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2015/4/17
医薬化学I
SBO52
ペプチドアナログの医薬品を列挙し、
それらの化学構造を比較できる
宮地 弘幸
ペプチドとは
アミノ酸がアミド結合(ペプチド結合)で連結した化合物。種々生理活性を有する。
ジペプチド (2残基) の例
ジペプチドは加水分解酵素であるジペプチジルペプチダーゼによってポリペプ
チドから作られる。ジペプチドはアミノ酸が別々のメカニズムで吸収される。
アスパルテーム;(N-L-a-アスパルチル-L-フェニル
アラニン 1-メチルエステル) - 人工甘味料。
キョートルフィン;(L-チロシル-L-アルギニン)
脳において痛みを抑制する神経伝達物質。
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偶然の産物;アスパルテーム
アスパルテーム;(N-L-a-アスパルチル-L-フェニルアラニン
1-メチルエステル) - 人工甘味料。
胃液分泌ホルモンガストリンのアナログ合成の副産物
胃酸分泌抑制剤創製研究
活性発現に重要な部位はC末端4ペプチド構造である。
その誘導体を合成
この研究からは、強力な胃酸分
泌抑制剤は得られなかった。
しかし、上記の合成中間体が偶
然ショ糖と100倍程度良質な甘
さがあることが判明した。
トリペプチド
(3残基)
グルタチオンは3Glu,Cys,Glyの3アミノ酸から
成るトリペプチド。抗酸化物質の一つであるグ
ルタチオンは、フリーラジカルや過酸化物と
いった活性酸素種から細胞を保護する補助的
役割を有する。
甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropinreleasing hormone, TRH)は、視床下部から放
出されるペプチドホルモンで、下垂体前葉からの
甲状腺刺激ホルモンやプロラクチンの分泌を調
節している。
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ホルモン
動物の体内において、ある決まった器官で合成・分泌され、血液を通して体内を循環し、
別の決まった器官でその効果を発揮する生理活性物質。ペプチドも多い。
インスリンは、膵臓内ランゲルハンス島のβ細胞から分泌されるペプチドホルモン。
21アミノ酸残基のA鎖と、30アミノ酸残基のB鎖が2つのジスルフィド結合を介して連結。
生理作用は、1)炭水化物代謝。2)骨格筋におけるぶどう糖、アミノ酸、カリウムの取り
込み促進とタンパク質合成の促進、3)肝臓における糖新生の抑制、グリコーゲンの合
成促進・分解抑制、4)脂肪組織における糖の取り込みと利用促進、脂肪の合成促進・
分解抑制など。全体として異化を抑制して各種貯蔵物質の新生を促進する傾向にある。
腎尿細管におけるNa再吸収促進作用もある。
オキシトシンとバソプレッシン
オキシトシン;
女性にのみ存在する脳下垂体
後葉ホルモン
出産時の子宮収縮刺激作用
バソプレッシン;
男女ともに存在する脳下垂体
後葉ホルモン
抗利尿作用、血圧上昇
何れも脳下垂体後葉ホルモンで、9アミノ酸から成り、システイン同士がジスルフィド結合を
形成して環状になっている。
双方の一次構造は似ており、N末端から3番目、8番目のアミノ酸が異なるのみであるが、
そのホルモン作用は全く異なる。
本当に似ている??
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オキシトシンとバソプレッシン
oxytocin
vasopressin
左側構造は三次元的には随分違う!!
