農場で斃死する牛が 多過ぎないか?

136
No.
2015 夏季
カウ・ベル 全酪連購買事業情報紙
世界一受けたい酪農講座
あなたは牛群の暑熱ストレスを
管理できているか?
ラリー・E・チェイス 技術顧問
ストレス!我慢比べ!今昔
“堪え性無く!すぐ体調を乱す今の牛たち”
村上 明弘 技術顧問
大場真人の技術レポート
暑熱ストレス下での
イーストのサプリメント効果
DRY&FRESH SE ユーザー訪問
カレンダー連動企画
原料情勢/粗飼料情勢
原料情勢
Feed Ingredients
平成27年7〜9月の牛用配合飼料の価格改定と原料情勢について
▶▶主原料
主原料である米国産トウモロコシは、6 月 10 日米国農務省の需給予想において 2015 年産の
生産量は 136 億 3,000 万ブッシェル(3 億 4,622 万トン・前年比 95.9%)、単収は 166.8 ブッ
シェル / エーカー、総需要量 137 億 6,000 万ブッシェル(3 億 4,952 万トン)、期末在庫 17 億
7,100 万ブッシェル(4,499 万トン)
、在庫率 12.9% と発表されました。
シカゴ穀物市場でトウモロコシ相場は順調な作付進捗と生育見込みから弱含んでいます。また、
前期に引き続き米国内での運送、保管費用、海上運賃は下落しており、価格は総じて弱含みで推移
しています。
▶▶副原料
大豆粕については、米国の潤沢な前期在庫と今期の作付進捗が順調なこと、南米の作柄が良好な
ことから弱含みで推移しています。
糟糠類については、ふすまは現在、需給は余裕があるものの、今後は小麦粉需要の低迷し、徐々に
締まることが見込まれることから、相場は横ばいで推移しています。グルテンフィードは国内発生
期を迎える中、一定の輸入量が見込まれることから相場は弱含む傾向です。
▶▶脱脂粉乳
脱脂粉乳については、世界的に順調な生産が見込まれている中、中国、ロシアなど需要が減退して
いることから、引き続き軟調に推移しています。
▶▶海上運賃
海上運賃については、昨年から続く新造船供給による船腹の余剰が続いていますが、原油価格
は反発してきたため、横這いで推移しています。
▶▶外国為替
為替相場は、米国で好調経済を背景に年内に利上げに踏み切るとの憶測と、我が国の金融緩和
政策から強い円安ドル高基調で推移しています。
──────────────────────────────────────────────
弊会が供給する牛用飼料(配合・哺育)について、下記のとおり価格を改定することといたしました
のでご案内申し上げます。
記
1. 改定額(平成 27 年 4 〜 6 月期対比)
(1)牛用配合飼料 トン当たり 1,650 円 値下げ(全国全銘柄平均)
(2)牛用哺育飼料 トン当たり 26,000 円 値下げ(全国全銘柄平均)
ただし、改定額は地域別・品目別・銘柄別に異なります。
2. 適用期間 平成 27 年 7 月1日から平成 27 年 9 月 30 日までの出荷分
3. 安定基金
(一社)全国畜産配合飼料価格安定基金からの価格差補塡金の交付につきましては、10
月中旬頃決定されます。なお、発動となった場合、交付日程は従来通りとなります。
2 COWBELL◦ No.136 夏季号 2015.7
HAY Business
粗飼料情勢
平成27年6月8日
▶▶為替動向 12 年ぶりの円安
5 月 20 日に約 2 か月ぶりの 121 円台へと円安に進んで以降、円相場は 6 月に入り 124 円台まで続落、
6 月 2 日には 12 年ぶりの 125 円台を記録しました。1 年前の為替が 101 円台だったことを考えると、
20% 以上の円安となります。
為替相場(ドル/円)の推移(過去1年間)
125
123
121
119
117
115
113
111
109
107
105
103
101
6/1
5/1
4/1
2014
3/1
2/1
1/1
12
/1
11
/1
10
/1
9/1
8/1
7/1
6/1
5/1
99
2015
仮に 300 ドル / トンのものを日本で購入する場合、1 ドル =101 円であれば 30,300 円ですが、1 ド
ル =125 円では 37,500 円とその差は為替だけで 7,200 円 / トンの値上げとなり、産地価格の動向以上
の影響になります。
新穀のアルファルファ及びチモシーの先安感はあるものの、その他の草種については産地価格の大幅
な値下げの展開は見込みにくい状況です。そのため、現行の為替を考慮しながら、新穀に関する産地との
交渉や実際の買付を行っていくことが必須となってくると思われます。日本の需要についても、産地価格
がより安価なものに移行せざるを得ない状況と考えられます。
▶▶北米コンテナ船情勢
北米西岸港湾労使交渉は、現地時間 5 月 22 日に北米西岸港湾労組(ILWU)の批准投票を経て、最終合
意に至りました。新しく結ばれた労働協約は 2014 年 7 月 1 日から 2019 年 6 月 30 日までの 5 年間
契約となっております。
4 月に仮合意が結ばれて以降、港湾での荷役作業は労使交渉前の状況に戻り始め、北米西海岸における
本船スケジュールは、やや回復が遅れているオークランド港を除いて、ほぼ通常通りの運航に戻っていま
す。オークランド港についても、4 月初旬から続いていた邦船の抜港が解除され、本船の入港が増えたこ
とによりスケジュールは回復していくものと思われます。
4 月末時点では、コンテナ船のスペースが非常に混雑しており、それに伴って各船会社より海上運賃一
括値上げ(GRI)が発表されましたが、本船スケジュールの回復に伴い混雑は解消しており、各船会社から
の値上げ要求も落ち着きを見せています。
さらに、米国 - 中国間をはじめとして、貨物量は減少傾向にあり、コンテナ船のスペースはやや余りは
じめているため、現状、強引な値上げ要求は行われないと考えられています。
また、7 月からの BAF(燃料割増料金)や LSS(低硫黄燃料割増料金)などのチャージの値下げの連絡
も入ってきています。
No.136 夏季号 2015.7◦ COWBELL 3
▶▶ビートパルプ
《米国産》
新穀の作付けは全域で終了しました。昨年は湿気の多い天候のため 6 月上旬にずれ込みましたが、今年は例
年に比べ温暖な気候であったため、湿気が多かったミシガン州を除き 2 週間ほど早く作付けが開始され、ほぼ
予定とおりに作付けを終えました。
カリフォルニア州ほど深刻ではないにしても、主産地であるミネソタ・ノースダコタは過去 100 年間で最
も少ない降水量を記録しており、土壌水分の不足がその後の発芽や生育に及ぼす影響が懸念されていました。
しかしながら、5 月の中旬以降、25 〜 30 センチに及ぶ降雨があり、一部の畑では冠水するほどの雨量を記録
しました。
全体の作付面積は概ね前年と同程度となっております。
《韓国の輸入動向》
韓国の輸入通関統計によると、4 月の輸入数量は 15,641 トンとなっており、例年とほぼ同じ数量で推移し
ています。引き続き米国、ヨーロッパ、エジプトが主力の輸入先となっており、この傾向はしばらく変化がない
と考えられています。
《その他》
世界の砂糖市況低迷には未だ回復の兆しは見えていません。ブラジルの積極的な売りとタイをはじめとす
る、ケインシュガーの生産国への作柄の期待もあり、世界的に減産の圧力が強まっています。中東およびヨー
ロッパにおいても競合するビートの減産が見込まれています。
▶▶アルファルファ
《カリフォルニア州》
最南部のエルセントロでは 5 月に季節外れの降雨が 3 回もあり、2 番刈の終盤と 3 番刈の序盤で降雨被害
が出ています。特に 5 月 15 日の降雨は酷く、サプライヤーの敷地内も水たまりが多くプレス作業に支障をき
たすほどのものでした。現在 3 番刈の終盤となっており、気温は 100F(摂氏 38℃)近くまで上昇しているた
め、1 番刈や 2 番刈に比べ成分が低いものが多く生産され始めています。
米国国内の乳価は低迷したままであるため主に中国への輸出向け需要が中心の取引になっています。この
ため、中国からの需要主導の相場展開が見られ徐々に産地相場は強含みの様相を呈しています。5 月から 6 月
は、断続的に中国向けの出荷が多く、生産スケジュールに余裕がないサプライヤーも出て来ています。
《ワシントン州》
コロンビアベースンの南部では例年より 1 週間から 10 日早い、4 月下旬から刈取りが開始されました。気
温も順調に上昇していましたが、刈取りが本格化してきた 5 月 10 日頃から断続的な降雨がありました。特に
