高い機能と応答性を誇る最新HISの構築。 出色の現場力

豊橋市民病院
愛知県◉
高い機能と応答性を誇る最新HISの構築。
出色の現場力はスタッフの声が作り上げ、
成長はDWHに託す
東三河地区唯一の救命救急センターや地域周産期母子医療センターを有する
豊橋市民病院は、同地区の
“医療の要”
ともいえるだろう。
同院では 2010 年 5 月に病院情報システムを更新し、ICT 環境を一新。
最新のシステムによって医療の質の大幅な向上を図ると共に、
データウェアハウス
(DWH)
による診療データの積極的活用を行っている。
同院院長の岡村正造氏ら、システム更新時のキーパーソンの方々に、
新システム更新の経緯や有用性についてインタビューした。
岡村正造(おかむら・しょうぞう)氏
1950 年愛知県生まれ。76 年名古
屋大学医学部卒。84 年豊橋市民
病院勤務、09 年より院長就任
新 医 療 2012年9月号
新
医 療 2012年9月号 ( 8 )
完成したものです。
システム選定作業は、
院内各部署の意見を選
な情報は、QI事業のデータ集計はもとよ
り、術後の感染症のリスク回避のための情
報とも成り得るのです。
医療と経営の質の向上に貢献するデータ
定基準として取り込む
は、利活用を考えると本来は別々に集積さ
強化を図っていきます。また、東三河医療
を中心に地域医療施設とのさらなる連携の
総合支援センター﹂を開設し、同センター
療施設との連携については、昨年、
﹁患者
その院内の総意を医療情報課がベンダに提
対する要望を職員間で協議します。そして、
のワーキンググループ別に、新システムに
体的には、まず医師をトップに据えた複数
という方式に則り、推進してきました。具
て、お伺いします。
︱︱今後の医療ICTに対する所感につい
できるシステムに進展させたいですね。
管理と医療の質に分類して、データを管理
れるべきです。それゆえ、将来的には経営
﹁提案型プロポーザル﹂
圏の地域がん診療連携拠点病院として昨年、
I nt er v i ew
五大がんの地域連携パスの運用を開始した
豊橋市民病院 院長
氏に聞く
︱︱豊橋市民病院の理念と概要、診療の特
︱︱病院情報システムに対する取り組みに
ことも〝連携〟におけるトピックでしょう。
明確にするなど、職員の総力を結集して取
タッフを対象に任命式を行って目的意識を
です。ワーキンググループに選出されたス
価軸としてシステムを決定するというもの
取り組みは、数年先には必須になっている
や、ICTを介した地域医療連携に対する
で閲覧できるリモートアクセスシステム
岡村 正造
徴等からお聞かせください。
案という形で伝え、ベンダからの回答を評
医療が今後進んでいく方向性を鑑みる
と、患者さんが自身の情報をリアルタイム
ついて、お伺いします。
のではないかと考えています。
1996年に現在の豊橋市青竹町に新築
移転しましたが、それ以前から﹁豊橋市民
病院に行けば何とかしてもらえる﹂
、
﹁行っ
り組んだプロジェクトでした。
います。本来ならば機器の老朽化などを考
慮 し て5 年 周 期 で 更 新 し た い の で す が、
に対する感想をお伺いします。
子カルテを稼働、そして同時にデータウェ
います。医療の質の向上を例に挙げると、
はないでしょうか。
左右するキーポイントのひとつになるので
の重要度が増していくのは確実です。
院戦略=情報戦略﹂と表現できるほどにそ
ズアップされてくるでしょう。例えば、﹁病
︱︱導入から2年を経た病院情報システム
また、
医療ICTが果たす役割として﹁院
内情報の集積と分析﹂が今後、一層クロー
当院では 年に医事会計システムを導入
て満足した﹂と患者さんに感じて頂ける病
してから、7年周期でシステムを更新して
院であり続けることを当院の基本理念とし
て、地域の医療に貢献してきました。
当院のある東三河医療圏は、 万人とい
う人口規模に対して基幹となる医療施設が
医療と経営の質の向上を目指したことに
800床クラスの病院規模ゆえに、更新準
ついては、優れた有用性を発揮してくれて
アハウス︵DWH︶で各部門の情報を一元