生理活性ペプチドの医薬応用上の問題・課題
1) 唯一の生理活性を示すとは限らない [多様な生理活性の分離]
2) 長鎖なペプチドでは、工業的スケールでの製造が大変 [高コスト]
3) 生理活性ペプチドの作用は一過性であり、かつ作用持続時間が短い [不安定性]
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生理活性ペプチドの製造
有機合成化学の手法によって合成する方法。
溶液中での有機合成反応(液相法)
1) ペプチドのC末端になるアミノ酸のα-アミノ基以外のすべての官能基を保護する。
2) アミノ酸配列でその隣りのアミノ酸の主鎖のカルボキシ基以外のすべての官能
基を保護する。
3) 2.で調製したアミノ酸のカルボキシ基を活性化する。
4) 1.で調製したアミノ酸のアミノ基を活性化されたカルボキシ基と反応させる。
5) 次のアミノ酸と反応させるα-アミノ基のみを脱保護する。
6) N末端のアミノ酸に到達するまで、2-5を繰り返す。
7) すべての官能基を脱保護する。
工業的には30~40アミノ酸残基までが限度。臨床使用の多くのペプチドは液相合成品
生理活性ペプチドの製造
遺伝子工学的ペプチド合成はDNA
合成や逆転写酵素、制限酵素の
発見などを技術的な基盤として
1970年代後半に確立された。
1977年に板倉啓壱らによって行な
われた大腸菌を用いたソマトスタチ
ンが最初の例である。
遺伝子工学的ペプチド合成は以下のような手順で行なわれる。
1) 目的のアミノ酸配列をコードしたDNA断片を調製する。
2) DNA断片をベクターへ組み込む。
3) ペプチドを産生させる細胞にベクターを取り込ませる。
4) プラスミドを取り込んだ細胞のみを選別する。
5) 選別した細胞を増殖させ、産生されたペプチドを回収する。
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生理活性ペプチドの不安定性克服
各種ペプチダーゼによる加水分解の克服例
LH-RH (黄体形成ホルモン放出ホルモン);
LHRHはLHの放出を促進するとともに、LHの合成も促す。LHは脳下垂体前葉から分泌さ
れるホルモンで、卵巣を刺激するように働くホルモン。
デアミナーゼ
キモトリプシン様ペプチダーゼ
不活性化
生理活性ペプチドの不安定性克服
デアミナーゼ
相対活性
1
6.7
動物繁殖薬 コンセラール
同程度の長さ!
3.8
0.04
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生理活性ペプチドの不安定性克服
キモトリプシン様ペプチダーゼ
相対活性
H
1
pGlu His
Trp
Ser
CH
Tyr
N
H
Arg
Pro
NHCH2CH3
6.7
Leu
Arg
Pro
NHCH2CH3
76.4
Leu
Arg
Pro
NHCH2CH3
76.4
O
CH3
1
pGlu His
Leu
C
Trp
Ser
Tyr
CH
N
C
H D-Ala
O
H2C
1
pGlu His
Trp
Ser
Tyr
前立腺がん治療薬
Leupron
CH
N
C
H D-Leu
O
ペプチドをリード化合物とする非ペプチド性医薬;カプトプリル
カプトプリル (captopril) とはアンジオテンシン変換酵
素阻害薬の1つ。アンジオテンシン変換酵素 (ACE)
を抑制することにより血圧を低下させる。アルドステロ
ン分泌の抑制による利尿作用を有する。高血圧、うっ
血性心不全の治療に使用される。
ACE
血
圧
上
昇
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ペプチドをリード化合物とする非ペプチド性医薬;カプトプリル
Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe-His-Leu-Val-Ile-His----(452AA) アンジオテンシノーゲン
レニン
Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe-His-Leu (10AA) アンジオテンシンI
アンジオテンシン変換酵素(ACE)
Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe (8AA) アンジオテンシンII
毒蛇Bothrops jararacaの毒液中に、
ACEを阻害するペプチドを発見
C末端2アミノ酸を切断
する酵素
Bothrops jararaca
ACE阻害 (IC50 μM)
SQ20475
pGlu-Lys-Tyr-Ala-Pro
0.09
SQ20881
pGlu-Trp-Pro-Arg-Pro-Thr-Pro-Gln-Ile-Pro-Pro
0.02
SQ20859
pGlu-Ser-Trp-Pro-Gly-Pro-Asn-Ile-Pro-Pro
a) 合成品
pGlu-Lys-Phe-Ala-Pro
b)合成品
Phe-Ala-Pro
c)合成品
Ala-Pro
静脈注射で降圧作用!
経口では不活性!
3.2
0.09
3.6
0.09
ACEの活性中心構造モデル
1973年、D-2-ベンジルコハク酸がカルボキシペプチデースA(CPA)の
特異的阻害剤であることが報告された!