5 月 22 日はコロンビアベースン全域で降雨が記録され、多くの降雨被害が出ております。コロンビアベース
ン全体の 1 番刈の刈取り進捗は 80-90% の段階ですが、その中のおよそ 70% 〜 80% が雨当たりではない
かとの見方もあります。例年、およそ 50% 程度の降雨被害はありますが、今年はやや多くなるかもしれませ
ん。また、降雨を避けられた圃場についても刈遅れの懸念も出始めており、降雨前の 4 月末〜 5 月上旬に刈り
取った高成分かつ雨に当たっていないものは、米国内需要と競合になっており、これら良品の確保は例年より
困難になると思われます。
旧穀の出荷については、引き合いが強まっている中国向けの輸出が好調で、生産農家・各サプライヤーとも
に在庫は少なくなっているようです。
《オレゴン州》
オレゴン州もカリフォルニア同様旱魃傾向は変わりませんが、5 月の天候は良好で、クラマスフォールズの
南部では 5 月最終週から刈取りが開始されています。現在のところ降雨被害はなく、順調に収穫が進むことが
期待されます。クリスマスバレーでは 5 月下旬から徐々に気温も上がってきており、2 週間程度で刈取りが開
始されると見込まれています。産地の旧穀の在庫は順調に出荷されているようで、スムーズに新穀を迎えられ
そうです。
4 COWBELL◦ No.136 夏季号 2015.7
HAY Business
《ユタ州》
ユタ州は例年 5 月末から 6 月頭に刈取りが開始されますが、5 月の気温が例年より低く推移したため、今
年は 10 日から 2 週間程度生育が遅れています。そのため刈取りは 6 月中旬前後から開始になる見込みです。
冷涼な気温でゆっくり生育していることから刈取り後に降雨がなければ高成分のアルファルファが収穫でき
るのではないかと期待されています。
▶▶チモシー
《米国産》
コロンビアベースンは 6 月に入ってから断続的に降雨がありましたが、チモシーの刈取り前であったこと
から影響はほとんどないと言われています。気温も上昇しており、冬季屋内燻蒸は 5 月 18 日の週に終了して
おります。新穀の刈取りは、南ベースンの早いエリアでは 5 月 24 日の週から開始しています。現在全体のお
よそ 10-15% 程度が刈り取られています。例年よりも 2 〜 3 週間早いスタートですが、サプライヤーによっ
ては例年以上の旧穀在庫を抱えているところもあり、また、日本国内でも旧穀の処分売りも散見される中、新
穀の価格についての話題は全く出ていない状況です。
《カナダ産》
灌漑地域であるアルバータ州南部レスブリッジでは気温は上昇しており、生育は非常に順調です。今後の天
候に問題なければ、収穫は 7 月上旬からスタートする可能性があります。単収については、ここ 3 年ほどは 3
〜 4 トン / エーカーでしたが、今年は 5 トン程度になることが予想されています。ドライランドである中部
クレモナエリアでも生育は順調ですが、今春の天候は乾燥続きであったため、降雨不足が懸念されています。
土壌の水分不足により施肥を遅らせている生産農家もいるようで、一部収穫が遅れる圃場も出てくるかもし
れません。
クレモナでは 7 月中旬〜 8 月上旬あたりの刈取り開始見込みとなっています。
▶▶スーダングラス
15 年産スーダングラスの刈り取りは早い圃場で 5 月中旬から開始
されています。
6 月 1 日付け、インペリアルバレーの作付面積報告によると、スー
ダングラスは前年同月比 78% の 38,502 エーカーとなっており、こ
の時期としては過去 5 年間で最低の水準です。
さらには、5 月 15 日に一部地域で降雨があり、この時期に刈り取ら
れたごく一部の圃場では被害を受けました。また、早播きの面積が減っ
たことによるプレミアム品の減少予想に、この降雨の影響も加わり産
スーダングラスの圃場
(5月上旬撮影 インペリアルバレー)
地価格の上昇が懸念されていますが、今のところ産地相場ははっきりと見えて来ていません。
上記の降雨の影響で、その後は例年に比べ 10 日前後収穫のスケジュールは遅れており、6 月 1 週からベー
リングが徐々に始まる見込みです。現在のところ、生育自体は順調で、収穫が本格化する今月以降、天候が崩れ
なければ十分な供給量は発生すると考えられます。
加えて、スーダンはインペリアルバレーのみならず、カリフォルニア州中央部、北部、アリゾナ州でも生産され
ており、全体の供給力を考えれば日本の需要に対して不足する事態になる可能性は極めて少ないと言えます。
▶▶クレイングラス(クレインは全酪連の登録商標です)
15 年産クレイングラスは、1 番刈が終了、現在 2 番刈が進行中です。
1 番刈の品質は、例年並みに仕上がっているものの、ウィンドロー(圃
場での乾燥中)中に風が強い日が重なり、急速に乾燥したことから、一
部ですがやや堅めな品質も出ています。
5 月 15 日付のインペルアルバレ―の作付面積報告によると、クレイ
ンは昨年同月比 95% の 16,111 エーカーとなっています。昨年より
クレイングラスの圃場
(5月上旬撮影)
No.136 夏季号 2015.7◦ COWBELL 5
やや減少はしていますが、過去 15 年間で見ると 3 番目に高い水準となっており、供給面で大きな心配は
ありません。スーダングラス同様、5 月中旬の降雨により 1 番刈の後半と 2 番刈の前半の一部の圃場が雨
当たりとなりましたが、産地価格は今のところ昨年並み〜やや堅調に推移しています。
▶▶ストロー類(フェスキュー・ライグラス)
オレゴン州ウィラメットバレーは、5 月に降雨もあり生育は順調です。今年は温暖な天候が続いてい
るため、例年よりやや早めの収穫になる見込みです。サプライヤーによって状況は異なりますが、フェス
クストロー、ライグラスストローとも産地在庫に余裕はあるようです。新穀の産地相場にどう影響して
いくか注視したいところです。
最寄りの積出港であるポートランド港に寄港する定期コンテナ船がなくなる見込みのため、シアトル・
タコマ港へは鉄道もしくはトラック輸送をする必要があり、今後は船積みが不安定化する懸念が出てき
ています。
▶▶豪州産オーツヘイ
現地在庫は全域において、中国向けの引き合いが強い低級品を中心に徐々に品薄感が出ているようで
す。下記は各州の新穀の状況です。
《西豪州》
15 年産の播種は 5 月中旬から始まっています。すでに北部での播種は終盤に差し掛かっています。今年は
播種前と播種後に十分な降雨がありましたが、日中の気温が高く、すぐに水分が蒸発する状態が続き、土壌水
分は降雨の恩恵をさほど受けていない状態です。引き続き十分な降雨量が必要な状況です。一方で播種前に降
雨があったことから、雑草が生育しやすい環境にあり各生産農家はその対応に苦慮しているようです。
西豪州全体のオーツとしての作付面積は 15% ほど増加していますが、オーツ「ヘイ」向けの作付けは
20-30% 前後の減少の見込みです。東南アジア向けのオーツ
「麦」
の需要がここ 1 年で激増しているためで、
ヘイ向けの生産が削られると予想されています。
《南豪州》
15 年産の播種は 5 月中下旬から始まっています。西豪州と同様、播種前後に降雨があり土壌の状況は今
のところまずまずと言えますが、降雨前までやや干ばつ傾向であったため今後さらなる降雨が必要になり
そうです。インドでのレンズマメ及びヒヨコマメの作柄が非常に悪かったことから、当地域ではこれらの作
物への転作が進んでいるようで、オーツの作付面積は昨年比で微減と見込まれています。
《東豪州(ビクトリア州)
》
東豪州は、ほとんどの地域
で播種は終了していますが、
5 月中旬に降雨があったもの
の、引き続き干ばつの傾向に
あります。14 年産では国内
外から強い引き合いを受け、
生産農家にとって、オーツヘ
イは魅力的な品目となってい
るようです。そのため、15 年
産の作付面積は横ばい〜やや
増加の見込みです。しかしな
がら、今年はエルニーニョの
発生が予想されており、東豪
州は天候が不安定なシーズン
になるかもしれません。
6 COWBELL◦ No.136 夏季号 2015.7
豪州の農産物生産地域における土壌水分状況(5月18日現在)
緑色(例年以上・十分な水分)-灰色(例年並み)-赤色(例年以下・乾燥傾向)
DRY&FRESH SE
ドライ&フレッシュSE
ユーザー訪問
4
オホーツク網走農業協同組合 (有)
向井牧場
左から向井裕子さん、向井弘さん、長見光寿さん、長見康恵さん
今回、訪問させていただいた(有)向井牧場は、北
(有)向井牧場の概況について、労働力は 4 人で、経営