︶事業﹂に参加しています。この
Indicator
事業では、参加病院の死亡退院患者率など
備に時間を要してしまう結果です。
中心に受け入れる救急医療、がんや感染症
のQ I指標を改善・評価するものですが、
年、 年にそれぞれオーダリングシス
﹁東三河地区の3次医療﹂を提供する施設 テムの導入・更新を行い、 年に現在の電
としての役目を担っています。重症患者を
などの高度専門医療を重点的に行う一方
ACSについては先行して 年に導入、フ
管理するシステムを構築しました。なお、P
当院は昨年から日本病院会が医療の質の向
そのような観点からも、これから医療情
上のために実施している﹁Q I︵ Quality 報をコントロールするセクション、当院に
おいては医療情報課の活動は、病院運営を
で、地域内の医療施設で診療制限が行われ
︱︱現在の病院情報システムの選定の経緯
いるので、部門で管理する詳細なデータを
DWHを全ての部門システムと接続させて
新たに導入したDWHを活用しています。
分析する情報を﹁医師のスキルアップや研究
なっています。そこで、医療情報課が管理・
そのためのデータ集計・分析ツールとして、 例えば東三河医療圏では現在、将来予想
される医師不足への先行対応が懸案事項と
について、お聞かせください。
ィルムレス化を実現しています。
なお、周産期医療に関しては、NICU
と新たに設置するMFICUを中心とした
の支援﹂にも活用できるような仕組みを整
特長を訴えられるようになれば、医師の安
備して、
〝自己啓発ができる病院〟という
ケージシステムを導入する﹂という基本姿
例えば手術部門システムでは、手術前の
抗生剤を投与した時間など、手術に関する
定確保に結び付けられると考えています。
CT環境の再構築をすることにした結果、
勢の下、電子カルテを中心とする院内のI
詳細なデータまで検索できます。そのよう
容易に把握できることは大変有用です。
周産期医療にも力を入れています。
ている産婦人科や小児科の現状を鑑みて、
少なく、そうした地域事情の中で、当院は
89
03
新システムは﹁基本的にカスタマイズを
﹁総合周産期母子医療センター﹂と﹁バー
行わずに、次の更新まで運用できるパッ
スセンター︵院内助産施設︶
﹂の整備を進
めており、2014年に開設する予定です。
地域の基幹病院が主導すべき病診連携の
推進も、当院の使命のひとつです。周辺医
( 9 ) 新 医 療 2012年9月号
10
04
96
70
I nt er v i ew
豊橋市民病院 事務局
医療情報課
氏に聞く
原瀬 正敏
性を発揮できるパッケージベースの新シス
発を招いた経験から、多数の職員︵システ
ステム選定・構築が多数の職員の不満や反
ワーキンググループの要望を取りまとめ、
案型プロポーザル方式を取り入れて、各
ダがシステムの仕様内容について提案する
ル方式を採用し、病院の要望に対してベン
無理な話です。そこで、提案型プロポーザ
新 医 療 2012年9月号 ( 10 )
質と経営の向上に対する貢献が要求されて
いました。また、旧システムは、諸事情か
ら電子カルテ導入にまで至らなかったた
め、新システムでは当初から電子カルテの
導入を基本要件としました。
識です。7年前の旧システム構築では、ベ
システム更新に当たって重視したのは
〝病院主導でHISを構築する〟という意
ンダ頼みにした面が大きく、それがシステ
ムに対する院内スタッフの不満に繋がって
いました。また、業務とシステム運用を円
滑にするために行った幾多のカスタマイズ
が、その労力と運用コストの面で少なから
ず病院運営の負担にもなっていました。
営管理に貢献するシステムにすることな
病院主体でシステムを再構築するに当た
豊橋市民病院は、2010年5月から電 り、既存の部門システムをできるだけ活用
子カルテシステム﹁ HAPPY ACCEL-ER
︵東
すること、標準規格の利用、診療支援や経
芝医療情報システムズ︶
﹂と各部門システ
ムに加え、医療データウェアハウス︵DW
ステム導入の基本姿勢﹄9か条を打ち出し
テムを構築するということでした﹂
させることで、現場の意見を広く汲み上げ
