 表 6)。
成 感 を 感 じ た 」 な ど 、 CALL 教 室 を 使 用 し た 授 業 内 活
動 に 興 味 を 持 っ た と 考 え ら れ る 回 答 が 見 ら れ た 。ま た 、
表6
トレーニングで伸びたと思う英語の能力
「自分で英語を聞き取って話す機会がなか ったので、
英語の能力
良 い 経 験 に な っ た 」、「 毎 回 英 語 を 聞 き 取 る た め に 集 中
で き た 」、「 聞 き 取 っ て 文 を 作 る ま で の 時 間 が 短 く な っ
リスニング
スピーキング
2.14
1.97
た 」、「 リ ス ニ ン グ ・ 文 法 ・ 発 音 な ど 同 時 に た く さ ん で
語彙
1.68
きるのがよかった 」など、 特にリスニングについての
文法
2.04
コメントが多かった。通常の会話でも、リスニングが
発音
1.83
平均満足度
できなければスピーキングにつながらないということ
に つ い て 、あ る 程 度 の 気 づ き が 得 ら れ た 可 能 性 が あ る 。
全 体 と し て 、 リ ス ニ ン グ (2.14) と 文 法 (2.04) が や
「難しいものもあれば、簡単なものもあってバランス
や 伸 び た と 感 じ て お り 、語 彙 (1.68) が 最 も 伸 び な か っ
が よ か っ た 」、「 記 憶 力 が つ い た 」 な ど 、 タ ス ク に 真 剣
たと感じている学生が多いことが分かった 。リスニン
に取り組む様子が想像できる回答も見られた。
グについては、上記の記述回答におけるコメントを反
不 満 な 点 と し て は 、「 声 を 出 す の が は ず か し か っ
映し、比較的トレーニングの効果を感じていると考え
た 」、「 結 果 ( 自 分 の ス コ ア ) が 分 か ら な い 」 な ど 、 授
られる。語彙については、各問の最後に正解文は示し
業内の限られた時間の中で一斉に行うタスクの欠点を
ているが、知らない単語を確認して覚える ほどの余裕
指 摘 す る 回 答 が あ っ た 。ま た 、
「聞くだけで並べ替えを
はなかったのかもしれない。
す る の は む ず か し い 」、「 聞 い て 正 解 文 を 見 て も 、 分 か
ら な い 問 題 が あ っ た 」、「 ( 特 に 正 解 文 の ) ス ピ ー ド が
4. ま と め と 今後 の 課 題
速 か っ た 」「 文 が 長 い と 覚 え ら れ な い 」な ど の 回 答 か ら 、
事前・事後テストおよびアンケートの結果 から、音
初 級 レ ベ ル の 学 生 の 特 徴 が 垣 間 見 ら れ た 。さ ら に 、
「知
声で語群を聞き取り、口頭で並べ替えを行う練習は、
らない単語は、あいまいなままになってしまった」一
明示的な文法指導だけでは難しいであろう 統語処理の
方 で 、「 熟 語 な ど の 決 ま り 文 句 を 少 し 覚 え ら れ た 」と い
自動化を促し、リスニングとスピーキングの基礎力を
う感想もあった。
高める可能性が示唆された。
語の並べ替えおよび正解文の復唱はどの程度難し
か っ た か に つ い て 、5 件 法 ( 1. 簡 単
ちょうどよい
4. や や 難 し い
2. や や 簡 単
VET の ス コ ア に つ い て は 変 化 が 見 ら れ な か っ た こ
3.
とから、本調査で使用した語順整序タスクによって、
5. 難 し い ) で 評 価 し
必ずしも総合的な音声言語処理能力が 短期間で顕著に
て も ら っ た と こ ろ 、平 均 ス コ ア は そ れ ぞ れ 3.33 お よ び
向 上 す る と は 限 ら な い こ と が 分 か っ た 。し か し な が ら 、
91
熟 達 化 す る か:言 語 情 報 処 理 の 自 動 化 プ ロ セ ス を
探 る 』( 松 柏 社 )
本調査のように、コミュニケーションに特化しない授
業であっても、リスニング やスピーキング をうまく取
り入れることで、4 技能を統合的に伸ばし 、効果的な
言語コミュニケーション能力を伸ばすきっかけとなる
可能性があるだろう。
今後は、事前・事後テストに加えてトレーニングの
途 中 の デ ー タ も チ ェ ッ ク し 、変 化 の 過 程 を 調 査 し た い 。
さらに、事前・事後テスト間で、解答時間(速度)に
変化が見られるか、統語構造(文法項目)によって伸
びが異なるか、習熟度によってトレーニングの効果が
異なるか、など様々な観点からも分析を行 う。
また、復唱そのものが難しい英文をもとに作成した
語順整序タスクに学習効果はあるのか、もしあるとす
れば、どのような学生にどの程度有効かについても、
別途調査を行いたいと考えている。
謝
辞
本 調 査 は 、平 成 24 年 度 神 戸 学 院 大 学 研 究 助 成 C「 統
語処理のトレーニングが初級英語学習者のスピーキン
グ 能 力 に 及 ぼ す 影 響 : CALL 教 室 を 活 用 し た 授 業 実 践
に 基 づ く 考 察 」( 研 究 代 表 者:森 下 美 和 )の 助 成 を 受 け
ています。
事 前 事 後 テ ス ト の 一 部 と し て Versant English Test
を 実 施 す る に あ た っ て は 、 Pearson Knowledge
Technologies の ご 協 力 を い た だ き ま し た 。
トレーニングの英文作成に当たっては 、株式会社成
美堂のテキストを参考にさせていただきました。教材
として英文使用を許可してくださいました著者の方々
に感謝いたします。
文
献
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者 の 文 産 出:脳 内 に ど の よ う な 統 語 表 象 を も っ て
い る か (pp. 113-135) 」
『外国語運用能力はいかに
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Appendix: ト レ ー ニ ン グ の イ メ ー ジ
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