海道網走郡大空町で酪農を営んでいます。牧場の場
主の弘さん、三女の旦那さんで酪農後継者の長見光寿さ
所は旧東藻琴村に位置し、北部から南部の山岳地帯
んで牧場作業全般を担い、奥さんの裕子さん、三女の康
にかけて平野・丘陵が広がる自然が溢れた地域です。
恵さんが哺乳・搾乳を行っています。
(有)向井牧場が所属するオホーツク網走農業協同
飼養形態はフリーストール牛舎で経産牛 85 頭、育成
組合(岡本一男代表理事組合長)は生乳出荷戸数 48
牛 70 頭を飼養しています。耕作面積は草地 28ha、デ
戸、出荷乳量 38,866t(平成 26 年度実績)となっ
ントコーン 15ha を保有し、自給粗飼料主体の給与体
ています。
系となっています。
乾乳牛の管理については、フリーストール牛舎で 1
群管理を行っており、乾乳牛用 TMR を 1 日一回給餌し、
クロースアップ期については、連動スタンチョンを利用
して、乾乳牛用配合飼料をトップドレスしています。
長見さんは「全酪連 酪農セミナー」へ毎年参加して
おり、ドライ & フレッシュ SE を使用する以前からそ
網走郡大空町
こで示された栄養指標に基づいて乾乳牛の飼養管理を
行ってきました。
そうした折に一昨年開催された「全酪連 酪農セミ
ナー 2013」で紹介された「ドライ & フレッシュ SE」
のコンセプトに興味を持ち、その後の推進スタッフから
の勧めで 2014 年 3 月より利用を開始しました。
乾乳牛の代謝エネルギー、代謝タンパク、DCAD コン
トロールなどは「ドライ & フレッシュ SE」を使用する
以前から実践しており、今までに移行期での重篤な乳熱
や肝機能障害がなどの大きなトラブルはありませんで
したが、
「ドライ & フレッシュ SE」の使用後は、特に第
四胃変位や後産停滞の発生が使用以前に比べて減少し
ていることを実感されています。
クロースアップ期の給与メニューは表 1 の通りです。
自給粗飼料は定期的に粗飼料分析を行い、水分含量や
成分、在庫状況の変動を考慮して、その度に飼料設計を
行っています。飼料設計を行う際は、コーネル大学 ト
ム・オバートン博士と本会技術顧問のラリー・チェイス
No.136 夏季号 2015.7◦ COWBELL 7
DRY&FRESH SE
ドライ&フレッシュSE
ユーザー訪問
表1 クロースアップ期メニュー
飼料名
ドライ&フレッシュSE
2番グラスサイレージ
2番乾草
US産ビートパルプ
ウィートストロー
トウモロコシ圧ペン
ビタファイターM
食塩
MG60
セレン
乾物摂取量
(kg/日)
代謝エネルギーバランス
(%要求量)
正味泌乳エネルギー量
正味泌乳エネルギー濃度
粗タンパク
代謝タンパク
代謝タンパクバランス
(%要求量)
物理的有効繊維
総NDF
糖
デンプン
NFC
ミネラル・ビタミン
Ca
P
Mg
K
S
Na
Cl
Se
ビタミンA
(IU)
ビタミンD
(IU)
ビタミンE
(IU)
DCAD
(meq/100g)
現物 Kg
4.7㎏
9.6kg
3.8kg
1.3kg
1.3kg
0.6kg
0.02kg
0.02kg
0.10kg
0.01kg
13.05kg/日
1.08%
19.18mCal/日
1.47Mcal/kgDM
13.6%DM
1242g/日
1.05%
34.5%DM
36.1%DM
5.7%DM
15.7%DM
34.1%DM
乾乳牛の給餌風景
博士による乾乳牛の飼料ガイドライン(全酪連 酪農セ
ミナー 2013 より引用)を参考にしています。
最近行った分娩前後の代謝プロファイルテスト(血液
検査)の結果は図 1 の通りです。初産牛より産褥トラブ
ルが多いと言われる 2 産目以降の産褥牛を対象としま
した。対象牛は 4 頭を予定していましたが、うち 1 頭が
予定日より早く分娩したため、分娩前頭数は 3 頭とし
ています。4 産目を迎えた牛(No.1023)の血中カルシ
1.2%DM
0.43%DM
0.42%DM
1.2%DM
0.3%DM
0.14%DM
0.59%DM
0.58ppm
235000IU
49000IU
2349IU
9meq/100g
ウム濃度については潜在性低カルシウム血症が疑われ
る値でしたが、一週間後の採血では適正域まで回復し、
分娩後からの観察でも低カルシウム血症の症状は見ら
れませんでした。総タンパク、NEFA、AST については
全て適正域で推移しており、タンパク量の十分な確保、
ケトーシスや脂肪肝のリスクの回避、肝臓機能が正常に
推移していることが分かります。今回のすべての対象牛
についてカルシウム投与などの臨床的な治療は行って
いません。
AMTS設定:50カ月,
体重680㎏,
妊娠日数270日,
BCS3.5
図1 分娩前後の代謝プロファイルテスト
(血液検査)結果
総タンパク質(TP)
g/dl
8.0
適正域
7.5
7.0
6.5
6.0
十分量タンパク質の確保
5.5
5.0
分娩前
{n=3}
分娩直後
{n=4}
分娩1週間後
{n=4}
適正域
9.0
8.0
危険域
7.0
6.0
低カルシウム血症のリスク回避
分娩前
{n=3}
分娩直後
{n=4}
8 COWBELL◦ No.136 夏季号 2015.7
800
700
600
500
400
300
200
100
0
適正域
ケトーシス、
脂肪肝のリスク回避
分娩前
{n=3}
IU/L
10.0
5.0
1023
1164
1168
1179
Ca
mg/dl
11.0
NEFA
μEq/L
分娩1週間後
{n=4}
1023
1164
1168
1179
160
140
120
100
80
60
40
20
0
分娩直後
{n=4}
1023
1164
1168
1179
分娩1週間後
{n=4}
AST(GOT)
適正域
肝臓機能が正常に推移
分娩前
{n=3}
分娩直後
{n=4}
分娩1週間後
{n=4}
1023
1164
1168
1179
代謝プロファイルテストの作業風景
「ドライ & フレッシュ SE」の給与を行っていない
2013 年 度(2013 年 4 月 〜 2014 年 3 月 )と「 ド
ライ & フレッシュ SE」の給与を開始した 2014 年度
(2014 年 4 月〜 2015 年 3 月)で 2 産目以降の平均
kg
10,400
10,200
10,000
乳量
乳量の比較を行いました。経産牛 1 頭当たりの出荷乳
図2 経産牛1頭当たり出荷乳量の推移
量推移(図 2)
、泌乳曲線(図 3)は右図の通りです。経産
9,800
牛 1 頭あたり年間出荷乳量が 400㎏以上増加し、また
9,600
分娩後 49 日以下の泌乳初期の平均乳量が 4㎏以上増
9,400
加しています。自給粗飼料の品質や気候変動の影響を考
9,200
えると一概には言えませんが、分娩後のトラブルをさら
に抑制できたことで乾物摂取量が順調に増加し、それが
乳量の増加に繋がったことも一つの要因として考えら
今後の抱負について、後継者の長見さんにお伺いした
40
ところ、
『家族経営で出来る範囲内で収益を最大にする
35
ら(笑)
』と話されました。
6
7
8
9
月
10 11 12
1
2
3
30
25
耕作地の肥料撒きやデントコーンの播種などの忙し
20
い作業の合間を縫って、取材を快く引き受けてくださっ
15
た(有)向井牧場の皆様に心より御礼申し上げます。
5
乳量
kg
45
ます。目標は乳量 14,000kg!! 目指すのは自由ですか
4
2014
図3 泌乳曲線の比較
れます。
ことを考え、足腰の強い経営をしていきたいと考えてい
2013
~49
50~
100~
分娩後日数
2013
2014
200~
300~
搾乳牛舎の風景
No.136 夏季号 2015.7◦ COWBELL 9
世界一受けたい
酪農講座❹
あなたは牛群の暑熱ストレスを
管理できているか?
ラリー・E・チェイス
Are You Managing Heat Stress In Your Herd?
技術顧問
乳牛の暑熱ストレス問題はますます増加してい
ることを示していた。平均乳量が 40kg /日である場
る。一つの理由は、地球環境の変化による、高気温日
合には、THI の値はさらに低くなる(乳量が高い程、
数の増加である。二つ目の理由は、乳牛の乳量が引き
THI の値が低いところから暑熱ストレスを受けるこ
続き増加し続けているため、より高温環境に弱くな
とを意味する)
。
っていることである。あなたの牛群が暑熱ストレス
どのようにして自分の農場の THI を知ることが
の影響を受けているかどうかを判断する方法がいく
できるのか ?