﹁システム選定・構築に多数の職員を参加
ようにしたことで、病院・ベンダ双方が納
システムの仕様書を直接作成することは、
﹁ICTに精通していない病院スタッフが
ベンダとシステムの概要が決定していった。
その実現の可否をベンダに問う形で、担当
テム構築期の第二期は グループ・220
名︶がシステムの選定・構築に参加するこ
この基本コンセプトを踏まえた上で、同
院では外来や病棟、診療支援などのワーキ
ると同時に、スタッフのシステム構築に対
とになった。
た。病院総合情報システムの再構築の目的
する責任感や参加意識といったものを植え
得できるシステム仕様書を作成できたと感
じています﹂
︵原瀬氏︶
付けることに成功したと感じています﹂
テム構築の際、一部メンバー主導によるシ 新システムの機能や仕様については、提
構築プロジェクト﹂を 年に結成。旧シス
ンググループ別に医師や看護師が新システ
マルチベンダに対応できるHISを選定
レスポンス性の高さと
ム選定期の第一期は5グループ 名、シス
タマイズを原則行わず、次期更新まで有用
ました。その中で最も重視したのが、カス
ど、
新システムの基本コンセプトとなる﹃シ
H︶の﹁ CLISTA!
︵医用工学研究所︶
﹂を
組み込んだ病院総合情報システム︵HIS︶
を稼働させている。
新システムにおける端末数は、電子カル
テと部門システムを含めて約1300台、
サーバ機器は110台。これら膨大な機器
を安全に管理・運用するために、ハードディ
スクやメモリの容量、CPUの負荷などの
状況を常時検知するなど、統括的に故障の
豊橋市民病院では、システムごとに交渉・契約を行う「マルチベンダ導入方式」を実施。この方
式では、部門ごとに最適なシステム選定が可能である他、システムごとに交渉を行うため、保守
費用等を含めた個々のシステムに関するコストが「見える化」されるメリットがあるという
ムに求める要件を協議する﹁次期システム
リスクを回避する統合運用管理システムを
92
と経緯について、医療情報課の原瀬正敏氏
は次のように話す。
﹁地域の基幹病院としての将来を見据えた
上でも、新システムには従来以上に医療の
08
導入して、新システムの安定稼働を実現し
12
データベースエンジン「Caché」による
DWH は、従来のソフトに比べて桁違いの
作業効率性を実感しています(原瀬正敏氏)
ム ズ 社 の デ ー タ ベ ー ス エ ン ジ ン﹁ Caché Hシステムである。DW
病院情報システムを構成するシステム選
Hは、病院経営における
定に当たりポイントとなった点について、 ︵キャシェ︶
﹂である。
ち上げや、情報検索、画面展開などのレス
ンパクトなデータ収納を実現し、それにオ
く、多次元配列で格納することによってコ
タベースエンジンである。
﹁ Caché
﹂はデー
タを、リレーショナルのような2次元でな
﹁ Caché
﹂は複雑かつ大量のデータの高速処
理機能が可能な、オブジェクト指向のデー
のみならず看護師などの
あって導入。現在は医師
たいという医師の要望も
なく、疾病研究や論文作
患者データの活用だけで
ポンスを良くしてほしい﹄というものが圧
医療スタッフ間にも、診
原瀬氏は次のように話す。
倒的に多く、次回更新までの7年間、蓄積
ブジェクトアクセスを実施することで、医
療情報の集積と分析に対
テムに対する要望として、
﹃端末画面の立
﹁ワーキンググループが出した基幹系シス
する情報量が増えてもレスポンスを維持で
療のような複雑で多様、かつ膨大な量の
こが、他のデータベースエンジンと異なる
データを高速で処理することができる。こ
いるという。
する関心が高まってきて
成にもデータを利活用し
きることは、大きなポイントでした。さら
にシステム管理の面からは、IHE J- な
どの標準化技術に対応できている点も重要
高い評価を頂いています。
の立場から原瀬氏は次のように話す。
データを管理・分析を担当する医療情報課
くでしょう。分析件数が多くなればなるほ
データ分析の依頼は今後ますます増えてい
視しました﹂
﹁医療情報課でデータを分析する際、旧シ
DWH導入のもうひとつの目的である
