詳細はこちら

"Chitosan-Containing Bioadhesive Hydrogels as Hemostatics"
Society For Biomaterials 2015 Annual Meeting & Exposition
April 15-18, 2015; in Charlotte, NC, USA
<発表概要の日本語訳>
生体接着性の水和ゲルは、術後癒着の防止材や、止血材・創傷被覆材料として有用である。
ポリアクリル酸(PAA)は、高い粘膜接着性を持つ合成高分子で、口腔内や消化管用の薬物
徐放担体として利用されているが、そのままでは水溶性のため、基材としての利用は困難で
ある。また、PAA はポリビニルピロリドン(PVP)と水に不溶な水素結合ゲルを形成するこ
とが知られている。しかし、単純にそれらの水溶液を混合すると、すぐに疎水結合によって
凝集して沈殿し、それを乾燥したものは水に膨潤も溶解もしない。
PAA/PVP 複合体形成
通常の混合
PAA溶液
乾燥
水
PVP溶液
凝集塊・沈殿
膨潤しない
我々は、PAA 溶液と PVP 溶液を特殊な条件下で混合することで、凝集を抑えて水和状態を
保持し続けるゲルの作成に成功した。
得られた PAA/PVP 水和ゲルは、加熱乾燥、凍結乾燥によってフィルムやスポンジ状の固体
となったが、これに水を加えると再び膨潤し、柔軟なゲルを形成した。
特殊な条件下での混合
PAA溶液
乾燥
or
水和
膨潤
膨潤して
ゲル化
PVP溶液
乾燥フィルムやスポンジ状の複合体を湿潤生体組織にのせると、組織の水分を吸収して
瞬時にゲル化しながら、組織表面に強く接着した。
PAA/PVP 複合体スポンジやフィルムを出血部位に当てると、血液や体液を吸収して膨潤し
ながら傷口に強く接着し、出血を効率よく抑えた。
総頚動脈
湿潤組織上で膨潤し、
生体組織接着性のゲル
を形成する。
接着強度: 50 g/cm2以上
スポンジで挟む
1 mm 切開
切開した動脈における PAA/PVP 複合体
スポンジの止血効果
また、PAA/PVP 複合体は、生体中の生理条件下では徐々に中和されて、結合が解離し、ゆ
っくり再溶解する。実際に、腹腔内や皮下などの生体中で、数日でゲルが完全に消失するこ
とを確認した。これらのフィルムやスポンジは、小動物モデルにおいて、高い癒着防止効果
を示した。
PAA/PVP複合体ゲルの分解
PAA
pH 7.4 の体液
で中和
C
O
O C
O
H
H
O
N
O
PVP
N
O
PAA
PVP
PAA/PVP複合体は生理条件下で自然に解離、溶解する
癒着防止効果
癒着モデル: 盲腸表面を加熱後、体内に戻した
7日後
未処理
PAA/PVPフィルムの添付
盲腸と腹壁が癒着
7日後
高い癒着防止効果
続いてヒト臨床研究を行った。人工透析後の処置に用い、高い止血効果が認められた。
また、歯科・口腔外科の抜歯後の止血用に、さらに止血効果を高めるためにキトサンを配
合したものを作成した。使い勝手を良くするため、スティック状のスポンジを作成し、ワー
ファリンなどの抗血栓剤を服用している患者の抜歯後における止血機能を調べた。いずれ
の症例に於いてもこれらの生体接着性ゲルは抗血栓薬を服用している患者に対しても非常
に高い止血効果を持つことが確認された。
直後
スポンジ挿入
1時間後
4日後
以上のように、これらの膨潤性 PAA/PVP 複合体は生分解性の組織接着性材料として、様々
な用途に応用できる新しい医療用デバイスとして有用であることが示された。