つかある。その一つが THI インデックス(温度湿度
図 1 に示すグラフを用いて知ることができる。市販
指数)の利用である。
のバッテリー駆動式の小型の温度湿度計が便利であ
THI が 72 以上の場合、それが暑熱ストレスの始ま
る。これらは比較的安価で簡単に入手できる(ホー
りである。しかし、この指標は平均乳量が低い(22 〜
ムセンター、インターネット通販など)
。THI 値が高
26kg /日)昔に開発されたものである。最近のアリ
い時間の長さと夜間のクールダウン(気温低下)の関
ゾナ州における研究では、乳牛の平均乳量が 32kg /
係についても考慮する必要がある。1 日のうち高い
日以上の場合、THI は 68 以上で暑熱ストレスが始ま
THI の時間が長い程暑熱ストレスの影響は大きくな
図 1 温度湿度指数 Temperature humidity index
C
22.0
23.0
23.5
24.0
24.5
25.0
25.5
26.0
26.5
27.0
28.0
28.5
29.0
29.5
30.0
30.5
31.0
31.5
32.0
33.0
33.5
34.0
34.5
35.0
35℃
35.5
36.0
36.5
37.0
38.0
38.5
39.0
39.5
40.0
40℃
40.5
41.0
41.5
42.0
43.0
43.5
44.0
44.5
45.0
45.5
46.0
46.5
47.0
48.0
48.5
49.0
0
気 温 (℃)
>72
快適
72~79
やや暑い
80~89
暑い!
90~98
厳しい暑さ
98<
危険!
全酪連・酪農セミナー 2004 より
10 COWBELL◦ No.136 夏季号 2015.7
0
5
10
15
相対湿度(%) Relative Humidity
20
25
30
35
40
45
快 適!
Happy Cows
72
72
72
73
73
74
74
75
75
76
76
76
77
77
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79
79
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80
81
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82
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84
85
85
85
86
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72
72
72
73
72
73
73
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73
74
73
74
75
73
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75
76
74
75
76
75
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77
76
77
75
76
77
78
76
77
78
77
78
79
77
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80
78
79
80
78
79
81
79
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81
79
80
82
79
81
82
80
81
83
80
82
83
81
82
84
81
83
84
82
83
85
82
84
85
83
84
86
83
85
86
Moderate
84
85
87
84
86
87
85
86
88
85
87
88
86
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86
88
89
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88
90
87
89
90
88
89
91
暑 い!
温度計・湿度計があれば、その値を
72
73
73
74
74
75
75
76
76
77
78
78
79
79
80
80
81
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82
83
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85
85
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88
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91
92
92
93
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77
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80
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90
91
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93
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94
95
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74
75
75
75
75
76
75
76
77
76
Mild 77 77
76
77
78
77
78
79
78
79
79
78
79
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80
81
80
81
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83
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85
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92
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93
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92
94
91
93
94
92
93
95
92
94Stress
96
Severe
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87
96
98
やや暑い
厳しい暑さ
72
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50
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96
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55
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98
98
70
70%
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Japan
85
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96
97
98
危 険!
Dead Cows !
アームストロング 1993 Armstrong D.V.(1993)
る。しかし、夜にクールダウン(ナイト・クールダウ
ン)があれば、日中が高い THI でも暑熱ストレスは
軽減される。
また、その他にも乳牛の情報も暑熱ストレスの判
定に使うことができるものがある。例えば、乳牛の呼
吸数(回数/分)である。呼吸数が 45-55 回/分以上
なら、暑熱ストレスの始まりを意味する。暑熱ストレ
スの増加により、呼吸数は高くなっていく。 直腸温
度が 39℃を超えていれば、それも暑熱ストレスの指
標になる。
■泌乳牛(Lactating Cows)
舌を出して流涎しながらの開口呼吸
搾乳牛は、乾物摂取量と乳量が低下することから、
最も暑熱ストレスに影響されやすいと考えられてい
暑熱ストレスの影響を如何にして最小化できるか ?
る。ニューヨーク州では、THI が高いときに乳量が 2
以下について注意する必要がある。
〜 10kg 低下することが見られている。乾物摂取量と
乳量の低下に加えて、以下のような数多くの現象が
見られる。
●呼吸数の増加
●口を開けて呼吸する
●体温の上昇
●乳脂肪率の低下
●反芻の減少
●流涎(唾液を垂らす)
●給水槽付近の混雑
●ルーメン機能の変化によるルーメン・アシドーシス
●蹄葉炎のリスク増加(症状を呈するのは暑熱ストレ
スの 2 〜 3 か月後)
●起立時間の増加と横臥時間の減少
●妊娠率と繁殖成績の低下
●早期受精卵の死滅(注 : 発情日から排卵後 4 日目頃ま
では高体温に敏感)
●暑熱ストレスにより卵胞発育が弱くなり、数か月後
の繁殖成績が低下
●ピーク泌乳量の低下により、乳期乳量全体が低下。ピ
ーク乳量が 1㎏低下すると、その乳期全体で 200 〜
250㎏の乳量が低下
暑熱ストレス下の乾物摂取量低下による乳量の減
少は、その一部に過ぎない。アリゾナ州とアイオワ
州の研究では、乳量が低下する理由は、ブドウ糖の
●牛が常に清潔で冷たい、おいしい水を摂取できるよ
うになっているか ?
●野外に出ている牛が直射日光を避けるための日除け
があるか ?
●過密状態を避ける !
●ファンとスプリンクラーにより、牛舎環境を涼しく
する。ファン単独による送風よりも、散水するスプリ
ンクラーが併設されているとより効果的である(注 :
気化熱利用)。ファンとスプリンクラーを併設する投
資は、6 か月から 2 年で回収できる。
●特にタイストール牛舎ではトンネル・ベンチレーシ
ョンの導入を考慮する。新設のフリーストール牛舎
でもトンネル・ベンチレーションが増えている。
●ミルキング・パーラーで搾乳する施設では、ファンと
スプリンクラーをホールディング・エリア(待機所)
に設置する。研究によれば、この投資は僅か 3 〜 6 か
月で回収できると報告している。
●飼料の調整
◦可能な限り高品質な粗飼料を用いる、すなわちル
ーメン内消化が改善されることにより、消化過程
で発生する熱を軽減できる
◦粗飼料分析に基づく飼料設計を行う
◦蛋白の過剰給与を避ける。過剰な蛋白給与はそれ
