1 / 8 補助事業名 平成 26 年度保健医療情報機器に係る国際標準化推進

補助事業名
平成 26 年度保健医療情報機器に係る国際標準化推進補助事業
事業項目名
国際疾病分類コーディングの精緻化に向けた研究開発
事業内容
1. 背景と目的、期待される効果
ICD10 は 、 疾 病 及 び 関 連 保 健 問 題 の 国 際 統 計 分 類 : International Statistical
Classification of Diseases and Related Health Problems の第 10 回改訂版を指し、異なる
国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録、分析、解釈
及び比較を行うため、世界保健機関(WHO)が作成した分類である。本邦において、ICD10
は統計法に基づく統計調査に使用されるほか、医学的分類として、医療機関における診療
録の管理等に活用されている。
ICD10 対応標準病名マスターは、約 2 万 5 千語の基本語を収載し、各病名には ICD10
が対応付けられている。このマスターは「保健医療情報分野における標準規格」に認定さ
れ、多くの医療機関等において、オーダシステム、電子カルテシステムや診療情報管理シ
ステム等で利用されている。したがって、ICD10 を正しくコーディングすることは、ICD10
対応標準病名マスターから病名を正しく選択し、登録することにほかならない。
ICD10 対応標準病名マスターと類似なマスターに、社会保険診療報酬支払基金から提供
されている傷病名マスターがある。そこに収載されている病名は ICD 対応標準病名マスタ
ーと完全な一致をみており、各病名には診療報酬請求に用いられる診療行為コードが対応
付けられていることから、診療報酬明細書(レセプト)を作成するシステムでは概ね利用
されている。
医科電子レセプト請求(オンライン又は電子媒体)は件数ベースで 95.9%,医療機関数
ベースでは 85.9%に普及しているが,そのデータ中には未コード化傷病名が 5.4%(2011
年 4 月医科請求分)にみられる。ここで未コード化傷病名とは,傷病名マスターに収載さ
れていない病名があった場合に,傷病名コードに 0000999 を充て,自由記載される病名を
指す。こうした未コード化傷病名の 74.4%について、傷病名マスターに収載された傷病名
称と部分一致するという報告があり、未コード化傷病名を生ずる背景要因として,病名を
登録するシステムでのマスター検索機能,若しくは操作上の問題が考えられる。
病名を扱うシステムにおける検索機能では、検索条件に与えた文字列(入力語)に部分
一致した候補語(出力語)を応答し、利用者はその中から選択する、という操作が一般的
である。この時、どのような応答が返されるかは、アプリケーションソフトウェア機能に
現に依存することから、未コード化傷病名を減じ、また、ICD コーディングの精度を高め
るためには、マスターに用語を用意するだけでは限界があり、マスターと連係するシステ
ムのアプリケーションの実装にまで踏み込む必要がある。
そこで我々は、病名オーダ,医事請求や診療情報管理等の各種アプリケーションソフト
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ウェアから API 呼び出しが可能な、ICD10 対応標準病名マスターに準拠した汎用的な標
準病名検索ライブラリ(以下、本ソフトウェアという。
)を開発することにした。本ソフ
トウェアを用いることにより、アプリケーションソフトウェアや操作者に依らずに,入
力語に対して一様な出力語が返されることとなり、医療機関内・外において整合性のあ
る病名と ICD10 コードが蓄積されていくことが期待できる。
2. 本ソフトウェアの概要
2.1. ソフトウェアの機能
本ソフトウェアは、入力語を独自なルールで形態素に分解し、それらを並び替えなが
ら、ICD10 対応標準病名マスターの索引語テーブルを探索し、近似な標準病名を確度、
ICD10 コード、傷病名コード、病名管理コード等を伴って出力する。ここで、
「確度」と
は近似の程度を数値化したもので、候補語の中から用語を選択するうえで補助的情報と
なる。また、探索処理においては、部分同義語(例えば、左心室と左室、口周囲と口囲)、
異字体(例えば、頸と頚、臀と殿)
、大文字と小文字、カナ文字とかな文字の差違を吸収
している。
さらに、医薬品添付文書に表記された病名が標準病名に統一されていないことへの対
処として、添付文書に記された適応症名称で検索した場合にも、適当な候補語が応答さ
れるようにしている。適応症としての病名が付けられた医療用医薬品は約 16,000 品目あ
るが、後発品並びに同一効能効果の薬剤の重複を除くと約 2,050 品目であり、さらに、
循環器系(医薬品薬効分類コード 21?)、消化器系(同 23?)、代謝系(同 3??)、感染症系
(同 6??)に絞り込んだ 833 品目について、添付文書から「効能・効果」に表れる適応症
名 1,039 語(うち、標準病名に未収載なもの 274 語)を抽出し、各語に対して標準病名
との対照表(平均 9.5 語)を作成した。
2.2. API 仕様
本ソフトウェアの呼び出しは、検索語を引数に呼び出し、候補語を構造体で返す単純
な仕様とし、主要なプログラミング言語 C、C#、VB、Java に対応している。
2.3. 性能評価
未コード化傷病名(828,855 語、平成 25 年 4 月度医科分)のうち、出現度数が 500 件
以上の 1,156 語(総件数の 34.8%)を入力に用いて、本ソフトウェアの性能を評価した。
出力語中に正解語が見られた割合は 94.2%、一検索あたりの平均応答語数は 10.5 語、平
均応答時間は 0.18 秒であった。
3. システム実装
3.1. 電子カルテシステム
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本ソフトウェアを電子カルテシステムに実装した例を図 1 に示す。また、図 2 には比
較のために、当該システムにおいて元々装備された機能での検索結果を示した。
図 1 電子カルテシステム(病名オーダ)に実装した例 「胃痙攣」で検索.
