一般演題B 1~6 - 日本ビフィズス菌センター

第 19 回腸内細菌学会
101
一般演題 B 1
シロアリ腸内原生生物共生細菌の機能的進化
Functional evolution of bacterial symbionts of termite gut flagellates
○大坪和香子 1,2,Jurgen F. H. Strassert2,Aram Mikaelyan2,
1
3
Alice McHardy3,Susannah G. Tringe4,Andreas Burne2
東北大学大学院農学研究科,2 マックスプランク陸生微生物学研究所,
ハインリッヒハイネ大学,4 米国エネルギー省共同ゲノム研究所(JGI)
【目的】下等シロアリの腸内フローラは,セルロースを主とする木質糖の消化分解および酢酸生成に特化
した代謝機能を有する.下等シロアリ腸内に存在する多種多様な原生生物は,木質糖の加水分解に重要
な役割をもつが,同時に腸内細菌に快適な生息環境(ニッチ)を提供していると考えられている.本研
究では,シロアリ腸内原生生物の細胞内に共生する細菌の生態を系統,形態学的および生理学的視点か
ら明らかにすることにより,腸内環境から細胞内共生へ移行した細菌の機能的進化を考察することを目
的とした.
【結果】シロアリ腸内に広く分布する Trichonympha 属原生生物の共生細菌画分には,複数種の共生細
菌が見いだされた.これらの細菌は,シロアリ腸内に特異的であり,近縁種の多くが他の生物宿主の腸
内環境由来であることが知られた.メタゲノム解析からは,新規のデルタプロテオバクテリア共生細菌
Candidatus Adiutrix intracellularis が,ホモ酢酸生成を行い,シロアリ腸内フローラの主要機能であ
る酢酸生成能を有することが明らかとなった.また, Ca. Adiutrix intracellularis の近隣に共生する
Desulfovibrio trichonymphae は,シロアリを含む昆虫,ヒトおよび家畜の腸内に共通して存在する硫
酸還元細菌と共に,単系統群を形成することが明らかになった.
【考察】酢酸生成および硫酸還元は,ヒトや家畜等においても免疫制御や疾病の要因として注目されてい
る腸内フローラの機能である.昆虫とヒトでは生理学的機能に差はあるが,腸内フローラに注目すると,
宿主生物に関わらず共通の系統および共通の機能を有する腸内細菌群が存在することを,我々の研究結
果は示唆している.今後も,昆虫腸内フローラ研究がヒトや家畜の腸内細菌研究の発展に寄与すること
が期待される.
一般演題
【方法】ネバダオオシロアリの後腸を採取し,腸液中に存在する Trichonympha 属原生生物の細胞を単
離回収し,共生細菌画分を調製した.画分から調製した DNA を用い,共生細菌の 16S rRNA 遺伝子に
よる系統解析およびメタゲノム解析を行った.またそれぞれの細菌の共生形態を明らかにするため,16S
rRNA を標的と蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH)解析および透過型電子顕微鏡(TEM)解
析を行った.
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腸内細菌学雑誌 29 巻 2 号 2015
一般演題 B 2
イヌおよびネコの年齢による腸内菌叢構成の変化の解析
Transitions of intestinal microbiota of dogs and cats
1
嶋田広野 1,安田知代 2,清末正晴 2,木村聖二 2,山田章雄 1,○平山和宏 1
東京大学大学院農学生命科学研究科獣医公衆衛生学教室,2 日清ペットフード株式会社
【目的】ヒトの腸内菌叢は,加齢とともに変化していくことが知られている.個体の老化とともに腸内菌
叢も「老化」するため,腸内菌叢を健康な状態に維持しようとするプロバイオティクス製品などが開発
され,利用されている.一方,ヒト以外の動物の腸内菌叢の加齢性変化は十分に研究されていない.近
年,イヌやネコなどのコンパニオンアニマルも高齢化が進んでおり,腸内細叢における「老化」の解明は,
動物の健康維持,疾病予防,動物自身や飼い主の QOL 向上などの公衆衛生面において非常に重要である.
本研究の目的は,イヌとネコの腸内菌叢構成を年齢別に解析し,ヒトと同じような腸内菌叢の加齢変化
があるかどうかを解明することである.
【材料と方法】北山ラベス株式会社で繁殖飼育されているビーグル犬およびネコについて,離乳前,離乳
後および高齢期の各 10 頭,計 60 頭を対象にした.各個体から新鮮糞便を採取して嫌気状態で東京大学
獣医公衆衛生学教室まで輸送し,培養法により腸内菌叢の構成解析を行った.