を排泄するためにエネルギー・コストが増し、飼料
コストも上昇することになる。
◦濃厚飼料ミックス(配合飼料)も高消化性のものを
選択する。
配分が乳腺組織から体組織維持要求増加にシフト
◦僅かに粗飼料割合の低くして、トウモロコシなど
するためと報告している。飲水量もまた暑熱ストレ
の澱粉飼料設計の一部をビートパルプや、綿実、ビ
スにより 30 〜 50% 増加する。十分な水を牛に供給
するうえで、数多くの散水装置(スプリンクラー)へ
の水の必要が増すことによる水圧の低下が問題と
なる。
ール粕などに置き換えることを考慮する。
◦エネルギー源として油脂の利用を考慮する。この
場合、マグネシウムの追加添加も考慮する。
◦ルーメン環境のより正常性を維持するためにバッ
ファー(注 : 緩衝剤 = 重曹など)の添加を考慮する。
No.136 夏季号 2015.7◦ COWBELL 11
いる。乾乳牛の暑熱ストレスによる負の影響は、
◦呼吸や唾液へのロスを補うため、飼料中のカリと
ナトリウムのレベルを上げる(注 : 分析結果や飼料
●維持要求量増加によるエネルギー・コストの増加(胎
設計で確認)。
児への栄養供給低下の可能性(注 : 夏季だけ生まれる
子牛の体重が低下)
●より小さい子牛(注 : 上記の理由)
●初乳中の免疫グロブリン低下
●より低い免疫力
●分娩後の代謝異常リスクの増加、胎盤停滞、子宮炎の
増加
◦イースト(酵母)やナイアシンの添加を検討する。
研究の結果は様々だが検討の価値はある。
◦サイレージ・ベースの飼料給与の場合、TMR にプロ
ピオン酸の添加を検討する。これにより、餌槽におけ
る TMR の酵母やカビの増殖を抑制できるし、TMR
の発熱も減少させることができる(注 : 米国には発
酵 TMR は無いが、プロピオン酸添加により類似の
乾乳期に暑熱ストレスに晒された牛は、ピーク乳
変質抑制効果が期待できるものと考えられる)
。
量が低く、乳期乳量も低下する。これは日乳量で 1 〜
◦サイレージ・ベースの飼料を給与している場合、餌
槽で発熱していないか確認する。通常、TMR 給与
3kg の低下に相当する。図 2 にその影響を示す。ここ
後 3 〜 4 時間後に手を挿入して確認できる。もし、
で注目すべき点は、乾乳期に冷却された牛は高いピ
著しく発熱している場合には、TMR の給与回数を
ーク乳量を示し、これは日乳期全般に影響を及ぼし
増す、あるいは涼しい時刻に給与ことを考慮する。
ている(注:ここでいう冷却とは、ファンとスプリン
◦新たに飼料給与を行う前に餌槽がきれいであるこ
クラーによる暑熱対策のこと)
。
とを確認する。残餌があるところに飼料を追加す
乾乳牛の暑熱対策の原則は、泌乳牛のそれに類似
ると乾物摂取量を低下させる可能性が大きい。
し、日除け、飲水、ファン、スプリンクラーの全てに
ついて考慮することが必要である。過密を最小化し、
■乾乳牛(Dry Cows)
衛生的で乾燥した環境を用意することもまた重要で
この数年間、乾乳牛をファンなどで冷却して暑熱
ある。
ストレスを最小化する研究成果が、注目を集めて
図 2.乾乳期に暑熱ストレスに晒された牛と冷却された牛の乳生産
Milk Production of Cows Subjected to Heat Stress or Cooling in the Dry Period
100
90
80
乳量(ポンド/日)
70
60
50
40
30
暑熱ストレス Heat Stress
冷却 Cooling
20
10
0
1
4
7
12 COWBELL◦ No.136 夏季号 2015.7
10
13
16
19
22
週(分娩後)
25
28
31
34
37
40
(Dr. G.E. Dahl, University of Florida, 2012)
■哺育・育成牛
(Dairy Calves and Replacement Heifers)
哺育・育成牛でも、暑熱ストレス下では、乾物摂取
量低下、飼料効率低下、維持エネルギー要求量の増
加、成長率の低下、繁殖成績の低下が見られる。離乳
前の子牛への暑熱ストレスの影響に関する研究がこ
●哺育舎などの屋内で飼養する場合、トンネル・ベンチ
レーションやファンの設置を考慮する。自然換気も
効果があるが、牛舎の立地条件次第でその効果は異
なる。
●哺乳回数を 2 回から 3 回/日に増やすことを検討す
る(注 : 発育の鈍化がある場合)
。涼しい時間帯に哺乳
することも、選択肢の一つである。
の数年間注目されている。
●免疫機能の低下
●より小さい生時体重と元気のない状態
●免疫グロブリン吸収効率の低下による、初乳からの
受動免疫獲得能力の低下
●呼吸器疾患のリスクが増加
●成長率の低下
■重要なポイント(Take Home Points)
1.将来、気候環境の変化、温暖化によって、暑熱ス
トレスの日数が増加する恐れがある。
2.暑熱ストレスの影響は、泌乳牛のみではなく、
全ての牛が影響を受けている。
3.THI(温度湿度指数)表の利用は、乳牛が受ける
近年、哺育子牛の暑熱ストレスに関するいくつか
の研究が行われた。コーネル大学のマイク・ヴァン
アンバーグ博士らは、昨年の夏季に 3 つの飼養シス
テムにおける研究を行った。ファンで換気された牛
舎で飼養された子牛の平均日増体量(ADG)は 0.91
㎏/日、これに対して自然換気の牛舎で飼養された
子牛の平均日増体量(ADG)は 0.85㎏/日であった。
また、カーフハッチで飼養した子牛では、カーフハッ
チの下にブロックをおいて換気を改善したにも関わ
暑熱ストレスを推測する一つの方法である。
4.乾乳牛に対する暑熱ストレス対策は、次の乳期
乳量と健康にとって極めて重要。
5.新生子牛に対する暑熱ストレスの厳しい負の
影響は、生涯に及ぶ可能性が高い。
6.殆どの暑熱対策は、それほど高価ではなく、ま
た短期間にそのコストを回収できる。
7.飼養環境を改善することの方が飼料設計の調
整よりも暑熱対策効果が大きい。
らず、平均日増体量(ADG)は僅か 0.3㎏/日であっ
8. 飼料は高消化性の原料で設計する。
た。これまでの研究では、カーフハッチの下にブロッ
9.一日を通じて新鮮で嗜好性の良い飼料を牛の
クやタイヤを設置して隙間を設け、換気を改善する
前に用意するため、飼料給与管理の変更が必要
ことにより、カーフハッチ内の温度を低下させるこ
かもしれない。
とを報告していた。テキサス州における試験では、カ
ーフハッチに反射カバーを付けても内部の温度を低
10.高品質(きれいで新鮮)な水を牛がいつでも十
分に飲めるようにする。
下できることを報告している。現時点においては、反
射カバーは入手できない(注:米国内では。日本では
遮光ネットなど利用可)
。
では、子牛を暑熱ストレスから解放するために、あ
なたの農場でできることは ?
●子牛への直射や反射光を日除けや遮光ネットなどに
よって遮る。カーフハッチの場合カーフハッチの上
に遮光ネットなどを設置することで対処可能。そし
て、どの程度の効果があるのか、遮光の有無でカーフ
ハッチ内の温度をどれだけ下げられるか確認する。
●ブロックなどをカーフハッチの後方下に設置して持
ち上げ、換気の改善を図る
●新鮮な水を給与する。毎日 3 回バケツの水を替える
ことも必要かもしれない。給水用のバケツに直射日
光が差し込まないように日除けを設置する。これら
によって、飲水の温度上昇を防ぐことができる。
トンネル・ベンチレーション・タイストール
(ニューヨーク州)
No.136 夏季号 2015.7◦ COWBELL 13
世界一受けたい
酪農講座❺
ストレス!我慢比べ!今昔
“堪え性無く!すぐ体調を乱す今の牛たち”
村上 明弘
技術顧問
■避けて通れないストレス
ストレスがある限界を超えると、生物は“体調に不
具合”を生じます。昔も今も、乳牛の“ストレス許容
限界”は、ほぼ同じ水準だとします。
etc・・・、近年増加の飼養環境が“追い打ち”をかけま
す。それらの技術対応に手こずると、ストレスを更に
加重させてしまいます。
■すぐ体調を乱し易い今時の牛(下図参照)
一方、
“妊娠し ・ 分娩し ・ 泌乳する”このことは哺
今の乳牛は、ストレス限界を“簡単にオーバーフロ
乳動物の雌として宿命です。この種の生理的ストレス
ー”する。そんな条件に溢れている訳ですね。昔の牛
は、生命体として必然であり、通常は避けられません。
に比べ、
“簡単に体調不良や疾病に陥りやすい傾向”
■家畜としての追加ストレス
は、そういう理由でしょう。この図を参考にして、皆
さんも自分なりに考えてみて下さい。そして、どうす
しかし、
“家畜である乳牛”は、これよりも“はるかに
れば良いかも熟考願います。
多い産乳”を強いられます。野生の時より何倍も大き
図 ストレスの許容範囲!今昔
いこの泌乳ストレスは、家畜として宿命的なものです。
ストレスの
限界ライン
■急上昇 ! 泌乳増に伴うストレス加算
体格の増加分
その上、近年における酪農の技術的な進展は、否応
その他のストレスの
許容範囲
なく泌乳量増加に拍車を掛けています。特に、遺伝改
良や栄養代謝、飼料品質や調合給与、牛舎設計改造や
飼料設計…です。
“ゆとりある”
その他のストレス
の許容力
不安、不信、不安定、暑い、
寒い、痛い、痒い、臭い、
カ
ビ毒 etc…
倍近い状態です。5000㎏が 9000㎏強です。ピーク日
体調不良
健康障害
(泌乳・妊娠・分娩)
体格的には推定 50㎏程度の増加で、10% も大きく
は、測定不能ですが、昔も今も殆ど同じレベルだとし
あふれ出る
ストレス
ほぼ必然的な
ストレスレベル
乳量なら 30㎏前後が 50㎏強です。
は僅かしか増えていません。精神的なストレス限界 ?
“切羽詰まった!”
許容力
増加
大雑把には、30 〜 40 年前に比べ年間乳量でほぼ 2
なっていません。許容可能な体格的ストレスの限界
オーバーフロー!
30~40年前の乳牛
現代の乳牛
■疾病の直接原因だけを考えがちですが ・・・
ます。
“昔に比べ 、最近の牛はすぐ病気になる”
。よく耳
要するに、短期間での、一方的な泌乳量の増加なの
にするベテラン酪農家の感想です。
です。即ち、急増 ! 泌乳ストレスが、昔のストレス許
その理由は、多分、その他ストレス許容範囲の縮小
容枠の占有率を大幅増加させたことになります。逆
に伴うストレス緩衝能の低下です。昔は少しの影響
には、生理的ストレス以外のその他ストレスの“許容
で済んだであろう不快なことでも、今は簡単に限界
範囲が急速に狭まった”ことになります。
越えし、体調不良を招きます。
■管理ストレスの追い打ち
少々怒鳴られようが、体が汚れていようが、寝わら
が少なかろうが ・・・ 昔はそこそこ大丈夫。何とか余
更にその上、繋ぎっぱなしや囲い込みの管理、コ
力で切り抜けられた。だが今は、
“ストレス緩衝能に
ンクリート床の歩行や蹄の糞尿浸り、群移動の回数
余裕が無く”
、旧態依然たる管理では、たちまち発症 !