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図 2 当該システムに元々装備されていた機能による検索結果
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同時に、本ソフトウェアの返す候補語が実運用上適当かどうかを検証するため、図1の
病名検索ウインドウにおいて行った検索・登録操作を記録する機能を実装した(図 3)。
図 3 病名検索・登録操作記録
ある病院における約 20 日間の操作記録を分析した結果、従来方式での文字列の中間一致
(完全一致を含む)に基づく検索手法では候補語として提示されることのない語が登録さ
れていたケースが 14.4%にみられた。一例を表 1 に示すが、本ソフトウェアが利用者の病
名と ICD10 の精確な選択に際して一定の効果を上げたことを示唆している。
表 1 登録語が入力語と中間一致しない例
入力語
登録語、ICD10
補足
外耳道炎
出血性外耳炎
「外耳炎」は H60.9
H60.3
・H60.9 外耳炎,詳細不明
・H60.3 その他の感染性外耳炎
低栄養
栄養障害
「栄養不良」、「栄養失調」は E46
E63.9
・E46 詳細不明のたんぱく<蛋白>エネルギー性栄養
失調(症)
・E63.9 栄養欠乏症,詳細不明
歩行障害
歩行異常
「歩行障害」、「歩行困難」は R26.2
R26.8
・R26.2 歩行困難,他に分類されないもの
・R26.8 歩行及び移動のその他及び詳細不明の異常
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下垂体腫瘍
下垂体腺腫
「下垂体腫瘍」は D44.3
D35.2
・D44.3
内分泌腺の性状不詳又は不明の新生物,下
垂体
・D35.2
その他及び部位不明の内分泌腺の良性新生
物,下垂体
ふらつき
めまい症
・R42 めまい<眩暈>感及びよろめき感
R42
3.2. WEB アプリケーション
本ソフトウェアをインターネット上から利用できるように WEB アプリケーションを
作成した(図 4)。
検索に際し、チェックボックスにある幾つかの条件を組み合わせながら検索結果を確
認できるようにデザインしている。
「修飾語検索」条件をオンにした場合、ICD10 対応標
準病名マスターの基本語テーブルだけでなく修飾語テーブルに対象を拡げて探索するこ
とができる。修飾語まで俯瞰したうえで、修飾語を適宜組み合わせながら傷病名及び ICD
コードを選択することが選ぶことができる。
「索引語検索」条件をオンすることにより、ICD10 対応標準病名マスターの基本語だ
けでなく、同義語や類義語を探索対象にできる。
「下層病名」条件は、医薬品添付文書に表記された病名を考慮した検索モードに切り
替えるもので、この条件をオフ又はオンにして検索を実行した例を図 5 に示す。入力語
の「尿路真菌症」は、抗真菌剤「フルコナゾール」
(一般名称)に対応した医薬品の添付
文書中に表出する適応症名であり、オン状態で検索した場合、前述した対照表に登録し
た語をオフ状態での検索結果に足されて返している。
また、図 4 に示すように、
「検索結果」に表示された病名の「ICD10」列には、標準病
名マスター作業班(http://www.dis.h.u-tokyo.ac.jp/byomei/)が提供している検索サイト
へのリンクを設けてあり、当該コードに符合した標準病名を確認できるようにした。こ
うすることにより、利用者は先ず、文字列から類推される候補語を俯瞰し、次に、ICD10
から類推される候補語を確認する、という二段階で最適な傷病名及び精緻な ICD コード
を決定することができる。
作成した WEB アプリケーションは次の URL で公開している(2015 年 5 月現在)。
http://www2.medis.or.jp/candls/
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図 4 「非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍」で検索を実行した例
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図 5 「尿路真菌症」で検索を実行した例
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