点だ。また、データ構造の違いにより、経
導入から2年、DWHの意義が医師や看
データの経営への活用について、実際に
護師間に浸透してきたことで、職員からの
年によるパフォーマンスの劣化が少ない点
電子カルテ﹁
﹂の高
HAPPY
ACCEL-ER
も﹁ Caché
速レスポンス性を支えているのは、多数の
﹂の特長である。
原瀬氏は、臨床現場での電子カルテのレ
スポンスに関する評価を次のように話す。
ど、
﹃ Caché
﹄の高速アクセスというメリッ
トがよりクローズアップされるはずです﹂
医療機関で採用実績のあるインターシステ
ステムでは医事会計や部門システムごとに
では、DWHによる一元管理のおかげで情
を収集する必要がありました。新システム
末画面の立ち上がりが速く、とても便利に
なった﹄という声があがっていました。導
データベースにアクセスして、必要な情報
医療情報課では、次期システムへの更新
を見据えて﹁データ移行ツール﹂としての
﹁医師や看護師の間では、導入当初から﹃端
電子カルテ﹁ HAPPY ACCEL-ER
︵東芝医療情報システム
ズ︶
﹂の高速レスポンスに対する院内スタッフの評価は高い。
外来で診察する加藤岳人副院長
返って、原瀬氏は次のように話す。
更新時におけるデータ移行の経緯を振り
﹁データは、過去1年分の画像や内視鏡、
DWH活用も視野に入れている。2年前の
リハビリ、検体検査、処方等、同7年分の
報検索に必要なインターフェースがひとつ
く落ちていない点についても、職員の評価
になり、作業の効率が大幅に向上していま
サマリに分類して移行したのですが、その
入から2年が経過して、アクセス性能が全
は一様に高いですね﹂
す。
﹃ Caché
﹄の高速アクセス性能は、その
効率をさらに引き上げてくれています。
データ量は膨大であり、どうしても直接移
高機能DWHを導入
の処理に半日か1日足らずで、収集する対
カルテのサーバに蓄えられた膨大なデータ
を行っています。その際、医事会計や電子
行の準備には相当な労力を要しました。
行と違い、病院を運営しながらのデータ移
労しました。また、新築移転時のデータ移
行できないデータは手入力を行うなど、苦
検査結果、そして全件の退院サマリと外来
医療情報課では現在、経営支援などの定
例レポートと部門からの分析の依頼を合わ
HISデータを活用するために
せて、1ヵ月で 件から 件のデータ分析
象が少なければわずか数十分で、必要な情
新システムの要のひとつである医療DW
Hの﹁ CLISTA!
﹂にも、
﹁ Caché
﹂が採用さ
れている。
﹁ CLISTA!
﹂は、
電子カルテの他、
各部門システムで様々なファイル形式で保
抽出を依頼する多くの医師たちから、大変
存・蓄積されているデータ類を統合し、そ
に応じて迅速に提供することが可能なDW
( 11 ) 新 医 療 2012年9月号
免震構造を持つサーバ室に設置された、病院総合
情報システムサーバ群。電子カルテサーバをはじ
め、各システムのサーバを医療情報課のスタッフ
6 名で管理している
れらから統計処理に使用するデータを必要
40
しかし、DWHでデータを一元管理すれ
報を抽出、そして処理が可能です。データ
ば、システム更新時のデータ移行は容易と
30
ハーサルを2回から3回に増やしたことや、
直前の旧システムからのデータ移行に手間が
かかったことなど、苦労した点もありました
が、稼働後は大きなトラブルもなく順調に運
用できていると感じています。
カスタマイズ化原則禁止で
システムの安定稼働を実現
事務職員だけでなく、医療スタッフも
DWH を活用してほしい(加藤氏)
I nte r v ie w
豊橋市民病院 副院長 加藤 岳人氏に聞く
緩衝帯、折衝係となった医療情報課の存在が
円滑なシステム導入の鍵となる
――電子カルテ導入プロジェクトのリーダー
として、今回のシステムをどのように受けと
めていますか。
前回のシステム導入では、システム電算委
員会の外科代表として参加しましたが、今回
はプロジェクトリーダーという立場で、正直、
荷が重く感じていましたね。当然、失敗は許