増や過密な生活、気温上昇などによる暑熱感作増
となり易い訳です。
14 COWBELL◦ No.136 夏季号 2015.7
最後の一撃 ! その要因が、その体調不良の第一原因
(根底問題)とは限りません。多くの場合それは、重ね
続けてきた管理矛盾が、健康上の異常事態として管
手段となります。
■残り少ない“ショックアブ”力の有効活用
理者の目にようやく明らかになった、という流れで
どうすれば、高産乳状態で狭まったその他ストレ
す。しかし多くの人は、直近の原因にだけ意識が集中
ス許容範囲を“有効活用”出来るか ? ここが、現代酪
します。実はそれは、表面化したところの単なる最終
農における“最大最良の技術集積分野”と言えます。
要因に他ならない。そんな場合が多々あるのです。
それは“家畜としての管理状態”の中で、
最大級の“牛
とルーメン微生物の良い気分”を“コストの効率良
■具体例
く”かつ“間断なく”提供することに尽きます。例え
よく耳にする話題に、
「ヘルパーや検定員が入ると、
ば以下です。
乳房炎治療牛が増えやすいし、バルク乳体細胞数も増
えることがある」との、酪農家の感想があります。要
するに、牛が何時もと異なる人や動き、更には作業手
順や搾乳機の性能変化などに反応し、その為に乳房炎
牛や体細胞数の増加が起こった。そう決め付けがちな
酪農家もいます。確かに影響はするので、全部とは言
えないかもしれませんが、多くの場合その発症の大方
の原因は、何層にも積み重ねられた不都合ストレス要
因や搾乳機性能にあるのです。そのことは、同じ担当
者でも他の酪農場では同じことが起きない場合がよ
くある、ということで説明できます。
●無傷で変形変質の無い肢蹄
●塵埃や雲脂抜け毛や糞尿付着の無い綺麗で無傷な牛
●異臭異物が無く、飲み食いし易く、他牛を気にせずに
済む、飼槽や水槽
●ドライ & ソフト & クリーンな牛床と敷料で、かつ違
和感の無い寝起き行動や横臥姿勢
●不安無く歩行や採食や乗駕行為をでき、かつ肢蹄に
優しい床面構造
●新鮮空気を十分鼻面に供給する換気と暑熱を緩和す
る送風(通風)システム
●暑熱時や寒冷時に暑さや寒さをあまり感じない状態
●過密状態の回避や緩和(乾乳や分娩や産褥の牛は殊更に)
■健康牛が機能障害に至る過程
●鳥獣虫に悩まされない環境(刺し虫は特に)
乳牛の疾病に係わる原因の多くは多段階的に影響
●最大の安心感と安楽感と安全感でいられる分娩の環境
し合っています。即ち、完全な健康状態に何かが影響
●必要最小限の苦痛や不安で済む検査や治療や人工授
し生理的に僅かな“変化”をきたす。その変化に何か
が更に影響し、軽い食欲不振などの“変調”を表面化
する。その変調に何かが更に影響し、体温上昇や肢
蹄の腫れや糞の異常や体細胞増加などの“不調”を見
る。その不調に何かが影響し、四変や排卵異常や臨床
じゃっき
性乳房炎などの“疾病”を惹起する。その疾病に何か
が影響し代謝や栄養や運動や消化や泌乳や生殖など
の総合的な機能“障害”となる。
解説に少し無理もあるが、基本的にはこのような
順で多くの不健康状態は推移します。その表面化ス
ピードが、昔の乳牛に比べ“その他ストレス許容量の
●出来るだけ多くある屋外解放の機会
精や削蹄など
●最少の不安感で済む牛群移動や移送方法
●以下の馴致順応のレベルを高める
◦人を信頼できるボスと心得え従える状態
◦闘争状態が殆ど無いか容易に回避できる牛の性格
と逃走可能設計
◦機械や施設や器具に安心して身を任せられる状態
(特にミルカーや繋留装置や搾乳室や牛床)
◦飼料や添加物に対して、殆どを素直に受け入れ採
食する好き嫌いの無い状態
■安心 ・ 安全 ・ 安楽で気分最高 !
大幅低下”で、今はかなり早まっている、と感じるわ
兎にも角にも、少しでも多く、必要不可欠な泌乳や
けです。
妊娠出産のストレス以外を、可能な限り緩和する。こ
前記の農場はそうでない農場に比し、許容範囲ラ
の“環境管理力”が牛群の健康度と作業の効率性を高
インぎりぎりまで管理矛盾が加算されていた状態へ
め、
“巡り巡っての大きな持続的利潤”という果実を
の“最後の一撃”がヘルプや検定の作業だった可能性
提供してくれるはずです。
が大きいわけです。
高位生産を乳牛に期待する管理法を選択したなら、
肢蹄や乳器の障害など、多くの不健康問題にこの
殊更に“牛が泣いて ! 喜ぶ !”事を少しでも多く実現す
事は当てはまります。対症療法は必要です。しかし、
る。それがとても価値ある時代になっています。
管理矛盾の連鎖反応による現象だとすると、その連
関係者と協調して、少しでも多くの“安心安全安楽
鎖の根底にある要因も同時進行で修正するのが最善
の提供”を効率的な作業やコストで実現して下さい。
No.136 夏季号 2015.7◦ COWBELL 15
大場真人の技術レポート
暑熱ストレス下での
イーストのサプリメント効果
カナダ アルバータ大学 乳牛栄養学 教授
せたのでしょうか。この試験では、
採食時間、反芻時間、合計咀嚼時
大場 真人 博士
間、さらに消化率などのデータを
取りましたが、イースト製品の添
で、TMR の上にトップドレスの形
加による効果は見られませんでし
で添加しました。
た。しかし、血液成分に非常に興味
ヒート・ストレスは乳牛の飼養
この試験は夏に実施され、ヒー
深い効果が観察されました。イー
管理で大きな問題です。ヒート・
ト・ストレス下の牛がどのような
スト製品のサプリメントにより、
ストレス下の牛は反芻時間が短く
反応を示すかが評価しました。試
血糖値が高くなる傾向が見られ、
なるだけでなく、唾液中の HCO3-
験期間中の平均 THI(温湿指数)
血液中のナイアシン濃度も高くな
濃度も下がるため、ルーメン pH
は 71.8 でした。乳牛がヒート・ス
りました。
が低下しやすくなり、消化率も減
トレスを感じる THI が 72 以上と
ナイアシンというのは、末端の
少します。さらに、ヒート・ストレ
されていますので、試験期間中の
血管を拡げる働きをするため、ヒ
ス下の牛は乾物摂取量も低下しま
半分以上は、牛はヒート・ストレ
ート・ストレス下での熱の放散に
す。 最近の研究からは、
「ヒート・
ス下にあったことになります。
寄与します。熱を放散できれば、
はじめに
ストレス下の牛はエネルギーバラ
ンスがマイナスになってもエネル
体温を下げやすくなります。イー
試験結果
スト製品をサプリメントされた牛
ギー源として体脂肪を動員しよう
まず、乾物摂取量と乳量のデー
は、呼吸回数が少なくなりました
としない、そのため、血糖への依存
タを表 1 に示しました。イースト
が、体温に差は見られませんでし
度が高くなり、エネルギー摂取量
製品の添加により、乾物摂取量は
た。これらのデータをどのように
の減少分以上に乳量が低下する」
変化しませんでしたが、日乳量が
解釈すれば良いのでしょうか。
ことも理解されるようになりまし
1.3kg 増えました。試験開始後最初
一般的に、ヒート・ストレス下
た。暑熱対策として、換気の徹底
の 10 日間の乳量変化を、図 1 に示
の牛は、呼吸回数を増やすことで、
や、スプリンクラー、日陰の設置な
しましたが、イースト製品をサプリ
体温を下げようとします。イース
ど、牛舎施設面での対応が求めら
メントし始めてから 5 日後に、牛が
ト製品をサプリメントされた牛
れますが、暑熱対策の栄養管理に
反応し始めたことが分かります。
が、呼吸回数を増やすことなく体
関しても配慮することが必要不可
それでは、牛はなぜ乳量を増や
温を調節できたという事実は、呼
欠です。今号では、ヒート・ストレ
ス下の牛へのイースト製品のサプ
表1 試験で使われた飼料設計の栄養濃度
リメント効果を検証したブラジル
対照区
イースト・サプリメント
19
19.5
乳量、
kg/日
25.4
26.7
乳脂率、
%
3.06
3.17
乳タンパク率、
%
3.21
3.17
この試験では、28 頭の泌乳後期
4%乳脂補正乳量、
kg/日
21.7
23.1
のホルスタインを使い、
10 週間にわ
図1 試験開始後最初の10日間の乳量。対照区(♦)、イーストサプリメント
( )
で行われた研究を、解説を交えな
乾物摂取量、
kg/日
がら紹介したいと思います。
試験の概要
Cerevisiae, Strain NCYC 996)の サ
プリメントを行いました。このイ
ースト製品には、活性イースト(25
×1010 cfu)と不活性イースト(5×1010
cfu)
、ナイアシン(45mg/100g)
、様々
なアミノ酸(CP45.7%)が含まれて
います。サプリメント量は 10g/ 日
16 COWBELL◦ No.136 夏季号 2015.7
30
