親子で 感覚遊びを 楽しもう

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2014年
親子で
感 覚 遊 びを
楽しもう
「ときめきアンブレラ」
Photo:小野勉
からだを動 か すということ
(=運 動 )は、生 活 能 力を
高 めるということでも生きていくうえで 大 事な要 素 。
しかし近 年 、運 動 嫌 いな子どもも増えています 。
今 回ままぱれでは、子どもたちに長 年 からだを動 か す
楽しさを教えてこられた 宮 城 教 育 大 学・里 見まり子 教 授に、
すぐにでもからだを動 かしたくなるようなお 話を伺ってきました 。
宮城教育大学
里見 まり子 教授
オブジェを囲んでみんなでダンス
Photo:袴田由美子
保健体育講座教授。専門は身体表現、創作ダンス、体操、体育学。
山口県萩市出身。幼稚園教諭を経て1980年~85年ドイツ・ケルン
体育大学へ留学。86年から宮城教育大勤務。即興舞踊家としても国
内外で活動している。障害の有無を問わず市民を対象とする講座や
ワークショップにも力を注いでいる。
フエルトのボンボンで線を描く
Photo:John Polley
感覚遊びから踊るこ
とが始まります
これからの
ダンス教育について
私の専門領域は、創作ダンスや身体表現など
2年前に中学校の体育でダンスが必修化され
の創造的な表現活動の内容や指導法の研究で
ました。創作ダンスも選択のひとつになってお
す。見る、聞く、触れるなどの五感の豊かさは、日
り、そこでは新しい動きや新しい踊りをつくらな
常生活でも大切ですが、実は、踊ったり表現した
ければなりません。何もないところからつくるの
りする活動においても大切な役割を果たしてい
は本当に大変なことです。実は「自由にやってい
ます。
いんだよ」と言われて踊ることほど難しいことは
土の上や草むらを裸足で歩いたことはありま
ないのです。多くの生徒さんがここで壁にぶつ
すか?サラサラ、
フカフカ、ザラザラといろいろな
かってしまって、残念なことに創作ダンスは難し
感触が足の裏から伝わってきます。お日さまが当
い…となってしまっているのです。教える先生方
たっているところは温かく、影になっているところ
も苦労しておられると思います。
は冷たく感じます。このようにして、足裏の感覚
が目覚めると、足裏が地面と会話するようにな
インプットとアウトプット
り、歩いたり走ったり、
またステップを踏んだりす
踊りで表現することは、創り出すというアウト
ることが楽くなります。足裏の感覚が目覚めたと
プットなので、インプットでどのような、そしてど
ころで、今度は、イメージのカラフルな絵の具を
れだけのエネルギーが得られるかということが、
足裏に塗ったつもりになって、つま先立ちになっ
創作活動に取り組む意欲や作品の内容に影響し
たり、踵を押し付けたりして、床にイメージの点や
ます。創造的な活動のエネルギーの源は、
日頃の
線を描いていきます。足を動かしながらからだが
感動の経験と言えるでしょう。ここでも大切に
弾み揺れ動き、頭優先からからだ優先の感覚の
なってくるのは、五感のアンテナをしっかり伸ば
世界へと扉が開きます。こんなところから踊るこ
して生活しているかどうかです。そして、私たち
とが始まるのです。
大人は、表現の活動で子どもたちの生き生きと
した姿を引き出す興味や関心の種を子どもたち
の生活から見つけておくことが大切です。
私は、小学校での出前授業の際には、
ネパール
5
VOL.60
月号
掲載
からおくられてきたカラフルなフエルトのボンボ
だ」を捉え直すことから始めます。足裏、手、背骨
ンをカバンにいっぱい詰め込んで出掛けます。授
などのからだのさまざまな部分を取り上げ、その
るかきないかを大人は重視しがちです。そしてそ
業が始まり、
カバンからコロコロと転がり出るボ
部分に意識を向けて身体感覚を目覚めさせてい
こから外れてしまった子どもたちは、運動ができ
ンボンに、子どもたちの目が輝き歓声があがりま
きます。日常生活では、ほとんど意識されず一本
ない子として扱われてしまい、子ども自身も運動
す。子どもたちは、色の組み合わせを楽しみなが
の棒のようになってしまっていた背骨に意識を向
が嫌いになってしまいます。でもたとえ走るのが
ら体育館いっぱいにボンボンの線を描いていき
けることでからだに芯ができ、背骨をひとつずつ
遅くても海辺に行くと子どもたちは走りだしま
早く、より高く、より難しい技を極めるなど、でき
ます。その線に沿って走ったり、線をまたいだり
動かせるようになると「背骨のダンス」が踊れて
す。海の音を聞き、風を感じ砂の感触を味わいな
跳び越したり、また両手にボンボンを持って踊っ
しまうのです。
がら。
たりします。子どもたちの大好きな雪合戦もボン
「手の授業」では、
カラー手袋を使ったりもしま
私は、運動は感覚遊びだと考えています。運動
ボンで!子どもたちのこころもからだも弾みま
す。好きな色の手袋を両手にはめることで、手に
することの心地よさをすべての子どもたちに伝
す。イギリスのワークショップでは、みんなで藤の
意識が向きます。手を合わせて動いてみたり、空
えてあげたいと思います。高い跳び箱を跳べな
蔓を編んでオブジェをつくり、それを囲んで踊り
気を押したりまぜてみたりして、子どもたちの手
くても跳んでいる時からだが浮くってどんな感
ました。このようにボンボンやオブジェは、動きや
の動きの可能性を広げて動きの引き出しを増や
じ?着地したときはどんなふうに感じた?そんな
踊りを生み出すエネルギーの源になるのです。
していきます。身体感覚の覚醒によってからだが
感覚に気づかせてあげることが、身体感覚を磨く
変わり、動きの引き出しをたくさん持つことで踊
ことにつながると考えています。
自由に踊ってと言われても・
・
・
るための土台ができてきます。その上にアウト
小さな子どもは、感覚の世界で生きています。
創作ダンスは、
これまでアウトプットである作
プットである作品づくりの取り組みがあるので
塀の上をバランスを取りながら歩いたり、雨あが
品づくりが中心でしたが、
これからのダンス教育
す。ここに写真でご紹介しているのは、私が担当
りの道路にできた水たまりにチャプチャプと入っ
には、踊る力や創作する力を育むためのからだと
する創作ダンスのクラス作品「ときめきアンブレ
ていったり、音楽が聞こえるとクルクルと回り始
動きの教育、すなわちインプットを充実していく
ラ」です。学生たちは、みんなで作品づくりに取り
めたりします。そのような時に親は「危ないから
ことが必要だと思われます。ダンスの授業で、
「自
組み、生き生きと舞台に立ちました。
やめなさい」
「汚くなるからやめなさい」
と言って
由に踊って!と言われてもどう動いていいか分か
らない」という子どもたちの声を耳にします。子
どもたちの踊る力を育む指導内容や指導法とは
どのようなものなのでしょうか。
大学のダンスの授業では、まず「日常のから
子どもたちの感覚の
芽を摘まないで
「運動ができる」というと、
「 早く走れる」
「高い
跳び箱が跳べる」
「逆上がりができる」など、より
はいませんか?子どもたちの五感と身体感覚の
芽を摘まないで、そっと見守り育ててあげてほし
いのです。お母さんやお父さんも子どもたちと
一緒に緑の中を走ってみませんか?