されませんし、電子カルテは私自身も今まで
経験はなく、稼働するまで実際にどのような
ものか実態が見えなかったので、不安な気持
ちが強かったです。
しかし、医療情報課が主体となり医療ス
タッフとベンダの間に立ってくれたことで、
私自身は意見のまとめ役に徹することがで
き、大いに助かりました。部署によっては、
無理難題を要求するところもありましたが、
皆、前向きに電子カルテ導入に取り組んでく
れた結果、プロジェクトを順調に進めること
ができました。前回のシステム導入時の反省
を生かし、職員を多数参加させ、プロジェク
トの進捗状況等をできるだけオープンにして
いったことも、電子カルテ導入に関する院内
全体のモチベーション向上につながったので
はないでしょうか。
電子カルテ稼働1ヵ月前にリハーサルを実
施した際はなかなか上手くいかず、全体リ
――初めての電子カルテとのことですが、使
用しての印象はいかがでしょうか。
紙カルテと比較して、外来でも病棟でも、
どこでも患者の診療データや画像を参照する
ことができるのは当たり前のことですが、や
はり便利です。しかし、それよりも当院の電
子カルテはレスポンスが速く、導入当初と変
わらないスピーディさを維持している点を
皆、高く評価しています。もちろん細かい点
での不満はあるでしょうが、私自身としては
100 点満点で 90 点以上ではないかと考えてい
ます。
――90 点以上という評価につながった要因
とは、どのようなものでしょうか。
要因は医療情報課の存在ではないでしょう
か。私たち医療側はシステムについては詳し
くないですし、ベンダ側も医療情報システム
を専門に扱う業者とはいえ、決して医療に精
通しているとは言い切れません。医療情報課
がベンダと私たち医療スタッフとの間を取り
持ち、システム構築を進めていったことが大
きいと思いますね。また、プロジェクト自体
の進め方についても、会議のやり方等を含め
事務系スタッフの功績が大であると思いま
す。その結果、医療現場の声が大いに反映さ
れて、使いやすいシステムになったと言える
でしょう。
現在も、プロジェクトの延長として医療情
報委員会の委員長を務めています。同委員会
は、2 ヵ月に 1 度、医師および看護師が各 5
∼ 6 名、そして医療情報課長を加えた約 13
名が参加して、電子カルテを含んだ全ての病
院情報システムに関する問題点の洗い出しや、
改善について議論していますが、電子カルテ
に関する不満はあまり聞かれませんね。一方、
当院の電子カルテの長所であるレスポンスの
速さについては、評価する声が多いようです。
もちろん、細かな点についての改善要望等は
常に挙がってきますので、今後もより洗練し
たシステムにすべく活動していきます。
――医療情報課の存在以外には、どのような
点が重要と考えられますか。
もう 1 点、ポイントとなったのが、システ
ム導入の基本姿勢の第 1 項目に挙げた「シス
テムパッケージからのカスタマイズ化は原則
行わない」というコンセプトを明確化したこ
とではないでしょうか。
将来のバージョンアップやシステム更新を
考えた場合、カスタマイズ化は、その成果を
ご破算にしてしまうことからパッケージを極
力尊重することとしました。このことが院内
の業務フローの見直しや、システムの安定稼
働に大きく寄与しているのではないでしょ
うか。
――DWH の活用について、医療スタッフ自
身も活用していると伺っています。
日本外科学会では、手術に関するデータベ
ースを構築する事業を立ち上げており、全手
術に関する手術時間や検査データ等を登録し
なければなりません。私自身外科医というこ
ともあるので、手術に関するデータを収集す
るために DWH を大いに活用させてもらって
います。なお、DWH の操作は私自身で行っ
ています。多少、操作を覚えるまで苦労しまし
たが、紙カルテから何十例も集計するような
今までの苦労を考えれば、非常に楽にデータ
を収集することができるようになりました。
私以外にも、
DWH を直接利用しているスタッ
フは 20 名ほどいるそうですが、医療情報課
だけでなく、院内のスタッフも積極的に