乳量(㎏ /日)
たり、
イースト製品(Saccharomyces
29
28
27
26
25
1
2
3
4
5
6
試験開始後の日数
7
8
9
10
Nutrition&Management
吸回数を増やす以外の方法で体温
表2 血液成分、呼吸回数、体温
調節を行えたことを示唆していま
対照区
イースト・サプリメント
す。考えられるのは、ナイアシンに
血糖値、
mg/dL
57.3
62.9
よる「熱放散」の効果です。
ナイアシン、
µg/mL
1.22
1.31
呼吸回数を増やすことにより体
温調節を行えば、余分のエネルギ
ーが必要になりますが、呼吸回数
を増やさずに体温調節を行えれ
ば、エネルギー消費量を抑えるこ
プリメントされた牛は、血糖値が
高く、乳量も高くなりました。体温
調節のためのエネルギー浪費を抑
えられたため、より多くのエネル
ギーを乳生産に振り向けることが
出来たのかもしれません。
呼吸回数、/分
48
38.9
38.9
体温
(9週目;
THI=70.4)
38.2
38.1
図2 試験期間中の乳量の変化。対照区(♦)、イーストサプリメント
( )
30
29
乳量(㎏ / 日)
とが出来ます。イースト製品をサ
56
体温
(5週目;
THI=75.0)
28
27
26
25
24
23
22
21
この試験で使われたイースト製
7
14
21
28
35
42
49
56
63
70
試験開始後の日数
品には、ある程度のナイアシンが
含まれていましたが、この研究を
行ったグループは「ナイアシンの
効果は試験開始後 35 日目(5 週目)
ますが、この試験データの解釈に
添加そのものにより乳量が増えた
は高かったものの、試験開始後 63
は、一つ注意が必要です。イース
のではない」と考えています。ナ
日目(9 週目)は低かったことが分
ト は、ま と め て“Saccharomyces
イアシンはルーメンで生成されま
かります。表 2 に示したように、平
Cerevisiae”と称されますが、どの
す。添加されたナイアシンの量は、
均温湿指数は試験を開始してから
ような系統(菌株)のイーストかに
通常ルーメンで生成されるナイア
5 週目に高くなり、9 週目に低くな
より、ルーメンでの働きが大きく
シンの量と比べると非常に僅かな
りました。牛がヒート・ストレス
異なります。イースト製品のサプ
ものです。しかし、イースト製品の
を感じている時に、イースト製品
リメントをすれば、どんな系統の
添加により血液中のナイアシン濃
のサプリメント効果が見られたこ
ものであってもナイアシンが増え
度は高くなりました。同研究グル
とは注目に値します。
たり、ヒート・ストレス対策に効
ープは、
「イーストの添加がルーメ
ン内でのナイアシン生成を促進し
まとめ
果があるとは考えることは出来ま
せん。イースト製品がどのような
たのではないか」と考えています。
この試験で供試された牛は、イ
形でルーメン発酵に寄与し、乳牛
ルーメンでのナイアシン生成が活
ースト製品をサプリメントされた
の生産性に影響を与えるかに関し
発になり、それが血液中に吸収さ
かどうかに関係なく、体温を維持
ては、十把一絡げに考えるのでは
れ、血液中のナイアシン濃度が高
できましたが、そのために必要な
なく、それぞれのイースト製品ご
まったと推察しているわけです。
努力(呼吸回数)に違いが見られま
とにケース・バイ・ケースで評価
この試験で観察されたもう一つ
した。イースト添加を受けた牛は、
することも必要です。
の興味深い事実は、イースト製品
呼吸回数を増やさなくても熱を効
のサプリメントにより乳量が増え
果的に放散できました。そのため、
た時と、それほどサプリメント効
エネルギーの消費量が減り、DMI
果がなかった時が交互に訪れてい
が変わらなかったにも関わらず、
ることです。試験期間中(10 週間)
乳量が高くなったと考えられます。
の乳量の変化を図 2 に示しました
この乳量増はナイアシンの働き
が、イースト製品のサプリメント
によるものではないかと推察され
●引用文献
Salvati, G.G.S., N. N. Morals Junior,
A.C.S. Melo, R. R. Vilela, F. F.
Cardoso, M. Aronovich, R.A.N.
Pereira, and M. N. Pereira. 2015.
Response of lactating cows to live
yeast supplementation during summer.
J. Dairy. Sci. 98:4062-4073.
No.136 夏季号 2015.7◦ COWBELL 17
全酪カレンダー
連動企画
▶DRY & FRESH SE
分娩移行期は、多くの代謝障害
に悩まされる時期であり、それら
のトラブルを減らすためには、乾
乳前期からのしっかりとした栄養
管理が必要不可欠です。乾乳期の
不十分なエネルギー摂取は、胎児
の発育や次の泌乳に向けての乳腺
の発達だけでなく、母体の健康に
も悪影響を与えます。そして、乾
乳前期の過剰なエネルギー摂取も
後に様々な問題を起こす原因とな
るようです。
泌乳後期になると搾乳牛のエネ
2015カレンダー
DRY&FRESH SE
ドライ&フレッシュSE
移行期におけるトラブルの解決とさらなる
ハイ・パフォーマンスをお約束します!
●最新の技術情報に基づき、クロースアップ期に必要なミネ
ラル・ビタミンを強化しています。
●クロースアップ期に適したビートパルプを配合。カリウム
低減と、分娩後の乾物摂取量の向上を実現します。
7-8月
乾乳期・移行期
専用配合飼料
挑戦!
ハイ・パフォーマンスに
enge
牛用飼料
Chall
DRY&FRESH SE
ドライ&フレッシュSE
A.A.system concept
It Provides the best method for dairy cattle
to keep ideal condition.
★Alimet
★Soyplus
★Mg, S, Vit, Se
●代謝蛋白(MP)の要求量を考慮しアミノ酸栄養の改善を
図るため、
『ソイプラス(特殊処理加熱大豆粕)』
と
『アリ
メット
(メチオニン水酸化体)』
を配合し、これによりルーメ
ン・バイパス・メチオニンとリジンを強化しています。
Produced by
ZENRAKUREN
ルギー要求量は次第に減少し、乾
この NEFA の値が高いと乾物摂
に必要なマグネシウム、飼料中の
乳期に入ると、エネルギー要求量
取量をさらに抑制することにもな
DCAD 値の調整並びにルーメン
はさらに減少します。しかし、乾
ります。また、牛の肝臓は脂肪処
内バクテリアのメチオニン生産に
乳後期には、胎児の発育のラスト
理能力が比較的低いため、その結
必要なイオウ (S)、要求量を充足
スパート、乳腺細胞の再生、初乳
果、脂肪肝となり肝機能をさらに
する十分量のビタミン ADE, さ
の生成と、乾乳前期のエネルギー
低下させてしまいます。これらが
らにはセレン(Se)も配合してい
要求量のおよそ 3 倍を必要とし
要因となり、
「ケトーシス」→「脂
ます。
ます。また、分娩後の泌乳量増加
肪肝」へと繋がるわけです。さら
に対する飼料摂取量は、必要とす
には、乾乳に入って一旦減退した
る栄養要求量の 30% 近くまで落
ルーメン絨毛の再生が不十分な状
組織の発達に必要であり、
ち込むこともあり、いわゆる“負
態で産褥期を迎え、濃厚飼料の増
ルーメンの絨毛発達にも必
のエネルギーバランス”の状態を
給スピードに対して、ルーメン内
要な物質です。
引き起こすことになります(過肥
に生成された乳酸を処理できるバ
ビタミン D: カルシウムの吸
の状態で乾乳期に突入してしまっ
クテリア増殖が追いつかず(飼料
収に必要な物質で、血中に
た牛ほど、このエネルギーバラン
給与マネジメントの失敗)、結果
カルシウムを取り込むのを
スをより大きく崩すことになる)。
として産褥期の「急性ルーメン・
この時、乳牛の体内では、エネ
アシドーシス」に陥る可能性もあ
ルギー不足を補うために体脂肪が
ります。
り、活性酸素生産による免
血中に動員され(NEFA)
、細胞に
全酪連“DRY & FRESH SE”
疫系の低下を防ぎます。
取り込まれなかった過剰な脂肪
は、移行期代謝障害を最小にする
は、
肝臓に蓄積されてしまいます。
ために開発された移行期専用配合
18 COWBELL◦ No.136 夏季号 2015.7
ビタミン A: 消化器系などの
助けます。
ビタミン E: 抗酸化作用があ
分娩移行期は乳牛の生産ステー
飼料です。ビートパル