ペプチド鎖のカルボキシ末端からアミノを一つ遊離するペプチド結
合加水分解酵素.CPAはC末端が芳香族アミノ酸に特異性を示す。
CPAの活性中心は既知 X線解析済
Zn2+
S1’
S1’
Zn2+
Arg
145
Arg
145
H
X
S1
Glu
270
基質の結合様式
Tyr
248
H
X
S1
Glu
270
Tyr
248
加水分解物の生成
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ACEの活性中心構造モデル
D-2-ベンジルコハク酸がカルボキシペプチデースA(CPA)の特異的阻害剤
Phe
S1’
Zn2+
Arg
145
X
S1
Glu
270
Tyr
248
CPAの活性中心
入り込めない!
ベンジルコハク酸のCOOH基とベンジル基はPheの部分構造であり、CPA中のArg
およびS1’ポケットで結合できる。末端COOH基は亜鉛イオンと結合できる。
つまりベンジルコハク酸は基質ペプチド(またはそれが加水分解された構造)を模倣
した化学構造である。
Biproduct analog
CPAを踏まえた、ACEの活性中心構造の推定
CPAはC末端1アミノ酸加水分解酵素だが、ACEは2アミノ酸加水分解酵素である。
その分解機構は似ている!
Zn2+
S1’
S2’
Zn2+ S1’
Arg
145
H S1
X
Glu
270
Tyr
248
D-2-ベンジルコハク酸
の結合モデル
Arg
H
X
Glu
S1
Tyr
H
X
ACE阻害剤の結合モデル
CPAはC末端から1アミノ酸を切断するが、ACEでは2アミノ酸切断する。即ち、Arg
と亜鉛イオンとの距離はACEではCPAよりもアミノ酸1個分長いはずである。
またCPAのように芳香族アミノ酸を特異的に切断することはないので、S1’ポケットは大
きくはない。
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ACEのbiproduct analog阻害剤の論理的構築
Zn2+
S1’
Zn2+
S2’
S1’
Arg
145
S1
Glu
270
Arg
Tyr
248
H
X
CPAの活性中心
Glu
Tyr
S1
ACEの推定活性中心
阻害剤構造としてコハク酸置換アミノ酸*をデザインした。
アミノ酸としては、蛇毒の研究成果からプロリンが最適で
あろうと考えコハク酸プロリンが最初に合成された。
リード化合物からカプトプリルまで
ACE阻害
SQ13745
HOOC
330
N
COOH
O
SQ13297
CH3
HOOC
22
N
CH3
HOOC
N
1480
CH3
4.9
N
HOOC
O
(R) Me基は
活性減小
COOH
O
SQ14102
(S) Me基(Ala類似)
導入で活性向上
COOH
O
SQ13493
(IC50 μM)
炭素一つ長くした
方が活性向上
COOH
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リード化合物からカプトプリルまで
ACE阻害 (IC50 μM)
HOOC
SQ13745
COOH
O
SQ13297
NOHNOC
N
HS
6.6
亜鉛結合性のヒドロ
キサム酸が有効
0.20
亜鉛結合性のSH基
はより有効
COOH
O
SQ13493
330
N
N
COOH
O
CH3
SQ14102
HS
0.023
N
O
カプトプリル
COOH
ここに示したのは重要なステップのみで、実際は1.5年間で150位の化合物合成
カプトプリルの推定ACE結合様式
Zn2+
S2’
S1’
カプトプリルはACEの推定活性中心と、
HX
1) Argとのイオン結合
2) プロリンの疎水性相互作用
3) メチル基の疎水性相互作用
4) アミド酸素の水素結合
HX
Arg
Glu Tyr
S1
HX
5) Zn2+とのイオン-双曲子相互作用
で結合していると推定される。
ACEの推定活性中心
カプトプリル以上に高活性な化合物を創るとしたらどう考える?
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カプトプリルを超える!
カプトプリル以上に高活性な化合物を創るとしたらどう考える?
Zn2+
疎水性相互作用
S2’
S1’
水素結合性
HX
これらの相互作用の増
強や,新たな相互作用を
付与する
HX
Arg
Glu Tyr
HX
S1
ACEの推定活性中心
マレイン酸エナエアプリル
カプトプリルの合成
縮合剤を用いた
アミド化
カルボキシル基
のエステル化
酸を用いたエス
テルの脱保護
アルカリを用いた
SH基の脱保護
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ペプチドから非ペプチド医薬へ!
ペプチドから非ペプチド医薬へ!
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ペプチドから非ペプチド医薬へ!
ペプチドから非ペプチド医薬へ!
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ペプチドから非ペプチド医薬へ!
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