DWH を活用してもらいたいですね。
東三河地区唯一の救命救急センターとして、救急患
者数は 5400 人を超える(平成 23 年度)
なり、トラブルを未然に回避するというメ
リットにもつながります。このような観点
からも、
﹃ Caché
﹄を搭載したDWHの導入
には大いに意義があったと感じています﹂
今後の病院総合情報システムの活用に関
して、原瀬氏は次のように話す。
質をデータという形で明確に示すこと﹄と
﹁今後の展望としては、
﹃医療の質と経営の
ていける体制を整えること﹄が、非常に重
﹃データを院内のみならず院外にも発信し
要になってくると思います。
例えば、医療の質の可視化という観点で
は、昨年からDWHを活用した分析データ
を基に日本病院会の﹃QI事業﹄に参加し、
医療の質向上と標準化に取り組んでいま
す。また、情報の院外発信に関しては、病
院改革プロジェクトにおける重点目標のひ
とつとして﹃病診連携の推進﹄を実践して
います。そのIT化を想定して、連携のコ
ンテンツを明確化するために、医療施設間
で共有する情報の項目を院内にポータルと
して作る作業に着手していく予定です﹂
原瀬氏は、今後の目標達成のために病院
DWH システム「CLISTA!(医用工学研究所)
」
は「Caché」をエンジンとして、効率的な集計・
統計環境、検索環境を実現
新 医 療 2012年9月号 ( 12 )
カルテ選定では、使い勝手の良さとベン
ダのやる気に注目しました(菱田氏)
I n t e r v ie w
豊橋市民病院 看護局長 菱田 由紀子氏に聞く
看護職員のシステム構築参加がモチベーショ
ン向上と業務の効率化に繋がる
――看護師の方々が、今般の電子カルテ導入
に際して大きな役割を果たしておられます
が、選定要因等についてお聞きします。
電子カルテの第一要件は、医師がオーダし
た内容を、看護師が素早く正確に把握して、
処置等を実施することができるか否かという
点です。つまり、電子カルテは、それを使用
する医師や看護師など、医療スタッフにとっ
て使い勝手の良いものでなければならないと
強く感じています。使い勝手の中には、画面
の見易さ等、仔細なことも入ります。電子カ
ルテ選定の際は、これらの点を重視しました。
また、導入電子カルテの運用コンセプトに
「カスタマイズをしない」ということが挙げ
られていました。当院は 836 床、36 の診療科
を有する大きな総合病院であり、多方面から
システムに対するさまざまな要求が求められ
るであろうことが予想されました。ですから、
そのような困難にも立ち向かえる、ガッツの
あるスタッフを擁する企業であることも、選
定の際には考慮しましたね。7 年前の、前回
の病院情報システム導入の際も苦労しました
から、システムのプレゼンをする時のベンダ
の意気込みを注意して見ていました。
そのような意味では、今回選定した電子カ
ルテベンダのスタッフの皆さんとは、自由に
意見交換しながらシステム導入を進めること
ができたので、満足しています。
――前回のシステム導入と比べ、今回はいか
がでしたか。 前回のシステム導入では、院内の一部のス
タッフのみで議論が進められ、看護師をはじ
め多くのスタッフがシステム構築に参加でき
なかったことが不満となって噴出し、大変苦
労しましたね。今回はそのような失敗はせず
に、何が何でも電子カルテ導入を成功させ、
業務の効率化を図りたいというスタッフの想
いが強く、多くのスタッフが積極的にシステ
ム構築のためのワーキンググループに参加し
ました。
当院の看護師には、師長以上の管理職が 33
名いますが、全師長がワーキンググループに参
画して、病院がどのようなシステムを構築しよ
うとしているのかを把握することができたこと
は、大きな収穫でしたね。なお、業務フローの
再構築では、業務の効率化を看護師たち自身の
手で成し遂げようという意気込みが感じられ、
まさにスタッフの一体感が生まれました。貴重
な経験だったと言えるでしょう。
7 年前の苦い体験から、システム構築のス
タッフに対する任命式の開催など、スタッフ
のモチベーション向上のための病院側からの