ジの中で最も重要な時期であり、
プを配合することで、
カウ・コンフォートを含め、総合
乾乳期のカリウム低減
的な管理が必要です。飼料設計も
の貢献と、ルーメン内
管理の中での重要事項の一つであ
のバクテリア増殖をサ
り、DMI 低下に対する処置が遅れ
ポ ー ト し ま す。ま た、
ることによって、大きな損失とな
高いタンパク要求量
ります。移行期管理を上手に乗り
を補うために、バイパ
切り、産後に代謝障害にまつわる
スアミノ酸(Soyplus,
事故を減らすためにも、全酪連の
Alimet)を配合してい
“DRY & FRESH SE”を使った給
ます。カルシウム代謝
与管理の見直しをお薦めします。
Information
全酪連購買部 酪農生産指導室の活動状況
月
日
対 象 名
久保園
福岡支所
研修会「自給粗飼料の必要性について」
16
淡路島酪農農業協同組合
バーン・ミーティング 1戸
成田
大阪支所
酪農講演会「酪農生産基盤維持拡大のために」
山崎
仙台支所
村上
大阪支所
村上
大阪支所
研修会「”
気付き”
と”
共有”
から始める経営発展の仕組み造り」
丹戸
札幌支所
興部町富丘地区協同法人化相談
成田
札幌支所
16-17
17
(一社)
滋賀県畜産振興協会、
滋賀県乳用牛群検定組合
釧路丹頂農業協同組合
17-18 北オホーツク農業協同組合
5
担当部署
南九州市酪農振興会
16-17 滋賀県畜産技術振興センター
4
実施者
10
16-17 宮城県酪農農業協同組合
3
活 動 内 容
平成27年3月〜5月
バーンミーティング 1戸
講演会「酪農現場における指導方法について」
技術研修会「牛舎での問題発見方法とその対応について」
講演会「滋賀県酪農の未来を切り開くために」
25
ふくおか県酪農業協同組合
久留米支所管内農場サポート2戸
成田
福岡支所
25
福岡支所 粗飼料研究会
研修会「酪農家経営管理支援システム~事例紹介」
下田
福岡支所
27
みやぎの酪農農業協同組合
研修会「”
気付き”
と”
共有”
から始める経営発展の仕組み造り」
丹戸 岩本 仙台支所
31
飛騨酪農乳用牛群検定組合
研修会「”
気付き”
と”
共有”
から始める経営発展の仕組み造り」
丹戸 下田 名古屋支所
1
伊那酪農業協同組合
研修会「儲かる酪農経営のために」
下田
東京支所
7
新いわて農業協同組合
バーンミーティング1戸
村上
仙台支所
9
美野里酪農業協同組合
農場サポート1戸
成田
東京支所
10
ひので酪農業協同組合
農場サポート1戸
成田
東京支所
11
名古屋支所酪農生産研究会獣医師部会 全酪連酪農セミナー2015ダイジェスト
齋藤
名古屋支所
14-15 AMTS集中トレーニング
(初級)
東京
「操作方法」 通訳
齋藤
購買部
17-18 AMTS集中トレーニング
(中級)
帯広
「操作方法」 通訳
齋藤
購買部
20
小清水町農業協同組合
農場指導1戸
村上
札幌支所
21
オホーツク網走農業協同組合
農場指導1戸
村上
札幌支所
22
大分県酪農業協同組合
職員研修 「乳成分問題への対応」
成田
福岡支所
23
大分県酪農振興公社 新TMR検討会/ユーザーサポート1戸
成田
福岡支所
24
福島県酪農業協同組合
自給飼料研修会
久保園
仙台支所
12
石川県酪農業協同組合
自給飼料研修会
久保園
名古屋支所
25
ふくおか県酪農業協同組合
久留米支所管内農場サポート2戸
成田
福岡支所
25
道東あさひ農業協同組合
農場指導1戸
村上
札幌支所
表紙の
写真
麦わら帽子
全酪連購買事業情報紙
CONTENTS No.136
●原料情勢・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
●粗飼料情勢・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
● DRY&FRESH SE ユーザー訪問 オホーツク網走農業協同組合(有)向井牧場・・・・・・・・7
●世界一受けたい酪農講座
あなたは牛群の暑熱ストレスを管理できているか? ラリー・E・チェイス技術顧問・・・・・10
ストレス! 我慢比べ! 今昔“堪え性無く!すぐ体調を乱す今の牛たち”村上明弘技術顧問・・・・14
●大場真人の技術レポート 暑熱ストレス下でのイーストのサプリメント効果・・・・・・・・・16
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
●全酪カレンダー連動企画「DRY & FRESH SE」
● information・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
COW BELL ─カウ・ベル─ No.136(夏季号)平成 27 年 7 月 10 日発行
発行責任者
発行所
岡田 征雄
全国酪農業協同組合連合会 購買部
〒 108-0014 東京都港区芝四丁目 17 番 5 号
TEL 03(5931)8007 http://www.zenrakuren.or.jp
No.136 夏季号 2015.7◦ COWBELL 19
飼料のNIR分析は
A Member of The World Wide Network of
Dairy One のサテライトラボ
全酪連 分析センター へ
全酪連分析センターでは、粗飼料を中心に各種飼料について、Dairy One のNIRシステムを利用した
NIR成分分析を実施しております。
お申込み案内の請求やお問い合わせは ➡
[email protected] へ
▶NIR分析項目
▶NIR分析ができる主なサンプル
以下の記載の他、
NFC、
TDN、
NEL等の算出値及びミネラル値も報告いたします。
分析項目
粗飼料 穀類 稲WCS TMR 副原料
DM
(乾物率)
○
○
○
○
○
CP
(粗蛋白質)
○
○
○
○
○
蛋白分画
SP
(溶解性たん白質=SIP)
○
○
○
○
○
RDP
(ルーメン内分解性たん白質)
○
○
○
ADICP
(ADF結合たん白質)
○
○
○
NDICP
(NDF結合たん白質)
○
○
○
繊維分画
ADF
○
○
○
○
○
NDF
○
○
○
○
○
aNDFom
○※1
リグニン
○
○
○
○
粗脂肪
(Fat)
○
○
○
○
○
粗灰分
(Ash)
○
○
○
○
○
でんぷん
○
○
○
○
WSC
(可溶性糖)
○
ESC
(エタノール可溶性糖=単少糖類) ○
アンモニアCPE(アンモニアをCPに換算した当量) ○
乳酸・酢酸・酪酸及びVFAスコア
○※2
NDF消化率
(NDFD 24・30・48時間) ○
uNDFom
(30・120・240時間)
○※1
kd 単位時間あたりの繊維消化率
○
でんぷん消化率
(7時間・4mm粉砕)
○※3 ○※4
粗飼料
◦牧草サイレージ
(マメ科・イネ科・混播)
◦乾草
(マメ科・イネ科・混播)
◦生草
(マメ科・イネ科・混播)
◦コーンサイレージ
◦ソルガムサイレージ
◦稲ホールクロップサイレージ
TMR
◦搾乳牛用TMR
◦乾乳牛用TMR
◦肥育牛用TMR
◦配合飼料
穀類
◦大麦
◦ビール粕
◦コーン
◦えん麦
◦小麦
(ふすまを除く)
◦マイロ
副原料
◦ビートパルプ
◦大豆・大豆油粕・大豆皮
◦ナタネ油粕
◦パーム油粕・パーム核油粕
◦蒸留穀物粕
(乾燥品のみ)
◦コーンジャームミール
◦コーングルテンフィード
詳細はお問い合わせください
粗飼料は
aNDFomとuNDFomが
できるようになりました。
※生草を除く。
※1 生草を除く
※2 サイレージのみ可
(コーンサイレージは乳酸・酢酸・VFAスコア)
VFAスコアは乳酸発酵の評価値
※3 コーンサイレージのみ可
※4 コーンのみ可
NIR分析項目や分析可能サンプルの更新情報は、全酪連ホームページにて随時発信しております。
▶サンプルの送付方法
飼料分析
申込書
1.
2.
3.
4.
5.
送付いただくサンプルの量は以下の重量を超えないようにご注意ください。
⑤
④
②
③
サンプルの種類
重量
高水分サンプル
生草
牧草サイレージ
コーンサイレージ
500g
A4
TMRなど
300g
A4
①
飼料サンプル
申込書を同梱
してください。
中水分サンプル
低水分サンプル
発送
体積
分類
穀類・副原料
乾草・ヘイレージ
コアサンプル・粉砕サンプル
とうもろこし、
大豆など
100g
200g
(袋の大きさの目安)
A4
A5
A6
送付先・お問い合わせ先
全国酪農業協同組合連合会(全酪連) 購買部 分析センター
〒 314-0103 茨城県神栖市東深芝 2-14 TEL:0299-90-1007 FAX:0299-93-5007