【結果】Bifidobacteria は,イヌでは離乳前後の若齢犬でもヒトのように優勢菌ではなく,成犬では検出さ
れなくなった.ネコではいずれの年齢群においてもほとんど検出されなかった.Lactobacilli は,イヌで
は加齢性に菌数が減少し,ネコでは離乳前には 50%の個体から検出されたものの,離乳後にはほとんど
検出されなくなった.Enterobacteriaceae はイヌ,ネコともに加齢性に菌数が減少した.Enterococcus
を含む streptococci はネコにおいて離乳後に菌数が有意に減少し,イヌにおいても離乳後に減少する傾
向が見られた.
【考察】イヌとネコも,腸内菌叢の構成は加齢性に変化することが明らかとなった.とりわけヒトにおい
て健康の維持に重要であると考えられ,加齢とともに減少する bifidobacteria や乳酸菌群はイヌとネコで
も加齢性に減少することが示された.ただし,イヌおよびネコにおいては,bifidobacteria はヒトのよう
に重要ではなく,イヌでは lactobacilli,ネコでは streptococci が主要な乳酸菌群であることが示唆された.
さらに,イヌとネコのいずれにおいても,ヒトでは加齢とともに菌数が増加する Enterobacteriaceae が
年齢とともに減少した.以上の結果は,イヌやネコにおいても腸内菌叢が「老化」することを示唆して
いるが,その年齢による変化はヒトの場合とは異なっており,コンパニオンアニマルにおいて腸内菌叢
の「老化」を予防または改善し,健全な状態に保つためには,ヒトとは違ったアプローチを考える必要
があることを示している.
第 19 回腸内細菌学会
103
一般演題 B 3
マウス妊娠期腸内細菌叢の攪乱は
仔の中枢神経系の発生発達に影響を与える
Perturbation on the maternal gut microbiota during pregnancy affects the
development of the fetal and neonatal central nervous system
○栃谷史郎,松崎秀夫
福井大学子どものこころの発達研究センターこころの形成発達研究部門
【目的】1980 年代以降の精神神経分野の発達障害の増加は健全な脳の発育における環境要因の重要性を示
唆する.健全な腸内細菌叢は妊娠期母体の重要な環境の一つである.妊娠期母体腸内細菌叢が胎児の中
枢神経系の発生においてどのような寄与をするのかを明らかにする.
【結果】非吸収性抗生剤投与 4 日目の妊娠マウス糞便に含まれる腸内細菌量は抗生剤投与群において,対
照群の 0.115%であり,また両群で腸内細菌叢の構成に差異が観察され,抗生剤投与が母体腸内細菌叢に
大きな影響を与えることが明らかになった.さらに抗生剤投与期間前後における妊娠マウスの体重増加
量は抗生剤投与群において有意に少なく,妊娠期の腸内細菌の攪乱が母体に大きな影響を与えることを
示唆した.また,生後 7 日目,生後 28 日目のいずれにおいても抗生剤投与群の仔マウスの体重が対照群
の仔マウスに比べ,有意に小さかった.ただし,生後 24 日目の対照群の仔マウスと抗生剤投与群の仔マ
ウスの間での糞便に含まれる腸内細菌の比較解析においては,腸内細菌量,腸内細菌の構成ともに明白
な差異は観察されなかった.これらの仔マウスに生後 4 週において行動試験を行ったところ,ホームケー
ジ活動試験の結果,24 時間周期の概日リズム活動のうち暗期(マウスにとっての活動期)の活動低下が
観察された.またオープンフィールド試験により新奇環境における活動低下及び不安傾向の亢進が観察
された.
【考察】以上の結果は妊娠期における腸内細菌の攪乱が仔の中枢神経系の発生発達に負の影響を与え,仔
の行動異常を引き起こすこと,妊娠期において健全な母体腸内細菌叢を保持することが仔の脳の健全な
発達の基礎の 1 つとなることを示唆する.
一般演題
【方法】妊娠マウス(C57BL/6J 系統)に対し妊娠 9 日目から 16 日目にかけ,非吸収性抗生剤(5 mg/ml
neomycin, 5 mg/ml bacitracin, 1.25 µ g/ml pimaricin)を飲水投与する.このような方法で腸内細菌叢
を撹乱した妊娠マウスに通常通り出産させ,仔マウスを養育させる.生後 23 日目に離乳し,生後 4 週に
行動実験を行う.