取り組みも、大いに効果があったと感じてい
ます。
データウェアハウスの活用で
看護業務の質の向上を目指す
――電子カルテ稼働以前と以後では、どのよ
うな違いがありますか。
当院は 3 次救急を担っているという性格
上、緊急の入院患者が多く、1 つの病棟での
入退院数は 10 名を超えることもしばしばで
す。紙カルテの頃は、退院患者の診療録の整
理や入院患者のカルテ準備など、非常に煩雑
でしたが、電子カルテ化したことで、このよ
うな入退院患者に関する準備業務が大幅に効
率化され、より本来の看護業務に専念できる
ようになりました。また、患者管理と安全性
の確保という面においては、医師のオーダが
ベッドマップ画面上にリアルタイムに反映さ
れ、指示の変更に素早く対応できますし、空
病棟では、電子カルテ導入により、迅速かつ効率的
なベッドコントロールを実現
総合情報システムが発揮する機能への期待
について、次のように話す。
れた情報管理﹄が重要なポイントのひとつ
﹁今後の病院運営においては、
﹃可用性に優
になると思います。当院がDWHに全ての
部門システムを接続して情報を一元管理す
る最大の理由は、その点にあります。DW
Hに一度情報を集積してしまえば、﹃ Caché
﹄
による高速処理能力が威力を発揮し、
﹃Q
に検索できます。情報の可用性の向上とい
I事業﹄に必要なデータなどをスピーディ
う観点でも、
﹃ Caché
﹄は非常に重要なキー
テクノロジーと言えるでしょう。
﹄の機能に関するもうひとつの期
﹃ Caché
待は、アプリケーションの拡張性です。多
所在地:愛知県豊橋市青竹町字八間西 50
院 長:岡村正造
病 床 数:836 床( 一 般 病 棟 811 床、
結核病棟 15 床、感染症病棟 10 床)
( 13 ) 新 医 療 2012年9月号
診療科目:36 診療科
次元モデルの
﹃ Caché
﹄
は、
容易にアプリケー
ションの拡張に対応できるので、今後の集
1996 年に現在の地に移転した豊橋市
民病院は、東三河南部診療圏の基幹病
院であり、3 次救急を担っている。利
用者の 70% が豊橋市民で、年間延べ
約 30 万人の入院患者、同 55 万人の
外来患者が来院する。医師約 200 名、
看護師約 700 名など、総勢約 1,500 名
のスタッフを有し、救急医療をはじめ、
地域がん診療拠点病院としてがん治療
や周産期医療にも力を入れている。
積データの増大を考えると、これは大きな
東三河の基幹病院として、
地域医療に貢献
武器になるのではないでしょうか﹂
●豊橋市民病院
きベッドの状況も把握できますから、ベッド
コントロールも容易です。
時系列に業務内容を表示するワークシート
を作成できるようにしたことで、看護業務も
大幅に効率化しました。安全性についても
バーコードブレスの活用を業務見直しの中で
徹底することにしたので、患者間違い等のミ
スがなくなりましたね。
また、IDカードによるシングルサインオ
ンや、システムの操作や画面展開がスピー
ディで、ストレスなくシステムを運用できる
点も看護師たちから高評価を得ています。
――システムへの評価と今後の課題につい
て、お聞かせください。
電子カルテ導入によって、安全で、質の高
い看護を提供するという私たちの目標に大き
く前進したといえるのではないでしょうか。
今後の課題は、電子カルテに入力されたデー
タをいかに活用していくかです。現在は、
ベッ
ド稼働率や看護師の定数配置などに活用して
いるところです。看護師の配置については、
今までの“経験と勘”を頼りにするのでは限
界もありますし、なかなかスタッフの納得も
得られません。当院では 7 対 1 入院基本料の
施設基準を満たしていますが、この点に関し
ても電子カルテが大いに貢献していると実感
しています。
ただ、看護職は、まだ DWH を上手く使い
こなしていないというのが正直な感想です。
データの活用に関しては、さらに質の高い看
護を提供できるよう、褥瘡発生率や院内にお
ける感染症対策などのデータを電子カルテで
収集し、
それらを“見える化”して看護スタッ
フにアピールしていきたいですね。