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腸内細菌学雑誌 29 巻 2 号 2015
一般演題 B 4
腸管恒常性維持における腸管神経の役割について
Role of enteric neurons in regulation of intestinal homeostasis
1
〇藤村理紗 1,小原由紀子 2,大崎敬子 3,神谷 茂 3,幡野雅彦 4
千葉大学バイオメディカル研究センター,2 千葉大学大学院医学研究院小児外科学,
3
杏林大学医学部感染症学講座,4 千葉大学大学院医学研究院疾患生命医学
【目的】腸管において,腸炎と dysbiosis は密接に関連しており,相互作用によって両者が悪化するとい
われている.本研究では,腸管神経が過剰に存在する Ncx-KO マウスを用いて,腸管神経による腸内細
菌の恒常性に対する影響および,腸炎との関わりについて明らかにすることを目的とする.
【方法】Dextran Sodium Sulfare 誘導腸炎モデルを作製し,生存曲線,体重増減,血便の有無を評価した.
マウス糞便について,GAM および MacConkey 培地を用いて培養を行い,コロニーの計測を行った.さ
らに糞便 DNA の抽出を行い,菌属菌群特異的プライマーを用いた Real Time PCR 法により,腸内細菌
叢の定量解析を行った.
【結果】DSS 誘導腸炎モデルにおいて,Ncx-KO マウスは高い致死率と著しい体重減少を認め,高率に
血便を呈した.しかし,抗生物質投与によって症状が改善されたことから,Ncx-KO マウスの腸管では,
dysbiosis が起きていると考えられた.マウス糞便について,GAM 培地を用いて発育した細菌数は,野
生型と Ncx-KO マウスでは差を認めなかった.一方で,MacConkey 培地を用いて発育した細菌数は,
Ncx-KO マウスでは,野生型と比較して,10‒1000 倍増加した.さらに,Ncx-KO マウスの糞便 DNA では,
腸内細菌科の菌が 10‒1000 倍増加した.以上から,Ncx-KO マウスの腸管では dysbiosis が起きていると
示唆された.一方で,Ncx-KO マウスの大腸組織では,神経系由来 NO 合成酵素(nNOS)の発現が亢進
していることから,NO の腸内細菌叢への影響が考えられた.NO 還元酵素 norV をもつ細菌は,脱窒反
応を行い,ATP を合成し,嫌気条件において生育する.マクロファージは病原細菌を貪食すると,殺菌
のために NO を産生するが,norV を持つ大腸菌は,マクロファージ由来 NO による増殖抑制を受けない
ことが報告されている.そこで,糞便 DNA を用いて,norV 遺伝子について解析し,Ncx-KO マウスで
は多くの個体が高い norV 遺伝子の含有を示した.以上の結果から,Ncx-KO マウスの腸管では,過剰な
NO の環境下の結果,norV 遺伝子を持った腸内細菌科の菌が増加していると考えた.
【考察】腸管神経過剰である Ncx-KO マウスを用いた解析から,腸管神経由来 NO が腸内細菌叢の組成に
影響を与えていることが示唆された.
第 19 回腸内細菌学会
105
一般演題 B 5
HIV-1 由来エピトープを S-layer タンパク質上に提示する組換え
Lactobacillus acidophilus の経粘膜投与による特異的免疫の誘導
Mucosal immunogenicity of genetically modified Lactobacillus acidophilus expressing an HIV-1 epitope within the surface layer protein
○梶川揚申 1,Lin Zhang2,Alora LaVoy2,Sara Bumgardner3,Todd Klaenhammer4,Gregg Dean2
1
2
東京農業大学応用生物科学部生物応用化学科,
Department of Microbiology, Immunology, and Pathology, Colorado State University, USA,
3
Center for Comparative Medicine and Translational Research, North Carolina State University,
USA,
4
Department of Food, Bioprocessing, & Nutrition Sciences, North Carolina State University, USA
ている.SlpA は菌体表層に高頻度で存在するため,効率的な抗原ディスプレイプラットフォームとして
期待されている.本研究では,SlpA に HIV-1 由来エピトープを導入し,その組換え体の経粘膜投与にお
ける抗原性を評価することを目的とした.
【方法】slpA 遺伝子に HIV-1 由来 gp41 膜近傍領域(MPER)断片をコードする塩基配列を導入し,温度
感受性プラスミド依存的に複製する pTRK1053 を作製した.これを用いて L. acidophilus NCK1910 の
slpA 遺伝子を MPER 挿入型 slpA 遺伝子に置換し,MPER 特異的モノクローナル抗体(2F5)を用いた
Western blot および FACS 解析により評価した.次に,この組換え体を Balb/c マウスの胃内へ反復投
与し,粘膜および血中における特異的抗体産生の有無を ELISA,ELISpot により検出した.
【結果】slpA 遺伝子の置換により,MPER 挿入型 SlpA 発現 L. acidophilus(La SlpA-MPER)が構築さ
れた.La SlpA-MPER は 2F5 抗体により認識され,エピトープが菌体表層に露出していることも確認さ
れた.動物実験において,La SlpA-MPER の経粘膜投与により MPER または SlpA 特異的な血中 IgG と
粘膜 IgA が検出された.
【考察】組換え L. acidophilus の HIV-1 エピトープ挿入 SlpA は経粘膜投与において免疫原性を有し,粘
膜および血中における特異的抗体産生を誘導し得ることが示された.HIV-1 の主な侵入経路である下部
消化管および膣粘膜において HIV-1 抗原特異的抗体の産生が見られたことから,乳酸菌の S-layer タンパ
ク質が HIV-1 に対するワクチンのプラットフォームとして利用できる可能性が示された.
一般演題
【目的】ヒト免疫不全ウィルス(HIV)感染症を予防するワクチンの開発が難航する中,遺伝子組換
え技術を応用した様々なアプローチが検討されている.これまでの知見から,HIV の感染防御には粘
膜局所において広域反応性抗体を誘導できるコンポーネントワクチンが有効と考えられる.演者らは
経口投与における安全性と抗原性を併せ持つ乳酸菌を媒体とした粘膜ワクチンの開発を試みている.
Lactobacillus acidophilus NCFM はヒト腸管由来で,その表層は S-layer タンパク質(SlpA)で覆われ
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腸内細菌学雑誌 29 巻 2 号 2015
一般演題 B 6
MLST 法による新生児糞便および母乳から分離された
ビフィズス菌の菌株識別
Multilocus sequence typing of bifidobacterial strains isolated
from infant’s feces and human milk
○牧野 博 1,Rocio Martin3,石川英司 1,Agata Gawad2,久保田博之 1,
酒井隆史 1,大石憲司 1,2,Kaouther Ben Amor3,Jan Knol3,4,久代 明 1
1
(株)
ヤクルト本社中央研究所,2 ヤクルトヨーロッパ研究所,
3
Danone Nutricia Research,4 ワーヘニンゲン大学
【目的】母乳に含まれる菌が腸内菌叢形成に関与するかが議論されている.本試験では,特定のビフィズ
ス菌株が新生児の腸内と母乳の間で共有されているかどうかを菌株レベルで検証した.
【方法】102 名の健康な妊婦から母乳(出産前・初乳・出産 7 日後・出産 30 日後)を,各々の子供からは
糞便(胎便・出生 7 日後・出生 30 日後)を採取した.これらのサンプルについて,TOS プロピオン酸
培地を用いてビフィズス菌株を単離し,16S rDNA 塩基配列を基に菌種を同定した.母乳と新生児の糞
便の両者から共通に同一のビフィズス菌種が検出された場合,MLST(Multilocus Sequencing Typing)
法により菌株レベルの同一性を検証した.解読した 7 遺伝子の塩基配列が完全に一致した場合,同一系
統株とみなした.
【結果】新生児の糞便とその母親の母乳から共通に分離されたビフィズス菌は,B. bifidum,B. breve お
よび B. longum subsp. longum の 3 菌種であった(総計 283 株;B. bifidum 24 菌株,B. breve 175 菌株,
B. longum subsp. longum 84 菌株).出産前の乳汁や初乳からビフィズス菌は全く分離されず,ビフィ
ズス菌が母乳から検出されたのは出生 7 日目以降であった.一方,新生児からは最初の糞便である胎便
よりビフィズス菌の検出が確認された例もあった.MLST 法を用いて,分離株の同一性検証を実施し
た結果,新生児糞便および母乳において同一の B. bifidum が 3 系統,B. breve が 10 系統,B. longum
subsp. longum が 5 系統認められた.これら同一系統株の分離時期を精査した結果,いずれも母乳より
も先に,あるいは母乳と同時期に新生児糞便から分離されていたことが判明した.一方,母乳から先に
分離された同一系統株は 1 例も確認されなかった.
【考察】ビフィズス菌株が新生児と母乳の間で伝播していることを確認した.現時点では,母乳から分離
されたビフィズス菌がどこから来たのかという問いに対する明確な解答は得られていない.しかしなが
ら,授乳開始前および開始直後の母乳中からはビフィズス菌が 1 株も検出されず,また同一系統株が母
乳よりも先に新生児の糞便から分離されたことから,授乳開始後に母乳から新生児へ伝播したのではな
く,新生児の口腔から母乳へ伝播した可能性が高いのではないかと考えられた.